●リプレイ本文
マチュア・ロイシィ(gz0354)がアーチェスの元へ駆け出し、大統領と共に凶弾に倒れた一連の出来事は、それを見ていた者達に様々な憶測と行動をもたらした。
(「えーと、これは暗殺者と傭兵が知り合いだった‥って事で良いのかな? とにかく人質をどうにかしないと‥」)
現場から30mの位置にいた弓亜 石榴(
ga0468)は怯えた演技で無力さをアピールして目立たない様にしながら現場に近づいて行った。
「プランCでお願いします」
「パニックになれば、犯人の逃亡も侵入も容易になります。能力者がいることをアピール、沈静させてください」
現場から50m地点にいた春夏秋冬 立花(
gc3009)と国谷 真彼(
ga2331)は事前に考案しておいた数パターンの襲撃予想対応プランの内のプランCに従い、三人一組で行動させていた警備員にパニックになった観客の避難誘導を行わせていた。
「彼女の行動は異常だった。話を聞こう」
そして国谷は現場で倒れているマチュアに『練成治療』を始め、立花が無線機を繋ぐ。
「マチュアさん、聞こえますか。あなた達がどういう関係にあるかは知りません。ですが、大統領も助けたいし、その子も助けたいですよね? 御二人が話す機会も作ります。なので、力を貸して下さい」
「君には力がある。僕も協力する。信じろ。まだ間に合う」
立花は国谷と共にマチュアを説得しながら初弾以外をペイント弾に替装した小銃「S−01」を愛用のマントの中に隠して現場に向かった。
能力者兼身辺警護業を営む一ヶ瀬 蒼子(
gc4104)はアメリカ大統領の護衛をしたという実績で箔を付けようという算段から今回の警護依頼に参加していた。
なのに、この降って湧いた不測の事態である。
(「あぁもう、何やってるのよあの人は‥‥っ! このままだと経歴に箔が付くどころか、下手したら傷が付くじゃないの!」)
現場から50m以上離れていた蒼子にはマチュアが急に警備任務を放り出した様に見えたらしく、激しい苛立ちを覚えていた。
「観客席に敵の狙撃要員がいないか警戒。2、3人私と一緒に来て! 」
ともかく蒼子は大統領を守るため無線機で指示を飛ばし、手近な警備員を何人か引き連れて現場に向かった。
(「『お姉ちゃん』か‥‥姉弟・従姉弟・幼馴染あたりか」)
その言葉から天羽 圭吾(
gc0683)はマチュアとアーチェスの関係を推論したが、確証はない。
だが、マチュアにとっては感動の再会だっただろう事は想像に難くない。
圭吾は依頼を受けている事も忘れて感情のままに動くマチュアの情熱を羨ましく思いつつ、他人の事情に巻き込まれる事に煩わしも感じていた。
なので圭吾は一番面倒な事にならずに済ますため、傭兵としての職務を全うする事を優先させて行動を開始した。
片腕に合唱隊の子供の一人を抱えるとアーチェスは銃を足から血を流す大統領を向けた。
アーチェスに抱えられた子は恐怖に顔を強張らせて硬直している。
「バイバイ、大統領」
アーチェスがニッコリ笑って引き金を引く。
「間に合えっ!」
現場のすぐ近くにいたリヴァル・クロウ(
gb2337)は大統領を庇いに走るが、能力者と言えどもスキルもなしに弾丸より速く走れる訳ではない。
「ぐぁ!」
だが大統領も能力者だ。床を転がって致命傷だけは避けた。
「あれれ〜、大統領なのにかっこ悪いなぁ〜」
アーチェスが嬉しそうに銃をリロードした直後、リヴァルがアーチェスと大統領の間に割って入って射線を塞ぐ。
「その子を離せ、関係ない」
「うん、いいよ」
アーチェスはリヴァルの言にアッサリ従い、子供を突き飛ばして床に転ばせた。
だが
「お兄ちゃん、どっちを助ける?」
