●リプレイ本文
「うっぎゃあ寒ッ! なんつー状況下で遭難してんだ‥‥」
高速移動艇から降りた咲坂 七海(
gb4223)はあまりの寒さに悲鳴を上げた。
「こんな極寒の地でクラウドマンさんは行方知れずなんですか‥‥」
想像以上の厳しい寒さに、リサの安否が心配になった石動 小夜子(
ga0121)の表情が曇る。
「見つかるのが氷漬けのお姫様ってのは遠慮したいよね。永遠に美貌は保てても、そばに居てくれなきゃ何の意味もない」
小夜子を安心させるため新条 拓那(
ga1294)がそっと手を握ってくる。
「ロッキー山脈には登ってみたかったけど、こんな形で来るとは思わなかった」
暁・N・リトヴァク(
ga6931)は感慨深そうにロッキーの山々を眺めていた。
(「俺は大切なことを伝えていない
君が一番大切なんだと
だから必ず見つけ出す
受け継いだもの全てを力に変えて
伝えたい
命を賭けて」)
リサ・クラウドマン(gz0084)が行方不明だと知らされた当初はひどく狼狽したリヴァル・クロウ(
gb2337)だが、今では確固たる決意と揺るぎない想いを内に秘めて立っていた。
「‥‥どうやら大丈夫そうだな」
月影・透夜(
ga1806)は、もしリヴァルがまだ逸っている様なら雪に埋めて頭を冷やしてやろうと思っていたが、取り越し苦労だったらしい。
「使えそうですか?」
雪上でのバイク形態のAU−KVのテストを行っている水無月 春奈(
gb4000)と七海にレイヴァー(
gb0805)が尋ねる。
「これは‥‥かなり運転し辛いですね」
「結構シビアな運転技術が求められそうな感じだ‥‥」
それが少し雪原を走らせてみた二人の感想だった。
「やはり無理ですか?」
「いえ、スピードはかなり落ちそうですけど、ついて行くぐらいならできそうです」
「こけない様にするだけでも神経を使いそうだけどな」
「それは言いっこなしです。リンドヴルムを持っていけるだけまだマシじゃないですか」
二人は互いに苦笑いを浮かべあった。
「雪山に墜落、遭難。オマケにキメラまでいるか‥‥時間との勝負だな。さぁ! 出発しよう」
全員が貸与して貰ったスキー板を履き終えたところで透夜が号令をかけ、8人でまずルイスのS−01改の落着ポイントを目指す。
ピン
出発する直前、レイヴァーはコインを弾き、掌で受けた。
コインは表。
(「コインは嘘をつかない‥‥それでも、結果を紡ぐのは自分達だから」)
レイヴァーは苦笑を浮かべ、心の中でそう呟いた。
「山なら俺の世界だ。しっかりがっちりと、救出者を助けよう」
暁を先頭にして深雪を踏み固めて進む一行。
「幸い山の神様もご機嫌はいいみたいだね。いい天気だ。損ねないうちに早いとこ連れて帰ろうか」
拓那がそう言った1時間後、俄かに空が曇りだした。
「山の天気は変わり易いって本当だな」
厚い雲を見上げて、七海が呟く。
「これは‥‥下手すると吹雪くかもしれないな‥‥」
暁が予言した30分後に雪が降り始めた。
それでも無事にS−01改の落着予想ポイントに到達したのだが、そこにS−01改の姿はなかった。
「ま、予想ポイントですからね〜。多少のズレはあるでしょう」
「俺達は岩龍の落着予想ポイントに向かう。月影、暁、水無月、こことBの小屋の捜索は任せる」
「リヴァル、必ずリサを見つけ出せ。そして見つけたら絶対放すな」
リヴァルは透夜の言葉に深く頷くと背中を向けた。
「春奈、気をつけろよ」
「はい、咲坂さんも気を付けくださいね」
七海は春奈に向けて片手を上げるとAU−KVを走らせた。
3人が捜索を始めておよそ30分後
「‥‥あったぞ!」
透夜が双眼鏡でS−01改を発見した。
