●リプレイ本文
見渡す限り一面に緑が広がるジャングルの上を8機のKVが低空で疾走し、衝撃波が木々の葉を散らしてゆく。
「この非常時にマウル・ロベル少佐直々のブリーフィングとは驚いたな‥‥それだけあの高速型が脅威ということか」
その道中、ウラキ(
gb4922)が自身の推論を述べる。
「そんな事より! せっかくコロンビアが奪還されたって聞いたのに‥‥こんなんじゃ、いつまで経っても彼と私の新生活が始められないじゃない! 冗談じゃないわっ!」
本当は片想いだが脳内では既に恋人と化している想い人とのラブラブ生活を夢想する崔 美鈴(
gb3983)が頬を膨らませて怒った。
「エシックさんもリンクスを購入したでありますか。桃2とお揃いでありますね」
美空・桃2(
gb9509)が最近仲良くなったエシック・ランカスター(
gc4778)に話しかける。
「そうですね。今回がリンクスとの処女任務ですし、バイパーとの違いを掴んでおきたいところです」
大の女好きであるエシックは人好きのする柔らかい笑み浮かべて応えた。
エシック自身は桃2の様な幼い女の子が戦場に出る事を好まないのだが、桃2の戦闘能力と有用性を認めない訳にはいかない。
「目標探知! でかいぜ!」
そうして一行が現場に向かっていると、リック・オルコット(
gc4548)が目標のビッグフィッシュを発見する。
BFは船体の3分の2を密林に埋める様にして停泊していた。
「BF‥。不時着かどうかは確認が取れていません。迅速に、油断せずに行きましょう」
ナンナ・オンスロート(
gb5838)が油断なく様子を伺う。今のところBFに動きはない。
「まずは相手の出方を見るか」
ウラキはBFの出方を見るためD−03ミサイルポッドでBFの周囲にミサイルをばら撒く。
するとBFは木々を薙ぎ倒しながら強引に真横に動いた。
そのためミサイル群の大半が避けられ、残りもファランクスにほとんど迎撃され、船体に命中したのは1、2発程度だった。
その命中弾も装甲の厚い部分に当たったためダメージは軽微だ。
だが、今のでファランクスの反応と密度、有効射程はだいたい掴めた。
「動いたであります」
「どうやら不時着した訳ではないようですね」
「でも飛ばないよ。どうしてかな?」
桃2、ナンナ、美鈴がBFの様子を伺う。
「レーダーに反応があります。これは‥‥」
イスル・イェーガー(
gb0925)のウーフー2のレーダーがBFから何かが多数排出されているのを捉えた。
「キメラ製造プラントで作られたキメラではないでしょうか? 逃げられると周辺住民や兵士達に危険が及ぶ可能性がありますね」
レミア=スレイア(
gb9501)が述べた推論は的を得ていた。
「だったらとっとと倒しちまおうぜ。さあ、派手なパーティーの始まりだ!」
傭兵達はリックの言葉を合図に2班に分かれ、BFの左右に散った。
そしてリックは『空対地目標追尾システム』を起動し、84mm8連装ロケット弾ランチャーを発射。
対するBFは対空拡散プロトン砲を照射。無数の光弾が弾幕が放たれた24発のロケット弾に浴びせかけられ、被弾した7発がその場で爆発する。
だが、弾幕を抜けた残り17発のロケット弾はグロームの各種対地センサーに導かれ、密林に阻まれて視界の通らない箇所でも的確に飛来し、目標に命中した。
BFの船体が激しく振動し、炎と煙が吹き上がる。
「では、リンクスの力を試すとしましょうか」
エシックは『リンクス・スナイプ』を起動し、BFの機関部があると思われる後部に狙いを定める。
だが、BFの後部は木々に覆われていて視界が通らないため『リンクス・スナイプ』を使用していてもロケット弾での精密射撃は非常に困難であった。
