タイトル:聖夜にあっち向いてホイマスター:真太郎

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/01/03 19:32

●オープニング本文


 12月25日
 この日はクリスマス。
 大切な人や恋人、家族と過ごす日。
 または気のあった仲間や友人達と楽しく過ごす日である。
 それは太平洋上を航行しているラスト・ホープでも同じであった。

 そしてラスト・ホープのとある会館の一室では傭兵達を集めてのクリスマスパーティが開かれていた。
 パーティーは基本的には立食のバイキング形式らしく、壁際には和洋中欧印と様々な国の料理が並んでいる。
 室内の一角では洋酒、日本酒、カクテル、ソフトドリンク等々、様々な飲み物も用意されていた。

 そして会場入りした参加者達が飲み物を片手に歓談をしていると、会場の正面に用意されていたステージに照明が灯り、ミニスカサンタのコスチュームを身につけたリサ・クラウドマン(gz0084)がステージに上がった。
 リサはこのおへそ丸だしで下着が見えそうなぐらい短いスカートのサンタコスで人前に出るのはとてつもなく恥ずかしかったのだが、パーティーの主催者からこの衣装で司会役をする様に命じれてしまったため、自分の今の格好は脳裏から強引に消去し、羞恥心を無理矢理押し殺し、壇上でどうにか笑顔を浮かべてマイクを握る。
『皆さん、本日はこのクリスマスパーティーに参加して下さってありがとうございます。それではこれから、このパーティーのメインイベントである 【プレゼント争奪あっち向いてホイッ!大会】 を開始いたしまーす♪』
 リサの宣言で周囲から歓声が巻き起こる。
『大会の司会はわたくし、リサ・クラウドマンが務めさせていただきますので、皆さん、どうぞよろしくお願いします』
 そしてペコリと頭を下げるリサに拍手が送られた。
『それでは今からルールを説明させていただきます。と言っても、皆さん「あっち向いてホイ」のルールぐらいは知っていますよね。なのでそこは省略させていただきます。もし知らない人がいたら周りの人が親切に教えてあげて下さいね。大会はトーナメント方式の勝ち抜き戦です。勝負は1回のみ。負ければ即座に敗者確定です。そして最後まで勝ち残った優勝者には大会参加者全員が持ち寄ったクリスマスプレゼントを総取りできる権利が与えられます。豪華なプレゼント‥‥かどうかは持ち寄った皆さん次第なのですが、この聖夜に『くず鉄』や『ねおちシール』などといったプレゼントを持ってくるようなな罰当たりな人はいないと私は信じていますので、この豪華なプレゼントは全て優勝者一人のものとなりまーす♪』
 歓声や雄叫びが上がり、場が盛り上がってくる。
『それでは今から運命のトーナメント抽選を行います。参加者は順にクジを引いて、その番号を教えて下さい』
 参加者達は一列に並ぶとリサの持っている箱からクジを引いてゆく。
 その結果に悲喜こもごもな声が上がりつつ、トーナメント表は完成したのだった。

●参加者一覧

/ 石動 小夜子(ga0121) / 弓亜 石榴(ga0468) / 新条 拓那(ga1294) / UNKNOWN(ga4276) / ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751) / リヴァル・クロウ(gb2337) / 崔 美鈴(gb3983) / ソウマ(gc0505

●リプレイ本文

●1回戦・第一試合 リヴァル・クロウ VS 崔 美鈴

『それではさっそく1回戦第一試合を始めさせていただきます。両選手ステージへどうぞ』
 ステージの脇の解説席でマイクを握るリサ・クラウドマンに促されてリヴァルと美鈴がステージに上がる。
「せっかくの大会だもん、絶対全部もらって帰る!! 彼と私の幸せな未来のために♪」
 もしかしたら、ものすごいプレゼントを持ってくる人がいるかもしれないと思って参加した美鈴がガッツポーズを作った。
 美鈴はレアな物が手に入ったら彼氏へのプレゼントに流用するつもりだが、その彼氏というのは美鈴一方的に想っているだけの脳内彼氏である。
 果たしてプレゼントを贈っても受け取って貰えるかどうか‥‥。
 それは神のみぞ知るといったところだろう。
「まぁ、偶にはプレゼントをもらう側になるのも良いだろう」
 一方、リヴァルは重傷で入院をしていた病院のベットから抜け出してまで参加したわりには覇気がない。
 なぜなら彼の目的は大会の優勝ではなく、クリスマスを恋人のリサと過ごす事にあったからだ。
 だからといって勝負の世界で手を抜く気はないが、リサのサンタコス姿を目の当りにしたリヴァルの心は既に十分満たされていた。
『それでは、両者ともプレゼントを出してください』
「私はコレ、門松ブラスター」
 美鈴がドカンと門松ブラスターをテーブルに置く。
「クリスマスが過ぎたらお正月☆ 私、彼が日本人だから勉強したの♪ 日本のお正月は門松でお祝い‥‥だから、きっとこれで祝砲を上げるんだよね☆」
 そして思いっきり間違って覚えている日本の文化を笑顔で述べてくれた。
「その通りです。だから日本のお正月では航空機は誤って撃墜されない様に飛ぶ事を制限されています。それに野鳥が流れ弾に当たって落ちてくる事があるんです。その鳥を焼いて食べるとその1年は無病息災で過ごせると昔から信じられていますよ」
「そうなの? 教えてくれてありがとー♪ じゃあ、もし鳥が落ちてきたら彼と一緒に食べるね☆」
 ソウマが嘘八百を並べ立て、美鈴に更に間違った知識を植えつけた。
「ソウマ氏。嘘は‥」
「ところでクロウさんのプレゼントは何ですか? まさか持ってきていない‥なんてないですよね」
 嘘を指摘しようとしたリヴァルの口を封じるため、ソウマが問いかける。
「ん‥俺からはアウトドア食器セットを提供させていただく」
 そうしてリヴァルも誤魔化された。

