●リプレイ本文
まるで空を覆い尽くす様な数の飛行型キメラの群れとHWの大群が橋頭堡目指して進攻してくる。
「数の暴力ってやつかしら。厄介ね」
皇 千糸(
ga0843)が忌々しげに空を見る。
「此処までの数となると、ある種壮観だな」
時任 絃也(
ga0983)は驚きや呆れ通り越して、もう達観した様子だ。
「文字通り背水の陣ってヤツかな」
狭間 久志(
ga9021)が少し緊張した声音で呟く。
「こういうのを雲霞の如くってのかな。まぁざっと目算で、一人15体ぐらい落とせば勝てそうと思って、リラックスして行こう」
そんな事をさも簡単そうに言い切ってしまう弓亜 石榴(
ga0468)。
そして空に舞い上がった総勢18機のKVはブーストで最大加速。一気に敵陣に攻勢をかけた。
「向こうのキメラの対応、お願いします!」
皇は左翼と右翼の8機の僚機にそう指示し、スナイパーライフルを構える。
最先行するのはマイクロブーストで最速の機動を見せた周防 誠(
ga7131)のワイバーン。
そして誠とロッテを組むヴァシュカ(
ga7064)のアンジェリカ。
「‥誠さんっ。宜しくお願いしますね」
「ヴァシュカさんとなら安心ですね。自分は正面に集中させてもらいますよ」
「‥なら後ろは任せてくださいねっ。‥でもあんまり無茶しちゃ、やっ‥ですよ?」
「了解です」
誠は正面のHWをスナイパーライフルを撃ち込み、すれ違いざまにソードウィングで斬り捨てる。
そして後方にいたキメラにバルカン砲を掃射して次々に撃ち落していった。
「さてっ! 斯くも辛きは防衛戦っ! されど退く事あたわず。なれば‥目の前の敵全てを撃破するのみ! ってねっ」
続いてヴァシュカがAAMをばら撒き、キメラを爆散させてゆく。
だが、そんな2人にステアーが迫る。
「きたか!」
誠はわざとキメラの群れの突っ込んで隠れ蓑に使い、ステアーの死角に回り込んでマイクロブーストで一気に加速し、ソードウィングで斬りかかった。
しかし、ステアーは慣性機動の垂直上昇でその一撃を避けた。
「ちっ‥‥こっちだステアー!」
ステアーをヴァシュカから遠ざけるため誠が挑発する。
すると、誠の後ろに付いて追ってきたステアーがプロトン砲を発射。
誠のワイバーンの装甲を融解させ、機体に幾つもの爆発が起こる。
だが、その隙にステアーの後ろにヴァシュカが付く。
「やらせないんだからっ!」
『空戦スタビライザー』と『SESエンハンサー』を起動させてレーザーを連射。
しかし、ステアーは慣性機動で悉く避け、ヴァシュカの眼前から消えた。
「‥どこに?」
見失ったステアーを探している間に下方から放たれたプロトン砲がアンジェリカを撃ち抜く。
「あうっ!」
「ヴァシュカさん!」
誠はステアーとアンジェリカの間に自機をねじ込み、ヴァシュカの盾となった。
至近距離から放たれた無数のフェザー砲がワイバーンを撃ち抜いてゆく。
翼がもげ、エンジンが火を噴き、コクピットのキャノピーが吹き飛んだ。
「こんなの自分らしくないな‥‥ま、いいか」
機体と共に落下する最中、誠はそう呟いた。
「誠さんっ! ‥‥無茶しちゃ、やっ‥って言ったのに」
ヴァシュカは悔しげに唇を噛む。
そしてAAMを全弾発射するとステアーの手前で爆発させて目くらましにし、G放電装置と高分子レザーをステアーに撃ち込んでいった。
「‥これでどう?」
しかし、爆炎が晴れた先には無傷のステアーがおり、反撃のプロトン砲がアンジェリカを撃ち抜き、翼を融解させ機体の右半分も溶かしてゆく。
「‥ごめんなさい、誠さん」
ヴァシュカは完全に制御不能となったアンジェリカと共に地面に落下していった。
