●オープニング本文
前回のリプレイを見る「状況は?」
担当官の言葉に、副官の声が苦々しく答える。
「あまり良くはありません。攻略を試みましたが」
そこから先の言葉は聞くまでもなかった。この新型兵器の威力がどれほどのものか。それをUPCは、身をもって知らされたのだ。
九州、国東半島。
鷲巣岳付近・黒木山。
その周辺地域にて、脚付きのヘルメットワームが多く目撃され、交戦。その情報から、ヘルメットワームに追加兵装を施した「アームズオプション」、通称AMOと判明。
かくして、能力者たちを招集し、任務を与えた。ナイトフォーゲルで偵察し、その脚付ヘルメットワームを誘い出し、黒木山にあると思われる基地の捜索とその位置を特定する任務を。
彼らは見事に成功した。が、それにより判明した事実は、UPCに絶望を与えたもの。既に黒木山の内部は、大規模な基地が存在していた。その山頂部分には破壊兵器が設置されていた。
バグアの広域破壊砲。通称「ナバロン砲」。
以前にバグアは、攻撃用にこの巨大砲を設置し実戦に使用していた。それが、確認される限り一例のみという事は幸運以外の何物でもない。
その一例とは、トカラ列島・諏訪之瀬島での戦闘記録。
ナバロン砲は、大型ヘルメットワームを台座代わりに設置。マグマのエネルギーを取り込み、エネルギーを充填し発射するといったものだった。
その威力は絶大。あのまま諏訪之瀬島に設置し続けていたら、バグアは制空権を握りこみ、UPCが降伏するのも時間の問題であっただろう。事実、UPCの一個大隊が一撃で完全に消滅した事が確認されている。
幸いにも、ナバロン砲には弱点があった。次弾発射までのエネルギー充填に時間がかかり、なおかつ発射角度が取りにくかったのだ。
その弱点を突いた能力者たちにより、諏訪之瀬島のナバロン砲は破壊された。マグマエネルギーを充填する時に、充填装置のリミッターを破壊。マグマのエネルギーを過剰に注入させて、発射と同時に爆発させたのだ。
この作戦が功を奏し、ナバロン砲は以後用いられずに今に至っている‥‥はずだった。
「しかし、連中はこれを改良し、実戦に使用したわけだ。おそらく、資材をヘルメットワームに運ばせ、ひそかに基地を建設していたのだろう」
「ヘルメットワームAMOで周辺地域を襲撃したのも、そちらに注目させ基地建設とナバロン砲設置を気づかれないようにするためだったかと」
しかし、エネルギー源は?
「この周辺には、温泉地がある。赤根温泉に、夷谷温泉など。温泉が出るという事は、近くに地熱エネルギーが存在する事。おそらくは、それをも利用したのだろう。マグマのそれに比べると、微々たるものではあるが」
しかし、威力は大幅にダウンしたものの、運用の容易さはアップしていた。たとえるなら、大砲の変わりにライフルを装備したようなもの。威力は落ちたが、その分発射の時間が短縮し、なおかつ射程圏内の命中率が向上したのだ。プラス、小型化したために、運用も容易。
もしもこの新ナバロン砲を放置していたら、おそらく国東半島の別の峰に同じ基地を作られ、九州の一角は完全にバグアの手に落ちる事となる。
「高々度から絨毯爆撃や、射程圏外からの長距離攻撃は?」
「それらは真っ先に試しましたが‥‥だめでした」
ナバロン砲とヘルメットワームAMOのみならず、通常タイプの小型ヘルメットワームも、かの基地には十数部隊が待機していた事を、彼らは身をもって知っていた。
絨毯爆撃を試みた爆撃機部隊は、黒木山の爆撃地点へと向ったとたんに、大量のヘルメットワームに迎撃されたのだ。それらをなんとかやり過ごしても、今度はナバロン砲が対空砲として、爆撃機を迎撃。長距離からミサイルを撃ち込むにしても、おそらくそれも迎撃されて終わりだろう。
とどのつまり、打つ手は無い。
「ですが、ひとつだけ手があります」と、副官は提案した。
「ですが‥‥非常に危険かつ、個人への負担が大きいものです。全員の連携と段取りが重要、ひとつでも失敗があれば‥‥」
その先は、聞くまでもない。作戦そのものが失敗するのみならず、国東半島奪還は不可能になり、九州のバグア軍から勝利する事も不可能となろう。
