●リプレイ本文
ヘリがローター音を響かせてロッキー山脈の斜面に沿って飛び、生い茂る木々の中に小さく開けた草地の上でホバリングを開始する。
「ヘリボーンなんて久し振りですよ、鈍ってなきゃいいんですが」
ヘリの扉を開けてロープを垂らした綿貫 衛司(
ga0056)が陸自で受けた訓練を思い出しながらロープを体に装着する。
「レンジャー綿貫、降下用ー意‥降下ー!」
そして淀みない動きでスルスルとロープを下り、地面に降り立つとすぐにロープを外し、ショットガン20を構えて周囲の警戒を行った。
「‥‥敵の気配はなし。OKです」
綿貫がヘリに合図を送ると残りの傭兵達も次々と降下してくる。
そして最後はAU−KVのミカエルを脱いだ秦本 新(
gc3832)だ。
本当は吊り橋の手前までは装着してゆくつもりだったのだが、回収に手間がかかるという理由からヘリで脱がされていた。
「AU−KVなしでは少し不安ですが‥仕方ないですね」
新は覚悟を決めて降下し、全員を降ろしたヘリはすぐに離れていった。
「では出発しましょう」
「フフッ、ピクニックとキメラ退治──楽しみですわね」
傭兵達は綿貫とミリハナク(
gc4008)を先頭にしてAのレーダーに向かって歩みだした。
道中、綿貫は速度優先で進みながらも周囲の警戒を怠らない。
「地域が地域なだけにキメラの影が見えなくても最低限の警戒くらいはしておくべきですからね」
「なるほど‥勉強になるな」
今回が初任務となる宇治橋 司郎(
gc2919)はこの機会にベテラン勢から色々学んでおこうと考えていた。
「なんだか子供の頃にやったオリエンテーリングを思い出しますね」
地図とコンパスを頼りに周辺の地形を確認していると、ふと昔を思い出した篠崎 美影(
ga2512)が楽しげに微笑む。
それから半時程で一行はAのレーダー付近に到着。
「‥‥あれ、かな?」
全員で手分けしてレーダーを捜索すると、沁(
gc1071)がそれらしき物を発見した。
「レーダーにも周囲にも特にコレといった異常は見当たりませんね」
少し離れた場所から観察したセバス(
gc2710)には壊れている様にすら見えない。
「では私が中を調査してきます。どちらかと言うと戦いは不得手ですけど、こういう方面でなら役に立てるかと思いますので」
「私も行きます。1人より2人の方が修理も早く済むでしょうし」
レーダーに向かった神代 咲耶(
gc3655)の後に美影が続く。
「ありがとございます。私、技術はあるのですが知識はそれほどありませんので助かります」
「なら、知識が必要そうな所は私が指導しますね」
美影は小さく苦笑すると慎重にドームのドアを開け、咲耶と共に中の様子を伺った
まず目を引いたのは焼け焦げたレーダー管制機と、天井に開いた穴。
2人は中に入って念入りに調査を開始する。
そして出た結論は
「落雷が天井を突き破って管制機を壊したのだと思います」
「‥‥キメラの仕業じゃ、ない?」
自分の過去に関わるキメラを捜し求めている沁が少し残念そうな顔で尋ねてくる。
「穴は一つだけで修理も簡単にできそうなの。もしキメラの仕業ならレーダーを完全に破壊するため何度も攻撃すると思うわ」
「もちろんキメラが行った可能性もありますので捜索はしておいた方がいいと思いますが」
「了解しました。私達は引き続き周囲の警戒を行いますので、2人は修理をお願いします」
そしてレーダーを修理した一行はBに向かって移動を開始。
道中、空を特に警戒したがキメラは発見できなかった。
「本当に落雷が原因だったみたいですね」
「ちょっと拍子抜けね」
「ですが戦わないで済むならそれに越した事はないですよ」
