タイトル:ヒューストン司令部突入マスター:真太郎

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/07 02:11

●オープニング本文


 ヒューストン市内の敵戦力をほぼ掃討したヒューストン解放戦線の部隊は敵が司令部として使用している屋内競技場をKVと戦車で幾重にも包囲していた。
 本来ならすぐにでも突入するか、施設の破壊を行うところなのだが一通の通信文がそれを阻んでいた。
 その通信文は

『ゲームをする。そちらは8人くらい中に入れ。万が一そちらが勝てばこの町は譲る。負ければ町中に仕掛けた爆弾を爆破した後で皆殺す。ゲームを拒否した場合も同様。なお、この建物内には民間人と捕虜の兵士がいる。こいつらも殺したいならこの建物ごと破壊すればいい』

 そんな一方的な内容が書き綴られていた。
「こんなものは罠か時間稼ぎに決まっています! 司令、すぐにでも攻撃許可を下さい」
 戦車隊の隊長は前線司令官のルイス・バロウズにそう進言したがルイスは許可を出さなかった。
 確かにこの通信文は罠や時間稼ぎの可能性が濃厚である。
 だが相手はリリア・ベルナールの親衛隊を務めるトリプル・イーグルの小野塚 愛子である。
 生身の彼女の力量に関しては能力者と4対1で戦ってもかすり傷しか負わせる事ができず、KVとの戦闘もやってのけたとの報告がある。
 もし彼女が本気を出せば能力者はともかく、ここにいる兵士達は本当に皆殺しにできるだろう。
 それならば室内という限定された空間に少数の精鋭を送り込んで対処した方が有効であるかもしれない。
 それに市内に仕掛けられたとされる爆弾もその規模が分からない以上、無視する事はできない。
 街は人々が生活を営める環境が整っていてこそ街であり、もしその全てが瓦礫の化したなら、それは既に廃墟か荒野にすぎない。
 それでは戦略的価値は激減し、ここに到るまでに払ってきた数々の犠牲が無に帰してしまう。
「本当に市内に爆弾が設置されているなら放置はできません。現在歩兵部隊に全力で捜索させていますが、その時間も必要です。ここはひとまず傭兵部隊を中に送り込んで様子をみたいと思います」
 ルイスは戦車隊の隊長を説得すると傭兵達の元に向かい、現状を説明した。
「これはおそらく罠でしょう。ですが民間人と捕虜が捕らわれ、市内を爆破すると言われた以上は受けないわけにはいきません。また危険を承知でお願いする事になってしましましたが、よろしくお願いします」



 競技場内への潜入班に選ばれた傭兵達は周囲を警戒しながら慎重に屋内を進んでいった。
 今のところ罠や待ち伏せ等の気配はない。
 そうして奥に向けて進んで行くと、やがて前方にバスケットボールのコートが見えてきた。
 よく見ると奥側のゴール下にはパイプ椅子に座った小野塚 愛子の姿があった。
 愛子の後ろには全長4メートル以上ある漆黒の大犬型キメラが寝そべっている。
 そして愛子の目の前にはまるでボウリングのピンに頭と手足をつけた様な3メートル近い巨体なマネキン型キメラが6体いた。
「このマネキンを全て倒せたらそっちの勝ちよ」
 愛子は前置きもなくいきなり説明を始めた。
「ただし」
 愛子は椅子から立ち上がると持っていた身の丈ほどもある大剣で目の前の大型マネキン型キメラを頭から股間まで一気に斬り裂き、部屋の隅に蹴り飛ばした。
「倒すと爆発する」
 愛子の言葉通り、部屋の隅のマネキンは大爆発を起こして粉々になった。
「その3体のマネキンには捕虜が入ってる」
 ボウリング型マネキンの胸部が開き、そこから髭面で衰弱した兵士が顔を覗かせる。
「ぅ〜〜! ぅ〜〜!!」
 兵士は何かを必死に訴えてきたが、猿ぐつわが噛まされているため呻き声しか上げられない。
「こっちの2体は‥‥」
 愛子が僅かに口元を綻ばせ、残りの2体の胸部を開かせる。
 すると中にはまだ少女と言っていい年頃の女の子が入っていた。
 少女達も兵士と同じ様に猿ぐつわを噛まされていたが、兵士と違ってその顔には暴行を受けたかのような痣が色濃く残り、その表情には恐怖と怯えが浮かんでいる。
「この2人はあたしの元クラスメート‥‥。そして屑で虫けら以下の汚物同然に腐った人間の代表」
 愛子は侮蔑の眼差しを2人の少女に向けた。
「このアメリカでかつてのクラスメートと出会えたのは幸運だったわ。あたし、こいつらに昔あたしが受けた仕打ちを全て返してあげたの。そうしたらこいつら何て言ったと思う? 『止めて、助けて、お願い許して』よ。ホント‥‥‥‥‥‥反吐がでるわっ!!」
 愛子が憎々しげに吐き捨てる。
「そのセリフはどれもあたしが何度も何度も何度も何度もこいつらに訴えたセリフよ。泣いて頼んだわ。靴だって舐めた。なのにその時こいつらはあざ笑うだけで止めようとはしなかった。なのにいざ自分が同じ仕打ちを受ける番になったら恥も外聞もなく同じ事を言うのよ。そんな事が許されると思う? 許される訳ないわよね! 許される訳ないわっ!! あたしはこいつらを絶対許さない!!」
 激昂した愛子が叫ぶ。
「‥‥それであたし考えたの。どうしたらこいつらが一番哀れで惨めな絶望を味わうかって‥‥。そして思いついたわ。それは自分達を助けに来たはずの人間に殺される事じゃないかって‥‥」
 何時になく饒舌だった愛子が傭兵達に向き直る。
「さぁ、ゲームを始めましょう。こんな生きてる価値なんて微塵もないゴミみたいな女とこの街。どっちに価値があるか考えるまでもないいわよね」
 愛子の合図で5体の大型マネキン型キメラは一斉に傭兵達に襲い掛かってきた。

