●リプレイ本文
煙幕に紛れてジョンソン宇宙センターに強襲した3機のワイバーンはそれぞれオルバースのある北西、南西、東の建物の側で傭兵達を下ろし、再び最大速度で離脱した。
北西の周防誠(
ga7131)、リヴァル・クロウ(
gb2337)、狐月 銀子(
gb2552)のA班は周防が『先手必勝』と『隠密潜行』を発動させて物陰から入り口を探ると、2体のタートルキメラ(亀)がいる事が確認できた。
「やはり入り口は守りを固められていますね」
「なら‥」
銀子は閃光手榴弾のピンを抜き、発光直前に亀に投擲。
閃光が炸裂すると同時に3人は物陰から飛び出した。
「パイドロスのスピードを見せたげる‥って見えてないね」
銀子は亀をエネルギーガンの射程に捉えるとトリガーを引く。
CWの怪音波の影響で威力は減衰されているが、放たれた光線は甲羅は易々と貫いて亀を絶命させる。
周防はアラスカ454を連射し、亀の両目、眉間、鼻、口腔、咽、に1発ずつ弾丸を撃ち込み、頭部を完全に破壊して倒す。
「時間もないし、サクサク行きましょう」
周防が排莢したリボルバーに手早く弾を込める。
「じゃ、あたしは屋上の対空砲を潰してくるから、2人はCWを頼むわ」
銀子が照明銃を構えて『竜の翼』を発動。パイドロスの脚部がスパークを起こす。
銀子は出来る限りの前傾姿勢をとると、猛回転する脚部のタイヤを壁に接地させて一気に屋上まで駆け上がった。
そして勢い余って屋上を越えた高みまで舞い上がった銀子は滞空中に屋上の状況を観察する。
「‥3体か」
屋上のいたマネキン型キメラはすぐに銀子に気づいて小銃を向けてきたが、銀子が先に照明銃を発射。
マネキンは照明の光に怯みも眩みもしなかったが、銀子が着地する時間だけは稼げた。
銀子は手近なマネキンにエネルギーガンを連射して倒すと、オルバースに向かって駆け出す。
マネキンの1体が銀子に小銃を乱射。
パイドロスを貫通した弾丸が体に喰いこみ、その隙にもう1体も刀で斬りかかって来る。
「ちぃ!」
それも避けられないと判断した銀子は刀を身に受けながらエネルギーガンをマネキンに押し付け、0距離から乱射。
胴体に無数の穴を穿たれたマネキンがその場に崩れ落ちる。
銀子はそのマネキンを盾にして小銃を防ぐとエネルギーガンをオルバースに放って破壊した。
「対空砲破壊完了。そっちは?」
『こちらも今CWを破壊した』
銀子が無線で尋ねるとリヴァルの声が返ってくる。
CWの方も護衛は居たが、こちらは周防が『隠密潜行』で隠れながら狙撃して破壊していた。
「んじゃ、さっさと退散させて頂こうかしらね」
銀子は怪音波がなくなり軽くなった身で小銃を避けつつ、屋上から飛び降りた。
そして2人と合流するとパイドロスをバイク形態にしてリヴァルを乗せる。
「すまん、世話になる」
「気にしなくていいよ。それより時間が押してる‥ペース上げるよ!」
この時点で作戦開始から1分経過していた。
一方、西の弓亜 石榴(
ga0468)、霧島 亜夜(
ga3511)、煌月・光燐(
gb3936)のB班は、まず光燐が『GooDLuck』と『探査の眼』を発動し、屋上の敵の感知を行っていた。
「‥‥正確な数は分かりませんが‥敵は何体か居ます‥」
「やっぱいるか‥‥。なら、俺と石榴で屋上に攻め上がる。光燐はここで警戒待機だ」
「‥了解‥気をつけて‥」
「うん。じゃ、行ってくるよ」
「さて、閃光の名に恥じない動きを魅せないとな」
石榴と亜夜は『瞬天速』を発動し、一気に壁を駆け上がると屋上の淵に手をかける。
そして淵から顔だけ覗かせて屋上の様子を伺うと、3体のマネキンとオルバースが見えた。
「私はここからでも攻撃できそうだよ」
