タイトル:ヒューストンを覆う闇マスター:真太郎

シナリオ形態: ショート
難易度: 不明
参加人数: 9 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/09/05 11:36

●オープニング本文


 ヒューストン解放戦線軍の前線司令官であるルイス・バロウズ少佐は主だった士官と各隊の隊長、そして傭兵部隊をヒューストン空港の司令部に招き、今後の作戦行動の説明を行っていた。
「我々はこれまで何度となく偵察部隊を市内に送り込み、敵情の調査を行ってきました。その結果、敵の司令部をダウンタウンに設置し、その周辺に複数のキューブワームとマインドイリュージョナーを配備している事が判明しています。この2種の敵により、市内は強力なジャミングと幻覚物質に覆われ、能力者はその行動を大きく阻害されてしまっています。もしこのまま市内に攻めいったとしても能力者は満足に動く事もできず撃退されるだけでしょう」
 ルイスはそこで一旦言葉を区切り、ダウンタウンの戦術マップを取り出した。(下記参照)
「現在までの調査で判明したキューブワームとマインドイリュージョナーの位置がこれです。まずこれらを排除せねば我らに勝機はありません。しかし軍の歩兵部隊の装備ではこれらを破壊する事は叶いません。だからと言って能力者を送り込んでもジャミングと幻覚物質で満足に動けません。しかし歩兵部隊と能力者、この二つが手を携えれば不可能も可能になると私は考えます」
 ルイスが部屋にいる9人の兵士に目を向ける。
「彼らは隠密偵察部隊の中でも選りすぐりのスペシャリスト達です。右からアンドレセン(A)、ブレックス(B)、チェン(C)、ダリエロ(D)、エリー(E)、フクダ(F)、グレゴリー(G)、ハンス(H)、イザベラ(I)です」
 ルイスは簡単に紹介を終えると傭兵達の方を見た。
「傭兵の皆さんには彼らとコンビを組んでもらい、川の底を移動して市内に潜入してもらいます。もし視覚や身体に何らかの支障をきたしたときには彼らを自分の目や手の代わりとしてキューブワームとマインドイリュージョナーの破壊を行ってもらいます。無茶な作戦であるのは重々に承知していますが、現状ではこれ以上の策がありません。どうか我々に手を貸していただきたい」
 ルイスはそう言うと傭兵達に頭を下げた。



ヒューストン市内ダウンタウン戦術マップ

 0102030405060708091012131415161718192021222324252627282930313233
01|□□|□川|川□□|□□□□□□川|□|□|□||―|―|―|
02|□□|川□||川川||川川川川川川|□|□|□||□|□|□|
03□|―|―|―|―|―|――――|―|―――――||―|―|―|
04□|川|□|□|□|□|□□□□|□|□|□|□||□|□|□|
05―|―|―|―|―|―|――――|―|―――――||―|―|―|
06川|□|□|□|□|□|□□□□|□|□|□|□||□|□|□|
07―|―|―|―|―|―|――――|―M―――――||―C―|―|
08□|□|□|□|□|■|□□□□|□|■■■■□||□|□|□|
09―|―|―|―|―|―|――――|―|■■■■□||―|―――|
10□|□|□|□|□|□|□□□□|□|■■■■□||□|□□□|
11―|―|―|―|―|―|――――|―|■■■■□||□|□□□|
12■|■|□|□|□|□|□□□□|□|■■■■□||□|□□□|
13―|―|―|―|―|―M――――|□C―――――||―M―――|
14□|■|■|■|□|□|□□□□|□|□□|□□||□|□|□|
15―|―|―|―|―|―|――――|□|―――――||―|―|―|
16■|■|□|□|□|□|□□□□|□|□□|□□||□|□|□|
17―|―|―|―|―|―|――――|―|―――――||―|―|―|
18□|□|□|□|□|□|□□□□|□|□□|□□||□|□|□|
19―|―|―M―|―|―C――――|―M――――C||―M―|―|
20■|□|□|□|■|■|■■□□|□|□□■■■||□|□|□|
21―|―|―|―|―|―|――――|―|□□■■■||―|―――|
22■|■|□|□|□|■|□□□□|●|C●■■■||□|□□□|
23―|―|―|―|―|―|■□□□|□|□□■■■||―|―――|
24■|■|□|□|□|□|□□□□|□|□□■■■||□|□□□|
25―――|―|―|―――M――――|―C――――M||―C―――|
26■□□|□|□|□□□|□□□□|□|■■□□□||□|□|□|
27□□□|□|■|□□□|□□□□|●|■■□□□||□|□|□|
28□□■|□|□|□□□|――――――M――――C||―|―|―|
29□□□|■|□|□□□|□□□□|□|□□□□□||□|□|□|
30―――|―|―|―――C――――|―|―――――||―M―|―|
31□□□|□|□|□□□|□□□□|□|□|□□□||□|□|□|
32―――|―|―|―――|――――|―C―――――||―|―|―|
33□□□|□|□|□□□|□□□□|□|□|□□□||□|□|□|
34―――|―|―|―――|――――|―|―――――||―|―|―|