そのため、エシックの放った84mm8連装ロケット弾ランチャーはBFに命中はしたものの、機関部は外した。
スナイプに特化したリンクスだが、対地攻撃に関しては誘導追尾までできるグロームに軍配が上がる様だ。
ナンナは『超伝導アクチュエータ』を起動し、84mm8連装ロケット弾ランチャーをばらまくように撃ち放った。
シラヌイではスキル使用していてもグロームやリンクス程の命中精度は得られないため数発しか当たらなかったが今はそれで構わない。
このまま攻撃を続けて相手の動きを見切り、逐次修正を加えれば命中精度は上げてゆく事ができる。
それに今でもBFには確実にダメージを与えられている。
このまま波状攻撃を仕掛け続ければ確実に撃破できるだろう。
しかし敵も黙ってやられてはいない。
仲間達よりやや上空で電子支援と哨戒を行っていたイスルが周囲の密林から急浮上してくる物体を感知した。
「真下から何か来ます!」
イスルは警告を発すると同時に『強化型ジャミング集束装置』を起動。
その直後に8機のHWが周囲に急浮上し、一斉にプロトン胞を放ってきた。
「わわっ!」
美鈴は慌てて『対バグアロックオンキャンセラー』を起動させたが、この能力は敵機を自機のレーダーで捉えている必要があるため、奇襲してきた敵に対しては効果が薄い。
「くっ!」
傭兵達は急制動で回避を行ったが、避けられたのは敵に気づいていたイスルと、高い回避力を持つナンナだけで、他は皆直撃を受けた。
ナンナはすぐに機首を巡らせて反撃しようとしたが、銃口を向ける前にHWは密林に急降下して身を隠す。
「Hit and Awayですか‥‥。嫌な攻撃を仕掛けてきますね」
「伏兵‥だね。少佐はこの事を予期して僕たちに逆探知装置を持たせたのかな‥?」
「あ、なるほどね〜」
イスルと美鈴はすぐに試作型の逆探知装置を起動し、HWの索敵を開始する。
するとイスルは5機。美鈴は1機探知した。
「あれ? それで隠れたつもりなの? 馬鹿なの?」
美鈴は嗜虐的な笑みを浮かべると探知したHWに向けて127mm2連装ロケット弾ランチャーを発射。
「桃2、敵を狙い撃つであります」
「システム、起動。アプローチ開始」
桃2は『リンクス・スナイプ』を、レミアは『空対地目標追尾システム』を起動し、2人も美鈴の狙うHWに127mm2連装ロケット弾ランチャーを発射する。
HWは避けようとしたが木々が邪魔で満足な回避機動がとれず、十数発ものロケット弾の直撃を受けて木っ端微塵に吹き飛んだ。
だが、残りのHWはすぐに移動したらしく探知装置が位置を見失う。
「隠れたって無駄よ。またすぐに見つけちゃうんだからー」
美鈴は再探知を行ったが、今度はまったく探知できない。
「あれ? ごめんね、うまくいかないみたい‥‥もう一回!」
だが、結局美鈴は戦闘終了まで最初の1機以降は敵を探知する事は出来なかった。
どうやら試作型逆探知装置は知覚の低いイビルアイズとはあまり相性が良くなかった様である。
「地上のお掃除は桃2に任せるであります。ごみさん、ごみさんどこでありますか―」
「逆探知機に感有り‥敵位置情報を転送します‥‥」
一方、イスルは常に5機前後の敵を探知し、味方に位置情報を伝える。
イスルからHWの位置情報を受け取った桃2は『リンクス・スナイプ』でロケット弾を発射。
桃2に合わせてレミアも同じ目標にロケット弾を放つ。
HWに潜む密林にロケット弾が飛び込み、爆発。炎が上がり、木々を吹き飛んでゆく。
「やりましたか?」
「‥‥いえ、まだ反応があります」
「仕留めきれてないでありますか?」
イスルの報告を聞いた直後、レミアの後背に探知できていなかったHWが急浮上し、プロトン砲を照射してきた。