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
弓亜 石榴(ga0468
19歳・♀・GP
時任 絃也(ga0983
27歳・♂・FC
新居・やすかず(ga1891
19歳・♂・JG
翠の肥満(ga2348
31歳・♂・JG
霧島 亜夜(ga3511
19歳・♂・FC
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
狐月 銀子(gb2552
20歳・♀・HD

●リプレイ本文

「‥‥あ、やっと演説は終わり?」
 小野塚愛子(gz0218)の言葉をつまらなそうに聞いていた翠の肥満(ga2348)は向かってくる5体のキメラに向かってペイント弾を発射し、兵士の入っているキメラには青、少女のキメラには赤のマーキングを施した。

「正に命懸けの戦いって訳ね。これもまた面白! しかしこっちが命懸けなのに勝利の報酬が街一つ、ってのも渋ちんよね。オマケで愛子ちゃんが今後はメイド服を普段着にする、ってのはどう?」
 弓亜 石榴(ga0468)は小銃を構えたキメラに向かって走りながらも愛子にそんな提案をする。
「‥‥はぁ?」
 まさか戦闘中にそんな事を言われるとは想像もしていなかった愛子は呆気にとられた。
「‥‥確か、石榴って名前だったかしら?」
「あ、覚えててくれたんだ。嬉しいなぁ〜。って事はメイド服もOKって事だね。さすが愛子ちゃん!」
 石榴はそれだけで勝手に愛子が承諾した事にまでしてしまう。
(「この子を相手にすると何だか調子が狂うわ‥‥」)
 とりあえず愛子は石榴の事は気にしない事にした。


