タイトル:【DR】幻惑の吹雪マスター:真太郎

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/30 01:31

●オープニング本文


 3機の輸送機が護衛のKVを引き連れながら東シベリア海の上空を飛んでいた。
 この編隊の行く先はもちろん極東ロシア。
 極東ロシアでの大規模な戦闘に際しての増員の兵士達をUPC北米軍から輸送している最中である。
 天候はあいにくと雪模様で視界はすこぶる悪く、機内から見える景色はお世辞にも良いとは言えなかった。
「酷い雪だ‥‥下の海すら見えねぇ‥‥」
 輸送機に乗り込んでいる兵士の一人が小さな窓から眼下を見下ろして呟く。
「もしこんなところを敵に襲われたら‥‥」
「不吉な事を言うんじゃねぇよ! 俺はこんな鉄の棺桶に入ったままこんな極寒の海で死ぬなんてゴメンだぜ! 俺が死ぬのは愛しいワイフの胸の中って決めてんだ!」
「冗談だよ。そんなに怒るなって。俺だってこんなさみぃ所で死にたくねぇよ」
 兵達がそんな会話を交わしてしていた、そんな時。
 護衛についているKVの内の半数近くが急に進路を変え、輸送機から離れ始めた。

「こちらG1。アスター1、3、4、8。どうした? 航路を外れているぞ。勝手に持ち場を離れるな」
『こちらアスター1。当機は指定の航路を飛んでいる。何も異常はない』
『こちらアスター3。当機も指定の航路を飛行中』
『こちらアスター4。当機も同じだ。指定の航路を飛んでいる』
『こちらアスター8。同じく飛んでるぜ。そっちのレーダーがおかしいんじゃないのか?』
 先頭の輸送機が進路を変えたKVに呼びかけると、そんな返信が返ってくる。
 しかし、目視でもレーダーでも各KVが輸送機から離れているのは間違いない。
「こちらG1。そんなはずはない。確かにアスター1、3、4、8は当機から離れる進路を取っている。もう一度確認されたし」
『こちらアスター1。そう言われても当機も後方には確かにG1がいる。目視で確認した。間違いない』
『こちらアスター3。当機もG1、2、3を目視で確認。異常はない』
『こちらアスター4。当機も同じく異常なし。目視で確認できる』
『こちらアスター8。同じく異常なし。どうしたG1。寒さで目が曇ったか? 熱いウォッカでも1杯ひっかけてこい』
 4機のKVパイロットの声音は正常で嘘をついている様子はない。
 だが、現実として4機は確実に輸送機から離れている。
「どういう事なんだ‥‥?」
 輸送機の機長は頭を抱えた。
「機長。これはもしや敵の幻覚兵器なのでは?」
「マインドイリュージョナーとかいう奴かっ!?」
 副機長の言を証明するかの様にレーダーに敵の反応が映る。
「敵機接近! 至急迎撃体勢に移行せよ」
『こちらアスター1。警戒音を鳴っているのにレーダーや計器には異常ない。敵も見えない。どうなってるんだ!?』
 しかしマインドイリュージョナーに幻惑された4機は敵がどこにいるのかすら把握できず、狼狽えている。
「落ち着けアスター1。敵は11時の方向だ!」
『11時! いないぞ? どこだっ!? うわぁぁーーー!!』
 そして敵の姿を見る事も反撃する事もできぬまま4機のKVは撃墜された。
 残りの護衛機も奮戦したものの、戦力が半減し、連携のとれなくなったところを奇襲されたため、敵を数機道連れにしただけで全滅した。
 そして輸送機にも順次攻撃が加えられて撃墜され、残る輸送機は1機だけとなる。
「くっそーーー!! 俺達はこんな所で棺桶に入ったまま為す術もなく死んじまうのかよぉーー!!」
 輸送機に乗っている兵士の一人が嘆きの悲鳴を上げる。
 その時、機体にガクンと衝撃が走った。
 攻撃を受けた振動ではない。
 何かが大きな物がぶつかった様な振動である。
「おい! 前を見ろ!」
 ずっと窓に張り付いて外を見ていた兵士が叫ぶ。
 他の兵達も窓を覗く。
 見ると、輸送機にワイヤーの様なものが打ち込まれ、それを牽引しているビッグフィッシュの姿が見えた。
「どうやら俺達は敵に捕まっちまったみたいだな‥‥」
「なら、今すぐ殺されるって事はないわけか?」
「馬鹿かお前は。このまま運ばれたって死ぬより辛い目にあうのは間違いないぜ‥‥」
 その兵士の言葉で、命が長らえた事による安堵が絶望に彩られてゆく。
 しかし、彼らの命運はまだ尽きていなかった。
 なぜなら彼らの後方から輸送機の発した救難信号を受けて傭兵部隊が増援に駆けつけてきていたからだ。

