●リプレイ本文
「それじゃあ、まとめるわね」
ブリーフィングルーム、そこにある大きめのテーブルを前にして。
冷めかけたコーヒーの飲みかけをぐっとあおり、藤田あやこ(
ga0204)は皆へと向
き合った。
「作戦行動は、三班に分かれる。
一斑は、車輌実験班。UPCから機材と使わなくなった車輌とをもらいうけ、それ
を攻撃圏内へと押し出し、あえて攻撃させる。その様子を実際に観察し、データを取
る。参加者は、高村・綺羅(
ga2052)さん、九頭龍・聖華(
gb4305)さん、そして流
星刃(
gb7704)さん。
二班は、攻撃地点となったクレーターの調査班。既に攻撃された地点を調査し、ど
のような状況なのか、どういう風に爆発したのかを調べる。こちらは、大河・剣
(
ga5065)さん、虎牙 こうき(
ga8763)さん、アリエイル(
ga8923)さん、そして
私。
三班は、観察班。旭(
ga6764)はヘリに乗って、上空からどういう状況かを確認す
る。間違いはないかしら?」
藤田の言葉に、皆は同意とうなずいた。
「にしても、全く理解できないわ。不思議よねえ」
現地にて。クレーター跡を目の前にして、藤田はそれを見回した。
見たところ、確かに砲らしきものは無い。山腹にも、そして山頂付近にも。事前に
調査した結果、ナバロン砲のエネルギー源になりそうな、地熱などのエネルギー源ら
しきものも近くには見当たらない。それなのに、地震計のデータでは、微震から軽震
に近い揺れが多く観測されている。
見える範囲では、機械装置らしきものの設置も無い。あるのは、自然界に存在する
もののみ。すなわち、草木に土、岩。そして山。
例外は自分たちと、目前に転がっている「見えざる敵」の攻撃を受けた戦車の成れ
の果て。
「地雷‥‥にしちゃ、温度が高すぎやしないか? 鉄が溶けているぜ」
虎牙が、残骸を見てつぶやいた。爆発による熱では、いくらなんでもこれほどまで
にはならないだろう。見たところ、まず間違いなく地面から、それも地雷による攻撃
を受けたかのような状況なのは明らか。
ではあるのに、その溶け方はまるで、レーザーのような光線兵器にも似たもの。一
体どういうことなのか?
「‥‥しっかし、純粋な調査依頼というのも珍しいよな、実はキメラでも隠れてたり
してな」
冗談めかした口調で、虎牙は停滞した空気を払拭しようとしたが、その試みは失敗
した。
しかし彼は、ちょっと前にキメラの影を見て、それに警戒したのだが。
「落ち着いて‥‥ただの動物よ」
恋人に、大河にたしなめられた。それはキメラに見えたが、実際はただの動物にす
ぎなかったのだ。もっとも、焼け爛れた半身は、それをまるで怪物のようなシルエッ
トに見せかけていたのだが。
それ以外には、全く何も無い。拍子抜けなほどに、何も襲ってこないし、何もトラ
ブルは無い。青空の下で自然に囲まれたこの状況では、弁当でも広げてのんびりした
いと思ってしまうほどに、緩やかな空気が流れている。
「ふむ‥‥地震計にも、今のところは反応は無さそうですね」
アリエイルもまた、ひとりごちた。日光に照らされ、彼女の金髪が美しく輝く。
「‥‥地下からの攻撃だとは思うのですが‥‥」
今現在、二班はパイルにて、あるいはスコップなどで、現場の土を掘り返す事を
行っていた。
「‥‥!? ‥‥アリエイルさんの言った事、どうやら案外外れじゃあなさそうね‥
‥」
疑問は残る。だが、その仮説が正しいと思って間違いなかろう。
大河は発見したのだ、「それ」を。
ふと、そこにヘリの爆音が響いてくる。三班の旭が、周辺一帯を回って、再び戻っ
てきたのだ。
