●リプレイ本文
中国、遼東半島南東部の台子山。
その上空をUPCのKVが何機も飛び交い、断続的に爆撃で行っていた。
しかし投下されるフレア弾や爆弾はレックスキャノンの対空拡散プロトン砲の無数の光に貫かれて爆散し、空に幾つもの爆炎のを作り出していた。
その頃、山から500mほど離れた海面に8機のKVが顔を覗かせ、そのまま海岸に上陸を果たした。
ここまでは作戦通りに進行している。
だが作戦開始前には一つ大きな誤算があった。
それは狐月 銀子(
gb2552)が間違えてフェニックスで作戦に参加してしまった事だ。
幸いビーストソウルもあったので乗り換える事はできたが、武装はH12ミサイルポッドしか搭載しておらず、銀子はそれだけで戦わなくてはならなかった。
「ヒュー、派手にやってるねぇ〜」
山の頂上で絶え間なく光と爆炎が炸裂する光景にテンタクルスに乗るジュエル・ヴァレンタイン(
ga1634)が軽い口調で口笛を吹く。
「大型長距離砲での砲撃か? 戦術というのは時代を超えて不変なんだな」
アルバトロスに乗る榊兵衛(
ga0388)が頂上の砲台を見ながら呟く。
「今作戦は時間との勝負。速やかに作戦を決行するぞ」
テンタクルスに乗るシリウス・ガーランド(
ga5113)が皆を促す。
「了解。じゃあブリーフィング通り、全機ブースト機動で一気に山頂へ突入だね!」
ビーストソウルに乗る荒巻 美琴(
ga4863)が作戦を確認する。
「了解です。何時でもどうぞ」
ビーストソウルに乗る鏡音・月海(
gb3956)が少し緊張気味に応えた。
「‥さてさて‥忍さんのデビュー戦、派手にかますとしますかっ!」
霞倉 忍(
ga8226)は今回が初任務にも関わらず、うきうきと興奮した様子でアルバトロスの操縦桿を握る。
そして平坂 桃香(
ga1831)の真新しいアルバトロスが一番前に進み出てブーストを起動。
「行きます!」
最大加速で一気に山の稜線を駆け上がる。
残りの7機も次々にブーストを起動して後に続く。
山の上で8機のKVに気づいた敵はTWとゴーレムが向きを変え、迎撃体勢をとり始めた。
しかし敵が砲撃を始める前に桃香のアルバトロスがスモーク・ディスチャージャーで煙幕を張る。
「早くこの中に!」
「サンキュー桃香ちゃん」
少し遅れて来たジュエル、榊、忍が煙幕の中に飛び込んだ。
「体勢を低くしろ!」
榊がそう告げた直後、TWのプロトン砲による砲撃が開始された。
山頂から幾筋もの超高熱の光線が照射され、4機の周囲で光が地面を融解しながら深く抉ってゆき、巻き上げられた土や石が機体に降り注いでガンガンと叩く。
そして4機は煙幕とまだ距離があった事が幸いしてTWの砲撃を完全に凌ぎきったのだった。
しかしTWに続いてゴーレムがスナイパーライフルで発砲。
飛来したライフル弾がジュエルのテンタクルスに突き刺さった。
「くっ! 桃香ちゃん、忍ちゃん、俺の後ろに隠れろ!」
その衝撃をコクピットで感じながらもジュエルは愛機の装甲を信頼し、敢えて2機の前に立ちはだかって盾となると、続く3発のライフル弾も受け止めた。
「ジュエルさん! 大丈夫ですか?」
「あぁ、俺のテンタは陸上でも元気だからな」
ジュエルは桃香には見えないがサムアップして笑ってみせた。
しかし実際には今の攻撃で3割近いダメージを受けていた。
「砲撃が一旦止まっている今が好機だ。行くぞ!」
「了解!」
4機は再びブーストを発動させると一斉に煙幕から飛び出し、山頂を目指した。
ただし軽量な装備で行動力を上げてある桃香のアルバトロスだけは道を反れ、横から回り込むように山頂を目指す。
正面から突入する3機には再びTWがプロトン砲を照射してくる。
