タイトル:ヒューストン上空決戦マスター:真太郎

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/20 23:29

●オープニング本文


●ヒューストン市内軍事司令部

 ヒューストン解放戦線の前線司令官であるルイス・バロウズ少佐は主だった士官と傭兵達を召集し、ブリーフィングを行っていた。
「これは先日ジョンソン宇宙センターのミサイル発射台に強襲を仕掛けた時に迎撃に上がってきた3体のタロスの調査報告書です」
 ルイスは皆に資料を配ると、正面のディスプレイに3体のタロスの画像を映し出す。
「まず、このタロスは紅、紫、紺のカラーリングが施されており、3機とも従来のタロスよりも遙かに高性能で、慣性制御装置、再生機能、そして一時的に機体性能を飛躍的に上昇させるブーストの様な機構を備えいるものと思われます。このブーストは先の戦闘においては1分と持たなかったとの事です。おそらくブースト時には練力を大量に消費するのでしょう。
 各機の性能は紅を基準に、紫は装甲が薄い代わりに命中率と回避力に優れ、紺が命中率と回避力が劣るものの重装甲で高火力な機体であると推測されます。
 武装は紅型は陽電子の対消滅による莫大なエネルギーを発射する『ポジトロン砲』。
 紫型は集積したエネルギーを蓄えた砲弾を撃ち出す『エネルギー集積砲』。
 紺型は電磁加速された砲弾を超スピードで撃ち出す『レールガン』。
 そして3機に共通して装備されていているのが、弾頭の先がドリル状になっており、高い誘導性と高スピードと鋭い貫通力を有する『ドリルミサイル』。総弾数はおそらく8発です。
 それと、如何なる攻撃でも傷一つ付かず、表面が何らかの特殊なフォースフィールドで覆われていると思われる盾。今は仮に『FFシールド』と呼称しておきます。
 このシールドに攻撃を加えた際に発生するFFは、ヒューストン市内を攻略する際に現れた敵の鹵獲S−01が発生させたFFと酷似している事から、それと同質のものだと思われます。
 このシールドへの対処法としては、盾で防げない程の精密な攻撃を行うか、もしくは多方向からの同時攻撃が有効だと思われます。
 以上が先のタロスの調査結果、及び推論です」
 ルイスはモニターの映像をタロスから漆黒の本星型ヘルメットワームに切り替える。
「続いて、バグア側のヒューストン司令官だと思われる小野塚 愛子が搭乗している本星型ヘルメットワームについてですが‥‥」
 ルイスが解説を始めようとした時、
『司令! 敵の大編隊がヒューストンに向けて接近中です。至急司令部にお越し下さい!』
 館内通信で悲鳴の様な呼び出しがされた。
「敵の大編隊だと!? まったく‥‥間がいいのか悪いのか‥‥。総員、司令部へ急行せよ! 傭兵の皆さんも来て下さい」

 そして一同が司令部へ場を移すと、さっそく副司令が現状を説明してくれた。
「敵は前衛部隊と後衛部隊に分かれて接近中です。数は前衛部隊が漆黒の本星型HWが1機。例の3色のタロスが各1機ずつ。中型HWが4機。小型HWが8機。
 後衛部隊は中型HWが12機。小型HWが8機。飛行型キメラが‥およそ80匹程です」
「多いな‥‥。まさかこれ程の大兵力を送り込んでくるとは‥‥」
 ルイスがレーダーに映る機影を見つめながら唸る。
「‥‥後衛の中型HWのうち何機かはおそらく爆撃型だろう。敵は前衛部隊でこちらの航空兵力を掃討した後、ヒューストンを爆撃するつもりだな‥‥」
 ルイスの脳裏で戦術案が構築されてゆく。
「となると‥‥敵前衛部隊を撃滅させるか、後衛部隊の爆撃型HWを全て潰すかすれば敵を撤退に追い込む事が出来るか‥‥」
 ルイスはそう結論付けると傭兵達に向き直った。
「どうやらさっそく皆さんに例のタロスと本星型HWの相手を頼まねばならなくなってしまった様です。どちらの作戦で行くかは皆さんにお任せしますので、接近中の敵航空兵力を撃退してください」



●ヒューストン上空・本星型HWコクピット内

 小野塚 愛子(gz0218)はジョンソン宇宙センターに残されていた全航空戦力を引き連れ、ヒューストン市内の上空に差し掛かろうとしていた。
『さぁ‥約束どおり正面から潰しに来たわよ。これで満足?』
 愛子は本星型HWのコクピットで口の端にだけ小さく不敵な笑みを浮かべたのだった。

