タイトル:暴走列車を止めろ!マスター:真太郎

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/05/28 23:02

●オープニング本文


「列車がキメラによってジャックされました」
 オペレータはまるで冗談にしか聞こえない様な事を深刻な顔で言った。
「はぁ?」
「あの‥‥キメラがどうやってトレインジャックなんてしたんですか?」
 だが、やっぱり傭兵達には冗談事の様に聞こえたらしく、もっともな質問がされる。
「今回現れたキメラはスライム型で、なんらかの方法により高高度より列車に向かって降下し、ピンポイントで最前部車両と最後部車両に取り付いた様です。偵察班の報告によると、このスライムは電気を発するタイプらしく、その電気信号で電車を動かしているのではないか、との事です」
「なるほど‥‥」
「列車は8両編成で。現在、1両目と2両目、及び最後尾の8両目が既にスライムに取り込まれています。そして今も増殖しながら3両目目と7両目に浸透中です」
「その列車に人は乗ってるのか?」
「はい。この鉄道路線は乗客の輸送のみならず、物資の輸送にも利用されていますが、今回ジャックされた列車は残念ながら旅客列車で、中には400人ほどの乗客が乗っていました。今はほぼ全員が5両目と6両目の車両に逃げ込んでいます」
「400人‥‥」
「はい。何人かは窓から脱出を試みたようなのですが、着地の衝撃に耐え切れなかったらしく、全員が線路脇で死亡していました」
 ここまでの説明でようやく傭兵達の事の深刻さを理解した。
「列車は現在、約120kmの速度で終端駅に向かって走行中です」
「このままだと終点の駅に激突って事か?」
「いいえ。幸い、終点手前のポイントを切り替えたため駅への激突の心配はありません。ただし、120kmのスピードを出している列車はおそらくポイントのカーブを曲がりきれずに脱線し、横転すると思われます。その際、乗客に多数の死傷者が出るでしょう」
 オペレーターの声が少し沈み、表情にも影が落ちる。
「皆さんにはその列車に乗り込み、キメラを駆逐し、乗客の安全を確保し、列車を止めてもらいます。列車の乗り込む方法として、高速移動艇から列車の屋根に飛び移り、窓ガラスを破って進入する方法と、車を列車と併走させ、扉をロックを外して進入する方法の2つを用意しました。ですが、もし皆さんの中で他の方法がある方は申し出てください。しかし、あまり時間はありませんよ。今から現場に急行して作戦に取り掛かったとしても、列車がポイントに到達するまで30分もないはずですから」

●参加者一覧

五十嵐 薙(ga0322
20歳・♀・FT
篠原 凛(ga2560
20歳・♀・GP
熊谷真帆(ga3826
16歳・♀・FT
シエラ・フルフレンド(ga5622
16歳・♀・SN
カルマ・シュタット(ga6302
24歳・♂・AA
アズメリア・カンス(ga8233
24歳・♀・AA
森里・氷雨(ga8490
19歳・♂・DF
神楽坂・奏(ga8838
25歳・♂・DF

●リプレイ本文

 もうもうと砂煙をあげながら2台のオープンカーが全速力で疾走する。
 目指すは400人の乗客と2体のキメラを乗せた暴走列車だ。
「制限時間は30分‥‥厳しいな。だが、やるしかないな」
 その車上ではカルマ・シュタット(ga6302)が決意に満ちた目でじっと前方を睨んでいる。
「何かおもしろいものはないでしょうか〜っ?」
 シエラ・フルフレンド(ga5622)がその小さな体を有効に活用して狭い車内をごそごそと動き回りながら探っているとトランクの中から牽引用のロープを発見した。
「それ‥‥列車に乗り移る時に‥‥命綱に‥‥使えないでしょうか?」
「‥‥使えそうだな」
 おっとりと尋ねる五十嵐 薙(ga0322)にカルマがロープの強度を確かめながら答えた。
「コンダクターからB班へ。トランクの中にロープがある。列車に乗り移る時はそれを命綱に使ってくれ」
 神楽坂・奏(ga8838)が無線機で後ろを追走している車に乗っている者達に告げると、『了解』と森里・氷雨(ga8490)の声が無線機に返ってくる。

「来ました」
 セーラー服の上に着物を羽織るという奇妙な出で立ちの熊谷真帆(ga3826)が覗く双眼鏡がこちらに向かって進行してくる列車の姿を捕らえた。
「よし、方向転換。列車と相対速度を合わせて」
 アズメリア・カンス(ga8233)の指示に従って運転手は列車とすれ違う直前で車を180度方向転換させ、列車と併走させた。
「うまいうまい。じゃあ次は6両目のドアにつけて」
 今度は篠原 凛(ga2560)の指示に従い、車をドアのギリギリまで接近させる。