今度は煙幕もなく距離も近い。
CWの影響を受けている3人は避ける事ができず、それぞれのKVの装甲がたちまち融解し、機体各部で小爆発が起こる。
「胸部装甲融解? うわっ、機体ダメージがもう4割超えてる!」
「怯むな霞倉! 止まったらますます敵の餌食となるぞ。構わず進め!」
榊は忍を鼓舞し、先陣に立って突き進む。
そこにゴーレムが銃を構えて発射。
だが放たれたのはライフル弾ではない。
放物線を描いて飛んでくるその物体はグレネード弾だ。
「いかん! 散れ!」
咄嗟に榊が指示を飛ばしたが遅かった。
グレネード弾は3機のKVのほぼ中心で爆発。
爆発の熱がKVを焼き、衝撃がコクピットを揺さぶり、飛び散った散弾が機体各部に喰い込んでゆく。
この二連続の攻撃により、3機は深いダメージを受けた。
「くそっ! このままじゃマズイぜ‥‥」
特にジュエルのテンタクルスのダメージは深刻だ。
装甲は完全に溶け落ちて内部機構は剥き出し状態。
コクピットのダメージランプはほぼ全て点灯。警告音がずっと鳴り響いている。
各部の関節にも異常があり、機動に支障が出ている。
正直、今は立って動いていられるのが奇跡に近い状態だ。
一方、別行動をとった桃香はゴーレムの狙撃を受けていた。
放たれるライフル弾が装甲を貫き、機体を抉る。
だが桃香は構わず頂上を目指す。
「‥‥見えた!」
そして遂に大型長距離砲の脇に鎮座するCWを視認できるだけの距離にまで接近した。
桃香はすぐにCWを照準に捉えてトリガーを引く。
「当たれ!」
20mmバルカンが曳光弾の光を伴って向かって飛び、CWに着弾する度にゲル状の体液が飛び散ってバラバラになってゆく。
桃香はそのまま2体目のCWもバルカンで蜂の巣にすると、ずっと頭の奥で響いていた痛みがスッキリと晴れた。
「CW破壊完了。突入して下さい!」
「よし行くぞ!」
それに合わせて残りの3機も突入。後続の4機も射撃を始める。
「さて、この【興覇】を初陣か。名前負けせぬように存分に働かなくてはな」
榊はゴーレムに向かって駆け出し、量産型機槍『宇部ノ守』を構える。
ゴーレムはすぐにスナイパーライフルを向けて撃とうとしたが、
「遅いっ!」
先に榊の振るった宇部ノ守がライフルを切り裂いた。
「破っ!」
ゴーレムはライフルを捨てて剣を抜いたが、その隙に榊が宇部ノ守で刺し貫く。
だが、ゴーレムは宇部ノ守が刺さったまま剣を大上段に振りかぶって斬りかかってくる。
榊は宇部ノ守をすぐに引き抜き、頭上に掲げて受けたが、ゴーレムのパワーに押されて剣は肩部に喰い込んだ。
「っ! やはり【忠勝】と同じようにはいかぬか‥‥」
普段使用している雷電の【忠勝】ならゴーレムと互角以上の戦いも出来るが、このアルバトロスの【興覇】ではゴーレムといえども強敵だ。
しかも今の【興覇】はプロトン砲とグレネード弾を受けて疲弊している。
「だが、足りぬ力は技で補う!」
榊は機体を反らして剣を抜くと、宇部ノ守で受け流してゴーレムの体勢を崩し、20mmバルカンで牽制しながら一旦間合いを開け、スラスターライフルを連射。
装甲に穴が穿たれたゴーレムがよろける。
だがそこにもう1体のゴーレムが剣を抜きながら接近してきた。
「くっ! 2対1か‥‥」
しかし支援にきたゴーレムには90発ものミサイルが雨の様に降り注ぎ、無数の爆発に包まれた。
それは銀子のビーストソウルがH12ミサイルポッドで行ったなけなしの攻撃だ。
「こっちに良い女が居るってのにつれないわね〜」
ミサイルを撃ち尽くした銀子には既に武器はなかったが、ゴーレムを挑発して誘き寄せる。
ゴーレムは向きを変え、銀子に剣を振るってきた。