超高熱の光はレミアのグロームの左のジェットを直撃。尾翼と噴射口が融解する。
「あぅっ!」
幸い左エンジンは誘爆しなかったが、出力は大幅に下がった。
そして奇襲をかけたHWは密林に降下する。
「逃がさない!」
しかし、降下しきる前に美鈴がスナイパーライフルで狙撃。HWのど真ん中を撃ち抜く。
HWは傷を負いながらも密林に潜った。
「燻りだします」
だが、ナンナがHWの効果地点を中心にロケット弾を撃ち込み、木々を焼き払って吹き飛ばし、潜んだHWの姿を曝け出す。
「あはははは!! 死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえーー!! あはははは!!」
そして丸見えになったHWに美鈴が凄惨な笑みを浮かべながらロケット弾を撃ち込み、完膚なきまで破壊した。
「さて‥帰るのは爆弾落として機体を軽くしてから、だ」
ウラキはミサイルポッドを放ってファランクスの気を反らした隙にBFに急接近。
BFは対空拡散プロトン砲で進攻を阻もうとするが、ラージフレアを撒きつつバレルロールで弾幕を抜ける。
「まだだ‥まだ引き付ける」
そして十分に接近した所で『空対地目標追尾システム』を起動し、BF後部の機関部に照準を合わせてトリガーを引いた。
放たれた84mm、127mmそれぞれのロケット弾がBFに突き立ち、大音響と共に爆発。装甲に大穴を穿つ。
「よし! 突破口が開いた。あの穴を中心に攻撃を叩き込め」
「了解です」
「弾はまだまだあるぜ? 遠慮なく喰らいな!」
エシックとリックはBFの後ろに回り込んで攻撃を仕掛けようとした。
しかし
「4時と9時に敵です!」
イスルが警告を発して電子支援をした直後、2機のHWが2人の左右に浮上し、攻撃を仕掛けてくる。
「くっ!」
「ちぃ!」
エシックは攻撃を中断して回避したが、リックは装甲の厚い部分で受けてそのまま直進。弾幕に晒されながらもBFにロケット弾を叩き込む。
「どうだ!」
ロケット弾は穴の中に命中し、BFは盛大な煙を噴いていた。
「無茶をする人ですね‥‥。支援しますからリックさんはそのまま攻撃を続行してください。イスルさん、HWの位置情報をこちらに」
エシックはBFへの攻撃をHWに切り替え、ウラキとリックが狙われないように支援攻撃を始めた。
そうして傭兵達はイスルの探知情報を基点にHWを抑え、ウラキとリックが中心になってBFにダメージを与え続けた。
探知を逃れたHWの攻撃で傷つく者もいたが、やがてBFに開けた穴で爆発が起こり、完全に動かなくなる。
「機関部をやったか?」
だがBFは全てのハッチを開け、一気にキメラの放出を始めた。
「これ以上キメラばら撒かれるわけにはいかないね‥‥」
「はい、キメラも可能な限り倒しておきましょう」
「了解です。対戦車砲セット」
イスル、ナンナ、レミアがキメラの排出口を狙って攻撃を開始する。
「往生際が悪いぞ」
「トドメを刺してやるぜ!」
そしてウラキとリックがBFへのアプローチを開始した時
「あ! 3時、8時に敵です!」
「えーい!」
イスルが警告を発し、美鈴が咄嗟にロックオンキャンセラーを起動する。
だが現れたのは2機ではなく4機で、ウラキとリックに集中砲火を浴びせかけてきた。
「くそっ!」
ウラキはラージフレアを撒きながら回避機動を行ったが、全ての攻撃を避ける事は叶わず、超高熱の光が次々とグロームを撃ち抜いていった。
機体に大穴が開き、翼は半分融解し、エンジンが火を噴き、出力が低下、計器類の半分が死滅、機体のコントロールも鈍る。
一方、リックのグロームは機首が融解してコクピットハッチが歪み、エンジンは2基とも火を噴いて停止、コクピットのコンソールから光が消え、操縦桿もほとんど効かず、リック自身も酷い火傷を負い、墜落しないように飛んでいるのがやっとの状態だ。
