タイトル:【br】戦車マスター:真太郎

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/06 16:15

●オープニング本文


●UPC太平洋軍本部

 先の学園での事件で捕縛した者達の尋問の結果を聞くため、私、マチュア・ロイシィ(gz0354)はUPCを訪れた。
「どうも、お久しぶりです」
 そこで私を出迎えたのは、独立記念日に起こった大統領暗殺事件の時にも事の詳細を報告をしてくれた男だった。
 どうやら彼がネモに関わる一連の事件に担当官になったらしい。
「まず、今回捕らえた子供達からも組織の概要やアジトの場所などの情報は得られませんでした」
「別ルートから大統領の娘を拉致しようとした奴らも捕らえ尋問したんだろう」
「はい。ですが彼らは町の郊外の有料駐車場まで人質を連れて行くように命じられていただけで、そこからはまた別の車に乗せ変えて別の者が連れ去る手筈になっていたようです」
「その駐車場は」
「もちろん調査しましたが、何の痕跡も残されてはいませんでした。学園と駐車場の位置からアジトがあるだろうと思われる方向ぐらいならある程度絞りこむ事は可能ですが‥‥それだけはとても場所の特定までは不可能です。もちろん捜索は行っていますが、アジトを発見できる可能性はかなり低いと言わざるを得ません」
「そうか‥‥」
 私は深く落胆した。
 だが、ネモの罠に嵌って真っ先にやられた私には何も言う権利はない。
 ただ、悔しさと自分への怒りが腹の底に積もってゆく。
「そして今回の尋問ではチャイルドテロリストの組織の名称が『イノセント』だと判明しました」
「イノセント?」
「はい。そしてもう一つ、彼らは死にたくない一心で組織の命令に従っているのだと分かりました。組織の事を誰かに話せば殺される。組織の命令に背いても殺される。だから仕方なく積極的に命令にしたがっていた。仕方なく殺したんだ。そう話す子供が何人もいました。自ら進んで組織に協力している者もいない訳でないでしょうが、おそらく大半の者は自分が死なないために命令に従っているのだと思います。逆らえば殺されるかもしれない絶対的な恐怖による支配。それがこのイノセントと呼ばれる組織の実体です」
「なんという事を‥‥」
 私は胸の内にあるネモへの憎しみが更に増大するのを感じた。
「ですがそのため、最も防ぐ事が困難な自爆テロはなどの手を敵は使う事ができないと思われます。自らの命を守るために命令に従っているのに、自らの命を失う命令に従うのでは本末転倒ですからね。その点だけが唯一の救いと言えるでしょうか」
「そうか‥‥」
 私は少しだけ安堵した。
「そのためか今回の事件の犯人も公には全員バグアであったとされています。政府やUPCとしては子供の中にバグアの手先が紛れ込んでいるかもしれないなどと報道はできませんからね。ともかく、こういった現状では敵が動いた後に対処するしかありません。こんな報告しかできなくて‥‥申し訳ないです」
「いや、そんな事ないよ。ありがとう」
 私は無理に笑顔を作って礼を言うと、UPCを後にした。
 実際、私も彼の言うようにネモが動くのを待つしか手がない身だ。
 それが歯がゆくて仕方がない。




●ドローム社・ロサンゼルス支部・販売店

 その日、ドローム社の重役の一人が3人の子供を連れてこの販売店を訪れてきた。
 今朝方に電話でいきなり行くので案内を頼むと言われ、販売店の店長を大いに慌てた。
 店長は査察ではないかと勘ぐり、主だった責任者を集めると全員でその重役を出迎える。
「これはこれはフォート様。よくぞ我が店舗においでくださいました」
「いきなりですまないな。この子達がどうしても戦車を見たいと言ってきかなくてな」
 重役が店長に3人の子供達を紹介する。
 不思議な事に全員女の子だった。
(「女の子3人で戦車を見学?」)
 妙な話であったが上役には逆らえない。
「お子さんですか?」
「ま、まぁな‥‥娘と、その友人だ」
 重役は曖昧な答えを返し、額に浮かんでいる汗を拭いた。
 なにやら妙に焦っているというか、怯えているというか、落ち着かない様子だ。
「そうですか。それではお嬢様がた。こちらにおいで下さい」
 その事が妙に引っかかったが、どうやら査察ではなさそうだと安堵した店長は笑顔で3人を店の奥に案内する。

