●リプレイ本文
●開場
『さぁ皆様、お待たせいたしました! 只今より慰問会のゲストをご紹介します!』
司会の兵士の合図で9人が会場入りする。
「おおぉーーーーー!!」
会場内にどよめきが起こった。
「嘘だろ? あれがマジで男なのか?」
「レベルたっけぇ〜」
「あの内8人は男性なんですってぇ〜」
「キャーー! よりどりみどりじゃない!」
会場はいきなりヒートアップし、異常な盛り上がりを見せる。
蒼河 拓人(
gb2873)は一番に飛び出して、くるっと一回転。スカートを軽くなびかせ、
「初めまして、自分はタクだよ。今日は皆に元気になってもらえるように頑張りますだよ!」
満面の笑顔でペコリと一礼した。
拓人は白と黒を基調にしたフレンチメイド服だが、裾は余り短くしすぎず膝上あたりまで。
下着は白のドロワーズで、頭には黒のリボンカチューシャ。脚には黒のニーソックスと小さいリボンの付いた黒のローファー。
首の紺色の鈴付きチョーカーが動く度にちりんちりんと鳴る。
背中には小さめのデフォルメな天使の翼を付けている。
「キャーー! かわいいぃーーー!!」
すると女性兵士のテーブルから歓声があがる。
「紫月と申します。今回は、皆様、よろしくお願いします」
神無月 紫翠(
ga0243)が手を前で揃えて丁寧にお辞儀をする。
紫翠は桜色の着物に黒の袴の和風メイド姿で、髪をポ二−テ−ルにし、薄化粧を施した姿は清楚ながらも和服と美貌が相まって、えもいわれぬ色気を醸し出している。
「ゲイシャー!」
「ヤマトナデシコー!」
一部の変な勘違いをしている兵士が妙な盛り上がりを見せた。
「本日、こちらで皆様に奉仕させていただく風華(ふうか)と申します」
叢雲(
ga2494)は髪の毛を降ろし、黒の長袖ヴィクトリアンメイド服を着て頭にはホワイトブリムを装着、編み上げブーツを履き、細めの伊達眼鏡を架けた、少しきつめな印象のメイド長スタイルだ。
顎を引き、背筋を伸ばし、手を前に揃えてキッチリと頭を下げる完璧な立ち振る舞いである。
「あの子ってホントにメイドさんなんじゃねぇの?」
「お疲れ様です皆様、わたくしはアシュリーと申します。本日は出来るだけのおもてなしをさせて頂きますので、ゆっくりとおくつろぎになって下さいね?」
アッシュ・リーゲン(
ga3804)は濃紺のロングスカート、白のエプロンドレスにヘッドドレスとリボンタイといった正統派なメイド服を着こなし、可愛らしく小首を傾げ、ニッコリ微笑んだ。
(「アッシュさん、完全に女になりきってるわ!」)
アッシュの変わり身に、リサ・クラウドマン(gz0084)は戦慄を覚えた。
なぜならアッシュは会場前までは完全に男言葉で
「まぁお前さんもそうクサらず楽しんでこうぜ? 負けない自信があんだったら胸張って堂々としとけ、な?」
こう言ってリサを励ましてくれてさえいたからだ。
「本日、皆様の給仕をさせていただく、金城と申します。よろしくお願いします」
金城 エンタ(
ga4154)が緊張で少し堅くなりながらペコリと頭を下げる。
エンタは髪をポニーに纏め、薄化粧をして黒のヴィクトリアンメイド服に白のエプロンドレス、白のメイドハットに黒のストッキングと古式スタイルだが、裾だけはちょっと短かくしていた。
「金城ちゃ〜ん。下の名前はなんて言うの〜?」
「その‥エ‥エミカです‥‥」
咄嗟にその名前を出してしまった。
(「お母さん‥ごめんなさい‥名前‥借ります」)
内心で母親に謝りつつ、照れくさそうな微笑みを兵士達に向かって浮かべた。
「私はエレシアといいます。皆さんが少しでも癒されるように頑張ってお世話させていただきます、よろしくお願いします」
