●リプレイ本文
メキシコ湾近海上空を8機のグリフォンが音の速さで疾走する。
目指すは撤退中のバグア海中部隊。その殲滅が目的だ。
「飛んで行って、潜ってつついてこい、ですか‥‥確かにグリフォン向きですね。それにしても‥‥これだけ揃うと壮観と言いますか‥‥」
リュドレイク(
ga8720)の言うように、まったく同機種のKVのみで作戦を行う事は珍しいため、この様な光景は滅多に見られるものではないだろう。
「【ムルムス】を十二分に生かす事が出来る依頼みたいですわね」
グリフォンの性能を存分に発揮できる機会を得たクラリッサ・メディスン(
ga0853)が微笑む。
クラリッサは過去の交戦記録から、マンタ・ワームが水上に浮上して攻撃を掛けてくる事を推測して空戦装備を搭載し、他の者もそれに倣っている。
(「これが杞憂ならとんだお荷物となるところですわねわ」)
「新機と改造費で所持金が半分に‥‥。でも専用機での水中戦の勉強だと思えば安‥‥元を取るです☆」
この依頼のためにグリフォンを新調してきた熊谷真帆(
ga3826)が明るく気合を入れた。
「ヤクト‥‥大規模以来あまり遊んであげられなくてごめんなさいですの。溜まってる分、全部発散させに行きましょう」
シルフィミル・RR(
gb9928)が普段はペットの様に接してあまり戦闘には出さない愛機のヤクトオーガに優しく語りかける。
「今回の任務は、時間制限付か。不謹慎かもしれないが‥‥燃えてくるな。こういうのは」
レイード・ブラウニング(
gb8965)はこれから始まる戦闘への高揚感を抑えきれないようだ。
「ふむ、いかに効率的に手数を増やすか‥それが鍵じゃな」
藍紗・T・ディートリヒ(
ga6141)が敵の数とおよその戦闘可能時間から作戦の概要を練る。
「敵部隊のいる海上まで後10秒。着水準備開始しますよー」
常世・阿頼耶(
gb2835)が降下するのに合わせて他の者も高度を下げ、ステップ・エアの準備に入った。
「由梨殿、いつもの言じゃが、今回は特に悩む暇はないのじゃ‥此度も皆で【生き残る】ぞ」
「えぇ、もちろんです。普段とは違う機体ですけど、前回に乗った限りでは悪くなかったですからね。とは言え、いつもよりも慎重に行きませんと‥‥」
如月・由梨(
ga1805)は藍紗にそう答えて着水態勢に入る。
「今は攻撃しないで下さいよ‥‥」
リュドレイクの祈りが通じたのか、8機のグリフォンは脚部スラスターで海水を巻き上げながら無事着水。
「鵜飼の戦術じゃ‥選り取りみどり‥喰らい尽くすぞ!」
「私も微力ながら尽力させていただきますわ」
藍紗とクラリッサが飛行機形態のまま、すぐに着水攻撃を敢行する。
モニターが水飛沫と白い泡に覆われた直後、海中の風景に変わり、敵編隊を映し出す。
「まずはメガロワームから」
クラリッサがAIに指示するとグリフォンが目標に向けて急潜行を開始。
機体が海水を切り裂いて進む最中、クラリッサはメガロを照準に捉えて多連装魚雷「エキドナ」を発射。メガロが爆発に包まれた。
そしてグリフォンは機体を翻し、今度は急上昇を始める。
「もう一撃じゃ!」
続いて藍紗も同じメガロに水中用ホールディングミサイルを発射。着弾後すぐに離脱する。
そして2人が浮上すると、今度は全員で着水攻撃を仕掛けた。
真っ先に潜った常世は照準をメガロに合わせ、水中用機槍「ハイヴリス」を構えて突撃。
「一番銛だー!」
メガロを射程に捉えた直後にトリガーを引くと槍内のカートリッジが炸裂、超振動流体制御された槍が水を切り裂いて打ち出され、槍先がHWを貫く。
そして刺さった槍をそのまま一気に凪ぎ払い、横一文字に斬り裂いた。