ステアーの次の狙いは狭間のハヤブサ。
「僕自身と機体の限界まで‥行くぞ!!」
狭間はブーストと『翼面超伝導流体摩擦装置』を発動。
ステアーから放たれたプロトン砲を急制動とバレルロールを駆使して全て回避した。
『避けた?』
狭間はそのままフルスロットルで宙返りすると、ステアーにレーザーガンを撃ちながらソードウィングで斬りかかった。
「‥‥こ、ここだッ!」
しかし、その攻撃は易々と避けられ、逆に後ろに付かれる。
だがそこに稲葉 徹二(
ga0163)のナイチンゲールが強襲してレーザーを放ち、狭間からステアーを引き剥がした。
ステアーは稲葉にフェザー砲を乱射したが、ブーストと『ハイマニューバ』による回避運動で、何発かは喰らいながら掻い潜る。
そして雲を利用してステアーの死角に回り込み、横腹目掛けてレーザーを発射。ステアーの装甲に穴を穿った。
『コイツ! リリア様からお借りしたステアーに傷を!』
「強敵には違いねェが、どうにか戦えそうですな」
「稲葉さん、このまま連携攻撃でいきましょう!」
「了解であります!」
2人はステアーからのフェザー砲の反撃をそれぞれの高速機動で致命傷だけは避け、そこから巧みに攻守を入れ替えてステアーを翻弄しつつ傷を負わせていった。
『くっ、ちょこまかと!』
だが突然ステアーの速度が上がり、今までとは比べ物にならない高速機動で稲葉の後ろに回り込むと、100発近いミサイルを放ってくる。
「くっ!」
稲葉はハイマニューバによる急加速でミサイルを振り切ろうとしたが、その隙をプロトン砲で狙い撃たれた。
「ぐわっ!」
機体が一瞬制御を失ったところにミサイルが殺到し、ナイチンゲールは無数の爆発に包まれ、そのまま落下していった。
「稲葉さん!」
続いてステアーは狭間のハヤブサの頭上を取る。
「くっ!」
狭間は翼面超伝導流体摩擦装置を発動させ振り切ろうとしたが、ステアーはピッタリと喰い付いて離れず、そのままフェザー砲を乱射し続けてくる。
ハヤブサに無数の穴が穿たれ、コクピットが激しく振動すると共に次々とダメージランプが点灯してゆく。
「くそぉ!」
狭間は急制動を行って逆にスピードを殺し、ステアーに自機を追い抜かせると高分子レーザーガンを乱射した。
しかしステアーはバレルロールと小刻みなマニューバで全て避け、宙返りで上空に舞い上がると急降下しながらフェザー砲を撃ち放ってくる。
フェザー砲は正確にエンジンを撃ち抜く、瞬く間にハヤブサは炎に包まれ、爆散した。
こうして中央の4機がやられた時点での敵の被害はHW6機、キメラ81匹。
中央のHWの一部は左右に散り、残りは拠点を目指して移動を始めた。
「奴らは俺が抑える。ここは頼んだ」
だが、拠点に向かうHWを右翼にいた時任のR−01改が攻撃を加えて足止めする。
「お前達の相手は俺だ!」
HWは目標を拠点から時任に移ったが、時任は7機のHWに囲まれる事となった。
「どっちを向いても敵ばかりか、大歓迎だな」
時任は不敵に笑うと、ガトリング砲とマシンガンをHWに撃ち込んでいった。
すると四方八方から反撃のフォトン砲が放たれてくる。
時任は巧み操縦桿を操って回避するが全てを避けきる事は叶わず、何発かが被弾する。
一つ一つの威力は低いが数が多いため、時任のR−01改は徐々にダメージを蓄積していった。
一方、ステアーは弓亜に狙いを定めて移動を開始した。
「ヤバっ! コッチ来る〜!」
弓亜はブーストを発動させ、すこしでも時間を稼ぐため最初から逃げた。
だが、それでもステアーはジリジリと差を詰めてくる。
弓亜は旋回したり上昇下降を繰り返して何とか狙いを外していたが、遂に至近まで接近され、フェザー砲を撃ち込まれる。
