●リプレイ本文
「大変なことに‥早くキメラを倒して、皆さんを助けなくては‥‥」
燃え盛る戦車と狼型キメラに襲われる兵士達を目の当たりにした石動 小夜子(
ga0121)は蝉時雨を抜き、まず手近な狼を斬り捨て、1歩踏み込んで首を跳ね飛ばし、更に踏み込んで胴体を斬り裂き、戦場を駆け抜けながら次々と3匹の狼を倒した。
「あんなに苦しそうに、なんて酷いことを‥‥バグアめ、絶対に許さない!」
サンディ(
gb4343)は腕を喰い千切られて悶え苦しむ兵士を目にし、怒りを瞳に宿してハミングバードを抜刀し、狼の群れの中に突入すると同時に『二連撃』を3連続で発動。
「一気に貫く!」
まずは目の前の狼の両目を狙って後頭部までの抜けるほど突きを放って倒し、そのまま身体を旋回させつつ横凪に払って隣りの狼の首を裂き、返す刀で頭上から振り下ろして真っ二つに頭を斬り裂く。
「神の子羊達に牙を向ける狼共め、裁きを受けてもらうぞ!」
そこから更に神速の突きを放ち、眉間と口腔を貫き、瞬く間に3匹の狼を倒す。
リヴァル・クロウ(
gb2337)は混乱し、撤退を始めた兵士達に逆らって前に出ると『豪破斬撃』を発動。
一瞬だけ淡く赤色の光を放った月詠を振るって手近にいた狼の首を一撃で跳ね飛ばす。
「この瞬間でどれだけ戦力を削げるかが今後の戦局を左右する。少し派手にやらせてもらう」
そして再び『豪破斬撃』を発動させると、次の狼を目指して駆け出した。
「負傷兵を囮にしての奇襲、やってくれるな!」
月影・透夜(
ga1806)は両手に連翹を構えると兵士に襲い掛かろうとしていた狼の背中を左の連翹で切り裂き、後ろから襲い掛かってきた狼を気配だけで察して逆手に持った右の連翹を後ろに突き出し、頭に突き立てて倒す。
「ちっ‥負傷者を使うなンざ、ナメた真似してくれンじゃねぇの」
聖・真琴(
ga1622)は狼の群れに突撃すると、砂錐の爪で狼の腹を蹴リ飛ばして他の狼にぶつけ、キアルクローで2匹いっぺんに串刺しにして息の根を止める。
「おらっ有象無象ども! コッチの方が喰い甲斐あるぞっ! 来いや!」
そして大声で啖呵を切り、狼の目を兵士から自分へ引きつけた。
周防誠(
ga7131)はアラスカ454で兵士に襲い掛かっている狼の頭を狙い撃ち、脳漿を撒き散らしながら絶命した狼と兵士の間に割り込むと、武器をSMGに持ち替えた。
「これ以上近付かせるわけにはいかないのでね‥喰らえ!」
そして左右に弾幕を張って狼を牽制しながら兵士の様子を確認する。
「無事ですか?」
「あぁ、なんとか」
兵士は喰いちぎられた肩口を押さえて苦痛に顔を歪めているが命に別状はなさそうだ。
「悪いが最後まで面倒を見ている余裕もないんでね。あとは自力でなんとか頼みますよ」
冷淡とも思えるが現状で兵士達にしてやれる事はこれが精一杯だ。
「キメラは僕達が抑えています。今の内に後退して下さい」
新居・やすかず(
ga1891)は『強弾撃』で強化したアンチシペイターライフルの弾丸で狼を狙撃し、1匹ずつ確実に倒しながら兵士達の撤退支援を行っていた。
「キメラ如きに怯まない! 怪我人を連れて早く後方へ」
弓亜 石榴(
ga0468)も兵士の後退を助けるため、狼の足や口を狙ってヴィアを振るい、狼の機動力を奪いながら兵士達に声をかけていった。
そうした傭兵達の迅速な初撃によって狼型キメラは瞬く間に3匹にまで数を減らした。
しかし亀型キメラからはプロトン砲が絶え間なく戦車に向かって撃ち込まれ、まず中破していた戦車が吹っ飛び、次いで1両が大破して炎上する。
