●リプレイ本文
ガタガタと車体を揺らしながらトラックが元穀倉地帯を疾走する。
搭乗員は全員が黒色の長靴を履き、ボーリングマシンを載せて走るその姿は土木作業に向かう一行にしか見えないが、目的はキメラの討伐である。
「この防護靴はー、時々貰う支給品とー、ソックリですね〜。この防護靴のお値段、4千Cですか〜?」
「これ‥‥どう見てもゴム長‥‥あっ、何か新型のメトロニウム断熱材ーとかが入ってるとか?」
ラルス・フェルセン(
ga5133) と蛇穴・シュウ(
ga8426)はどうしても貸与された長靴が気になるらしく、しきりに調べている。
「ってちょ、やっぱコレってゴム長〜!? パネェ!!」
植松・カルマ(
ga8288)が座席にそっくり返りながらギャハハと笑う。
「私もどう見ても長靴に見えるのよね‥‥。ま、これで本当に電磁波を防げるなら別にこだわる事でもないし反論はしないけどね」
中岑 天下(
gb0369)はすぐに長靴には興味を失くし、窓の外を眺めている。
(「足手纏いにならないように頑張ろう‥‥!」)
篠ノ頭 すず(
gb0337)は初めての防衛戦および複数の敵との戦闘を前に緊張感を覚え、不安を胸に抱きながらも自分の出来る事を出来る限りしようと気合をいれていた。
そうしている間に一行は目的の現場に到着。
トラックに積んであったボーリングマシンを降ろし、設置作業に取り掛かかった。
「うっうー‥‥。長靴でこんな事してると私達ってまるで土木作業員みたいです」
「‥‥それは言わないでくださいませ」
比留間・トナリノ(
ga1355)のセリフを聞き、竜王 まり絵(
ga5231)は今の自分の姿を思い描いて、ちょっと落ち込んだ。
ゴウンゴウンと轟音を響かせながらボーリングマシンのドリルが地面を掘り進んでゆく。
その様子を静かに見守るボーリング担当班のまり絵とカルマ。
ボーリング担当班は、もしドリルの回転に異常が起こったときにはボーリングを急停止させ、逆回転をかけて少し引き抜き、また作業を再開させる役割を担っている。
そしてボーリングマシンのすぐ近くでは飯島 修司(
ga7951)と天下が待機し、北側をトナリノとすずが警戒し、南側をラルスとシュウが警戒している。
警戒班は1人が覚醒状態にまま周囲を見張っていたが、30分は何事もなく過ぎた。
そして覚醒状態で見張る役を交代しておよそ10分後。
南側を警戒していたシュウがわずかだか地面が盛り上がったのを発見した。
「ラルスさん」
シュウはすぐにラルスに伝え、二人で武器を構えながらじっと地面を睨む。
すると、地面の盛り上がりはだんだんと大きくなり、遂にピンク色の身体が地面から姿を現す。
ラルスはすぐさまアルファルを引き絞って矢を放ち、現れたキメラを地面に縫い止める。
そして動けなくなったキメラをシュウがS−01で止めを刺した。
「もしかしたらこのまま出てこないかも、な〜んて考えてたんだけど、やっぱり出てきたわね」
「そうですね。皆さん、油断しないでしっかり監視して下さい」
改めて気を引き締めた一行は緊張感を保ちながら警戒を続けたのだが、30分経ち、1時間経ち、さらに1時間経ってもキメラが現れる兆候は見られなかった。
ボーリングマシンの方も何の異常もなく地面を掘り続けている。
「全然出てこないッスよぉ〜。さっきの奴ってたまたま顔出しただけなんじゃないッスかぁ〜?」
一応周囲の警戒はしているものの、完全にダレきった顔になっているカルマがぼやく。
そしてカルマの意見に頷く者はいないものの、否定する者もいなかった。
それは、ここまで長時間なにも起こらなければ誰もが一度は考える事柄だったからだ。