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
新居・やすかず(ga1891
19歳・♂・JG
霧島 亜夜(ga3511
19歳・♂・FC
九条院つばめ(ga6530
16歳・♀・AA
周防 誠(ga7131
28歳・♂・JG
レイヴァー(gb0805
22歳・♂・ST
美空(gb1906
13歳・♀・HD
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
依神 隼瀬(gb2747
20歳・♀・HG
希崎 十夜(gb9800
19歳・♂・PN

●リプレイ本文

「ヒューストンは年が明けても相変わらずだね。‥‥いや、それはここに限った事じゃないか」
 赤崎羽矢子(gb2140)は目の前に展開する敵部隊を見て、年が変わっても各地で頻発するバグアとの闘争の事を思い、軽く苦笑いを浮かべた。

「小野塚さんの木星型に、この前戦った3体のタロス‥‥それにHWにキメラ‥‥今までにない凄い数。今回は今まで以上に本気、ということでしょうか? でも、爆撃機をヒューストンまで通すわけには行きませんから‥‥弱気になってる場合じゃ、ない!」
「そうだよつばめちゃん。爆撃なんて絶対させない! この間はやられちゃったけど、今度は負けない!」
 九条院つばめ(ga6530)の言葉に依神 隼瀬(gb2747)が同意し、自分自身に気合を入れる。
「もちろんです! 逆に言えば、この攻勢を跳ね返すことができれば今後の展開は大きくこちらに傾く‥‥まさに天王山ですね‥‥!」

「あの‥‥小野塚さん。実はあの人から伝言を預かっていまして。その‥『もう一つの約束も忘れないでね♪』との事です」
 石動 小夜子(ga0121)は律儀に友人からの伝言を小野塚 愛子(gz0218)に伝えた。
『‥‥ふふっ』
 そして返ってきた愛子の返答は意外な事に含み笑いだった。
「えと‥あの人は変な事ほど本気でやるので言質を取られない方が良いかと‥‥」
 小夜子はおろおろと言葉を続けたが、それ以上の返答はなかった。

「それじゃ、始めるとしますか‥‥ワイバーン、最大加速!」
 そして周防 誠(ga7131)がワイバーンがブーストとマイクロブーストを併用して飛び出すのを合図に戦端は開かれた。



 愛子の本星型HWが率いる編隊には新居・やすかず(ga1891)のS−01H、霧島 亜夜(ga3511)のウーフー、九条院つばめのディスタン、軍のバイパー改が迎撃に出る。
「あの人とこうして戦うのは何度目でしょうか? そろそろ退場して欲しいですね」
 新居が愛子の本星型を少し不愉快そうに見ながらK−02小型ホーミングミサイルのマルチロックオンシステムを立ち上げた。
 そして敵機を全てロックオンすると同時にトリガーを引く。
 発射された500発の小型ミサイルが敵編隊に迫るが、着弾前に小型HWが拡散プロトン砲を前面に照射して光の弾幕を展開、ミサイル群の一部が潰される。
 残りのミサイルも各HWに装備されたファランクスで撃ち落されてゆき、結局半分近くのミサイルは迎撃され、敵が負った損傷は軽微なものとなった。
『‥馬鹿ね。そんなミサイルの対策ぐらいとっくにしてるわ』
 しかも愛子の本星型はK−02を完全に避け切り、真っ直ぐ突っ込んでくる。
「アナタの相手は私です!」
 だが、つばめが対空機関砲「ツングースカ」で愛子の本星型の進路に弾幕を形成して足を止めた。
『‥またあなたなの? こりないわね』
 愛子が機首をつばめに向けてきた。
「私、諦めが悪い方ですから‥‥何度だって付き纏わらせてもらいますよっ!」
 続いてつばめはロケットランチャーを撃ち込むが、それは愛子に容易く避けられる。
 しかし避けられる事を最初から予測していたつばめはすぐに『イクシード・コーティング』を展開して愛子の反撃に備えた。
 そして本星型から照射された荷電粒子砲の超高熱がディスタンの装甲を焼いてゆく。
「くぅ!」
 だがつばめは機体を捻り、機体を焼かれたまま機関砲を掃射。
『!?』
 虚を突かれた愛子は咄嗟に回避運動に入る。
 そうして粒子砲の射線をずらしたつばめは攻撃から逃れると同時にロケットランチャーを発射。
 その攻撃も避けられたが愛子は一旦つばめから距離をとり、仕切り直しになる。
「やっぱり強い‥‥。でも、今回は今までみたいに一人ではなく‥‥一緒に戦ってくれる方がいます。今までのようには行きません」

