●リプレイ本文
「それでは、やはり親バグア派の仕業ではないと?」
「間違いありませんね、こちらでも独自に調べましたが‥‥」
船舶保険会社にて、藤田あやこ(
ga0204)に対応した職員は請合った。船舶の保険会社、サルベージ業者、船舶の事故・沈没の記録を漁ったが、その全てには怪しい点を見出せなかったのだ。つまり、誰かがバグアに協力し、船を横流ししたわけではない。少なくとも、現時点ではそう断言できる。
「参ったわね、無駄足だったとは。はあ‥‥」
「無駄足、とは限りませんよ。藤田さん」
彼女のもとへ、篠崎 公司(
ga2413)が近づいてきた。
「これは?」
「過去十年間に、沈没、難破、廃船処理された船の記録です。解体処理や破壊されたものは除いてありますが、難破・沈没した船、あるいは漁礁などに利用された船の記録をピックアップしてあります。そして」
篠崎は、二冊目のファイルを開き見せた。
「こちらが、UPCの幽霊船弾の、可能な限り判明している船種のファイル。これらを照合してみると‥‥」
「‥‥ふうん、やっぱり思ったとおり、ってわけね」
「これらの位置と、発見された海域。今、マクシミリアン(
ga2943)さんに調べてもらっています」
そして、数刻後。マクシミリアンが更なる結果を持って現れた。
「‥‥俺の考えた通りだったか」
威龍(
ga3859)が、ナイトフォーゲルのコックピット内にてつぶやいていた。
藤田たちが調査した結果、やはり幽霊船弾は、沈没船・難破船の類と関連があると見てよさそうだ。そして、九年ほど前に座礁し沈没したタンカーと、目撃された幽霊船弾のひとつ。それらが同じ船体である事を突き止めたのだ。
かくして、参加した十名のうち、半分の人数がナイトフォーゲルで空中から、もう半分が水中から、この幽霊船弾を追う事にしたのだった。
威龍は、水中からの追跡班。彼が駆るナイトフォーゲルは、RB−196ビーストソウル。彼とともに、水中を探査しているのは四名の勇士。
藤田とマクシミリアンもまた、威龍と同様にビーストソウルにて水中を探索していた。
残る二人のうち、一人の名はM2(
ga8024)。ナイトフォーゲル・ES−008ウーフーを駆る彼は、視線を油断なくレーダーに走らせ、怪しい存在が見つからないかと見張っている。ウーフーの電子戦に強化されている機体性能を駆使しても、それはいまだにかなわなかったが。
M2を護衛するように、ヒューイ・焔(
ga8434)の操るG−43改ハヤブサは、水中用サブアイシステムで海底を調査。が、やはりこちらも収穫なし。
「こちらM2、レーダーには反応なし。ったく、幽霊船はどこにいやがるんだろうなあ?」
「こちらヒューイ、こっちも何も見つからずだぜエムツー。夏だから、海に行かなくちゃとは思ってたけど、ナイトフォーゲルに乗りっぱなしじゃあ海に来た気分が味わえないぜ」
通信機から聞こえる二人のやり取りに、威龍は苦笑した。もちろん自分もレーダーに注意を向けてはいるが、それでもここまで反応が無いと不安になるのは事実。
「こちら威龍、マクシミリアン機応答せよ」
「こちらマクシミリアン、威龍くん、なにかな?」
「本当に、このあたりで間違いないのか? 探索を始めて三日目だが、難破船は見つけても、未だに幽霊船弾は見つからない。間違っていないかちょっと心配なんだが」
「ああ、間違いはないだろう。敵の出没・遭遇地点は、この海域が一番多かった。それに、沈没船や難破船の記録もまた、この海域では少なくは無い。現時点では、この海域を回る事が、一番遭遇の可能性が高いからね」
