●リプレイ本文
●撤退準備
兵士達が次々と車両に乗り込んで出口に向かい、工兵が爆薬を持って走り回る最中、傭兵達も迎撃準備に追われていた。
新居・やすかず(
ga1891)、OZ(
ga4015)、宗太郎=シルエイト(
ga4261)、砕牙 九郎(
ga7366)が地殻変化計測器を設置するために各所を走り回る。
飯島 修司(
ga7951)と六堂源治(
ga8154)がフレア弾を担いで、それぞれ大広間の中央にある円柱状の端末と北通路入り口に設置した。
それらの作業が終わると班ごとに分かれ、それぞれの通路に散ってゆく。
「よ〜し、きたきた!」
宗太郎のスカイスクレイパーの戦術レーダーに地殻変化計測からの情報が続々と届く。
現在一番近い敵は東に1体。次いで南と西に2体。続いて東と南に3体ずつ、西には2体の計11体が確認された。
「1ヶ所にこれだけの数のアースクエイクを投入してくるとは、この辺り一帯のアースクエイクのほとんどが集まったかのようで、過剰戦力にも程がありますよ」
レーダー上で3方から徐々に近づいてくる光点を見たやすかずがうんざりした声で呟く。
「各機とデータリンク完了。続いてECM作動。C班準備OKだ」
「各班、配置状況を伝えてください」
宗太郎の準備が整ったのを受けて、全体指揮と援護を受け持つC班のやすかずが各班に無線を飛ばす。
「E班配置完了です」
「うひゃは、アースクエイクを殺れて基地の爆発まで見れんなんて最高! けーやくして正解だな」
東の通路を防衛するE班の修司の声の後に、同じくE班のOZの浮かれた声も無線から響く。
「W班も配置完了です。アースクエイクをまとめてこの基地にぶつけてくるだなんて‥‥かなり厳しいですね‥‥。とにかく今は時間を稼がないと‥‥!」
「折角確保した基地‥‥放棄は勿体無いッスけど、命あってのモノダネっす。スタコラサッサと逃げるッスよ〜」
西の通路を防衛するW班の九条院つばめ(
ga6530)が緊張した固い声を発し、源治も自身の緊張を和らげるためワザと軽口を叩く。
「S班も配置完了だ。だが、せっかく苦労して手に入れた敵基地をこんな形で放棄することになろうとはな‥‥。まあ、この借りは何時の日か別の形で返させて貰うことにしようか」
「さぁ、気ぃ引き締めていくぜ! こんなとこで死ぬわけにはいかねぇしな」
南の通路を防衛するS班の榊兵衛(
ga0388)が無念そうに呟き、九朗の気合の入った声がみんなの元に届く。
そして、緊張感が満ちる中、遂にE班の射程内にアースクエイクが姿を現した。
●東通路
「おっしゃぁ〜!! いっくぜぇーー!!」
OZの雷電が装備するミサイルポッドの蓋が開き、薄い煙の尾を引きながら計90発の小型ミサイルがアースクエイクに降り注ぐ。
アースクエイクの体表が無数の爆発に包まれ、通路内に何度も爆炎が瞬き、爆音が響き渡る。
それでも接近してくるアースクエイクにOZはさらに残りのミサイルも浴びせかけた。
「すっげぇー! これだけのミサイル喰らってもまだ動いてやがるぜっ!!」
修司はボロボロになりながらも突進してきたアースクエイクの巨体の前に立ちふさがり、機体の重心をやや下げる。
そしてハイ・ディフェンダーでアースクエイクの身体を斜め下から受けながら機体を滑らせて受け流し、そのままロンゴミニアトで切り裂き、突き刺し、抉り、最後に液体火薬を炸裂させてアースクエイクの息の根を止めた。
「まずは1匹」
(「うぉ! このおっさん強ぇじゃん。ヤバかったらガチで逃げるつもりだったが。けけっ、こりゃあコイツについてきて正解だったかな」)