 その頃、石榴はこっそり解説席に近づき
「リサさんリサさん」
 リサのスカートをちょいちょいと引っ張った。
「何ですか石榴さん?」
「リサさんも司会者とはいえ大会参加者だから、やっぱり何か賭けるモノが無くちゃいけないと思うんだ。だからリヴァルさんが負けたらこのサンタ服を着ようね♪」
 石榴が取り出したのは今リサが着ている物よりも上着の丈が遥かに短いサンタコスだった。
「い、嫌ですよ! 今でも十分恥ずかしいのに、そんな更に恥ずかしい格好ができる訳がないじゃないですかっ!!」
「え〜でも心優しいリサさんが今着てくれなかったら、私はリサさんの超ミニスカサンタ姿がどんなに可愛いかをそこら中に喧伝して回るし!」
 石榴がわざとらしく瞳を潤ませながら懇願してくる。
(ぅ‥‥)
 リアは言葉に詰った。
 石榴はやると言ったら本当にやる人なのだ。
「ぅ〜‥‥。じゃあ‥そのサンタコスは無理ですけど、今度また別の衣装を着るというのでどうですか?」
 それも本当は嫌なのだがリサはそれで妥協した。
「う〜ん‥‥。他ならぬリサさんの頼みだし、じゃあ後日にえろえろ衣装を着てもらうって事にしとくね」
「えろえろとは言ってないですよっ!」
 と言っても石榴は聞き入れてくれないだろう。
(あ〜あ、嫌な約束しちゃったなぁ〜‥‥)
 リサは心の中でガックリとうな垂れたのだった。

 石榴とそんなやり取りをしたリサだが
『では、そろそろ試合を始めたいと思います』
 マイクを手に解説する時には動揺は見られない。その辺りは流石にプロである。
『1回戦第一試合‥開始!』
 リサの合図でリヴァルと美鈴が構える。
 そして
「「ジャンケンホイ!」」
 出された初手は両者ともグー。
「「あいこでしょ!」」
 素早く切り返された手はリヴァルがチョキ、美鈴がグー。
 思わず美鈴の顔に微笑が浮かぶ。
「あっち向いてホイッ」
 美鈴の指が右を指す。
 だが、リヴァルの顔は左だ。
「ふっ‥」
 今度はリヴァルの顔に微笑が浮かぶ。
「ふん。すぐに決着がついたら面白くないもんね」
 仕切りなおされたジャンケンはリヴァルがチョキ、美鈴がパー。
 美鈴が下を指し、リヴァルが左を向く。
 更なるジャンケンはグーのあいこが2回続く。
(考えるべきだ‥前の手、相手の性格、それから導き出される結論は‥!)
 リヴァルが一瞬の間に分析して出した手は3度グー。
 そして美鈴の手は読み通りチョキだ。
「ぁ」
 美鈴の顔に焦りが浮かぶ。
(貰った!)
 リヴァルが勝利を確信して左を指す。
 だが、美鈴の顔は下を向いた。
(くっ‥‥)
「ふふっ、惜しかったね〜。じゃあ私、次はチョキ出すよ」
 美鈴がチョキを構えて笑う。
(考えろ‥これはブラフか? 真実か?)
 リヴァルは再び脳をフル回転させた。
 そして出した結論はブラフ。
 美鈴はリヴァルがグーを出させてパーを出してくる。
 それを更に逆手にとり、リヴァルはチョキを出した。
 だが、美鈴の手はグーだ。
 なぜなら美鈴はチョキ以外を適当に出したからである。
(なに!)
 そして
「右だよ!」
 という美鈴の言葉に釣られてリヴァルは左を向いた。
 しかし、美鈴の指も左を向いていたのだった。
 美鈴の勝利だ。
「やはり、どうにもこの手の勝負では勝てないか‥‥」
 リヴァルは勝ち負けにはそれほど拘っていなかったが、やはり悔しさは生まれた。
「うふふふふ‥‥危ない危ない。もし負けてたら‥何しちゃうかわからないもんね☆」
 美鈴が危ない笑いを浮かべながら虚脱したリヴァルをチラッ見た。
 どうやら興奮のあまり病みかけているようである。