ゼフィル・ラングレン(
ga6674)はフリルが多めの黒のゴシックメイド服に白のカチューシャ、フリフリな白のエプロン姿で微笑み、可愛くお辞儀した。
幼少時に女の子として教育された事のあるゼフィルは女装をすると自然と言葉遣いや仕草までもが女の子の様になってしまうため、完全に男に見えなくなっていた。
「あの子絶対女の子だって、間違いねぇよ!」
「ボ‥ボクは慈(めぐみ)って言いますっ。ふ‥ふしだら者ですが宜しくお願いしますっ!」
羞恥で顔の赤い大槻 大慈(
gb2013)が勢いよくお辞儀をすると、跳ねたポニーテールが顔をパシッっと打った。
大慈は袖は七部で裾は踝までの黒のヴィクトリアンメイド服を着ており、白のエプロンドレスの左胸には黒糸でハリセンの刺繍がされていて、メイド服にも同様の刺繍が白糸でされている。
「ふしだら者ーー!?」
「慈ちゃ〜ん! 俺の席に来てご奉仕してくれ〜!」
「え? ‥‥あっ! ち、違いますぅ〜っ!!」
自分の言い間違いに気づいた大慈は顔を更に赤くしてリサの後ろに隠れた。
「皆さん、たぶん慈さんは『ふつつか者』って言いたかったんだと思いますよ」
それで一応場は収まったものの、大慈への好奇の視線はそのままだった。
「私はリタといいます。今日は日頃から頑張ってらっしゃる皆さんのために精一杯ご奉仕させていただきますね」
前回の慰問会でも着たヴィクトリアンメイド服姿のリサがちょっとぎこちなく微笑む。
「皆さん初めまして、カグラと申します。今日は前線でご苦労なさっている皆様にご奉仕するために参りました。よろしくお願いしますね」
変装術の実践のため参加した鳳覚羅(
gb3095)が兵士達に向かって微笑を振りまく。
覚羅は濃紺のワンピース型ヴィクトリアンメイド服を着て、フリル付きの白いエプロンドレスをかけてフリル付きカチューシャを頭に装着。
スペシャルトリートメントセットでさらさらにした髪は括らず、ナチュラルメイクを施し、香水を軽く付けていた。
「くっそ〜! やっぱ全員女にしか見えねぇ〜!」
「いっそのこと全員女って事にしようぜ!」
全員の紹介が終わった時点で誰が男か見抜いた者はいなかった。
●慰問会
袖が邪魔にならない様たすき掛けにした紫翠がテキパキと動き廻り、微笑を浮かべながら丁寧な給仕をしてゆく。
「どうぞ‥冷めないうちに‥召し上がってください」
兵達は和服が珍しいのか紫翠の優美な仕草に自然と目が奪われる。
「前、失礼いたします」
しかも皿を配膳する時には少し憂いのある美貌の横顔、首筋のおくれ髪などが間近で見せられる。
「い、色っぽい‥‥」
「さすがはゲイシャガール‥‥」
「お呼びでしょうか、御主人様」
叢雲は背筋を伸ばし、手を前に揃えて頭を下げる。
「何か違う飲み物持ってきてくれ」
「かしこまりました、すぐにお持ちしますので少々お待ちください」
再び一礼してテーブルを離れた。
メイドとして完璧な立ち振る舞いである。
「美人だけど、なんかキツめな子だよな」
しかし愛嬌が足りないのが兵達には不満だった。
「お待たせしました。他にも何かご入用であれば、すぐにお呼びください」
叢雲は最後に微笑を浮かべて一礼した。
すると、今までキツめだった表情がパッっと華やぎ、兵達の視線を釘付けにする。
「お、おい! 今の笑顔、凄く可愛くなかったか?」
「あぁ、なんか本物のメイドさんって感じだったぜ!」
そんな偶に見せる微笑がギャップとなり、叢雲の印象を深く刻み付けていった。
「お味は如何ですか、御主人さま?」
配膳を終えたゼフィルがニッコリ微笑む。
「あぁ、うまいよ。でもエレシアちゃんが食べさせてくれたら、もっとおいしいんだけどなぁ〜」