アーチェスは右手の銃を大統領に、左手の銃を子供に向けたのだった。
「なっ!?」
リヴァルの顔に動揺が浮かび、一瞬判断に迷う。
だが撃たれる前に圭吾が『援護射撃』でアーチェスの前に弾幕を張る。
「今だ石榴」
「よっし!」
そして現場近くまで接近していた石榴が『瞬天速』で子供に元に駆けつけて身柄を確保。
「甘いよ」
だが、アーチェスは石榴がその場から離れる前に発砲。
「くっ!」
「んぎゃー!」
リヴァルはメタルガントレットで防いだが、石榴の傷はかなり深い。
「おねえちゃん‥‥痛いの?」
「へ‥へーきへーき。お姉ちゃん強いから〜」
庇った子供に心配された石榴は痛みを堪えて笑顔で答える。
「今よ! ボックス型フォーメーションで大統領をお守りして!」
大統領は急行してきた蒼子が他の警備員と一緒に取り囲んで人垣の防壁を築き、『蘇生術』を施して動ける程度に傷を回復させると肩を貸した。
「さ、こちらへ大統領」
「‥すまない」
「石榴! その子を安全な場所へ」
「うん!」
リヴァルが傘を開いてアーチェスに投げつけた隙に、石榴も子供を抱えてその場を離れる。
「おっと」
アーチェスは後ろに下がって傘を避ける。
だが、避けた直後に傘を貫いて苦無が飛んできた。
「わっ!」
そして苦無はアーチェスの前に展開された淡い光に弾かれた。
「!?」
その光景を見たマチュアの顔に驚きと絶望が浮かぶ。
「やはり‥バグアの手の者か」
「あ〜あ、バレちゃった」
リヴァルの問いにアーチェスがおどけて答える。
「国谷! 私の治療はいい。大統領と弓亜を治せ!」
マチュアは無線機に叫ぶと力を振り絞って立ち上がった。
「‥‥お前は‥誰だ?」
「何を言ってるんだよマチュアお姉ちゃん。僕はお姉ちゃんの弟のアーチェス・ロ‥」
「違うっ!!」
マチュアはアーチェスの言葉を絶叫で遮って銃を構えた。
「私の知っているアーチェスはこんな‥‥こんな事しないっ!!」
だがその声は振るえ、銃身も震えている。
「‥‥そうだね。僕は少し変わってしまったかもしれない」
アーチェスは寂しそうに顔を伏せた。
「でも信じて、どんなに変わって見えたとしても、僕はお姉ちゃんの知っているアーチェスだよ」
アーチェスがそう言った直後、ズボンの裾から閃光手榴弾が転がり落ちて炸裂した。
閃光弾が炸裂する少し前、
「はーい、避難中は押さない駆けない喋らない〜。先ずは女子供から避難させるんだ!」
半分英国人なのに皮肉にも七月四日この警備に参加していたロジャー・藤原(
ga8212)はグラウンドの入り口で避難誘導を行いながら現場の様子を伺っていた。
(「まさか合唱団の子供の中にまだ暗殺者がいるんじゃ‥‥」)
自分の閃きに従ってロジャーが避難中の合唱団の子供達を気にしていると一人の子供が目に止まった。
その子はおどおどとした態度で周囲の目を気にしながらお腹を押さえている。
そして現場で閃光弾が炸裂した直後、その子は服の中から何かを取り出し、他の子供2人と一目散に駆け出したのだ。
「こちらロジャー、合唱団の中に子供の暗殺者がまだ3人紛れてたぞ!」
ロジャーが仲間達に警告を発しながら自分はさっきの子供を追う。
「うわぁぁーー!!」
その子は絶叫を上げながら大統領へ向かってバグアの光線銃を乱射するが、幸い誰にも当たらなかった。
「止めろ!」
ロジャーはその子の前に回り込み、バックラーで守りを固めて睨みつける。
「あ‥‥あぁ‥‥」
子供は銃をロジャーに向けてくるが、その目は怯えきっていて今にも泣き出しそうだ。
(「コイツ完全にビビってる。どういう事だ?」)
しばらく観察したが演技とは思えない。
「こ‥こ、殺さないで‥‥」
「銃を捨てろ。そうすれば助けてやる」
