●リプレイ本文
「おー、長靴猫が変身した。立派な化け猫になったなー‥‥」
相変わらず勘違いをしているユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)が化け猫になったケットシーを見て感心する。
「男子三日会わずば何とやら、と言うけど‥ぷにった時と見た目が随分変わったね、ケットシー」
本気かボケているのか分からない発言をする弓亜 石榴(
ga0468)。
「ケットシー‥あなたに一つだけ言っておきたい‥」
宗太郎=シルエイト(
ga4261)が俯き震えながら絞り出すように言葉を紡ぐ。
「何故‥ああ何故! そのようなガチムチに変身してしまうのですか! 私だって可愛いあなたをモフりたかったのにっ!」
滂沱の涙を流さんばかりの絶望に打ちひしがれながら覚醒。
「まぁ、腕は立つ相手だ、武人としちゃあ本望‥‥けど、あぁ‥モフモフ‥‥」
まだ未練を残した様子でランス「エクスプロード」を構えた。
「お前達‥‥我のこの姿を見て言う事がそれだけか?」
そんな3人の様子にケットシーも何やら呆れ顔である。
(‥‥今回こそシリアス、なのかな‥?)
九条院つばめ(
ga6530)も心の中でそんな疑問を抱き、苦笑した。
「ともかく、兵糧攻めとは‥地味ながら的確な攻撃ですね。これ以上兵士さんたちが飢えないように、この囮作戦でケリをつけないと‥‥」
でもすぐに気持ちを切り替え、ミリハナク(
gc4008)とリズィー・ヴェクサー(
gc6599)と共にフンババに向かって駆け出した。
(やけにあっさり引っ掛かるな‥‥こいつら、捨て駒か? ま、囮としちゃ助かるが)
グロウランス(
gb6145)はケットシーがこちらの目論見通りに出てきた事に疑念を抱いたが、今は月城 紗夜(
gb6417)とユーリと共にサンダーバード(雷鳥)の対応に向かう。
「我の相手は2人だけか‥舐められたものだな」
「ねぇねぇ、キミは闘技場の王者で、ドラゴンとも正々堂々戦って勝ったんだよね。なら敵討ちも相手が準備を整えてから戦うのが王者の誇りだと思うんだ」
「お前達は既に準備万端であろう。行くぞ!」
今日のケットシーは石榴と長話をするつもりはないらしく、背中の毛を逆立てて戦闘体勢をとった。
「じゃあこれだけは約束して、私達が勝ったら二匹とも仲間になってよ」
石榴は慌てて小銃「S−01」を構えて言ったがケットシーは答えず地面を蹴って跳躍。
眼で追った先でも木を蹴って更に跳躍。2人の周囲で木や土を蹴る音が鳴り響き、不意に音が止む。
「ど、どこ?」
あまりに速くて見失った石榴が周囲を見渡すがケットシーの姿はない。
「上だ!」
「え?」
宗太郎の警告で上を向くと、
――バチィィン
ケットシーの体重の乗った肉球が石榴の顔面にぶち当たり、そのまま頭を地面に叩きつけられた。
「ぎゃふっ!」
更に
猫パンチ!猫パンチ!猫パンチ!