C :キューブブワーム
M :マインドイリュージョナー
― :道路
| :道路
||:高速道路
川 :川
● :公園
■ :高層ビル 及び 大型施設
(縦08〜12×横21〜24):野球場(主にHWの発着場)
(縦20〜24×横23〜25):大型展示場(主にゴーレムの格納庫)
(縦26〜27×横21〜22):競技場(バグアの司令部)

注:
このマップは3分の1に縮小してありますので、実際はこの3倍の広さです。
1スクエア内に3×3の9スクエアあると思ってください。


CWの位置

C1:(縦07×横29)
C2:(縦13×横20)
C3:(縦19×横13)
C4:(縦19×横25)
C5:(縦22×横21)
C6:(縦25×横20)
C7:(縦25×横29)
C8:(縦28×横25)
C9:(縦30×横13)
C10:(縦32×横20)


MIの位置

M1:(縦07×横20)
M2:(縦13×横13)
M3:(縦13×横29)
M4:(縦19×横06)
M5:(縦19×横20)
M6:(縦19×横29)
M7:(縦25×横13)
M8:(縦25×横25)
M9:(縦28×横20)
M10:(縦30×横29)


上陸ポイント

A:(縦05×横03)
B:(縦03×横10)
C:(縦03×横17)

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
周防 誠(ga7131
28歳・♂・JG
フィオナ・フレーバー(gb0176
21歳・♀・ER
レイヴァー(gb0805
22歳・♂・ST
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
ドッグ・ラブラード(gb2486
18歳・♂・ST
アンジェラ・D.S.(gb3967
39歳・♀・JG

●リプレイ本文

 CWの怪音波が飛び交いMIの幻覚物質が蔓延するヒューストン市内を流れる川より密かに上陸を果たす人影がった。
「あの時、あの男が残した言葉の意味とはこの事か‥」
 川の東側から上陸したリヴァル・クロウ(gb2337)は濃い怪音波による不快感に顔を歪ませながらヒューストン空港を奪還した際に敵が言い残した言葉を思い出していた。
 確かにこの状況では単なる力押しでの奪還は困難だろう。
「だが付け入る隙はある。同じ人間が相手ならば尚更だ」
「そうそう。敵もまさか生身でワームを潰しに来るとは思わないでしょうしね」
 フィオナ・フレーバー(gb0176)がリヴァルに同調すると、作戦前のおしゃべりで仲良くなったパートナーのエリーも『きっとビックリするわよ』と笑う。
「敵が慢心して油断している隙を突いてやりましょう。今回の仕事が終るまで俺の目は預けますので、よろしくお願いしますね」
 レイヴァー(gb0805)がパートナーのチェンは静かに頷いた。
「コールサイン『Dame Angel』、速やかにヒューストン市内のCW&MIを可能な限り排除するわよ」
 アンジェラ・ディック(gb3967)が作戦前に必ず行うコールサインと作戦の復唱を合図に8人は行動を開始した。