確かに威龍も自身で調べたところ、記録を発見した。この近辺において難破し水没した船舶と、幽霊船弾に破壊された船の記録を。
「‥‥ともかく、今回は仕事を一区切りさせて、ビールを飲みたいところだ」
期待をこめたマクシミリアンの声が、通信機から響いてきた。
「こちら篠崎、各機応答してください」
ウーフーを駆るスナイパーのナイトフォーゲルへ、空中捜索班の各機から返答が届く。
「こちらホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)。現在のところ、異常なし」XF−08D雷電を駆るは、勇敢にして寡黙なるマタドール。
「こちらゼラス(
ga2924)、感度良好! バグ公もくそったれなボロ船も、今んとこ見かけねーぜ?」赤きマフラーが自慢の死神、その愛機は篠崎と同じウーフー。時折ソノブイを投下していたが、「当たり」は無かった。
「さて‥‥先行く貴方はどこゆく船ぞ〜〜‥‥ってね」
一昨日、昨日、そして本日。ゼラスは申請したソノブイを投下していた。が、やはり反応はない。
「こちら、クレア・アディ(
gb6122)。異常なし。引き続き調査する」
白く長い髪と、透き通る青い瞳が美しい女傑。しかし落ち着いているようで、彼女は心中穏やかではなかった。
「‥‥幽霊だと‥‥? ‥‥馬鹿馬鹿しい!‥‥そんなもの居るわけないだろ‥‥!」否定しつつ、どこか震えてしまう。XN−01改ナイチンゲールは、クレアのそんな不安も乗せつつ飛行していた。
「美黒・改(
gb6829)なのである! 現在異常なし、調査を続行するのである」
ナイトフォーゲルH−223B骸龍を駆るは、傭兵の少女。撃つべき敵を求めてレーダーへ、メインモニターへと銀色の瞳を向けている。
「篠崎殿、水中班からの連絡はどうなったであるのか?」
「あちらも、どうやら芳しくはないようです。今日もまた、見つからないかもしれないですね‥‥」
だが、それは杞憂に終わりそうだった。
一瞬だが、あったのだ。ソノブイのひとつが、何かを感知し反応していた。
「こちらマクシミリアン、ソノブイの反応があった水域に到着。これより哨戒行動に入ります」
いち早く現場に到着した、マクシミリアンのビーストソウル。自前のレーダーにも、やはり未確認の船体を発見・反応してはいる。
それは、沈んでいるタンカーだった。熱源反応らしきものは無い。ナイトフォーゲルに入力しておいた沈没船のデータファイルから、それの素性が明らかになった。
「某運輸企業所属、物資運搬船『セレスト丸』。一年前、被災地への食料および医薬品の運搬中にバグアからの攻撃を受け、沈没‥‥‥‥」
データベースの記録には、そう記されている。マクシミリアンは、注意深く接近していった。今まで何隻もの船に遭遇しては来たが、それのどれもが「外れ」だったのだ。
が、今回のこれは、妙な予感がしてならなかった。なんとなく説明は出来なかったが、怪しいと思ったのだ。
接近すると、その予感が的中するのをマクシミリアンは知った。
巨大なタンカーが、動き出したのだ。
『こちら、マクシミリアン。沈没船セレスト丸が、浮上!』
水中班全員の機体へ、マクシミリアンからの連絡が入る。そしてその口調から、確信した。何か、とんでもない事に遭遇していると。
二機のビーストソウルと、ウーフー一機、ハヤブサ一機は、マクシミリアンの下へと急ぐ。浮上する沈没船、その正体を見極めなければ。
二機のウーフーに骸龍、ナイチンゲール、雷電で構成された空中班も、現場宙域へと急行していた。
「レーダーで確認! 間違いない、沈没船が動いていやがる!」
「こちらのレーダーでも、確認しました!」