●参加者一覧

弓亜 石榴(ga0468
19歳・♀・GP
鯨井昼寝(ga0488
23歳・♀・PN
ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634
28歳・♂・GD
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
新居・やすかず(ga1891
19歳・♂・JG
三島玲奈(ga3848
17歳・♀・SN
御崎 緋音(ga8646
21歳・♀・JG
鹿嶋 悠(gb1333
24歳・♂・AA

●リプレイ本文

 東シベリア海の空を8機のKVが雪を蹴散らしながら飛ぶ。
 そして前方に輸送機を鹵獲したビッグフィッシュを中心とした敵集団を捉えたところで散開。
「各機無線での状況確認を怠るなよ」
 月影・透夜(ga1806)、新居・やすかず(ga1891)、御崎緋音(ga8646)は3時4時の方向へ。
 弓亜 石榴(ga0468)、鯨井昼寝(ga0488)、鹿嶋 悠(gb1333)は8時9時の方向へ。
 ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634)と三島玲奈(ga3848)は距離を置いて6時方向から進攻を開始した。
 だが、部隊を3つに分けて展開している間に敵はCWやMIを内側にした防御型の陣形に整えていた。

「幻覚が見えるってどんな感じか凄い興味があるんだよね。それにビックフィッシュの略称は鯨かー。つまり鯨対決なのか」
 石榴は前を飛ぶ昼寝の雷電の機体エンブレムを見ながらそんな事を考える余裕すらあった。
 その昼寝は雪で視界が悪いのは気合を入れつつ目を見開き、CWの怪音波の頭痛も気合で耐えた。
 気合さえあれば世の中の大半の事は何とかなる。それが彼女の心情だ。
「出来る限り指示はするけど、お互いの位置は皆で譲り合って同士討ちがないようにな〜。‥‥気をつけてな、昼寝ちゃん」
「あぁ、同士討ちへの対策はしてきてある。行くぞ!」
 MIの影響外と予想される地点からナビを勤めるジュエルに応え、昼寝は敵編隊に突入する。
 昼寝の言う対策とはバルカン砲にペイント弾を仕込み、まずそれで攻撃して自機にペイント弾が命中した者は申告するというものだ。
 この対策はほぼ全員が徹底しているが、この策には2つの欠点がある。
 まずバルカンの射程まで敵に近づかなければならない事。
 そのため、その間にHWからプロトン砲が束になって撃ち込まれ、CWの影響を受けている者は満足に避ける事も叶わず、次々機体にダメージを受ける。
 そしてMIの胞子に自ら飛び込まなければならない事だ。

 CWに接近していた昼寝の目の前にいきなりHWが現れた。
「幻覚だ!」
 昼寝はそのままHWに突っ込むと、予想通りあっさりすり抜けた。
 しかし、抜けた先では敵の数が3倍になっていた。
「なっ!」
 一瞬動揺した昼寝だが、すぐに冷静に思考を巡らす。
「敵の数が3倍に見える。ジュエル、そっちはどう?」
「こっちは変化ないよ、昼寝ちゃん。CWは君の左に100だ」
「了解」
 昼寝が指示通りのCWにペイント弾を発射すると、CWに斑の色がつく。
 そしてしばらく待ったが誰からもペイント弾が当たったという申告はない。
「どうやら本物らしいわね」
 確信を持った昼寝はスラスターライフルでCWを撃ち落した。