 レーザーライフルを持つキメラと相対した時任 絃也(ga0983)と狐月 銀子(gb2552)だが、人質に加えて爆発条件の分からないキメラを相手に攻めあぐねていた。
「下手に手を出して爆発、では洒落にすらならん‥。しかし手探り状態だ、その覚悟も必要か‥‥」
 時任は覚悟を決めてキメラの懐に飛び込んだ。
「チェッ! ボーリング・ピン相手なのにストライクを狙えないってのはツラいなっ!」
 人質と爆発の危険があるため胴体は撃てない翠の肥満は武器の無力化を狙ってレーザーライフルを狙撃した。
 ライフル弾が貫通したレーザーライフルはキメラの右手を巻き込んで暴発。
「今だっ!」
 その隙に時任は『瞬天速』を発動させて一気にキメラに跳びかかる。
(「爆発したらすまん!」)
 そして中の兵士に心の中で謝りながらエクリュの爪を振るい、キメラの首を跳ね飛ばした。
「どうだ‥‥?」
 着地した時任がすぐに距離を置いて様子を伺う。
 首を失ったキメラは何事もなかったかの様に腕から刃を伸ばし、銀子に斬りかかってきた。
「どうやら頭はセーフみたいね」
 銀子はファルクローで刃を受け止めて掴むとエネルギーガンを押し当て、0距離から放って腕を切断する。
 キメラは爪先からも刃を伸ばして蹴ってきたが、銀子はガッチリブロックすると、そのまま足を抱えて倒れないように支えた。
「今よ!」
「了解」
 時任はキメラによじ登り、背中を爪で引き裂いて抉じ開ける。
 そして中の兵士を引っ張り出すと、『瞬天速』で一気に離脱した。
「救出完了!」
「よし」
 銀子は抱えていたキメラの足を切断して転ばせると自分も距離をとった。
「‥倒れただけじゃ爆発しないわね」
 続いてエネルギーガンを下腹部に発射。
 それでキメラは爆発した。
「爆発するのは下腹部よ!」
「了解だ!」
「それさえ分かればこっちのものです」
 銀子の声を聞いた仲間達がそれぞれ相対するキメラの頭や手足を破壊して人質の救助に取り掛かり始める。
「‥‥何やってるの! それはルール違反よ!」
 しかし、それを愛子が黙ってみているはずがなく、大剣を構えて突っ込んできた。
「人質を助けてはいけないルールはなかったはずです」
 新居・やすかず(ga1891)は愛子の足を狙ってSMG『スコ−ル』で弾幕を張った。
 愛子は左右に跳ねて避けながら近づいてくるが、そのうち何発かが足に当たる。
 弾自体はFFで弾かれたものの、愛子は僅かに体勢を崩した。
「今だ!」
 その隙に霧島 亜夜(ga3511)はナイフを愛子の左側に投擲。
 その直後に『瞬天速』を発動させてナイフを追い抜き、愛子の右側からシルフィードで斬りかかった。
 シルフィードを避ければナイフに当たる一撃だ。
 しかし愛子はナイフは素手で払い、シルフィードは大剣で受けた。
「ちぃ!」
 亜夜は弾かれたナイフを空中で掴み取り、一旦距離をとろうとしたが、愛子は下がった亜夜にピッタリくっついてくる。
「このっ!」
 亜夜は剣の塚で側頭部を狙ったが愛子は屈んで避けて亜夜の懐にはいると、カウンターで亜夜の顔、顎、ボディを殴りつけた。
「ぐぅっ!」
 亜夜に鈍器で殴られたかのような衝撃が走り、身体がくの字に曲がる。
「亜夜さん!」
 新居は亜夜を救うべくスコーピオンで愛子の肩や肘を狙い撃つ。
 銃弾は剣で弾かれたが、その隙に亜夜は距離をとった。
(「くそっ! あんな細腕のくせになんて重いパンチを打ちやがるんだ? まるでハンマーだ」)
 亜夜はくらくらする頭を振って気を取り直す。
(「それにしてもトリプル・イーグルの一人が昔はいじめられっ子だったとはな。意外だぜ‥‥」)
 その事を知った亜夜は愛子の心の傷はなんとかしたい思いが芽生えたのだった。
「この前はすまなかったな。あの状況でお前を助けに来るとは‥リリアはすごい奴だ」
「‥‥あれだけ人を馬鹿にしておいて今更何言ってるの? 命乞いのつもり?」
「まぁいいから聞けよ。こいつらが助からなければいいって事は、お前がリリアに助けられなければ良かったって事か?」
「こいつらとあたし達を同列に扱うなっ!」
 激昂した愛子が一気に間合いを詰めて亜夜を力一杯殴打する。
「がはっ!」
 かろうじてブロックはしたものの、威力は殺しきれずに亜夜は壁まで吹っ飛んだ。
「くっ‥‥こいつらと同じことをしたらお前も最低な奴じゃねーか! リリアはこんな事させる為にお前を助けたのか?」
 血を吐き、満身創痍になりながらも亜夜は言葉を止めなかった。
「この事にリリア様は関係ない!」
 愛子は亜夜の顔面を鷲づかみ、後頭部を壁に叩きつけて気絶させる。
「既に昔受けた仕打ちは全て返したのでしょう?」
 だが亜夜の後を新居が引きついた。
「それ以上を望むなら、それは仕返しではなくただいじめ返しているだけです。いじめは常にいじめる側が悪いのですから、いじめられっ子を助けるのは当然でしょう? 大体貴女の言う『最低の屑共』と同じ事を仕返した時点で、貴女もその同類なんです」
 愛子はひどく冷たい眼差しで新井を見ると、一気に間合いを詰めてきた。
 新居は咄嗟にSMGを乱射したが、愛子は易々と弾幕を抜け、新居の両足をザックリと斬り裂いた。
「うっ!」
 足に力が入らなくなった新居はその場に膝をつく。
 だが新居は膝をついたまま近距離からスコーピオンで貫通弾を放つ。
 しかし愛子は易々と避けて腕を切り裂き、新居の手からスコーピオンが落ちる。
 そして新居を足蹴にして地面に伏せさせた。
「なんだか知った風な口をきいてるけど‥アナタ、いじめを受けた事はあるの?