ゼラスの言葉に、篠崎も同意した。各人のウーフーのレーダーには、確かに反応があった。水没したセレスト丸が動き出し、浮上したと。
「メインカメラでも視認。間違いなく幽霊船なのである!」
美黒の骸龍が見た映像が、美黒の目に飛び込んできた。それは、大きなタンカーが波を割り、海上に姿を現す光景。
「ひっ‥‥こ、こんなもの、本当に幽霊船なわけが‥‥」
震えがさらに強まったクレアだが、それを押さえ込んだ彼女は更に気をひきしめた。あれは、バグアの兵器。幽霊などではない。だから、恐がる必要も無い、と。
『空中班各機へ、こちらマクシミリアン』
水中のビーストソウル、マクシミリアン機から、連絡が入った。
『奴の秘密がわかった、これから、映像を送る!』
「幽霊船だと? どちらかというと、ゾンビ船だな」
マクシミリアンはつぶやいた。彼はビーストソウルのカメラを、かつてセレスト丸と呼ばれていた船へ向ける。
やはり、間違いない。奴らは、沈没船を自動操作する爆弾として使用していたのだ。水中から船底を確認し、それがわかった。
‥‥自立行動する、巨大な魚雷らしきもの。外観は、まるで模型に用いる水中用モーターを思わせる。それが数機船底に張り付くことで、船を、セレスト丸を動かしていたのだ。それらは、もう動く事のなくなった船を、鉄屑と化したかつてのマシンを再び動かしていた。
やがてマクシミリアンの下へ、水中班がかけつけた。
「連中、どこに行くつもりだろう? 帰還する‥‥つもりじゃあないだろうな?」
M2がつぶやくが、その呟きはすぐに焦りへと変化した。
「‥‥って、この方向には!」
元・セレスト丸の幽霊船弾は、ある方向へと向っていた。
それは、九州本土。このままでは、港町に激突する事になるだろう。
「あいつ、港へと体当たりをする気だ!」
スピードを出しつつ、爆弾と化した沈没船が海上を疾走していた。その様子は、空中の五人も知るところとなっていた。
「熱源反応、確認! やっこさん、焦ってるみたいだぜ!」
ゼラスのウーフーが、その船内に熱源を感知した。船に張り付き動かしている、巨大モーター数機。おそらくそれも爆弾なのだろうが、船内にも爆弾が仕掛けられている。ゼラスは、そして篠原はそう予想した。
果たして、それは予想から確信へと変わった。水中班は、その爆弾の攻撃を受けたのだ!。
セレスト丸は、船腹や船底にところどころ穴が開いていた。おそらくは、そこから浸水し沈没したに相違ない。
が、距離をとりつつ追跡する水中班は、その穴から何かが投下されるのを見た。
「あれは?」
ハヤブサのサブアイで、それを捉えたヒューイ。それは、船内に潜んでいた何かが、自ら動き海中へと身を投じた様子に他ならなかった。
それは、魚雷や爆雷を思わせる、円筒形の何か。ちょうど中型・小型のミサイルや砲弾、魚雷のよう。しかし、それには目を引く特徴があった。「脚」が付いていたのだ。
魚雷ならば、普通はスクリューが付いている尾部。そいつにはスクリューの変わりに、尾部に折りたたまれた四本の脚が、そして腹部にクモやカニを思わせる細長い脚が付いていた。
それは、セレスト丸から産み落とされたかのように投下されると、折りたたまれた脚を展開し、海中を漂い始めた。その数、数十。中には海底に降り立ち、脚で立っているのもいる。
「なあマクっち、攻撃してもいいか?」ヒューイが、マクシミリアンに意見を求めた。
おそらく、あれは爆弾だろう。ならば、接近する前に叩くべき。そいつらは、脚を使って、あるいは海中を漂って、徐々に接近してくる。この距離からならば、こちらの攻撃は可能。ならば、先手必勝でやるべきか!?
