タイトル:【初夢2】HardChristmasマスター:真太郎

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/07 07:11

●オープニング本文


 12月25日

 先のシェイド討伐を目的とした大規模戦闘で奪還を果たしたロサンゼルスも今ではかなり復興が進み、町の中心部はクリスマスムード一色に染まっていた。
 それは50階建てのホテルの屋上階に設けられたレストランのラウンジでも同じ事で、満席となった各テーブルでは家族や恋人といった自分にとって最も大切な人とそれぞれ憩いの時を過ごしていた。
 だが、その幸せに満ちた時間が今から混乱と恐怖に彩られてしまうなどと誰が想像できただろう。
 最初の異変はエレベーター。
 ビルに設置した全てのエレベーターが一斉に動かなくなったのだ。
 続いて全ての通信機器が不通となる。
 そして不意に全ての火災報知器が鳴り響き、全てのスプリンクラーが一斉に作動。
 全てのフロアーに放水が開始され、全館に退避勧告のアナウンスが響きわたった。
 ビル内にいたお客はスプリンクラーの放水に追い立てられる様に逃げまどうがエレベーターは全て動かず、人々は非常階段で逃げるしかなかった。
 しかし40階より上には非常階段がないため、40階より上にいた者達は逃げる術がなく、取り残される事となる。
 そして40階より下が完全に無人となると、全ての隔壁や防火シャッターが降ろされ、エレベーターは1基を残し、他は全て箱を吊すワイヤーを切断されて1階に叩き落とされた。
 これら事態は全てビルに潜入した4人の強化人間の仕業であった。
 ビルの35階にあるビルの管制室を占拠し、ビルのセキュリティーを全て掌握した彼らは40階より上にいた客や従業員をレストランに集め、人質とした。
 そして彼らはUPC北中央軍と連絡を取ると人質の命と交換にある要求を行ってきた。
 それはエミタの調整を行える機器と、それを扱える人間を自分達に引き渡す事だった。
 UPC北中央軍はその要求を受け入れず、ビルの屋上からヘリで突入部隊を送り込む作戦を試みたが、ヘリは屋上にいた一人の強化人間の地対空ミサイルで撃墜された。
 続いて1階で降ろされた隔壁を破っての潜入が試みられたが、各所に仕掛けられたトラップによって被害を受け、どうにか20階までは到達した者達も、その階から上に上がる階段が全て爆破されていて、そこで立ち往生したところを強化人間に襲撃されて壊滅した。
 エレベーターシャフトを伝って進入を試みた部隊も上からの機関砲の掃射により撃退された。
 そうして万策尽きたかに見えたが、4人の強化人間達にも一つだけ誤算があった。
 それは隔離した40階より上のフロアーに、たった一人だけだが能力者が紛れ込んでいる事に気づいていない事だった。




 尚、この物語はフィクションです。

 このオープニングは架空の物になり、このシナリオはCtSの世界観に影響を与えません。

 申し訳ございませんが相談期間中の拘束は通常通りに発生します。事前にご了承のうえご参加ください。

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
弓亜 石榴(ga0468
19歳・♀・GP
新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
佐竹 優理(ga4607
31歳・♂・GD
東 冬弥(gb1501
15歳・♂・DF
セレスタ・レネンティア(gb1731
23歳・♀・AA

●リプレイ本文

 クリスマスの聖夜。
 地上から遥か高みにあるビルの50階のレストランでは大勢の客や従業員が人質として、弓亜 石榴(ga0468)、東 冬弥(gb1501)の二人の強化人間に監視されていた。
 武装した2人を相手に一般市民に出来る事はなく、恐怖に怯えながらじっとしている事しか出来なかった。
 唯一人、能力者である石動 小夜子(ga0121)を除いては。
 小夜子は恋人の新条 拓那(ga1294)とこのレストランで待ち合わせをしていたのだ。
 その新条は幸か不幸か遅れていてこの場にはいない。
(「この状況、私が何とかしなくては‥‥。確か40階に警備員室があったはず、そこまで行ければ拓那さんと連絡が取れるかも‥‥」)
 凄腕のスナイパーである新条と連絡が取れれば現状を打開できると小夜子は考えていた。
 そのためには見張りに見つからず、この場から脱出せねばならない。