地響きを立てて倒れ伏し、しばらくピクピク蠢いていたがすぐに動かなくなったアースクエイクを見て、OZが内心でニヤリを笑う。
だが、休む間もなく既に2匹目のアースクエイクが1体目のアースクエイクの死骸を乗り越えて姿を現している。
「どうやら、休んでいる暇はなさそうですな」
修司はロンゴミニアトを振って刀身に付着していた体液を飛び散らせると、アースクエイクと向き直る。
「いいじゃねぇか。どんどんぶっ潰しちまおうぜ。ひゃひゃひゃ〜!!」
OZは奇声を上げて笑うと、新たに現れたアースクエイクにヘビーガトリング砲を撃ち込んだ。
●南通路
一方、S班の兵衛と九朗はガトリング砲による弾幕でアースクエイクの足止めしていた。
そんな猛攻でもアースクエイクはジリジリと近寄ってくるが、そうなると次は兵衛はショルダーキャノンを九朗はグレネードランチャーをそれぞれアースクエイクの口内に叩き込み、内部から破壊して倒す荒業を見せる。
「よしっ、作戦通りだ!」
九朗が喜ぶのも束の間、すぐに2体目のアースクエイクが現れため、二人は再びガトリング砲で弾幕を形成し直して迎撃を再開した。
だが、今度は敵との距離が近かったため、すぐに接近されてしまう。
「行くぞ、『忠勝』。超伝導アクチュエータ起動!」
兵衛は雷電の『超伝導アクチュエータ』を使って機体性能を一時的に引き上げるとアースクエイクの突進をロンゴミニアトで真正面から受け止めた。
そしてそのままロンゴミニアトをアースクエイクに突き立て、自機が呑み込まれないように固定する。
「今だ、砕牙!」
「おぅ!」
九朗は兵衛の合図でアースクエイクの口内にグレネードランチャーを発射。
兵衛はグレネードの爆発に巻き込まれないように一旦後退。
そして、口内でグレネードの爆発を喰らって悶えているアースクエイクにショルダーキャノンを山ほど撃ちこんで、トドメを刺した。
そうして2体のアースクエイクを倒したS班だが、3体目が1体目と2体目の死骸と通路の隙間に身体をねじ込み、死骸と通路を削りながらコチラに進攻しようとして来ている。
「こりゃあキリがないなぁ〜‥‥」
「あと少しで工兵の作業も終了する。それまでの辛抱だ。行くぞ!!」
うんざりした様子でガトリング砲の弾をリロードする九朗に兵衛が渇を入れ、2機は再びガトリング砲を3体目のアースクエイクに浴びせかけた。
●西通路
その頃W班は、向かってくるアースクエイクに対してつばめ、源治の両機が高分子レーザーで迎撃していた。
薄暗い通路内がレーザーの光で何度も明滅を繰り返し、その度にアースクエイクの体表に穴を穿って体液を飛び散らせてゆく。
しかし、レーザーの弾幕ではアースクエイクの突進力を止めるには弱く、アースクエイクはどんどんと2機に迫ってくる。
だが、つばめは冷静にアースクエイクとの距離を測り、グレネードランチャーをアースクエイクの口内に向かって発射。
「とっておきをプレゼントです、しっかりと味わって下さいね‥‥!」
つばめの可愛いセリフとは裏腹に凶悪な爆発を口内に喰らったアースクエイクはその場でしばらく悶えたが、すぐにこちらに向かって進攻を再開する。
対するつばめはレーザーを撃ちながら接近してくるアースクエイクを迎え撃つべくヒートディフェンダーを構えさせた。
その時、アースクエイクの体表に生えているブレードがギリギリと動き、つばめのディスタン目掛けて飛んできた。
「っ!? アクセル・コーティング!!」
つばめはほとんど反射的にアクセル・コーティングを発動させ、ヒートディフェンダーでブレードを弾き飛ばす。
アースクエイクはそのままつばめに突進してくるが、それもなんとかヒートディフェンダーで受け止めきる。