 そして、もう一方の4両目へと向かう車上ではシエラがアサルトライフルを構え、列車の上部に設置してあるパンタグラフに狙いを定めていた。
「まずは電気をとめますっ!」
 シエラはアサルトライフルを8連射すると、8発全てをパンタグラフに命中させ、宣言どおり電気を止めてみせた。
 しかし、そのため列車の照明が一斉に消え、5両目と6両目から『なんだ?』『電気が消えたぞ』『助けてぇ〜!』などという叫びや悲鳴があがる。
「あぅっ! なんだか余計にパニックになっちゃったみたいです〜っ!!」
 シエラは今にも泣き出しそうな顔をしながら、申し訳なさそうにアサルトライフルを胸に抱えた。
「でも‥‥列車の速度は‥‥落ちてきた、みたいです」
 薙の言うとおり、列車は徐々にそのスピードを緩め始めていた。
「結果オーライだ。このまま乗り込むぞ」
 奏が運転手に4両目に車を寄せてもらおうとした、その時。
 不意に3両目の車内がパチパチと激しく明滅を始め、徐々にではあるが列車の速度が上がり始めた。
「あれ、いったいなんですかっ?」
「どうやらキメラが機関部に取り付いて無理矢理動かしているみたいだな」
 列車は先程よりはスピードを落としているものの、止まる気配は見受けられない。
「やはり時間との戦いだな。急ごう」
 カルマは改めて運転手に4両目に車を寄せてもらう様に頼んだ。
「はやく‥‥しなきゃ‥‥乗客のみなさんが‥‥危ない、です」
 薙も口調はスローテンポだが、気は急いている様だった。



 その頃、6両目に向かったB班の4人は事前に教えられていたとおり、ドアの床下を目で探り、ドアのロックを解除するレバーが見つけていた。
「はっ!」
 列車に乗り込むため、まず真帆がヴィアを車両に突き立てた。
 そして4人の中で一番背の高い氷雨が落ちないように身体を掴んでおいてもらい、車から身を乗り出して真帆の突き刺したヴィアを手掛かりにしながら、牽引ロープの先の鍵爪をレバーに引っ掛けて引く。
 しかし、プシューと圧縮空気の抜ける音が響いただけでドアに変化は見られない。
「本当にこれで開くのか?」
 氷雨が訝りながらドアをクロムブレイドで押してみると、ドアは拍子抜けする程あっさり開いた。
「じゃ、私から行くわね」
 4人の中で一番器用なアズメリアがロープを自分の腰に結んで命綱にする。
「どうぞ、準備はOKです」
 真帆は羽織っていた着物を脱ぎ、後部座席から身を乗り出して着物を広げ、万が一の転落防止に備えた。
「それ、そう使うために持ってきてたのね‥‥」
 アズメリアはちょっと呆れ気味に言うと能力を覚醒させ、開いた扉に集中しながら一気に跳んだ。そして見事、列車に乗り移る。
 そして残りの3人もアズメリアに補助してもらいながら無事に乗り移った。
「時間がないから、行動は迅速に、ね」
 アズメリアがそう言って皆の気を引き締めていると、俄かに5両目が騒がしくなる。
 どうやら乗客が異常に気づいたようだ。
 氷雨は乗客の隔離とパニック対策のため、真帆に借りたヴィアを5両目の扉に突きたて、簡単には開かないようにする。
「皆さん! 我々はアナタ達を救出に来た能力者です」
 それからメガホンを使って乗客に呼びかけた。
 すると予想通り、『助けて』という叫びに近い声と共に扉を開けてこちらに来ようとする。
 しかし扉は開かないため、今度は『どうして開かないの?』『助けに来たんじゃないの?』という、不満と疑惑の声が上がり出す。
「大丈夫です。絶対あたし達が助けてみせますからっ! ですからまずはあたし達の指示に従ってください!」
 凛も氷雨と共に乗客を説得しようとしたが、なかなか理解を得られず不満と助けを求める声だけが返ってくる。
 それでも乗客の理解と協力を得られなければ作戦の続行は難しいため、2人は根気よく説得を続けた。
 そして真帆は説得の時間を稼ぐため、何故かいきなりセーラー服を脱ぎだした。
「おぉ!!」
 その光景に思わず目を奪われ、注目してしまう氷雨。
 しかし残念ながらセーラー服の下から現れたのは下着ではなく紺色のスクール水着であった。
(「いや、コレはコレで結構いいかも‥‥」)
 しかも乗客の説得すら忘れ、そんな事まで考えてしまっている。
「あなた! なんでいきなり服なんて脱ぐのよ?」
「これはこう使うためです」
 戸惑うアズメリアを尻目に、真帆は7両目に繋がる扉にぴったり体を横付けし、脱いだセーラー服を片足と体の片側で押さえ、少しずつ扉を開いてゆく。
 すると、セーラー服が上手い具合に開いた扉を覆うような感じで広がってくれる。
 真帆はそのままそっと7両目の様子を窺がった。
 車両の中央には1mを越す大型のスライムが鎮座し、その前を4〜50cm程の小型スライムが数匹たむろしていた。
 しかも、大型スライムの体内には溶けかかった人の姿が不気味に浮かんでいた。
(「なんて事を‥‥」) 
 真帆はその犠牲者(おそらくは車掌)の事を思って胸を痛めながらセーラー服越しにアサルトライフルを大型スライムに向かって掃射。
 火の属性が付与された弾丸はスライムに着弾すると、ぶすぶす煙を上げて燃え上がる。
 そして焼け焦げ、変色した箇所はスライムの身体からボロボロと落ちていった。
 十分な手答え感じた真帆は続けて掃射しようとしたが、それより先にスライムから電撃が撃ち込まれて来る。
「くっ!」
 電撃は火の属性強化を行ったセーラー服と水着で威力が削がれているとはいえ、完全防ぐ事はできず、真帆の身体を痺れさせる。
「負けるものですかっ!」
 だが真帆は歯を食いしばってアサルトライフルで掃射を続けた。
 しかし今度は何発かは小型スライムが盾になり、大型までは届かない。
 しかも小型スライムはこちらに向かって移動を開始し始め、大型もゆっくりと動き出している。
 それでも真帆は1秒でも長く時間を稼ぐため掃射を続けるのだった。