「なぁ、あんたら恋人同士か?」
 見張りに飽きた東が側にいたカップルに声をかける。
「‥は、はい。そうです」
 カップルの男が怯える恋人を庇いながら返事をする。
「なら退屈しのぎに付き合ってくれよ。お前らのうち片方は殺すけど片方は生かしてやる。さ、どっちが死ぬ?」
「えぇっ!?」
「そ、そんな‥‥」
「早く決めな!」
 東は銃を抜くと二人交互に向けた。
「‥‥」
「‥‥」
 だがカップルは決断など出来る訳がない。
「決められないのか。じゃ俺が決めてやるよ。‥‥女、お前が死にな」
「ぃ、いやぁぁ!!」
 東が銃を女に向けると表情を強張らせ絶叫を上げた。
「待ってくれっ!」
「ん? じゃ、あんたが死ぬんだな。ぱーん!」
 男が静止すると、東は銃を男に向けて発砲。
「っ!?」
 弾丸は男の頬をかすめた。
「‥ふ‥‥ぁ‥‥」
 男は目に涙を浮かべてガタガタと震え始める。
「なんつって、フェイントでしたーぁ。びびっただろ?」
 東はいやらしい笑みを浮かべると、再び男に銃を突きつける。
「じゃ、もう一度聞くぜ。どっちが 死 ぬ ?」
「‥‥」
 男は怯えた瞳で女を見た。
「ひっ!」
 すると女が怯えた悲鳴を上げる。
 そして男がぶるぶると震える手を上げようとした時
『東、弾の無駄遣いをするな。ちゃんと監視をしていろ』
 管制室でレストランの様子を伺っていたリーダーの佐竹 優理(ga4607)が東の行動を見かねて注意した。
「ちぇ‥‥了解だリーダー」
 東は銃を仕舞い、二人に背を向ける。
 男はその場にへたり込んだが、女は男に縋ろうとはしなかった。


 一方、石榴は
「怪しい物を持ってないか調べるからちょっと立って」
 客の一人のリサ・クラウドマン(gz0084)の身体検査を始めていた。
「暴れたら安全は保障しないよ?」
「は‥はい‥‥」
 石榴は怯えるリサの体をアチコチさわさわする。
「‥んっ」
 リサがその感触に身悶える。
「あ、結構敏感なんだ〜。お、ここに何か隠してそうだね」
 石榴が両手でリサの胸を掴んで揉みしだく。
「そ、そんな所に何も隠して‥ぁん♪」
「おおっと、これは中々‥着痩せするタイプって奴?」
「そ、そんな事‥‥ぁ‥ん‥っ‥‥ハァ‥ハァ‥」
 リサの頬がだんだんと紅潮し、息が荒くなってくる。
「あー、役得役得♪」
 そして石榴が次なる行動に移ろうとした時、
「邪魔だ」
 東が石榴の尻を蹴っ飛ばした。
「うわっ!」
「きゃん!」
 石榴とリサが床に倒れて揉み合う。
「も〜‥‥冬弥きゅん、相変らず乱暴だなー」
「うっせー。お前せめて向こうでやれ! 俺がそっち監視できねぇだろ!」
 もちろん監視を口実にした八つ当たりである。
「マッタク、冬弥きゅんはコレだから‥‥」
「あの‥‥もう何も持ってない事は分かりましたよね」
 リサが自分の体を抱きしめて縮こまりながら尋ねる。
「いやいや、ま〜だ終わってないよ〜。さ、次は下着をチェックをしようかぁ〜♪」
 石榴が手をわきわきしながらリサににじり寄る。
「せんせー‥じゃなくてリーダー! えっちなのはいけないと思います!」
『‥弓亜、お前もちゃんと配置につけ』
 東が無線で佐竹に告げ口すると、石榴にもお叱りの声が届く。
「えぇ〜〜これからが良い所なのに‥‥」
 石榴が文句を言いながらも手を引っ込める。
「お、結構夜景が綺麗じゃん。俺こっちで監視するから、お前そっちな」
「冬弥きゅん、おーぼー」
 そして東は窓際で、石榴は入り口付近で見張りを始めたのだが、人質の数が一人減っている事には気づかなかった。