「もし全部ただの故障なら俺は皆に迷惑かけないで済む‥というのは無理なんだろうな‥‥はぁ‥‥」
少し警戒を緩めた新、ミリハナク、セバス、司郎が雑談しながら歩を進める。
そして一行は吊り橋までやってきた。
「‥ちょっとぼろいね。でもまぁ落ちはしないでしょ」
橋の状態を確かめた咲耶がポツリと呟く。
「意外と高いし下は川か‥‥落ちたらヤバそうですね。まさかとは思いますが、ここで襲ってきたりしませんよねぇ‥‥」
「キメラの痕跡は、なかった‥‥。多分‥大丈夫だ」
橋の下を覗き込んだ新が不安そうにしていると、橋にキメラの痕跡がないかチェックした沁が保障してくれる。
「私が先に行って安全を確保してきます」
綿貫は持ち前のレンジャー技能で不安定な吊り橋を安定した歩調で一気に渡りきり、周囲を警戒。
「‥‥よし、安全確保」
安全を確認するとシグナルミラーで仲間達に合図を送る。
「じゃ、次は俺が」
2番手は司郎。
「次は私が行きますね」
3番手は美影。
「おっとっと! 意外と揺れますね」
美影は橋の柵の部分を掴んで慎重に進んだが、それでも橋ごと体が縦に揺れた。
すると、その揺れに合わせて美影の豊満なバストもゆっさゆっさと揺れたのだった。
「ぁ」
それに気づいた男性陣は美影の安全を考えてそのまま見守るべきか、それとも目を反らすべきか、悩ましい判断を迫られる事となった。
美影はそんな男性陣の困惑に気づく事なく無事に渡り終える。
しかし
「ふふ〜ん。じゃあ私も♪」
今度はミリハナクがわざと胸を揺らしながら渡り出したため、また男性陣を思い悩ませるのだった。
そんなトラブルはあったものの全員が無事に吊り橋を渡り終え、再び移動を開始。
そして一行はあっさりとBのレーダードームを見つけた。
なぜなら、ドームには体長2m程の大ヤモリ型キメラが貼りついていたからだ。
「こいつは‥‥アイツとは、違う」
ヤモリを見た沁が落胆した声音で呟く。
「ねぇ、なんだかドームが溶けてる様な気がするんですけど?」
美影の指摘通り、ドームはヤモリが触れている箇所から溶け出していた。
「キメラの体液に‥溶解作用が、ありそうだ」
キメラの観察を続けていた沁がそう見当づける。
「どうやら調査するまでもなく、このキメラが故障の原因ですね」
「速やかに排除し、その後レーダーの修理に取り掛かりましょう」
綿貫が油断なくショットガンを構えると、他の者達も予め決めたおいた陣形を取る。
そして美影と咲耶が前衛の綿貫、セバス、ミリハナクの武器を『練成強化』。
「攻撃開始!」
綿貫の合図で前衛がヤモリに接近。
後衛からは美影が超機械γで、沁が超機械「ハングドマン」で、咲耶は超機械「牡丹灯籠」で、それぞれ電磁波を照射。
たちまちヤモリの体表が焼け焦げ、周囲に異臭が漂う。
傭兵達に気づいたヤモリはすぐに移動を始めようとしたが、
「おっと、動かないで下さいよ?」
新と司郎が小銃S−01でヤモリの足を狙い撃つ。
足を撃ちぬかれたヤモリはドームの壁に張り付いていられなくなって落下。地面に横倒しになった。
その隙を逃さず綿貫が近距離からショットガンを4連射。
発射された12発の特殊弾頭がヤモリの体をズタズタに引き裂く。
そしてトドメを刺そうとセバスとミリハナクが接近した瞬間、ヤモリは口から溶解液を吐き出してきた。
「くっ!」
セバスはエンジェルシールドで直撃は防ぎ、ミリハナクは双斧「パイシーズ」で身を守りながら『流し斬り』で素早くヤモリの側面に回りこむ。
「やってくれましたわね。今すぐ昇天させてあげますわ!」
そして回り込んだ勢いで体を旋回させ、大きく振りかぶったパイシーズをヤモリに叩き付けた。