「これが我が社自慢の最新鋭戦車『アストレア』です。かつては主力戦車として名を馳せたM−1戦車に次ぐ次世代型戦車です。全長7m。総重量は37t。最高速度は90km。巡航速度65kmでして‥‥」
 実は戦車オタクである店長は子供達に向かってベラベラとアストレアの性能を語って聞かせる。
 最初は「わー」とか「すごーい」と言って話を聞いていた子供達だが、話が走破性や各種武装の詳細などの専門的でマニアックな話になってくると、子供達の表情はだんだんと曇ってきた。
「そしてこの主砲のGD−120滑空砲および火器管制装置には、開発担当者の日本における戦車開発のノウハウが取り入れら‥‥」
「もういいよおじさん。飽きちゃた」
 子供の一人はそう言ってスカートの中から取り出した長大な銃を店長に向けて引き金を引いた。

 ――ゴォン

 銃弾を受けた店長の頭が弾け飛ぶ。
「は、はっ、話が違うじゃないか!! わ、私は君達をここに連れてくれば娘を返してくれると‥」
 重役が血相を変えて少女に訴える。
 そう、この重役は娘を何者かに誘拐され、娘を返して欲しければ従うように脅されていたのだ。
「うん。連れてきてくれてありがとね、おじさん」
 そう言って少女は重役の頭も撃ち抜いた。
「さぁ、戦車を奪え!」
 長大な銃を構えた少女が命令すると、残り2人の少女もスカートの中からサブマシンガンを取り出し、店内に陳列してある戦車に向かって駆け出す。
 銃声を聞きつけた店内の人間が集まってきたが、少女達は銃弾を撃ち込んで次々と殺害してゆく。
 店内には重武装をした腕利きのガードマンもいたが、彼らは長大な銃を持つ少女の手によってアッサリと倒された。

 そして店を制圧した少女達は他の仲間も店内に呼び寄せ、手馴れた様子で武器弾薬を搭載し、全員でアストレアに乗り込むと街に向かって走り出したのだった。




●ロサンゼルス市内

 3台のアストレアは時速60kmの速度でロサンゼルス市内を疾走しながら無差別攻撃を行ったため、市内は大混乱に陥った。
 警官が必死に避難誘導を行い、軍にも出動命令が下る。
 市街地であるため軍は戦闘ヘリが出撃させたが、ヘリは戦車の上に搭乗している一人の少女の狙撃によって全て撃墜された。
 この少女はおそらく最近テロを頻発しているチャイルドテロリストの【イノセント】の総帥である『ネモ』だと考えられたため、事件の管轄が軍からUPCに移行。
 ULTを通じて傭兵の出動が要請された。

●参加者一覧

瑞姫・イェーガー(ga9347
23歳・♀・AA
美空(gb1906
13歳・♀・HD
クラリア・レスタント(gb4258
19歳・♀・PN
秋月 愁矢(gc1971
20歳・♂・GD
レインウォーカー(gc2524
24歳・♂・PN
春夏秋冬 立花(gc3009
16歳・♀・ER
一ヶ瀬 蒼子(gc4104
20歳・♀・GD
エシック・ランカスター(gc4778
27歳・♂・AA

