●オープニング本文
前回のリプレイを見る 一年半前。
正確には、2009年9月。
九州は大分県佐伯市蒲江。その付近に存在する「神楽山」付近にて、バグアのものと見られる怪事件が発生した。
それは見えざる攻撃者。UPC部隊がとある地域内に侵入すると、いつの間にか攻撃されてしまい全滅‥‥という結果に。
それが戦車部隊でも、補給部隊でも同じように攻撃をしかけ、なおかつ敵影は全く見えない。そして、空中の兵士には攻撃をしかけない。さらに、攻撃された現場の50m四方は、完全に吹き飛びクレーターのような痕跡が残るのみ。
当初、地対地、または空対地ミサイルの類と思い、対抗装備をもって警戒していたが、それは違っていた。
UPCは能力者たちに調査を依頼し、彼らは見事にその正体を突き止めた。
その正体は、地中移動式の移動攻撃砲。通称「ドリルミサイル」。特定の範囲内に何者かが進入すると、振動を感知して地中から接近。感知した敵の付近へ先端のみを露出させ、そこから光線を放ち攻撃。地上の車両や敵兵を攻撃したのち、自身が地雷となり爆破。跡形もなく吹き飛ばす‥‥といった兵器だったのだ。
しかし、正体を突き止めてから数日後。
UPCの地上部隊がキメラと交戦中。偶然ドリルミサイルの範囲内に入り込んでしまったのだ。
キメラは、最弱クラスのものが一匹。しかし、それをしとめた後、兵士たちは車両ごと、立ち入り禁止区域内へと入り込んでしまっていた。
が、ドリルミサイルによる攻撃はなかった。廃棄車両の囮を何度も用いたその結果、脅威は去ったと結論付けられた。
かくして、ドリルミサイルの管制システムが何処にあるのか。そもそもドリルミサイルがどこから放たれたのかの調査が行なわれたが、これもまた難航。
見つからなかったのだ。ミサイルの被害から、中心部と思しき場所を重点的に探したものの、それらしい施設や基地は見つからなかった。
いや、見つかったことは見つかったのだが、発見できたのは爆発した基地跡のみで、何らかの機械装置や施設なども皆、吹き飛んでしまっていた。これがドリルミサイルの管制システムであり、前線基地だろう事は予想できたが、当時のUPC調査関係者たちには確証が持てなかった。
おそらく、何らかの事故が発生し、ドリルミサイルが誘爆してしまったのだろう。そう推測が立てられ、この件は不完全ながらこれで調査終了。そして、危急に取り掛からねばならない任務が下され、関係者達はこれ以上この件に関わることができなくなってしまった。
かくして、何事もなく月日が経った。何も問題はなく、この件はなし崩し的に解決した。誰もがそう思っていた。
が、一年半ほど経った現在。見えざる攻撃者の恐怖が再び訪れたのだ。
小型ヘルメットワームの一隊と交戦したUPC空軍は、そのうちの一機が神楽山に墜落したのを確認。追跡すべく、地上部隊がそれを追ったが、彼らは定期連絡をしてこなかった。
そして、近くを哨戒していたヘリに、追加調査を行うように。
二名の隊員を乗せたヘリは、ヘルメットワームが墜落した神楽山の現場近くへと急行した。
「まさか、また尼さんが見つかる、とかじゃあないだろうな」
宇垣とともにヘリを操縦している谷口隊員が、軽口を叩く。それを軽く受け流し、二人の小型ヘリは現場にほど近い空域を飛行していた。
「おい須藤、あれを見ろ」
ふと、宇垣は奇妙なものを見つけた。現在飛行中の空域から、さほど離れていない場所。そこから煙があがっているのを発見したのだ。
「なんだ?」
まさか、地上の調査班に何かあったのか?
急行したヘリは、森を切り開いて作られた、開けた場所に出た。そして、煙はそこから出ていると分かった。
「ここは?」
「ああ、ここは元ゴルフ場さ。十年以上前にこの辺りを切り開いて作られたが、オープンしても地元の住民の反対でろくに経営できず、バグアの襲来もあって破産。その後は放置されてる場所‥‥って話だ」
「随分詳しいな」
「なーに、俺は元々この辺りの生まれでね。ガキの頃は大人たちがこの事で騒いでたのを覚えてるんだ。家族がすぐに引っ越したもんだから、後の事は新聞やらなにやらで知ったんだが」
須藤が軽い口調で、宇垣に答える。ふと見ると、中央に大きな建物が。
二百mくらいまで接近してみると、バグアのヘルメットワームがそこに突っ込み、大破しているのがわかった。
「おそらくあれが、例のヘルメットワームだろうな。しかし‥‥」
だとしたら、なぜ地上の調査部隊の姿が無いのか?