 真っ直ぐに飛んでいた石榴は何故か急に機体の高度が下がり、海面に衝突しそうになった。
「うわぁっ!」
 慌てて石榴が操縦桿を引くと海面すれすれで何とか上昇する。
 しかし、周りの者達には水平に飛んでいた石榴のイビルアイズが急に上昇を始めた様にしか見えなかった。
「どうしたの石榴? なんで急に上昇したの?」
「えっ? だって海面に墜落しそうになったから‥‥」
「それは幻覚だ。君は今上昇している」
「え?」
 石榴の目には水平に飛んでいる様に見えている。だが身体にかかる重力は確かに斜めだ。
 そして一人上昇し、敵に腹を見せている石榴は恰好の的で、HWから放たれたプロトン砲が次々と命中する。
「キャーー!!」
「高度を下げろ! 狙い撃ちにされるぞ」
「でも、海に突っ込んじゃう!」
「いいから構わず海に突っ込んで!」
「うぅ‥‥えぇーい!」
 石榴は覚悟を決めると高度を下げて目の前に海に突っ込んだ。
 すると、何の衝撃もなく海面を突き抜けたが、潜った先はやはり海中で、目の前では小魚の群が泳ぎ、それを追いかけてペンギンが優雅に泳ぎ廻っていた。
「あ、ペンギン」
 石榴は思わずペンギンの姿を目で追った。
「石榴、今度は何が見えてるの?」
「海の中でペンギンが泳いでるのが見える‥‥」
 石榴の声音はどこか少し楽しそうだ。
「石榴、シベリアにペンギンはいないわ。間違いなく幻覚よ!」
 そうして石榴が幻覚の風景を楽しんでいる間に再びHWから放たれたプロトン砲がイビルアイズに命中。
 その衝撃でコクピットに紫電が走り、石榴が傷を負う。
「くぅっ!」
「石榴! 『ロックオンキャンセラー』を起動させて回避運動に入って。そのままだと撃墜されるわ」
 石榴は昼寝の指示に従って逃げ始めたが、敵の位置が分からないため、その動きも危なっかしい。
「弓亜さん、機体がもう限界だ。離脱しろ!」
 石榴を守るため隣に並んだ鹿嶋の目には石榴のイビルアイズは飛んでいるのがやっとの状態に見える。
「了解、悪いけど後退するね」
 石榴は鹿嶋の援護を受けながら戦闘区域外まで離脱した。


 その頃、3時4時から突入した班もMIの影響を受けていた。
「KVが敵に見えるわ‥‥」
 緋音の目は隣を飛んでいる透夜のディアブロや他の味方も敵に見える様になっていた。
「こういう時こそペイント弾で確認をしっかりしないと」
 MIに照準を合わせてトリガーを引くがバルカンは発射されない。
「これも幻覚?」
 そう思って火器管制を確認するとバルカンの文字が見当たらない。
「‥‥あーー!! 私、ヘルヴォルにバルカン積んでくるの忘れてるぅー!!」
 とんだミスである。
「ど、どうしよう」
「落ち着け緋音。私がナビをする。まず正面のMIは敵だ。撃て!」
「はい!」
 緋音は玲奈の指示に従ってスナイパーライフルを発射。MIの中心を撃ち抜いて潰した。

「なんだ? 景色が歪んで見える」
 透夜は急に視界が歪み、敵の位置が左下方に見える様になった。
「これがMIの幻覚か。視界が信用できないなんて厄介な‥‥」

 新居は2機よりも後方で、戦況把握のため視野を広くとれる高い高度に位置取っていた。
 そこから全体を見渡した限りでは自分の目に異常は感じられない。
「月影さん、僕がナビします。CWは11時の方向、距離250です」
「了解。例え視界が利かなくとも、場所さえわかれば!」
 透夜は新居の指示に従ってバルカンを発射した。
 しかし射線は僅かに反れる。
「右に15度、下に10度修正してください」
 今度は命中し、左下方の見えるCWにペイントがつく。
 そして味方からペイント弾が当たったという申告もない。
 透夜は同じ場所をロックオンして螺旋弾頭ミサイルを発射。
 一見何もない空間で爆発が起こったが、左下方に見えるCWが爆散していた。


 一方、ジュエルと玲奈はビッグフィシュから攻撃を受けていた。
 ジュエルはミサイルの直撃を受けたが雷電の装甲で防ぎきる。
 玲奈もプロトン砲で装甲板を融解させられたものの、損傷は比較的軽微だ。
 しかし敵からの攻撃を避けながらでは味方の監視とナビに支障がでる。
「ジュエル、11時のMIはどれが本体?」
「え、11時のMI? え〜、ちょっと待ってくれよ昼寝ちゃん」
 彼我の距離が開いているためジュエルには全体像は掴めても、細かい指示はすぐには出し辛い。
 そのタイムラグの間に昼寝の雷電にHWから放たれたプロトン砲が次々に命中してゆく。
「くっ!」
 雷電の装甲が融解して内部機構にまでダメージを及び、コクピットに幾つもダメージランプが点灯する。
 各部の機能は既に幾つか作動を停止していたが、まだ戦闘には支障はなかった。
「左10度のMIが本物だ」
 やや遅れてきたジュエルの指示通りにバルカンを発射。ペイントされたMIにスラスターライフルを撃ち込んで潰す。
 これで残り1体。