「作戦内容は、以下の通りだ」
君たちの前にあるスクリーンに、作戦の詳細が提示された。
「諸君らは、まず二つのチームに分かれてくれたまえ。
:フェイズ1。我々UPC正規軍が、まず射程圏外より攻撃をしかける。それに対し敵は、ヘルメットワームの主力部隊を出撃させ迎撃にあたるはずだ。その隙に、まず諸君らのチーム1のKVにて、不動山方面から黒木山へと空から向ってくれたまえ。
:フェイズ2。敵は基地より、ナバロン砲の攻撃と、ヘルメットワームAMO部隊がチーム1を迎撃にと出動させる。なんとかしてそれと交戦し、敵の目を引き付けろ。砲撃も含め、かなりの激戦になる事は覚悟して欲しい。
交戦・砲撃と同時に、射程圏内ぎりぎりの地点に待機していたチーム2のKVにて、超低空飛行、かつ超高速で黒木山へ接近。敵基地のレーダーは、地上から接近する存在は、感知できないらしい。地上部隊はかなり近距離まで接近はできたところから、そう推測される。だが、敵も愚かではない。おそらくはレーダーを改良し、地上の存在を感知できるようにしている事だろう。
:フェイズ3。できるだけ接近したところで、チーム2の諸君は合図の照明弾を発射したのち、可能な限り基地へと直接攻撃せよ。合図とともに、我々は大量のミサイルで超遠距離攻撃を行う。
基地はすでにヘルメットワームのほとんどが出払っているだろうが、ナバロン砲はそう簡単に破壊できないだろう。しかし、ナバロン砲とて三つの標的を同時には攻撃できない。予測では、我々のミサイルへと攻撃を仕掛けるはず。
:フェイズ4。ミサイルへとナバロン砲が攻撃したら、次弾発射までの時間‥‥おそらく、長く見積もって五分。それだけの時間を使ってチーム2はナバロン砲を攻撃し、破壊できずとも、砲撃はできない状態にして欲しい。
:フェイズ5。五分後、我々はミサイル攻撃第二波を行い、諸君らは速やかに退却する。ナバロン砲が発射できない隙を突いて、新たなミサイルによる攻撃を行うのだ。もしもうまく行けば、基地ごとナバロン砲を破壊できる。
以上が、作戦内容だ。互いの連携と行動が、作戦成功の鍵となる事は理解できたと思う。そして、成功率が限りなく低い、という事もな。
しかし、それでも作戦を成功させないことには、九州の、そして世界の未来は無いものと心得て欲しい。
兵士たちの多くは、おそらくこの作戦で確実に命を落とすだろう。君たちもそうなる確立は、きわめて高い。だがそれでも、この作戦に参加を希望するのならば、私は歓迎する。そして、彼または彼女に敬意を表する。
参加を表明するならば、すぐにしてほしい。我々は君たちの力が必要だ」
●リプレイ本文
:フェイズ1。
UPCの前線部隊が、攻撃位置へと配置完了。
チーム1、出動。不動山方面より移動中。
『こちら、UPCミサイル発射部隊。チーム1、応答せよ』
「こちら、美空(
gb1906)。感度良好であります」
陽動部隊、チーム1に参加している能力者、ないしはその一名が応答した。彼女を乗せ飛行するナイトフォーゲル・A−1ロングボウは、まるで星に成る事を求め、夜空を飛び続ける夜鷹のごとし。
しかし彼女が、そして彼女の仲間たちが求める星は、勝利の星。轟くジェット音が、勝利を掴まんと飛翔し続ける。
『我が軍は現在、陽動に成功し、ヘルメットワーム主力部隊と交戦中。こちらのミサイル攻撃準備は完了した。各自注意されたし』
「了解であります! 現在各機とも順調に飛行中、全て異常なし。引き続き目的地へと向うものであります」
『本部了解、貴君らの作戦成功を祈る。交信終了(オーバー)』
「こちらチーム1、オーバー。各機、聞こえたでありますか?」
「如月・由梨(
ga1805)、了解です」F−108ディアブロに搭乗した可憐なる令嬢が、返答する。
「こちらリュドレイク(
ga8720)了解。ユーリの分まで、暴れさせてもらいます」由梨と同じくディアブロに乗る金髪の戦士が、応答した。
「セージ(
ga3997)、ばっちりだぜ! 前は逃がしちまったが、次は逃がさねえ!」CD−106シュテルンを駆る、無神流の使い手が相槌を打った。
