●リプレイ本文
ヒューストンの街をバグアの手から解放するため、最後の拠点であるヒューストン港に向けて9機のKVが迫る。
「うむ、ヒューストンか。また来てみたかったのだよ。‥‥随分変わった、な」
グリフォンのステップ・エアで唯1機、水面を走っていたUNKNOWN(
ga4276)は以前に来た事があるのかモニターに映るヒューストンの光景に少し眉をひそめた。
「あそこの鯨を落としてしまえば、長かったヒューストンを巡る戦いも終わりですか‥‥」
レーダーに映る敵編隊の中央に位置するビッグフッシュを確認した新居・やすかず(
ga1891)が少し感慨深げに呟く。
「‥‥よし、あれを沈めたら奴とはサヨナラ出来るんだよな? 全力で! 頑張らせて貰おうか!」
シェアト(gz0325)と関わる事が(精神的に)キツイ依神 隼瀬(
gb2747)は(さっさと終わらせたいという意味で)もの凄くやる気満々だ。
「初めて会うゼオンジハイド! 強かったらいいなぁ〜♪」
一方、オルカ・スパイホップ(
gc1882)はゼオンジハイドと戦う事を心待ちにしていたらしくウキウキしている。
「シェアト‥か。あぁ言うタイプは好きだが‥まず鯨を沈めさせて貰うか♪」
どうやら聖・真琴(
ga1622)もシェアトとやり合いたい派だ。
「CW付きでアレとやりあうのか‥恐ろしいがやるしかねえ!」
前回シェアトの強さを嫌と言うほど思い知った龍深城・我斬(
ga8283)が自身の喝を入れる。
「ここが最後の踏ん張り所だね。さぁ、勝ちに行こう!」
「あぁ、ここをヒューストンでの最後の戦いにする‥‥。行くぞ!」
弓亜 石榴(
ga0468)の言葉を受けてリヴァル・クロウ(
gb2337)が発した合図で全機が一斉に進攻を開始した。
石榴、真琴、新居、我斬、リヴァル、オルカの6機はそのまま敵編隊に向けて直進。
その6機を囮にして周防 誠(
ga7131)と隼瀬は深海から、UNKNOWNは海面からCWを狙う作戦だ。
しかし敵は重力波レーダーで傭兵達の動きが分かるため、深海にはHWが2機、水面にはマンタ・ワームとHWを1機ずつ迎撃に向かう。
そして残りのマンタはCWの周りでヒレを大きく広げて盾となり、BFとTWは動かず、ゴーレム2機とメガロ・ワーム3機が前衛班の6機に向かってきた。
「あれ? もしかしたらこっちの作戦バレてるかも‥‥」
石榴は深海に向かうHW2体を照準に捉えると、敵の注意を引く事も兼ねてホーミングミサイルを発射する。
しかしミサイルは距離が離れすぎているためアッサリ避けられ、HWの進路も変わらない。
「HW2機くらいなら振り切れます。前衛班はそのまま残りの敵を引きつけておいてください」
周防は仲間にそう告げると隼瀬と共にブーストを起動し、CWに向かって加速する。
だが、2人の敵はHWだけでない。TWもプロトン砲で砲撃してきたのだ。
CWの怪音波の影響下にある2人は避ける事ができず直撃。融解した装甲から浸水が始まる。
続けてHWが放った魚雷も直撃。こちらの被害は軽微だったが、視界が爆発と気泡で塞がれた。
だが気泡に紛れて接近したHWが2人のリヴァイアサンに取り付き、レーザークロー(LC)を突き立てる。
「しまった!」
高出力のレーザーが装甲を焼き切り、幾つもの傷が機体に刻まれた。
「このっ! 離れろ!」
隼瀬を機体を人型に変形させ、その変形可動を利用してHWの拘束を外すとアサルトライフルを乱射したが、HWには避けられる。
「やっぱりCWを先にどうにかしないと‥‥」
周防も隼瀬と同じく変形でHWの拘束を外し、LCを叩きつけた。
「CW影響下では威力は期待できませんが、押し退けるぐらいはできるでしょう」