「あぅっ!」
たった一撃でダメージは50%を越えた。
「ちょっと待った! ねぇお願い、見逃してくれないかな〜?」
弓亜は一か八かステアーに通信を送ってみた。
『‥‥あたしもそう言ったわ』
すると意外な事に攻撃が止み、返答がくる。
その声に新居・やすかず(
ga1891)は聞き覚えがあった。
「この声はあの時の‥‥」
新居の脳裏に敵の秘密基地で自分のKVに生身で傷を負わせた長い黒髪の少女の姿が浮かぶ。
『あたしも何度も止めて助けてってお願いしたわ。でもせせら笑うか、蔑みの目で見るか、傍で哀れっぽく見てるだけ。誰も助けてくれない。みんなみんなみんなそう』
「え?」
しかし、その妙な通信内容に弓亜は首を傾げる。
『なのにあたしは助けなきゃいけないの? そんな理不尽通ると思う? ねぇ思う? 思うの? 変でしょ? 変よねそんなの? おかしいよね? あたし悪くないよね? あたしは何も悪くない。当然の権利だもの。だからアナタも死んで』
「待って! それおかしい!」
弓亜は思わず声を上げたが返事はなく、フェザー砲が弓亜のイビルアイズを破壊する。
「人の話は最後まで聞けぇ〜!」
そして弓亜は雄たけびを残して墜落した。
けれど弓亜が稼いだ時間でキメラの殲滅が終わり、残りはHWが11機。
ステアーの魔の手が今度は上杉 怜央(
gb5468)の岩龍に伸びる。
だが怜央は決して死を恐れない。
死の覚悟があってこそ生だという信念があるからだ。
それに、さっきのステアーの通信を聞いて共感を受ける部分もあった。
(「ボクの生い立ちも貧乏生活の日陰の存在でしたので、人間や世の中が嫌いという気持ちは判る所があります‥‥でも‥‥そんな逆境を救ってくれるのも、やっぱり同じ人間なんです」)
だから決して敵わぬステアーに対しても立ち向かおうとする。
しかし、周りの者達は怜央の無謀を見捨ててはおけない。
「やらせないわ!」
皇がステアーの砲身を狙い撃って、射線をずらそうとした。
狙撃は外れたが、ステアーの狙いが怜央から皇に切り替わる。
「今のうちに逃げなさい!」
「は、はいっ!」
怜央は皇の指示に従い、ブーストを使ってその場から離れた。
その間に皇は残ったAAMを全弾発射。
ステアーがミサイルを避けている間に接近し、ソードウィングで薙ぎにゆく。
だが、ステアーは皇のS−01改の動きを受け流すように避けると、すれ違いざまにフェザー砲を叩き込んでくる。
S−01改の装甲が弾け飛び、翼に穴が空き、エンジンから炎が上がる。
「くぅ‥‥」
それでもギリギリ機体は持ちこたえ、誘爆せず飛び続けていた。
皇はその場から離脱しようと試みるが、トドメを刺そうとステアーが追いすがってくる。
そして、
「さすがステアーはすげーな。乗ってる奴の腕はいまいちだけど‥‥」
霧島 亜夜(
ga3511)の通信が全方位に向かって発せられた。
『‥‥生意気』
愛子は不機嫌そうに呟くと、死に損ないのS−01改を無視して一直線に亜夜のウーフーに向かって飛んだ。
(「かかった」)
亜夜は内心でほくそえみ、ステアーをできるだけ遠くまで引き離そうとブーストを使って加速する。
「新居、後を頼む!」
「無茶です、霧島さん!」
新居が引きとめたが、亜夜は構わずステアーを引き連れて空を駆けた。
「『ゲート』を壊す為、こんな所で手間取ってる訳にはいかないんだ‥‥」
前回の依頼で受けた傷が治らぬまま出撃してきた亜夜はいざとなったら自分が犠牲となってステアーの足を止める覚悟でいたのだ。
そしてステアーに追いつかれた亜夜は満足な反撃もできぬまま無数のフェザー砲に貫かれて大破し、地面へ墜落していった。
