●リプレイ本文
甲高いエンジン音を響かせながら2台のインデースと2台のAU−KVがマチュア・ロイシィ(gz0354)を攫ったアーチェス・ロイシィの駆るジーザリオを追って疾走する。
「私達が先行して気を引きます」
春夏秋冬 立花(
gc3009)をAU−KVに乗せた橘川 海(
gb4179)が加速して接近するとジーザリオの荷台の自動機銃ファランクス・アテナイが火を噴いた。
「立花ちゃん、しっかり掴まってて!」
海はハンドルを切ると同時に体も倒し、AU−KVを左右に蛇行させて何百発もの弾幕を潜り抜ける。
「ダンタリオン! その力を我が前に示せ!」
そして立花が機械本「ダンタリオン」から電磁波を放ったが、アーチェスには易々と避けられた。
「あいつらマチュアお姉ちゃんが乗ってるのに構わず攻撃してきたよ。酷いなぁ〜。きっとお姉ちゃんの事なんてもうどーでもいいんだね」
「そんな事ありません! 車を止めるために攻撃しているだけです。私はマチュアさんアーチェスさんに戻って来て欲しくて追ってきたんです!」
アーチェスの言葉に立花が反論する。
「さて、たまにはスナイパーらしいところ見せないとね」
海の少し後方を走る上条・瑠姫(
gb4798)のAU−KVの後部座席に便乗した周防誠(
ga7131)がスナイパーライフルを構え、道の凹凸や敵味方の相対速度を計算しつつ、ジーザリオのタイヤを狙ってトリガーを引いた。
しかしアーチェスは周防の狙撃のタイミングを読み、急ハンドルを切って避ける。
「避けられた?」
周防は弾切れになるまで狙撃を続けたが結局全弾避けられた。
「遠距離からの狙撃では埒があきませんか‥‥仕方ない。上条さん、接近してください」
「分かりました」
周防が武器をアラスカ454とSMG「ターミネーター」に持ち替え、瑠姫が少し距離を詰める。
――ゴォン
するとアーチェスが半身を振り返らせて腕を伸ばし、長大なオートマティックを瑠姫に撃ち放ってきた。
「っ!?」
瑠姫は咄嗟に車体を倒して避けたが、既に2発目と3発目が眼前に迫っている。
2発目は何とか避けたが、3発目が直撃。
銃弾はリンドヴルムのカウルを砕き、瑠姫の脇腹もえぐって貫通した。
「くぅっ!」
衝撃で身体と車体がふらついたが何とかバランスをとって転倒だけは防ぐ。
「大丈夫ですか、上条さん?」
「えぇ、平気です」
周防にそう答えたが脇腹の傷は深く、滴る血が道路に幾つもの赤い斑点を残してゆく。
「では、ジーザリオより前に出てください」
「はい。橘川さん、サポートお願いします」
「了解です」
瑠姫がアクセルを全開にして一気の前に出ると、海はアーチェスと瑠姫の間に入って射線を塞ぐ。
そしてジーザリオの斜め前に出た周防を半身を捻り、全面ガラスに向けてアラスカ454に込めたペイント弾を撃った。
アーチェスはハンドルを左右に切って車体を振ったが6発全てを避ける事はできず、全面ガラスにベッタリとペイントが付着した。
「こんなの!」
アーチェスは車内から銃を乱射してガラスを割り、視界を確保する。
「逃がさないっすよ!」
「こんな事態を引き起こしたのは弟に他ならないけど、絶対に許さない。ボクは弟を護るって子供の時死んだ母さんに約束したから」
その隙に後方から徐々に接近していた虎牙 こうき(
ga8763)と瑞姫・イェーガー(
ga9347)が運転するインデース2台がジーザリオを射程に捕らえ、こうきは小銃「クリムゾンローズ」を、瑞姫は小銃「フォーリングスター」を撃ち放つ。
(「誰かを守るのではなく、誰かを取り返すってのは私の本分じゃないんだけれど‥‥今はそんなこと言ってられないわね‥!」)
こうきの車に同乗している一ヶ瀬 蒼子(