 新居はK−02の被害率からミサイル攻撃では効果が薄いとみて、中型HWに接近しつつ試作型「スラスターライフル」で攻撃を仕掛けた。
 間断なく連射された90発のライフル弾が中型HWの表面装甲に順列の穴を穿ってゆき、機体をよろめかせる。
 しかし中型HWはまだ健在で、新居にプロトン砲を発射。S−01Hを高熱の光が貫く。
 新居はすぐさま回避機動に入ったが、中型HWは慣性機動で機体の向きを変え、照準をピタリと新居に合わせてプロトン砲を連射。
 プロトン砲が命中する度に機体が激しく揺れ、機体各部でダメージランプが点灯、回路の幾つかは断線し、翼は半分溶け落ち、エンジンの片側が停止寸前になる。
「くっ‥並みHWの火力と命中率じゃない。さしずめ空中砲台と言ったところですか」
 それでも何とか撃墜を免れた新居は機体を立て直して中型HWの下方に回り込み、急上昇しながらリロードしたスラスターライフルを連射。
 機体の中心部を撃ち抜かれた中型HWはふららと揺れた後に爆発し、地上へ落ちていった。
 
 一方、亜夜はK−02の爆炎に紛れて小型HWに接近し、レーザーバルカンでドッグファイトを仕掛けていた。
 小型HWは慣性機動による不規則な動きで後ろに付いた亜夜を振り切ろうとしたが、亜夜はウーフーの電子兵装を駆使し、敵の動きを的確に読みながらレーザーを掃射し続ける。
「よし、一機撃破」
 そうして手早く撃墜した亜夜はもう1機の小型HWをバイパー改に任せ、自分はつばめの支援に向かった。

 その頃、つばめは機関砲で弾幕を張りつつロケットランチャーでの攻撃を続けていたが、やはり愛子に命中させる事はできず、逆に粒子砲の反撃を受け続けていた。
(「ごめんねswallow‥‥。でももう少し耐えて!」)
 それでもつばめは攻撃に耐え、反撃の機会を待ち続けていた。
『また防戦一方? 出てこなければ死なずに済んだのに‥‥』
 そして愛子がつばめにトドメを刺そうとした時、
「喰らえ!」
 上空から降下してきた亜夜のウーフーがG放電装置を発射。本星型が高圧の放電に包まれる。
「今だ!」
 その隙を逃さずつばめは温存しておいた8式螺旋弾頭ミサイルを一斉に発射。
『‥ぬるいわ』
 だがG放電装置で軽傷しか受けなかった愛子は易々と螺旋弾頭ミサイルを群れを潜り抜け、つばめに荷電粒子砲を放つ。
 粒子砲はディスタンを貫通し、エンジンを融かして誘爆。ディスタンの左半分が吹き飛んだ。
「あぅ!」
 コクピットの計器類が次々と爆発し、ダメージランプが明滅する中つばめは消化剤を機体に噴霧して火を消し、なんとか爆散だけは避けた。
 しかしディスタンは既に浮いているのがやっとの状態だ。
「くっ‥‥すみません。これ以上の戦闘続行は不可能の様です。‥‥後退します」
 つばめは悔しげな言葉と共に機体を煙幕で包み込んだ。
「おぅ! 後は任せろ」
 亜夜が前に出て煙幕に紛れたつばめの撤退を支援する。
 その間に新居も合流し、2機で本星型と正対した。
「久しぶりだな、元気だったか?」
『ふぅ‥‥どいつもこいつも一度は倒した事のある奴らばかり‥‥。いい加減にして欲しいわね』
 愛子がうんざりした声を漏らす。
「そう言わず付き合えよ。しかし、これだけの戦力で正面切ってくるとはな‥‥。でもステアーじゃないんだな」
『あなた達ごときにステアーは必要ないわ‥。それともステアーでないと、やられた時の言い訳できなくて困る?』
「言ってくれるな‥‥」
「そういえば、いつかの答えを返していませんでした」
 亜夜に代わって今度は新居が愛子を挑発しようとする。
「同じ事を返しただけで〜と言う奴です。あれはあまり意味のある問いかけとは思えませんね。そもそも問いかけの形を取ってはいても答えなんて求めていないんでしょう? 肯定すれば知った口を利くな、否定すればそうだろう分かるわけがない、と。貴女の世界は貴女の中で完結していて外界に対して開かれていません。そう、貴女の愛しのリリアさんに対してもね。貴女は彼女に愛情や忠誠を向けているつもりかもしれませんが、その実、彼女自身を見ていない。貴女にとっての彼女は、己の願望や欲望を投影するためのお人形でしかないのでしょう?」
『‥‥相変わらず知った風な口を利くのが好きな奴ね』
 愛子は努めて冷静な口調を作ると左腕に巻かれた血染めのバンダナを握る。
(「‥リリア様ならこんな挑発など気にもされないはず‥‥。リリア様ならきっと‥‥」)
 そして深呼吸して少し間をおいた。
『‥‥本当は何も知らないくせに憶測と妄想だけで全てを分かった気になって‥‥。自己完結してるのはアナタの方なのに‥本当に滑稽。でも仕方ないわね。中型HWにさえてこずるんだから口で言い負かすしかないものね』
(「‥‥これでいいんでしょ、ワニキア」)
 愛子は心の中でそう呟くとバンダナから手を離した。
「‥挑発に乗ってきませんね」
「あぁ、今までの愛子とは何かが違うな。だったら正面からやり合うしかないか」
 二人は無線で手早く打ち合わせた。
「じゃあ、そろそろ正々堂々決着をつけようぜ! 俺が負けたら嬲り殺しにするなり、洗脳して奴隷としてこき使うなり好きにしろ。その代わり、お前が負けたら大人しく捕まりな!」
 亜夜は吼えるとG放電装置を発射。
 本星型が放電に包まれた直後にDR−2荷電粒子砲を放ったが、本星型は慣性機動で真下に急降下。粒子砲の光は無常にも本星型の頭上を通過しただけだった。
 だが、愛子の機動を追った新居が『ブレス・ノウVer.2』を発動させ、20mmバルカンを連射する。
 しかし愛子は新居を無視し、バルカンは装甲で弾く。
 強化FFは使われすらせず、本星型は小揺るぎもしなかった。
 そして愛子は砲身を上にいる亜夜のウーフーに向け、荷電粒子砲を5連射。
 両翼と両側エンジン、そして機体中央部を綺麗に撃ち抜かれたウーフーは飛行する事すら不可能となり、地上に墜落した。
「亜夜さん!」
『次はお前の番よ』
「くっ!」
 新居は少しでも時間を稼ごうと複雑な回避機動を取ったが愛子の照準は外せず、放たれたポジトロン砲が直撃。
 陽電子の対消滅によるエネルギーが機体を融解させ、今までのダメージと相まってボロボロになったS−01Hはそのまま爆散した。

