タイトル:【弐番艦】浮遊する砲台マスター:真太郎

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/26 04:38

●オープニング本文


 ――ラスト・ホープにあるドローム社。
 緑溢れる敷地には、ナイトフォーゲルの整備工場を兼ねた社屋を挟むように、ハの字に滑走路が延びている。
 ハの字の右側の長い滑走路に、武装巨大輸送機ガリーニンとS−01Hが停められていた。
「ブラッド准将のお力添えには感謝の言葉もありませんわ」
 青いビジネススーツに身を包んだミユ・ベルナール(gz0022)は、整備工場からガリーニンへ運ばれるメトロニウム製のコンテナを、感慨深く見つめていた。
「主力であるUPC北中央軍の戦力が大幅に増強されるのであれば、本部も協力は惜しみません」
「ようやく未来研から届いた重力制御エンジン。これをオタワまで運ぶのは、高速移動艇では心許ないですからね」
 メトロニウム製のコンテナの中身は、未来科学研究所より提供された一機の重力制御エンジンだ。これをハインリッヒ・ブラット(gz0100)がチャーターしたガリーニンでUPC北中央軍の本部オタワまで運ぶのだ。
「流石に3機のガリーニンをこちらへ回すのは容易ではありませんでしたが」
 彼の口振りから、UPC北中央軍のヴァレッタ・オリム中将もUPC本部へ何らかの圧力を掛けたと思われた。
「指示通りに、1機のガリーニンはサンフランシスコ・ベイエリアへ回しましたが、重力制御エンジンの他のパーツも、同時にオタワへ運ばれるのですね」
「ええ。サンフランシスコ・ベイエリアで開発した艦首ドリルと、製造プラントで完成させた副砲、これにオタワで復元を終えたSoLCを搭載すれば、『ユニヴァースナイト弐番艦』は完成します」
 これらのパーツは、オタワでバグア側に秘密裏に建造されているユニヴァースナイト弐番艦の主武装だ。
 ユニヴァースナイト壱番艦は各メガコーポレーションの共同開発だが、弐番艦はドローム社とUPC北中央軍とで開発している。その為、大きさは壱番艦の4分の1程度であり、重力制御エンジンも一機のみの搭載だ。
 オリム中将からすれば、UPC北中央軍の戦力を増強する事が最優先であり、だからこそドローム社がユニヴァースナイト弐番艦の建造を打診した時、二つ返事で承諾したのだろう。

 ラスト・ホープより重力制御エンジンがオタワへ運ばれると同時に、サンフランシスコ・ベイエリアより艦首ドリルが、ドローム社の製造プラントより副砲もオタワへ向けて輸送される。
 ドローム社はこれらの輸送隊に能力者の護衛を付ける事とした。

 その内、3つの副砲はアメリカ西部でトレーラーに詰まれ、ロッキー山脈を越え、現在、地球軍とバグアの競合地域をひた走っていた。
 天候は生憎の雨。
 道路に溜まった雨水がタイヤで飛沫を上げ、窓の上で左右に揺れるワイパーが窓を叩く雨粒を散らしてゆく。
 昼なお暗い、風雨で煙る道路を走るトレーラーの数は5台。
 内3台には副砲が詰まれ、残り2台がダミーだという話だが、その3台に本当に副砲が積まれているのか、それを知る者は実はこの一行の中には一人もいなかった。
 彼らはこのトレーラーを無事にオタワまで輸送せよ、という指令を受けているだけで、トレーラーの中で厳重に梱包されている荷物の中身まで確認した者は誰もいないのである。
 そんな5台のトレーラーの前後には1台ずつ装甲車が護衛についている。
 装甲車にはSES搭載の大口径ガトリング砲が装備されていた。

「いやな雨だな。こう視界が悪くちゃ敵が近くにいても分かるかどうか‥‥」
 最後尾のトレーラーの運転手が助手席の仲間に話しかける。
「不吉なこと言うなよ。大丈夫だって、もし敵が現れても傭兵達が退治してくれるよ。あいつらはそのためについて来てるんだからな」
「そうだな。ま、敵が現れないに越した事はないんだが‥‥」
 2人でそんな会話をしていた、その時