「うっうー、とりあえずお弁当食べませんか?」
ボーリング作業を見守っていたトナリノが唐突に言う。
「えっ? こんな時なのにお弁当を食べるんですの?」
「だって食事って大事だと思うんですっ。お腹がすくと怒りっぽくなっちゃいますし、気もそぞろになっちゃいますもんねっ。私、お弁当作ってきてますから、みんなで食べましょうっ!」
「お弁当ー、いいですね〜。長時間の作業ですしー、休憩がてらお弁当を食べるのもー、悪くないでしょ〜」
「じゃ、お昼にしましょうか。みんなでっていうのは無理だから交代でね。まずは待機班と作業班の1人が食べましょ。トナリノさん、お弁当は?」
「あ、トラックの中ですっ」
「おっけー」
シュウはトナリノの代わりにトラックまでお弁当を取りに行った。
「じゃあ私はー、お茶の準備をします〜。今日は緑茶とー、紅茶をー、用意してきてるんです〜」
シュウの後を追ってラルスもポットを取りにトラックに行く。
そして、まずはトナリノ、ラルス、シュウが穏やかに談笑しながらトナリノのお弁当を食べたのだが、ゆっくりとした昼食が取れたのは、この3人とすずだけだった。
なぜならこの後、今までの平穏が嘘だったように立て続けにキメラが出現するようになったからだ。
まずは北側を警戒していたまり絵とカルマが12時の方向に小型キメラの出現を確認。
まり絵の超機械αで痺れさせた後、カルマのフォルトゥナ・マヨールーで撃退。
そのおよそ30分後、北側を警戒していたラルスとシュウが1時の方向にキメラを発見、すかさず撃退。
それからほとんど間を置かずに北側2時の方角にキメラ出現。ラルスとシュウで撃退する。
この後も、北側2時の方向に2度続けて出現。ラルスのアルファルと修司がスコーピオンの掃射で撃退する。
そしてボーリング作業終了間近に、今度は南側6時と北側3時の方角に2匹同時に出現。
南側はラルスとシュウが倒し、北側はトナリノのサブマシンガンの掃射で弱らせ、すずのバロックで止めを刺す。
そうして6時間半にもおよぶボーリング作業は終了し、今度は超ロング型スパークマシンΩ(仮)(以後、超Ωと表記)の設置作業となったのだが‥‥。
ボーリングのドリルを抜くのに15分。
数十本に分けた超Ωの砲身を繋ぎ合わせながら穴に差し込んでゆく作業に20分要し。
その間にも現れたキメラを、またラルスとシュウの2人が倒したところでようやく全ての準備が整ったのだった。
「うっうー‥‥! 超ロング型スパークマシンΩ‥‥! これが量産された暁には、アースクエイクとも十分に渡り合えます! ‥‥多分っ」
トナリノが少し興奮した様子で超Ωに見入る。
「やっと俺の出番ッスね。待ちくたびれたッスよ〜」
カルマが嬉しそうに唇を舌でペロリと舐めながら超Ωの練力注入器に手をかける。
ラルスが超Ωのスイッチを入れ、まり絵が隣でサポートにつき、計器類のチェックした。
「各回路正常。大丈夫そうですわ」
「ではー、いきますよ〜」
「おぅ!」
カルマの返事を聞き、ラルスが超Ωの出力を上げてゆく。
すると、まり絵の前のメーターの針が振れ、だんだんとレッドゾーンに近づいていった。
ラルスとまり絵の役目はこの針がレッドゾーンを超え、超Ωが暴走しないように練力の注入量と注入速度を調整する事だ。
「だめぇ! 練力吸われちゃうのぉぉぉぉぉぉ!!!」
超Ωに練力を供給しているカルマが雄叫びながら身体をビクンビクンと震わせた。
「カ、カルマ殿は大丈夫なのですか? ずいぶん苦しそうですが」
「う〜ん‥‥。練力の供給に苦痛は伴わないと聞いていましたが、故障でしょうか?」
「ちゅ、中止した方がいいんじゃ‥‥」