 その頃、4両目に向かったA班の4人も無事に列車に乗り移り、3両目に踏み込もうとしている所だった。
(「ダメだよなぁ‥‥一応、非常勤とはいえ無賃乗車する教師なんて‥‥」)
 なんて事を考えていたら、ふと奏は盗んだバイクで駆け回った15の夜を思い出してしまった。
(「‥‥時効だよな?」)
 さらにそんな事まで考えていると、
「と〜っ!!」
 シエラが威勢のいい掛け声と共に3両目のドアを開け、突入を開始した。

 3両目は電気が荒れ狂う空間と化していた。
 車両の奥では大型のスライム型キメラが半ば床に埋まるような形で盛んに放電を続けている。
 どうやら床下に通じる戸を開け、そこから機関部と繋がって動かしているようだ。
 そして侵入者である4人にもすぐに気づいたのか、いきなり電撃を放ってきた。
「ぐっ!」
「うわっ!!」
 その電撃は前衛を勤めていたカルマと薙に命中。
 カルマは比較的軽傷であったが、薙は水属性のフライトジャケットを着ていたため、想像以上のダメージを負ってしまった。
「お仕事の邪魔はさせませんよ〜っ!」
 負けじとシエラもすぐに反撃。
 まずは普段使用しているアサルトライフルを掃射した後、念のため持ってきた火属性のアサルトライフルに持ち替えて撃ってみる。
 すると、どちらもダメージは与えたものの、最初の弾はスライムの表面で威力が減衰した感じだったが、後の弾はスライムの身体を炭化させ、ボロボロと崩れさせた。
「こっちの方が効くみたいですねっ」
「やっぱり火が弱点か。なぁ、スライムは燃やしてもいいか?」
「どうやってですっ?」
「これでさ」
 奏が取り出したのはアルコール濃度99%のスブロフだ。
「スブロフは貧者の爆弾だよ。即席火炎瓶だ」
「それなら俺も持ってきている」
 カルマも同じようにスブロフを取り出した。
「お、奇遇だな。考えてた事は同じだったって訳か。じゃ、試してみるが。いいよな」
 室内では類焼の危険があるため一応確認をとると、誰も反対するものはいなかった。
 奏はスブロフで手早く即席の火炎瓶を作るとカルマのライターで火をつけ、カルマと同時投げつける。
「‥‥燃えていろ!」
 瓶はフォースフィールドに阻まれたが、中のスブロフはスライムにかかると引火し、スライムの表皮を焼き上げた。
「それなりに効いているようだ」
 身悶えるスライムを見て、奏は頷く。 
 そこからさらに追い討ちをかけるため、薙が覚醒反応により赤い鱗で覆われた腕で夕凪とイアリスを抜きソニックブームを撃ち放つ。
「はぁ!!」
 不可視のソニックブームはその衝撃波で進路上の座席をも傷つけながらスライムの身体をズタズタに切り裂き、飛び散らせた。
 しかし、すぐにぐにょぐにょと蠢いて元の形に戻ろうとし始める。
「フニャフニャして手応えがないですね‥‥シャキッとしなさい!」
 遠距離からの攻撃では埒が明かないと判断した薙は戦術を素速く近付き斬りつけ、また素速く距離をとるヒットアンドアウェーの近接攻撃に切り替えた。
 そして薙に続いてカルマもスライムに接近、右手の刀でスライムを切り裂くと、その傷跡目掛けてショットガンを打ち込んだ。
 火の属性を付与された散弾を身体の奥の隅々にまで撃ちこまれたスライムは、徐々に全身を変色させ、ボロボロと崩れ落ちていった。
「退治できたの?」
 薙が警戒しながら床下に繋がる穴を覗くと、まだ少量のスライムが機関部に取り付き放電を続けている。 
「意外としぶといな」
 奏はもう一本火炎瓶を作ると機関部に叩きつける。
 すると、スライムは炎から逃げるように機関部から剥がれた。
 そして剥がれたスライムも無事退治し、機関部はようやく動きを止めた。
「コンダクターよりB班へ。こちらのスライムは掃討した。これから運転席へ行ってブレーキをかける。以上」
 4人は奏がB班に無線機で現状を伝え終わるのを待って2両目に突入した。
 そして、2両目でうようよと蠢いている6匹の小型スライムを目にする。
「‥‥コンダクターよりB班へ。まだちっこいのが残ってた。ブレーキをかけるのはもう少し後になりそうだ。以上」
 奏はおもむろに無線機のスイッチを入れると訂正した。