「なら、俺は壁に沿って砲台の近くまで移動してから奇襲をかける」
亜夜は淵に掴まったまま移動すると、マネキンの死角から屋上に上がり、そこから一気にオルバースに駆け寄って大鎌「蝙蝠」を振り下ろす。
「でやぁ!」
オルバースが破砕する音でマネキン達が亜夜に気づき、一斉に小銃を放ってきた。
「うぉ!」
普段なら容易く避けられる攻撃だが、CWの怪音波の影響を受けている亜夜は何発か銃弾をその身に受けてしまう。
だが、マネキンの目が亜夜に向いている隙に石榴が顔を出してハンドガンをオルバースに撃ち込んだ。
「的がおっきいから当てやすいね」
すると石榴に気づいたマネキンが振り向き、小銃を向けてくる。
「うひゃあ!」
石榴は撃たれる前に慌てて壁の向こうに頭を引っ込めた。
「さっさと潰れろ!」
その間も亜夜は鎌を振るい続け、オルバースの銃身を断ち、台座を斬り裂き、内部機構を潰し、完膚なきまで破壊しつくした。
「よし、逃げるぞ!」
亜夜は石榴に呼びかけると刀で斬りかかってきたマネキンを蹴り飛ばし、弾幕の中を駆け抜けて屋上から一気にダイブ。
着地した瞬間、傷がズキリと痛んだが、気にせず立ち上がる。
「光燐、合流地点までダッシュ!」
そして地上で待機していた光燐と合流した2人は急いでその場から離れた。
南西の月影・透夜(
ga1806)、新居・やすかず(
ga1891)、白皇院・聖(
gb2044)のC班は、まず白皇院が3人の武器を『練成強化』した。
「主の祝福を‥‥」
そして入り口の亀2体に対して透夜右側から急接近し、左側から白皇院が超機械「ハングドマン」を胸元に掲げて電磁波を放ち、新居も左側から白皇院が傷つけた箇所を小銃「S−01」で狙撃する。
左の亀は2人に傷を負わされながらも小型プロトン砲の向きを変えて新居に発射。直撃を受けた新居の胸が焼け焦げた。
「くぅ!」
「砲塔が可動式になっているのか?」
一方、右の亀もプロトン砲の向きを変えて透夜に放つが、透夜は身を捻って避けると跳躍し、手前の亀を飛び越えて傷ついた方の亀の背に乗る。
「破っ!」
そして双槍「連翹」を振るって亀の首を刎ねた。
隣りの亀が更にプロトン砲の向きを変えて透夜に放つが、透夜は身を低くして避けると連翹を旋回させて砲身を斬り飛ばす。
「浄化の力を‥」
そして白皇院がプロトン砲に電磁波を浴びせて機能停止させ、新居が中枢部を撃ち抜いて爆発させる。
その爆発が致命傷となり、亀は動かなくなった。
「新居さん、傷の手当てを致します。主の導きにおいて治癒の力を‥‥」
戦闘が終わると白皇院はすぐに新居に『練成治療』を施す。
「ありがとうございます、聖さん。では僕が斥候として先行しますので付いて来て下さい」
新居は『隠密潜行』を発動すると建物に音も無く侵入し、1階の安全を確かめから2人を手招きで呼び寄せる。
そして各階で新居が斥候を行い、見張りのマネキンをやり過ごして屋上に到った。
「3体か‥。早々に片付ける。援護してくれ」
透夜が屋上に飛び出すと2体のマネキンが小銃を構え、1体が刀を抜く。
新居と白皇院は小銃を持つマネキンに攻撃を加えて透夜を援護。
透夜は弾幕の中を駆け抜け、斬りかかって来たマネキンの刀を連翹で弾き、そのまま四肢を切断して行動不能にする。
そしてオルバースまで辿り着いた透夜は連翹で瞬く間に破壊した。
「よし、離脱するぞ」
3人は屋上から飛び降り、すぐにその場を離れる。
作戦には隣りのビルのCWの破壊も含まれていたが、既に作戦開始から1分過ぎていて行ける余裕はない。
それどころか今から合流地点に向かうと30秒かかる状況だ。
『B班、状況を知らせてくれ』
「対空砲は破壊しましたが合流は30秒遅れになりそうです」