銀子は両手で身を庇ってどうにか耐えるとゴーレムを殴りつける。
しかしその攻撃はFFに阻まれ、かすり傷しか負わせる事はできなかった。
だが銀子はそれでも攻撃を止めない。
(「今の私には敵を引き付けて耐えるぐらいしかできなからね‥‥」)
ジュエルは桃香と共にRCに接近し、試作型電磁ナックルをRCの腹に叩き込んだ。
RCの腹部が大きくへこみ、口から体液が吐き出されてくる。
「今だ桃香ちゃん!」
「はい!」
その隙に桃香はアルバトルスの肩部に装着されているソードウィングを閃かせて、RCの足を斬り落とし、腕を切断し、腹を裂き、首を斬る。
「これで、トドメだっ!」
ジュエルも半分繋がっただけの首にソードウィングを叩きつけるように振るい、斬り飛ばして息の根を止めた。
「よし! この調子で次々倒していこうぜ桃香ちゃん」
だがジュエルが次のRCに機体を向けた直後、横合いからTWが生体バルカン砲を放ってきた。
「くうっ!」
ジュエルはなんとか避けようとしたが、既に限界まで酷使されていたテンタクルスは思い通りには動かずバルカンが直撃。
着弾する度に機体が跳ねて各部が吹っ飛び、コクピットにまで被害が及ぶようになる。
「ジュエルさん! 危険です。早く脱出して下さい!」
「ゴメン、桃香ちゃん。後は頼む!」
ジェエルは桃香に謝ると脱出ポットで離脱。
やがて動力部を破壊されたテンタクルスは爆発、炎上した。
月海がレーザーガトリング砲をTWに向けてトリガーを引く。
高速回転をする砲身のドラムから発射された無数の光がTWに突き刺さり、装甲に次々と穴を穿ってゆく。
「火力と装甲が自慢の厄介なお客さんにははやいとこ退場してもらわないとね!」
続いて美琴が長大な135mm対戦車砲を抱えるように構えると、TWに向かって発射。
火薬が炸裂する重低音と共に反動がズンとコクピットに響き、135mmの砲弾が飛ぶ。
しかし砲弾はTWの甲羅の曲面で弾かれて後方に反れ、TWの装甲には傷一つつかなかった。
「えぇっ!? いったいどれだけ厚い装甲なの?」
「美琴様、TWは知覚武器でないと効果が薄い様です。ここは私に任せて他の人の援護をお願いいたします」
「うん、ゴメン。TWは頼むよ」
美琴はTWは月海に任せると自分はゴーレムと戦っている榊を援護を始めた。
「さあ、いくよ! 相棒!」
同じTWに今度は忍が機爪『焔魔』を突き立てるが、それも弾かれ、逆に『焔魔』の爪の方が欠けた。
「こいつ硬過ぎっ! でも、これならどうだっ!!」
忍は怯まず至近距離から高分子レーザー砲を発射。
照射されたレーザーはTWの装甲を易々と貫き、傷跡から体液が噴き出す。
しかしその攻撃に耐え切ったTWは生体バルカン砲を忍のアルバトロスに発射。
「まずい!」
忍を咄嗟に焔魔で身を庇ったが、プロトン砲で装甲を融解され、グレネード弾で傷を負った機体では防ぎきれるものではなかった。
放たれた無数の弾丸が頭部に喰い込む、肩部を貫いて腕が落ちる、大腿部を貫き、足をへし折り、胴体部には無数の穴が開き、キャニピーを破ってコクピットに飛び込んだ弾丸は跳弾して忍の身体も傷つけていった
そしてボロボロになった忍のアルバトロスは立っている事すらできなくなり、その場に横倒しになった。
「くそっ‥‥初陣がこんな結果になるなんて‥‥」
目に入った血のせいで赤く染まった視界の中で忍は悔しげに呻くと脱出レバーを引く。
コクピット周辺で爆発ボルトで点火し、脱出ポットが後方に向けて射出された。
「忍様!」
月海はレーザーガトリング砲をTWの1点に集中して装甲を融解させ、そこにBCハープンを打ち込み、体内で炸裂させた。
それでもまだTWは生きており、バルカン砲を放ってくる。