仰向けに倒れた石榴の顔面を肉球で何度も殴打。
「きュぅ〜〜‥‥」
石榴は頭を完全に地面にめり込ませたまま目を回して気絶した。
「これでプニられた恨みは果たした。次はクシィー様の分だ」
「仇が討ちたきゃ、まず俺から踏み潰してみろ。簡単にはいかねぇぞ」
「地の利は我にある。森で我と1隊1で勝てる者などおらぬ!」
ケットシーはまた跳躍し、木を蹴る三段跳びで宗太郎の背後から迫る。
「速いっ!」
宗太郎は振り向き様に槍で受けようとしたが間に合わず、ケットシーの爪が防具と防具の隙間を正確に引き裂く。
「チィッ!」
すぐに頭を狙って反撃したが、ケットシーは身を低くして避け、後ろに飛び退る。
だが宗太郎は『瞬天速』で間合いを詰めるとケットシーの胸を斬り裂いた。
「俺も力だけじゃねぇんだわ。侮ってくれるなよ!」
ケットシーは胸から血を流しながらも地を蹴り、今度は宗太郎の斜め後ろから迫る。
宗太郎は旋回しながら槍を振るって迎撃。
だがケットシーは槍の間合いの外で急停止して旋回、尻尾を鞭の様に振るって足を払った。
そして浮いた体に飛びかかると首筋に噛み付き、そのまま地面を転がって仰向けになると猫キックで宗太郎を上空に蹴り上げる。
「空では身動きとれまい!」
ケットシーは木を蹴って跳ぶと落下中の宗太郎を爪で切り刻み、最後は全体重をかけて地面に叩きつけた。
「グハッ!」
衝撃で肋骨がへし折れ、口から血が溢れる。
だが、それでも宗太郎は槍で体を支えて立ち上がった。
「ほぅ‥まだ立つか」
「あぁ‥まだ取って置きの技が残ってるからな‥‥行くぜ!」
宗太郎は不敵に笑うと『瞬天速』で踏み込み、槍を突き出す。
槍先は避けようとしたケットシーの肩口を裂き、そのまま体も斬り裂きながら後ろに抜けた。
(かすっただけか)
本来なら体に突き立った槍を『剣劇』と『両断剣・絶』で更に深く突き入れる予定だった宗太郎はすぐに槍を引き戻して再び突いた。
しかし今度は完全に避けられ、下から振り上げられた爪が宗太郎を引き裂く。
「貴様の敗因は素早く動ける事を先に見せた事だ」
ケットシーのセリフを耳に宗太郎の意識は途絶えた。
「ふふふ、楽しい楽しい戦争の時間ですわ。強敵への対峙というのは心躍りますわね」
ワクワクした様子のミリハナクが予めピンを抜いておいた閃光手榴弾を手にフンババに向かって駆ける。
だが、
『雷鳥が狙ってる、避けろ!』
無線機から紗夜の声が響いた直後に雷鳴が轟き、ミリハナクとつばめの背中に電撃が直撃。2人とも感電によって体が麻痺する。
更にフンババの単眼に睨みつけられたミリハナクは体が硬直して動かなくなった。
(動けない? でも石にはなってないですわ)
石化と言っても体が石の様に動かなくなるだけの暗示か呪いの類の様だ。
フンババは動けないミリハナクを蹴り上げて浮かすと渾身の力で殴りつけて吹っ飛ばす。
ミリハナクは受身も取れず地面に叩きつけられ、手から零れた閃光手榴弾が地面で弾ける。
「ミリハナクさん!」
つばめは『ソニックブーム』で眼を狙ったが腕で防がれ、逆に炎を浴びせかけられた。
麻痺状態で動きの鈍いつばめは避けられず、全身が炎に包まれる。
「くっ!」
つばめは地面を転がって炎から逃れつつ体の炎も揉み消す。
「ミリィ、今治すのね」
つばめがフンババを引き付けている隙にリズィーが駆け寄って『練成治療』を施した。
(ふふふっ‥これ程の痛みを感じたのは久しぶりですわ。やはり戦争はこうでなくてはいけませんわね)
声の出せないミリハナクは内心でほくそ笑むと自身に『キュア』を施し始める。
一方、まだ体が痺れているつばめはフンババの攻撃を隼風や防具の厚い部分で受けて耐えていた。
しかし怪力から繰り出される攻撃はかすっただけでも皮膚が裂け、槍で受けても腕どころか全身に衝撃が響いて骨が軋み、致命傷を受けなくても体にダメージが蓄積してくる。
(これ以上はもたない‥‥)
そして遂に耐え切れず片膝をつくと、フンババの拳を腹に喰らって吹き飛ばされた。
「あぅっ!」
しかしつばめは地面に叩きつけられる事はなく止まり、体の痺れまで抜けてくる。
「待たせしまいましたわね」
「え?」
後ろを見ると、ミルハナクが自分を抱きとめ、『キュア』を施していた。
更にリズィーも駆けつけ『練成治療』で傷を治してくれると、瀕死だった体にみるみる力が漲ってくる。
「さ、反撃開始ですわ」
「はい!」
だが、体勢を整えた2人をフンババが石化の視線を向ける。
「させないのだーっ!」
しかしリズィーが2人の前に出てフンババと目を合わせた。
「石化されるのは‥力の弱い私でいい、のね」
石化したリズィーがコテンと地面に横たわる。
「ヴェクサーさん‥‥」
「リズィー、アナタの死は無駄にはしませんわ!」
(まだ生きてるのー!!)