gc4104)も拳銃「ブリッツェン」を撃ち、瑞姫の車に同乗している悠夜(
gc2930)も小銃「ブラッディローズ」を構えたが、
「あれ? 届かねぇ‥」
彼の銃だけはまだ射程外だった。
「ダーッ! 瑞姫、もっと飛ばしてくれ!」
「無理言わないで。これでもアクセルは全開」
ともかく、2台のインデースから放たれた十数発もの弾丸の半分近くが命中。ナンバープレートが弾け、バンパーが折れ曲がり、車体に幾つもの弾痕を刻んだ。
その頃、前方でも立花がダンタリオンで攻撃を続け、周防がアラスカ454をリロードしながらSMGで銃弾をばらまいていた。
アーチェスは周防の攻撃を集中的に避けながら瑠姫を撃とうとしていたが、海がちらちらと射線上をよぎるため狙えない。
「そっか‥おねえちゃん達が先にやられたいんだ」
アーチェスはアテナイが海に攻撃を始めた時を狙ってオートマティックを撃ち放った。
回避力の高い海でも数百発もの銃弾を避けつつアーチェスの攻撃まで避けるのは困難だ。
「避けられない!?」
海はグッとハンドルを握って身を堅め、衝撃に備えた。
そして肩と大腿部にハンマーで殴られた様な衝撃と灼熱の激痛が走る。
「くぅ!」
衝撃でAU−KVがバランスを崩して斜めに傾く。
「倒れないっ!!」
海は地面を蹴り、無理矢理車体を引き起こして体勢を立て直した。
だが体勢を崩している間に失速したため、瑠姫への射線ががら空きになる。
「ちぃ!」
周防はタイヤを狙ってSMGで銃弾をばら巻きながらアラスカ454でアーチェスと応戦。瑠姫はライオットシールドを構えて身を守る。
タイヤホイールが弾け飛び、窓ガラスが割れ、銃弾がアーチェスの肩に喰い込む。
だがアーチェスの放った凶弾も瑠姫の盾を突き破って体に喰い込んだ。
「ぁ‥‥」
衝撃で瑠姫の体とAU−KVがふらつく。
瑠姫は何とか体勢を立て直そうとしたが腕に力が入らず、AU−KVは横転。
投げ出された周防も地面に叩きつけられる。
「ぐはっ!」
受身は取れたが勢いのついた体は地面に何度も打ち据えられた。
「っぅ‥‥まいったね」
痛む身体を起こした周防はもうジーザリオに追いつけない事を確認すると瑠姫の元に向かって手当てを始めた。
「次はおねえちゃん達の番だよ」
アーチェスが海にもトドメを刺そうと狙いを定める。
「ダチはやらせねぇー!!」
だが瑞姫の車が割って入り、悠夜がブラッディローズを乱射。車体とボンネットに無数の穴を穿つ。
「もー邪魔しないでよ」
アーチェスは狙いを瑞姫に変えて銃を放つ。
弾丸はボンネットを貫通。エンジンルームから異音が鳴り、煙が噴き出してきた。
「やべ! 爆発する!」
「しない! まだ大丈夫だ!」
その間に瑞姫とは逆側からこうきが接近。
アテナイが弾幕を張るが、蒼子が『自身障壁』とマーシナリーシールドで受け止める。
弾丸が何発か身体に喰い込んだが、蒼子は構わず穴だらけのボンネットに更に銃弾を撃ち込んだ。
するとボンネットが吹き飛び、エンジンが火を吹いた。
「下手な鉄砲数撃ちゃ当たるってね」
「よし! あと一息っすよ」
「一気に決める!」
蒼子は更に弾丸を撃ち込もうとしたが、
「これ以上やらせないよ」
アーチェスが窓から手を伸ばし、前輪に向かって銃を連射。
タイヤが弾け飛び、車がコントロールを失う。
「この!」
こうきは何とか制御しようとするがどんどん失速してゆく。
「バイバイ、おにいちゃん、おねえちゃん」
その間にもう片方の前輪も狙い撃たれて潰され、車体が前のめりになって地面と接触。
車体と地面の間で盛大な火花が散らしながら更に失速し、完全に止まった。
「くそっ! ここまでか‥‥」
「追跡不能になった。すまない。後は頼む」