「お、俺は大丈夫ッス!! こ、このまま続け‥‥あふ〜ん!!」
カルマの背がえびぞり、目が白目を向く。
「カ、カルマ殿‥‥」
「漢だ‥‥。彼こそ真の漢!」
すずと修司はカルマの耐え忍ぶ姿に感動していたが、本当はカルマは苦痛はまったく感じておらず、ただ悪乗りして遊んでいるだけだった。
「おぅ! おぅ! ああ〜ん♪」
そんなアホな事が行われているとは露とも知らないラルスとまり絵は細心の注意を払い、ギリギリの調整を行った末、超Ωに十分な練力が満ちた。
「はい、スイッチぽちっとな」
ラルスが満足気な笑みを浮かべながら軽い口調で超Ωを発動。
紫電が超Ωを駆け抜け、地中に高出力の電磁波が撃ち込まれた。
バンッ
と、鋭く乾いた音が地中から鳴り響く。
しかしそれだけだ。
周りを見渡しても感電した者はいない。
それが防護靴のお陰かどうかは定かではないが、みんな無事だ。
超Ωはその役目を終えたかの様に、ぶすぶすと白い煙を立ち上らせている。
「えっ? これだけかよ? もしかして失敗したんじゃねぇだろうなっ!?」
カルマが失望感を顕にして言ったその直後。
ゴゴゴゴゴゴゴ‥‥
地面が音を立てて震えだし、アチコチで地面が盛り上がり始めた。
「成功ですわ!」
その光景を見て、まり絵が嬉しそうに手を叩く。
「みんな配置につくんだ!」
修司の号令の元、トナリノとすずが北側を、修司と天下が東、ラルスとシュウが西、まり絵とカルマが南側に配置につき、周囲を警戒する。
皆が緊張しながら地面を注視する中、遂に地面が大きく盛り上がり、中型のミミズ型キメラが飛び出してきた。
それも修司と天下の立っていた足元から。
「うおっ!」
修司は間一髪キメラは避けたものの、バランスを崩して転倒してしまう。
現れたキメラは身体のアチコチを黒く炭化させ、ぶすぶすと煙を上げていたが、すぐに倒れている修司に襲い掛かろうとした。
「こっちよバケモノ!」
しかし、それより先に天下のファングがキメラの身体を切り裂く。
さらに、修司の危機を察したトナリノとすずがサブマシンガンとバロックで援護射撃を加え、キメラにトドメをさす。
「危ないところであった」
「大丈夫ですか?」
「ああ、俺は大丈夫だ。ありがとう」
その間にもキメラはどんどんと地面から現れており、8時の方向に現れたキメラは『レイバックル』で威力を上げたまり絵の超機械αで弱らせた後にカルマがフォルトゥナ・マヨールーで粉微塵に吹っ飛ばした。
「ウッホ、俺とまり絵さんのコンビに敵なんていないッスよ〜!」
「無駄口叩いている暇があったら撃ってくださいませ!」
9時の方向に現れたキメラは『ファング・バックル』で威力を上げたアルファルで『強弾撃』を放ち、『急所突き』でキメラの環帯を狙い撃ち、一撃で葬っていた。
「1匹ずつ確実に仕留めていきますよ」
さらに1拍置いて現れたキメラは3匹。
12時に現れたキメラは『疾風脚』を発動させて素早く体勢を立て直した修司が『急所突き』でキメラの環帯にスコーピオンを叩き込んで倒した。
「さっきのお返しだ」
5時のキメラは『レイバックル』を使用したまり絵とカルマが倒し、カルマは弾切れになったフォルトゥナ・マヨールーを素早くリロードする。
「コイツって弾数が少ねぇのがネックなんッスよねぇ〜」
10時の方向のキメラはトナリノがサブマシンガンで『強弾撃』を叩き込み、すずがバロックで環帯を狙う戦術で確実に倒した。
そうして現れるキメラを確実に倒していたのたが、さらに現れたキメラの数は6匹。
「ぎゃー! ニョロニョロがこんなにたくさん〜!! 私ホントはこういう触手系って苦手なのよぉ〜!!」
