●リプレイ本文
『緊急スクランブル緊急スクランブル。KV隊は至急格納庫に集合せよ。繰り返す‥』
ヴァルキリー級二番鑑内に緊急アナウンスが鳴り響く。
「えっ? ここで出撃って‥仕込みがまだなのにー!」
護衛と憂さ晴らしの宴会要員も兼ねて乗鑑していた百地・悠季(
ga8270)は一番艦と炊事区画が同じ聞き、料理を作っている所を呼び出されたため、バグアにいつも以上の怒りを抱いて格納庫に向かった。
『KV隊の皆さん、艦長のビビアン・O・リデルです。今から作戦の説明をいたします』
格納庫に集まった傭兵達にビビアンが各自のKVのモニター越しに説明を始める。
(「オリム中将の姪というからどんな顔かと思ってたけど‥‥全然似てないどころかすっごい美少女やね」)
カーラ・ルデリア(
ga7022)は本人を見た後でもまだ信じられないくらい驚いていた。
『‥‥以上が今作戦の概要です』
「了解です。艦長はどんと構えといて下さい。空の敵はきっちり落としてきますんでね」
「ビビアン中佐殿はこの犬彦めが必ずまもったるで!」
周防 誠(
ga7131)と犬彦・ハルトゼーカー(
gc3817)がモニター越しにビビアンに応える。
『はい、お願いします。あ、でも、無理はしないで下さいね。絶対に全員無事に戻ってきてくださいよ』
「心配無用だ艦長。ジェームス隊及び傭兵部隊、出撃する!」
ジェームス・ブレスト(gz0047)の合図で12機のKVが地下のドックから飛び立った。
「海。人生の目的と手段を履き違えない様に。直接戦うだけが生きる事じゃないから、皆が何時でも傍に居るのを忘れない様にね」
飛び立って直ぐ、悠季が橘川 海(
gb4179)に個人通話を送る。
「わかってる。私は、私と戦う。みんなと一緒に」
ひとつ上のステージにいく為にっ!
そう心の中で付け加えた海は視線を先行するジェームスのフェニックスに向けた。
(「さぁ、ジェームスさんにいつか話した私のロングボウ、見てもらいますよっ」)
「生きる伝説のエースに空を覆う無数の敵‥‥。戦乙女に相応しい、派手な就航式になりそうね」
ラウラ・ブレイク(
gb1395)がコクピットから望む景色を見てそんな感慨を抱く。
「でも旗色が悪くたって負けられないわ。今回はよろしく。エース部隊の腕、学ばせて貰うわね」
そして僚機となるジェームス隊のフェニックスのパイロットと挨拶を交わした。
「ビビアンさん。ここは守り切るから、代わりに今度ナース服を着てね」
弓亜 石榴(
ga0468)がどさくさに紛れて個人的な趣味を押し付けた所で圏外に出たのか通信が切れた。
「え〜と‥‥この人は何を言ってるのでしょうか?」
「おそらく艦長の緊張をほぐすためのジョークでしょう」
「あ、なるほど。でもナース服だなんて‥随分と変わった人ですね」
しかし石榴の想いはビビアンや副長のチャールズ・ハイデマンには伝わらなかったようである。
遠方に見える敵編隊は密集体形を崩さず、真っ直ぐ向かってくる。
「こちらは八千機の後続が控えてる。観念して撤退しろ」
有人だったら何か反応があるだろうと思って石榴が試しに言ってみたが、敵の動きは変わらない。
なのでKV隊は石榴と海を二番艦の護衛に残し、残りで迎撃に行く。
「ふふっ、人類のエースもいるとは知らずにのこのこと。返り討ちにして差し上げましょうか、大尉?」
「当然、1機残らず叩き落としてやるさ。初撃は任せたぞ」
不敵な笑みを浮かべる如月・由梨(
ga1805)に応えるジェームスの顔にも楽しげな笑みが浮かんでいた。
「任されました」
由梨、周防、悠季は先行すると敵前衛の高速型HWをK−02小型ホーミングミサイルでロックオンしてゆく。