親友の乗ったヘリに、虎牙は手を振る。ここの調査は大体終えた、ならば後は、一
斑の実験を残すのみ。
出遅れた一斑。彼らは当初の申請が通らず、難儀していた。
「なんで用意できないのじゃ? 主らの尻拭いをするんじゃからな、多少は協力せい
よ!」
九頭竜が問い詰めるが、UPCの物資担当員もそれに負けていない。
「だから、用意しないとは言ってませんよ! すぐには無理で、少々時間が必要なん
ですってば!」
「なんでや?」と、流。
「このところ、幽霊船弾やらなにやらで、どこも物入りなんですよ! 調査用の機材
も、戻ってくるのは早くて明日の夕方ですし‥‥」
「でも、あんまりのんびりしてるわけにはいかへんし。できるだけ急いでもらえます
か?」
流の口調に、担当員も落ち着きを見せる。
「ええ、わかってます。こちらもできるだけ用意はしますので、一日だけ待っていて
下さい」
かくして、二班の連中に遅れること一日後。
申請した機材や廃車などが全て用意され、それを現場へと運ぶ事となった。
「破壊されても構わない車輌を用意するのに、これだけ時間がかかるとはね」
現物を前に、高村が言葉を口にする。
「まさか、戦車を支給されるなんて予想外やったなあ」
流もまた、言葉を口に出す。この「見えざる敵」の調査のためには、どうしてもそ
れなりの車輌が必要。ジープのようなものでもいい‥‥と考えていた矢先、まさかこ
れほどまでのものを与えられるというのは予想外。
「トラックに、ジープに、小型の装甲車。それに民間の乗用車にバイクなどが数台。
思った以上に太っ腹じゃのう」流の言葉に、相槌をうつ九頭竜。
車輌は全て、ただ動くのみで戦闘には使えない代物。しかし、当初考えていた実験
には十分使える。
「いいですか? 実験する場所に持っていくだけで、このトレーラーは壊さないでく
ださいよ? こいつは見た目ボロですけど、まだまだ使えるんですからね?」
運転席で運転する兵士が、念を押した。
「わかっておる、運ぶだけじゃ」
九頭竜が返答するのを見つつ、ぼんやりと高村は考えていた。
「ま、これで当初の予定以上のデータが取れるだろうから、いいんだけどね」
けど、嫌な予感がしてならない。その不安と焦燥が、彼女の胸中を苛んだ。
かくして、一時間ほど後。
二班と三班の見ている前で、実験が開始された。
ちょうど、攻撃が起こったのと同じ地点。そこへと実験車輌を動かし、どういう攻
撃が行われるか。
手近な場所に、観測器具や機材をセットし、全ての準備は整った。
あとは、廃車を攻撃箇所へと動かすのみ。近くの木陰で、モニターをチェックしつ
つ、車の底部へとセットしたカメラをもまたチェックし終え、高村はうなずいた。
周辺地域の動植物については、最初に聞いていた通り。だが、この周辺の動植物に
は危険なものなど無い‥‥というのが、県庁の見解。もちろん、バグアがキメラを持
ち込んでいたら、話は変わるが。
ならば、バグアによる秘密兵器だろうか。それならば、どこから攻撃してくるの
か。それを確かめないと。
ただひとつ、杞憂な点。それは、昨日に虎牙が発見した、とある残骸。
それは、ひどく壊れ、ひしゃげていた。しかし、確かにある機械の特徴を有してい
たのだ。……円錐形をした、「ドリル」の一部のように。
「それでは‥‥始めるぞ?」
九頭竜の声とともに、実験が開始された。
実験の内容と方法はシンプルなそれ。無人の車輌を、攻撃された地点へと動かし、
どう攻撃されるかを見るというもの。
車輌にはカメラとセンサーとを搭載し、何かが攻撃したらその映像やデータが、別
の場所に待機しているPCへと送られる。
「金属探知機による調査では、何も見つからなかった。となると‥‥最初から仕掛け