そしてHWを進路上から退けるとCWに向けて魚雷ポッドを発射。
しかし魚雷は護衛のマンタが自らを盾にして防いだ。
「あのマンタが邪魔ですね‥‥」
「だったらマンタから片付ける!」
「分かりました、援護します」
周防はHWの攻撃をアクティブアーマー(AA)で防ぎつつリロードした魚雷ポッドをまずTWに放つ。
魚雷ではTWの甲殻を破る事はできないが、爆発の衝撃がプロトン砲の軸線を狂わせ、気泡が視界を覆う。
「これでも喰らえ!」
隼瀬は『システム・インヴィディア(SI)』を起動すると、魚雷ポッドと多連装魚雷「エキドナ」を2発とも発射。魚雷がマンタのヒレを引きちぎり、エキドナが胴体に大穴を開けて内部から破壊した。
その隙を逃さず周防は再び魚雷ポッドをリロードするとCWに発射。直撃を受けたCWも海の藻屑となる。
その頃、海面に飛沫を上げて疾走していたUNKNOWNの眼前にマンタとHWが浮上し、フェザー砲とフォトン砲を放ってきていた。
「ふむ、2匹釣れたか」
しかしUNKNOWNは2基の高出力ブースターと尾部フレキシブルスラスター、更に脚部スラスターを使ったステップ・エアBでのフレキシブル・モーションを巧みに使って鶏っぽい動きを再現し、CWの影響を受けているとは思えない優雅な機動で全て避けきってしまう。
「ふ、水面で踊るのも一興だな」
そして、まるで産卵するかの様にソナーブイを海中にぷりっと投下。
次々と送られてくるソナーデータからCWへ攻撃を仕掛ける絶好の入水角度を読み取り、ダイブ。
入水角度45度で潜り始めたグリフォンは海水を切り裂きながら猛スピードでCWに迫る。
すると、BFがプロトン砲で砲撃してきたが、UNKNOWNはまったくスピードを落とす事なく各部のスラスターで機体を振って避けた。
だが、その間にマンタがCWに覆い被さる様にして防御を固める。
しかしUNKNOWNはステップ・エアAによる素早い旋回でマンタをかわし、CWをLCで引き裂く。
CWはゲル状の体液を噴き出しながら沈降。その直後に今まで頭に響いていた痛みが完全に消え去る。
そしてUNKNOWNが海面に浮上すると、待ち構えていたマンタとHWが浮上地点に向けて集中砲火を浴びせてきた
「おっと」
何発かは被弾したがUNKNOWNはスロットルを全開にして弾幕を抜ける。
そしてステップ・エアで海面を走り、大きく弧を描いてマンタの側面に回りこんで接近。
マンタは方向転換してフェザー砲を放ってきたが、UNKNOWNは機体を小刻みに振って避けると海面を蹴ってジャンプ。マンタの上に飛び乗った。
そしてナックル・フットコートβ処理を施された嘴をキラリと煌かせると、カカカカカッと真下のマンタに突ついて突ついて突つきまくった。
一突き毎にマンタの装甲に開いた穴が大きくなってゆき、最後の一突きが中枢部を破壊。浮力を失ったマンタがゆっくりと海に沈んでゆく。
その間に空に舞い上がっていたHWが頭上からフォトン砲を乱射してきたがUNKNOWNは海面を蹴立てて飛沫を巻き上げながら回避。自身も空に舞い上がる。
そしてソードウィングを展開すると急上昇して真下からHWを斬り裂き、そのまま上昇して宙返り。今度は急降下で斬り裂き、更にループ。真横から、斜め上、斜め下、と更に3連撃を決め、HWを6分割して破壊したのだった。
時間は少し巻き戻り
ブースト機動で前衛班の先頭を進む真琴とリヴァルはメガロのラムによるチャージ攻撃を仕掛けられていた。
「良いのかぃ? 下に気を取られて♪ 隙がありゃコッチも行くぜ?」
真琴はそう挑発したが相手は無人機だ。2機のメガロは構わず突貫してくる。