 そして愛子は小型HWと戦闘中だったバイパー改を撃墜すると、隣りの戦区に向かったのだった。



 紅色のタロスの編隊には赤崎羽矢子のシュテルン、希崎 十夜(gb9800)のバイパー、軍の2機のバイパー改が迎撃に向かった。
「希崎は中型。バイパー改はそれぞれ小型をお願い。そちらの2発目に続いて本命を叩き込む!」
「了解です。絶対に負けられない作戦だ。全力で行きます!」
 羽矢子の指示に従って希崎は『ブースト空戦スタビライザー』を起動し、ホーミングミサイルJN−06を中型HWに発射。
 2機のバイパー改も小型HWにホーミングミサイルG−01を発射する。
 すると各HWはファランクスでミサイルの迎撃を始めた。
「よし、K−02発射!」
 それを見届けた羽矢子がK−02を放つと小型HWが拡散プロトン砲で弾幕を張る。
 だが弾幕を抜けた残りのミサイルはそのまま敵に迫る。
 しかし、HWは残りのミサイルもファランクスで迎撃を始めた。
「えっ!? バグアのファランクスって地球製より弾数が多いの?」
 作戦通りにはいかなかったものの、このミサイル攻撃で各HWは多少の手傷は負った。
 ただ、紅タロスは避けたため無傷だ。
「これで押し切りたかったんだけど‥‥そう甘くないか」
 羽矢子が苦笑する。