「す、捨てられない‥‥」
ロジャーが前に進むと子供は拒否してジリジリ下がる。
「捨てるんだ。悪い様にはしない」
「む‥無理だよ。捨てたら死んじゃう‥‥」
「どういう意味だ?」
「ぼ、僕まだ死にたくないっ!!」
子供は身を翻して駆け出した。
「待て!」
ロジャーは後ろから盾で体当たりをして子供を引き倒すと、その手から光線銃が零れた。
「うわぁぁーー!!」
そして子供が手足を縮めて丸まった直後、光線銃が大爆発を起こす。
爆風と熱波がロジャーを襲い、吹き飛ばされた体が壁に激突、頭と背中を強く打った。
「くそ‥‥」
火傷と脳震盪でフラフラするが『活性化』で回復させて何とか立ち上がる。
子供は爆発に紛れて逃げたかと思ったが、意外にもその場で蹲ったままだった。
「殺さないで‥‥殺さないで‥‥」
うわ言の様にそう呟き続けて。
「一体なんだって言うんだ‥‥」
分からない事だらけだったが、とにかくロジャーはその子を拘束した。
一方、子供の一人は正確に大統領を光線銃で狙撃していた。
「大統領!」
蒼子は咄嗟に『自身障壁』と『ボディガード』を発動して大統領の代わりに怪光線をその身に受ける。
(「いっったぁーーい!! でもこれで大統領に貸し一つ。大統領を守った敏腕SPとしての名声も手に入れたわ。これで私の身辺警護業は安泰よ」)
蒼子は痛みに耐えながら心の中でそんな皮算用を立てていた。
(「やっぱり他にもいたか‥‥」)
その間に圭吾が2階席からダイブしてその子供に飛び掛る。
圭吾もロジャーと同じく、この広い会場に1人で潜入してくるのはおかしいと考え、協力者がいると想定して周囲に気を配っていたのだ。
「大人しくしろ!」
圭吾の落下の衝撃で子供は床に引き倒した後、腕を背中に回して拘束した。
だが、子供の手から零れた光線銃が爆発。
「うぉ!」
圭吾が爆発で吹き飛ばされた隙に子供は靴底からナイフを抜いて大統領の方に駆け出す。
「行かせるか!」
圭吾は床に倒れたまま子供の足を狙って小銃「シエルクライン」を放つ。
銃弾は足を撃ち抜き、体勢を崩した子度はその場に倒れた。
「‥‥」
しかし子供は顔色一つ変えずに足から血を流したまま立ち上がって再び駆け出す。
その光景を見た大統領の周りの警備員が銃を抜いたが
「待って! 今あの子が撃たれた時にFFが出なかった。あの子は普通の子供かもしれない」
蒼子が撃つのを止めさせる。
「ちっ、面倒な‥‥」
圭吾が痛みに耐えて立ち上がり、子供の後を追う。
圭吾の接近に気づいた子供はナイフを振るってきたが軽く避け、首筋に手刀を叩きこんで昏倒させた。
「もう他にはいないだろうな? これ以上面倒事はゴメンだぞ」
そして3人目の子供は合唱団の子供を人質にとり、無差別に光線銃を撃ち放っていた。
「ハハハッ! これだけ目標が多けりゃあっと言う間に幹部だっ!」
「止めなさいっ!!」
その凶行を止めるべく立花が立ち塞がった。
「なんだお前、正義の魔女っ子のつもりか? ダッセェ〜の」
子供は立花の魔女っ子ハットとマント姿に完全に油断している。
「アナタの様な非道を行うものに名乗る名は持ち合わせていません。そして‥」
立花は必中の間合いまで近付くとマントを翻して小銃「S−01」を抜き撃ちで放つ。
「私に人質が通じると思ったら大間違いですよ?」
銃弾は子供の頬をかすめていた。
「てめぇぇーー!!」
しかし子供は怯むどころか怒りを滾らせて光線銃を向けてくる。
「そんな危ないもの振り回しちゃダメだよ」
だが撃たれる前に『瞬天速』で飛び込んだ石榴が光線銃を蹴り上げた。
「コイツ何時の間にっ!?」
そして子供の視線が石榴に向いた直後、立花が目を狙ってペイント弾を撃つ。
