タイトル:大地を蹂躙する者:前編マスター:塩田多弾砲

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/06 16:24

●オープニング本文


 大分県。国東半島、鷲巣岳。22:00。
 UPC隊員・上野は、緊張しつつ警戒していた。
 丘陵地帯に展開した98式短距離車対空誘導弾、ないしはその照準器の前。上野は待っていた。撃つべき敵を、バグアのヘルメットワームの姿を。
 ここ数日、周辺区域内にて飛行型ヘルメットワームが目撃されている。前線基地設営のため、資材運搬工作に着任しているらしい。少なくとも目撃証言から、通常のタイプらしい事までは判明している。
 が、上野には懸念があった。

 一週間ほど前。この場所で件のヘルメットワームと交戦した、UPCの一隊。
「メイディ! メイディ! ヘルメットワーム・ビートルタイプと交戦中! 現在敵は、新装備を‥‥」
 ここで通信が途絶えた。この要請を受けて、支援部隊が急行。しかし、時既に遅かった。部隊は壊滅していたのだ。
 が、その現場には妙な部分があった。確かに戦車や装甲車などの戦闘車両は破壊されていたのだが、その痕跡はヘルメットワームのそれとは異なるものだったのだ。
 ビートルタイプの標準装備であるプロトン砲による破壊ではなく、まるで何かにより踏まれたり、ひっくり返されたりしたような、そんな戦闘の跡が認められていた。
 更に気になるのが、破壊された何かのマシン。駆動系や部品などの調査結果、それは地球のテクノロジーを用いたとしか言いようが無いもの。
 歩行タイプなのか? しかし、歩行タイプのヘルメットワームならば、先の部隊はなぜビートルタイプなどと報告したのか。
 その事を気にしつつ、上野は上空を警戒し、待った。ただひたすら待ち続けた。

 不意に、彼は我に帰った。
 疲労で少しだけ、ほんの少しだけうつらうつらしていた。あわてて周囲に視線を送るも、異常はない。レーダーにも、飛行物体は感知されていない。周囲には鷲巣岳の森林が静かに広がるが、何の気配も無い。
 全て問題はない。上野の焦りは、杞憂に終わった。冷や汗をぬぐおうとした、次の瞬間。
 近くに、何かが着弾した。それは近くの投光車輌にぶち当たり、それを破壊したのだ。
 くそっ、この間抜けが! 上野は自分へと悪態をつき、対空ミサイル発射装置の引き金に手をかけた。赤外線暗視装置つきのゴーグル越しに見る照準には、空には撃つべき敵、ヘルメットワームが存在していない事を上野へと伝える。
「飛行物体は見えない! だが、近くにいる!」
「どこだ? 監視カメラでも、空中にはヘルメットワームを確認できなかったぞ!」
 UPCの兵士たちもまた、戸惑いを隠せない様子で怒号を交わしている。
 能力者が操るナイトフォーゲルでもあれば、対抗できるんだが。そうすれば空中のみならず、地上でも‥‥。
 待てよ、地上?
 上野の脳裏に、とんでもない考えが浮かんだ。それと同時に、その考えを肯定し証明するものが、彼の目の前に現れた。
「脚‥‥だと‥‥!?」
 ヘルメットワームは、「空から」くるものだと思っていた。
 が、違っていた。ヘルメットワームは、「歩いていた」のだ。
上野は、ミサイル発射の照準をそれにあわせ、引き金を引いた‥‥。