真琴は回避機動をとったがCWの影響下ではその動きは鈍く、串刺しにはならなかったがラムが機体をかすめて装甲に傷が入る。
リヴァルにも1機メガロがチャージしてきたが、リヴァルはリヴァイアサンを変形させてAAと機盾「ウル」で受け止めた。
衝撃が機体に走るが、ラムは盾を貫通する事なく完全に受け止めている。
リヴァルはメガロの動きを止めた隙を突いてガウスガンを連射。弾丸を食らったメガロの体が跳ねる。
「真琴!」
「おぅ!」
そこに真琴がガウスガンで追い撃ちかけ、メガロに更なる弾痕を穿ってゆく。
「トドメだ」
そしてリヴァルがSIを起動し、LCで傷ついたメガロにトドメを刺そうとしたが、ゴーレムがリヴァルにハープーンを射掛けてそれを阻む。
「くっ!」
リヴァルは咄嗟に盾で受けようとしたが間に合わず、銛は胴体に突き刺さった。
そして動きが一瞬止まった隙に2体のメガロがUターンして今度はリヴァルに同時にチャージを仕掛けてくる。
1体なら盾で防げるが2体は不可能だ。
「く〜ちゃんの背中はっ‥アタシが護る!」
しかし真琴が『エンヴィー・クロック(EC)』とブーストを起動してリヴァルとメガロの間に割って入り、AAでチャージを受け止めた。
メガロのラムはAAを突き抜けて胴体にも突き刺さったが、真琴はかまわずSIを起動。
「おらぁっ!!」
リヴァイアサンの頭部に装備した凶悪な突貫兵器『夜露死苦☆ヘッドバンカー』で盛大な頭突きをかます。
ガツン!
と鈍い音を響かせてヘッドバンカーがメガロの装甲を破砕しながら貫通。
メガロは身をくねらせて抜こうとするが、真琴はレーザークローで抑え込んで逃がさない。
「アタシの自慢のリーゼントはその程度じゃ抜けねぇよ!」
そしてメガロを頭部に突き刺したままLCで滅多斬りにして息の根を止めた。
だが、その間に先ほど仕留め損ねた3体目のメガロがリヴァルの頭上から急降下してくる。
「く、間に合わん!」
「任せてください」
リヴァルは直撃の備えたが、攻撃が届く前に新居の放ったSIを付与したホーミングミサイルがメガロの横っ腹に命中。爆発でチャージの進路が反れる。
「一撃必殺! 鰤をも仕留める猫パーーンチ!」
そして吹き飛ばされたメガロは石榴のアルバトロスがLCでの猫パンチでトドメを刺した。
「この魚は私と新居さんに任せて。聖さんとリヴァルさんはゴーレムを頼むよ」
石榴はそう告げる機体を変形させ、新居がガウスガンでの予測射撃と時間差攻撃で自機に寄せ付けないようにしながらダメージを与えているメガロに向かって突進。
「ダッシュ猫パーンチ!」
そしてメガロの直前で再び人型に変形すると、推進力を上乗せしたLCの一撃を叩き込んだ。
LCは装甲と内部機構を引き裂いて肘まで埋まり、石榴が腕を引き抜いて離れたところを新居がガウスガンでトドメを刺す。
一方、ゴーレムはリヴァルに向かってトライデントを構えて突撃してきた。
この頃には既にCWの怪音波はなく、リヴァルは盾とAAで受け止めるが三つ叉の槍先は盾もAAも貫通して胴体部に突きたった。
「今だ真琴!」
だがリヴァルは槍を掴んでスラスターを吹かし、ゴーレムの突進力を相殺して動きを止めると合図を受けた真琴がゴーレムの背中に向けてガウスガンを掃射。
ゴーレムは背中に弾痕を穿たれながら槍から手を離し、振り返り様、真琴にハープーンを放つ。
「あめぇ!」
だが、その攻撃を読んでいた真琴はECとブースト機動で機体を沈めて銛を避けると、上昇しながらレーザークローを振り上げ、ゴーレムの腕ごとハープーンを切り落とす。
武器を失ったゴーレムは距離を取ろうとするが、リヴァルは近距離からホールディングミサイルを発射。
「逃がさん!」
直撃を受けたゴーレムが体勢を崩した隙に接近してSIを起動し、LCを腹部に突き立てる。