●1回戦・第二試合 弓亜 石榴 VS UNKNOWN

「クリスマスにあっち向いてホイ‥うん、コレはコレで!」
 ステージに上がった石榴は何時もどおりノリノリだ。
 一方、UNKNOWNは
 ロイヤルブラックの艶無しのフロックコート
 同色の艶無しのウェストコートとスラックス
 兎皮の唾広の黒帽子
 コードバンの黒皮靴と共革の革手袋、ベルト
 パールホワイトの立襟のカフスシャツ
 スカーレットのタイとチーフ
 銀と白蝶貝が台座の古美術品なカフとタイピン
 という、一分の隙もない完璧なダンディズムスタイルだ。
 その身には重度の傷を負っているはずなのだが、そんな様子は微塵も伺せていない。
「私からのプレゼントはコレだ」
 UNKNOWNがコートから取り出したのは、かなり際どい全身スーツ。【ZOO】キャットスーツだった。
「‥へ?」
 それを見た観衆達は唖然となる。
「変な事に使ってはいかんよ?」
「あ、へーきへーき。石動さんに着せたり、リサさんに着せて肌けさせたり、2人を絡ませて写真を撮ったりとか、そんな普通の事にしか使わないから〜」
 だが、石榴だけは平然ととんでもない事を言う。
『いや! それ全然普通じゃないですよっ!!』
 思わずリサが突っ込む。
「ふむ、それなら安心だ」
『UNKNOWNさんも納得しないで下さいっ!!』
「そちらのプレゼントは何かな?」
 リサはUNKNOWNにも突っ込んだが、あっさりスルーされた。
「私も凄いよ〜。ジャーン! 私が賭けるのはこの水着! おっとお客さん、ただの水着と思っちゃいけないよ。一見フツーの水着だけど、実はコレって前に石動さんに着せたモノ‥‥。つまり! 彼女のナマ水着なんだよ!」
「えぇーー!!」
 それを聞いた新条が驚きの声をあげる。
「本当なの、小夜ちゃん?」
「えっ! あの‥その‥‥えと‥‥」
 新条の問いに小夜子は顔を赤くしてオロオロとうろたえるだけで否定も肯定もしない。
(あのサイズだと私は着れないなぁ〜‥‥)
 美鈴は自分の胸を見下ろし、心の中で溜め息をつく。
「ふむ‥それは優勝した時には私に着ろという事だな」
「違うっ!」
「着るなーっ!」
「やめてぇーー!!」
 真顔でそう言うUNKNOWNに周囲から様々な突っ込みが入る。
「では、そろそろ始めるか」
 もちろんUNKNOWNはそれらも華麗にスルー。
「そだね。でもアタシ‥これで負けたら年末年始をお蕎麦一杯で過ごさないとイケナイの‥‥」
 石榴はじゃんけんを始める前に(嘘泣きで)瞳にうるうると涙を貯め、上目遣いでUNKNOWNを見上げて同情を引こうとする。
「そうか‥それは不憫だな。では負けたら私の部屋に泊まるといい。食事と夜明けのコーヒーをご馳走しよう」
「え、行っていいの?」
「ダメーー!!」
「行くなーー!!」
「行ってはいけないっ!!」
「もっと自分を大事にするんだーー!!」
 UNKNOWNの誘いにサラッと応じそうな石榴を周囲の者達が全力で引き止めた。
「では行くぞ。じゃんけん」
「ポン!」
 そして2人は周りの事などお構いなしにあっち向いてホイを始めた。
 初手は石榴がパー、UNKNOWNはグー。
「あ! 右に親子猫ズが居る!」
 石榴がそう言いながら右をズビシっと指す。
 だが、
「おぉ! 夜空をペンギン夫婦が渡っている!」
 そう言ってUNKNOWNは上を向いた。
「‥‥やるね、UNKNOWNさん」
「ふっ‥‥」
 2人は不敵に笑いあい、試合再開。
 次手はパーのあいこ。
 その次は石榴がパー、UNKNOWNがチョキ。
 だがUNKNOWNは右を指し、石榴は下を向く。
 その後も両者の間でジャンケンと指差が交錯し、5回中3回あいこで2回石榴が勝利したが指差はどちらも外れる。
 それから3回連続パーであいこになった時、UNKNOWNは石榴がずっとパーしか出していない気づいた。
 試しにチョキを出してみると、石榴はやはりパー。
 指差は右と下で外れたが、前回も石榴は右を向いた事を思い出す。
(試してみるか‥‥)
 そしてUNKNOWNがチョキで勝利して右を指すと、やっぱり石榴は右を向いた。
「あ、今のは違うよ? そっち向こうとしたんじゃないよ? 足が滑って転んだだけだよ? リサさんなら分かってくれるよね。うるうる‥」
 石榴は往生際悪くクレームを付けて瞳をうるうるさせたが
『1回戦第二試合はUNKNOWN選手の勝利です』
 もちろんリサは受け付けてくれなかった。



●1回戦・第三試合 ユーリ・ヴェルトライゼン VS ソウマ

「今年最後の運試し、ですね。強運を招きよせるか、それとも凶運かな」
 ステージに上がったソウマが楽しげに微笑する。
 ソウマは自身が持つキョウ運を試す目的でこの大会に参加していた。
 ただ、そのキョウ運が‘強運’となるか‘凶運’となるかはソウマ自身にも分からないのだ。
「ん、こういうのは負けると思ってやるのが良いんだよな。勝ったらラッキー、くらいの感じで」
 ユーリは肩の力を抜いた気楽な態度でステージに上がる。
 ユーリは勝負にはそれほど拘っておらず、むしろ料理目当てでこの大会に参加していた。
「勝ったらラッキー、ですか。ふふっ‥。『キョウ運の招き猫』の異名を持つ僕と1回戦で当たった時点でヴェルトライゼンさんにラッキー勝利は有り得ませんよ」
「ほ〜‥凄い自信だな。でも運なら俺も負けてないつもりだ」
 なぜならユーリは密かに覚醒して『GooDLuck』で運を上げているのだ。
 一見しただけでは変化の分からない覚醒条件を持つユーリならではの隠し技である。
「ハハハッ! 僕のキョウ運をたかがキョウ運と侮るなかれ、されどキョウ運と心得よ。『キョウ運』は僕の最大の武器なんですよ」
 しかしソウマの自信はまったく揺らがない。
『では2人ともプレゼントを出してください』
「僕のプレゼントは『まねきねこ』です。持っていれば僕のキョウ運に預かれるという素晴らしいアイテムですよ」
 ソウマがテーブルに『まねきねこ』を置く。
 普通のまねきねこなので、本当にキョウ運に預かれるかどうかは怪しい所である。
「実はかなり最後まで迷ったんだよ、何にするか。で、実用的なのはコレかなと」
 ユーリが取り出したのは一枚の写真。
「写真ですか?」
「いや、大きくて会場に持って入れなかったから写真に撮ってきたんだ。物は駐車場に置いてあるから」
 その写真には『高性能ラージフレア』が写っていた。
「でも、大きすぎて「持って帰れるかー!」って人用に、ミルキーウェイも持って来てみた」
 ユーリはミルキーウェイも取り出してテーブルに置いた。
「こっちは綺麗だし、インテリアにでもしてみる?」
「なるほど、その2つがヴェルトライゼンさんのプレゼントですか。僕のキョウ運のまねきねことなら2つでちょうど等価ですね」
「どっちか好‥え? ま、まあ良いけど‥‥」
 本当は好きな方を選んでもらうつもりだったのだが、今更引っ込める事もできないユーリはそのまま2つとも献上した。