 川の西側から上陸した石動 小夜子(ga0121)、白鐘剣一郎(ga0184)、鳴神 伊織(ga0421)、周防誠(ga7131)は自分のパートナーを背負い、周囲を注意深く警戒しながらも出来る限りの速さで走っていた。
 しかしある程度進んだ所で不意に周防は味方が複数人に見え始め、剣一郎は味方がキメラに見える様になったため足を緩めた。
「とうとう影響が出たか‥この眼で走るのは危険だな。ここからは慎重に歩いて行こう」
「自分はこの程度では支障ありませんから先を急ぐ事にします」
「私もまだ行けそうです」
「ではここで分かれましょう。御二人ともお気をつけて」
 そこで剣一郎と小夜子、周防と伊織の二手に分かれた。

 だが、やがて伊織も居ないはずの敵が見える様になったため足を止めた。
「私もここからは歩きで行きます。先に行ってください」
「分かりました」

 伊織とも別れた周防はそのまま単独で最初の目標のMIの近くまでやって来る。
 その間に周防の視界も回復と変調を繰り返したが幸い行動に支障をきたす程ではなく、何度かキメラに遭遇したが全て無事にやり過ごせてきた。
 周防は『隠密潜行』で完璧に物陰に潜み、超機械『ブラックホール』を構える。
 MIの周囲では3匹の蜂型キメラが飛び交っているが狙いはMIだけに絞り、引き金を引いた。
 しかし放たれた黒色のエネルギー弾は明らかに威力を減衰してMIに着弾する。
「命中しました。しかしあまり効いていないようです」
 パートナーのフクダが状況を教えてくれる。
「そのようですね。自分の目は正常みたいですが、やはりこの状況では知覚武器は効果が薄いですか」
 周防は武器をスナイパーライフルに持ち代えて構える。
 スコープの先では攻撃に気づいた蜂が飛び回っているが、まだこちらには気づいていない。
 周防が慎重に狙いを定めて引き金を引いた直後、MIの体表が弾け、更に2連射すると完全に動かなくなった。
「撃破完了ですね。さ、長居は無用です。次に向かいましょう」
 周防は身を隠しつつその場を離れ、次の目標に向かった。