 キュルルルルル

 急にトレーラーのタイヤが空転する音が車内に響く。
「おい! どうした?」
「わ、分からん。いきなりアクセルもブレーキも効かなくなった」
「なんだって?」
「ハンドルも効かないぞ。なんだこれは?」
「まさか、ハイドロプレーニング現象か?」
 慌てる運転手に助手席の仲間が自分の知識から拾い出した仮定を口にするが、残念ながらそれは外れだった。
 なぜなら、不意に彼らの乗るトレーラーが浮かび上がったからである。
「うわぁぁ!!?」
 そこでようやくトレーラーの後ろを追走していた装甲車の運転手も異常に気づいた。
 そして射手が慌てて天窓を開け、雨に打たれながら身を出すと、徐々に宙に浮かんでゆくトレーラーが目に入る。
「なんだこれは‥‥」
 一瞬、呆然とその光景に見入る射手だったが、よーく目を凝らすとトレーラーの上空、雨の幕の向こうに何か巨大で半透明なモノが見えた。
「‥‥クラゲ?」
 そう、それは全長4メートルにも達しようかという巨大なクラゲだった。
 そのクラゲが触手を伸ばし、トレーラーを吊り上げているのである。
「敵襲!! 敵は上空から来たぞ! でっかいクラゲだ!」
 装甲車の運転手は無線機で各車両に呼びかけ、射手はすぐに大口径ガトリング砲で攻撃を開始する。
 しかしSES搭載のガトリング砲とはいえ、一般兵の攻撃ではフォースフィールドは破れず、弾は全てクラゲの表面で弾かれた。
 しかも、クラゲは1匹ではなく、上空から次々とやって来ている。
「くそっ! 出番だ傭兵!! あいつらを蹴散らしてくれ!!」

●参加者一覧

新居・やすかず(ga1891
19歳・♂・JG
シリウス・ガーランド(ga5113
24歳・♂・HD
魔神・瑛(ga8407
19歳・♂・DF
フィオナ・フレーバー(gb0176
21歳・♀・ER
文月(gb2039
16歳・♀・DG
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
フェイス(gb2501
35歳・♂・SN
ランディ・ランドルフ(gb2675
10歳・♂・HD

●リプレイ本文

「敵襲! 敵はコンテナを奪おうとしている! 早期対処を!」
 最後尾の装甲車とAUKVで並走していたランディ・ランドルフ(gb2675)が目の前で浮き上がってゆくトレーラーを目の当たりにし、無線で警告を発する。
 その無線を聞きつけた仲間達がそれぞれの車両の窓から顔を出して状況を認識すると、すぐにトレーラーの上に登って迎撃体制を整え始めた。
(「ん〜‥‥どうしよう。今まで隠してたけど私――高所恐怖症なのよね。高いとこに連れてかれたらまずいなぁ‥‥あはは‥‥はぁ‥‥」)
 2号トレーラーの屋根に上ったフィオナ・フレーバー(gb0176)は自分が高所へ上がる様を想像して悪寒を感じながらも『練成強化』を使って仲間の武器を強化してゆく。
「つッ‥‥雨で視界が悪いとはいえ、ここまで接近を許してしまうとは」
 最前部の装甲車と並走していた文月(gb2039)はすぐにAUKVをその身に纏うと、脚部のタイヤで走りながら徐々に後退し、3号トレーラーに取り付いて屋根に上る。
 ランディもAUKVを身に纏うと『竜の翼』を使い、脚部からスパークを撒き散らしながら浮き上がる5号トレーラー目掛けてジャンプした。
「届けー!」
 精一杯手を伸ばして何とか縁に捕まり、屋根に上がる。
「さて、悪いけど撃ち落させてもらいます」
 そしてスコーピオンを抜くと、キメラに向けて引き金を引いた。
「そう簡単には渡さねえぇぜ!」
 取り付かれた5号車に便乗していた魔神・瑛(ga8407)はトレーラーに絡み付いている触手を斬り払い始めた。
 だが、触手は斬った後も次々と伸びて絡んでくる。
「くそっ! キリがねぇな。なら、コイツはどうだっ!」
 魔神はクロムブレイドに練力を流し込み、直上のキメラ本体に向かって『ソニックブーム』を撃ち放つ。
 その不可視の斬撃はキメラの体表を切り裂き、その傷から漏れた体液がボトボトと降り注いでくる。
「よし! 効いてるぞ」
 魔神に続き、5号車に同乗していたリヴァル・クロウ(gb2337)もアサルトライフルを構えて銃撃する。
 さらに4号トレーラーの上からはシリウス・ガーランド(ga5113)も援護射撃を加え、フェイス(gb2501)がフィオナの『練成強化』の影響で淡く光るアラスカ454に貫通弾を装填して狙撃。
 その一撃を受けたキメラの体表は大きく抉れ、体液が辺りに一面に飛び散ってゆく。
「‥‥凄いですね、これ」
 想像以上のダメージを目の当たりにして、フェイスは初めて体感する『練成強化』の効果に思わず呟いた。
 3号トレーラーからも『竜の瞳』と『竜の爪』を使った文月のスナイパーライフルD−713と新居・やすかず(ga1891)のアンチシペイターライフルによる援護狙撃が行われる。
 だが、キメラもやられてばかりではなく、トレーラー上に向かって水弾を放ってくる。
 魔神はうまく避けたが、リヴァルは避け損なって頭に喰らう。
「くぅ! 今のは効いた‥‥。だがまだいける!」
 リヴァルはくらくらする頭を振って意識を集中させると射撃を再開する。
 そして魔神が3発目の『ソニックブーム』でキメラを切り裂いた直後、急にキメラの動きが鈍くなり、浮上も止まった。
「やったか?」
 魔神の呟きを証明するようにキメラの身体グニャリと歪み、今度は降下を始めた。
「よし、仕留めた」
 その降下スピードはキメラの死骸がパラシュート代わりとなってるため比較的ゆっくりだが、トレーラーに絡んでいる触手も緩んできているため、あまり長くは保ちそうにはない。
 魔神とリヴァルはある程度の高度まで下がった所で地面に飛び降りた。 