シルフィミルは常世が刻んだ傷跡に両前足の高分子レーザークローを突き入れて更に引き裂き、そこに0距離からガウスガンを連射。メガロを内部から破壊する。
「その調子ですの、ヤクト」
リュドレイクがM−042小型魚雷ポッドを、レイードが水中用ホールディングミサイルをマンタの1体に発射。
25発の小型魚雷がマンタを無数の爆発で包むこみ、2発のミサイルが爆発と爆圧でマンタの装甲を砕いて歪ませる。
そして爆発が治まる前に再潜行し、レイードが水中用ガウスガンを連射して追い撃ちをかけ、満身創痍となった所をリュドレイクがハイヴリスでトドメを刺す。
「よし、次だ!」
クラリッサは初撃を喰らわせたメガロに熱源感知型ホーミングミサイルを命中させ、体勢を崩した隙に真帆が一気に肉薄。
「水中戦は初めてですがやるだけやります」
前足のレーザークローで鷲掴みすると、口に銜えた水中用太刀「氷雨」を一閃。メガロの胴体を真っ二つにした。
藍紗は水中型HWに残りのミサイルを全弾発射。HWが爆発と共に生じた無数の気泡を包まれる。
「今じゃ、由梨殿」
「行きます!」
由梨は気泡を突き破って突進し、レーザークローでHWの装甲を引き裂き、内部機構に突き入れ、抉り、中枢部を引きちぎって握りつぶし、完全に活動不能にする。
最初の奇襲で4機潰した傭兵達だが、敵もただやられてはいない。
マンタが浮上する傭兵達に向けてハープーンミサイルを発射してきたのだ。
「袋叩きで終わってくれれば幸いだったが‥‥それほど甘くはないよな、っと!」
レイードは真下から急速接近するミサイルの機動を読み、着弾直前に翼型推進装甲「荒鷹」と「飛燕」のブースターを吹かして避けた。
由梨も3基の高出力ブースターを駆使して避けたが、他の者達は避けられず直撃。装甲の一部が損傷したが、まだ浸水する程ではない。
だがミサイルの爆発に紛れて3機のHWを海上に姿を現し、攻撃態勢を取ってきた。
「上空まで上がってくる事はお見通しですわよ」
しかし、その事を予期していたクラリッサが一早く空に舞い上がり、G放電装置を放ってHWの攻撃を妨害する。
「ていっ! せやっ!」
リュドレイクもちょうど眼前に浮かび上がってきたHWに脚爪「シリウス」で飛び蹴りを喰らわせてからの後回し蹴りのコンボで砲身を反らす。
「予測通り浮上してきましたの」
シルフィミルは咄嗟にスナイパーライフルSG−01を向けて撃ち放ったが、HWのプロトン砲と相打ちになり、シルフィミルも傷を負う。
だが、その間に他の者達は体勢を整えられた。
「どうやら空と海の両面から攻撃するつもりですね」
「では、空は我らが相手をしよう」
藍紗は離水すると同時にUK−10AAEMを発射。HWがエネルギー爆発に包まれるが、あまりダメージは受けていない様に見える。
しかし、その間に離水した由梨がHWの背後に回り込んで強化型G放電装置連射。HWが強力な放電現象に見舞われ、装甲が焼け焦げる。
だが攻撃を耐え切ったHWはプロトン砲を発射。
2機は避けたが海に直撃したプロトン砲は海水を大量に蒸発させ、2人の視界が水蒸気に覆われた。
「なんと!?」
2人はすぐにスロットルを吹かして水蒸気から逃れたが、その直後、コクピットにミサイルの接近警報が鳴り響く。
「くっ!」
2人は咄嗟に回避行動を取ったが間に合わず直撃。それぞれ少なくないダメージを負う。
「やってくれますね」
由梨は凄みのある笑みを浮かべ、残りのG放電装置を放つと同時にHWに急接近してバルカンを乱射。HWの足を止めた所をレーザーライフルML−3で撃ち抜いて破壊する。
クラリッサは残りのG放電装置を放ってHWを動きを止め、その隙に接近して真スラスターライフルを掃射。焼け焦げたHWに無数の風穴を開けてゆく。