「くそ‥‥。こんな所でやられて‥‥たまるかよっ!!」
リックは右手を振りかぶり、目の前のコンソールの角を力一杯殴りつけた。
すると
キューン
と甲高い音を立てて止まっていたエンジンが再起動。
死んでいたコンソールにも光が灯り、操縦桿にも手応えが戻ってくる。
「嘘だろ‥‥マジかよ? 本当に拳一発で直ったぜ!!」
リックは歓声を上げなら操縦桿を引き、墜落寸前だったグロームを再び舞い上がらせた。
「そう、戦場での運っていうのは‥‥馬鹿に出来ないよ」
ウラキは蘇ったリックのグロームの姿を見て口元に小さく笑みを浮かべると自分も右手を振り上げ、コンソールの角に叩きつけた。
シーン‥‥
しかし、ウラキのグロームは復調する兆しすら見せなかった。
「‥‥あれ? おかしいな。ノーヴィ・ロジーナはこの角度だったのに‥‥グロームは違うのか?」
ウラキは2度3度と叩きなおしてみたが、グロームはうんともすんとも言わない。
「あれ? リックさんは復活したのにウラキさんは飛び上がってこないよ」
美鈴が首を傾げる。
「どうやらウラキさんは復帰に失敗した様ですね」
同じグローム乗りであるレミアはウラキの事情を察する事ができた。
「いけない! あのままだとHWに狙い撃ちにされます」
ナンナが救援に向かおうとした直後、ウラキの背後にHWが出現する。
「くっ!」
ウラキはラージフレアを放出して回避機動に入ったが機体の動きが鈍い。
そしてHWからプロトン砲が放たれようとした、その時。
超音速で飛来した弾丸がHWを撃ち抜き、HWが体勢を崩した所を更にもう1発弾丸が貫通する。
胴体中央部に2つの貫通痕を刻まれたHWはしばらくフラフラと漂った後、その場で爆発した。
「間一髪でしたね」
「手癖の悪い虫さんであります。ちょっとくらい生き延びても人生の余禄が増えただけにすぎないのであります」
それはエシックと桃2がスナイパーライフルLPM−1とリンクススナイプを併用して行った精密射撃による攻撃だった。
「‥‥すまない。助かった」
ウラキは2人に礼を言って冷や汗を拭った。
その頃、奇跡の復活を果たしたリックはBFに再アプローチをかけていた。
「空対地目標追尾システム起動。‥‥ロックオン完了。いっけぇーー!!」
そして放たれたロケット弾はBFに開いた大穴に吸い込まれ、機関部を直撃。
機関部は誘爆を起こして火の玉と化し、BFは船体の内側で発生した爆発のエネルギーで弾け、バラバラに吹き飛んだ。
その余波は周辺のキメラをも飲み、辺りを木々も薙ぎ倒していった。
「‥‥周辺に敵機の反応なし。どうやら残りのHWは逃げたみたいだね」
BF破壊後、ウーフー2のレーダーと逆探知装置を使って哨戒を行ったイスルが皆に報告する。
「ふぅ、大体把握しました‥‥ビッグフィッシュの状態はどうでしょうか」
エシックがBFの破壊地点上空を飛んで確認を行う。
BFの周辺は焦土と化し、BFの残骸や炭化した木やキメラがアチコチに転がっている状態だった。
「BFの部分の回収を少佐に依頼しようかと思っていたのだけど‥‥これでは撃墜したものより保存状態は更に悪いな‥‥」
ウラキが眼下の惨状を見て苦笑を浮かべる。
「まぁ、BFを破壊してキメラもほぼ掃討できたのですから、それで良しですよ」
ナンナがウラキを慰める。
リックは安全だと分かるとチタン・スキットルを取り出し、口をつけていた。
ウォッカの風味が舌に広がり 咽を通り、胃の腑に落ちてゆく。
「くはぁーー!! ちと傷に滲みるが、仕事の後の1杯はやっぱり最高だな」
しかしアルコールのせいで傷口が開き、怪我が悪化。
再び応急手当を受ける事になり、仲間達に呆れられたのだった。