だが、機体から脱出ポッドが排出されており、ルイスの姿は見当たらなかった。
機体はエンジンが大破している他はこれといった損傷はない。
「機体の向きから考えて、ポッドがあるのは向うでしょうね」
3人は暁の指し示す方向へ脱出ポッドの捜索を開始した。
しかし、歩き始めてすぐに天候が悪化、吹雪き始める。
「うぅ‥‥さ、寒いです」
AU−KVに乗っている春奈は真正面から雪を受けるため、その寒さは他の二人の比ではない。
その後、完全に吹雪く前に脱出ポッドが見つかったのは幸いだった。
「‥‥いないな」
だが、ポッドの中にルイスの姿はなく、シートにルイスのものと思われる血痕が残っているだけだった。
「ルイスさん、怪我をしてるみたいですね」
血痕はコクピットの中だけで、外にはない。
「自分で治して脱出したんでしょうか?」
「これだけでは確かな事は分からないな‥‥」
透夜がコクピットのコントロールパネルを操作すると、戦術マップが現れた。
「この周辺のマップを確認した形跡があるな」
「二人ともちょっと来てください!」
機体の周辺を調べていた暁から声がかかる。
「足跡が残ってました」
見ると、吹雪のせいで消えかかっているが、点々と足跡がついている。
「方向はBの小屋の方です」
「ルイスさんはBの小屋にいるって事ですか?」
「S−01改のレコーダーを回収したらすぐに向かおう」
3人は吹雪の中ではぐれない様にカラビナとロープで身体を繋ぎ合い、暁を先頭にして出発した。
「さ〜て、むこうは、お姫様を見つけたかな?」
暁は顔を覆う橙色のスカーフを直しながら小さく呟いた。
その頃、残りのメンバーも岩龍の落着予想ポイントに到着していたが、そこに岩龍は無かった。
「見果てぬばかりの銀世界、か。これだけ真っ白ならそれ以外のモノはすぐ見つかりそうなもんだけど‥‥」
拓那が双眼鏡を取り出して周囲を見渡したが、やはり見つからない。
「俺達はこのままCの小屋に向かう。アル、石動、岩龍の捜索とAの小屋の調査を頼む」
「リヴァル」
レイヴァーがリヴァルを呼び止めた。
「そんな顔してたら、リサさんが怖がるぞ?」
出発時には精悍な顔付きだったリヴァルだが、今では悲壮な色に染まっている。
それは捜索をしている内に頭に何度も最悪事態がよぎり、心が締め詰められたせいだ。
「大丈夫だ、絶対見つかる。だからお前はリサさんをどうやって迎えるか考えとけ」
「そうそう。もうこの際、思いっきり抱き締めてキスしちゃってもいいんじゃない」
「まぁ」
拓那がからかい、隣で小夜子が顔を赤らめる。
「い、いやっ! 今は非常事態であるし、そんな事をしている場合ではないというか、その、なんだ‥‥」
「やっぱり今探しているリサって人はリヴァルの恋人だったのか。どうりで‥‥。でもキスする時間ぐらいあるだろう。俺は二人の感動の再会に水を差すつもりはないし、イチャイチャしてくれても別に構わないぞ」
七海が真顔で言う。
「俺も全然気にしないよ。影からこっそり覗きはするけどね」
拓那が七海に同調してニヤニヤと笑う。
「いやっ! ち、違うっ! 俺達はまだ、その‥‥こ、恋人同士ではない。俺はまだ‥‥想いを告げては、いない。‥‥だから見つけ出す! 絶対に! 必ずだ!」
リヴァルはそう宣言すると背を向けて進み始めた。
「何時もの調子を取り戻したみたいだな」
安心したレイヴァーが微笑を浮かべる。
「じゃ、俺も行くね小夜ちゃん」
「はい、拓那さん。お気をつけて」
そう言う小夜子の顔はどこか不安そうに曇っている。
「‥‥小夜ちゃん。リサさんもルイスくんも無事に見つかるし、俺も小夜ちゃんの所にちゃんと帰ってくる。絶対悪い結果にならないから大丈夫だよ」