接近したうえで攻撃を食らわせ、爆発させたら。まちがいなくこちらに被害が来る。
「そうだな‥‥。よし、ヒューイ。きみに攻撃を任せる」
マクシミリアンの返事を聞き、ヒューイは爆弾の一つにWH−144、バルカンの弾丸を見舞った。
「!」
それを食らい、脚付き爆弾は爆発した。が、その爆発は予想以上に強烈だった。
そして、予想外の出来事が、三つ発生した。
一つが爆発した事で、漂っている爆弾全てが、まるで申し合わせたかのように爆発。
さらに、爆発とともに、水中班の機体のソナー・レーダー全てが、ブラックアウト。
そして、発生した爆発の衝撃波が、水中班の機体全てに襲い掛かったのだ。
「ぐっ、ぐわぁぁぁぁっ!」
ヒューイが叫び、他の四人も驚愕した。水中に発生した強烈な衝撃波により、ナイトフォーゲルのコックピットが強烈に揺さぶられる。
ナイトフォーゲルが海底にたたきつけられ、全員が衝撃に意識を失った。
「気がついたか?」
ヒューイが目を覚ますと、目の前にはマクシミリアンの姿があった。
ここはUPCの病院、ないしは大部屋の病室。不幸中の幸いで、水中班の皆はかすり傷で済んだらしい。ナイトフォーゲルの損害も、奇跡的に軽微で済んだようだ。
「なあマクっち、幽霊船弾は?」
「ヒューイ殿、そいつは美黒たちが爆発させたのである。ではあるが‥‥」
美黒の声とともに、空中班の五人が病室に入ってきた。
水中班が沈黙したのち、セレスト丸は更に海岸に向けて疾走したが‥‥新たに起こった爆発によって阻まれた。美黒の骸龍から投下した対潜爆雷が功を奏し、足止めする事に成功したのだ。
そのまま、空中から各機は攻撃した。どうやら相手は、空中からの攻撃には対応できないようで、一方的に受けるのみ。
が、更に予想外の出来事が発生した。セレスト丸が、いきなり動きを止めたのだ。
「‥‥水中を、何かが行くぞ」
ホアキンの指摘どおり、魚雷めいた何かがセレスト丸から発射された。
それは、船を動かしていた、巨大な水中モーターのような爆弾。それが、独自に海岸へと向っていったのだ!
そして、残された船は、数秒の沈黙の後‥‥強烈な爆発を起こした。
「‥‥こいつのせいで、海岸の港町は全滅だ。ラッキーだったのは、死者が出なかった事と、破壊された港町がさして重要じゃあなかったって事くらいか」
ゼラスが、吐き捨てるかのようにつぶやいた。
「でも、こちらも収穫はあったわよ」
落ち込んだ空気を、藤田が払拭した。
「まとめましょう。予想通り、『幽霊船弾』は『沈没船に、自立作動式爆弾を取付かせ動かす』という兵器に違いないわ」
「そして、その爆弾には、二種類が存在する。大型の水中モータータイプ、小型の脚付きと、ね」篠崎が、彼女に続き言った。
「おそらくそれは、ヘルメットワームから投下されると、自力で沈没船に取付く。水中モーターは推進器となり、船体を動かす役割。小型脚付きは船内に大量に潜み、敵が接近したら海中に散布され、機雷や爆雷のように接近するものに爆発して対処する」M2が、篠崎の言葉を引き継ぐ。
「脚付き小型は、水中で爆発するとレーダーやソナーを無効化する物質を大量に散布。ブラックアウトしたのは、そのせいだ」と、マクシミリアン。
「そして空中から攻撃されたら、水中モータータイプは取付いた船本体を放棄し、自身を巨大な魚雷と化して目標に突進・破壊する。船内に残された小型脚付きも自爆し、周囲を破壊。後には残骸すら残さない‥‥えげつない兵器ね、まったく」憤慨したように、クレアもつぶやいた。
今回は、勝利したとは言いがたい結果となったことを、皆は実感していた。
が、少なくとも敗北はしていない。ナイトフォーゲルはまだ動くし、戦う力もまだ残っている。
次こそは、幽霊船を地獄へと叩き落してくれる。そう決意する一行だった。