「三島さん、正面9時のCWは敵ですか? 味方ですか?」
「正面9時? えっと‥‥。うわっ!」
 視線を緋音の雷電に向けた隙に玲奈の雷電がビッグフィッシュのプロトン砲の直撃を受ける。
 回避に専念すれば咄嗟の指示が出せず、味方に目を向けていると敵の攻撃が当たる。
「御崎さん、9時、8時、7時は全て敵です。月影さんは6時の方向、僕は3時の方向にいます」
 玲奈の代わりに新居がナビをしたが、新居もその隙にプロトン砲の直撃を受けた。
 新居のS−01Hのダメージは既に6割を超えており、機体が悲鳴をあげ始めている。
 だが、その間に緋音がCWを潰したため、今までずっと続いていた頭の痛みが消えてスッキリした。
 新居はチラリと下方の透夜のディアブロに目を向けた。
 透夜は左下方のずれた景色を見ながら器用に敵の攻撃を避けている。
 今ならナビは必要ないと判断した新居は機体を降下させてMIに照準を合わせる。
 まずはペイント弾を発射。しばらく待ってからスナイパーライフルを発射。見事MIを撃ち抜いて撃墜する。
「よし、これでCWとMIは全滅だ」
 だが、右舷から接近したHWが発射したプロトン砲が直撃。新居自身も傷を負う。
「ぐぅっ!」
 今の攻撃で機体ダメージは9割を越えた、これ以上は危険だ。
「すみません、離脱します」
「あぁ、お陰で視界はクリアーになった」
「後は私達に任せてください」
 新居は透夜と緋音の援護されながら戦域を離脱した。


「さぁ、これまでのカリ一気に返させてもらうぞ」
 透夜はディアブロの『アグレッシブ・フォース』を発動させると手近なHWをロックオンして残った螺旋弾頭ミサイルを全弾発射。
 体内に撃ち込まれたミサイルの爆発で木っ端微塵になったHWを尻目に次のHWに照準を合わせてヘビーガトリングを掃射。
 無数の穴を穿たれたHWをソードウィングでトドメを刺し、透夜は瞬く間に2機のHWを撃破した。

 ナビの必要がなくなったためジュエルと玲奈も遠距離からスナイパーライフルで援護を開始する。
「そろそろ私にも引金を引かせろ。腕が疼く。今度は私のターンだ」
「好き勝手やってくれたお返しだぜ」
 そしてライフル弾を受けて弱ったところを昼寝の雷電がG放電装置で牽制しながら一気に接近し、すれ違いざまにソードウィングで斬り裂いた。
 しかし、それで倒しきれなかったHWがプロトン砲で反撃。
 昼寝の雷電を直撃し、機体が炎に包まれた。
「しまった!」
 昼寝は咄嗟に消火機構を働かせ、機体を消化剤で覆って炎を消す。
 これで誘爆の危険はなくなった。
「くっ!」
 次いで昼寝はどうにか機体を制御しようと操縦桿を操ったが機体の反応が鈍い。
 その隙にHWのプロトン砲の第二射がコクピット付近に命中。
 キャノピーが破損して強化ガラスが飛び散り、プロトン砲の熱がコクピット内をも焼いてゆく。
 そして昼寝の雷電は海面に向かって墜落し始めた。
「鯨井さん!」
「昼寝さん!」
「鯨井さんっ!」
「鯨井っ!」
「昼寝ちゃーん!!」
 だが海面すれすれでどうにか体勢を立て直し、ギリギリで墜落は免れる。
「ごめん、みんな。ちょっとドジった‥‥」
 少し苦しそうな昼寝の声が無線機から響く
「昼寝ちゃん、今行く!」
 ジュエルはスナイパーライフルをリロードさせると、死に損ないのHWにトドメを刺し、まず昼寝の安全を確保する。
「玲奈ちゃん、悪いけどあとよろしくっ!」
 そして機体を急降下させて昼寝の雷電に横付けた。
「大丈夫か、昼寝ちゃん?」
「あぁ、なんとか、ね」
 昼寝は強がって微笑んだが、体のアチコチに火傷負って血を流す姿はとても無事とは言えず、痛々しかった。

