●リプレイ本文
聖マーガレス学園を臨めるビルに警察が設営した対策本部に人質の救出に志願した9人の傭兵達が集まった。
そして決定された作戦はトラック、体育館、屋上に分かれての同時制圧。
屋上はベーオウルフ(
ga3640)、春夏秋冬 立花(
gc3009)
体育館は柿原 錬(
gb1931)、沖田 護(
gc0208)、マチュア・ロイシィ(gz0354)
トラックは鷹代 由稀(
ga1601)、周防 誠(
ga7131)、一ヶ瀬 蒼子(
gc4104)、エシック・ランカスター(
gc4778)
各班が配置に着いた1分後に一斉行動の予定だ。
「予定外のアクション起こす時は必ず全員に伝えること。‥あたしらがトチったら、死ぬのはあたし達じゃなくて子供達なんだから‥‥」
普段のお気楽な雰囲気が全くない由稀が最終確認を行うと、全員が静かに頷く。
「カモミールはリラックスの作用があります。俺だけ緊張してるのも恥ずかしいので、お付き合いください」
そして作戦開始前にエッシクが水筒に淹れてきたカモミールのミルクティーを皆に振舞った。
「さぁ、マチュアさん」
最も気負いのあるだろうマチュアには気持ち多めにして渡す。
「‥あぁ」
(「気休めにでもなれば良いですが‥‥」)
エシックは横目に様子を伺ったが、ミルクティーを飲み終わってもマチュアの表情は硬い。
「マチュアさん一人で背負わないで下さい。あいつは僕にとっても狩るべき対象ですから」
マチュアを心配した錬が声を掛けたが
「‥‥確かに、ネモの事は私一人の問題じゃない。でもアーチェスの事は私が背負うべき事だ。すまないが‥‥これだけは誰にも譲れない」
マチュアは妙にギラついた鋭い眼差しで告げた後、気まずげに視線を反らした。
「マチュアさん‥‥」
そんなマチュアの態度に錬は次の言葉を続けれなくなってしまった。
●校舎脇
傭兵達は監視カメラの死角を縫って校舎脇の植込みまで移動し、そこから様子を伺うと、正面玄関では後ろ手に縛られた子供達がテロリストに促されて大型トラックに乗り込まされている光景が見えた。
屋上を見上げると、時折チラチラと人影が見える。
体育館の周囲に人影は見られない。
「‥体育館に罠はないけど、たぶん中で待ち伏せされてる」
マチュアが体育館を『探査の眼』で観た結果を告げる。
「とりあえず話を聞くのは後回し、制圧しますよ!」
傭兵達はそれぞれ配置に着くと、周防の合図で作戦を開始した。
●屋上
ベーオウルフは校舎の壁を『瞬天速』で駆け、一気に屋上まで登りつめた。
屋上にいる2人のテロリストにはまだ気づいていない。
(「よし」)
ベーオウルフは再び『瞬天速』を発動し、地対空ミサイルを持つテロリストの背後に近づくと屠龍剣ユニオンブレイド・ツヴァイを振るう。
そこにワンテンポ遅れて立花が『瞬天速』で屋上に到着し、
――バシュ
ベーオウルフがテロリストの少年の首を斬り飛ばす光景を目の当りにした。
「‥‥え?」
立花は自分の目を疑った。
しかし首を失った少年の体は血飛沫を上げて倒れてゆく。
これは紛れもなく現実の光景だ。
そう、ベーオウルフはテロリストを生かして帰すつもりは毛頭無く、元より全滅させるつもりだったのだ。
「そんな‥‥」
敵も人質も死なせないつもりでいた立花は呆然とその場に立ち尽くす。
「ちっ!」
もう一人のテロリストは立花が対処する予定だったが、立花が動かないためベーオウルフが向かう。
テロリストはライフルを撃とうとしたが、ベーオウルフは剣を一閃させて腕ごと銃を斬り落とした。
「あぁぁーー!!」
片腕を失ったテロリストは傷口を押さえて逃げ出そうとしたため、今度は足を斬り落とす。