「新居、皇は‥無事に離脱したか?」
「はい」
「‥‥そうか」
最後に亜夜は満足そうに微笑んだ。
この時点で残るHWは5機。
しかし、亜夜のウーフーのジャミング中和装置を失った傭兵達は苦戦を強いられる事になる。
特にHWに包囲されている時任は被弾率が上がり、機体ダメージも8割を超えた。
「くそっ! そろそろヤバイな‥‥」
それでも時任は最後まで戦い続けるつもりだった。
だが、ステアーはそんな時任の奮戦を嘲笑うかの様に進路上にいた僚機のバイパー、S−01、R−01を瞬く間に倒しながら迫ってくる。
『我々がステアーを喰い止めます。その間にHWを撃破して下さい!』
その時、残る僚機達がそう言い残し、ステアーに果敢に挑みかかっていった。
「‥‥スマン」
もちろん僚機の性能ではステアーに傷一つ付けられないが、時間を稼ぐ事だけはできる。
時任、新居、怜央は無線機から響く僚機達の雄たけびや悲鳴を聞き、悔しさに歯を喰いしばりながらHWと戦い続けた。
だが、HWを2機倒したところで僚機が全滅し、再度ステアーが進攻してくる。
「やれやれ、誰が乗ってるか知らんが態々ご足労痛み入る事だ」
時任はシニカルな笑みを浮かべ、ステアーに向かってマシンガンを掃射して気を引くと、機首を巡らして加速した。
今度は時任が囮となってステアーを引きつける気なのだ。
(「このパイロットは他に比べ少し甘いか? それでも脅威だが、そこをつけいればあるいは‥‥」)
時任は最後まで勝機は捨てず、ラージフレアを撒き散らしてデコイにし、ガトリング砲で弾幕を張りながらフィンブレードで突っ込んでゆく。
しかし機体ダメージが既に9割を越え、練力も残り僅かなR−01改ではステアーにかすり傷一つつける事ができず、撃墜された。
だが、その間に新居が1機倒してHWは残り2機。
ステアーは怜央の岩龍に狙いを定め、正面から接近してくる。
怜央はロケットランチャーで迎撃しようとトリガーを引いたが、反応がない。
「しまった! 弾切れ」
怜央は今までの戦闘でロケットを使い切ってしまっていた。
「今のボクには力は無いですけど、いつかアナタを止めてあげたいです」
怜央はそう通信を送ったが返事はなく、ステアーからはフェザー砲が掃射された。
岩龍は瞬く間に破壊され、無数の破片を撒き散らしながら墜落した。
その間に新居は対空機関砲を間断なく撃ち放ち、HWを相手に善戦を続けていたのだが、
『まさかここまで撃ち減らされるとは思ってなかったわ』
不意に目の前にステアーが現れ、フェザー砲を撃ち込まれる。
「ぐっ!」
新居はS−01Hに幾つもの弾痕を穿たれながらも咄嗟に操縦桿を倒し、スロットルを全開にして射線から逃れる。
そしてステアーの側面に回りこむとリニア砲を発射した。
しかし、ステアーは易々と避けるとS−01Hの上面に回り込み、フェザー砲を放ってくる。
新居はバレルロールで避けようとしたが、拡散型のフェザー砲は避けきれず、エンジンに何発も被弾して炎上。やがて誘爆し、新居のS−01Hは炎に包まれたまま地面に墜落していった。
こうして橋頭堡の航空戦力は全滅した。
「総員撤収。ただちに司令部を放棄して撤退せよ!」
敵に残された戦力はステアー1機とたった2機のHWだけであったが、司令部には2機のHWに対抗するだけの戦力すら残されてはいなかったため、撤退を余儀なくされたのであった。
だが敵の数が2機と少なかったため、司令部に残っていた人員はほぼ全員が無傷で撤退を完了する事ができ、橋頭堡自体は陥落したものの、敵もそのままロサンゼルスまで攻め上がるだけの戦力はなく。
結果、ロサンゼルスを守りきる事だけはどうにか成し遂げられたのであった。