 自分の机やロッカーをゴミ箱代わりにされた事がある?
 クラス全員から生ゴミ扱いされて物投げつけられた事は?
 服を切り刻まれて半裸同然で帰らされた事は?
 真冬にロッカーの中に次の日の朝まで閉じ込められた事は?
 腕や足にタバコやライター押し当てられた事は?
 バットで頭を殴られて失神した事は?
 泥の中に頭突っ込まれて髪洗われた事は?
 便器に顔突っ込まれて汚物を食べさせられた事は?
 嘔吐するまで腹を殴られた事は?
 首吊りごっことか言って首に縄かけられて絞められた事は?
 ある? あるの? ないでしょ? ないよねっ!
 アナタはコレと同じ事をされてもあたしと同じ事をしないと言える?
 これだけの事をされても同じ事を返しただけでアナタだったら満足できるのっ!?」
 愛子は憎悪を湛えた瞳で新居を見下すと斬れた足を踏みにじり、鳩尾を蹴り上げた。
「ぐはっ!」
 新居は苦痛と呼吸困難で身動きできなくなる。
 愛子は新居を冷たい瞳に見下ろすと、今度はキメラから少女を助けだそうとしていた石動 小夜子(ga0121)に襲いかかった。
「!」
 小夜子はとっさの盾で受け止めようとしたが、愛子は盾ごと小夜子を蹴り飛ばしてキメラから引き離す。
 そして吹っ飛ばされた小夜子が体勢を整える前に肉薄し、大剣で小夜子の身体を斬り刻んだ。
「あぅ!」
 巫女服が血で真っ赤に染まり、小夜子は膝をついて倒れそうになったが蝉時雨を床に突き立て、なんとか身体を支えた。
「石動!」
 小夜子を救うべくリヴァル・クロウ(gb2337)が愛子に斬りかかったが、アッサリと大剣に受け止められる。
「邪魔するなっ!」
 愛子はリヴァルにも縦横無尽に大剣を振るってきた。
(「なんて剣速だ」)
 受け止める事も避ける事も叶わないリヴァルは身を固め、なんとか急所にだけは当たるのを避けて耐えた。
 そして愛子の剣戟が止んだ隙に一旦距離をとる。
「‥‥何でそんな最低の屑どもを助けようとするの!? そんな奴ら死んで当然じゃない!!」
 愛子が敵意を剥き出しにしてリヴァルを睨みつけながら問いかけてくる。
「君や死んだワニキアのような人間を作らないためだ。そして、差し伸べられなかった君への手をもう一度差し出すためだ」
 リヴァルはそんな愛子を真っ直ぐに見詰め返しながらハッキリと告げた。
「はぁ、死んだワニキア? ‥‥笑えない冗談ね。アイツはあれでも強いのよ。あなた達に殺せる訳ないじゃない」
「名乗っておこう。リヴァル・クロウ、君がワニキアの存在を認めていたならば報復の対象となる人間だ」
愛子はリヴァルの言葉をまったく信じなかったが構わず話し続けた。
「それと、その方が面白だから」
 リヴァルに続いて石榴が口を挟む。
「だから愛子ちゃんの復讐方法はダメダメだね。人生も復讐も一度きりなんだから、もっと面白おかしくやんないと。
泣きそうな顔でやったって、ちっとも復讐になんないよ?」
「‥何を言ってるの、あたしはそんな顔なんてしてないわ」
「そっかな?」
「きっと貴方は気付いて居ないだけです‥。貴方に必要なのは、目をしっかり見開いて自分を見つめる勇気です」
 愛子の言葉に石榴と小夜子が異を唱える。
「‥‥」
 愛子は不快そうに二人を睨み返したが、何も言わなかった。
 そうしている間に二人の少女は時任と銀子が助け出し、翠の肥満がキメラの急所を撃ちぬいて倒し終える。
「ゲームはあたし達の勝ちよ。この街は返してもらうわ」
「‥‥中の人間もキメラの一部なのに倒してないじゃない。それじゃあ勝った事にはならないわ」
 愛子はそう言って上着のポケットから爆破スイッチを取り出した。
「!」
 一同に緊張が走り、翠の肥満が咄嗟にライフルを構えてスイッチに狙いを定める。
「その前に君に告げる事がある。ワニキアの最後の言葉だ。彼は‥持てる力を大地の再生と維持に使ってほしいと遺し死んだ」
「お前はワニキアの眠る地を爆破しちまうのか?」
「まだそんな戯言を‥‥」
 愛子はリヴァルと目を覚ました亜夜の言葉に反発したが、スイッチを押す手は止まった。
「それをしたら、貴方は後戻り出来なくなりますよ」
 小夜子は斬られた傷を押さえながら、敵意のまったくない澄んだ瞳で愛子を見つめて諭す。
「あたしは別に、こんなのがどうなろうと知ったことじゃないわよ。でもね‥あんたがやってるのはさ、同じなのよ。あんたの慕う人は、弱い者を救ったのに、救われたあんたは弱い者を潰すこいつ等と同じ事をするわけね。それじゃ、あんたはリリアにはなれない! 力があるなら‥正面からあたし等を潰して見なさいよ!」
 銀子がハッキリと自分の言葉を告げる。
「‥‥勝手に誤解しないで欲しいわね。リリア様があたしを救ったのはあたしが弱いからではなく、あたしを必要として下さっているからよ」
 愛子はそう言うと爆破スイッチを銀子に向かって投げた。
「正面から潰される事がお望みなら次はそうしてあげる」
 愛子はそう凄むと一同に背を向けて歩き出す。
 部屋の隅に座っていたガルムも愛子に付き従う。
「愛子ちゃん。今度会う時はメイド服忘れないでねー」
 石榴が笑顔で愛子の背中に声をかける。
 世界広しと言えどもトリプル・イーグルの小野塚 愛子にこんな事を言うのは石榴ぐらいのものだろう。
「‥‥石榴、アナタがもしあたしと同じ境遇でも、そんな風に笑っていられる?」
 振り返って石榴にそう問うた愛子の横顔は、不思議と年相応の少女のものに見えた。
 そして愛子はそのまま一同の前から姿を消した。