それを見たシュウが悲鳴を上げ、涙目にながらS−01を撃ち放つ。
現れたキメラの内1匹は2メートルを超える大型タイプだ。
しかもそいつは修司と天下の目の前に出現したのだった。
「こいつっ!」
修司はすぐにスコーピオンを3連射。『強弾撃』を喰らった大型キメラは身体から体液を噴出しながら身悶えた。
「はぁぁぁっ!!」
さらに天下が突っ込み、『急所突き』でキメラの環帯にファングを突きたてる。
ファングで傷ついた身体から体液が噴出し、天下の腕を汚す。
しかし、この攻撃では大型キメラを仕留めるまでには至らなかった。
キメラは自らの身体を大きくくねらせ、天下に打ち付ける。
「キャーーー!!」
それを避ける事ができなかった天下はその衝撃で弾き飛ばされ、背中から地面に落ちた。
そしてキメラは地面に倒れた天下に絡みつくとギリギリと締め上げ始める。
「ぐっ‥‥」
天下の顔が苦しげに歪む。
天下の危機に周りの者も気づいていたが、皆目の前のキメラを相手にするので手一杯で助けにいけない。
「おぉぉ!!」
修司はキメラに駆け寄ると巻きつかれている天下を傷つけない様にジャックを振るい、キメラを引き千切って天下を助け出した。
「ごほっ! ごほっ!」
キメラから解放された天下は激しく咳き込み、息を整える。
「大丈夫か?」
「えぇ、助かったわ。ありがとう」
天下は修司に笑顔を向けるとすぐに立ち上がり、鋭い視線で未だ現れ続けるキメラを睨みつける。
「この借りは倍返しにして返してやるわ!」
そうして修司が天下を助けている間に、まり絵とカルマが5時と6時の敵を倒し、トナリノとすずが11時の敵と修司達の傍にいた敵を倒し、ラルスが同じく修司達に迫っていた敵を倒していた。
これで全員が体勢を立て直し、反撃の準備も整ったのたが、キメラはまだ出現していた。
まだ距離は遠いが2時の方向には2メートル超えの大型もおり、じわじわと近づいて来ている。
「くそっ! こいつら無尽か? キリがねぇよっ!!」
カルマが毒づきながら目の前のキメラにフォルトゥナ・マヨールーを叩き込み、リロードする。
「そんな訳ないですわ!」
カルマの隣では『レイバックル』で強化した超機械αで電磁波を放ち続けている。
「そうです。その証拠にもう地面からキメラは現れていませんよ」
ラルスは『ファング・バックル』+『強弾撃』+『急所突き』の複合技で確実にキメラを倒しながら答える。
「じゃ、今いるのを倒したら終わりなんですね?」
それを聞いたトナリノがうれしそうに笑う。
「ならば、すず達はあのデカブツを倒すとしよう」
「そうですな」
トナリノ、すず、修司は近くまで迫ってきていた大型にそれぞれの銃弾を叩き込んだ。
しかし大型キメラは銃弾をもろともせず、体液を噴出しながらどんどん迫ってくる。
そしてトナリノとすずの銃の弾がきれ、すずが氷雨を抜いて天下と共に突撃。
「いい加減に倒れなさい!!」
「破っ!!」
大型キメラは2人の手で細切れされ、力尽き、崩れ落ちた。
「ふふん これでさっきの借りを返したわよ」
動かなくなったキメラを前に天下が満足気に笑う。
「みんなお疲れ様でした。これで‥‥最後です!」
そう言ってラルスは『ファング・バックル』+『強弾撃』+『急所突き』のコンボで最後のキメラにトドメをさし、
「防護靴のー、勝利です〜♪」
ラルスの勝利宣言で戦闘は終了したのだった。
その後、何度かこの地で音波探査による索敵が実施され、キメラの掃討が完全に行われた事が確認された。
そして、今日も補給品を満載したトラックが走っている。
きっと明日も走っているだろう。
キメラに襲われる心配もなく、安全に。