「うぁ‥あぅぁ‥‥た、助けて‥‥」
床を這って少しでもベーオウルフから遠ざかろうとするテロリストは恐怖に怯えきった表情で命乞いしたが、
「寝言は死んでから言え」
ベーオウルフは氷点下の如く冷えた瞳で見下ろし、剣を振り上げる。
「待って!!」
しかし立花が割って入り、ベーオウルフを止めた。
「ベーオウルフさん! どうして殺したんですかっ!? 殺す必要な‥」
「こいつらはテロリストだ。餓鬼と言えど容赦はしない。それに1人残せば情報は聞きだせる」
ベーオウルフが冷めた口調で立花の言葉を遮る。
「‥‥」
ベーオウルフの言っている事も正しいが、立花は到底納得できない。
「まぁいい。お前はそいつから情報を聞き出せ。俺は警備室に行く」
ベーオウルフはユニオンブレイドをバラして小型剣を2本掴むと屋上から飛び降りた。
「‥‥くっ」
立花は歯噛みすると救急セットを取り出して少年に向き直る。
「殺さないで‥‥殺さないで‥‥」
「大丈夫。もう怖がることはないよ」
そして少年に微笑みかけて怪我の治療をすると優しく抱きしめた。
「怖いものから私が守ってあげる」
「ぅ‥‥うわぁ〜〜!!」
すると少年は立花にしがみつき、声を上げて泣き出したのだった。
その後、警備員室に着いたベーオウルフはショットガンで扉に穴をあけ、そこに閃光手榴弾を投げ込み、その隙に突入。
中にいた2人のテロリストも殺して排除した。
●トラック
トラックでは周防が『探査の眼』で罠の有無を確認してから突入を開始。
周防はテロリストに『瞬天速』で接近すると機械刀「凄皇」で太腿を斬り裂いて倒し、四肢を狙ってオルタナティブMを撃つ。
すると全長680mmの銃から放たれた弾丸は腕や足を撃ち抜くどころか骨を砕き、肉を引き裂き、手足を完全に粉砕し、千切れた四肢が地面に転がった。
「ぐあぁぁーーー!! 手がぁーー!! 足がぁーー!!」
四肢を失った少年が悶え苦しむ。
「ここまでするつもりはなかったのですが‥‥」
FFを持つキメラ等を倒すための大口径の銃で子供の手足を撃てばどうなるか?
自分達がどれほど強力で凶悪な武器を手にしているのか?
能力者ではない人間がどれだけ脆い存在か?
周防はそれらの事を完全に失念していた。
蒼子は『先手必勝』で機先を制し、拳銃「ブリッツェン」でテロリストの腹を撃ち抜いた。
「ぐほっ! ちっ‥くしょう!!」
テロリストは口と腹から血を流しながらバグアの光線銃を発射するが、蒼子は易々と避けて氷雨で光線銃を弾き飛ばし、そのまま袈裟斬りに振り下ろす。
テロリストは血しぶきをあげ、その場にガックリと膝をついた。
「い、いやだ‥‥死にたくない‥‥僕は死にたくない! 頼むよ‥‥助けてよ!」
「――っざけんじゃないわよ! あんたたちが手にかけた人たちも、そうやって同じようにしてたはずよ!」
蒼子は少年の勝手な言い分に怒りを露わにする。
「じゃあどーすればよかったって言うんだよっ!! そうしないと僕が殺されたんだ! 組織の命令は絶対だ。逆らえば僕が殺される。それとも僕が死ねばよかったの? 人を殺すぐらいなら自分が死ぬ方が正しいの? あんたならそれができた? 教えてよっ!!」
少年は怒りと悲しみが内混ぜになった表情で訴えると、失血で意識を失った。
「‥‥」
蒼子は複雑な想いを胸に『蘇生術』で少年の治療を始めたのだった。
「来るなっ! 来るなぁー!!」
トラックに向けて一直線に駆けて来るエシックにテロリストはサブマシンガンを乱射してきたが、放たれた銃弾はいずれもエシックに傷一つつける事ができなかった。
テロリストを間合いに捉えたエシックは一撃で決めるつもりで旋棍「砕天」を相手のテンプルに全力で叩きこんだ。