いや、どこかおかしい。良く見てみると、ゴルフ場のあちこちに車両が、攻撃されたかのように転がり大破している。
「‥‥おい!」
須藤の声に、宇垣は彼が指差すものを見た。
建物の中から、ヘリへと駆け寄ってくる人間の姿があったのだ。制服姿から、隊員の一人に違いない。
だが、全速力で向かってくる彼は、ヘリの近くへ駆け寄って来たと同時に‥‥撃たれ、倒れた。
「!」
何が起こったのか? それを把握しようと、周囲を見回すと‥‥。
建物と、撃たれた隊員の死体の間に。何かが見えた。
「あれ、は‥‥!?」
それは、地面から這い出てきた、ミミズか蛇のよう。ドリル状の先端部が花のように開き、その中心部に何かの発射装置が内蔵されているようだ。
それは、まさに蛇のように鎌首をもたげていた。胴体部もくねらせ、空気の匂いをかぐかのように周辺へと先端部を向けている。
その大きさは、小型の巡航ミサイル程度か。地上に見える分だけでも、1mくらいはあるようだ。
やがてそれは、ヘリへとその先端部を向けた。そして次の瞬間。
ヘリに向けて、破壊光線を放ったのだ。
「『そいつ』を見て、すぐに俺達は逃げたが、間に合わなかった。後方から直撃をくらったものの、幸いエンジンや燃料タンク部分には当たらずに済んだのが、不幸中の幸いだな」
宇垣が、包帯まみれの姿で君達へと依頼内容を伝えている。その横には、須藤の姿もあった。奇跡的に、二人とも軽傷で済んでいた。
狙撃を受けた直後、ヘリはその場から少しでも離れようと飛び続けた。が、やがて飛行能力を失い落下。県道37号線近くに不時着した。
敵の追撃が無く、彼らはようやく自分たちが助かった事を知り‥‥安堵した。
「ヘリに搭載していたカメラから、映像記録を保存してある。おそらく、これが役に立つと思う。調べてみたら、一年半前の事件と同じか、あるいはそれに類した事件だと思う」
宇垣の横に控える、二人の上司‥‥坂本が、その言葉に補足した。
「君達に頼みたい。あの事件の『ドリルミサイル』を、今度こそ始末してもらいたい。もしもこの依頼を受諾してくれるなら、すぐに用意してくれたまえ」
●リプレイ本文
そのゴルフ場へ至る道は、木々すらもまるで邪魔しているかのように生えている。参加したのは、八名の能力者たち。彼らはすぐ近くの国道にて下ろされ、周辺の空気や振動、気配を探りつつ、少しづつゴルフコース跡へと接近していた。
「どうですか? 何か感じましたか?」
終夜・無月(
ga3084)、美しき銀髪と赤い瞳を持つ美青年が、仲間に問いかけた。
「‥‥今のところ、敵影は無し。キメラも、ミサイルの姿も無い、か」
立ち止まり、地面に耳を付けていた藤田あやこ(
ga0204)は、かぶりをふった。避けるべき敵が感知されない事を確認したのだ。
風向きも、今のところは問題ない。木々の揺れも、枝のしなりも、そして森林地帯に漂う『雰囲気』も、おかしな点は見られない‥‥現在のところは。
もしもキメラが現れたとしても、そちらはそれほど怖くは無い。すでに自身は大口径のガトリング砲を構えているし、他の仲間たちもまた、それぞれ十分に武装している。
問題は、地下のミサイル。見えざる敵。そいつをどうにかして倒さねば‥‥!