●リプレイ本文

●市庁舎

 ロサンゼルスのビジネス街を3台のSE−445Rが疾走する。
「生身対戦車‥‥B級映画でもいまどきこんな下手なシチュエーション設定しないわ‥‥やれやれ、難儀なこと」
「しかも大人数を人質に取られている状態だ、迷っている暇は無いな‥‥」
 バイクを操りながら一ヶ瀬 蒼子(gc4104)が嘆息し、秋月 愁矢(gc1971)が真剣な表情で前を見据える。
 やがて前方にアストレアの巨体が見えてきた。
「相手は新型戦車‥‥ゴーレムに比べれば、どうとでもなる!」
 クラリア・レスタント(gb4258)は覚醒しながら叫ぶとバイクを加速させた。
 クラリアは当初、建物に登って戦車に飛び移るつもりでいたが、戦車は今も60kmのスピードで走っているので、それは不可能だった。
 戦車は接近する3人に気づいたのか不意に車体から煙を噴き出し始め、戦車の周囲と後方が完全に煙幕に包まれる。
「甘いぜ!」
 愁矢はすかさずOwl−Eyeのサーマルビジョンを起動。愁矢の目が煙幕を無視して戦車の放つ熱源をハッキリと捉える。
 そしてドドンという重低音と共に何かが地面と上空に放出されるのが視えた。
「上空にグレネード! 地面にショット・ジェル!」
 愁矢はそう予測して2人に警告すると回避機動を行い、クラリアと蒼子も愁矢に倣って回避する。
 その直後に3人のほぼ真横でグレネードが弾けたが、地面が抉れて飛散しただけで3人は無傷だ。
「グレネードで視線を上にそらし、煙幕に紛れて撒いたジェルで足を止め、そこにグレネードか‥‥。秋月がいなかったら直撃してたかもしれないわね」
 蒼子が後ろを振り向き、ジェルを撒かれた道路を眺めて呟く。
 3人は更に間を詰めると、戦車は不意に右折し、建物とぶつかって壁を削りながらも強引に狭い横道に入っていった。
「絶対に‥‥止めてやる!」
 3人も戦車を追ってクラリアを先頭に右折。
 戦車はギリギリの幅の道を抜けると、すぐに回頭して主砲を向けてきた。
 そして

 ――ドォン

 超音速で放たれたスラッグガンがクラリアに迫る。
「くっ!」
 クラリアは咄嗟にバイクを地面ギリギリまで寝かせて回避した。
 だが、スラッグガンはそのまま直進し、後ろにいた愁矢に命中。
「ぐはっ!」
 衝撃でバイクから吹っ飛ばされた愁矢が地面に叩きつけられる。
「秋月!」
「平気だ。俺に構わず行け!」
 愁矢は痛む体を起こして蒼子を先に促す。
「分かった」
 蒼子はそのまま道を抜けて左折。戦車との距離はかなり詰っており、クラリアが戦車に接近しようとしている様子が見えた。
 だがクラリアは機銃掃射に阻まれて容易に近づけずにいた。
 クラリア自身は命中しても耐えられるだろうが、バイクに当たった場合は破壊されかねないからだ。
「これ以上は行かせないよ」
 蒼子は貫通弾を装填した拳銃「ブリッツェン」を抜くと、煙幕で見え難いがキャタピラを狙って引き金を引く。
 放たれた貫通弾が煙幕を抜け、煙幕を向こうから鈍い破砕音が響いて戦車がバランスを崩した。
「掻っ斬れ! オセ!」
 その隙を逃さずクラリアは接近し、併走しつつ脚爪「オセ」で片側のキャタピラを斬り裂いて破壊する。
「動きを止めればこっちのもんだ!」
 そこにバイクに乗り直した愁矢が突進。
 戦車から機銃掃射されたが、蒼子の『援護射撃』を受けながら回避。
 そのまま戦車の懐に飛び込むと、バイクから跳躍して戦車上部に飛び乗った。
「‥お前は俺を恨んでいい」
 そう呟くと機械剣「莫邪宝剣」から伸びた超圧縮レーザーの刃で砲手席ハッチを刺し貫いた。
 光の刃ゆえに手応えはないが、ハッチに開いた穴からは血と肉の焼ける匂いが漂ってくる。
「たくさんの命を助ける代わりに命を奪う‥その業は背負う」

 一方、クラリアも戦車の上に飛び乗っていた。
「他の命を奪う覚悟があるのなら! 私は、あなたの命を奪う!」
 そして『刹那』で上面装甲から搭乗者に向けてハミングバードを刺突。
 剣を通して肉と頭蓋骨を突き破る手応えがハッキリとクラリアに伝わってきた。 
「討つ覚悟があるのなら、討たれる覚悟も付いてくる。どちらかだけなんて、そんなもの‥‥!」
 その一撃で、戦車は完全に動きを止めたのだった。