そしてそのままLCごと手を体内に深くにまで抉り込んで中枢部を掴み、体外に引きずり出して握り潰した。
また少し時間は巻き戻り
我斬とオルカは単独で攻め入ってきたシェアトの足止めを行っていた。
「なぁ、純粋な疑問なんだが、ティターンは無理としてもタロスとか無かったの?」
それがシェアトと正対した我斬の第一声だった。
そして
「‥‥いやすま」
『ハーーーハッハッハッ!! 貴様達を倒すのにティターンどころかタロスすら不要だ。なぜならば! 俺様はパーフェクトに進化したスーーパーーーバグアだからだっ!!』
我斬が『いやすまん、バグアにも事情あるよな』と続けようとした言葉はシェアトの哄笑に掻き消された。
「よし、じゃあパーフェクトスーパーバグアのシェアトさん、僕らと力比べっこしましょ〜」
『フッ、いいだろう。相手をしてやる!』
「では俺から行くぞ! ウルトラスーパーグレートデリシャスデラックスワンダフルボンバー!!」
我斬は剛装アクチュエータ『インベイジョン』Aを起動すると技名を叫びながら水中用機槍「ハイヴリス」で突いた。
『フッ、またウルトラスーパーグレートデリシャスデラックスワンダフルボンバーか‥‥」
しかしシェアトは不敵な笑みを浮かべ、さらりと避ける。
「何ぃ!? その口の滑らかさ‥‥貴様特訓したな!」
『特訓などしてはいない。スーパーバグアには1度見た技は2度と通じない! それだけだっ!!』
シェアトは声高に堂々と豪語した。
一見、シェアトは嘘をついているように思えるが実は違う。
シェアトはその場の思いつきで言った言葉でも本当の事だと思い込める才能(?)の持ち主なのだ。
しかも物覚えがあまり良くないため、過去に何を言ったかいちいち覚えていないという厄介さも兼ね備えている。
「しかしブリリアント(以下略)やアルティメイテッド(以下略)ならまだ‥‥」
『まだ技が残っているのか? いいだろう。ブリリアント(以下略)でもアルティメイテッド(以下略)でも放ってくるがいい』
「くっ‥。コイツ本当に滑舌が良くなってやがる」
本当はどれも基本的には同じ技であるため滑舌の良くなったシェアトには通用しない可能性が高く、我斬は迂闊に手を出せなくなった。
『なんだ、こないのか? では今度はこちらから行くぞっ!!』
シェアトのカスタムゴーレムが大仰な構えを取る。
そして
『スーパーファイナルウルトラグレートゴージャスデリシャスデラックスブリリアントアストロエクセレントスペシャルミラクルパーフェクトバグアデンジャラスエキセントリックワンダフルエレクトリックマキシマムシューティングゴールデンアルティメットバーニングサ‥』
「長げぇよ!!」
「長いよっ!!」
あまりの長さに耐え切れなくなった我斬とオルカは思わず武器でつっこみを入れてしまった。
『ぐおっ!』
我斬の魚雷ポッドを胸部に、オルカのハープーンボウ「ウェールズ」の銛を腹に喰らったシェアトのゴーレムが吹っ飛ぶ。
『くっ‥‥返されだと? 馬鹿なっ! スーパーファイナル(中略)マキシマムシュー‥』
ボカン
『なんのっ! スーパーファイナル(以下略)』
ドカーン
『スーパー(以下略)』
ちゅどーん
『な、な‥なんという事だ‥‥。このパーフェクトに進化した俺様のスーパーエキセントリック必殺技にこんな返し技があるとは‥‥』
結局、セリフの途中でオルカが放つ533mmSC魚雷「セドナ」を喰らい続けて一度も技名を言い切る事ができなかったシェアトは思いっきり落ち込んだ。
(「馬鹿だ‥‥。コイツ真性の天然馬鹿だ‥‥」)
そんなシェアトの姿を見て、我斬は心の底からそう思うのだった。
「だらだらと長くなると美的センスが失われますよ〜」