『それでは1回戦第三試合‥開始!』
「「ジャンケンホイ!」」
 リサの合図で2人が同時に手を放つ。
 出された初手は両者ともチョキ。
「「あいこでしょ!」」
 仕切り直された手はユーリがグー、ソウマがパー。
「あっち向いてホイっ!」
 シュっと風を切ってソウマが指したのは下。
 そして、ユーリが向いたのも下であった。
「そんな‥‥」
 ユーリが信じられないといった様子で床を見る。
『おぉーーと! ソウマ選手、あっと言う間にユーリ選手を下してしまいました。ソウマ選手の勝利です』
 だがリサは無常にもユーリに敗北を告げた。
「どうやら強運を招きよせれたみたいですね」
 勝利したソウマは片目閉じてウィンクすると不敵な微笑を浮かべた。



●1回戦・第四試合 石動 小夜子 VS 新条 拓那

 新条と、パーティードレスに白のドレスコートを羽織った小夜子がステージに上がる。
 期せずして恋人同士による対戦となったが
「あっち向いてホイとか、なつかしいね〜♪ たまにはこうやって童心に返って遊ぶのもいいもんだ」
「はい。どんな事でもクリスマスに楽しめるのは良い、ですね。拓那さん、手加減無用、ですよ」
「もちろんだよ〜。小夜子! 君の出す手は全て見切っている、なーんてね♪」
「うふふっ。勝っても負けても、お互い楽しめれば良い、ですね」
 本人達は勝ち負けにはまったく拘っておらず、純粋にゲームを楽しもうとしているので、とてもほのぼのとした雰囲気が漂っていた。
『では、プレゼントをお願いします』
「はい。私は『こねこのぬいぐるみ』を‥‥」
 小夜子がそっとテーブルにこねこのぬいぐるみを置く。
「ふふ、割とありふれていそうですけど、毛並みがふかふかでいい子ですし、可愛がってくれる人に貰ってもらえると良いのですけれど‥‥」
「小夜ちゃん。今から貰ってもらえる人の事を考えてちゃダメだよ」
「あ! そう、ですね。はい‥。優勝して私が連れ帰れるように、頑張ります」
 新条に諭されて小夜子が言い直す。
「俺からはコレ、『ファーブーティー』。冬場は暖かいし、ファーは取り外せるから春になって履けるから、結構お得な一品だと思うよ」
 新条が【Steishia】ファーブーティーをテーブルに置く。
「新条さんったら、私が優勝すると思って選んでくれたのね。ぽっ。でも私はもう負けちゃったから、新条さんが優勝して、改めて私にプレゼントしてね」
「いや、あれは石榴へではなく、間違いなく石動のために選んだ物だろう」
 勝手な想像をする石榴にリヴァルが突っ込む。
「はは‥‥。まぁ、その辺りはご想像にお任せするよ」
 2人の会話を耳にした新条は苦笑を浮かべた。

『ふふっ。それでは1回戦第四試合、開始です』
「じゃ、いくよ小夜ちゃん」
「はい、どうぞ」
「「ジャンケンホイ」」
 リサの合図で2人が出した手は共にパー。
「あら」
「ははっ、気が合うね」
「ふふっ。では、あいこで」
「うん、あいこでしょ」
 ニコニコと微笑み合う2人が次に出したのは新条がパー、小夜子がチョキ。
「あっち向いて、ホイ」
「ほっ!」
 小夜子が指したのは右。新条が向いたのは上だ。
「あら。ではもう一度」
 そうした感じでほのぼの〜とゲームは進み、次のジャンケンも新条が負けたが小夜子は左を指し、新条は上を向いて回避。
 だが、
「「ジャンケンホイ」」
 新条がパー、小夜子がチョキで
「あっち向いて、ホイ」
「はっ!」
 小夜子が上を指し、新条も上を向いて決着がついてしまう。
「あ、勝ってしまいました‥‥」
 勝った小夜子はどことなく申し訳なさそうだ。
「ははっ、おめでとう小夜ちゃん。俺の敗因は作戦ミスかな。偏りすぎだったかも」
 新条の戦術は上下とグーとパーに偏ったものだったのだ。
「ま、小夜ちゃんが勝てたんだから、いっか。後は小夜ちゃんに任せた!」
「は、はい‥。拓那さんの分まで頑張りますね」
 新条に任された小夜子はやや自信なさ気だったけれど、小さくガッツポーズを作ってみせた。