「くっ‥‥!」
そしてその状態からヒートディフェンダーでアースクエイクを斬りつけると、前回密着状態で腕を削り取られた教訓を生かし、レーザーを撃ち放ちながらすぐに距離をとった。
「九条院さん。大丈夫ッスか?」
「はい。まさかブレードが飛んでくるとは思っていなかったのでビックリしましたけど、『Swallow』が守ってくれたから」
「よーし! 今度は俺の番ッスよ。かかってこ〜い!」
つばめと前衛を交代した源治は加熱し空になったレーザーのエネルギーパックを交換し、ヒートディフェンダーを構えてアースクエイクと対峙する。
そして、レーザーを掃射しながらつばめと同じようにアースクエイクの突進をヒートディフェンダーを受け止めた。
ヒートディフェンダーとアースクエイクの間で鈍い衝突音が響き、源治のバイパーが地面と足の間で火花を散らしながら数メートル後退する。
「ぐおぁっ!?」
源治のバイパーはどうにかアースクエイクの攻撃に耐えたものの、その威力は思っていた以上で、衝撃の余波で源治の身体がコクピットの中で何度もバウンドした。
それでも源治はヒートディフェンダーでアースクエイクを斬り裂き、至近距離からレーザーも掃射。
さらにつばめからのレーザーの攻撃も受け、アースクエイクはようやくその活動を停止した。
「大丈夫ですか、六堂さん?」
「はい、大丈夫ッス。ただ、九条院さんみたくカッコよくはできなかったッスけどね。ははっ‥‥」
「でも、六堂さんが頑張ってくれたから倒せましたよ」
だが、2人の目の前で一体目のアースクエイクを乗り越えて2体目が接近してくる。
「『Swallow』、この前痛い目に合わせちゃったばかりだけど‥‥ごめんね、もう少し頑張って‥‥!」
つばめは愛機に優しく語りかけ、加熱したエネルギーパックを交換すると、源治と共に増援のアースクエイクにレーザーを浴びせかける。
そうして弾幕を張ってアースクエイクの足止めをしていた、その時。
「爆薬の設置が完了しました。各機撤退を開始してください」
無線機からやすかずの声が響くのとほぼ同時に2機の後方からアースクエイクに向けてスナイパーライフルの狙撃が行われる。
そして甲高いエンジン音を響かせながら車両形態の宗太郎のスカイスクレイパーが2機の脇を抜け、通路の壁を駆け上がって天井付近で人型に変形し、アースクエイクの口に向かってグレネードランチャーを発射。
そこからさらに壁を蹴り、空中で『雪村』を抜くと、超圧縮されたレーザーの刀身でアースクエイクを一文字に切り裂いて着地した。
その連続攻撃で大ダメージを受けたアースクエイクは身悶え、苦しんだが、残念ながら倒すまでには到らなかった。
「くそ‥‥相変わらず、タフな野郎だっ」
宗太郎は忌々しげに言うと得物をロンゴミニアトに持ち替え、距離をとる。
「源治さん、つばめさん、今のうちに退がってください」
「はい、了解です」
「援護よろしくッス」
つばめと源治はそろぞれブーストを使って機体を加速させると、一気の通路の外を目指す。
そして援護に駆けつけたやすかずと宗太郎もアースクエイクに攻撃を加えつつ徐々に後退して行く。
●大広場
つばめと源治が大広間までやってくると、北側の脱出通路前では既に工兵の分乗した車三台と、修司のディアブロ、OZの雷電も待ち構えていた。
修司とOZは3体のアースクエイクを倒した時点で通路が3体分の死骸で埋まり、4体目が突破してくるまでは時間がかかるだろうと判断して、先に工兵の護衛と他の援護のため大広間に戻っていたのだ。
そして2人が到着したすぐ後に南の通路からも兵衛と九朗が大広間にやって来た。