「見張りが隙だらけな人達で助かりました」
 見張りの二人がリサの所に集まっている隙に『瞬天速』でレストランを抜け出した小夜子は40階の警備員室にやってきた。
 そして中に人気がない事を確認して入ると、そこには頭を撃ち抜かれて息絶えた警備員の姿があった。
「‥‥ひどい」
 小夜子は手を合わせて警備員の冥福を祈ると腰に付いた無線機と拳銃を手に入れ、さっそく新条と連絡を取る。
「こちら石動です。拓那さん聞こえたら応答願います」
『小夜子か? こちら新条』
 すると、すぐに新条から返答がきた。
「あぁ‥‥拓那さん」
 小夜子は新条の声を聞いた途端、安堵のあまり涙が出そうになった。
『無事か小夜子? 怪我は?』
「はい、無事です。怪我もしていません」
『そうか‥‥良かった』
 新条の声にも安堵が篭っている。
「拓那さん、今から現状をお伝えします」
 小夜子はビルの状況を分かる範囲で新条に伝えた。
「レストランは大きなガラス貼りになっていますので、拓那さんには隣りのビルから見張りの一人を狙撃して欲しいんです。その間に私はもう一人を倒します」
『‥‥現状ではそれが最善だな。小夜子、事が済んだら一緒にクリスマスを過ごそう』
 新条は小夜子を勇気付けようと努めて明るく言った。
「‥はい、楽しみにしています。拓那さんもお気をつけて」
 小夜子は名残惜しげに通信を切るとレストランまで引き返した。



 寒波が吹き荒ぶビルの屋上に着いた新条はライフルを構え、レストランの窓から内部を伺う。
 窓際には客らしき者達と小銃を構えた東の姿が見える。
「小夜子、配置についた。こちらは何時でもいける」
『こちらも配置につきました。私は拓那さんの発砲と同時に室内に飛び込みます』
「了解」
 新条はライフルを構え、東の胸にピタリと照準を合わせ、トリガーを引いた。

 その一瞬後、窓ガラスを貫き、ライフル弾が東の体に突き刺さる。
「ぐぁ!」
 着弾の衝撃で東の体が仰け反り、胸から血が噴き出した。
「な、なんじゃこりゃあー!! 痛っ‥てぇ!? だ、誰だ、誰が撃ってきやがったッ!?」
 東は窓に小銃を向けたが真っ暗な景色が見えるだけで狙撃位置は分からない。
 そうしている間も血は流れ続け、失血で目は霞み、足に力が入らなくなる。
 そして新条が放った第二射が東の腹を撃ち抜く。
「がはっ!」
 その衝撃で立っていられなくなり、床に倒れこんだ東は大量の血を吐いた。
「や、やべぇ‥‥俺‥こんな所で‥‥死ぬ‥のか?」
 東は薄れゆく意識の中、震える手で無線機を掴み、口元に持ってゆく。
「リーダー‥‥緊急事態、発、せ‥‥」
 それが最後の言葉となり、東は事切れた。


「銃声‥ヘリの次は狙撃ね‥‥」
 その頃、ビルの屋上で空の監視を行っていたセレスタ・レネンティア(gb1731)はその鋭敏な聴覚で、新条の放った銃声を捉えていた。
「管制室、聞こえますか? どうやら何処かから狙撃されているようです」
『すぐに敵の位置と数を確認しろ』
「了解」
 セレスタは二脚で接地しているアンチマテリアルライフルの暗視スコープで周囲のビルを索敵。隣りのビルの屋上に人影を見つける。
「狙撃手を確認‥一人だけのようです」
『こちらは東がやられた。セレスタ、そのビルを掃除しろ。片付いたら連絡をくれ』
「了解。直ちに排除します」
 セレスタはライフルの安全装置を外し、新条に狙いを定めてトリガーを引いた。