●2回戦・第一試合 崔 美鈴 VS UNKNOWN

『1回戦の全試合が無事に終わったところで、さっそく2回戦にいってみたいと思います』
 リサに促された美鈴とUNKNOWNがステージに上がる。
「うふふっ‥‥あと2勝すれば彼との幸せな未来が手に入るわ」
「ところで崔さん。今日はせっかくのパーティーなのに彼と一緒じゃないんですか?」
 持ち前の鋭い観察眼で美鈴の彼氏の存在に疑いを抱いたソウマがカマを掛ける。
「え、彼? え〜と‥‥」
 美鈴は何かよくわからない小さい機械を取り出して見た。
「‥‥大丈夫。大人しく家で待ってるみたい♪ あなたの愛の力で絶対に勝ってみせるから応援しててね☆」
 そしてその機械に向かって話しかける。
「そ、そうですか‥‥」
 その機械が何なのか? いったい何が映っているのか?
 知りたいような‥‥知らない方がいいような‥‥。
 そんな怪しい雰囲気が美鈴の背中には漂っていた。
『えぇ〜と‥‥。美鈴さん、始めてもいいですか?』
 リサが恐る恐る美鈴に伺いをたてる。
「うん。いいよ〜♪」
 謎の機械をしまった美鈴は妙にスッキリした顔をしていた。

『そ、それでは2回戦、第一試合‥開始!』
「「ジャンケンホイ!」」
 初手は共にグー。
「「あいこでショ」」
 次手は共にチョキ。
 更にグーのあいこが2回続いた後、美鈴がグー、UNKNOWNがチョキ。
 美鈴の瞳がキランと光る。
「左だよ!」
 声とは逆の右を指す卑怯戦法。
「左か」
 だがUNKNOWNは声に従って左を向いた。
「あーー!」
「どうした? 素直に左を向いたのだがな」
 UNKNOWNは悔しがる美鈴にしれっとした顔で答える。
「そ、そうね‥‥。じゃ、次よ」
「「ジャンケンホイ!」」
 美鈴チョキ、UNKNOWNパー
「左よ!」
「おぉ! 足元にネズミ大家族がっ!」
 美鈴は声を同じ左を指したが、UNKNOWNはおどけながら下を向く。
「くー!」
「‥‥ふ」
 悔しがる美鈴にUNKNOWNは不敵な笑みで応える。
 なにやら心理戦の様相を呈し始めてきた2回戦第一試合は一進一退の攻防を続けたがジャンケン数が30回になってもまだ終わらなかった。
「「ジャンケンホイ」」
 30回目は美鈴チョキ、UNKNOWNパー
「下」
 美鈴は声と共に下を指し、UNKNOWNは右を向く。
「はぁ‥‥」
 その結果に美鈴が重いため息をつく。
 ここまで虚実色々と混ぜた手を尽くしてきたが全てUNKNOWNには通用せず、もう何を出すか考えるのさえ億劫になっていた。
「美鈴、余計なお世話かもしれないけど、声と指の方向がずっと同じになってるぞ」
「え?」
 ユーリの指摘で美鈴の頭が冷める。
「だ、大丈夫よ。それも作戦の内だから〜」
 美鈴は無理に笑顔を浮かべてユーリに答えたが、内心ではちょっと焦っていた。
(まずい‥‥疲れて頭が働かなくなってたわ‥‥。こうなったらもう無心でやろうかしら?)
 美鈴が気持ちを切り替えて手を構えると
「決めたかね? だがそれでいいのかね?」
 今度はUNKNOWNの方が心理戦を仕掛けてきた。
「い、いいわよ‥」
 美鈴がやや動揺しつつ応じる。
「「ジャンケンホイ」」
 美鈴グー、UNKNOWNパー
(ぁ!)
 美鈴の動揺が大きくなる。
「下だ!」
 その間隙を突いてUNKNOWNの声が耳に届く。
(え?)
 美鈴は思わず逆の上を向いた。
(しまった!)
 焦る美鈴。
 しかしUNKNOWNの指は声の通り下を向いていた。
「ほぉ‥」
 UNKNOWNがやや感心した様な声を漏らす。
「ふふん」
 美鈴は不敵な笑みで応えたが
(あ、危なかったぁ〜‥‥)
 内心では思いっきり安堵していた。
 そして32回目。共にチョキ
 33回目、共にパー
 34回目、共にチョキ
 35回目、共にパー
 36回目、共にパー
「これだけあいこが続くのは君と私の心がシンクロしてきたという事だな」
「違うわよ! 私とシンクロするのは彼だけなんだからっ!! そうよねー♪」
 美鈴は全力否定すると謎の機械を取り出して話しかける。
 が、不意のその表情が曇った。
「‥‥いない。何処? 何処? 何処に行ったの? 私を置いて何処に行っちゃったのぉ!! まさか別の女の所にぃーー!!!」
 美鈴が目を血走らせ、無意識に赤黒く変色したナタを握って食い入るように謎の機械を凝視する。
「‥‥あ、な〜んだトイレか。ビックリしちゃった。えへ☆」
 美鈴は一転して可愛らしい笑みを浮かべると謎の機械をしまった。
 でも何故かナタは持ったままだ。
『あの〜、美鈴さんナタは‥』
「なぁに?」
 美鈴はリサにニッコリと笑いかけてきたが、その目には怪しい光が灯って見える。
『‥いえ、何でもないです』
 恐怖に負けたリサは何も見えていない事にした。
 きっと他の者達もリサと同じ気持ちだろう。
 気を取り直して試合再開。
 しかしジャンケン数は40回になってもまだ決着はつかない。
 40回目、共にグー
 41回目、共にパー
 42回目、共にグー
 43回目、共にパー
 44回目、共にパー
「ふっ、これはもう一心同体と言って間違いな‥」
「私と一心同体なのは彼だけよっ!!」
 45回目、美鈴パー、UNKNOWNグー
「あっち向いてホイィっ!!」
 怒りのこもった美鈴の指先は右を指したが、UNKNOWNの顔は下を向いている。
「‥‥命拾いしたわね」
 美鈴がナタを片手に物騒な事を言う。
 どうやら精神的疲労と肉体的疲労が相まってかなり病んできている様だ。
 そしてジャンケン数はとうとう50回を突破し、運命の51回目。
 美鈴がチョキ、UNKNOWNがグー
「ん? 彼氏が下に落ちたぞ」
「え?」
 UNKNOWNがその一言と共に下を指し、美鈴も下を向く。
 もちろん足元に謎の機械は落ちていない。
『おぉーーと! 試合終了です! 51回に渡るジャンケンの末に勝利を手にしたのはUNKNOWN選手でしたっ!!』
「‥あ!」
 リサの宣言を耳にした美鈴は自分の迂闊さと敗北を知った。
「そんな‥‥彼が応援してくれてるのに、負けるなんて‥‥!?」
 その場にペタンと座り込んだ美鈴は謎の機械を取り出て見る。
 すると美鈴の表情がまた険しくなり、全身からどす黒いオーラが立ち昇った。
「‥‥なんで彼、応援してないの? 何身支度してるの? 別の女に逢いに行くの!? 何なの!? 死ぬのっ!!?」
 おそらく無意識だろうが、興奮のあまり手に持っていたナタを床に何度もガンガンと叩きつける。
『あの‥‥美鈴さん。それ以上やると床が抜けて‥‥』
 さすがに止めた方がいいと思ったリサだが、自分では怖くていけない。
 なのでチラリとリヴァルを見た。
(俺か!?)
 という目で見返すリヴァル。
 やや苦笑い気味にリサがニッコリ微笑む。
 リヴァルの額をダラダラと汗が流れ落ちた。
 だがリヴァルには愛するリサの頼みを断るという選択肢はない。
 しかし今のリヴァルは重傷の身。
(死ぬかもしれんな‥‥)
 リヴァルはチラリと隣りにいるユーリを見た。
 あからさまに目を反らされた。
 新条を見た。
 凄い勢いで首を横に振られた。
 ソウマを見た。
 親指を立て「GoodLucK」とでも言いたげな良い笑顔を浮かべていた。
 UNKNOWNは‥‥借りを作ると後が怖い。
 だからといって女性陣に行かせる訳にはいかない。
(くっ‥‥)
 リヴァルが覚悟を決めて美鈴に声をかけようとした、その時
「‥あ、コンビニ行くんだ‥‥。な〜んだ☆」
 美鈴が黒いオーラの噴出を止め、一転した明るい表情で立ち上がる。
 でもナタは持ったままだ。
「‥崔氏。とりあえずナタも仕舞わないか」
「え? あれ、何で私ナタなんて持ってるの? やだな〜もー☆」
 やっぱり無意識だったらしく、美鈴は恥ずかしそうにナタを仕舞った。