拓那は身をかがめて正面から小夜子を見つめ、優しい微笑みを浮かべて励ました。
岩龍の捜索を始めたレイヴァーと小夜子だが徐々に天候が悪化し、遂に吹雪になってしまう。
それでも二人は捜索を続け、1時間後、雪の上に岩龍が不時着時に刻んだらしい跡を発見し、その先で岩龍も発見した。
岩龍はエンジンを被弾していたが誘爆はしなかったらしく、ほぼ無傷の状態だ。
しかしコクピットにリサの姿はない。
「でも、これでリサさんが生きている事は証明されましたね」
「はい、よかったです。本当によかった‥‥」
二人の顔に思わず安堵の笑みが零れる。
「でもクラウドマンさんは何処に行かれたんでしょうか?」
「コクピットを調べてみます」
岩龍での被撃墜経験のあるレイヴァーがコクピットに乗り込む。
「‥‥戦術マップをずいぶん弄った形跡がありますね。このポイントは‥‥S−01改の落着ポイントだな」
「クラウドマンさんはルイスさんを助けに行ったって事ですか?」
「おそらくは‥‥周囲に足跡が残ってないか調べましょう」
「はい!」
二人で雪の上を調査すると、S−01改の落着地点の方へ続く足跡を発見する事ができた。
「これでほぼ間違いないですね。リサさんはきっとルイスさんの救助に向かったんでしょう」
「なら、クロウさん達を呼び戻して全員で捜索した方が」
「いえ、リサさんがCの小屋に向かった可能性も0じゃありません。Cの小屋も捜索しておいた方がいいでしょう」
「では、せめてクロウさんにクラウドマンさんが無事な事だけでもお伝えします」
小夜子は無線機で通信を試みたが、吹雪のせいか応答は返ってこなかった。
「そんな‥‥」
その頃リヴァル達は雪原に身を伏せ、黒い巨体の狼型キメラをやり過ごそうとしていた。
(「小屋まで後少しだというのに、こんな所で足止めを喰うなんて‥‥」)
どんどんと焦りが膨らんでゆくが、黒い狼型キメラは何頭もの雪狼型キメラも引き連れている。
こちらは3人、明らかに戦力不足だ。
そしてキメラ達が十分に離れた頃を見計らって身を起こす。
「よし、行こう」
吹雪の中の行進を再開した3人は30分後に小屋に到着。
まず出入り口の床を調べたが、足跡などはまったくついていない。
「誰かいるか。救援に来た、返事をしてくれ」
呼びかけても返答はない。
扉を開けてもまったく人の気配はない。
ランタンで室内を照らすと、一目で数ヶ月は使われていない事が見て取れた。
「誰もいないみたいだな」
「どうしてだ? リサはここには来ていないのか? それともまだ岩龍のコクピットにいるのか? いや、もしかしたら道に迷っている可能性もある。今もこの周辺にいるかもしれん! 急いで捜索を!」
「待ったリヴァルくん」
外に飛び出そうとしたリヴァルを拓那が引き止めた。
「俺達も身体が冷えてしまっている。周囲の捜索をするにしても一旦身体を暖めてからの方がいい」
「‥‥くっ、分かった」
リヴァルはしぶしぶ引き下がり、3人はポットセットで暖めたコーンポタージュやウォッカで暖をとってから周囲の捜索を開始した。
一方、吹雪の中Bの小屋に向かっていた3人は前方が妙に明るい事に気がついた。
「なんでしょうか?」
近づくとその原因が分かった。
それはBの小屋が炎上して発している光だったのだ
「なっ、なんで小屋が燃えてるんだ?」
あまりにも予想外の光景に3人は唖然となる。
だが、すぐに我に返って駆け出した。
AU−KVで先行した春奈が小屋の手前でリンドブルムを変形させて身に纏い、炎に巻かれた小屋の扉を蹴り開ける。
すると、中から炎を纏った雪狼型キメラが飛び出し、雪の上で暴れだした。
その数4匹。