すると、
――グシャリ
と鈍い手ごたえが返ってきた。
そしてテロリストの体がグラリと傾き、そのまま地面に倒れ伏す。
エシックはすぐにテロリストの手を拘束したが、どうにも様子がおかしい。
「おい?」
テロリストの顔を伺うと、完全に事切れていた。
脳挫傷と頸骨骨折
それがこの少年の死因だ。
「テロリストに種類はない‥‥。たとえ敵が子供でも‥気にしてしまったら本末転倒‥‥。でも‥これは‥‥たまらないな‥‥」
子供を守る。
その事を消防士時代から第一に掲げていたエシックの心に苦い物が広がっていった。
そうしてトラックの制圧を終えた4人は乗せられていた子供達が強化人間や洗脳を受けていないかのチェックを始めた。
蒼子は薬莢を投げてFFを確認。
「いたっ」
薬莢を頭に受けた子供はちょっと痛そうだ。
「はい、OKよ。次の子来て」
エシックは巨大ハエタタキでFFを確認。
「儀式です、我慢してくださいね」
ペチッ
「はい、もういいですよ」
「はーい」
こちらは当たっても痛くないので子供達に好評だ。
そしてFFの確認が終わった子を今度は由稀が洗脳されていないか確認する。
「目を見て分かるものなの?」
「目は口ほどに物を言う、ってね。本当の感情ってのは自然と目に出ちゃうモンさね」
蒼子の疑問に得意気に答え、由稀は子供達の目を見て確認してゆく。
結局、トラックの子供達は全員が普通の子だったが、作業の途中で校内の探索に向かった周防から無線が届いた。
『こちら周防。1階トイレで子供を拉致したテロリスト2名を発見。下水道から逃走を計る模様。制圧も可能ですが、自分は追跡して敵のアジトを割り出したいと思います』
「了解。だったら、あたしもそっちに行くわ」
『了解です』
無線を受けた由稀は周防と合流し、『隠密潜行』で追跡を開始した。
●体育館
護は正面の扉へ駆け寄ると溶接部を機械剣αで溶かし斬り、マチュアが力任せに開ける。
「動くなっ!」
そして突入した護はプロテクトシールドで身を守りつつ、拳銃「ヘイズ」を構えて待ち伏せている敵を探す。
だが、400人以上いる子供の中から伏兵を探すのは至難の技だ。
『わぁーー!!』
しかも護の突入に驚いた子供達が騒ぎ出し、更に探し辛くなる。
「落ち着いて、僕は‥」
護がなだめようとした時、
ガシャーン
外から『竜の翼』で2階まで駆け登った錬が窓から飛び込んできた。
『キャーーー!!』
その事で更に驚いた子供達がパニック状態になる。
特に錬の周辺はガラスで傷を負った子などもいて最も混乱が酷い。
「ち、違うんだ! 僕達は‥」
錬も慌てて子供達をなだめようとしたが
「殺されるーー!! みんな逃げろーー!! 出口に走れーー!!」
不意に一人の子供がそう叫んだ。
「この声は‥‥アーチェス!!」
錬はそれをネモの仕業だと看破したが、恐怖に怯えた子供達は出口に殺到する。
「待って! 落ち着いて!! 僕達は君達を助けに来たんだ!」
子供を傷つける覚悟はできていた護だが、目の前に殺到してくる子供達はテロリストではなく普通の子供だ。手は出せない。
そのため出口にいた護とマチュアは子供達の人波に呑みこまれた。
そして
――ゴォン
轟音が響き、マチュアの体を灼熱の弾丸が撃ち抜く。
「ごふっ!」
競り上がってきた血が口からあふれる。
振り返ると、人波の中にニヤニヤと笑っている長い黒髪の少女がいて、更に銃を撃ってきた。
再び衝撃と激痛に見舞われたマチュアの体が吹き飛ぶ。
(「この子は‥‥アーチェス?」)
急速に遠のいてゆく意識の中でマチュアはそんな事を思った。
「マチュアさん!?」
護は機械剣αを抜き、その少女に斬りかかったが、少女は近くの子供を突き飛ばしながら退がって避ける。