「なんで逃がすのよ! 今すぐ殺してよ! でないと私達また狙われちゃうじゃない!」
 愛子のいなくなった室内で少女の一人がヒステリックに叫ぶ。
 銀子はその少女をキッっと睨みつけると

 パンッ

 その頬を叩いた。
「ぇ‥‥なんで?」
 叩かれた少女は信じられない様な顔で銀子を見る。
「仕事だから君達を助けはするけど‥あたしの正義は、あんた等も、小野塚も許さない‥」
 銀子はひどく冷めた目で少女を見返した。
「傷を見せてください。手当てをします‥‥」
 小夜子は自分の傷は後回しにして、その少女の傷の具合を診始める。
 愛子から受けただろう少女の暴行の跡は酷いものであったが、命に関わる様なものではなかった。
 そして愛子の話を聞こうとしたが、彼女達は何も話そうとはしなかった。
 しかしそれは、言えない様な酷い仕打ちをしてきた事に他ならないだろう。
「もし本当に酷い事をしていたのなら‥今度彼女に会ったら、きちんと謝りなさいね」
「無理よ。絶対に許してくれる訳ない‥‥」
 小夜子がそう諭しても少女達は怯えた様子で首を振った。
 そして何故愛子を虐めたのか尋ねると『そうしないと今度は自分が虐められるかもしれなかったから』と答えたのだった。





「ガルム、ワニキアを探して。あなたの鼻ならすぐ探せるでしょ」
 外に出た愛子はすぐにそうガルムに命じた。
 ガルムは鼻を巡らせて走りだし、愛子もその後を追う。
(「ワニが戻っていればこんな街すぐに破壊してたのに‥‥。アイツいったい何処で何してるのよ!」)
 そしてガルムが案内した場所はワニキアのSー01BCが自爆した所だった。
「なによコレ、バラバラじゃない‥‥」
 KVのパーツらしき物が散乱する現場を呆然と見ていた愛子にガルムが何かをくわえて持ってきた。
 それは乾いた血で赤黒く染まったバンダナだった。
「まさかワニの奴‥‥本当に死んだの?」
 愛子がそう呟くとガルムは悲しそうに小さく鳴いた。
「‥‥な、なによアイツ! 自分はあたし偉そうに色々言ってたくせに自分がやられてどうするのよっ! あたしの‥‥あたしの許可なく勝手に死ぬんじゃないわよっ!!」
 愛子は声を荒立たせ、目の前の建物を殴りつけた。
 愛子には今自分が感じている感情が、怒りなのか、悲しみなのか、それとも憎しみなのかさえ分からない。
 ただ激情に任せ、建物が完全に倒壊するまで殴り続けた。
「はぁ‥‥はぁ‥‥‥」
 もうもうと土煙が立ち込める中、愛子の荒い息遣いが響く。
「‥‥行くわよガルム。ここにはもう何の用もないわ」
 愛子はワニキアのバンダナをぎゅっと握り締めるとガルムを伴ってヒューストンの街を後にした。