リヴァルからの通信に新居が応える。
『そうか。ではB班はそこから一番近い裏口からの侵入に変更する。他は予定通り』
「了解です」
作戦時間は予定より20秒遅れ、内容に多少の変更もあったが、3班は同時に中央の建物に侵入を開始した。
A班と共に正面入り口の亀を倒したB班は地下から捜索を行い、その一角で2体のマネキンを連れた小野塚 愛子(gz0218)を発見した。
「‥彼女の後ろの‥通路の先が‥怪しいです‥」
「だな。問題はどうやって突破するかだ」
「私が愛子ちゃんの気を引いてるから、その隙に2人が突破するのはどうかな?」
「‥あぁ、それで頼む」
「じゃ、行ってくるよ」
石榴は一人で物陰から出ると、
「やっほ〜、愛子ちゃーん」
軽い口調で声をかけた。
「石榴? 侵入者の一人はアナタだったのね」
「うん。前にゆっくり話しをするって約束してたから会いに来たよ。愛子ちゃん、メイド服着てくれたんだぁ〜嬉しいよ♪ だから愛子ちゃん好き♪」
「こっ、これは! そのっ!」
愛子の顔が羞恥で真っ赤に染まる。
「べ、べつに石榴を喜ばせようと思って着た訳じゃないわよ! 私は人間の様に約束を破ったりしない! ただ、それだけよ‥‥」
「まぁまぁ。そんな事より渡したい物があるから、ちょっとこっちに来てくれるかな?」
石榴は愛子の手を掴むと部屋の隅にまで連れて行く。
「はい。一ヶ月遅れだけどバレンタインチョコ。ハートチョコとチョコブラウニーあげる♪」
「‥‥え?」
石榴が満面の笑みで差し出してきたチョコを見て愛子が目を丸くする。
「私とリヴァルさんの気持ちだよ♪」
「‥くれるの? あたしに?」
「うん。だって友達だもん。プレゼントは当然だよね」
愛子は笑顔を振り撒く石榴の手から恐る恐るチョコを受け取った。
「あ、ありがと‥‥」
そして微かに頬を染め、小さくだが口元に笑みを浮かべて礼を言う。
その時、愛子の背後を亜夜と光燐が通路に向かって駆け抜けた。
「え?」
愛子が驚き、振り返る。
マネキンが刀を抜いて目の前に立ち塞がるが2人はそれぞれの武器で切り結んで押し通った。
「石榴! あたしを騙したの? アナタもクラスの奴らと同じ様にあたしを騙して、裏切るのっ!?」
石榴が囮だと気づいた愛子が石榴を睨みつける。
「違うよ! 私は‥」
「くっ!」
愛子が引き千切るようにメイド服を脱ぎ、床に叩きつけた。
「友達だって言ったくせにっ!!」
そして石榴を突き飛ばすと2人の後を追って駆け出した。
「‥追いつかれる‥」
光燐は振り向き様に炎の翼を広げて愛子の視界を遮り、黒刀「炎舞」を振るう。
しかし愛子のFFで弾かれ、傷一つ付けられない。
愛子は大剣を一気に振り下ろして光燐を斬り裂いた。
「くぅ!」
光燐の体から鮮血が溢れ出し、愛子が再び大剣を振り上げる。
「やらせねぇ!」
だが、亜夜が『瞬天速』で愛子と光燐の間に割って入り、その身で大剣を受けた。
そして大剣に抱え、愛子の武器を封じる。
「今だ! 俺に構わず行け!」
亜夜が血を吐きながら叫ぶ。
「‥はい‥」
光燐は一瞬迷ったが、傷を押さえて走り出す。
だが愛子は大剣から手を離し、銃を抜いて光燐を撃った。
「‥ぁ」
着弾の衝撃で光燐の体が跳ね、視界が暗転する。
そして愛子は亜夜にも銃を向け、トリガーを引いた。
愛子が血塗れになった亜夜と光燐を引きずって石榴の元に戻ってくる。
「‥まだ生きてるわ。こいつらを連れて出て行って‥‥」
俯く愛子の顔を長い髪が覆っていて表情が見えない。
「愛子ちゃ‥」
「行きなさいっ!!」
顔を伏せたまま愛子が叫ぶ。
「‥‥」
石榴は何も言えず、2人を抱えて地下を後にするしかなかった。