「おにいちゃん、避けると子供に当たるよ」
そう言って少女が銃を連射する。
少女の言う通り後ろに子供がいるため護は盾を構えて身を守るしかない。
だが大口径から放たれた凶弾は盾を易々と貫き、護の体も貫通する。
「ぐぅっ‥‥」
傷口から溢れ出た血液と共に全身から力が抜け、護はその場に崩れ落ちた。
「お前は‥ネモなのか?」
護が薄れゆく意識の中で尋ねる。
「そうだよ。アーチェスは顔が可愛いからウィッグを着けて軽く化粧するだけで女の子に見えるんだ。マチュアお姉ちゃんでも分からなかったんじゃないかな」
「くっ! 僕は‥おまえほど‥卑劣で美点という物のないバグアを‥‥見た事が‥ないよ」
護の意識はそこで途絶えた。
「あははっ! それって僕にとっては最高の褒め言葉だよ」
「ネモーー!!」
護を嘲笑うネモに錬が激昂する。
「その声は錬おねえちゃんかな? また会えて嬉しいよ」
「うるさい!! お前だけは絶対に許さない!! お前は僕が狩る!」
錬は機械剣αとβを構え、『竜の翼』で一気に斬りかかろうとしたが、2人の間にいる子供を弾き飛ばしてしまうため『竜の翼』は使えない。
「ふふっ、錬おねえちゃんも優しいから大好きさ」
それが分かっているネモは悠然と銃を錬に向ける。
射線の間には子供がいるため、子供を守るには錬が動くしかない。
「くそっ!」
錬の移動位置を簡単に予測できるネモはそこに銃を連射。凶弾がアスタロトに無数の弾痕を刻み、錬も自らが流した血の海に沈んだ。
「あははっ、今日も楽しかったよ、お姉ちゃん達。じゃあ最後に質問。テロは確かに悪かもしれないけど、テロリストになるしか生きる道がなかった人に殺される程の罪があったのかな? 君達は自分の勝手な正義で無力な人を裁いたのかもしれないよ。そこに罪はないのかな? はははっ! それじゃ、また遊んでね」
そしてネモは体育館から逃げた子供達に混じって学園から姿を消した。
●下水道
周防と由稀が追跡を始めて10分ほど過ぎた頃、テロリスト達は梯子を登って地上に出て行った。
2人も少し間を置いてから同じ梯子を登り、マンホールを少し開けて注意深く辺りを伺うと、テロリストが人質を軽トラックに乗せている光景が見えた。
「車で連れ去る気ですね」
「周防さん、どうする?」
「‥‥」
2人は車で逃走される可能性に気づいていたが、その際の対応を考えていなかった。
そうしている間にも車は発進してしまう。
「仕方ない。追跡は諦めて人質を救出しましょう」
「了解」
周防は『瞬天速』でトラックを追い、由稀は拳銃「バラキエル」を構え、『超長距離狙撃』でタイヤを撃ち抜いた。
「ふぅ〜‥射程ギリギリだわ」
コントロールを失ったトラックは蛇行し始め、やがて止まる。
そこに周防が取り付こうとしたが、
「動くなっ!」
テロリストの一人がアンリエッタの頭に銃を突きつけたため、足を止めざるを得なかった。
「武器を捨てろ!」
テロリストは『隠密潜行』で近づいていた由稀にも告げる。
「‥分かったわ」
由稀は腕を横に伸ばし、銃を捨てる振りをして『跳弾』を発射。ビルの壁を跳ねた弾丸がテロリストの銃を弾き飛ばす。
「今よ周防さん!」
「了解!」
その隙に周防がトラックに突入。あっと言う間に3人のテロリストを制圧した。
●事後
こうして聖マーガレス学園での事件は終結した。
人質となった学園の子供達の中には怪我をした者もいたが全員命に別状はない。
だが、子供達が負っただろう心の傷の深さは分からない。
そしてテロリストの首謀者であるネモには逃げられ、3人の傭兵が重体。
他のテロリストも10人中4人が死亡、3人が重体だった。