 水弾の攻撃は他のトレーラーにも行われており、2号車のフィオナは1発目は避けたものの、雨に濡れた床に足をとられ、2発目の直撃を受けて地面まで吹っ飛んだ。
「あぅっ!」
 幸い上手く受身をとったのでダメージはないが、服が泥だらけになった上、トレーラーからも離された。
 しかも、2号車には既にキメラが捕り付き始めている。
「しまった!」
 痛む体を抑えてフィオナは慌てて戻ろうとするが、キメラが触手を振るってくるため迂闊には近寄れない。
 そうしてフィオナが攻めあぐねている間にトレーラーは宙に浮かんでいった。
 幸いそのトレーラーにはダミーしか積まれていないはずだが、フィオナの胸には悔しさが滲む。
「うぅ‥‥悔しいぃ! でも、ちょっとラッキーかも‥‥」
 ただし、悔しさと同時に高所に行かなくて済んだ安心感も感じているフィオナだった。
 だが、そんな事を考えている間もキメラから水弾が飛んでくる。
「うわぁ〜ん!! やっぱりラッキーじゃな〜い!!」
 フィオナは前言撤回して泣き叫びながら、必死に逃げ回った。
 こうしてフィオナは1号と2号車のキメラに狙われ続け、何度も水弾の直撃を受ける事になった。
 それでも『練成強化』や『練成弱体』で仲間達をサポートし続けたのはさすがである。

 その頃、4号車もキメラに捕り付かれており、フェイスとシリウスが迎撃にあたっていた。
「貴様らなどにこれを渡す訳には行かぬ!!」
 降り注ぐ水弾を避けながらアサルトライフルを掃射するシリウス。
「毎度毎度、面倒な物を繰り出してくれますね」
 フェイスも轟音を響かせながらアラスカ454をぶっ放っている。
 そして、キメラの直上からは5号車から『竜の翼』で跳躍してきたランディがスコーピオンを乱射しながら降ってきた。
「そのコンテナはみんなの希望なんだ。君たちに持っていかれては困るな」
 ランディはそのまま落下中にサーベルを抜き、キメラに突き立てて切り裂きながら4号車に着地する。
「う〜ん、単分子カッターとかビームコーティングサーベルとか、そういう武器がほしい‥‥」
 どうやらアニメファンのランディにはただのサーベルでは物足りないようである。
 3人はやすかずと文月からの援護射撃を受けながら、さらに攻撃を続け、あと一息という所までキメラを追い詰めたが、そこでキメラは攻撃方法を水弾から触手に切り替えた。
「くそっ! 近寄るな!」
 次々と伸びてくる触手をシリウスやランディはナイフやサーベルで斬り払って防いでいたが、フェイスはアラスカ454が弾切れの瞬間に絡みつかれてしまう。
「しまった!」
「フェイス!」
 そしてフェイスを助けようとしたシリウスも隙をつかれて絡みつかれてしまった。
「ぐうっ!」
 ギリギリと締まってくる触手の攻撃に、フェイスは苦悶の表情を浮かべたが、苦痛は腹の底に押し込めて、アラスカ454をリロードし、銃口をキメラに向ける。
「沈みなさい。空が住処には見えません」
 そして『強弾撃』で威力を上げた弾丸を再びキメラに向かって撃ち放った。
 轟音と共に銃口から迸ったマズルフラッシュが雨で煙った空間を一瞬白く染め、次々と弾丸がキメラに吸い込まれてゆく。
 着弾点からは大量の体液が噴き出し、キメラ全体が激しく震え、次第にグニャリと歪み始める。
 そして二人を拘束している触手も緩み、トレーラーも下降し始めた。
「どうやら倒せた様だな」
「えぇ、そうみたいですね」
 シリウスの問いにフェイスは薄く微笑んで答えると、ポケットからタバコを取り出して火をつけ、肺いっぱいに吸い込む。
「ごほっ! ごほっ!」
 すると、触手で締め付けられた体が痛み、思わずむせてしまったが吸い込んだタバコは格別にうまかった。