そんなシェアトの事を哀れに思った‥訳ではなく、時間稼ぎのためにオルカが話しかける。
『なんだと?』
「メリハリつけたほうがいいんじゃないですか?」
『メリハリ‥‥か』
するとシェアトはあっさりとオルカの話題に乗ってきて真剣に考え込み始めた。
『では、スーパーファイナルウルトラグレート ゴージャスデリシャスデラックス ブリリアントアストロエクセレント スペシャルミラクルパーフェクトバグア‥といった感じか?』
「まぁそんな感じですけど、それだと長いままです。もっと縮めましょうよ〜」
『例えばどんな風にだ?』
「えっと‥‥バグアバスター! とか‥‥駄目??」
なのでオルカも一緒になって考えてあげた。
『それはあまりにも短すぎるだろう。それでは俺様の超越感やエレガント感が伝わらない』
「じゃあ‥‥」
それから2人は結構真剣に技名を考え始めた。
少し時間は巻き戻り、CWの影響がなくなった直後の頃
「さぁ、ここからが本番ですよ!」
周防はSIを起動し、HWをLCの3連撃で引き裂いて倒すと、フォトンランチャーでTWの狙撃を始めた。
隼瀬は小型魚雷ポッドをHWを中心とした広範囲に発射。HWの周囲で起こった爆発でHWの足を鈍らせて接近する。
接近中にHWの放ったフォトン砲が命中するが隼瀬は構わずHWの手前で人型に変形すると水中機槍斧「ベヒモス」を振り上げながらSIを起動、そして一気にベヒモスを振り下ろす。
ベヒモスの刃がHWのアームをへし折りながら胴体部を食い込み、そのまま破砕しながら貫通。
隼瀬はそのままベヒモスを手元に引き戻すと今度は思いっきり突き、槍先をHWの頭を貫きながら胴体部もメキメキとひしゃげさせてゆく。
それでもHWはまだフォトン砲を放って反撃してきたが、隼瀬は再び大きく振りかぶったベヒモスを力一杯叩き込むと、胴体部が完全にひしゃげてくの字に曲がり、完全に機能を停止したのだった。
「よし、退治完了!」
「こちらもTWは黙らせました」
BFの周囲にはもう護衛はおらず、2人の位置からはBFの腹が一望できる。
「よーし、次は鯨退治だ!」
隼瀬は機体を変形させるとBFに接近を試み、周防は隼瀬を援護しようとフォトン砲を構えて狙撃体勢を取る。
だが、不意に船体に無数の穴が開き、そこから数十発もの小型魚雷が隼瀬に向けて放たれてきた。
「うわっ!」
隼瀬は咄嗟に変形してAAを眼前に構える。
その直後、隼瀬の周囲で何度となく小爆発がおき、機体が上下左右に大きく揺さぶられた。
「依神さん!」
周防はすぐにフォトン砲で魚雷発射管を狙い撃ったが数が多くて全ては潰しきれず、周防にも無数の魚雷が撃ち込まれる。
周防もAAで受け、無数の小爆発で揺さぶられたが、機体は思ったほどダメージを受けてはいない事に気づく。
「この攻撃は足止めか? となると‥依神さん回避っ!」
周防は無線に叫びつつECを起動して全力回避する。
その直後、さっきまで居た場所をプロトン砲の光が貫いていった。
「やはりこっちが本命か」
「ありがとう周防さん。間一髪だったよ」
隼瀬のリヴァイアサンは直撃は免れた様だが足先が溶けて無くなっていた。
「でも、これじゃあ近寄る事すらできない‥‥」
そこに敵前衛部隊を倒し終えた4機も合流したが、やはりBFの放つ小型魚雷群に接近を阻まれてしまう。
「遠距離からガウスガンの集中攻撃で何とかなりませんか?」
「いや、それでもこちらもプロトン砲の狙い撃ちに合うだろう」
「では、私が何とかしてやろう」
新居とリヴァルが議論していると不意にUNKNOWNが通信に割り込み、上空からぷりっと空対潜ミサイル「爆雷」を産み落とす。
爆雷はBFの頭頂部付近で大爆発が起こし、一瞬ではあるがBFの重力波レーダーを乱した。