「想像以上にタフな生き物ですのね」
月海はバルカン砲に晒されながらもスパークワイヤーをまだTWに突き立っているBCハープンに絡め、TWの体内に電流を流し込む。
そうして動きを鈍らせ、レーザーガトリング砲を乱射してトドメを刺した。
「陸に上がったとしても人魚の力、あまり甘く御見にならないで下さいね」
一方、ゴーレム相手に意外な苦戦を強いられていた榊だが、そこに美琴の援護射撃が加わり、戦車砲の直撃を受けたゴーレムが体勢を崩す。
「制っ! 闘っ! 破ぁっ!」
その隙に榊は旋回させた宇部ノ守の石突きで頭部を殴打し、刃で胸部を切り裂き、傷跡に刀身を突き入れた。
宇部ノ守がゴーレムを貫通し、刃が背中を抜ける。
「どうだっ!」
しかしゴーレムは剣を捨てるとそのまま榊のアルバトロスの両腕を掴んだ。
「こやつ何を?」
榊がゴーレムを振り解こうとした直後、機体に衝撃が走った。
「何っ!?」
見ると、もう一体のゴーレムの剣がアルバトロスの肩から背中にまで喰いこんでいる。
そのゴーレムの更に後ろには倒れ伏した銀子のビーストソウルが見えた。
ゴーレムの剣はそのまま背中から腰を抜け、アルバトロスを両断。
「ぬかった‥‥」
榊は悔しげに呻いて脱出装置を起動させた。
「このぉ!」
美琴はまだ宇部ノ守が刺さっているゴーレムに戦車砲を叩き込んで完全に機能停止させる。
「ここでボクが頑張る分だけ他の人が楽になる!!」
そして水中用ディフェンダーを抜き、もう1体のゴーレムを迎え撃った。
その頃、桃香はRCの懐に飛び込んでソードウィングで腕を斬り落とし、腹を十字に切り裂き、首を抉った。
しかしRCは腸を引きずりながらも爪で桃香のアルバトロスに掴みかかって抑えると、その巨大な顎と牙で噛み付いた。
「この、離せっ!」
桃香は強引に引き剥がそうとしたがビクともしない。
「歪んだ生を受けた者共よ。闇へ還るがいい」
そこにシリウスが高初速滑腔砲をRCの頭部に撃ち込んで破砕し、桃香を助ける。
「大丈夫か?」
「はい、何とか‥‥」
しかしアルバトロスは既に左半身と片腕を噛み砕かれた状態になっていた。
(「このままじゃやられる‥‥。なら、せめて砲台だけでも!」)
桃香はそう決断すると砲台の裏に回り込み、ソードウィングで砲台の装甲を削り始めた。
1撃、2撃、3撃。
そして4撃目で装甲に穴が開く。
「やった!」
だがそこで桃香を追いかけてきたRCがプロトン砲を発射。
桃香のアルバトロスが光に包まれ、全身が徐々に融解してゆく。
「しまった‥‥誰かトドメを!」
そして桃香が脱出装置を起動させた直後に爆散した。
「このぉ! 潰れろぉーー!!」
シリウスは桃香の開けた穴にありったけの滑腔砲を撃ち込んでゆく。
やがて大砲の砲等や隙間などから炎があがり、内側から爆発を起こして吹っ飛んだ。
「よしっ!」
だが敵はまだ4体も残っている。
対してこちらはシリウスは無傷だが、美琴と月海の乗るビーストソウルは中破している。
「‥‥撤退する。我と鏡音で援護する。荒巻はその間に脱出ポットを回収しろ」
これ以上の戦闘続行は不可能と判断したシリウスが2人に告げる。
「‥え?」
「りょ、了解」
一瞬戸惑った二人だったがすぐに行動を始めた。
シリウスはRCを狙撃して気を引き、月海はレーザーガトリングでゴーレムを足止め。
美琴はグレネードでTWとの間に爆炎を張り、その間に脱出ポットを回収した。
「全速離脱!」
逃げる際に殿を務めたシリウスがRCのプロトン砲を受けたが、全員無事に離脱を果たした。
こうして傭兵達は台子山の大型長距離砲の破壊には成功したものの、敵の殲滅は果たせずに撤退を余儀なくされたのだった。