●2回戦・第二試合 ソウマ VS 石動 小夜子

『え〜‥‥色々と壮絶だった第一試合も何とか無事終わりましたので、続けて第二試合を始めたいと思います』
「よろしくお願いします」
 ステージに上がった小夜子がペコリと頭を下げる。
「こちらこそ、よろしくお願いします。僕のキョウ運はさっきの試合を見て十分に理解してくれていますよね。ですから遠慮などいりません。全力で掛かってきてください」
「はい。遊びごとでも、勝負はきちんと、です。全力でいかせていただきます」
 小夜子はソウマの尊大な態度にも丁寧に応じた。
「ガンバレ小夜ちゃ〜ん!」
「はい。拓那さんの分まで、頑張ります」
 そして応援してくれる新条に向かって微笑みを返す。

『それでは2回戦第二試合‥始め!』
「「ジャンケンホイ!」」
 リサの合図で出した手はソウマがグー、小夜子がパー。
「あっち向いてホイ」
 そして小夜子が刺したのは下で、ソウマが向いたのも下。
「え?」
「あれ?」
「お」
「へ?」
「わ!」
 様々な濁音が観衆の口から漏れる。
『‥‥しゅ、瞬殺です!! この結果を誰が予想できたでしょうか。1回戦でユーリ選手に圧勝したソウマ選手を小夜子選手は一瞬の内に下してしまいましたぁー!』
 リサの宣言で会場が歓声が上がる。
「‥‥あの、私‥また、勝ってしまったん、ですか?」
 しかし一番驚いているのは勝った小夜子であった。
「そうだよ。おめでとう、小夜ちゃん」
 そして一番喜んでいるのはおそらく新条だろう。
「‥ぁ、はい。ありがとうございます」
 新条の言葉を聞いて小夜子はようやく勝利を実感した。
「ふ‥‥今回は招きよせたのは凶運でしたか」
 ソウマは肩を竦めてステージを降りた。
 その表情から落ち込んだり悔しがっている様子は伺えないが、内心ではかなりガッカリしていた。
 しかし凶運もまたソウマが持つキョウ運なのだ。
 なのでソウマは敗北も甘んじて受け止めた。



「決勝進出おめでとう、石動さん」
 対戦後、ドリンクコーナーで咽の渇きを潤していた小夜子に石榴が声をかけた。
「ありがとうございます、弓亜さん」
「ここまで来たんなら、もう優勝しかないよね。だから石動さんに秘策を授けてあげるよ!」
 そう言って石榴が取り出したのは、リサに拒否されたミニスカサンタコス。
「この下乳見えミニスカサンタ服を着るコトで、男性陣と対決した時の勝率を上げることが可能なんだよ!」
「えぇ〜と‥‥」
 小夜子が思いっきり困り顔になる。
「という訳で着替えようか!」
 だが石榴は構わず小夜子を更衣室に連れていこうとする。
「石榴ちゃん。衆人の前でそんな露出の高い格好を小夜ちゃんにさせるのは、例え小夜ちゃんが承諾したとしても俺が許しません」
 しかし新条が石榴の頭を後からガッチリ鷲掴んで阻止した。
「えぇーー! 新条さんだって見たいでしょ?」
「俺だけに見せてくれるなら‥‥って変なこと言わせないでよ! ほら行くよ石榴ちゃん。小夜ちゃんは決勝戦がんばってね」
「はい」
 新条がずるずると石榴を引っ張ってゆき、小夜子はそれを笑顔で見送った。