こうきが悔しげにハンドルに手を打ちつけ、蒼子が無線で状況を知らせた。
残るは負傷した海と、エンジンが半壊した瑞姫のインデースのみ。
「こりゃあヤバイな‥‥。しかたねぇ、海と立花はアテナイとアーチェスをひきつけろ。その間に瑞姫はギリギリまで車を寄せてくれ」
ある覚悟を決めた悠夜が3人に頼む。
「何をするつもりですか、悠夜さん?」
「説明してる時間はねぇ、頼むぞ立花!」
「わ、分かりました」
「了解です」
「いくよ!」
そして3人が悠夜の指示通り動き、車が接近した瞬間
「でぇぇい!」
悠夜がジーザリオに乗り移るために跳躍した。
アテナイが反応して銃口を向けてきたが、銃身にガラティーンを叩きつけて反らし、荷台に着地する。
「スクラップにしてヤるぜ!」
悠夜はガラティーンを振り下ろしてアテナイを破壊すると、ブラッディローズを下に向けて撃った。
発射された散弾が荷台を破壊し、更にその下のタイヤも潰す。
するとジーザリオの車体が傾き、蛇行し始めた。
「うわわっ!」
アーチェスがハンドルを操って何とかバランスと速度を維持するが
「止まれっ!!」
悠夜がブラディローズで逆の後輪も破壊。ジーザリオは激しく振動しながら減速し、遂に止まった。
「よし! 後は‥」
――ゴォン
マチュアを救出しようとした悠夜だったが、アーチェスの凶弾がその体を貫いた。
「がはっ!」
口から鮮血が溢れ、力の抜けた膝が折れ、悠夜はゆっくりと荷台に倒れ伏した。
「あ〜ぁ、止められちゃった。あと少しだったのに‥‥」
アーチェスが両手に銃を持って車から降りてくる。
瑞姫は逃走に使われないように鍵をねじ切ってから車を降り、海は立花を下ろしてAU−KVを纏う。
「アーチェスさん、投降してくれなせんか? 残念ながらマチュアさんとは一緒には暮らせません。戦争が終わらない限りは。貴方が手伝ってくれれば、それも無理じゃないんです。ネモ様って相手の事も何とかします」
立花がアーチェスに呼びかける。
「ねぇ、マチュアお姉ちゃんをバグアに連れて行ったらすぐにでも僕と一緒に暮らせるんだよ。その方が僕にとってメリットが大きいのに、どうしてそっちに行かなきゃいけないの?」
「それは‥‥」
立花が言いよどむ。
「交渉決裂かな」
瑞姫が立花に代わって前に出た。
「うちの妹の錬が、世話になったなこのクソ虫が。ボクは見た目がガキでも甘く見たりはしねぇ。それにアンタ‥‥ホントはネモなんだろ」
「えっ!?」
「そんなはず‥‥」
瑞姫の指摘に海と立花が驚き否定しようとしたが、確かにそう考えれば今までのアーチェスの行動に合点がいく箇所が幾つもあり、否定しきる事が出来なかった。
「くくくっ‥ふふっ‥‥あはははははっ!」
皆から疑惑と不信の目を向けられたアーチェスは含み笑いを漏らした後、声を上げて笑い出した。
「おねえちゃん凄いね。どうして分かったの? やっぱり実の姉妹は騙せないのかな? そうさ。ご指摘の通り、僕がネモだ」
アーチェスが不敵な笑みを浮かべて自ら正体を明かした。
「‥‥な」
マチュアは絶句し、顔を青ざめさせてアーチェスを‥いや、ネモを見る。
頭の中が真っ白になる。
ぐらぐらと視界が揺れる。
「嘘だ‥‥」
「ねぇ、僕の里親だけ生きてたり、地下に罠があったり、逃走用の車があったり、変だと思わなかった? そんなのお姉ちゃんを捕らえるための罠に決まってるじゃない。なのに馬鹿正直に本気で優しく説得してくるんだもん、笑っちゃうよ。せっかく嘘八百並べ立てて上手く説得してくれるなら、わざと捕まって家族ごっこをしてあげようと思ってたのにさ」
信じられない。信じたくない。
だがこれは現実だ。
残酷な‥現実だ。
「あぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーー!!」
闇よりも暗く深い絶望がマチュアの心を染め上げ、言葉にならない慟哭を叫び、とめどなく涙を零す。
「許さない! アーチェスさんの体を使ってマチュアさんやみんなの心を弄ぶアナタを絶対に許さないっ!!」
海は『竜の瞳』を発動させ、『竜の翼』で一気にネモとの間合いを詰めると頭を狙って棍棒で鋭い突きを放つ。
「破っ!」
「おっと!」
突きは眼前で銃を交差させて防がれたが、海はそのまま棍を旋回させて足を払いにいく。
「わっ!」
ネモは跳ねて避けたが、海は更に棍を旋回させて肩口に振り下ろす。
「くっ!」
ネモは銃を肩に当てて受けたが衝撃が肩に響く。
海はそこから棍を回転させ、下から顎を狙って打ち上げる。
「っ!」
その一撃は避けられたが、棍の遠心力を保ったまま横凪に振るって側頭部を狙う。
ネモは身を反らして避けたが、上体が反れた所を狙って鳩尾に突きを放った。
「かはっ!」
棍をまともに喰らったネモは地面を蹴って海から距離を取った。
「妹や仲間が受けた痛みを百万倍にして、てめぇの体に刻んでやる!!」
だが、今度は横合いから接近した瑞姫が妖刀「天魔」で斬りかかる。
まず腕を斬り落とす勢いで上段切り。
身を捻って避けられたが、振り落ろした位置から刀を横凪に振るって今度は足首を斬りにゆく。
ネモは後ろに跳ねて避けたが、その動きを瑞姫は読んでいた。
「貰った!」
瑞姫は素早く刀を引き戻して踏み込み、着地前のネモの心臓を狙って突きを放つ。
だが、刃は胸の前で交差させた銃で受け止められた。
「なに?」
「君達って急所ばっかり狙ってくるから動きを読み易いんだよねぇ〜。その点ではさっきの鎧のおねえちゃんの方が動きは良かったね」
ネモがせせら笑う。
「だったら」
瑞姫は後ろに飛び退ると同時に苦無を投げ、
「これならどうだ!」
避けた隙を狙って『ソニックブーム』を放とうとした。
しかしネモは飛んでくる苦無を完全に無視して銃を構え、瑞姫に向かって乱射してきた。
「な!?」
逆に虚を突かれた瑞姫は回避が遅れ、何発もの凶弾に体を撃ち抜かれる。
そして苦無はネモの額でFFに弾かれて地面に落ち、瑞姫は体を自らの血で赤く染めながら地面に倒れ伏した。
「なぜ‥‥」
瑞姫が失血で薄れる視界でネモを見上げる。
「君達の武器は手を離れれば威力を失うって知ってるし、その武器はもう当たった事があるから痛くないって分かってるもん。避けるまでもないよ。残念だったね、おねえちゃん」
ネモはわざと残念そうな顔を作って瑞姫を見下ろし、銃を頭に向ける。
「瑞姫さん!」
海は瑞姫を救うため棍棒を構えて突っ込んだ。
「鎧のおねえちゃんはその棒のリーチを活かすのが得意みたいだけど‥」
だがネモは『瞬天速』と同種の超加速で一気に間合いをとった。
「僕のリーチの方がずっと長いよ」
放たれた凶弾がパイドロスの装甲を易々と破り、海を貫く。
「あぅっ!」
衝撃で体がコマの様に回り、鮮血が飛び散る。
そして倒れ伏した海の体はピクリとも動かなくなった。
「さて」
2人を倒したネモは立花の姿を探すが見つからない。
そしてジーザリオを見ると、マチュアの姿もなくなっていた。
「おや?」
立花はネモが戦っている隙に『瞬天速』でジーザリオに駆け寄り、マチュアを救出して安全圏まで運び出していたのだ。
「ま、僕がネモだってもうバレちゃったし、いっか。マチュアお姉ちゃーん、僕が憎ければ追ってきなよ。もし追い詰める事ができたらアーチェスは返してあげるよ。体だけだけどね。あはははははっ!」
ネモは隠れているマチュアに大声を上げて聞かせると、高笑いを残してその場を後にしたのだった。