その間にカーラも高速型を捉えて対バグアロックオンキャンセラー(BLC)を起動し、敵の重力波レーダーを掻き乱す。
そして由梨が250発、悠季が500発を発射した後、ファランクスを警戒した周防が500発発射した。
だが高速型は拡散プロトン砲を照射して迎撃。ミサイル群の1割程が落とされた。
しかし残りは全て直撃。8機中5機が墜落する。
「仕掛けるわ」
「当たれー!」
残り3機の内の1機をラウラがGPSh−30mm重機関砲で蜂の巣にし、1機はカーラと僚機がAAMで撃墜した。
しかし最後の1機が包囲をすり抜けて二番艦に向かう。
「今抜けたのは追いかけずに、海達に任せて! 次はあっちの爆撃型をお願い」
だが、カーラが冷静に状況を分析して指示を飛ばす。
「面白いですね! 中型の本星ヘルメットワームと1対1とは」
「おいおい、俺を忘れてないか?」
「ではなく、2対2ですか‥‥ふむ‥‥」
由梨はジェームスと共にK−02の爆煙に紛れて中型本星型HWに迫り、ブリューナクを連射。
だが強化FFで弾かれ、中型には傷一つついていない。
それはジェームスも同様だった。
「‥っは! さすがは本星型。堅さは一級ですか!」
攻撃を凌いだ中型は装甲を開いて無数とも思える小型ミサイルを発射。
「間に合え!」
カーラが咄嗟にBLCを発動する。
由梨とジェームスは咄嗟に避けたが、ミサイル群は後方の7機にも飛び、悠季とカーラと僚機の3機が被弾した。
「くっ! ジャミングしてもこの数は避けきれないか‥‥」
「ですが敵のミサイルは尽きたはずです。こっからは飛ばしていきますよ!」
そして周防が一気に大型本星型HWへ接近しようとしたが
「周防さん、うちを置いて行かんといてぇー!」
周防のケツについてラブラブランデブーペアを組むつもりだった犬彦が呼び止める。
犬彦は機槍「ルーネ・グングニル」で行動を制限された上、練力節約のためブーストも使わなかったので、まだ後方にいたのだ。
「脚が速いってのも、こういう時は考えもんですねぇ‥‥」
「うぅ‥しゃあない。ブースト点火!」
犬彦がブーストを使った事でどうにか足並みが揃い、悠々と移動してきている大型に接近する。
すると大型は足を止め、大型プロトン砲を発射してきた。
「犬彦さん回避!」
周防が警告を発しながら避けたが、超々高熱の光は犬彦を直撃。
たちまちフェニックスの装甲が融解し、超高熱の負荷で内部機構のアチコチが瞬く間に潰れてゆく。
「アチャーーっ!!」
コクピット内の温度も急上昇し、計器類や操縦系も次々破損。
光が過ぎ去った後には半壊したフェニックスの姿があった。
「まだや! うちの大殺界はまだ飛べる!」
犬彦はブースト、『SES−200』 オーバーブースト改A(OBA)と空中変形スタビライザーA(ESA)を起動し、大型に急接近する。
しかし大型は全周囲に装備された機銃と拡散プロトン砲で弾幕を張ってきた。
だが犬彦は命中させる事だけに全神経を注ぎ、機体に無数の弾痕が刻まれながら突っ込み、空中変形スタビライザーA(ESB)で変形。
「どてっぱらに風穴をあけてやんよぉっー!!」
ルーネ・グングニルの柄のブースターで加速し、全力で突き立てた。
しかし槍は展開された強化FFで弾かれてしまう。
「そんな‥‥うちの浪漫がアッサリ弾かれてもうたぁ〜〜!!」
大型はそんな犬彦にトドメを刺そうとしたが、マイクロブーストを起動させた周防が割って入って対空砲「エニセイ」を連射する。
大型は強化FFで防ぎ、弾幕を周防に集中させた。
「犬彦さん離れて!」
「うぅ‥かたじけない」
周防は何発か喰らいながらも犬彦を逃がし、改めて砲撃をしたが、やはり強化FFで弾かれる。
「ふぅ‥‥これは長期戦になりそうですね」