 そうして4号車のキメラも倒された頃、3号車でも戦闘が始まっていた。
 文月が援護射撃のために使っていたスナイパーライフルから真デヴァステイターに持ち替え、戦闘開始から使い続けている『竜の瞳』と『竜の爪』の影響で頭部と腕部にスパークを纏いながら、特殊弾頭をキメラに撃ち込んでゆく。
 その隣ではやすかずが重くて長いアンチシペイターライフルを、まるで自分の手足の如く巧みに扱い『強弾撃』を撃ち放っている。
 さらに上空からは再び『竜の翼』で跳躍してきたランディがスコーピオンで弾をばら撒きながら降って来る。
 だが、3号車への着地体制に入ったランディの眼前に猛スピードで水弾が迫ってきた。
「えっ? なに? ちょっと待って!」
 空中で回避もままならないランディは水弾の直撃を受けて吹っ飛んだ。
 ランディはそのまま森に降下し、何本も木々や枝をへし折りながら地面に激突。
「ぐはっ!」
 なんとか受身はとり、ダメージは最小限度に留めたものの、AUKVを纏っていなかったら全身に傷を負い、確実に骨折ぐらいはしていたところだ。
「はは‥‥。AUKV様さまだ」
 ランディは苦笑を浮かべると、痛む体と軋むAUKVを無理に起こして立ち上がる。
 地上からもリヴァルがアサルトライフルを構えて狙撃し、魔神も3号車の真下まで走りこみ、キメラに向かってハンドガンを発砲する。
「格闘戦だけが俺の持ち味じゃないんだよ!」
 しかし、それだけの銃撃を受けてもキメラは依然健在で、トレーラー上の文月とやすかずに水弾を放ってくる。
 2人はなんとか身をかわしつつ射撃を続けていたが、水弾は3号車の右手上方で浮かんでいる2号車のキメラからも飛んできた。
「くっ!」
「あうっ!」
 その攻撃までは避けきれず、肩に水弾を喰らったやすかずはアンチシペイターライフルを取り落としそうになり、体に直撃を受けた文月は背中から倒れこむ。
 そしてそのままトレーラーの縁まで滑り、あわや転落しかけたが、床に指を突き立てて滑る体を無理矢理止め、どうにか堪えた。
「どうやらAUKVの重量に助けられたみたいですね」
 トレーラーの縁から除く、地上から遠く離れた眼下の景色を見た文月は額に冷や汗を浮かべた。
 だが、すぐに気を取り直すと、文月は床に倒れたまま真デヴァステイターに残っていた弾丸を全てキメラに撃ち放つ。
 キメラも反撃して水弾を放ってくるが、それを転がって回避する。
 さらに転がっている最中に真デヴァステイターをリロードすると、そこから膝立ちになり、再び『竜の瞳』と『竜の爪』を発動させ、キメラに真デヴァステイターの特殊弾頭を撃ち放つ。
「一台たりとも持って行かせはしませんッ!」
 やすかずも肩の痛みは無視してアンチシペイターライフルを構え直すと、傷を負う前とまったく変わらぬ正確な射撃で『強弾撃』をキメラに撃ち込んでゆく。
 今、やすかずの脳裏には、かつて自分が守るべきはずだったガリーニンが大破しながら海に落下してゆく光景がよぎっていた。
「そう何度も後れを取る訳にはいきません! このコンテナはどんな事があろうとも守り通します」
 そしてやすかずも全弾撃ちつくし、手早くリロードして再び構え直して狙いをつけ時、不意にキメラがグニャリと歪み、どぼどぼと体液を零し始めた。
 それと同時にトレーラーの上昇も止まり、今度は下降を始める。
「なんとか倒せましたね」
 AUKVのヘルメット越しなので、やすかずには見えていないだろうが文月が微笑む。
「はい。でも、まだ敵は残っています。行きましょう」
 雰囲気で察したのか、やすかずも文月に微笑み返し、トレーラーの高度がある程度まで落ちたのを見計らって2人は地上に飛び降りた。