ただし、コチラは後ろにアースクエイクを引き連れており、現在も戦闘の真っ最中だ。
「オラオラァ、ちんたらしてんじゃねーよ!」
OZはすぐにヘビーガトリング砲で援護を開始する。
「君達は工兵を連れて先に脱出を」
「はい」
「了解ッス」
修司の指示に従い、つばめと源治はそろぞれ一台づつ車を掴むと再びブーストを使って北通路を駆け上がって行った。
「これでトドメだ!」
九朗が最後の1発だったグレネードランチャーをアースクエイクの口内に叩き込んで倒したが、その後ろには既に新手が迫っている。
そして西通路から退避してきたやすかずと宗太郎も2体のアースクエイクを引き連れていた。
「殿は任せろ! 行けっ!」
弾をリロードさせたガトリング砲を両手に構えた兵衛の雷電が北通路の前に立ちふさがり、弾幕を形成してアースクエイクを押し留めた。
その左右に修司のディアブロと宗太郎のスカイスクレイパーも並び、それぞれロンゴミニアトを構えて迎撃体勢を整える。
「じゃ、お先〜」
まずOZが残っていた最後の車を乱暴に引っ掴むと真っ先に通路に飛び込んで行った。
その扱いのあまりの雑さに、運悪くこの車に乗車していた工兵達は落っこちそうになり、当然OZに対して文句が出た。
「うっせぇ! タクシーじゃねーんだ我慢しろ! ガタガタ言ってると金とるぞ、ゴラァ!!」
しかしOZがわざわざ外部スピーカーをONにして叫ぶと、車の工兵はすぐにおとなしくなった。
次に撤退したのはやすかず、次いで九朗、修司、宗太郎、兵衛らがそれぞれ武器で3方から迫ってくるアースクエイクを牽制しながら通路に入り、すぐにブーストを使って可加速する。
当然アースクエイクも追ってくるが、ブーストを使っている分こちらの方が速い。
やがて傭兵達の眼前に地上の光が見えてくる。
●地上
殿の兵衛が地上に出た瞬間に機体を反転させ、追って来ているアースクエイクに向かってガトリング砲とショルダーキャノンを一斉射。
「今だ! 爆破しろっ!!」
兵衛の合図で工兵の1人が爆破スイッチを入れる。
一瞬の間の後、一度鈍い振動が起こり、直後に連続的な振動とゴゴゴという重低音が響く。
そして目の前の地面一帯が地盤沈下を起こしたかのように沈み込み、正面の入り口から大量の粉塵が熱風と共に吹き出してきた。
しかし、吹き出してきたのは粉塵だけではなかった。
熱風に煽られ、表皮を焼け焦げさせた1体のアースクエイクも飛び出してきたのだ。
「くそっ! 生き残りが来やがった」
真っ先に動いた九朗に続き、傭兵達はすぐさま取り囲んで、それぞれの武器を一斉に掃射。
アースクエイクを蜂の巣にした後さらに、兵衛、宗太郎、修司が3本のロンゴミニアトを突き立てて息の根を止める。
「っしゃあ! 退治完了。さぁ、気合入れて逃げるとするかぁ!」
宗太郎の掛け声を合図にその場から撤退を始める傭兵達。
「それにしても、アースクエイクを大盤振る舞いしてくるとは、バグアにとってここにはよほど知られたくない情報があったんだな‥‥悔しいな。ちくしょう!」
兵衛の言葉はここにいる傭兵のみならず兵士や科学者達にとっても同様の思いだっただろう。
●報告書
確かにこの戦いは防衛すべき基地を放棄した撤退戦であった。
しかし、基地指令が軍に提出した報告書にはこう書かれている。
『奪取した敵基地を失う事になるものの、10体以上ものアースクエイクの襲撃を受けたにも関わらず、我が軍は味方の血を一滴も流す事のない速やかな撤退を行えたのみならず、敵にも多大なる被害を与えた今作戦は、局地戦闘に於ける1勝利にも勝るとも劣らない戦果をあげたものであった』と。