「上野隊員他数名は、奇跡的に助かった。彼らが持ち帰ったのが、君たちにも見せたこのデータだ」
 ブレた不鮮明な映像に、そこから引き伸ばされた写真。そして、隊員たちの証言。
 ビートルタイプのヘルメットワームは、「歩いて」いた。それはまさに、長く脚を伸ばした虫か蜘蛛のように、大地を踏みしめて歩いていたのだ。そればかりでなく、腕とおぼしきものもあった。
「このデータから判断するに、どうやら小型・中型ヘルメットワームに装着した追加武装と予測される。アームズオプション、略してAMOとでも呼ぶべきものか」
 この件の担当官は、苦々しい思いを滲み出してしまうのを隠しきれない。
「このオプションは既存の機体に装着させる事で、歩行能力、そして作業用・戦闘用の『腕』をも付与されられる装備のようだ」
 写真を大写しにすると、確かに彼の言うとおり。胴体部にヘルメットワームが乗っており、それを数本の脚が支えている。みたところ、まるで蜘蛛か脚の長いカニのよう。
「飛行能力があるかまではわからんが、おそらくはある、と見て間違いなかろう。もっとも、飛行性能は著しく落ちるだろうが。しかし、それは些細な事に過ぎん」
「これを装着する事で、通常タイプのヘルメットワームも、地上を歩いて空中のレーダー網を回避する事ができるわけだ。それだけではない、地上を掃討する歩行戦車としても運用できるし、作業機械としても用いることが出来る。汎用拡張性を持たせた、という点では、かなり厄介な装備と言えよう」
 地上移動する事で、対空レーダーや対空兵器の回避したり、地上兵器にも直接対処が可能になる事を意味する。加え、重機にもなり、わざわざ重機を運ばずとも重作業が可能に。
 ナイトフォーゲルとは異なるが、それと同程度の拡張性と汎用性を、既存のヘルメットワームに持たせられた、といったところ。そしてバグアは、歩行可能になったこれらヘルメットワームAMOを用い、この周辺地域に前線基地を設立しているらしい。
 いざとなれば、AMOをパージし、通常タイプとして運用、そのまま空中へと逃れてしまう。それに地球のテクノロジーで製造されているから、バグアのオーバーテクノロジーが流出することなく、消耗品としても用いる事ができる。
 このままだと、国東半島に彼らの秘密基地が設立され、九州攻略の新たな足がかりにされてしまうのは時間の問題だった。
 担当官は、司令室の壁に地図を映し出した。
「現在、可能な限りの情報から、候補地を選び出した。最も可能性が高いのが、黒木山。諸君らには、この黒木山周辺にて、二班に分かれて行動してもらいたい」
 続けて、作戦指令図が映し出される。
「一斑は、ナイトフォーゲルで地上から、黒木山周辺部を偵察。そこから、ヘルメットワームに発見され、おびき出してもらいたい。おそらく地上の敵ならば、AMOで出撃するだろうからな。そこからあえて攻撃を受け、迎撃されたと思わせるように、KVと逃走するのだ。ここから、二班の出番となる」
「二班・地上部隊の任務は、帰還するヘルメットワームAMOを追跡、建造中の前線基地の正確な場所を突き止める事。もちろん、相手に感づかれてはならない。絶対にだ」
「加え二班は、可能な限り基地の規模と、内部のヘルメットワーム、およびアームズオプションのデータを出来るだけ取り、帰還。そこから、今後の作戦活動に対しての具体案を練る予定だ」
 身を乗り出すようにして、担当官は君たちへと述べた。
「国東半島を制圧された場合、ますますもって我々の不利となる。この基地を発見し、殲滅しないことには、九州の、ひいては日本列島がバグアの手に堕ちるも同然。過酷な任務だろうが、君たちだけが頼りなのだ。任務を受けて、くれるか?」

●参加者一覧

熊谷真帆(ga3826
16歳・♀・FT
セージ(ga3997
25歳・♂・AA
鈴葉・シロウ(ga4772
27歳・♂・BM
ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751
19歳・♂・ER
絶斗(ga9337
25歳・♂・GP
城田二三男(gb0620
21歳・♂・DF
シン・ブラウ・シュッツ(gb2155
23歳・♂・ER
祠堂 晃弥(gb3631
19歳・♂・DG