「城田二三男(
gb0620)‥‥了解‥‥。やつらに、目に物見せてくれよう」寡黙な戦士が操縦するのは、DH−179アヌビス。
「皓祇(
gb4143)、了解」小麦色の肌を有する勇士が操るは、HA−118改・翔幻。
ロングボウに、二機のディアブロ、そしてアヌビスに翔幻。これらの機体もまた、戦いへの興奮に打ち震えているように、轟音を立てていた。
前方には、徐々に黒木山が見えつつあった。
国東半島・黒木山付近。
はるか遠くにそびえる山へと、接近する機影が六。
それを阻まんと、山頂部が動き出し、妖花がごとく開く。その中心にあるは、悪魔の兵器・ナバロン砲。能力者たちには、まだ肉眼では見る事かなわない距離にある。が、レーダーに映っている光点が、その存在を確たるものとさせる。
その砲身が強烈なエネルギービームを充填し、数秒後。破滅の光が、雑草をなぎ払わんとする鎌のごとき破壊と殺戮の光が放たれた。
「来ました!」
操縦桿を引き、由梨は仲間たちへと叫んだ。しかし、百戦錬磨の能力者たちは、既にそれに対する策は成されている。
「行きます! 翔幻、行くぞ!」
皓祇の機体より放たれていた、幻想世界へと誘うような「霧」。それが、自分を含め仲間の機体をも包み込んでいたのだ。
幻霧。それは予想通り、そして期待通りに目測を誤らせ、ナバロン砲のビーム攻撃から逃れる事ができた。
が、その効果は味方にも影響を与える。リュドレイクはお返しにと、迫り来る十数機のヘルメットワームへロケット弾を放ったが、外れてしまったのだ。
「仕方がない、接近戦だ!」
それと同時に回避し、ナイトフォーゲルを変形させつつ地上へと軟着陸する。人型となったリュドレイクのディアブロは、木々を蹴散らし木っ端としつつ、鷲巣岳へと着地した。
それとともに、レーダーサイトにて。ナバロン砲の付近より浮遊してくる、更なるヘルメットワームAMOの機影が見えた。
「いいだろう‥‥戦闘開始だ」
不敵に微笑み、城田はアヌビスの操縦桿を引く。忠実なる彼の愛機が、その思いを受け取ったかのようにエンジンを震わせた。
ヘルメットワームの数は少ない。が、それにしても現時点で確認できる範囲では十数機。陽動していなければ、どのくらいの大量の機体が襲撃してくるかと思うと、慄然する。
大地を蹂躙するかのように歩き回るAMOを前に、六機のナイトフォーゲル、ないしはその搭乗者たちは気を引き締めた。
:フェイズ2。
『こちらセージ。待機組のやつら、聞こえてたら応答しろ!』
「こちらチーム2、熊谷真帆(
ga3826)。ちゃんと聞こえてますですよ」
セージからの声が、真帆の愛機、XF−08D・雷電のコクピット内に響く。超低空飛行で、攻撃目標へと進むナイトフォーゲル内部にて。仲間の声が聞こえるのは、思っていた以上に嬉しさを覚えるものだった。
「藍紗・T・ディートリヒ(
ga6141)、問題ないぞ」PM−J8アンジェリカに搭乗している、巫女の少女。その指には、大切な人の想いがこもった指輪がはまる。
「シン・ブラウ・シュッツ(
gb2155)、僕も同じです」何でもこなせる天才肌の青年の機体は、やはりPM−J8アンジェリカ。
「翡焔・東雲(
gb2615)、あたしも同じく」緑の髪と瞳の女傑が、PT−054Kロジーナ内にて答えた。
全て、異常はない。今のところは。
『現在、戦闘中。あの糞玩具を取り付けた糞甲虫どもは、結構な数がいやがる! だが、基地と、そしてナバロン砲の位置は確実に把握した。頼むぜ! バグアの奴らに一泡ふかせてやれ!』
「ええ、戦果にご期待下さいです!」
セージの言葉に、真帆は返答した。そうだ、前回自分たちは辛酸をなめた。今回こそは、それを晴らさねば。
雷電に二機のアンジェリカ、そしてロジーナ。それらの機体は、操縦者の期待に応えんと攻撃目標へと接近しつつあった。
数分後、黒木山が、そして山頂部のナバロン砲が見えてきた。肉眼で改めて見ると、やはり驚きと恐ろしさを禁じえない。
それが向いているはるか先には、花が咲いては散っていた。爆発と閃光の花が。さしずめナバロン砲は、花を狩らんとする鎌のよう。