●決勝戦 UNKNOWN VS 石動 小夜子

『さて、2回戦も終わって次はいよいよ決勝戦。8人の中から勝ち上がってきたUNKNOWN選手と小夜子選手の対戦となります』
 UNKNOWNと小夜子がステージが上がる。
「よろしくお願いいたします」
「あぁ、よろしく。自分の水着を取り返し、私のキャットスーツを着るため頑張りたまえ」
「それは、その‥‥えぇ〜と‥‥は‥はい‥‥」
 小夜子は思いっきり返答に困ったが、とりあえず頷いておいた。
「ガンバレ小夜ちゃ〜ん! 後一人で優勝だー!」
「はい。頑張ります」
 新条の応援に励まされる小夜子。
「石動さーん。優勝したらキャットスーツ姿をバッチリ激写してあげるからね〜♪」
「えぇ〜と‥それは出来れば遠慮したい、です‥‥」
 そして石榴の応援には苦笑を深くした。

『それでは! プレゼント争奪あっち向いてホイッ!大会決勝戦! 開始!』
 リサの合図で最後の対戦が始まる。
 会場内の全員が固唾を呑んで見守るシンとした静けさの中
「「ジャンケンホイ」」
 2人の掛け声が響いた。
 初手はUNKNOWNがチョキ、小夜子がパー
「あっち向いてホイ」
 UNKNOWNの指が左を指し、小夜子の顔が上を向く。
「ふぅ〜‥‥」
 小夜子ではなく、それを見ていた新条が安堵の溜め息をつく。
 続く次手
「「ジャンケンホイ」」
 UNKNOWNがグー、小夜子がチョキ
「あっち向いてホイ」
 UNKNOWNが指したのは上。
 そして小夜子が向いたのも上だった。
「あぁーー!!」
 と悲鳴をあげたのは小夜子ではなく、やっぱり新条。
『決りました!7人の選手を制して勝利を手にしたのは、UNKNOWN選手です!』
 リサが声高にUNKNOWNの勝利を告げる。
「ふふっ、負けてしまいましたね。UNKNOWNさん、優勝おめでとうございます」
 小夜子が微笑を浮かべ、UNKNOWNを称えた。
 その表情に悔しさなどの負の感情はまるで伺えない。
「あぁ、ありがとう」
「では、この子はUNKNOWNさんに差し上げます。可愛がってあげて下さい」
 小夜子がこねこのぬいぐるみをUNKNOWNに手渡す。
「分かった。リヴァルと名付けて常に、風呂でも、トイレでも、寝る時でも、肌身離さず抱きしめて可愛がる事にしよう」
「断る! 拒否する! 拒絶する! 全力で阻止する!」
 リヴァルが心底嫌そうな顔で叫ぶ。
「優勝者にはプレゼントを自由にする権利が与えられるのだろう?」
「そうですけど、できればそれは私も止めて欲しいです。はい、トロフィーです。優勝おめでとうございます」
 リサがかなりおざなりに安物のトロフィーをUNKNOWNに渡す。
「リサ、司会者からの褒美のキスがまだだ」
「そんなものはありません! はーい! これにて【プレゼント争奪あっち向いてホイッ!大会】は終了でーす。皆さんお疲れさまでした〜」
 リサはこれ以上変な事にならない内に強引に大会を終了させたのだった。
「待った! せっかくだから写真を撮らないか?」
 ユーリが自慢の高性能デジタル一眼レフカメラを手に提案する。
「うん、いいね。じゃあリサさん石動さん、このサンタコスに着替えようか」
「着替えません!」
「では、このキャットスーツを着るかね?」
「それも着ません!」
「ほらほら、揉めてないで全員ステージに上がって」
 ユーリの誘導でUNKNOWNを中央にして一同が集まる。
「いくよ」
 ユーリはカメラのタイマーをセットすると自分もステージに上がった。
「じゃ、メリークリスマス!」
『メリークリスマス♪』

 カシャ



●パーティー

「じゃ、私は彼が待ってるから彼の所に帰るね♪」
 いったい何処に帰るつもりなのか怪しまれながら美鈴は一足先に会場を後にした。
 そして他の者達は会場の料理や飲み物を味わいながらの歓談を始めた。

「小夜ちゃん惜しかったね。でも準優勝だって立派なもんさ。おめでとう」
「ありがとうございます、拓那さん」
 新条と小夜子がソフトドリンクで乾杯する。
「それと‥その、クリスマスプレゼントの上着、ありがとうございました‥‥。ふふ‥早速着させて頂いてますけれど、とても暖かい、です‥‥」
「あ、気に入ってくれた。それなら色々迷ってそれにした甲斐があったよ」
 新条が安堵の笑みを浮かべる。
「それじゃあ料理を取りに行こう」
「はい」
 新条は美味しそうな物をあちこちから少しずつ皿に盛っていった。
 その結果、皿が山盛りになってしまう。
「うふふっ。拓那さん、ちょっと盛りすぎ、です」
「はは、流石に欲張りかな? こういうとこだと全部どんな味なのか知りたくなってさ。そうそう、これなんか結構美味しかったよ〜♪ はい、あ〜ん」
 新条がタンドリーチキンをフォークに刺して小夜子の口元に持ってゆく。
「え!? あの‥‥」
 小夜子は周囲の目を気にして頬を染める。
「あ〜ん♪」
 しかし羞恥で顔を赤らめる小夜子が可愛いため、新条はフォークを引いてくれない。
「‥‥あ〜ん」
 観念した小夜子は結局新条に食べさせて貰った。