●ユニオン駅

 春夏秋冬 立花(gc3009)をバイクの後部座席に乗せたレインウォーカー(gc2524)と、エシック・ランカスター(gc4778)のバイクが商業地区を疾走する。
 道路の左右の商店は破壊され、何人もの遺体が横たわっているのが見える。
「またか! うんざりだ! 子供は最も特殊な存在です。一般的に弱者であり保護するべき者と強く認識されている。狡猾で非常に正しいやり方です。正しすぎて、反吐が出る。こんな活動を通用させてはいけない。妥協をすれば同じ子供が増えるだけです」
 エシックは怒りをあらわにし、吐き捨てる様に自分の心情を吐露した。

 やがて前方に戦車の巨体と、戦車の上に立つ少女の格好をした少年の姿が見えてきた。
「ネモ!? まさかここにいるなんて‥‥」
 ネモは駅には来ないだろうと予想していた立花が驚く。
「あれ、僕がここにいるのがそんなに意外? だから知ってる顔がおねえちゃんだけなのかな。ちょっと残念」
「言っておくけど、ボクは加減も容赦もしない。相手が子供だろうと必要ならボクは殺す。敵の命よりも自分と味方、それに市民の命を優先すべきだろぉ」
 おどけるネモにレインウォーカーが告げる。
「ははっ、その身勝手な論理で今日は何人子供を殺すつもりなのかな? 2人かな? 4人かな?」
「お前の言葉などに耳を貸すものか!」
 エシックは小銃「S−01」で貫通弾をネモに撃ち放つ。
「おっと」
 だがネモは易々と避けてリボリバーで反撃。エシックのバイクを凶弾が撃ち抜いた。
「ちぃっ!」
 エシックはバイクが爆発する前に離脱し、受身をとって地面を転がる。
 そうしてエシックがネモの気を引いている間にレインウォーカーが戦車の側面に回り込み、立花が苦無をダンタリオンに持ち替えて構えた。
 だが戦車は機銃を掃射しながら車体をバイクにぶつけようと幅寄せしてくる。
「くっ!」
 レインウォーカーは急ブレーキで後ろに下がって回避。
「ダンタリオン! その力をわぎゃぅ!」
 その反動で立花は前につんのめり、中途半端なセリフでも放たれた電磁波は戦車を反れて飛んでゆく。
 そしてレインウォーカーのバイクもネモの凶弾に撃ち抜かれた。
「くそっ! やられたぁ」
「えぃ!」
 レインウォーカーはバイクから離脱したが、立花は咄嗟にワイヤーを戦車に引っ掛け、それを基点に飛び移る。
「無賃乗車禁止」
 だがネモに蹴り落とされた。
「よっと」
 そしてネモも地面に降り、戦車を先に行かせる。
「さ、早く僕を倒さないと駅が火の海になるよ」
「だったら倒して行かせてもらうさぁ」
 レインウォーカーはネモの気を引きながら後ろに回り込む。
 ネモは向きを変えつつ発砲。
 だがレインウォーカーは『回転舞』を使った宙返りで避けた。
「凄い! 僕の攻撃を避けた」
 ネモは続けて照準を合わせてきたが、レインウォーカーは着地と同時に『迅雷』を発動し、射線を外すと同時に一気に間合いを詰め、『円閃』で斬りかかる。
「わっ!?」
 思わぬ奇襲にネモの防御が一瞬遅れ、回転するレインウォーカーの体から繰り出された二刀小太刀「牛鬼蛇神」の剣戟がネモの体を斬り裂く。
「っ!」
 ネモは傷を負いながらも近距離から発砲したが、レインウォーカーは再び『回転舞』で避ける。
「また避けた? おにいちゃんホント凄いよ!」
 何故か嬉しそうに言うネモが更に照準を合わせようとした時、
「オォォォ!」
 ネモの背後から迫ったエシックが『猛撃』を発動しつつ振りかぶった竜斬斧「ベオウルフ」を全力で振り下ろした。
「うわわっ!」
 ネモは咄嗟に振り返り、どうにか銃を交差させて受けたが勢いを完全に殺す事はできず、ベオウルフの刃は銃を弾き、そのままネモの体も斬り裂いた。
「よし! もう一撃」
 エシックは振り下ろしたベオウルフを構え直そうとしたが、その前にネモに蹴り飛ばされた。
「いい攻撃だったよ、おじちゃん。こんなに痛かったのは久しぶりだよ」
 ネモはそう言ってエシックに銃を連射する。
「ぐはっ!」
 エシックは体に幾つも弾痕を穿たれ、自ら流した血の池に沈んだ。
 その隙にレインウォーカーは死角に回り込み、再び『迅雷』で迫るが、ネモはその動きに合わせてピッタリ銃口を向けてきた。
「同じ手は通じないよ」
 そして発砲。
「ぐぅっ!」
 練力が足りないため『回転舞』をもう使えないレインウォーカーは避けられず、凶弾が体を貫く。
「あれ? もう曲芸は終わり。じゃ、おにいちゃんはもういいや」
 ネモはつまらなそうに呟くと更に発砲。
「かはっ!」
 凶弾が体を貫くたびにレインウォーカーは口と体から血を溢れさせ、そのままその場に崩れ落ちた。