 ミサイルを撃ち終えた希崎は紅タロスをGPSh−30mm重機関砲の射程内に収めるため前に出た。
「待て希崎! 突出するな!」
 羽矢子は慌てて止めたが、紅タロスは既に希崎のバイパーにポジトロン砲を放った後だった。
 希崎はポジトロン砲の発射のタイミングを見極めて避けようとしていたが、ポジトロン砲の弾速は希崎の想像以上で、回避行動を取る間もなく直撃。
 一撃で装甲は弾け飛び、機体が大きく歪む。
「くそぉ! まだ落ちるわけには‥」
「逃げろ希崎!」
 羽矢子は希崎のカバーに入ろうとしたが、それより先に第二射が希崎のバイパーに叩き込まれる。
 その一撃で希崎のバイパーは爆発、炎上。バラバラになりながら落下していった。
「希崎ー!」
 そして紅タロスは続けて羽矢子にもポジトロン砲を放ってくる。
「ちぃ!」
 辛くも避けると羽矢子は高分子レーザーライフルで狙撃した。
 紅タロスは盾で防ごうとしたが間に合わず、レーザーは肩部を貫き、肩を半分抉る程の大穴をあける。
 しかし紅タロスは盾で身を隠しながらドリルミサイルを上方に発射。放物線を描きながら羽矢子に向かって飛んで来た。
「くっ!」
 羽矢子はすぐに回避機動に入ったが、ミサイルの速度と誘導性の方が上だ。
 ドリルミサイルは着弾するとシュテルンの装甲を抉って深く突き刺さってから爆発。内部機構にダメージを与えると共に装甲も吹き飛ばした。
「こいつ! やってくれる」
 羽矢子はお返しとばかりにUK−0AAEMを発射したが、紅タロスはブーストを発動したらしく、高速機動で振り切った。
 だが羽矢子は紅タロスの動きを追い、試作型G放電装置を発射。
 紅タロスが高圧の放電に包まれ、生体部分が焼け爛れてゆく。
「貰った!」
 そして一瞬動きが鈍ったところでレーザーライフルを撃ち込んだ。
 レーザーはタロスの膝を貫いて足を半分を引きちぎったが、じわじわと再生しながら伸びてくる。
「あの再生って面倒よね。再生する前に一気に倒せればいいんだけど‥‥」
 羽矢子がそう呟いてライフルをリロードしている隙に紅タロスはポジトロン砲を構え、ピッタリと照準を合わせきた。
「ブースト点火! PRM回避モード、フルパワー!」
 羽矢子はロックアオンアラームの鳴り響くなかブーストとPRMを起動。
 シュテルンの十二枚の翼と四つの推力可変ノズルの形態が変化する。
 羽矢子はPRMが生み出す加速力と旋回力を駆使し、まるで空を跳ねるような機動で紅タロスのポジトロン砲を避けた。
 しかし避けられたのは3撃目までで、4撃目が直撃。陽電子の対消滅エネルギーが装甲版を融解させて機体を吹き飛ばす。
「うわっ!」
 そこに更に5発目が命中。ダメージが機体内部にまで及び始める。
「まだ落ちないでよ!」
 羽矢子は装甲が溶け落ちてアチコチから煙を噴くシュテルンに鞭打って急旋回すると、残りのG放電装置を全弾発射。
 直撃を受けたタロスの装甲の間から焼けた生体部の煙が立ち昇り、傷口から沸騰した体液が噴き出す。
「一気に決める!」
 羽矢子は紅タロスに盾を持つ手とは逆側に回り込み、レーザーライフルを発射。
 光速高熱の一撃は紅タロスの腰部を貫き、反対側に抜けた。
 横腹に大穴を穿たれてグラリとよろける紅タロス。
「どうだ?」
 しかし紅タロスは体勢を立て直し、ポジトロン砲を羽矢子に向けた。
「ちぃ!」
 羽矢子は咄嗟に回避運動に入ったが、もうPRMは使えない。
 ブーストの加速力だけでは狙いは外せず、放たれた陽電子はシュテルンを直撃。対消滅のエネルギーが機体を焼き、溶かし、歪ませ、爆発させる。
 そして続く第二射が羽矢子のシュテルンを完全に破壊した。

 一方、2機のバイパー改は小型HWとは互角の戦闘をしていたのだが、そこに中型HWが加わった3対2では勝ち目はなく、中型HWのプロトン砲で破壊されたのだった。



 紫のタロスの編隊には周防 誠のワイバーン、美空(gb1906)の破曉、依神 隼瀬のロビン、軍のバイパー改が迎撃に出た。
 その俊足を活かして一人先陣を切る周防に小型HWが拡散プロトン砲を、中型HWがプロトン砲を撃ち放ってくるが周防は操縦桿を小刻み操って最小限の動きで避け、中型HWを対空砲「エニセイ」の射程に捉えた瞬間に発射。
 エニセイを喰らって中型HWが体勢を崩したところで更に接近し、擦れ違い様にソードウィングで斬り裂いて脇を抜ける。
 そして敵編隊を抜けて後ろに付き、スラスターを噴射して回頭する。
「敵編隊の後ろを取りました。時間はかけてられません。一気に撃破します」
 周防は仲間達に告げると、スナイパーライフルD−02で瀕死の中型HWを狙撃してトドメを刺す。
 そして左右に展開していた小型HWにエニセイを3発ずつ発射。
 狙い違わず同じ箇所に3発の砲弾を喰らった小型HWはそのまま爆散した。