 一方、地上ではリヴァルと魔神が残りのトレーラーの元に走っていた。
 そして地上で泥だらけになりながら必死に水弾を避けているフィオナを見つける。
「フィオナ! なんでお前がここにいる?」
「私だっていたくているんじゃないわよ。でも落っこっちゃったんだもん。仕方ないでしょ!」
 リヴァルが尋ねるとフィオナは逆ギレ気味に答えた。
「お前‥‥」
「ほら! そんな事よりも『練成強化』かけてあげるから早く撃って撃って」
 怒りと呆れが混ざった顔をしているリヴァルにフィオナは上空のキメラを指差す。
 リヴァルは言いたい事は山ほどあったが、それは後回しにする事にして、『練成強化』で淡く光るアサルトライフルで2号車のキメラを狙う。
「だめだ、もう射程外だ」
「だったらアッチ。アッチ狙って!」
 リヴァルはフィオナの言うとおり、まだ比較的高度が低い1号車のキメラを狙って引き金を引く。
 魔神もハンドガンが届かないと分かると、装甲車のガトリング砲に取り付いて上空のキメラを狙った。
「そいつは持って行かせねぇぞ!!」
 続いてフェイスとシリウスも到着し、フェイスはフィオナに『練成強化』されたアラスカ454で『狙撃眼』を使って狙い撃つ。
 その後、やすかず、文月、ランディも到着し、それぞれの武器でキメラを狙うが、届くのはやすかずのアンチシペイターライフルのみ。
「くっ‥‥」
 文月が『竜の息』を使っても、もうギリギリ届かない高度で、文月は悔しそうに歯を噛み締める。
 そして、フェイスとやすかずが『狙撃眼』を使って最後まで攻撃を続けたが、結局1号トレーラーのキメラを倒す事は叶わなかった。
 こうして2台のトレーラーと2匹のキメラは8人が見上げる空をゆらゆらと漂いながら、雨雲の中に消えていった。

「ちっくしょう!! まんまとキメラに持っていかれちまった!!」
 魔神が苛立たしげに装甲車を殴る。
「でも、あの2台に積んであるのはダミーなんだから構わないんじゃないの?」
「いや、あのトレーラーに積まれていたのが本当にダミーなのかどうか誰も確認しておらんのだ。もしかすると、本当はダミーと教えられていた方が本命だったという事もあるやも知れん。楽観はできんぞ」
 ランディの楽観論にシリウスが慎重論で答える。
「いいえ、あのトレーラーに積まれていたのは本当にダミーですよ」
 その時、3号車から降りてきた男が8人に向かってそう言った。
「アンタは?」
「私は弐番艦の製作に関わっている者の一人で、この輸送隊の責任者です。本当は身分を明かすつもりはなかったのですが、皆さんが少し疑心暗鬼になっておられるようなので名乗らせてもらいました。よければトレーラーの中も少しお見せしましょうか?」
「いいのですか?」
「本当はダメなんですけど、オタワまでまだ距離がありますからね。その間も皆さんに護衛してもらわなければいけませんし。疑心を持たれたままでは困りますからね」
 男はそう言って笑うと、トレーラーのコンテナを開いて、傭兵達に見せる。
 薄暗いコンテナの中には、確かに黒光りする3本の砲身を突き出した重量感満点の砲台が鎮座していた。
「これがユニヴァースナイト弐番艦の副砲『三連装衝撃砲』です」
「おぉ〜‥‥」
「でっか〜い」
「すげぇ〜」
 男が得意気に説明する副砲に8人の目は釘付けになり、何人かが感嘆の溜め息を漏らす。
「納得していただけましたか?」
「あぁ、疑って悪かった。もう1台たりともバグアには渡さねぇ。大船に乗った気でいてくれ」
 魔神が親指を立てて笑う。

 こうして3台に減ってしまったトレーラーだが、再びオタワに向けて出発した。
 何時の間にか雨も上がっており、雲間から射す太陽の光が一行の道先を明るく照らしてくれていた。