「大人しく墜ちて頂きますわ」
しかしHWもフェザー砲で応射し、クラリッサのグリフォンにも無数の弾痕を穿たれた。
だが、クラリッサは操縦桿を小刻みに動かして致命傷は避け、HWを照準から逃さずトリガーを引き続ける。
やがて穴だらけになったHWが炎を噴き上げて失速し、そのまま海に落下した。
そして残る一体も3人で波状攻撃を仕掛けて撃墜したが、その間に敵本隊とは距離を開けられてしまった。
3人は全速で追いかけたが、追いついた途端、今度はマンタが4体浮上してきた。
「どうやら海に潜らせてはもらえないみたいですね」
一方、海中では5人で着水攻撃を続けて更にマンタを2体倒していたが、敵は常に離れてゆくため徐々に攻撃が命中しなくなってきていた。
特にメガロは動きが速いため、中長距離の攻撃はほぼ当たらない。
そして200m離された時点でマンタにさえ当たらなくなった。
「シルフィ、攻撃が届かなくなりましたの」
「距離を詰めましょう」
5人は攻撃を中断し、ステップ・エアで海面に水飛沫を蹴立たせながら敵を追った。
しかし全速移動でも徐々にしか距離は詰らない。
「このままじゃ逃げられてしまいそうですよぅ。ブーストを使いませんか?」
常世の提案を受けて5人はブーストを点火。敵との距離を一気に狭め、着水攻撃を敢行。
「行かせませんよ!」
マンタがこちらの潜行に合わせてハープーンを撃ってきたが真帆は当たるに任せて潜行を続け、メガロにレーザークローで組み付いて氷雨を振るう。
そして追走してきた常世がハイヴリスを頭に突き刺し、カートリッジの爆発力で槍先を撃ち出して尾まで刺し貫いた。
「討ち取ったりぃー」
レイードはマンタのハープーンを避けると、その発射口に向けてガウスガンを掃射。内蔵されたミサイルが誘爆してマンタの半身が吹き飛ぶ。
「どうだ!」
その傷跡にリュドレイクがアサルトライフルを撃ち込んで更に弱らせた所を再潜行したレイードがレーザークローでトドメを刺す。
常世はメガロに着水攻撃をしかけようと潜行していたが、不意にメガロが足を止めて旋回し、常世に突進してきた。
「えっ!?」
咄嗟に反応が出来なかった常世はメガロのラムを胴体に喰らう。
「くぅ!」
ラムが装甲を貫き、機体内部が浸水により幾つかショートする。
「いたたぁー! でもこの程度ならまだ動けます!」
常世はラムに突き刺された状態からハイヴリスを振りかぶったが、メガロは近距離から魚雷を発射。グリフォンが爆発に包まれた。
「キャー!」
爆発でラムは抜けたが機体の損傷が更に酷くなる。
「これは‥ちょっとマズイかな? 一旦、海面に逃げさせて貰いますね」
常世は攻撃を諦め、防御を固めて急上昇をかける。
だが、メガロは逃げる常世に再び照準を合わせてきた。
「させませんのっ!」
しかし、シルフィミルがホールディングミサイルを放ち、その爆発でメガロの攻撃を妨害する。
「えぇい!」
続けて真帆が氷雨で斬りかかるが、別のメガロが横合いからラムで突っ込んできた。
「くっ!」
避け損ねた真帆が片足をへし折られる。
「メガロも参戦してきたか」
「敵も必死だという事でしょうね」
レイードがガウスガンを、リュドレイクがアサルトライフルを乱射したが、メガロはするすると泳いで避ける。
「ちっ、ならこれはどうだ!」
レイードがメガロに向かって急潜行すると、メガロは魚雷を発射した後ラムで突撃してきた。
レイードはステップ・エアBを起動させて魚雷とラムを回避。
そしてステップエアAで180度旋回すると擦れ違ったメガロに向けてガウスガンを連射。メガロのヒレを撃ち抜いてズタズタにする。
「今だ!」