 その頃、MIとCWを順調に1体ずつ倒した近距離エリア担当の3人とアンジェラは次のMIの近くまで来ていた。
 4人はここまで様々な幻覚に囚われていたが、今はリヴァルがここにいない筈の恋人の姿が見え、アンジェラはいない筈の敵が見える様になっていた。
 なので視覚に異常のないフィオナとレイヴァーが物陰からMIの周囲を伺う。
「狼が3匹か‥‥。これは倒さないとMIも倒せそうにないわね」
「‥‥致し方ありませんね。やりましょう」
「では俺とアルで突入する。フィオナとアンジェラは援護を頼む」
「OK」
「任せて」
 フィオナが3人に『練成強化』を施し、アンジェラはスナイパーライフルD−713を構える。
「行くぞ」
 そして物陰からリヴァルとレイヴァー飛び出す。
 すると狼が二人に気づいて向かってきたが、その内の1匹がアンジェラの狙撃で眉間を撃ち抜かれた。
「よし、ちゃんと本物に当たったわね」
 フィオナもエネルギーガンで援護するが、こちらは効果が薄い。
「やっぱり知覚武器は威力が弱まっちゃうか‥‥」
 レイヴァーは『疾風脚』を発動させてから『瞬天速』で一気に狼に接近するとペルシュロンで腹を蹴り飛ばして動きを鈍らせ、
「せめて一息に」
 蛇剋で首を斬り飛ばす。
 最後にリヴァルがフィオナが弱らせた狼にトドメを刺した。
「よし、MIをやるぞ」
 そしてリヴァルがMIに月詠を向けたその時
「待ってリヴァル! 新手よ」
 フィオナが道の角から現れた2匹の狼を連れたマネキン型キメラを発見した。
「くっ、このタイミングでか‥」
「この状況では隠れてやり過ごす事は無理ですね」
 レイヴァーが再び『疾風脚』を発動させる。
「やるしかないわね」
 アンジェラは早速スナイパーライフルで狙いを定める。
「リヴァル、援護はしたげるからGOGO!」
 フィオナはマネキンに『練成弱体』をかけ、自分には『電波増幅』を行う。
「軽く言ってくれる」
 リヴァルはごちるとマネキンに突撃した。
 するとマネキンがリヴァルの動きにあわせてに剣を振り下ろしてくる。
 リヴァルは月詠を頭上に掲げて受けると、『流し斬り』で側面に回り込み、斬撃を見舞って腕を斬り飛ばす。
 マネキンは口を開いて何か攻撃を仕掛けようとしたが、その口内にフィオナがエネルギーガンを撃ち込み、マネキンの頭を吹き飛ばした。
「今よリヴァル」
「分かっている」
 リヴァルは『急所突き』でマネキンの弱点と思われる下腹部に月詠を突き立て、そのまま一気に斬り上げて胴体を真っ二つにした。
「これで片づきましたね」
 狼の方もレイヴァーとアンジェラが既に倒しており、4人は2体目のMIを破壊した。

 ここで近距離担当の3人はアンジェラと別れ、次のCWに向かう前にフィオナが近くの野球場外縁部の草木の上に
花火とウォッカによる仕掛けを作った。
「うまく誘き寄せられるといいんだけど‥‥」
 そう願いつつ火を点火。すぐにその場を離れた。
 しばらくすると背後で花火が時間差で派手に炸裂する。
 6人はすぐに物陰に隠れて様子を伺っていると、巡回中のマネキンが続々と集まり始めた。
「やったね」
「いたずら大成功」
 それを見たエリーが嬉しそうに親指を立て、フィオナも親指を立て返した。

 その後、近距離担当班は花火のお陰で比較的防衛の緩くなった周辺のCWとMIを破壊した。
 そして援護行動としてキメラを討伐しながらダウンタウンから撤退していった。



 一方、アンジェラが向かったCWの周囲には5体もの蜂が飛び回っていた。
「さすがに一人で5体は厳しいわね‥‥」
 しかし待っていても数が減る気配はなく、覚悟を決めるしかなかった。
「仕方ないわね。ここからCWだけ狙撃して、撃破後すぐに離脱するわ。イザベラ準備しておいて」
 アンジェラは身を潜めている場所からスナイパーライフルを構えてCWに狙いを定めた。
 そして『影撃ち』で『強弾撃』を放つと、CWに穴が穿たれてゲル状の物体が噴き出す。
 アンジェラはそのまま5発全弾撃ちこんだ。
 しかしアンジェラの頭痛は一向に緩まない。
「仕留め損ねた?」
 アンジャラは素早くリロードして更に撃ち放つ。
 それでCWは倒せたが、その間に蜂に見つかってしまった。
 アンジェラは向かってくる蜂も狙撃したが、2匹倒したところでまた弾が切れる。
 そこで武器をS−01に持ち替えて発砲したが、その間に蜂の1匹が上空で8の字を描き始めた。
「くっ!」
 すぐにその蜂も撃ち落したがHWは呼ばれてしまった後だろう。
「しくじったわ。イザベラ、HWが来る前に撤退するわよ」
 アンジェラは残りの蜂も掃討すると、イザベラと共にダウンタウンから走り去った。