「ギャーー!!」
ペイント弾とはいえ目に当たれば失明しかねない衝撃だ。子供は目を押さえてのた打ち回る。
「二人目ゲット〜♪」
その間に石榴が人質の子供を確保。
「神妙にしなさい!」
立花が子供を取り押さえる。
「くっそーー!!」
子供は光線銃を爆発させるため放そうとしたが、立花が足で踏みつけて阻んだ。
「それが危物なのは既に知ってます」
「ちくしょう!! 俺は幹部候補だぞ! 後2人で幹部だったんだ! それがこんな所で‥‥くそっ!!」
「幹部候補?」
「後2人?」
それが何を意味するのか2人には分からなかった。
その頃、アーティェスは一番近い出口に向かって駆けていた。
しかし
「待てっ!!」
退路を塞ぐために観客の中に紛れていた柿原 錬(
gb1931)がアーチェスの前に立ち塞がる。
「なに、おねえちゃん? 僕急いでるんだけど」
覚醒によって声音が変わり、帽子を被ってセーラ服を着ている錬をアーチェスは女性を勘違いしたらしいが、そんな事は錬にはどうでもいい。
「なんであんな事を‥‥したんだ。あの人は君の姉さんじゃないのか?」
問題なのはアーチェスが実の姉であるマチュアを撃った事だ。
錬には恐怖している事がある。それは姉の目の前に敵として現れる事。
それ故、錬は上手く心情を利用するバグアのやり口が許せないのだ。
「あ、おねえちゃんもマチュアお姉ちゃんの仲間なんだ」
「何がしたいんだお前は、大統領が、目的なんかじゃないんだろ。引き込みたいんだろ姉さんを!」
「え? アハハハッ!! おねえちゃんって想像力が逞しいんだね」
錬は確信を持って言ったのだがアーチェスには大笑いされる。
(「違う‥のか?」)
「僕が今日マチュアお姉ちゃんと出会ったのは本当に偶然だよ。僕もビックリしてるんだ。でも‥うん。それも面白そうだね。次はそうしてみようかな」
アーチェスが楽しそうに笑う。
「そうはさせない!」
錬は不意打ちで小銃「バロック」で貫通弾を撃ったがアーチェスには軽々と避けらえ、懐に潜り込まれる。
「くっ!」
錬は続けて機械剣βで凪ぎ払うがアーチェスには身を屈めて避けられ、銃身を身体に押し付けられた。
「‥ぅ」
錬の背中に戦慄が走った直後
「いいこと教えてくれてありがと、おねえちゃん」
パンパン
アーチェスの放った銃弾が錬の身体を貫いた。
「カハっ!」
灼熱の痛み共に競り上がってきた血が口から零れる。
「じゃあね〜♪」
「ま‥待て‥‥」
錬は身を翻したアーチェスに手を伸ばしたが届かず、ゆっくり床に倒れ伏す。
アーチェスは出口に群がっていた男性の背中を踏み台にして2階席に上がり、窓を突き破って外に出た。
外にいた警備員達が後追ったがアーチェスの姿は雨に紛れ、そのまま逃走してしまう。
アーチェスが去った後に残ったのは、深手を負ったが命に別状はない大統領と、3人の共犯者と、十数人の怪我人と、消沈しているマチュアだった。
「マチュアさんすいません。出過ぎたのかも知れないけど、どうしても気持ちが高ぶってしまって」
「‥‥」
国谷に『練成治療』を受けながら錬が謝るがマチュアには聞こえていない。
「マチュア」
ロジャーがマチュアに後ろから忍び寄っていきなり肩を揉む。
「うわっ! な、何だ?」
驚いたマチュアがロジャーの手を振り払う。
「いや〜、難しい顔してたから心と体を揉みほぐしてあげようかと」
本当は別の所を揉みたかったロジャーが笑いかける。
「マチュア氏、気持ちは解る。だが焦っても何も得られない。とにかく情報を集めよう」
「そうです、私もお手伝いします」
「‥‥あぁ、ありがとう」
リヴァルと立花の言葉にマチュアは微かにだが笑みを浮かべたのだった。