 発射された音速の弾丸は新条の側頭部を掠めた。
「くっ!」
 新条はすぐに身を隠し、迂回して位置を変えて双眼鏡を取り出す。
「1cmずれてたらやられてたな‥‥敵も魔弾の射手か‥‥」
 そして双眼鏡で敵の位置を確認した直後、双眼鏡を撃ち抜かれる。
「ふぅ〜‥やるな。だが、撃ち合いだけが全てではないぞ!」
 新条は身を晒すと同時に敵に向かってライフルを放った。

「外した?」
 セレスタは反撃が来た事に軽く驚きつつ、軍での経験を活かして狙撃ポイントを変え、再びライフルを構える。
 すると、目標のいる屋上から幾つものレーザーサイトがこちらに照射されているのが見えた。
「撹乱のつもりか? それとも‥‥」
 敵の意図は分からなかったが、セレスタはレーザーサイトが照射されていない場所に位置を変えた。
 だが、そうして狭められた射撃ポイントに誘い込む事こそが新条の狙いだった。

「来た!」
 予想通りの場所に敵が入り込んだ瞬間、新条は狙いを定めてトリガーを引く。
 そして射出された弾丸は暗視スコープごとセレスタの右目を撃ち抜いた。

「くぅ!」
 セレスタは応戦しようとしたが、利き目を失った視界では狙いを定められない。
 そして続け様に放たれた新条の弾丸に右肩と左胸を撃ち抜かれる。
 胸の傷からはドクドクと血が噴き出し、止まる様子がない。
(「‥‥胸の傷は致命傷みたいね」)
 そう確信したセレスタはその場で立ち上がり、銃を抜いて自らの頭へ突きつけた。
「‥ヨシサト‥私はここまでの様です‥どうか貴方は生き延びてください‥‥」

 [ 愛していました ]

 その言葉をセレスタは心の中でだけ告げ、トリガーを引く。
 そして火薬の弾ける乾いた音と共に自ら命を散らせたのだった。



 その頃レストラン内は
「え? どうしたの冬弥きゅん?」
 突然、東が血を噴き出して倒れた事に動揺する石榴に、入り口から飛び込んだ小夜子が赤いドレスを翻しながら発砲。
「うわっ! なに? 襲撃?」
 石榴は動揺しつつも銃弾は避け、小夜子の足元に向かって小銃を乱射する。
「くっ!」
 小夜子は咄嗟に『疾風脚』を発動させて避け、石榴に迫る。
「も〜人質が逆らっちゃダメだよ。お仕置きしてあげる♪」
 石榴が何故かビーチパラソルを向けてくる。
「パラソル?」
「うん、パラソル♪」
 石榴がパラソルを広げて小夜子の視界を塞ぐ。
 咄嗟に小夜子が手でパラソルを払いのけると、そこにはパラソルに仕込んであった刀を振りかぶる石榴の姿があった。
「貰った!」
 しかし小夜子は振り下ろされた石榴の手を掴み、踵を返して石榴の懐に背を押し付ける様に潜り込むと、全身のバネを使って石榴の体を跳ね上げた。
「え?」
 一瞬の浮遊感の後、石榴が床に叩きつけられる。
「んぎゃ!」
 そして小夜子はそのまま腕を捻り上げて石榴を床にねじ伏せた。
「いたたたっ! 折れちゃう! 腕折れちゃうぅ! タップタップ! 降参降参! アンタが大将ー!」
「誰か! 縛る物を持ってきて下さい!」
 小夜子は石榴の悲鳴は無視して締め上げ続け、客から受け取った紐で石榴の手足を縛り上げた。
「アナタってこういうプレイが好みなんだ〜。私、初めてだから優しくしてね。ポッ」
「いえ、別にそういうつもりはないんですけど‥‥」
 妙な勘違いをして頬を染めている石榴の扱いに困った小夜子は、とりあえず大型冷凍庫に閉じ込め
「ちょっ! こんなとこだと風邪ひいちゃうよぉ〜〜」
 ナイフと小銃を手に入れた。