透夜と暁はすかさずそれぞれの武器をキメラに突き立て、2匹ずつ息の根を止める。
「ルイスさん! リサさん! いらっしゃいませんかっ!?」
その間に春奈が呼びかけながら小屋の中を確認したが、幸い炎が逆巻く小屋の中に二人の姿はなかった。
「いったいどうなってるんだ?」
「とにかく小屋を調べましょう」
まだ戸惑いを残したままの3人が小屋の周囲を調べると、小屋の裏で血痕と足跡が見つかり、点々と続いていた。
「これは?」
「リサかルイスの血だろうな? どうやら小屋がキメラに襲われたため、火をつけて逃げたみたいだな」
血痕の上には窓があり、ナイフが突き立っていて開かない様に固定されていた。
「血も足跡もまだ新しいですね」
「なら、そう遠くには行ってないな。追うぞ!」
「はい! 私、先に行きますね」
「頼む!」
春奈はリンドブルムをバイク形態に戻すと、限界ギリギリのスピードで足跡と血痕を辿った。
しばらくするとどちらも雪に紛れて分からなくなったが、春名はそのまま直進を続ける。
「ルイスさ〜ん! リサさ〜ん! いらっしゃいませんかーーー!!」
そして大声を上げながら走っていると右手前方で何かが動いた気がした。
咄嗟にそちらにハンドルを向けて走ると、ライトの光に照らされて2人の人間の姿が浮かび上がった。
それは、険しい表情でスパークマシンαを構えるリサと、脇腹の傷を押さえながらS−01を構えるルイスだった。
「リサさん!!」
春奈はリンドヴルムから飛び降りると、満面の笑みを浮かべてリサに駆け寄った。
「え? 春菜さん? どうしてここに?」
一方のリサはここに春奈がいる理由が分からなくて戸惑っている。
「そんなの助けに来たからに決まってるじゃないですかっ!」
春奈はちょっと怒った顔でリサを睨むと無線機を取り出した。
「要救助者発見しました。二人とも無事です!」
『そうか!』
『やっほー!』
返ってきたのは透夜と暁の声だけなので、他のみんなの所までは電波が届かないようだ。
けれど、すぐに透夜が照明弾を2発連続で空に上げ、『2名発見』の合図の送ってくれた。
吹雪は何時の間にか止んでおり、雲間からは光が射していた。
それから一同は高速移動艇で合流する事になり、最後に到着したのはリヴァル達だった。
「リサっ!」
リヴァルは高速移動艇に乗り込むなり、リサの姿を探した。
「あ、リヴァルさん」
リサは座席に座り、毛布に包まりながら暖めたウォッカを飲んでいたが、リヴァルの姿を見て嬉しそうに笑った。
「リサっ!」
リヴァルは駆け寄り、思いっきりリサを抱き締めた。
意識しての行動ではない、リサの姿を見、声を聞いた瞬間、身体がそう動いていたのだ。
「え? リヴァルさん!? あの? いきなり、そんな‥‥ウォッカが、その‥‥」
リサは突然の事に気が動転し、ウォッカが零れそうとか、そんな事を気にしながら顔を赤らめた。
「‥‥リサ。良かった‥‥本当に良かった。もう失うわけにはいかないんだ。大切だと思う人を」
「心配かけてごめんなさい、リヴァルさん。私‥‥」
けれど、リヴァルの本当に安堵した声音を聞いて、リサもそっと抱き締め返した。
「あ〜あ、俺も会いたいなぁ〜」
それを見ていた暁が自身の恋人を想って呟く。
拓那と小夜子はそっと寄り添い、顔を見合わせて微笑み合う。
「えっと‥‥私、こちらのほうにあまり来たことが無いので景色を眺めてきますね。咲坂さんも一緒にどうですか?」
「いいよ、行こう」
「じゃ、俺達も」
皆が2人っきりしてあげようと気を利かせて出てゆく。
2人はそれに気づかず、互いの温もりを感じながら幸せそうな顔で抱き合っていた。
その後、UPCはKVの回収のため部隊を送ったが、2機は跡形もなく消えていたという。