「ドリルミサイルだが、これは基本的に地表に、深くても3〜4m程度の地下に潜んでいるようだ」
出発前のブリーフィング。坂本が暗くした室内で、大きなスクリーン上にドリルミサイルの画像を映し出しつつ説明していた。
「これは、一年半前に回収した残骸だ。そのセンサー部を調べたところ、地表までの感知距離がそのくらいだと判明した。そして‥‥」
それから、色々と説明が続いた。まとめると、
:地下3〜4m程度で待機。センサーで地表の存在を感知すると起動、目標をドリルの先端で攻撃。
:目標が大型車両などの場合、自爆し破壊。
:それらが敵わぬ場合、地表に先端部を出し展開、内部レーザー光線で地上の標的を射撃。
:しかし、司令基地から決められた範囲の地形しかカバーしない。
「つまりは、敵兵器は『移動する地雷』のようなものだな。中々興味深い」天野 天魔(
gc4365)が、何度も頷きつつ呟く。
「って、おっさんよお。そこ感心するとこじゃあねーだろ。今はその糞ミサイルをぶっとばし、隊員を助け出す事が重要だろーがよ? 違うか?」
そんな天野の言葉を聞きつけ、菜々山 蒔菜(
gc6463)が問いかけた。
「あの、ちょっと静かに、したほうが」
その声が大きめであったため、春夏秋冬 歌夜(
gc4921)が、言葉を区切っていくようにたしなめる。彼女の言葉に、トゥリム(
gc6022)も頷くことで同意した。
アリエイル(
ga8923)とシクル・ハーツ(
gc1986)、二人は心の中で同じことを考えていた。
「「やれやれ、騒がしいな(わね)」」
やがて、しばらく進んだところ。
フェンスを発見した。その金網は頑丈なものだが、ひどく錆びている。
金網越しに覗いてみると、確かにそこは、ゴルフコースだった場所。グリーンとなるべきところは短い雑草が生え、あちこちにはひっくり返った車両が。そして、それらの向こうに、言われたとおりゴルフ場の経営本部として予定されていただろう建物があった。
もう少しだ。
しかし、一行は油断していない。否、油断どころか、緊張感が痛いくらいに漂っていた。
見つけたのだ。おぞましい痕跡を。
「‥‥死後、あまり時間は経ってないな」
「ちっ、胸糞悪いぜ。食いかけを捨ててくなんざな」
目前の地面にばらまかれた、鳥や小動物の残骸。それらを見つつ、蒔菜は吐き捨てた。
「UPC兵、多鳴! 羽田! 聞こえるか! こちらはUPCから派遣されてきた者だ! 生きていたら場所を伝えろ!」
拡声器を片手に、天野が大声で建物に向かい声をかけていた。
「ただし敵は、音や振動を媒介にこちらの居場所を探知している。だからそちらから大声は出さずにだ! 出来れば狼煙や通信機で、無理なら黙っていてくれ!」
が、何度かの呼びかけにも関らず、反応らしき事は見られない。返事が出来ないのか、あるいは既に死んでいるのか。
「‥‥しかたない、ですね。では、予定通りに」
歌夜の言葉に、一同はうなずき‥‥行動を開始した。
一行は、プランを立てていた。
能力者たちは、それぞれ木に登り、できるだけコース内を俯瞰する場に腰をすえると、視線を走らせた。
「気配が、無いね」トゥリムが、静かに呟いた。
やがて、ひとつ深呼吸するとともに‥‥彼らは、誘導作戦を開始した。
「では、打ち合わせどおり。頼もうか」
「承知!」
天野の言葉に答え、無月は、携えていた弓『雷上動』を取り出して構え、用意していた矢、弾頭矢の一本をつがえた。
弦をひきしぼり、狙いを定め、そして‥‥射る! 宙を切り、矢は目標の場所へ、ゴルフコース内の地面に突き刺さった。
瞬間、爆発する。
弾頭矢。鏃内部に爆薬が内蔵された矢。これを打ち込む事によって、『振動』を発生させ、そしてその振動を感知すれば‥‥。
「もう一矢、打ち込むか?」無月に小声で、天野に問いかける。
「そうだな‥‥いや、待て!」
その必要はなさそうだ。爆発した地点から、そう遠くない位置。その地面から、鎌首をもたげた『何か』の姿が見えたのだ。それも、一つではなく、複数が。
そいつらは、空気の匂いを嗅ぎ取るかのように、先端部を広げた。まるでその様子は、潜望鏡か何かのよう。地上の様子を目視しているかのようだ。
やがて、そいつらは展開したドリルの先端を再び閉じ、地面へともぐりこんだ。
「‥‥どうやら、誘導は効きそうだ。それじゃあ、当初の予定通りに」