 奏の訂正の無線を受けたB班は、その頃ようやく乗客の説得を終え、反撃を行うところだった。
 一旦、真帆を後ろに下がらせ、近くまで接近していた小型スライム2匹を凛が『疾風脚』を発動させながら足に装備した刹那の爪で蹴っ飛ばす。
「これ以上近づかせないっ!」
 その間に真帆は武器をスコーピオンに交換し、凛が蹴飛ばしたスライムに銃弾を叩きつけて潰してゆく。
 そうして空いたスペースにアズメリアが斬り込んで行き、大きく振りかぶったフランベルジュで小型スライムをまとめて斬り飛ばす。
 火属性のフランベルジュに斬られたスライム達はぶすぶすと煙を上げながら身体を変色させて崩れていった。
「時間がないんだから、さっさと終わらせてもらうわよ」
 アズメリアの後に続いて氷雨も7両目に突入。手近にいた小型スライムにショットガンを打ち込み、さらに刀で切り刻む。氷雨に狙われたスライムはほとんど原型を留めぬ程ズタズタにされていった。
 そうしてほとんど小型スライムが駆逐した時点でアズメリアは目標を大型スライムに変え、一直線に突き進んでゆく。
 もちろん、スライムからは電撃が放たれてくるが、アズメリアはフランベルジュを眼前に盾のようにかざし、電撃の痛みを歯を食いしばって耐えながら一気にスライムに肉薄。
「くらえぇぇーー!!」
 『両断剣』を発動させ、赤い燐光を纏ったフランベルジュを大上段に振りかぶり、赤い剣線を引きながらスライムを叩っ斬った。
 アズメリアの渾身の一撃を受けたスライムは、その衝撃でバラバラに弾け飛び、破片を炭化させながら崩れ落ちてゆく。
 そして4人がスライムの掃討し終えるのに合わせたかのように
『危ないですから、手すりか何かに捕まってて下さい!!』
 と、妙に切迫した薙の声で列車内にアナウンスが響いた。



 少し時間は遡り。
 2両目の小型スライムを手早く片付けたA班は1両目の運転室に飛び込んだ。
 運転室の運転台には、やはりスライムがべったり取り付いて放電していたが、奏が最後の即席火炎瓶で焼き、怯んだところを剣で排除した。
「さぁ、止めますよ〜っ♪」
 そしてシエラが妙に楽しげに非常ブレーキに手をかけた所で、薙が手近に車内放送用のマイクがある事に気づき、慌てて叫んだのである。
 薙がまだ覚醒状態であったのは幸いであった。

 キキーーーーッ

 そして列車は甲高いブレーキ音を響かせて停止した。
  



「みなさ〜んっ、もう大丈夫なのでゆっくりと降りてください〜っ♪」
 シエラの先導されながら乗客がぞろぞろと降りてくる。
 乗客の顔には皆一様に安堵と歓喜が浮かんでいた。
「大丈夫ですか? 傷の手当てを行いますっ! 怪我をしている方は言って下さいね」
 列車の脇では凛が怪我人を集めて治療を行っている。
 怪我人自体は少なかったようだが、気分が悪くなった者、安心感から倒れてしまった夫人など、様々な人が集まっていた。
 そして線路脇では真帆が跪き、手を合わせ、窓から飛び降り死亡した乗客や、スライムに取り込まれて死亡した運転手や車掌のため、静かに黙祷を捧げるのだった。