K−02を逃れた高速型は小型本星型HWの1機と共に二番艦に迫ってきたが、高速型は海がロングボウの機体スキルを起動してD−03ミサイルポッドを放ち、あっさり撃墜していた。
しかし小型は強化FFで防いだため勢いが止まらない。
石榴もありったけのミサイルを撃ったが結果は同じだ。
「ぅ〜〜仕方ない。私が前に出て喰い止めるから橘川さん援護して」
「はい!」
石榴は海のスナイパーライフルの援護を受けながらブーストで小型に接近すると、ツインブースト・OGRE/Bも起動してDC−77クロスマシンガンを乱射した。
だが、その攻撃でも強化FFは撃ち抜けない。
「やっぱりダメかぁ〜」
小型がチェーンガンで反撃してきたがツインブーストの加速力で避け、擦れ違い様にファランクス・アテナイが攻撃を加えたが、それもやっぱり弾かれる。
「兎に角、敵に纏わり付く様に飛んで足止めしよう。ビビアンちゃんのナース服の為に頑張っちゃうよ」
その頃、カーラは小型本星型HWと戦闘を行っていた。
BLCで小型の照準を狂わせてはいたが、カーラは距離を取ってラージフレアを使えばどうにか避けられる状況であったため、前衛は僚機に任せて自分は距離を取ってAAMでの援護に徹していた。
一方では悠季も小型と戦闘中だった。
悠季は対空機関砲「ツングースカ」で銃弾を雨の様に浴びせかけ、僚機と共に錬力を削って強化FFを使用不能に追い込もうとしていた。
小型は銃弾が強化FFに当たるに任せてチェーンガンを連射してくるが、カーラのBLCの効果と、常に僚機と死角を補い合い、敵の射線から逸れる機動を行っているため全て避け続けている。
強化FFはなかなか消える様子を見せなかったが、根気よく攻撃を続けていると遂に銃弾が装甲に穴を穿った。
悠季はこの瞬間を逃さず僚機と同時にミサイルポッドを発射。小型が爆炎に飲み込まれる。
「しぶとかったけど、これで終わりよ!」
悠季はスロットルを全開まで上げると猛スピードで小型に突進。ソードウィングで一気に斬り裂く。
胴体部を深くえぐられた小型は傷口から火を噴き上げながら墜落していった。
ラウラは僚機と共に爆撃型HWに攻撃をしかけようとしたが目の前に小型が立ちはだかる。
「ここは任せるわ」
ラウラは僚機に攻撃させた隙にブースト機動で一気に小型の脇を抜けて直進。
爆撃型を射程に捉えた直後にOBAを起動して重機関砲を連射する。
胴体に無数の弾痕を穿たれた爆撃型が炎を噴き上げて墜落した。
「まず1機」
ラウラは重機関砲を手早くリロードして次の目標に向かう。
だが、その間にも爆撃型は前進を続け、遂に二番艦まで1.5kmの位置まで接近された。
「新型複合式ミサイル誘導システム、起動」
海は爆撃型の編隊をスコープに捉えると機体スキルを立ち上げ、中央部の5機をK−02でロックオンする。
その間に小型の相手を僚機に任せてきたカーラがファランクスを妨害するため接近して、爆撃型をBLCの射程圏内に納める。
「ロングボウ、いきますっ!」
海がトリガーを引くと軽い反動と共にコンテナから500発の小型ミサイルが敵編隊に向けて発射された。
爆撃型はすぐにファランクスでミサイルを迎撃し始める。
その動きはBLCの影響を受けているようには見えない。
「バグアのファランクスは重力波式じゃないの?」
カーラの目論見は外れたが、それでも残り数百発のミサイルが爆撃型を直撃。濛々たる爆煙に包まれる。
そして爆煙の中に一条の光が煌いたかと思った直後、爆撃型の1機が真っ二つに分かたれ、爆散した。
爆煙で姿を眩ませたラウラがブーストで接近し、オーバーブースト改Bを起動した練剣「雪村」で切り裂いたのだ。
「これが私の長弓が放つ真の矢ですっ!」