「えっ?」
ゼフィルが目を丸くし、口元を押さえて驚く。
「ご、ごめんなさい。そういう事してはいけない規則になっていまして‥‥」
「じゃあ、俺が食べさせるのはいいよね。はい、あ〜んして」
「えぇ!? あ、あの‥す、すみません! わ、私‥の、飲み物を取ってきます」
ゼフィルは赤くなった頬を両手で押さえて恥ずかそうにし、少しうろたえながらペコリと一礼して小走りでその場から離れてゆく。
「うはぁ〜! エレシアちゃんって反応が初々しくっていいねぇ〜」
(「な、何をしたら良いんでしょう‥?」)
周りはテキパキと働いているのにエンタはポットを持ってそわそわしていた。
「エミカちゃ〜ん。水貰える?」
「あ、は〜い! ただいま〜」
エンタは呼ばれたテーブルに行って水を酌んだ。
「サンキュー。ついでにこの皿下げてくれるか」
「はい、畏まりました」
空になった皿を片付け、次の料理を持ってくる。
「お待たせしました〜」
「おぅ、ありがとなメイドさん」
ゴツイ顔をした軍曹が笑顔を浮かべてエンタの頭を撫でてくれた。
(「あ‥喜んで貰えてます‥奉仕するって‥楽しい‥?」)
そうして奉仕の喜びを覚えたエンタは次第にテキパキと動けるようになっていった。
「御主人様、お皿をお下げしてもよろしいですか?」
「あぁ、頼む。凄くうまかったよ」
「ありがとうございます。わたくし料理が得意なので、この度のお料理もお手伝いさせていただきましたので、とっても嬉しいですわ」
アッシュは皿を提げながら満面の笑みを浮かべる。
「じゃあ、デザートはアシュリーちゃんの一番好きな物を持ってきてくれるかな?」
「わたくしの好きな物でいいんですか? ありとうございます御主人様。それでは少々お待ちくださいね」
アッシュは嬉しそうな顔をして一礼すると、スカートをふわりと靡かせながらデザートを取りに行った。
「アシュリーちゃん。可愛いなぁ〜‥‥」
兵達は骨抜きなった顔でアッシュを見送った。
「デザート、お待たせしました〜」
「待ってたわよ〜タクくん!」
拓人が女性兵士のテーブルに来るだけで歓声が上がった。
「ねぇ、一緒にデザート食べましょ」
「いいの? ありがとう」
「タクくんの衣装って凄く可愛いわね」
「ホント? ありがと〜♪ ほら見て、この羽ってパタパタ動くんだよ」
「キャー! 可愛い〜!!」
すっかり女性兵士のアイドルだ。
「お茶のお代わりは如何ですか?」
「あぁ、いただくよ」
覚羅は丁寧に紅茶を注ぎ、優しく微笑みかけながら兵士に手渡す。
その際、髪を靡かせて香水やトリートメントの香りとかをほんわかと漂わせる。
「カグラちゃんっていい匂いがするね。香水か何かつけてるの?」
「はい。少しだけ」
「髪からもいい匂いがするし、凄く綺麗だし。やっぱり髪は手入れしてるの?」
「はい。今日は皆様のため特に念入りにしてきました」
「そりゃあ嬉しいな」
「その様に喜んでいただけると私もとても嬉しいです」
覚羅がニッコリ微笑むと、その兵士は照れて顔を赤くした。
「あの‥お待たせしました」
大慈は皿を置くと、お盆を胸元に抱き
「ごゆっくりどうぞっ!」
お辞儀をした勢いで額をテーブルにゴツンとぶつけ
「あぅ〜」
涙目になって額を押さえると、今度はお盆が床に落ちてガランガラン
「はぅ〜! 申し訳ありませ〜ん!」
「ド、ドジッ娘メイドだぁ〜!」
「ボク、ドジッ娘じゃないですぅ〜」
大慈が涙目で訴えたが、その姿が可愛くて兵士はさらに興奮した。
「可愛いよ慈ちゃ〜ん」
「ボ、ボクは可愛くありませんっ!」
大慈が手をブンブン振って否定するが兵は聞いていない。
「しかもふしだらっ子なんだよね」
調子に乗った兵が大慈のお尻を撫でる。