●リプレイ本文

「現在、警戒空域を飛行中。レーダーには今のところ、反応ありませんです」
 九州、鷲巣岳近辺。
 四羽の鷲が、空を飛んでいた。ナイトフォーゲル、UPCの四羽の鷲が。
 その一機に搭乗しているのは、熊谷真帆(ga3826)。ナイトフォーゲルXF−08D雷電を駆る少女は、機体へと新たに装着した、情報収集用の機器を気にしていた。
 偵察装備は、借り出せた。後に返却する予定だが、それまでに役に立ってくれればいいのだが。
 重装甲の空飛ぶ戦闘マシンは、見るからに分厚い装甲と巨体。
 雷電とともに夜空を飛ぶは、CD−016シュテルンが二機と、XF−08Aミカガミが一機。
 十二の可変翼を備えた、白銀の天使・シュテルン。
 空を切り裂く、バグアを討つ刃の煌き・ミカガミ。
「こちら、祠堂 晃弥(gb3631)。異常なし」
 ミカガミのパイロットから、真帆の雷電へと連絡が入った。
「セージ(ga3997)。同じく異常はねーぜ」
「こちら絶斗(ga9337)。変わりはない」
「了解です。引き続き、偵察任務を続行しますです」
 真帆の返答とともに、雷電は旋回した。
 
 山岳地帯を、徒歩で進む四名の能力者たち。
 太陽が落ちた暗き空が、不安を醸し出している。鈴葉・シロウ(ga4772)は、黒木山の地図を見直し、空を行く仲間たちを見送った。
「敵がどこから出てくるかわからない、困ったもんです」
 手元の電灯で、現在位置を確認した。自分らが現在どこに居るかは分っている。が、彼らは迷っていた。探すべきものが見つからないという意味で、悩み迷っていた。
 シロウの隣で、白き肌の美丈夫、ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)がつぶやいた。
「基地があるだろうと思われる地点は、UPCの偵察部隊が予想してはいる。が‥‥」
 その予想は、今のところ当たっていない。様々な戦いを潜り抜けてきたユーリではあったが、それでも不安を感じずにはいられなかった。全快していない己の身体、負傷の痛みが、その不安を後押しする。
「‥‥少し、休むといい。気を張り詰めてい続けたら、身体に悪い‥‥」
 そんな彼をフォローせんと、城田二三男(gb0620)は周囲の警戒を緩めずに声をかけた。
 そうだ、今回ユーリは本調子ではない。お互いに助け合わないことには、ヘルメットワームのAMOを殲滅させる事など、不可能だろう。
「そうですね、一休みしましょう」番天印、SES内臓の銃を手にしたシン・ブラウ・シュッツ(gb2155)もまた、城田に賛同した。
 しかし、この一休みが終わったその時。重要にして重大な、戦いの局面が訪れる。何の気なしに、皆の心の中にはそのような予想めいた確信があった。
 木の陰や、岩の脇など。目立たぬ場所をめいめいで選び、彼らは休息をとり始める。
 わずかな休息。しかし、ユーリにとっては重要な休息。
 仲間たちは、大丈夫なのだろうか。この作戦は、成功するのだろうか。
 夜空の闇のように、不安が溜まっていく。それを払おうと努力したが、ユーリからそれは離れようとしなかった。