リズィーは抗議したが、心の声はもちろん届かない。
フンババは向かってくる2人に炎を吐くが、ミリハナクが『ソニックブーム』で対抗して突っ切る。
「竜の吐息に比べれば温いですわね」
つばめは後ろに回り込んで尾の蛇を切断すると『豪力発現』で筋力UP。
「さて、少し大人しくしていてもらいますよ‥‥!」
すくい上げるように槍を振るって『天地撃』をフンババの股間に叩きつけた。
すると信じられない事に、つばめの細腕から繰り出された一撃でフンババの巨体が宙を舞った。
ミリハナクは炎斧「インフェルノ」大きく振りかぶり、浮いたフンババを追って跳躍。
「これでトドメですわ!」
『両断剣・絶』でフンババの頭部から股間までを一刀両断した。
雷鳥を追っていた3人は射程に捉える前に深い木々で姿を見失ってしまう。
「どこだ‥どこから仕掛けてくる‥‥」
「遮蔽物が多いと当て辛いのは、敵も同じだとは思うが――」
3人で死角を補い合い全周囲に気を配っていると
「いたぞ!」
グロウランスがフンババと戦闘中の3人を狙う雷鳥を発見する。
「しまった!」
「雷鳥が狙ってる、避けろ!」
グロウランスが避雷針代わりに刀を空に投擲し、紗夜が無線機で警告を発したが雷鳥から放たれた電撃はミリハナクとつばめを直撃。
「くそっ! お前の相手は俺達だ!」
ユーリは雷鳥をSMGの射程に捉えると『制圧射撃』を行ったが、身を翻して避けられた。
「落ちろ!」
紗夜は『竜の瞳』と『竜の爪』を発動して小銃「FEA−R7」で翼を狙い撃ったが避けられ、電撃で反撃される。
「くっ!」
「紗夜!」
避けられず感電した紗夜にユーリがすぐ『キュア』と『練成治療』を施す。
「すまん、ヴェルトライゼン」
2人は再び見失った霊長を警戒し、雷鳥が見えた瞬間に再びスキルを使って射撃を試みたが、やはり避けられ反撃を受ける。
だがその直後、
「かかったな!」
木に登って身を潜めていたグロウランスが雷鳥に向かって跳躍、その背に大鎌「紫苑」を突き刺した。
「クアァーーー!」
雷鳥は絶叫を上げると全身から強烈な紫電で発し、グロウランスも電撃に包まれる。
「ぐおぉぉーー!!」
水属性のコートを着ているグロウランスにはその威力は絶大で、事前に『虚闇黒衣』を使っていなければ絶命していただろう。
グロウランスは皮膚が焼ける程の電撃の中、左右の翼に『ソニックブーム』を放って切断。雷鳥と共に地面に落下する。
落ちた雷鳥にすかさず紗夜が駆け寄り、蛍火で首を跳ねてトドメを刺す。
事が終わるとユーリはグロウランスの治療に向かおうとしたが、ふと後ろに何かの気配を感じて振り返る。
「なんだ?」
すると眼前に黒い肉球が見え、
猫パンチ!猫パンチ!猫パンチ!