 そうして周防がHWの相手をしている間に美空と隼瀬とバイパー改で紫タロスに攻撃を仕掛けていた。
「本日はハギョー初陣なのであります。ハギョーができる子であることを証明するのであります」
「こいつは確か回避能力は高いけど、装甲はそれほどでも‥って話だったよね? なら‥火力集中して、一気に叩こう」
 隼瀬はマイクロブースターを発動し、一気に紫タロスへの接近を試みようとしたが、それより先に紫タロスはドリルミサイルを発射。
 美空に2発、隼瀬に2発、バイパー改に1発迫って来る。
 バイパー改には早々に直撃。
 美空は『超限界稼働』で機体性能を引き上げ、隼瀬はマイクロブーストで回避運動に入った。
 もし相手が命中と回避に特化した紫タロスでなければ2人は避けられたかもしれない。
「速いであります!」
「振り切れない?」
 だが、紫タロスの放ったミサイルの速度と誘導性は2機の回避力を上回り、直撃する。
 弾頭の先端のドリルが装甲を抉り、機体内部で爆発。
 被害は動力部や火器管制にまでは及ばなかったものの機体の耐久力は半分以下にまで減少。機体各部で異常が発生する。
 特に『超限界稼働』で防御能力が低下していた美空の破曉のダメージは深刻だ。
「いたたっ‥‥大丈夫、美空ちゃん?」
「平気であります」
 傍から見る破曉の姿は見るも無残な状態だったが、美空の声は力強かった。
「じゃあ俺が右から仕掛けるから、美空ちゃんは左からお願い。軍の人は後方から援護射撃を頼みます」
「了解であります」
 美空は隼瀬がマイクロブースター噴かして右側に回りこんでいる間に再び『超限界稼働』を発動し、そこにブーストを上乗せして紫タロスに挑みかかった。
「最強の盾、美空が破って見せるのであります」
 美空は高分子レーザー砲を放ち、紫タロスの気を自分の方に向けさせる。
 そしてバイパー改の援護射撃を受けながら接近し、焔刃「鳳」で紫タロスの盾を左右から挟んだ。
 盾を破壊する事は出来なかったが、紫タロスの動きが止まる。
「今なのであります!」
「よ〜し、一点集中攻撃!」
 隼瀬は紫タロスの右側から接近し、オメガレイと高分子レーザーを一点に絞って発射する。
 オメガレイが装甲を融解し、そこにレーザーを撃ち込まれたタロスは傷口から体液を噴き出して悶えた。
「やった!」
 だが紫タロスは慣性制御装置を全開して身体を旋回させ、その遠心力で美空を振り払った。
「うわわっ!」
 そしてエネルギー集積砲をまだ体勢を崩している美空に向ける。
「危ない美空ちゃん!」
 隼瀬の叫びも虚しく、高エネルギーが込められた弾丸は美空の破曉を撃ち抜いた。
 破曉の巨大な翼が焔刃「鳳」と共にへし折れ、砲弾が喰い込んだ胴体部が大きくひしゃげる。
 片翼を失った破曉はきりもみしながら落下し、地表に落ちる前に爆発した。
「こいつ!」
 隼瀬は近距離からオメガレイを撃とうとしたが、紫タロスが向きを変えて集積砲を放つ方が早かった。
 直撃を受けたロビンの機体が大きく陥没する。
「まだまだー!」
 しかしどうにか攻撃を耐え切った隼瀬はオメガレイを発射。
 だが紫タロスは盾で防ぎ、再び集積砲を放つ。
 弾丸は先程と同じ箇所に命中し、機体を引き裂きながら貫通。
 その衝撃でロビンは二つに裂け、爆散した。
 それはちょうど周防がHWを撃滅したのとほぼ同時であった。

「くっ‥間に合いませんでしたか‥‥」
 周防は紫タロスに狙いを定め、エニセイの残弾3発を発射。
 砲撃に気づいた紫タロスが振り返って盾を構えようとするが間に合わず、エニセイは紫タロスの身体に食い込み、その衝撃で紫タロスが吹っ飛ぶ。
 その間に周防はスナイパーライフルとエニセイをリロード。
 だが、その隙に紫タロスは体勢を整えて残りのミサイルを発射。
 避けられないと判断した周防はミサイルをファランクス・テーバイに迎撃させ、自分はエニセイを撃つ。
 しかし、紫タロスはまるでギアを一段上げたかのような飛躍的な加速で避けて見せた。
「なに!? あのタロスはあんな機能まで備えているのか‥‥」
 そして紫タロスはその速度を維持したままエネルギー集積砲を放ってくる。
 周防はすぐに回避機動に入ったが、ブースト状態の紫タロスの狙撃はそう容易く避けられるものではない。
 周防は比較的装甲の厚い部分で攻撃を受けると、スナイパーライフルで慎重に狙いを定める。
「そこだ!」
 そして紫タロスが攻撃を仕掛けてこようとする瞬間を見極めて狙撃。
 超音速のライフル弾は紫タロスの胸部を貫通したが、紫タロスは周防がリロードしている隙に集積砲を撃ちこむ。
「くぅ!」
 そうして2機は超高速で空を駆けながら、相手の一瞬の隙を突き合い、弾丸が撃ち込み合った。
 そして最終的な軍配は相手より装甲の厚い機体に乗っていた周防に上がり、再生機能が追いつかない程のダメージを負った紫タロスは地上に落下し、完全に動かなくなった。
「思ったよりもてこずりましたね。さて他の部隊は‥‥」
 周防はレーダーで紅タロスの相手をしていた味方機が全滅した事を知ると、そちらに向かって空を駆けた。