「レーダーに反応! やっこさん、見つけたぜ!」
 セージの声が通信機を通じ、真帆の耳に届いた。
 同時に、対空砲による迎撃。旋回してそれを回避した各機は、同じく戦闘態勢をとった。
「対空砲? どこから?」
「あそこからだ!」
 祠堂が指摘した、黒木山の尾根。そこには、偽装された対空砲が鎮座。その周囲には、数機のヘルメットワームAMO‥‥彼らが追い求めていたもの存在し、稼動していた。見たところ、六〜七機ほどか。
「ちっ、これは‥‥なんと言うか‥‥まるで、クモとカニの合成だな‥‥」
 セージはつぶやいたが、内心では自分の言葉を否定していた。確かにヘルメットワームを胴体に頂き、数本の長い脚で胴を支えつつ歩く姿は、カニやクモ、もしくは昆虫めいていた。だが、その外見がキリンや駝鳥や恐竜、竹馬を履いた人間よりか、いくらかクモやカニに似ているというだけにすぎない。見ようによっては、足を長く伸ばしたタコやイカにも見える。
 少なくとも、目前のそれは六本の脚で身体を支え、二本の腕を有している。腕の先には、マニピュレーターが作業用のオプションを取り付け、今まさに作業の真っ最中。新たな対空砲を設置し、偽装するという作業にかかずらっていたのだ。
 だが、四体のナイトフォーゲルは着地し、地上戦闘へと移行した。対空砲が設置されているなら、地上で戦わない事には不利。それに、地上での接近戦で、敵の能力を見極める事が出来るかもしれない。
「見つけたぞ‥‥勝負だ‥‥!」
 敵の力は未だ未知数。しかし、絶望を超えた闘志の輝きが、絶斗の瞳にきらめく。彼は愛機シュテルンを、一番手近な機体へと向かわせた。
 そいつの武装は、偶然にも絶斗のシュテルンと同様、爪状の武器。切断にも、突貫にも用いるのみならず、折りたたむと殴打にも用いる事ができる。
 そいつの爪は、赤かった。勝手に「赤爪」と名づけた絶斗は、シュテルンのプレスティシモで殴りつけた。が、「赤爪」が殴りかかるのも、また同時。
 シュテルンの爪と、「赤爪」の爪とが、同時に互いの胴体を傷つける。ガリガリという金属同士がこすれあう音が、互いのボディに傷を付け合った。
 他のヘルメットワームもまた、真帆、祠堂、ユージのナイトフォーゲルへと攻撃をしかけんとアクションを起こした。こちらの武器は、マニピュレーターに仕込まれた銃に、重作業用のアーム。そして胴体部は、青色に塗装されている。
 だが、さすがに戦闘用装備でないためか。それの動きはどこかぎこちなさを感じる。
 そして、戦いの中。四機を残し、残りが退却し始めた。
「!? これは、チャンスかもしれませんです」
 真帆がひらめいた。彼女のKV・雷電は、AMOからの攻撃を受けている。分厚い装甲が、敵からの銃撃を受け止め弾く。が、それでもやはり、直撃を食らい続けたくはない。早く連絡をしないと。
「こちら熊谷真帆、聞こえますですか?」
 地上班への連絡投げる。それは、彼女とともに戦う仲間たちへの作戦開始ののろしも同様。
 あえて逃げる、あるいは逃がす事もなく、手加減せずに戦えるというコト。もっとも、戦いそのものを生き残れる補償はどこにもないわけだが。
「現在、敵ヘルメットワーム部隊を発見、交戦中。一機逃げます。それを追跡してください。その先に、基地への入り口があるはずです」
『‥‥こちら、鈴葉。了解! 追跡します‥‥』
 連絡が交わされ、真帆は少々安堵した。「少々」であり、本当はろくすっぽ安心は出来ない状態ではあったが。
「それでも」と、真帆は思った。「それでも、安心して暮らせる未来のために! 明日のために!」
 がんばってくださいです、みなさん! 最後に、心の中で付け加えると、彼女は目前の敵に、ヘルメットアームAMOへと向かっていった。