 最初のMIを剣一郎と共に倒し、続くCWは偶然合流したドッグ・ラブラード(gb2486)と倒した小夜子が次に単身で向かったMIの周囲では5匹の狼が守りに付いていた。
「全て倒すしかないみたいですね」
 小夜子は覚悟を決めると『瞬天速』で一気に狼に肉薄して蝉時雨を縦横無尽に振るい、たちまち3匹の狼を斬り伏せた。
 だが次の瞬間、目の前の景色が砂漠に見える様になり、狼やMIの姿も見えなくなる。
「こんな時に!? ハンスさん、敵の位置を教えて下さい」
「右10度に1匹、左5度2匹‥いえ1匹は周り込もうとしています」
 小夜子はハンスの目と指示を頼りに戦おうとしたが、動きの早い狼相手では指示を貰ってから動いたのでは致命傷を与えるのは難しい。
 なので小夜子は刀を下げ、敢えて隙を晒した。
 狼は当然その隙を狙って小夜子に食らいついてくる。
「くっ‥‥」
 だが小夜子は食らいつかれた直後に刀を振るい、狼の首を斬り飛ばした。
 そうして2匹までは倒したが
「石動さん、一匹逃げます」
 残りの1匹が背中を向けて駆けだしてゆく。
「ハンスさん、私に腕を動かして狙って下さい」
 小夜子はS−01を抜いて構え、ハンスが狙いを定めた。
「オォォーーン!」
 しかし撃つ前に遠吠えで増援を呼ばれてしまう。
「ハンスさん、せめてMIだけでも倒します。狙って下さい」
「分かりました」
 小夜子はハンスの指示する方向にS−01を撃ち放ち、MIを破壊した。
「すぐにでもHWが来るはずです。ハンスさん、背中に乗って下さい」
 小夜子は背負ったハンスに目の代わりをしてもらいながら全力でその場から離れた。



 一番近くのMIは小夜子に任せたドッグはその先のCWに向かっていた。
 ドッグは『GooDLuck』のお陰かここまであまりMIの幻覚には惑わされておらず、今回も早期に狼や蜂を発見してやり過ごし、CWの元に辿り着く。
 CWの周りには狼が2匹と蜂が1匹いる。
 ドッグは拳銃『アイリーン』にサプレッサーを装着して蜂の頭に狙いを定めた。
「位置、高さを教えてください。一撃で仕留めます」
 そして念のためパートナーのグレゴリーにも狙いを定めてもらい引き金を引いた。
 しかし、この場に飛び交う濃い怪電波の中で決して命中率の高くないアイリーンに更にサプレッサーを装着して撃っても当たりはしなかった。
「くっ!」
 サプレッサー使ったお陰でまだこちらの位置はバレていないが、それも時間の問題だろう。
 ドッグはアイリーンをリロードするとその場から飛び出し、蜂との距離を詰めてから『影撃ち』を放つ。
 そして4発中2発を命中させ、なんとか蜂を撃ち落した。
 だがその間に狼が襲い掛かってくる。
 ドッグは咄嗟に蛇剋で牙を受け止め、アイリーンで近距離から眉間を撃ち抜く。
 しかし残りの一匹が距離を置き、
「オォォーーン!」
 と高らかに遠吠えを上げた。
「しまった!」
 ドッグは素早く駆け寄って蛇剋で首を裂き、頭を撃ち抜いてトドメを刺したがもう遅い。
 後1分もしない内にHWがやってくるだろう。
 ドッグは残る練力で限界まで『影撃ち』を放ち、貫通弾まで使ってCWを倒したがそれでも20秒経った。
「逃げます。しっかりつかまってください」
 ドッグはグレゴリーを背負うと全速力でその場から離れ、上空にHWがやって来てからは『GooDLuck』の恩恵を信じながら物陰に隠れて慎重に移動し、なんとかダウンタウンから無事脱出した。