パイシーズの刃は綿貫が撃ち抜いた箇所を更に切断し、胴体を真っ二つにする。
しかしヤモリは体が半分になってもまだ攻撃してこようとする。
「往生際が悪いですよ!」
セバスは跳躍すると旋棍「砕天」を振りかぶり、落下の勢いも加えた渾身の一撃をヤモリの脳天に叩き落す。
旋棍はヤモリの頭蓋骨を粉砕、そのまま脳も潰して完全に息の根を止めた。
キメラを排除した後、美影と咲耶は少し怪我をしたセバスとミリハナクに『練成治療』を施してからレーダーの修理を開始し、残りの者は周囲の警戒に当たる。
そして修理が完了するとCのレーダーに向けて移動を始めた。
その道中、一行は湖の近くを通りかかる。
「良い景色ですね‥‥」
新が目を細めて湖を眺めた。
「えぇ、本当に綺麗な湖ですわ‥‥。ねぇ、ここで少し休憩しません事?」
ミリハナクの提案に反対する者はおらず、一行は湖で休憩を取る事になった。
「私、汗をかきましたので水浴びしてきますわね」
「‥え?」
そしてミリハナクは男性陣が見ているにも関わらず服を脱ぎ、下着にも手をかける。
「ミリハナクさん! もしかして裸になるつもりですか?」
「えぇ、だって着替えを持ってきていませんもの。美影さんも御一緒にどうです?」
「いえ、私は夫以外に裸を見せる気はありませんので遠慮しておきます」
「そうですか、では」
ミリハナクはあっさり裸になると湖に向かった。
「え〜と‥‥。それでは私はコーヒーでも淹れようかと思います。よければ皆さんもどうぞ」
「あ、いいですね。頂きます」
「綿貫さん。私カレーを食べたいんで、お湯を少し分けてもらえますか」
ミリハナクの行動にどう反応すればいいのか対処に困った男性陣はとりあえず湖の方をあまり見ないようにして各自で休憩を取る。
「それでは私は一曲吹かせていただいてもよろしいですか?」
「神代様、奇遇ですね」
咲耶が忍刀「鳴鶴」を構えると、セバスも忍刀「鳴鶴」を取り出した。
「おや、では連奏しましょうか?」
「はい。では、休憩がてらにまず一曲‥‥」
湖に咲耶とセバスに笛の音が優しく木霊し、その調べを聞きながら傭兵達は束の間の休息を取る。
「なんだか、こうしていると学生時代を思い出しますよ‥‥」
「ところで篠崎さん。さっき夫って言ってましたけど、もしかして」
「はい、結婚していますよ。夫も傭兵で36歳です。だから私とは一回り以上離れているんです」
「えぇーー!!」
その事実は皆を驚愕させた。
そうして湖で1時間ほど休憩した一行は再びCに向けて移動を開始。ワイヤーの張られている尾根までやって来た。
「いや、なんというか‥‥絶対200kgとか耐えられないでしょう、これ」
新が風に揺れる細いワイヤー眺めながら率直な意見を言う。
尾根と尾根との間は深い谷。
AUーKVを付けた自分が途中で谷底に落ちる光景を想像するとゾッとする。
「では今回も私が先に言って安全を確保してきます」
綿貫は腰のベルトと繋いだ滑車をワイヤーに設置し、地面を蹴った。
シャーと小気味良い音を立てながら滑車がワイヤーを滑り、綿貫の体がどんどん加速してゆく。
綿貫は終点が迫ってくるとブレーキで速度を徐々に落とし、足が地面についた後はフルブレーキをかけながら足でもスピードを殺し、激突を防ぐ。
そしてすぐに滑車を外して周囲を警戒。安全を確保した後、シグナルミラーで合図を送った。
2番手は今回も司郎。
「‥アトラクションの一種と思えば‥‥」
少し怖かったが自己暗示をかけて地面を蹴った。
しかし細いワイヤーと滑車だけで体を支える不安定さと、想像以上の速度が司郎を襲う。
「っーー!?」
それでも悲鳴を上げず、ブレーキもギリギリまで我慢したのは立派である。