ケットシーのパンチで地面に叩きつけられた後、何度も後頭部を殴打されたユーリは顔面を地面にめり込ませて気絶した。
「これで3匹目‥次はお前達の番だ」
「俺は猫好きなんだがな‥‥。いつか猫と会話できたら、なんて願いがこんな形で叶うとは、皮肉だな。だが、出会った以上殺しあうしかないか‥‥。共に生きる道も欲しかったが、な」
グロウランスは苦笑を浮かべると焼け焦げた体に鞭打って立ち上がった。
「猫、A・Jはこの近くにいるのか? 言えば情報交換として、クシィーの最後を語っても構わんが」
「A・J・ロ・ユェラ様は今エクアドルの首都キトにおられる」
「‥‥そうか」
ケットシーがあっさり答えた事を逆に怪しみながらも紗夜は闘技場での顛末を聞かせてやり
「‥とりあえず、猫の事は何も言っていなかったな」
最後にそう締めくくった。
「では貴様も仇の1人という事だな。ならばまず貴様を血祭りにあげてやる!」
喜び勇んだケットシーは跳躍し、木を蹴る三角跳びで紗夜の頭上から襲いかかる。
振り降ろされた爪がAU−KVの胸部装甲ごと肉体を貫き、太股まで一気に引き裂いた。
「チィ!」
傷を負いながらも紗夜は刀を一閃させたが、ケットシーは後ろに跳びすさる。
だがグロウランスが着地地点に向けて『ソニックブーム』を放ち、ケットシーの後ろ足に傷を負わせた。
紗夜はケットシーの体勢が崩れた隙に『竜の瞳』を発動させつつ間合いを詰め、逆袈裟に斬り上げる。
刃はケットシーの額を斜めに裂いたが、ケットシーも爪を繰り出して紗夜の腹部を裂く。
紗夜は更に袈裟斬りに振り降ろしたが爪で弾かれた。
「死ね!」
「させません!」
トドメを刺そうとしたケットシーだが、駆けつけたつばめが『ソニックブーム』を放って背中を斬り裂いた。
そのため首を刈ろうとしていた爪は反れ、肩に刺さって大きく引き裂く。
筋を切られたのか左腕が動かなくなったが紗夜は構わず踏み込み、袈裟斬りで右前足を裂き、逆袈裟で左前足を裂き、真一文字に胸を断つ。
「おのれぇー!」
吼えたケットシーが紗夜に飛びかかって強引に押し倒す。
「貴様だけはっ!」
ケットシーは牙を剥いて咽を喰い破ろうとしたが、紗夜は腕で牙を受け止めた。
牙がギリギリと腕部装甲に食い込み、筋肉が圧迫され、骨が軋む。
ケットシーは腕に牙を立てたまま咽を引き裂こうと爪を振り上げる。
「破っ!」
だが、つばめが槍の石突でケットシーの眉間を殴打。
牙の力が緩んだ瞬間に紗夜は無理矢理腕を引き抜いて脱出する。
ケットシーは紗夜を追おうとしたがグロウランスが大鎌で胴を斬り裂き、傷口から大量の血が噴き出して膝が地につく。
「ここまで‥か。口惜しや‥‥」
悔しげに呻くケットシーの体が徐々に縮んで元の1.5mサイズに戻る。
頭の王冠は割れて地面に落ち、赤いマントはボロボロで、毛皮は血で汚れていた。
「クシィー様‥‥どうやら我輩もここまでみたいですニャ‥‥。かくなるうえはこの爪で腹を掻っ捌いてお側に参りますニャ〜‥‥」
「いや待て! 早まるな!」
出来れば捕獲したいと思っていたグロウランスが慌てて制止した時、存在すら忘れかけられていたアルパカが目にも止まらぬ超スピードでケットシーの後ろに忽然と現れた。
そしてケットシーの襟首を咥えて持ち上げると猛スピードで走り出す。
「待て!」
紗夜はアルパカを追って駆けながら超機械「ザフィエル」を構えた。
さすがにケットシーを咥えた状態では先程の超スピードは出せないらしく、『竜の息』を使って放たれた電磁波はアルパカを直撃。その白い体毛が燃え、焼け焦げた皮膚から血が流れ出す。
だがアルパカは構わず走り続ける。
「フランシスカ11世!! 走る事しか能のニャいお前がそんな傷で走り続けたら死んじゃうニャ! 我輩の事は置いて行けニャ!」
「‥‥」
「A・J・ロ・ユェラ様から我輩を救う命令を受けている? そんなの知らないニャ! いいから我輩は放っておくニャ! お前ホントに死んじゃうニャー!!」
それでもアルパカは構わず走り続け、やがて傭兵達の視界から消えたのだった。
一方、輸送隊を襲っていた狼と鼠もミリハナクとリズィーの手を借りて掃討し終わっていた。
食料は少し鼠に食べられてしまったが、前線の兵士達の腹を満たすのに十分な量は残っていた。
その後の捜索でアルパカは死体で発見されたが、ケットシーは見つけられなかった。