「ひっ!」
背中に怖気が走り、思わずハリセンを取り出し一閃。
「Hな人は嫌いですっ!」
スパーン
と軽快な音が鳴り
「ぐぉぁはっ!」
兵士が吹っ飛び、壁に激突する。
「てめぇ!」
怒った兵に拓人がスカートに忍ばせていた包丁を投擲。
兵の頭をかすめて壁に突き立った。
「えっちなのはいけないと思います‥だよ?」
拓人が天使の翼をいつの間にか悪魔の羽にしてニッコリ笑った。
●閉会
『皆さん、残念ながら慰問会もそろそろ終了のお時間となります。ここでメイドさん達からメッセージがあります』
「皆さん‥お疲れ様でした‥‥さてこれで兵士の人達‥元気でると良いんですが‥‥。皆さんが別の方向へ行かない事を‥願うばかりです。本日は‥本当に‥ありがとうございました」
紫翠が優雅に一礼すると会場からは拍手が起こった。
「私は特にアピールする様な事は御座いませんが‥‥強いて言うなら、本日の煮込み料理は私が作らせて頂いた事くらいで御座います」
叢雲がさりげなく謙虚さと料理上手をアピールする。
「僕からは歌を贈らせて頂きます。聞いてください」
エンタは女性歌手のラブソングを、原曲キーで熱唱した。
全身を『楽器』にするようなイメージの振り付けで踊り、その中性的で高く透明な声を会場中に響き渡らせると、兵士達から拍手が起こる。
「えへへっ。ありがとうーー!!」
エンタは照れくさそうに笑い、兵士達に手を振った。
「今日は皆さん、疲れを癒されていただけでしょうか? 癒されていましたらとてもうれしいです」
「ホントに癒されたよ、エレシアちゃん」
「ありがとうございます。名残惜しいですが、最後まで楽しんでいってください」
少し涙ぐむゼフィルの姿は兵達を感動させた。
「ボ‥ボクなんかより‥この人の方がっ」
大慈がオロオロと隣のリサを手で指し示そうとしたら、ツッコミ風に叩いてしまった。
「あ‥ごめんなさい〜っ」
顔を赤らめ、ペコぺコ頭を下げる。
「全然OK〜!」
「それが慈ちゃんの味だよ〜!」
最後までドジっ娘な大慈だったが、兵士達には大ウケだった。
「皆さん、本日は拙いながらも精一杯ご奉仕させていただきましたけど、満足していただけましたでしょうか? どうかこれからもご無事でいてください」
リサはペコリと頭を下げた。
「次も絶対に、こうやって笑顔で再会しようね。皆の笑顔が自分の幸せになるから〜」
「うん、絶対また会いましょう。約束よ、タクくん!」
拓人が元気よく言うと、女性兵士が涙を浮かべる。
「うん、絶対約束‥だよ♪」
拓人は最後まで明るく元気な笑顔を兵達に振りまいた。
「皆様の無事と勝利を願って演奏させていただきますね」
覚羅はクロマチックハーモニカを取り出すと唇に当てた。
流れるメロディーは夜明けをイメージさせるディ・ブレーク。
その優しい旋律は兵士達の郷愁を誘い、感動で涙を浮かべる者がいる程だった。
「ご静聴ありがとうございました。厳しい戦いが続くでしょうけど‥無事に帰ってきてくださいね」
●正解は?
『皆さん、ありがとうございました。それでは正解を発表したいと思います。9名の麗しのメイドさんの中で女性だったのは‥‥』
皆が息を飲み、司会者に注目する。
『リタさんです!』
「よっしゃーー!!」
「キャーー! やったぁー!!」
「なんだってぇーーー!」
「嘘だっ!! 誰か嘘だと言ってくれぇーー!!」
「神は死んだぁーーー!!」
「俺、今日から仏門に入るよ‥‥」
歓声と悲鳴が沸き起こり、歓喜と絶望が会場内に渦巻いた。
天国と地獄。
その言葉がこの場には一番相応しい。
こうして慰問会は成功を収めたものの、何人かの兵達の心に深い傷を残す事にもなったという。