 胴体部が青色の機体は、ひとつは腕部分が球状のハンマーになっている。別の一体は、ドリルとウインチ状のアーム。そして、回転ノコ。
「ドリル」がセージへ、そして「回転ノコ」と「ハンマー」が真帆へと迫っている。祠堂は後方で、いつでも支援、そして撤退できるようにと、あたりに注意していた。今回の任務は、あくまで「調査」。囮になってできるだけ時間を稼がないと。
 セージのシュテルン、ないしはストライクシールドが、ドリルを受け止める。「ドリル」の回転する螺旋は、そのまま相手を貫かんとするが、堅牢なる盾がそれを受け止め、受け流した。
「そら、お返しだ!」
 ヒートディフェンダーで、あえて装甲が厚そうな場所を狙うが、やはりそれほど堪えてはいない。
「ちっ、全く効いてちゃいねぇ‥‥こりゃ手加減する必要なかったか?」
 同じく、「回転ノコ」と「ハンマー」が、真帆の雷電へと打ちかかった。回避は容易なれど、真帆はあえてその攻撃を受け止めた。が、雷電の重装甲の前には、ハンマーは弾かれ、回転ノコギリの刃は歯が立たず、ついには折れてしまった。
「‥‥どうやら、装備自体はそれほど堅牢で強力とは言えなさそうです」
 しかし、真帆とセージはともかく、絶斗のシュテルンへと向かった機体は、そうでもなかった。
 絶斗はシュテルンを巧みに操り、冷静に、かつ正確に、相手へと攻撃する。が、「赤爪」もまた負けてはいない。そいつのフットワークもまた素早く、また同時に予想外の動きをするもの。おそらく、「赤爪」が一対の腕と脚を持っていれば、戦闘力はほぼ互角。
 が、そいつの脚は六。しかも、予想外の動きをするもの。
「!」更に殴りかかったシュテルンの一撃を、脚を畳んで下方へとしゃがんでかわした「赤爪」は、そのまま脚を伸ばし、空中へと跳躍した。
「くっ、逃がすか!」
 落ちてきたところを、ガドリングナックルでぶち抜く。そう考えていたところだが。
 そいつは、落ちなかった。落ちたのは、否、落としたのはヘルメットアームの、AMO部分のみ。そしてそれは、抱えこむようにしてシュテルンを包み、動かなくさせようとした。
「こういう使い方もあるとはっ‥‥だが!」
 だが、カブトガニなど強力な装甲を有する生物は、腹の部分は弱いもの。それを証明せんと、絶斗はシュテルン、ないしはその武装を作動させた。
「ガドリングナックル! 食らえ!」
 食らわせた。そしてそれは、一撃でAMOの中心部をぶち抜き、破壊した。
 そう、破壊はした。が、本体は既に逃走していたのだ。破壊したのは、脱ぎ捨てた殻、トカゲの尻尾。捨て去っても構わない部分。
 ここで「逃がすか!」と、普通ならば追跡するところだったが。「赤爪」の本体ヘルメットワームは、そのまま逃走してしまった。
「お、真下ってさり気無く死角か?」
 抜け目無く、セージが敵の特徴を捉える。下方からのゼロ距離攻撃が、どうやら弱点になりそうだと彼は発見したのだ。
「セージさん、弱点を発見したみたいなのですね‥‥きゃあっ!」
 真帆が最後に、悲鳴を上げた。二体がかりで雷電にのしかかられ、押し倒されたのだ。
 KVの頭部へ、「ハンマー」と「回転ノコ」の武装が迫りつつあった。