「リサ、熱燗を取ってきてくれないか」
 リヴァルはせっかくなのでサンタコスのリサにお酌してもらおうと思ったのだが
「リヴァルさん今は怪我してるじゃないですか。お酒はダメですよ。今日はお茶で我慢してください」
 リサにキッパリ断られ、烏龍茶を渡される。
「そう‥だな‥‥」
 リヴァルは大怪我した迂闊な過去の自分を呪った。

 甘党なソウマは各国のデザートを制覇しようとしていた。
「‥これは! 僅かに効かせた胡椒が甘さを更に引き立てている! これはプロの仕事ですね。む! このクリームのコクと滑らかさは‥‥」
 そうして料理評論家のようにコメントをしながら次々とデザートを平らげるソウマの頬は幸せで終始緩みっぱなしだった。

 ユーリは当初の目的どおり和洋中欧印ほぼ全ての料理を食べ尽くし、しっかりお腹が膨れたところでリサに声をかけた。
「リサ、司会お疲れさま。それにしても今日はまたスゴい格好だな」
「こ、これは仕事で仕方なく‥」
 リサが頬を染めて身を縮める。
「ははっ、分かってるよ。勤め人は辛いな。‥てか風邪引かないようにな?」
 ユーリは微苦笑を浮かべた。
「でも、似合ってますよ」
「そうですか?」
「えぇ‥強く生きてください」
 ソウマはにっこり笑って嫌な慰め方をした。
「リサ‥‥立派になって」
 そしてUNKNOWNがわざとらしく少し涙ぐむ。
「だが、もう少し若い時にやっておけば‥‥」
「と、年の事は言わないで下さい!」
 リサが怒ったところでパシャとフラッシュが焚かれた。
 見ると、UNKNOWNのコートからカメラが覗いている。
「こういう物は記録に残しておくべきだ。いい想い出になるだろう」
「UNKNOWN!」
「か、返して下さい!」
 リヴァルとリサがカメラを奪おうとするが、UNKNOWNはするりと逃れた。
「ところで新条。せっかくのドレスだ。石動をダンスに誘ってはどうかな?」
 そしてヴァイオリンを手にテラスに出ると優雅に奏で始める。
「えっと‥‥。じゃあせっかくだし、1曲踊ってもらえるかな、小夜ちゃん」
「‥‥はい。喜んで」
 小夜子が新条の差し出す手を取り、2人は踊り始めた。
 最初は気恥ずかくて少しぎこちなかった小夜子も、やがて新条しか目に入らなくなり、自然と踊れる様になってくる。
「小夜ちゃん‥‥」
「拓那さん‥‥」
 そして2人にとって暖かくて幸せな時間がゆっくりと流れてゆく。


「リサ、少しテラスに出ないか」
「はい、いいですよ」
 皆が新条達に注目している中、リヴァルがリサを誘う。

「うわぁ〜綺麗ですね」
 テラスからはLHの夜景が一望でき、街のネオンがまるで散りばめられた星の様だった。
「でも‥さ、寒いです‥‥」
 ヘソ出しルックのリサには外の気温は辛かった。
「リサ、これを‥」
 リヴァルはすぐコートを脱いで掛けてあげようとする。
「あ、ダメですよ。リヴァルさん怪我してるんですから」
「だが、このままではリサが風邪を引いてしまう」
「だから、こうするんです♪」
 リサはリヴァルのコートの中に入り込むと背中をリヴァルに密着させてコートを閉めた。
「ほら、これなら2人とも暖かいですよ」
「そ、そうだな‥‥」
 リヴァルはリサの大胆な行動と温もりに動揺したが、すぐに優しくリサを抱きしめた。
「ん‥」
 リサも気持ちよさそうに目を細める。
 そして2人でしばらく夜景を眺めた。
「なぁ、リサ。来年も‥いや、これからもずっと‥‥」
 やがてリヴァルが何かを言いかけたが
(‥‥いや、こういう場でもな)
 と思いなおし
「来年こそは何処かに行かないか。ふたりきりで」
 別の事を口にした。
「ふふっ、いいですよ。何処に行きましょうか?」
 リヴァルの気持ちに気づかなかったリサは明るい声をあげる。
(今はまだ‥‥)
 リヴァルは一旦自分の気持ちを心に仕舞い直し、今はリサの温もりを感じながら来年の話をするのだった。



●もう一つのパーティー

 パーティーが終わると石榴は残っていたケーキを幾つか持ち帰らせて貰った。
「おみやげですか?」
「‥‥うん、まぁ、そんなところかな」
 リサが尋ねると、石榴は珍しく曖昧な答えを返した。

 そして会場を後にした石榴はLHにある共同墓地を訪れ、一つの墓石の前にしゃがみ込む。
「久しぶりだね、愛子ちゃん」
 そこにはLHの未来科学研究所に送られ、研究され尽くされた小野塚 愛子の遺体が埋葬されている。
 ただし戦時ゆえ、人心への影響を考慮して墓碑銘は刻まれていない。
「愛子ちゃんもクリスマスに楽しい思い出作ってもらいたくて‥ほら、ケーキ持ってきたよ。墓前で食べる位でも、クリスマス気分を味わって貰えるかな?」
 そして石榴は今日の出来事を愛子に語って聞かせながらケーキを食べた。
 そのケーキは甘くて‥‥何故だか少ししょっぱかった。