(「こ、怖かったぁ〜!!」)
到着した後は素の表情をしながらも心臓がバクバクと拍動していたのは秘密だ。
そして他の者達も少々怖い思いはしたが無事に到着。
「怖くない‥寧ろ楽しそうですが、激突は嫌ですから終点だけは注意しないと」
最後に咲耶がたすきがけをして和服の袖をまとめ、地面を蹴る。
そして軽快に滑ってきた咲耶も激突する事なく到着。
「いやぁ、中々スリルがありましたねー」
本当に楽しかったらしく、すっきりした顔でたすきがけを外した。
そしてCのレーダー付近に到着した一行は捜索を開始。すぐに穴だらけになったレーダードームを発見する。
「穴だらけですね‥‥。修理には時間がかかりそうです」
「でも、ドームをこれだけ大規模に破壊できるのはキメラぐらいでしょうね」
「穴位置は‥地面から1.5mくらい‥‥。数は‥9つ‥‥。強い力で‥外側から鋭角物を、ぶつけている」
それが咲耶と美影と沁の見解だった。
「カモフラージュされたレーダーを破壊したということは、このキメラは電磁波を見つける能力があるのかもしれないわね」
「なら超機械で電磁波を発してみましょうか」
「ではその方法でキメラを探し出して駆逐しましょう。修理はそれからです」
傭兵達はミリハナクの予測と咲耶の提案に従い、超機械を空に向けて電磁波を放ちながらキメラの探索を始めた。
探索開始から半時ほど過ぎた頃、電磁波に呼び寄せられたのかは分からないが、傭兵達に向かって重々しい振動が近づいてきた。
「‥‥何かが‥接近してる」
「全員迎撃準備!」
そして木々の間の草むらを抜け、小型のトリケラトプス型キメラが突進してきたのだった。
「トリケラトプスだと!?」
咄嗟に綿貫がショットガンを連射。重散弾が角の一つをへし折ったが勢いは止まらない。
司郎と新がS−01を撃ち、沁が電磁波を放つが体表を浅く傷つけるに止まる。
「くそっ! 火力が足りない」
「練成強化します」
美影と咲耶が急いで各人の武器の強化を始めるが、トリケラが迫る方が速い。
「やらせませんわ!」
だが、ミリハナクが後衛の前に立ち塞がり、トリケラの頭部にパイシーズを叩き込む。
パイシーズの刃はトリケラの表皮を破ったが、ミリハナクも体当たり喰らって吹き飛ばされ、大地に叩きつけられた。
「ミリハナクさん!」
「今度は私が引き付けます。攻撃は任せましたよ」
「なら、俺が援護する!」
セバスは司郎の『援護射撃』受けながら『疾風脚』を発動し、『瞬天速』で一気にトリケラの懐に飛び込むと旋棍で頭部を殴打。
トリケラは角で突いてきたがギリギリで避ける事ができた。
その間に武器の強化は終わり、再攻撃の準備が整う。
「‥‥喰らえ」
沁は『電波増幅』を発動し、全力の電磁波を照射。
司郎も『援護射撃』を行いつつ、『鋭覚狙撃』で『強弾撃』を放つ。
今度はどちらもトリケラの表皮を貫いた。
「可っ哀想に、あんたが殺れる雑魚は俺ぐらいなもんだぜ?」
「仕掛けます。一瞬でいいのでキメラに隙を作ってください」
ショットガンをリロードした綿貫はそう言い残し、身を低くして駆け出した。
美影と咲耶は電磁破を放ち、新はS−01を撃って綿貫を援護。
綿貫はトリケラの注意が3人に向いた隙に体を倒してトリケラの腹の下に滑り込み、ショトガンを連射。
重散弾が腹を食い破り、内臓をズタズタに引き裂く。
綿貫がそのまま腹の下を滑り抜けて身を起こすと、今の攻撃が致命傷になったトリケラは横倒しに倒れ伏した。
「やはり腹の皮は薄かったみたいですね」
その後、ミリハナクの怪我も『練成治療』と自身の『活性化』で完治し、レーダーの修理も無事完了。
任務を全て終えた傭兵達は意気揚々とロッキー山脈を後にした。