天野もまた、小声で無月へと答えた。
「こちら藤田、建物内に侵入成功。今のところ、敵影も兵士の姿も無し。そちらは?」
『こちら終夜。現在、ドリルミサイルの誘導に成功。しかし、キメラの姿は見られない』
「了解、無理はしないでね。交信終了」
言いつつ、あやこは無線を切る。その様子を、アリエイルは背中越しに耳にしていた。
「敵影無し、クリア‥‥っと」
最短距離の場所から、蒔菜、あやこ、天野、そして自分・アリエイル。四人全員が建物内部への侵入に成功。それを確認し、アリエイルは安堵のため息をついた。
幸い、建物の壁には大きなガラス窓があり、現在ガラスは壊れている。内部に入るのは、比較的容易だった。
内部は、廃墟そのもの。放置されていた建物の例にもれず埃にまみれ、家具の類は傷み、道具の類は壊れるか散らばっている。
「ドリルミサイルの痕跡は、無いみてーだな」
「そうですね。むしろ、内部に爆発や戦闘の痕跡は見られません」
蒔菜とアリエイルの言葉どおり、思った以上に内部は荒れていない。
「で、天野のおっさん。敵の気配は?」
「バイブレーションには反応が無い。予定通り、まずは階上に行ってから探すとしよう」
蒔菜の言葉に答え、天野は近くの階段へと向かっていった。
誘導班の四名は、木の枝の上より、弓を引いては矢を打ち込み、ドリルミサイルを誘い出していた。
最初は近くに、徐々に遠くへと、弾道矢を打ち込んでいく。数機のドリルミサイルは、まるでモグラのように、あるいはミミズのように、地中を進んでは爆発した地点周辺に出現している。
だが、今は様子がおかしい。地中にもぐりこまず、先端部を花のように広げて探索の目を向けている。
「‥‥まずいな」
その様子に、シクルの胸中の不安が、徐々に大きくなっていく。
打ち合わせどおり、弾道矢を打ち込み、その爆発による振動での誘導は成功した。
しかし、ミサイルは地上に先端部を出し、目視で攻撃目標を捜索し始めたのだ。事実、いまやゴルフコース地表には、いくつものドリルミサイルが先端部を鎌首のように伸ばし、ドリル部分を花のように開いてあちこちを見回している。
そのうち、一機が空へと光線を放った。
「!?」
シクルは、それに戦慄した。自分たちにではない。では、一体何に‥‥?
その答えは、すぐに知らされた。近くに隠れているトゥリムのすぐ脇に、『それ』が落ちてきたからだ。
野生のワシが、頭部を貫かれ絶命していた。森の上空を飛んでいただけなのに、このミサイルが地上に出て、これを目視したために標的になってしまったのだろう。
「‥‥そうか、分かりました」
シクルとともに、隠れつつドリルミサイルの群れを見張る無月は、それに気づいた。
当初の、兵士が殺された後にヘリが攻撃された、という報告。
ミサイルは、地中に響く振動を感知して攻撃するものと考えていた。だが、それだけでない。地表に出て、目視して攻撃する事もできるわけだ。
ヘリを攻撃したのも、おそらくはそれだろう。走って逃げる兵士に追いつけないため、地上に顔を出して目で見て、光線を放ち攻撃した。その際に空中にヘリを発見したため、そいつにも攻撃。今回も同様。唯一違うのは、目標がヘリでなくワシだったという事だ。
だが、今のところはこちらは見つかっていない。誘導という当初の目的は達した。ならば、しばらくは隠れておこう。
すぐ近くに隠れている皆に、手振りでそう伝え、無月は深呼吸とともに落ち着いた。
が、
「‥‥キメラ? まずい、こんな時に!」
木々の枝を伝いながら、キメラがこちらへと接近してくるのを、無月は見たのだ。
「はーっ!」
ガトリング砲が火を吹き、弾丸が放たれる。廊下の奥、暗闇となっている場所から、そいつら‥‥キメラ・オンコットの群れが出現し、能力者たちへと駆け寄ってきたのだ。
最初にそれに気づき、攻撃したのはあやこだった。あと数秒反応が遅れていたら、間違いなく攻撃されて負傷していたのはあやこ、そして他の三人だったに違いない。
わずか数秒で、かたは付いた。肉片と脳漿と流血の塊へと、オンコットの群れは変化し果てた。
「‥‥ちっ! 藤田の姐さん、生き残りがまだいそうだよ! 注意しな!」
「わかってるわっ!」
蒔菜の言うとおり、パタパタという何かの足音が廊下の遠くへと消えていったのが聞こえた。ガトリングのシャワーを逃れた奴に違いあるまい。
早く、助け出さないと‥‥!