一方、4階で捜索を行っていたC班は頑丈そうなシャッターと、その前に座るガルムと3匹のヘルハウンドを発見し、地階を捜索中だったA班と連絡をとった。
「4階で怪しいシャッターが発見された。2人は急行してくれ」
無線を受けたリヴァルが周防と銀子に告げる。
重傷のリヴァルが一緒では4階に着くのに時間が掛かりすぎてしまうからだ。
「‥分かりました」
リヴァルの気持ちを汲み取った2人は先に行き、リヴァルも歩き出す。
(「何故このタイミングで怪我を‥くそっ! やっと‥やっと掴んだ機会だというのに‥‥」)
思うように動かぬ自分の体に苛立ちながら。
5人は合流すると、まず白皇院がガルムに『練成弱体』をかけ、新居と周防と銀子がヘルハウンドに牽制攻撃をかけている隙に透夜がガルムに向かって駆ける。
ガルムは触腕で突き出してきたが、透夜は二つに分けた連翹で切り払って懐に潜り込む。
だが、ガルムは前足を振るって透夜に叩きつけてくる。
CWの影響で避けられない透夜は両足を踏ん張り、その身で受け止めると同時に『豪破斬撃』と『紅蓮衝撃』を発動し、繋げた連翹をガルムの咽に突き入れた。
そしてガルムが苦しんでいる隙を逃さず連翹で斬り裂き、突き刺し、抉って引き抜く。
だがガルムは深手を負いながらも透夜に喰らいつき、爪を振るい、触腕を突き立ててくる。
他の4人はヘルハウンドに意外な苦戦を強いられていた。
何故ならこの場所は2機のCWの影響を受ける位置にあるため知覚武器は威力が大幅に減衰してしまう上、攻撃を避ける事も困難であったからだ。
それでも銀子は機動力を駆使しつつエネルギーガンを放ち、周防は武器をアラスカ454に持ち替えて撃ち、新居がS−01で『強弾撃』を放つ。
だが新居と周防は火球を受けて火傷を負い、銀子はパイドロスの薄い装甲を破られて幾つもの傷を負う。
「白皇院! あたし達がこいつらを抑えてる内にシャッターを!」
「分かりました」
白皇院はシャッターまで駆けると開閉ボタンを押し、通れる隙間が出来ると中に滑り込んだ。
そこにはアグリッパに似ているが小型で足の無い機械が鎮座していた。
「科学者としては構造を解いてみたくもありますが、今回は時間がありませんので破壊させて頂きます」
白皇院は構造的に最も弱いと推測される箇所に電磁波を何度も叩き込んだ。
すると装置のアチコチから火が吹き上がり、続いて小爆発が連鎖的に発生した。
「破壊完了です!」
白皇院が急いでシャッターをくぐって叫ぶ。
「よし! 閃光手榴弾を使う。気をつけろ!」
5人は予めピンを抜いておいた透夜の閃光手榴弾の光に紛れてその場を離れた。
そしてA班はB班の支援に、C班はオルバースの破壊に向かう。
しかしA班は途中で石榴と出会い、亜夜と光燐の身を優先するため、リヴァルとも合流して脱出地点を目指した。
一方、屋上に向かった周防は早々にオルバースを破壊すると、射程内にあったメカ・レックスキャノンにも狙いを定めていた。
「この一撃が次の作戦に影響するかどうか‥」
放たれた弾丸がコクピットのキャノピーを撃ち抜く。
するとメカRCが動き出した。
「まずい!」
周防は屋上から飛び降り、すぐにメカRCの死角に入る。
しかしメカRCは建物越しでも構わずプロトン砲を放ってきた。
「!?」
建物越しのため直撃はしなかったが、超々高熱が周防を焼き、着弾の衝撃で体が吹き飛ばされる。
そして地面に叩きつけられた周防は声も無く昏倒した。
「周防君っ!!」
少し離れた場所にいたため被害を受けなかった銀子は周防に駆け寄るとパイドロスに乗せ、一目散にその場から離れた。
そして脱出地点に集合した一同は重傷者の身を庇いつつ、下水道から郊外へと逃れたのだった。