「ナイス! あんのんさん」
その隙に石榴、真琴、リヴァル、隼瀬がBFに取り付く。
「猫パンチ猫パンチ猫パンチー♪」
石榴は一点集中攻撃の全力猫パンチを放つ。
「おらおらおらおらぁーーーっ♪」
真琴はSIを付与したヘッドバンカーをガツンガツンと打ちつけて幾つもの大穴を穿ち、船内へ浸水を促す。
「ここまで接近すればもうプロトン砲も魚雷も撃てまい」
リヴァルはSIを起動し、LCで魚雷発射管やプロトン砲の発射口など装甲の薄くダメージを与えやすい箇所を潰してゆく。
「よし、ハッチ発見」
隼瀬は船底にあるワーム用をハッチをベヒモスで破壊すると中に向けてアサルトライフルを乱射する。
しかしBFもやられっぱなしではない。有線式誘導魚雷を発射し、4機に直撃させた。
「なにっ!?」
まさか魚雷でのピンポイント攻撃が来るとは予想していなかった4人が動揺する。
「新居、上2 左4。周防は下1 左2だ」
「了解です」
「了解」
だがUNKNOWNがソナーブイで誘導魚雷の発射口を割り出し、新居と周防に狙撃で潰させた。
そしてUNKNOWNはナビをしつつ自身も着水攻撃でBFに傷を負わせてゆく。
そうしてBFは各部の兵装を次々と潰され、各所に空けられた穴からの浸水で船体が徐々に傾き、ジリジリと破壊へのカウントダウンを刻んでいた。
その頃、オルカとシェアトの話し合いは佳境に入っていた。
「う〜ん‥‥結局原点に返ってスーパーバグアアタック系が一番って事になっちゃいましたね〜」
『まぁ、俺様もコレが一番しっくりくるしな』
「じゃあ結論も出た事ですし、今度は僕の全身全霊の攻撃! 戦士として受け取ってください!」
オルカはシェアトから少し距離を取り、水中練剣「大蛇」を大きく振りかぶった。
『いいだろう。貴様の力を見せてみろ!』
オルカに上手く乗せられたシェアトは素直に攻撃を受け止める構えを取る。
「行きます! これがっ、今の僕の全身全霊です!」
オルカはSIを起動すると高出力ブースター全開にしてリヴァイアサンを突っ込ませ、大蛇を袈裟懸けに振り抜いてシェアトのゴーレムを斬った。
超圧縮レーザーを海水を蒸発させながらゴーレムの装甲も融解させ、装甲の内部も斬り裂いて、脇に抜ける。
オルカはそこから手首を返し、真下から斬り上げて股間から頭頂までを斬り裂き、頭上で両手で構え直すと今度は逆の袈裟に斬り降ろし、更に下段から手首を返して真横を腰を両断した。
前面部を斬り裂いた4箇所は全て致命傷に到る程の深い傷で、オルカの目にはゴーレムは満身創痍に見える。
「どうですか!? 圧倒的力を持つ者としての感想は?」
実際、傷跡のアチコチでは既に小爆発が起こり、今すぐ大爆発を起こしてもおかしくはない。
『な、なんという事だ‥‥』
シェアトの声からは激しい動揺が伺えた。
『よもや‥ゴーレムを持ってしても俺様のスーパースペシャルドライブテクに対応できんとはっ!!』
「‥‥‥‥へ?」
まったく予想していなかった返答にオルカの目が点になる。
『まさか俺様の才能がここまで底知れずだったとは‥‥まさにスーパーミラクル!! まさにスーパーバグアっ!! あぁ‥‥最強過ぎる自分自身が恐ろしいぜ‥‥』
一人で悦に入りまくっているシェアトはコクピットの中で感動で打ち震えた。
「えぇーーと‥‥ここはつっこんどいたほうがいいのかな?」
「‥‥いや、たぶん無意味だから止めておけ」
シェアトの対処に困ったオルカが我斬に尋ねたが、我斬にも対処方は分からなかったようだ。
『しかーーしっ!!』
シェアトは叫ぶとエアタンクを咥え、ゴーレムのハッチを開けて海中に飛び出した。
その直後にゴーレムは爆散したがシェアトは意にも介していない。