「うわぁぁー!!」
燃え盛る戦車の中から兵士が飛び出してきたが、周りの歩兵達に助ける余裕がなく、その兵士はそのまま息絶えた。
そして残る2両もそれぞれ2発のプロトン砲を喰らって中破。
炎を纏いながら慌てて遮蔽物に隠れようと動き始める。
「残り狼は任せたぞ、俺たちは亀に向かう。行くぞ真琴」
「OK、亀も片っ端から喰らってやンよ♪」
「俺達も行くぞ」
「はい」
そんな戦車隊を救うため、透夜と真琴が西側の亀に、小夜子とリヴァルが東側の亀を目指して走り出そうとした直後。
シュ
と風切り音が鳴ったかと思うと、何処からともなく4本の矢が透夜の身体に向かって飛来する。
「ぐぅ!!」
矢は透夜のBDUジャケットを易々と貫き、深く突き刺さった。
「透夜さん!」
真琴が思わず駆け寄ろうとしたが透夜は手を上げて制した。
「この程度ならまだ大丈夫だ、構わず走れ。この矢はワニキアか。相変わらず正確な一矢だ。射線はあっちから、どこに潜んでいる!?」
透夜は走りながら矢が飛んできた方向に視線を巡らせたが、ワニキアの姿は見当たらない。
「確かにあっちから飛んできたよね」
「何処だ卑怯者! 姿を現せ!」
石榴とサンディも狼と戦いながら探すが見つからない。
シュ
そうしている間に今度は透夜を襲ったのとは別方向から小夜子に向かって矢が飛んできた。
「くっ!」
咄嗟に身を捻って左腕で身体を庇う事ができたのは今までのバグアとの戦闘で培った経験の成せる技だろう。
矢は左肩、上腕、下腕、脇腹に突き立った。
いずれも急所は反れているが、
(「左腕に力が入らない‥‥」)
小夜子の左腕はほとんど動かず、腕を滴った血が地面にポタポタと落ちてゆく。
それでも小夜子は足を止める事なく走り続けた。
「大丈夫か石動!?」
リヴァルが小夜子に駆け寄り、プロテクトシールドを庇う様に掲げる。
「はい。利き腕は無事ですから、まだ剣は振るえます」
「‥‥これでは後で彼に合わせる顔がないな」
小夜子の傷の具合を見たリヴァルが沈痛な面持ちで呟く。
「これぐらい平気です。クロウさんこそ何かあったら私がクラウドマンさんに申し訳無く思ってしまいますから、お気をつけて」
そんなリヴァルに小夜子は痛みに耐えながら気丈に微笑んでみせた。
これではどちらが怪我人なのか分からない。
「どうやら矢を放つ度に位置を変えているようですね」
新居は初撃と2撃目の位置、被害の分布、身を隠すに適した場所、これまでの交戦記録から推測される射程距離などから3撃目が放たれる可能性の高い位置を絞り込み、それをインカムで仲間に伝えた。
「‥‥いました。8時の方向、建物の4階の窓です」
ワニキアを発見した周防がインカムに小声で告げ、『狙撃眼』を発動させると横目でこっそり狙いをつける。
「あまり本気になられても困りますが‥ちょっとこっちを向いてもらいますか」
そして瞬時に身体ごと向きを変えてアラスカ454を身を潜めているワキニアに向かって連射。
放たれた弾丸は全て命中し、ワニキアが血を噴き出すのがチラリとだけ見えた。
続いて新居もアンチシペイターライフルで狙撃したが、これは窓の陰に身を潜めて避けられた。
そして銃声が止むと同時に今度はワニキアが周防に向かって矢を放ってくる。
周防はエンジェルシールド正面に構え、矢が盾に当たる瞬間に盾を横に軽くずらす事で威力を横に逃がそうとした。
しかし、ずらして受けると盾が矢の威力で弾かれ、矢をまともに身体に受けてしまう。
受け流せるほど柔な威力ではないのだ。