 そして周防は敵編隊を補足すると同時にエニセイを3機のHWに2発ずつ撃ち込んで破壊し、紅タロスをスナイパーライフルで狙撃。
 ライフル弾は盾をすり抜けて直撃したが、紅タロスは構わずポジトロン砲を連射。
 対消滅エネルギーがワイバーンの装甲を焼き、機体を激しく揺さぶる。
「っ! 紫とは火力が違いますね‥‥」
 周防は紅タロスの周囲を旋回しながら様子を探る。
「腰部にダメージを受けてるか‥‥。なら!」
 周防は旋回機動を一転して直線機動に変えて紅タロスに突撃。
 紅タロスはポジトロン砲を放ってくるが致命傷にはならない箇所で受け、接近したところでマイクロブーストを駆使して横に回りこんでソードウィングを展開。
 フロットルを全開まで叩き込んで加速し、紅タロスの腰部を一気に切り裂いた。
 元々大穴の開いていた紅タロスの腰部はそれで上下に分かたれ、下半身は地上に落下。
 そしてエニセイの残り4発を紅タロスの上半身に叩き込む。
 傷口から大量の体液を噴き出した紅タロスは不意に浮力を失い、地上に降下していった。
「これで2機。後は‥‥」
 周防がレーダーを確認すると、そこに自分に向かって猛スピード接近する機影が1つ映っていた。
「これは‥本星型HW!」
 周防はすぐに機体をそちらに向けて武器をリロード。
 そして接近する漆黒の本星型HWをスナイパーライフルで狙撃した。
 愛子はそれを強化FFで弾き、そのまま接近。
 周防は更にエニセイも撃ち放ったが、それも強化FFで弾き、ワイバーンが荷電粒子砲の射程に入った所で連射した。
 超高熱の光がワイバーンを貫き、機体に幾つもの大穴を穿ってゆく。
「ちぃ!」
 周防はブーストとバレルロールで粒子砲の照射範囲から逃れると操縦桿を引き、マイクロブーストで遥か上空に舞い上がる。
 そして太陽を背中に背負い、ソードウィングを展開して本星型HWに向かって急降下した。
「いい加減これで‥‥墜ちろ!」
『‥‥バグアの光学センサーが太陽ぐらいで眩むと思ったの?』
 愛子は呆れた口調で呟き、砲身を真上に向けた。
 その照準はピタリと周防のワイバーンを捉えている。
「なに!?」
『死になさい』
 そして発射された荷電粒子砲はワイバーンを真正面から貫き、機首がたちまち融解し、コクピットごと吹き飛んだのだった。



 紺タロスの編隊は石動 小夜子のサイファーとレイヴァー(gb0805)の骸龍の2機で相手をするつもりだった。
「タロス、ですか。別機では御座いますが、以前交戦したおりには僕の未熟故に逃走を許してしまいましたからね。今回は‥‥最期まで。お付き合い願いましょうか」
 レイヴァーは骸龍の俊足を活かして先行し、敵の目を自分に引き付けている間に小夜子が横合いに回りこむ。
 真っ直ぐにタロス目掛けて突撃してくるレイヴァーに中型HWがプロトン砲を発射。
 それを容易く避けたレイヴァーに次は小型HWが拡散プロトン砲を放つ。
 だが広域に拡散する光線でさえ、レイヴァーは隙間を縫うような機動で避けてしまう。
 最後に紺タロスがドリルミサイルを発射したが、これもレイヴァーを捉える事ができない。
 そうして全ての攻撃を潜り抜けたレイヴァーは紺タロスの目を狙ってMSIバルカンRを放ったが、盾で防がれた。

 一方、小夜子は中型HWを射程に捉えると放電ミサイル「グランツ」を発射。
 直撃した6発のミサイルから発せられた強力な放電が中型HWを包み込み、装甲の隙間から煙を噴いた。
「このまま一気に倒します」
 小夜子は更に距離を詰め、3.2cm高分子レーザー砲を撃ちこもうとしたが、体勢を立て直した中型HWが先にプロトン砲を放った。
「ぁ!」
 小夜子は咄嗟に『フィールド・コーティング』を展開しつつ操縦桿を倒して回避したが避けられたのは2発目までで、3発目は胴体に命中、4発目に片翼を半分溶かされた。
 だが、中型HWの懐に入り込んだ小夜子はそこからレーザー砲を連射。中型HWに無数の穴を穿ってゆく。
 そしてエネルギーが切れるまで撃ち続けると、中型HWは穿たれた穴から炎を噴き上げ、そのままゆっくりと墜落していった。