「弓亜が捕まったか‥‥」
 佐竹は監視カメラに時節ちらちらと映る小夜子の姿に目を留めると、特殊回線を開いた。
「佐竹です。初期の目的は達しましたが‥‥はい、長くは持たないかも知れません‥‥」
 回線の先にいるのは佐竹の所属する組織の上司だ。
 部下には告げていないが、今回の作戦の目的はエミタの調整を行う機材と人員の確保ではない。
 真の目的は組織が進行中の大きな計画を成功させる為の捨て身の陽動である。
 元々、全員が生きては帰れない作戦なのだ。
 ただ、セレスタだけはその事に気づいている節があった。
 それでも自分に着いて来てくれたセレスタを佐竹は信愛していた。
「‥‥行くか」
 そして通信を終えた佐竹は銃を取り、管制室を後にした。



 エレベーターシャフトを伝って35階に辿り着き、エレーベーターの扉を開けた小夜子はいきなり銃撃を受けた。
「っ!」
 咄嗟に扉の淵にぶら下がって避けた小夜子は小銃を突き出して応射。
 銃撃が止んだ所で床に這い上がり、近くの部屋に逃げ込んだ。
「逃がさん!」
 佐竹はすぐに後を追い、室内に向かって小銃が弾切れになるまで水平掃射。
 室内の調度品が粉砕され、窓ガラスが砕けて暴風が吹き込んできた。
 その風が小夜子の髪とドレスを巻き上げ、佐竹に位置を知らせる。
「そこか!」
 佐竹が拳銃を抜いて撃ち、小夜子も立ち上がって応射したが、すぐに小夜子の弾が切れた。
「終わりだな」
 佐竹が接近しながら撃ってくるが、小夜子は床に身を投げ出す様に跳んで避けた。
 そして佐竹の銃もカチカチと空撃ちになる。
「ちっ!」
「今です!」
 その好機に小夜子は素早く身を起こしてナイフ抜くと、佐竹に斬りかかった。
 しかし

 パン

 乾いた炸裂音が響き、小夜子の大腿部に穴が穿たれた。
「え?」
 バランスを崩した小夜子が床に倒れこむ。
「‥どうして?」
「弾切れになった演技をしただけだよ、お嬢さん」
 佐竹は弾装を交換した銃を小夜子の頭に向ける。
「では、さよならだ」
 そしてトリガーにかけた指に力を込めた直後、その手が新条のライフルの狙撃によって弾け散った。
「なっ! 狙撃? まさか‥‥セレスタがやられたのか?」
 佐竹の顔が驚愕に歪む。
『今だ小夜子!』
「はい!」
 小夜子は佐竹の足をナイフで斬り裂き、体勢が崩した所を更に袈裟懸けに斬り下ろした。
「ぐぅ‥‥」
 手足と体に負った傷から血を流し、佐竹が床に膝をつく。
「‥‥ここまでです。降伏して下さい」 
 小夜子が佐竹にナイフを突きつけながら静かに告げた。
「‥分かった。降参だ」
 佐竹は自嘲気味な笑みを浮かべ、両手を上げる。
「もう仕事は終えたのでね」
 そして小夜子が安堵した一瞬の隙を突いて窓から身を投げた。

(「セレスタ‥私もすぐに行く‥また一緒に暴れ」)
 落下する佐竹の意識はそこで衝撃と共に途絶えた。



 こうして事件は幕を閉じ、人質となった人々も全員無事にビルから出る事ができた。
「小夜子!」
 その人込みの中に小夜子の姿を見つけた新条が駆け出す。
「拓那さん!」
 小夜子は傷を負った足を引きずりながら新条の胸に飛び込んだ。
「よかった‥‥本当に‥‥。買ってきたターキーは多分冷えてると思う。温めなおしてくれるか? 出来れば君の料理と一緒に」
 新条が力一杯小夜子を抱きしめながら耳元で囁く。
「はい‥‥とっておきのお料理を作りますね」
 小夜子も安堵と幸せ一杯の顔で新条を抱きしめ返す。
 そうして二人は愛しい人の温もりを身体一杯に感じ合い、互いの無事を確かめ合ったのだった。