真正面にシッカリ構え直すと今度は防げたが、矢は盾を貫通し、身体に突き立った。
「威力が高いと聞いてましたが‥‥噂以上の強弓ですね」
周防は苦笑いを浮かべるとアラスカ454をリロードし、ワニキアに向かって撃ち放つ。
その頃、西側の亀に向かっていた真琴と透夜はプロトン砲の砲撃を受けていた。
しかし透夜は弾道を完全に見切って避け、周りの地面で着弾の爆発が起こる。
真琴も『疾風脚』でひょいひょいと避け『瞬天速』で一気に間合いを詰めた。
「うりゃあ!」
そして跳び蹴りでプロトン砲を跳ね上げると、そのまま砂錐の爪で亀の頭に踵落としを喰らわせながら着地。
そこから身体を回転させて今度は後ろ回し蹴りを頭に叩き込む。
「透夜さん!」
「おぅ!」
グチャグチャになった亀の頭部目掛けて透夜が連結した連翹で真正面から『急所突き』を放つ。
連翹は半壊していた頭部を貫き、そのまま体内に潜り込み、心臓を切り裂いた。
「ふん!」
透夜が連翹を引き抜くと大量に血が噴き出し、亀は完全に動かなくなる。
その間に他の亀達が二人のプロトン砲を向けようとしていたが、その動きはとてつもなく遅かった。
「砲撃なんて接近してしまえば何の役にも立たないな」
透夜は亀がプロトン砲を自分達に向ける前に死角に回り込み、連翹を振るって足を切り落とした。
「オラオラァ! 戦車をやられた痛み、倍にして返してやンよ!」
真琴もあっさり亀の死角に入り込みインファイトで甲羅から出ている手足や頭を狙ってキアルクローを振るい、蹴りを叩き込んでゆく。
そうして二人で次々と亀を退治していったが、最後の1匹は手足や頭を引っ込めて防御態勢をとった。
「オラァ! 隠れンじゃねぇ!」
しかし真琴は頭の穴にキアルクローを突き立てて鷲掴みにすると、強引に頭を引きずり出してきた。
「真琴、そのまま持ってろ」
そして引きずり出された首を透夜が連翹で斬り落とし、息の根を止める。
「よし、亀退治は終わったな。急いで戻るぞ」
「アタシの仲間を痛め付けてくれてた色男に礼をしなきゃね♪」
真琴は不敵に笑うと透夜と共に仲間の元へと駆け出した。
もう一方の東側の向かっていた二人もプロトン砲の攻撃を受けていた。
しかし小夜子はプロトン砲の砲身に集中し、発射される直前に『瞬天速』で射軸をずらして易々と避け、リヴァルもプロテクトシールドで受け止めてダメージを最小限に留めていた。
「先に仕掛けます」
まずは小夜子が亀の眼に突きを放って視覚を奪い、横に回りこんで足を切り落とし、甲羅の隙間に蝉時雨に突き入れる。
続いて反対側に回り込んだリヴァルが『豪破斬撃』を発動、月詠で首に斬り落としてトドメを刺した。
「よし、次だ」
「はい!」
そうして二人で連携攻撃を続け、1匹ずつ確実に仕留めていった。
一方、周防はまだワニキアと激しい戦闘を繰り広げていた。
両者の狙撃の腕はほぼ互角で何度となく矢と弾丸が交錯し、その度に両者は傷ついてった。
しかし1撃の威力ではワニキアに分があるため消耗は周防の方が激しい。
「はぁ‥‥はぁ‥‥」
周防は盾や身体に10数本もの矢を受け、ハリネズミの様になりながらもアラスカ454を手早くリロードする。
矢傷から流れる血と共に体力は奪われ、そろそろ身体は限界が近かったが敵は攻撃の手を緩めてくれそうにない。
「ここまで本気で相手してくれなくてもよかったんですけどね‥‥」
周防は苦笑を浮かべながらリロードを終えたアラスカ454をワニキアに向けた。
ワニキアも自分に向かって弓を引き絞っているのが見える。
そんな時
ドォン!