「やってくれたなっ!」
 昼寝がやられた事で激昂した鹿嶋がHWに襲い掛かる。
 正面からプロトン砲が撃ち込まれてきたが『超伝導アクチュエータ』による急激な回避機動で避け、UK−10AAMと螺旋弾頭ミサイルを発射。
 HWが爆炎に包まれたところをスラスターライフルで3連射。
 爆炎がおさまるとボロボロになったHWが現れたが、まだ反撃する力は残していた。
「D02発射!」
 しかし、そこに玲奈がスナイパーライフルで狙撃を行う。
 音速で飛来したライフル弾はHWを撃ち抜き、トドメを刺す。
「やっとスナイパーらしい出番が来たな」
 玲奈はコクピットの中で満足気な笑みを浮かべながら落下するHWを見た。

 透夜とロッテを組んで2機のHWを相手にしている緋音も『超伝導アクチュエータ』でHWの攻撃を避けつつ、牽制のホールディングミサイルを発射。
 その爆発でHWの足を止めたところに透夜がソードウィングで斬り裂き、その間に接近した緋音が近距離から高分子レーザー砲を連射して倒す。
 即席のロッタであるが、十分に機能する連携を行い、敵に反撃する隙さえ与えず最後のHWも撃墜した。
 これで残るはビッグフィッシュのみだ。


 ビッグフィッシュは対空砲を撒き散らしながらミサイルとプロトン砲を放ち、輸送機を盾にする様な機動をとり始める。
 だが、透夜はブーストを使って対空砲火を潜り抜けながら一気にビッグフィッシュに接近し、輸送機を繋いでいるワイヤーをソードウィングで切断した。
「今だ輸送艦。一気に離脱しろ!」
 透夜が通信を送ると、輸送機は慌てた様子でエンジンを吹かし、転進して離脱しようとする。
 ビッグフィシュは逃がすまいとプロトン砲を輸送機に向けるが、その前に鹿嶋の雷電『帝虎』が躍り出た。
「捕まえてくれた仲間、返して貰うぞ!」
 鹿嶋はビッグフィシュのプロトン砲のスラスターライフルを撃ち込んで破壊した。
 続いて一気に接近してきた玲奈の雷電がプロトン砲の傷跡にリニア砲を撃ち込み、ビッグフィシュの内部にまでダメージを与えた。
「リクエストにお答えしてヒロイン参上! 一気にジエンドだ」
 さらに玲奈はビッグフィッシュの側面に回り込むとレーザーガドリングで船体に穴を穿ちながら主翼の裁断も試みる。
 緋音は『超伝導アクチュエータ』で対空砲火を潜り抜け、ビッグフィシュの懐に飛び込むと、船体をソードウィングで横一文字に切り裂いて後ろに回り、高分子レーザーでエンジンの破壊を試みる。
 そしてワイヤーを切った後に上空に登った透夜は『アブレッシブ・フォース』を発動。
 ビッグフィッシュに急降下をかけながらヘビーガトリングを艦橋と思われるところに正射して潰し、激突する前に進路をやや反らし、船体を縦にソードウィングで切り裂いてゆく。
 巨体に似合う耐久力を持ったビッグフィッシュだったが、四方八方からの立て続けの攻撃に晒されては耐え切れるわけもなく、最後は緋音の一撃がエンジンの誘爆を招き、傷跡から炎を上げ、周囲に破片を撒き散らしながら誘爆を繰り返し、大爆発と共に船体を前後真っ二つにしながらシベリア海に沈んでいった。



 その後、傭兵達は機体ダメージの高い者はそのまま帰還し、残りは輸送機の護衛について極東ロシアまで送り届けた。
「今回は数が少なかったからいいが、乱戦で大量に出現したら‥‥もっと効果的な対処法があればいいのだが」
 そして護衛の帰りに透夜が呟く。
 透夜の言葉どおり、この作戦で使用したMI対策はどれも決定打とはなり得ず、十分とは言えなかった。
 もし今後MIと対する事があるなら、より効果的な策を準備する必要があるだろう。