しかし、花には虫が付いていた。新たなヘルメットワームが‥‥AMO装着・未装着に限らず、十機程度のバグアの機動兵器が立ちはだかったのだ。
「やはり、レーダーを改良していたと見て間違いなさそうです‥‥ねっ!」
シンが真帆を狙い、接近してきたヘルメットワームを射撃する。爆発とともにアンジェリカを着地させた彼は、陸戦型に、人型に変形させて大地に立たせた。
「急げ! ナバロン砲が動いている! 我らへと砲身を向けているぞ!」
藍紗が、空中で数機のヘルメットワームをしとめつつ、叫ぶように警告した。
山頂部のナバロン砲が、徐々に動き出していた。ゆっくりではあったが、それは確実にこちらへ、自分たちへと砲身を向けつつあった。
「ミサイル発射まで撃たせるな! 撃たれたら‥‥ッ!」
ロジーナのコクピットに座る翡焔が、そこで言葉を切った。
真帆は空中で、雷電より照明弾を放った。そのまま、追うヘルメットワームを誘い地上戦へと持ち込む。
「本部へ! ただいまヘルメットワームと接触、交戦中! 応答していたらすぐにミサイル攻撃を!」
この切羽詰った声が、向こうに届くといいのだが。
:フェイズ3。
照明弾があがり、強烈な閃光が刹那、周辺を支配し、消えた。
そしてそれを受け、UPCの部隊では、発射角度の微調整が行われていた。
「発射角度、誤差修正±12.3度。ミサイル、発射」
狙うは、ナバロン砲。大地を蹂躙する悪魔の兵器。
チーム1へ迫る、AMO装着型のヘルメットワーム。が、その数は思った以上に多い。
六機の陽動で足りるだろうかと考えていたが、その懸念は現実のものとなった。少なくとも、十二機以上はある。先刻からの合計で、各々それだけを、もしくはそれ以上を倒したのだから。
が、暗闇に浮かぶ中には、それらを補い、なお余りある数のヘルメットワームがうごめいている。
美空の口内に、苦い味が沸いていた。倒しきれない敵への、憎しみの味が。搭乗するロングボウのロケットランチャーは、一機をしとめるも、別方向からの一機が襲い掛かる。
「くっ、これはまずいであります!」
巨大なアームが、ロングボウの胴体を掴む。別方向から迫る別のAMOは、故意か偶然かコクピットへと回転ノコギリめいた武器を向け、表面へと切りつけた。美空は殉職、作戦行動中に死亡。
そうならずに済んだのは、リュドレイクと由梨のおかげ。
リュドレイクのディアブロが、機槍アテナで逆にヘルメットワームを突貫し、破壊!
さらに、由梨のディアブロのD−02スナイパーライフルが、ヘルメットワームを貫き、破壊! 自分を襲撃した二機のAMOが、頼もしき友の一撃で破壊されたのを知り、美空は安堵のため息をついた。
「た、助かったであります」
しかし、まだ事態は好転していない。
「‥‥ったく、次々に沸いて出てきやがる!」セージはうめいた。シュテルンの対戦車砲が火を噴き、ヘルメットワームを一撃で破壊! 返す動きで、接近してきた格闘戦型AMOの刃の一撃をレグルスで受け止め、ヒートディフェンダーで叩き斬る!
「‥‥その足、もらった‥‥ッ」城田のアヌビスもまた、暴れまわっていた。さながら冥界のアヌビス神へ、できるだけバグアを送り込むかのように。ガドリングで脚を撃たれ、バランスを崩したAMOへと回転する二つの螺旋・ツイストドリルが突貫する!
「‥‥なんとか、あちらの援護をしたいと思ってましたが‥‥」
照明弾を見て、皓祇もまたうめいた。陽動したのちに、援護に戻らんと思っていたが、予想以上に手間がかかる。あちらの四人に、任せるしかない。
ヘルメットワームを見て、皓祇はそれがあざ笑う顔のように見えた。
:フェイズ4。
ミサイルが迫り来る。ナバロン砲は途中で動きを止めると、その砲身を彼方の方角へ、すなわち、ミサイルが来る方角へと向けなおした。
肉眼では見えないが、各KVのレーダーには感知されている。無数のミサイルの群れが、徐々に接近してくるのが感知されていた。
ナバロン砲が火を噴いた。邪悪な巨獣の咆哮は、UPCのミサイルへと叩き付けられる。
光線は飛翔するミサイルを全て飲み込み、全てを爆裂させた!