と空気を振るわせる重低音が鳴り響き、ワニキアの潜んでいた建物が爆発した。
「撃て撃てぇ!! 今こそ軍人の誇りを見せる時だ〜!」
それはサンディと共に歩兵の後退を完了させた石榴が戦車兵を焚き付けて行わせた砲撃だった。
2両の戦車からは絶え間なく戦車砲が発射され、ワニキアのいた建物は瞬く間に爆煙と土埃に覆われた。
「さて‥‥どう出てくるかな?」
だが強化人間が戦車砲ぐらいでやられる訳がない。
周防は油断なくアラスカ454を構えたままワニキアの出方を待った。
やがて、土埃を突き抜けてワニキアが飛び出してくる。
周防は瞬時にアラスカ454を向けて発砲。
しかし、ワニキアは両手に嵌めた爪で弾丸を弾いて防いだ。
「くっ!」
周防はすぐさま排莢してリロードを始めたが、その隙にワニキアが間合いを詰めてくる。
そして周防がリロードを終えたアラスカ454をワニキアに向けるのと、ワニキアがアラスカ454を手で掴むのは同時だった。
アラスカ454は正確にワニキアの眉間を捉えているが、弾丸が眉間を撃ち抜くのとワニキアが銃身を反らすのと、どちらが速いだろうか?
「‥‥お前は強いな」
そんな緊迫した状況の中でワニキアが周防に話しかけてくる。
「自分の攻撃にここまで耐えた奴はお前で二人目だ。どうだ、お前もこちら側に来ないか?」
周防にはワニキアの意図が分からなかったが、どうやら本気で自分をスカウトしている様だ。
「‥‥冗談でしょう。自分に人間をあんな風に扱う奴の仲間になれって言うんですか?」
周防は会話をしながらワニキアに見えない位置でSMGに左手を伸ばす。
「あれは自分が指示したものではないのだが‥‥」
「でもアナタの仲間がした事でしょう。同じですよ」
「まぁ身内がやった事だから自分も同罪ではあ‥」
その時、新居が放った弾丸がワニキアの頭を目掛けて飛来する。
「むっ!」
しかしワニキアは間一髪首を反らして避けた。
「外した!」
だがその隙に周防はアラスカ454を放して後ろに跳びながらSMGをワニキアに向かって乱射する。
ワニキアは何発か喰らいながらも距離を取り、爪を構えて対峙した。
「交渉決裂か。どうやらタートルキメラもやられた様だし、ここまでだな」
ワニキアは周防に向かってアラスカ454は放り投げると背を向けて走り出す。
周防はアラスカ454をキャッチし、そのままワニキアを見送ったのだった。
戦闘が終わり、負傷兵の手当てと道で戦車の足止めに使われていた工兵の救助が開始された。
大破した戦車に乗っていた兵士は皆死亡していたが歩兵達に死者はおらず、工兵も衰弱していたが全員生きていた。
「不安だったでしょうに、よく頑張ってくれました‥‥ゆっくり休んで下さいね」
自分も左腕を負傷して三角巾で吊っている状態なのに、救助を手伝うと言って聞かなかった小夜子が工兵に優しく話しかけ、移送用トラックに乗せてゆく。
「みんな無事で良かったよ。あれから気になってたからね」
そんな小夜子の手伝って一緒に救助活動をしている石榴が安堵の笑みを浮かべた。
「負傷者を使うなンざ、ナメた真似してくれるよ。コレだけでアタシの『敵』確定だ」
真琴が怒りを露わにしながら透夜の傷に甲斐甲斐しく包帯を巻いてゆく。
「凄いねマコト。これだけの数の矢を受けているのに急所には1発も当たってないよ」
サンディが周防の技量に感心しながら傷の手当てをする。
「少佐、今回保護した工兵のリストアップと動向のトレースを提案する。洗脳を受けている可能性がないとも言えん」
リヴァルはルイスを捕まえるとそう進言した。
「了解した。こちらからは2つ悪い話がある。一つ目は今回保護した工兵の数が行方不明になった工兵の数より少ない事。おそらくまだ何人か残しているのだろう。もう一つは中破した戦車は今後の作戦には使えそうにない事。なのでヒューストン空港での砲戦はコンロー側から来る戦車隊だけで行わねばならない‥‥。厳しい戦いになるかもしれないな‥‥」
ルイスは溜め息をつくと、ヒューストン空港がある方角の空を眺めた。