 その頃レイヴァーは小型HWの拡散プロトン砲を巧み避けながら紺タロスの放つレールガンをわざとギリギリで避けていた。
 そして隙があれば紺タロスの首周りの天使の輪やミサイルの発射口などを狙ってバルカンを放ったが、その全てが盾で受け止められた。
 だが、レイヴァーの骸龍の武装はあくまで自衛用であり、敵を倒すには力不足なのは分かっていたので、それで構わなかった。
 しかし中型HWが倒された事で紺タロスが目標を小夜子に切り替えようとするのを黙って見ている訳にはいかない。
「何処を見ておられるのですか? タロス程度が僕の骸龍に隙を見せるとは‥‥油断、ここに極まれり、で御座いますね」
 レイヴァーは再び紺タロスの気を引くために本気でバルカンを当てた。
 しかし、ここで大きな誤算があった。
 バルカンは紺タロスの装甲で全て弾かれたため、レイヴァーは完全に無視されてしまったのである。
「石動さん! タロスがアナタを狙っております。ご注意を!」
 レイヴァーが警告を発した直後、紺タロスが小夜子にレールガンを放つ。
 小夜子は『試作型斥力制御スラスター』を機動し、従来のKVでは決して行う事ができない機動性でもってレールガンを全て避けきった。
「ごほっ!」
 だが、あらぬ角度からの強烈なGに晒された影響で小夜子は咳き込んだ。
 それでも小夜子は気力で身体を支え、紺タロスに向かってレーザーを発射する。
 しかし紺タロスは盾で受け止め、再びレールガンを構えた。
 小夜子にもサイファーにも『試作型斥力制御スラスター』を使う余裕はもうない。
 レイヴァーがバルカンを放ってレールガンの発射を阻止しようとするが、紺タロスは意にも介さない。
 小夜子は必死に回避運動を行ったが、超高速で放たれたレールガンはサイファーを捉え、機体をバラバラに引き裂いてゆく。
 そして続けて放たれた第二射がサイファーの息の根を完全に止めた。
「石動さん!」
 小夜子を仕留めた紺タロスはレイヴァーに攻撃を再開した。
 そしてレイヴァーが攻撃を避け続けていると不意に紺タロスの動きが鈍り始めた。
「どうやら練力切れの様でございますね」
 そのためバルカンでもダメージを与えられる様にはなったが、それは微々たる損傷であった。
 決定打を持たないレイヴァーには時間を稼ぎ、仲間の到着を待つしか手はない。
 だが、レイヴァーの元にやって来たのは仲間ではなく、愛子の乗る漆黒の本星型HWだった。
『お前が最後よ』
 愛子はそう告げてポジトロン砲を連射。
 だがレイヴァーはひらりと避ける。
 愛子は間を詰めて荷電粒子砲を放ったが結果は同じだ。
「この最高のKVたる骸龍にそうそう当てられると思わないで頂きたいですね」
『この‥ちょこまかと‥‥』
 愛子は苛立たしげに呻くと本星型に搭載されている強化型重力検地装置を起動させた。
『この本星型をただ硬いだけのヘルメットワームだと‥‥』
 すると重力波レーダーの精度が飛躍的の向上し、周囲の機体の動きが手に取る様に分かるだけでなく、敵機の回避機動の未来予測まで可能となった。
『思うな!』
 そしてレーダーの検地したデータに従ってポジトロン砲を発射。
 すると、まるでレイヴァーの行く先に吸い込まれるかの様に光弾が走り、骸龍に直撃する。
「え?」
 レイヴァーは衝撃と共に愛機がバラバラに砕ける光景が信じられず、大きく目を見開いた。
 だが、続けて放たれたポジトロン砲が骸龍を爆散させ、これが事実だとレイヴァーに知らしめた。

『これで片付いたわね‥‥』
 愛子は周囲に敵影がない事を確認すると、後方に待機させていた爆撃型HW部隊を前進させた。
 そして、ヒューストン市内への容赦ない爆撃が開始されたのだった。



「総員退避ーー!」
「早く逃げろーー!!」
 無数とも思える爆弾が降り注がれる地上では軍が大慌てて撤退を開始していた。
 爆撃型HWは軍の主要施設から重点的に爆撃を行い、逃げ遅れた者達は次々と爆弾の餌食になり、ある者は粉々に吹き飛び、ある者は炎に焼かれ、ある者は瓦礫の下敷きとなり、その命を散らしていった。

「こんな事になるなんて‥‥」
 一人戦場から離脱を果せたつばめは燃え盛り崩れ落ちてゆくヒューストンの光景を目の当たりにし、悔しさと絶望感に打ちひしがれながら軍と共にこの地を後にした。

 こうしてヒューストン市内は炎の海に包まれ、全てが燃え尽きていった。

 <つづく>