もはや、猶予は無い。多少危険だが、四人は手分けして、しらみつぶしに部屋を片っ端から開け、内部を探して行く事にしたのだ。
そして、アリエイルは開かない部屋の扉を発見した。鍵がかかっているわけでなく、扉の後ろに、何かが置かれているような感触。開けて開けられないことはなさそうだ。
扉に体重をかけて、少しづつ押し開く。やがて、アリエイルが入り込めそうなくらいの隙間ができた。
そこから、中へと入り込むと。
「!」
彼女は見た、バグア兵の姿を。
「これは、一体‥‥?」
あやこは、とある部屋に入り込んでいた。そこは、墜落したバグアのヘルメットワームが突っ込んでいる部屋。そしてそこには、明らかに後からすえつけたと思われる、何らかの機械装置があった。
めちゃくちゃに壊れていたが、それは明らかに作動していた。そして、周囲には白骨化したバグア兵の死体が数体。
「‥‥どうやらこれは、ドリルミサイルの制御装置みたいね。そこに、これが突っ込んできた。ということは」
読めてきた。ここは元からドリルミサイルの司令室だったのだが、一年半前に何か事故があり(たぶん、あのキメラに襲われるなどして)、そのまま作動停止していたのだろう。
そこへ、このヘルメットワームが突っ込んできた。その時のショックでこれが動き出し。ドリルミサイルも起動してしまった、と。
『こちらアリエイル、聞こえますか』
そこへ、連絡が入った。
『負傷した兵士を発見しました。すぐに来てください!』
「いい男ね。おとなしくしてて♪ ぶるまのナースさんあやこが来たから、ホラもう痛くない♪」
「はは。ブルマとは、見てみたいもんだ‥‥」
「黒髪のべっぴんさんだぜ。もうひとりは金髪の、天使さんみたいな美少女ときたもんだ。神様も、死ぬ前に粋な事をしてくれるぜ」
苦しげな息で、兵士二人はあやこの冗談に返した。が、アリエイルがそれをたしなめる。
「だめです、二人とも、こんなところで死なせません!」
「そうよ。死んだら許さないからね」
最初に駆けつけたのは、あやこ。彼女はすぐに、二人を介抱しているアリエイルの姿を見つけた。
多鳴隊員と、羽田隊員。二人はひどい状態に陥っていた。
多鳴は両目のまぶたがガラスの破片で切られ、視覚を失ってしまっている。それだけでなく、あちこちに深い傷を負っており、出血も多い。硬く巻かれた包帯が、血で固まり変色していた。
そして、羽田は両足を骨折しており、両手で這って歩くしか出来なかった。それ以外は負傷はなさそうだが、ひどく衰弱していた。が、二人とも何とか意識はある。
すぐに二人は、救急キットで彼らに治療を施した。応急処置が終わると同時に、天野、蒔絵も駆けつけてきた。
「どうだ? 大丈夫なのか!?」
「ふむ‥‥その様子だと、かろうじて助かったみたいだな。‥‥ん?」
室内にあったのは、バグア兵士の死体が一つ。
「二人のお手柄よ。数日前にドリルミサイルから逃れてこの部屋に来たら、このバグア兵と遭遇したんですって」
「ええ。それで銃撃戦になり、射殺。けれど、後ろの方からオンコットの群れがやってきたため、この部屋に逃げ込んで、今まで隠れていたそうです」
兵士たちから聞いた説明を、あやことアリエイルは二人に伝えた。
「こんな状況だから逃げ出すことも出来ず、食料も水もなくなっちゃったのね。さっき天野さんの問いかけに答えられなかったのは、意識が朦朧としてて聞こえなかったからみたいよ」
「けれど」と、アリエイルがあやこの言葉に続き言った。
「これで後は、なんとかここから脱出するだけです。皆さん、行きましょう!」
数時間後。
ベッドの上で、負傷兵たちは安らかな寝息を立てていた。
あれから蒔菜が練成治癒をかけることで、負傷兵二人の体力はいくばくか回復した。
その後、捜索班は建物からの脱出の際に、再び無月ら誘導班へと無線で連絡を入れた。
誘導班の四名は、接近してくるオンコットの群れに気づかれそうになったものの、かろうじてやり過ごすことが出来た。そして、ドリルミサイルも再び地中に潜り込んだところで、無線連絡が入ってきたのだ。
事態を知った無月たちは、もう数発の弾道矢を打ち込み、更に遠くへと誘導させ、そのまま撤退。合流して帰還した‥‥というわけだ。
今、二人は安堵しきった顔で眠っている。多鳴の目も、何とか視力は戻る‥‥との事だ。
「諸君、これで心置きなく攻撃できる。もうドリルミサイルなどという、見えざる攻撃者は二度と出てはこないだろう。本当に、感謝する」
坂本からの礼を、皆は受けていた。
そして、更に数時間後。
爆撃が行なわれ、あの周辺地域は跡形もなく吹き飛び、焼け野原と化した。
火が消えた後。ドリルミサイルは二度と出現しなかった。