動きの鈍ったメガロにリュドレイクがハイヴリスを突き刺すとカートリッジを炸裂させ、槍先を射出して内部を破壊した。
「浸水止まった。これならまだ戦えそうですね」
機体の損傷度をチェックし終えた常世は再び潜行を開始。
海中ではシルフィミルがホールディングミサイルを放ち、命中はしなかったがその爆発でメガロを動きを鈍らせていた。
「いっけぇーーー!」
その隙を逃さずは常世はハイヴリスを構えて、メガロの真上から急降下。胴体部を貫いて串刺しにして更に潜行。そのままハイヴリスを海底に突き立ててメガロを縫い止める。
「今です!」
「はいですの」
「これなら外しようがないです」
そして身動きの出来なくなったメガロにシルフィミルと真帆がガウスガンの集中砲火を浴びせて完全に破壊した。
これで海中に残る敵はメガロが3体。
だが、その3体は全速で逃げており、5人と既にかなりの距離が開いている。
「逃がしません!」
真帆がスナイパーライフルD−06で狙撃したが避けられた。
「俺がブーストで追う」
「私もまだ1回ならブーストできますよぅ」
「なら一緒に来てくれ!」
「俺達もギリギリまで追いかけます」
レイードと常世はブースト機動で後を追い、他の者もできる限りの速さで後を追った。
一方、空ではクラリッサと藍紗と由梨がマンタと4対3の戦闘を強いられていたが、元来空戦用ではないマンタの相手はそれほど難しくはなく、多少被弾はしたものの全機撃墜する事ができていた。
「ふぅ‥こんなものかの‥‥」
最後のマンタを倒し終えた藍紗がレーダーに目を向ける。
海中では仲間達が逃げる3体のメガロに攻撃を続けていたが、先行したレイードと常世以外はほとんど命中していない。
そして敵はもうすぐ浅瀬の出口に到達しつつあった。
「このままでは逃げられてしまいます」
「まだ間に合います。急ぎましょう!」
3人はブースト機動で一気に距離を縮めて海面に着水、そのまま潜行を開始した。
まずクラリッサが先行してホーミングミサイルが発射。
直撃を受けたメガロの動きが鈍った所へ藍紗が更にホールディングミサイルを撃ちこむ。
そしてメガロの装甲を破砕して動きを止めた所を由梨が急潜行して接近、レーザークローで抉り込んで頭から尾までを一気に引き裂いて完全に破壊する。
その頃、レイードと常世も何とかメガロを1体仕留めていたが、最後の1体は浅瀬を越え、深海へと潜っていった。
「狩るべき敵はまだあそこに!」
「由梨殿。この深度では我らにもう手は出せん。諦めよ」
血気に逸って追おうとする由梨を藍紗が押し留める。
「‥‥そうですね」
すると由梨も納得したのか追撃を諦めてくれた。
「どれ、せっかくじゃから男子どもの目の保養に水着くらい披露してやろうか、のぅ由梨殿」
そして全員が海面に出ると、藍紗がコクピットを開け、いきなり服を脱いでビキニ姿になった。
「いえ‥私は水着を持ってきていませんので‥‥」
やや困り顔を浮かべた由梨はそれを理由にして遠慮する。
「なんじゃ由梨殿。用意が悪いのぉ‥‥。他に水着を持っておる者は‥‥」
藍紗が他の女子を見渡してゆくが、ほぼ全員が由梨と同じ様な顔で断ってくる。
ただ
「私は一応持ってきていますわ」
クラリッサだけは何故か水着を用意していた。
「流石はクラリッサ殿じゃ。一人で水着になるのも寂しいでの、付き合ってくれぬか?」
「えぇ、構いませんよ」
快諾して着替えたクラリッサは藍紗と共に男性2人に自らの水着姿を披露した。
「おぉ!!」
「おぉ!!」
そして男性2人が藍紗とクラリッサのどちらにより眼を引きつけられたかは‥‥言わぬが花だろう。
ともかく、傭兵達は1機逃したとはいえ敵部隊をほぼ壊滅させたのだった。