海のK−02はラウラの変形攻撃への布石でもあったのだ。
「さぁ! 就航式の花火代わり、派手にやるわよ!」
ラウラは飛行形態に戻ると重機関砲を掃射して隣りの爆撃型も撃墜し、更に隣りの爆撃型をスナイパーライフルD−02で狙撃する。
そしてラウラの狙撃に耐えた爆撃型にカーラがAAMを撃ち込んで破壊した。
「これ以上先には行かせませんっ!」
海が機体スキルを維持したまま残りの爆撃型に間断なくミサイルポッドを発射する。
「このまま一気に片付けるよ、全機突入!」
そうして傷ついた爆撃型をラウラとカーラが順次破壊し、爆撃型を全て掃討したのだった。
その頃、由梨が相手していた中型の強化FFがようやく消え、攻勢に出るチャンスが訪れた。
「強化FFさえなくなれば!」
由梨はスラスターライフルの連射で足を止めて距離を取るとブリューナクを発射。
電磁加速された砲弾は装甲を易々と粉砕し、内部機構が剥き出しになる。
由梨は素早くリロードし、まったく同じ箇所に再びブリューナクを発射。
超音速の砲弾は中枢部を撃ち抜いて貫通し、そのまま爆散した。
中型を倒し終えた由梨がジェームスの方を伺うと、そちらも既に片付いていた。
「あら、エースの技を見逃してしまいましたか‥‥残念です」
一方では石榴が小型を倒し終え、他の小型も僚機が倒していたので残りは大型だけになる。
大型は周防が近距離からエニセイを撃ち込み、犬彦が中距離からAAMを撃ち続けていたが、未だに強化FFを保っている。
大型は間断なく弾幕を張り続けていたが、カーラのBLCのお陰で周防は何とか避け続ける事が出来ていた。
だが爆撃型が全滅すると大型は急に攻撃を止め、二番艦に向かって急加速を始めたのだった。
「まさか特攻する気ですか?」
周防が後を追いながらエニセイを連射すると、ようやく強化FFに阻まれる事なく装甲に穴があく。
しかし大型の巨体は全く速度を落とさない。
海が機体スキルを使ってD−03を撃ったが装甲で弾かれた。
「くっ‥‥装甲が厚すぎる」
「だったら装甲を剥がせばいいだけだ! 手伝えラウラ」
「了解です」
ジェームスはラウラを伴いブースト機動で大型の眼前まで来るとASBで人型に変形。
「でやぁぁーーー!!」
そしてOBAを発動するとハイ・ディフェンダーを閃かせ、装甲に四角く斬り裂いた。
「なるほどね」
ジェームスの意図を汲み取ったラウラは自分もASBで変形すると錬力が尽きるギリギリまで雪村を振るい、ジェームスが斬った後を更に斬り裂くと装甲が剥がれ、内部機構が剥き出しになった。
「ここに集中砲火だ!」
「はい!」
「了解です」
海が残りのD−03を全て発射し、悠季がミサイルポッドを撃ち放ち、カーラがAAMを発射、由梨がブリューナクを撃ち込み、周防がエニセイを連射する。
その全てがジェームスとラウラがあけた穴に吸い込まれ、内部機構を破壊してゆく。
大型は機体の各部を爆散させ、アチコチから火を噴き上げながらやがて傾き、そのまま降下していって地面と激突。機体を大きく歪ませた後、大爆発を起こして四散した。
「大・尉・っ」
二番艦の格納庫に帰還した海は真っ先にジェームスの元に向かい、Vサインを作った。
「あぁ、完勝だったな。ま、俺が指揮を執ってたんだから当然だけどな。ハハハッ」
するとジェームスも笑顔でVサインを作ってくれた。
それだけで海の心は喜びで満ち溢れる。
(「好きだから、傍にいたい。話していたい。口実はなんでもいい。
私が彼を好きになったことと、私の体がこんなになったこととは、何の関係もないから。
大切にする。この気持ちを
悠季、ありがとう」)
海はジェームスへの想いを再認識すると共に、親友にも感謝するのだった。