られていた『何か』じゃあない事は確か。だとしたら‥‥」
だとしたら、どこかから攻撃してくる『何か』。それを見極めねば。
最初に選ばれたのは小型装甲車。アクセルに仕掛けをして、流はそれを走らせた。
途中で飛び降り、車が攻撃圏内へと入るのを見届ける。
「入った!」
一斑、そして二班に、空中のヘリからの三班もまた、それを見届けた。
とたんに、仕掛けていた地震計の針が触れる。振動が、地中から発生している。
「‥‥なんじゃ!?」
別の方向から現場を観察していた九頭竜が、驚愕の言葉を口にした。同じく、高村
もまたそれを凝視する。
車の前方、10m程度の地点。地下から何かが顔を出したのだ。
それは、円錐状をしていた。道路工事に用いるコーンに似ているが、それより一回
りほど小さめ。螺旋状の刃と尖った先端から、それがまぎれも無いドリルだと、皆は
確信した。
装甲車は、そのドリル、ないしは地中から突き出た先端へと接近する。ふと、ドリ
ルのコーン部分が、花開くように展開した。
それとともに、装甲車がその上を通りかかる。
「!」
次の瞬間、装甲車の底部から光線が放たれた。それは装甲車を貫き‥‥次の瞬間、
大爆発を発生させた。大音響とともに、車体が吹き飛びひっくり返される。
「‥‥間違いは、ないみたいね」
高村の言葉が、皆を我に帰させる。
見えざる敵の正体、それは地下からの自動攻撃。それに相違ない。その場に居あわ
せた全ての人間が、その事実を確認した。
それからさらに数時間。
実験を何度か繰り返した結果、様々な事実が判明した。
「ふむ、地中からの自動攻撃という事で間違いないようじゃな」
輸送車輌のみを破壊した‥‥という報告内容を気にしていた九頭竜だが、その答え
も解決した。どうもこのドリルミサイル(と、誰ともなくそう呼ぶようになった)
は、反応はいいが、精度はかなり鈍いようだった。
乗用車二台を、同時に並走させたところ。その片方のみが破壊されたが、もう片方
がひっくり返るなどして止まると、そのまま攻撃されることなく終わってしまう。件
の報告も読み直したところ、「輸送車輌の破壊とともに、護衛の軽戦車も走行を停止
したら、それ以上は追撃が無かった」、といったものだった。
モニターをチェックしていた流により、さらなる特徴も発見された。
「どうやらこのミサイル、最初に光線を発射するみたいやね」
「‥‥つまり、まとめるとこういう事か?」虎牙が、流の言葉に続き言った。
「こいつはおそらく、振動か何かを感知し、この付近にある基地から発射された。
で、振動の元である車輌に地中から接近し、先っちょを地上に出す」
「そして、先の部分を開いて光線を放ち、地上の車を攻撃。その後で本体も爆発し、
証拠を残さず消滅、と」虎牙の言葉に、大河が続く。
「ふーん‥‥どうやら、謎は解けたと見ていいようね。けど‥‥」藤田は、まだ疑問
を残していた。
「これが犯人だとして、それじゃあどこから『これ』を打ち込んでいるのかしら」
そう、まだ疑問は残っている。
見えざる敵の、正体は掴んだ。しかし、敵が「何か」を知ったのみ。
次にすべき事、そして緊急に必要な事。それは、敵が「どこから」攻撃を仕掛けて
いるのか。そして、「どうやって」攻撃を止めさせるか。
まだ、するべき事は残っている。だが、今現在すべき事はやり遂げた。これ以上、
ここですべき事は無い。
次にここに来るときは、「見えざる敵」を破壊し、二度と使わせないようにする
時。
来るべきその時の事を思いつつ、皆は引き上げた。
周囲の自然が、再びのどかで平穏なそれに戻った。そしてそれは、血生臭い戦いを
忘れさせるかのような空気を漂わせていた。