 シロウ、ユーリ、シン、城田。
 四人は、先刻に最初に逃げたヘルメットワームを追い、そしてそいつが帰還した洞窟を発見していた。
 歩哨は立っていたが、申し訳程度にしか立っていない。当然だろう。ここまで人間が来て、攻撃しようなどとは考えていないだろうから。
 人間をなめきったバグアの所業に、城田は怒りを感じていた。
「‥‥無理はするなよ‥‥こちらもなるべくフォローはするが、な‥‥」
 ユーリの体調に気を使いつつ、城田は周囲へと目を配るのを怠らない。
「ああ、すまない‥‥くっ」
 痛むのか、ユーリは時々顔をしかめている。
「それにしても‥‥」と、シロウは発見した基地を見てつぶやいた。
 そこは、基本的に洞窟だが、入り口をより大きく、そして深く掘り下げたような場所。その周辺には、更に十機程度のヘルメットワームAMOが待機し、そのうちの二〜三機が作業を行っている。
 よく見たら、洞窟入り口の両脇には、監視塔が立てられていたのだ。動いているAMOは、それらを整備か、あるいは建て直しているのか。監視塔には、銃が取り付けられていた。
 内部に入り込むのは、今の情報だけでは足りなさ過ぎるし、時間も、そして人数も少なすぎる。他に入り口があれば、そこから入り込めもするだろうが、調べる時間があるのだろうか。何より、ユーリは本調子ではない。
「無理して、潜入すべきでしょうか。それとも、場所の確認ができただけでもよしとして、このまま一度撤退するべきでしょうか‥‥」
 シロウがそれを口にした、その時。
「鈴葉くん、あれを!」
 シンが、あるものを指差した。
「山‥‥? まさか、山が!? これはッ!」
 それを見たシロウは戦慄し、ユーリは驚愕し、城田は唖然とした。
「‥‥報告書で、目にした事がある。あれは確か‥‥」
 唖然とした城田は、それを口にした。
 トカラ列島・諏訪之瀬島に、バグアが設置したという報告があった、悪魔の兵器。
「城田君も、知ってるんですね」と、シン。
「ああ、あれはまさしく『ナバロン砲』だ!」

「その程度! 効きませんです!」
 雷電のパワーを全開にして、ヘルメットアームAMOを振りほどく真帆。しかし、既にヘルメットワーム本体は分離し、空中に逃れて帰還していた。
「ふう‥‥どうやら、当初の目的は果たせたみたいですね」
 逃げ戻るヘルメットワームを見つつ、真帆はため息をついた。
「先刻に、城田たちからも連絡が入った。基地を発見した、ってな。まだ中までは入っちゃいないようだが」セージが、真帆へと知らせる。
「‥‥で、俺たちは帰還するのか?」と、絶斗。
「そうね、けどその前に、このAMOの残骸を少し拾っていきましょうです。何かの手がかりになるかもしれません」
 真帆が拾い始めたのを見て、祠堂もそれにならった。ならいつつ、頭の中でこの敵についてをまとめてみる。

:「クモやカニのような姿」
:「六本脚は歩行、二本の脚はつかみ腕」
:「ジャンプ力は優れている」
:「装甲が厚い部分があるが、決して倒せないわけではない」
:「真下部分が死角で、その地点から攻撃すると歩兵でも倒せる」
:「しかし、すぐに本体が分離してしまう」

「‥‥と、こんな感じか」
 しかし、祠堂は先刻から奇妙な胸騒ぎを感じていた。嫌な予感を、強く感じていたのだ。
『‥‥皆さん! すぐに逃げて!』
 その予感が、的中した。再び城田たちからの、それも切迫した口調での連絡が入ってきたのだ。
 そして、数秒後。
 真帆たちがいたその場所には、巨大なエネルギー砲が打ち込まれていた。

「で? 彼らは無事だったのか?」
 UPCのこの事件に関する担当官が、副官へと心配そうに問う。
「はい。あと数分、いや、数秒遅ければ、KVに搭乗していた四名はナバロン砲の直撃を受けていた事でしょう。警告を受けて、すぐに変形し空へと逃れたため、難を逃れられたのですが」
 今は全員無事に、司令基地へと帰還し、手当てを受けているという。
 UPCは基地を発見した城田たちからの報告で、黒木山の山頂部に、巨大な砲が隠されていたのを知ったの。
「ナバロン砲」という、巨大砲を。それを設置し砲撃する事で、国東半島の勢力圏を拡大する。それが、彼らの目的だったに相違あるまい。
「‥‥これは、早急に基地とナバロン砲の攻略が必要だな。すぐに攻略のための作戦を立案するんだ! そして、基地へと偵察部隊を送り、詳細な情報をもってこい!」
 既に、バグアが一歩リードしていた。これを覆せなければ、九州に展開している我々は、負ける。
 今回活躍してくれた彼らには、すぐにまた、戦いに赴いてもらわねば。担当官は苦々しく、そう思った。