『ぼぶぶればぼべばばぼびんぼびばらぼぼぶぶんびばっびべびぶ』
「ちょ! なに言ってるか分かんないよ!」
「誰かー! 通訳してくれーー!」
ますます対処し難くなったシェアトにオルカと我斬が悲鳴の様な救いを仲間達に求める。
「いや、そう言われても‥‥」
しかし、この場に居る者の中でシェアトの言葉を理解できる者は
「『こうすれば俺様の真の力を存分に発揮できる』だな」
UNKNOWNぐらいしかいなかった。
「あれが分かるのかUNKNOWN!?」
まさか分かる者がいるとは思っていなかったリヴァルが驚く。
「なんだ、誰も分からないのか? 仕方ない、私が通訳してやろう」
UNKNOWNが渋々といった様子でシェアトの通訳を買って出てくれた。
『びぶぼ!(UNKNOWN訳:行くぞ!)』
シェアトは海中とは思えない猛スピードでオルカのリヴァイアサンに突っ込んできた。
咄嗟にオルカは魚雷ポッドを発射したが、シェアトはすいすいと避けて迫ってくる。
しかしオルカにはもう大蛇を使えるだけの練力はなく、ウェールズはリロードされておらず、セドナは弾切れ、迎撃手段は残されていない。
『訳:スーパーバグアパンチ!』
シェアトの拳が迫る。
オルカはブーストとECを駆使して避け様としたがシェアトの拳は想像以上に速く、リヴァイアサンが身を捻るより先に胸部に叩き込まれていた。
まるでハンマーで殴られた様な衝撃がコクピットを襲い、胸部装甲が一撃で粉砕される。
『訳:スーパーバグアバックキック!』
身を捻って繰り出されたシェアトの後回し蹴りが脇を殴打。肩関節がバキバキと嫌な音を立て、左腕が完全に動かなくなる。
『訳:スーパーバグアラッシュ!』
そしてシェアトの拳が胸部と腹部に何度も叩き込まれ、まるで大砲の連射を喰らった様な衝撃がオルカを襲う。
シェアトの攻撃が終わった後には胴体部が完全にひしゃげて機能停止させられたオルカのリヴァイアサンの姿があった。
「くっそぉーまだまだ足りない。絶対的な力がほしい!」
オルカは照明の消えたコクピットの中で強く願うとエアタンクを咥えて機体から脱出。
その直後にリヴァイアサンは爆発した。
だが、シェアトがオルカを倒した一瞬の隙を突いて我斬が攻撃を仕掛ける。
「我斬流KV戦闘術槍殺法秘奥の47‥‥獣槍悶絶無尽剛昇突破粉砕撃ぃ!!」
『訳:なにぃ!! 貴様っ! まだこんな技を隠し持っていたのかっ!?』
どうやらシェアトは和名な技にはまだ馴染みがないらしく、『インベイジョン』Aを付与されたハイヴリスの突きをまともに喰らった。
「追撃の光爪抉傷虐滅衝破!」
我斬は更にLCでシェアトの体を引き裂く。
だが、攻撃が終わった後には服を破かれ、わずかに傷を負ったシェアトの姿があるだけだった。
「今のを喰らってそれだけか‥‥」
圧倒的な力の差を見せられた我斬が愕然とする。
『訳:貴様ーーー!! よくも俺様も超素敵衣装を破いたなっ!! 許さんぞぉーーー!!!』
しかしシェアトの怒りは自身が傷ついた事より、衣装を破かれた事に向いていた。
そしてシェアトの放った『スーパーバグアコンビネーション』がビーストソウル改を完全に破壊し、我斬もエアタンクを咥えて機体を捨てるより他なくなった。
しかし2人がシェアトを抑えていた間にBFは撃沈し、海底深くに沈んでいった。
「全機、残った魚雷とミサイルを全弾シェアトに発射しろ!」
そしてBFを倒した6人がリヴァルの合図に合わせて魚雷とミサイルを一斉発射。
『訳:こんなもの!』
最初の4、5発は易々と避けていたシェアトだが、だんだんと至近弾が増えてくる。
そして1点に集中した爆発による濁りと気泡が晴れた時、シェアトはエアタンクを失っていた。