 その頃、立花はワイヤーでトラップを作っていたが、出来上がった時には既に仲間は倒されていた。
「ご苦労様。でも全部無駄だったね」
 そして目の前に銃を構えたネモが現れる。
「ダンタ‥」

 ――ゴォン

 立花は咄嗟に電磁波を放とうとしたが、ネモの凶弾が先に立花を貫く。
「キャーー!!」
 衝撃で立花の体が吹き飛び、激しく地面に叩きつけられる。
「くっ‥ぅ‥‥」
 立花は痛みと失血で遠のきそうになる意識を必死に繋ぎとめ、ネモを睨みつけた。
「あははっ♪ 今日も楽しかったよ、おねえちゃん。じゃあ、今日はおねえちゃんに伝言お願いするね。今日のメンバーは儀式の後に戦車の訓練をしてた子ばかりだから、実は誰も大人を殺した事ないんだ。ここで無差別攻撃したのも僕だけだしね。そんな子供を殺した人の罪や業ってどうやって購われるのかな? 裁判で死刑になったり自殺したりはしないよね。きっとのうのうと生き続けるよね。だったらそれは単なる偽善者だよねぇー! あはははっ!! そうそう、僕が駅を選んだ理由も教えてあげるね。それは駅が一番作戦後の退路を確保しやすかったから。僕はちゃんと退路まで考えて作戦を実行してるんだよ。今までもそうだったでしょ。それじゃ、またね〜」
 ネモがヒラヒラと手を振って駅に向かう。
「くっ!」
 立花は悔しげに歯噛みし、そのまま意識を失った。



●空港

 瑞姫・イェーガー(ga9347)はバイクの後部座席にマチュア・ロイシィ(gz0354)を乗せ、工業地区を疾走していた。
「マチ、これだけは言わせてネモを憎むのも分かるよ。だけどアーチェスを倒しても終わらないよ。もっと増えるんだ。拒む事も出来ない子供も、ネモも‥」
「あぁ、分かっている」
 瑞姫はマチュアを冷静にさせるためにそう声をかけたが、マチュアは思っていたよりも落ち着いていた。
 むしろ今は瑞姫の方が冷静でないかもしれない。
 なぜなら瑞姫はアストレアとスラッグガンの開発に関わっており、それを敵に‥しかもネモに、一般市民を殺すために使われたのだ。冷静でいられる訳がない。
(「アストレアは、こんな事のために‥‥だけど兵器。みんなモノなんだ。ボクらもイノセンスもアーチェスも‥‥」)
 ふと、瑞姫の心にそんな思いがよぎった。