「くるぞ! 全員、衝撃に備えるんじゃ!」
藍紗の言葉とともに、四機のKVが衝撃を防がんと地に伏せる。
チーム1にも、その衝撃は伝わってくる。衝撃波が森林を吹き飛ばし、夜空に一瞬、太陽を出現させた。
太陽はすぐに消え、暗闇が甦る。それとともに、KV四機は衝撃波から無理やり立ち直り、立ち上がった。
「急いで! ミサイル第二派まで、後4分30秒です!」
シンの言葉とともに、彼らは自機を飛行形態へ変形させると、空に舞い上がった。
ナバロン砲、それは思った以上に巨大であり、思った以上に強固。そして思った以上に、破壊は困難。それを四人は思い知った。
まずは空中から砲撃・射撃を試みる。が、ナバロン砲は傷ひとつついていない。防御用小型砲の射撃を受け、一時的に下がらざるをえなかった。
しかし、それで怖気づくような彼らではない。翡焔はロジーナを空中で変形させ、尾根へと、ナバロン砲のすぐ真下へと降り立った。
「先に行くぜ! こいつをすぐにブチ壊してやるわ!」砲の基部には、わずかに外部へと機械部分が露出している。翡焔はそこへ、P−115滑空砲の弾丸を叩き込む。
爆発が発生したが、それでもやはり全体からしたら微々たる物。
「まだまだ!」藍紗が、第二撃を放った。空中で変形し、その得物を、ビームコーティングアクスを砲身へと叩き付ける!
鋼鉄も切断出来うる斧だが、それでもわずかなゆがみが生じるのみ。
真帆もそれに参加せんとするが、筍のように防御小型砲がせり出て、そして新たなAMOが湧き出てくるのを見て、援護に回る事に。
「邪魔‥‥しないで下さいッ!」
雷電の対戦車砲とヘビーガドリング砲が、邪魔をする煩わしい敵を掃射する。
シンのアンジェリカも、雷電に協力しつつ小さな敵へと応戦していた。
「きりが無いですね。このままじゃ、スタミナ切れになりそうです‥‥」
絶望を超えた武勇と知恵の輝きが、シンの瞳に宿る。ブリーフィングの時に話し合った事が、何か役立てないか‥‥。
「! そうだ、砲身にっ!」
それを聞いていた藍紗と翡焔は、すぐに理解した。外部からの攻撃が通用せずとも、内部からの一撃は無事では済むまい。
砲身の内部、砲口へと、アンジェリカの粒子砲とロジーナの対戦車砲が、狙い打った!
ナバロン砲の砲塔基部に、派手な爆発が起こり、それとともに5分が経過した。
:フェイズ5。
バグアの司令官は、焦りを感じ取っていた。先刻の攻撃でレーダーが使えなくなり、更にはナバロン砲そのものまでもが中破させられた。
前回の教訓を活かし、この砲は強固に建造されている。破壊するには、人間どもの起動兵器程度の火力ではまず無理だ。この一帯を火の海にできる程度の火力でないと。
それに気づいたのか、取り付いていた四機のKVが帰還する報告が入った。どうやら、あきらめたのだろう。
回復したレーダーによると、残りの六機もまた撤退していったとの事。この要塞を攻略するのはあきらめたのだろう。安堵したバグアの司令官だったが、直後に恐怖に囚われた。
大量のミサイルが、この要塞めがけ飛翔している。ナバロン砲は破壊されてないが、現在作動不能。迎撃に出られるヘルメットワームも無く、砲も無い。くそっ、人間どもが!
数秒後、ナバロン砲へと無数のミサイルが命中。彼はナバロン砲、部下、基地、そして自分自身が、黒木山ごと消滅するのを感じ取った。
「こちら、藤谷真帆。本部応答せよ!」
『こちらUPC本部、状況を説明せよ』
「黒木山にミサイルが着弾、ナバロン砲および要塞基地の破壊を確認! チーム1・2ともに、全員無事です」
『了解。こちらも被害は大きいが、作戦は成功した。AMOはほぼ破壊した。作戦終了、直ちに帰還せよ』
「こちら、藤谷真帆。了解!」
全員が汚れ、疲れきっていた。が、皆は高揚感が己が胸にあるのを禁じえない。巨大な爆発が黒木山を破壊し、悪魔の兵器を葬り去った。この損害は、バグアにとって高くついたはずだ。
人類の未来のため、バグアに対する勝利の大きな足がかりとなった。それを実感できた事に、十名の勇士は誇りを感じていた。
やがて、東の空に夜明けの太陽が顔を見せた。
人類の夜明けも、あのように輝かしきものにならん事を。そう思う一行だった。
十機のナイトフォーゲルが、朝日の祝福を受けつつ飛行し、空の彼方へと消えていった。