 伊織は敵司令部の眼前にあったCWの破壊に成功し、続いて同じ道路の先にあるMIの近くまでやって来ていた。
 しかしMIの周囲にはマネキンを含む11体もの敵が待ち構えていた。
 おそらくは次々とCWとMIが破壊されているため警戒を強めたのだろう。
「どうですかミス伊織、いけますか?」
「‥‥難しいですね。流石にマネキンは一撃では倒せないでしょうから、全てを倒しきる前にHWを呼ばれてしまうかもしれません」
 しかもこの周囲にはまだ3体もCWが残っており怪音波の影響も強い。
 唯一の幸いは、今の伊織に見えている幻覚が体中にスライムが纏わり付くもので、気にしなければ何の問題もない事だ。
「しかしここで悩んでいても埒は明きませんね。突入してできる限り戦ってみますが、もしHWを呼ばれた時にはMIだけを倒してすぐ撤退してきます。ブレックスさんもその心積もりでいてください」
「了解した」
「参ります」
 伊織は潜んでいた瓦礫から飛び出すと全速で一番手前の狼に肉薄して斬り捨て、返す刀で次の狼を斬り裂き、空にいる3匹の蜂にそれぞれソニックブームを放つ。
 これで5匹。
 だがその隙にマネキンが斬りかかってくる。
 普段なら易々と避けられる攻撃だが、怪音波の濃いこの場では受け止めるので精一杯だった。
 だがマネキンの攻撃をしのぎきった所で袈裟斬りにして上半身を斜めに分断し、更に鬼蛍を振り下ろして下半身も真っ二つにする。
 そして襲い掛かってきた狼も返り討ちにし、最後の蜂も降下してきたところを斬り裂く。
 これで11匹。ギリギリ全て倒せた。
「見事ですミス伊織。すばらしい剣技だ。君以上の剣士などこの世にいまい」
 MIを倒して戻ってきた伊織をブレックスが褒め称える。
「いえ、私などまだまだです。純粋な剣の腕ならば私より白鐘さんの方が上のはずです」
「ほほぉ〜ミスター白鐘の方が上とは‥こんな凄腕剣士が二人もいるとは頼もしい」
「では次に向かいましょう」
「了解だ」
 続いて伊織は最後の目標のCWも破壊し、ダウンタウンから撤退した。



 川から最も遠い場所を担当した剣一郎は道中で様々な幻覚に見回れたものの、ダウンタウンの外縁を通ってきたためあまり敵にも出会わず目標まで辿り着けた。
 そしてCWやMIの周囲で防衛している敵を一撃で瞬殺し、次々と破壊していった。
 たとえ幻覚によって敵が見えなくなろうとも、パートナーのアンドレセンの指示と音と気配だけで敵の位置を把握して斬り捨て、上空の蜂はソニックブームを使った『天都神影流・虚空閃』で斬り落とす。
 そうして行く先々でキメラの屍を築き上げ、担当する全てのCWとMIを破壊し終えた。
「何とか任務完了だな」
「そうだな。しかしすげぇ腕前だな剣一郎。これじゃあ俺なんか出る幕なしだ」
「いや、俺は終始幻覚に囚われ続けていた。ここまでスムーズに事が進んだのは道中での君の経験に基づく的確な指示のお陰だ。ありがとう、協力を感謝する」
 剣一郎は礼を言ってアンドレセンと握手を交わすと共にダウンタウンを後にした。



 周防も様々な幻覚に悩まされつつも『隠密潜行』を駆使して物陰に潜み、時には公園の茂み、時にはビルの瓦礫の隙間、様々な場所からスナイパーライフルでCWとMIだけを狙う遠距離射撃で次々と破壊していった。
 そうして周防は一度も敵に自分の姿を晒すことなく自らの標的を全て破壊したのだった。
「ミッションコンプリートです。さあ撤退しましょう」



 こうして潜入部隊は9機のCWと10機のMIの破壊に成功したのだった。