 やがて前方にアストレアの巨体が見えてきたが、ネモの姿は見当たらない。
「ネモがいない。ここじゃなかったの?」
 その事が気になったが、今は戦車を止める事が先決だ。
「アストレア‥止めてあげるよ待ってて。でも、まずは人気のない所に追い込まないと」
 瑞姫はSMG「スコール」を構えてると、戦車のやや右側に掃射。
 すると戦車は左に避け、機銃で反撃してくる。
 瑞姫はバイクを左右に振って機銃掃射を避けつつ、またSMGを戦車のやや右に掃射すると、戦車はまた左に避けた。
 すると、戦車の進路が正面のターミナルビルからだんだん左へとそれてゆく。
 そうして瑞姫は戦車の行く先をコントロールし、美空(gb1906)が先回りしている駐車場へ追い込んでいった。

 全てのバスと車が避難し終えて無人になっている駐車場で待ち伏せしていた美空が戦車の姿を捉えた。
「来たでありますね。tank girlの名に恥じない戦いをお見せするのであります」
 美空は冷静に距離を測り、距離80で戦車の前に飛び出すと、ペリスコープやのぞき窓に大口径ガトリング砲でペイント弾を発射した。
 次々と発射されるペイント弾が戦車に付着し、ペリスコープやのぞき窓も塞がれる。
 アストレアには外部カメラによるモニターもあるので完全に見えなくなった訳ではないが、それでも視界は大幅にダウンしているだろう。
 続いて美空は貫通弾を装填し、キャタピラを潰そうとしたが、リロードを終えた頃には戦車が眼前に迫っていた。
「え?」
 アストレアの速度を見誤っていた美空はそのまま戦車と激突。

 ――ガァン

 と甲高い音が駐車場に響き渡る。
「ギャウ!!」
 持ち前の高い防御力のお陰で怪我はないが、質量と重量差で美空は弾き飛ばされた。

 ゴゴゴッ‥

 そして倒れた美空を踏み潰そうと戦車が迫る。
「ヤバイであります!!」
 美空が慌てて地面を転がって逃れようとした時。

 ――ドォン

 と重低音が響かせながら飛来した弾丸がキャタピラの片側が破砕し、戦車の進路が美空の眼前に左にそれてゆく。
 戦車の脇から後方に視線を向けると、地面で膝立ちになってGバスターキャノンを構えているマチュアと、バイクで突っ込んで来る瑞姫の姿が見えた。
「助かったであります」
 美空は身を起こすと、砲塔部に向けてガトリング砲を正射。
 瑞姫も戦車の手前でバイクから飛び降り、SMGを正射する。
 機銃が吹き飛び、グレネードが爆発し、ジェルが弾けて車体に零れ、M3帯電粒子加速砲の砲身に紫電が走って小爆発を起こす。
 2人が銃撃を終えると、アストレアは無数の弾痕を穿たれた無残な姿となっていた。
「武装解除して降りるであります。大人しく降伏すれば命の保障はするであります」
「本当? 本当に命の保障はしてくれるの?」
 車内から怯えた子供の声で返事がくる。
「本当だよ。だから手を上げて出てきて」
 瑞姫が答えると、やや時間をおいてハッチが開き、手を上げた少女が2人出てきた。
 瑞姫はSMGで威嚇し、美空とマチュアが少女達を拘束する。
 拘束された少女達はやや怯えた様子を見せているが、その表情はどこか安堵している様にも見えた。
「これで一件落着でありますね」
 美空は敵だが子供である彼女達を殺さずに済んだ事に安堵した。
 剣持たぬ者達のために戦う。それが本来の美空の戦いだからだ。
「うん、そうだね」
「あぁ‥‥」
 その気持ちは瑞姫とマチュアも同じだった。
 だが、そうして安堵したのも束の間、3人の目に駅のある方角から黒い煙が立ち昇るのが見えた。



 そして駅に急行した傭兵達が目にしたのは、
 血を流して倒れ伏す3人の仲間と
 完膚なきまでに破壊された駅と
 無数の死体と
 乗り捨てられたアストレアだった。