『訳:フッ、エアタンクを潰したぐらいでいい気になるなよ地球人! 俺様はスーパーバグアだぞ! 空気がなくとも2、30分潜っている事など造作もない事だ。ハーーーハッハッハッハッ!!』
シェアトは口から空気を零しながら叫び、空気を撒き散らしながら高笑いをあげた。
「全機、距離をとって攻撃を仕掛け続けろ。奴はもうすぐ限界に達する」
当然の既決をした6人はシェアトから距離を取りつつガウスガンや魚雷ポッドを撃ちまくる。
シェアトは間合いを詰めようとしてくるが弾幕が濃くてなかなか接近できない。
そしてシェアトの顔色がだんだんと赤くなり、青くなり、黒くなり始めた。
『訳:くそっ! これ以上は息が続かん!』
やがて息苦しさに耐え切れなくなったシェアトが海面に浮上しようとする。
だが
「何処に行くつもりかな、鶏泥棒」
海面から奇襲をかけたUNKNOWNがLCでシェアトを切り裂く。
『訳:ぐはっ! 貴様ぁ〜〜!! ぐばぼべ!』
そのセリフで最後の息を海中に撒き、海水を飲んでしまうシェアト。
「私かね? まあ、教える名は持ち合わせていないが――とりあえず、君の『敵』と覚えて構わん、よ」
怒りを湛えた目で睨んでくるシェアトを尻目にしれっとした顔で答え、海面に浮上するUNKNOWN。
シェアトも必死の形相で海面を飛び出し、思いっきり息を吸い込んだ。
「ハーーー‥‥ハーーー‥‥」
そんなシェアトに向けて、キャノピーを開けて身を晒したUNKNOWNがエネルギーキャノンを連射。シェアトに幾つもの焼け焦げを作る。
「なっ! 貴様ぁ!! 俺様の超素敵衣‥」
「どうしたチキン野郎」
UNKNOWNはシェアトに最後までセリフを言わせず再び海中に潜った。
「おのれぇぇーーーーー!!」
瞳に憎悪を湛えたシェアトは大きく息を吸い込み、海中に潜ろうとした。
だがその時、シェアトの簪が一つ抜けて海面に落ちる。
「‥‥な?」
それを見たシェアトは慌てて鏡を取り出し、自分の髪を確かめた。
「なっ、なんという事だっ!! 1時間かけてセットした俺様がグレートゴージャスヘアーが崩れてしまっているぅ〜〜!! 俺様の超素敵衣装だけでなくグレートゴージャスヘアーまで乱すとは‥‥」
シェアトはパリンと鏡を握りつぶすとワナワナと振るえた。
「地球人めっ!! 次に会う時はスーパーウルトラパーフェクトなヘアースタイルと衣装を極めてくるかなっ!! 覚悟しておけっ!!」
シェアトはそう言い残し、空の彼方へと飛び去っていったのだった。
「二度と来るなぁーーー!!」
隼瀬がシェアトが飛び去った空に向かって大声を張り上げる。
「やれやれ、これでようやくヒューストンでの戦いも一件落着ですね」
海面に浮上して周囲を索敵した周防が大きく安堵の溜め息をつく。
「結局、僕はこの一連の戦いに何を求めていたんでしょう‥‥達成感、いや、実感が欲しかったのかな?」
新居は過去の戦いを思い起こしてみたが、今はまだその答えは出そうになかった。
「終わったよ愛子ちゃん。愛子ちゃんは嬉しくないかもしれないけど、褒めてはくれるよね」
石榴は愛子ならきっとそうしてくれるだろうと思えた。
「‥‥なぁ真琴、果たして俺はこのヒューストンの解放戦線に貢献できていたんだろうか?」
「はぁ? 何言ってるンだよく〜ちゃん。ヒューストンでの最初の戦闘から今まで戦い続けてきたのはく〜ちゃん達でしょ。もっ自信持ちなよ! ヒューストンを救ったのは、間違いなくく〜ちゃんだよ」
「‥‥そうだな」
笑顔で断言してくれた真琴の笑顔を見て、リヴァルにもようやく実感が湧いてきた。
こうして人類はヒューストンをバグアの手から解放し、メキシコ湾への橋頭堡を手に入れたのだった。