タイトル:時速300kmで追いかけろマスター:真太郎

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/08/25 02:26

●オープニング本文


「現在、ロサンゼルス郊外のベッドダウンの幹線道路を正体不明の物体が300kmの速度で周囲にミサイルらしき物をばら撒きながら移動中。ロスのベッドタウンは今パニック状態になっています。皆さんにはこの正体不明の敵を撃退してもらいます」
「300kmで移動しながらミサイルぶっ放つ正体不明の物体だぁ〜? なんだそら?」
「バグアの兵器だと考えてまず間違いはないと思います。大きさはだいだい全長4m足らずぐらいだそうなので、ワームではなく、おそらくはキメラだと思うのですが‥‥。なにぶん、敵の動きが速すぎるため詳細な画像データがまだ手に入ってない状態なんです」
 オペレーターは一応、入所できた敵の画像データをモニターに写して見せたが、それは完全にピンボケで、横長な物体としか分からない。
「この敵に対して軍はM1戦車で道路を塞ぎ、砲撃を加えようとしたのですが、こちらが撃つよりも先に敵から砲撃を受けてM1戦車は中破しました。敵のこの砲撃はおそらく小型のプロトン砲の様なものだと思われます。敵はその後、道を塞ぐM1戦車を飛び越え、さらに移動を続けています」
「そいつジャンプもできるのか。なら敵は4つ足の猛獣タイプか?」
「いえ。それが軍からは敵の足はタイヤの様に丸かったという報告が上がっています」
「車型なのか!? しかもジャンプする?」
「はい、そうなります。あと、敵は慣性制御ができるらしく、カーブまったく減速せず、まるで道路に張り付いているかの様にスムーズに曲がるらしいです。なので敵の速度は常に300kmでキープされています」
「なにそれ。なんか卑怯っぽいわね」
「とりあえず今の段階で敵について分かっている事は『常に時速300kmで移動中』『カーブでも速度は落ちない』『車型の可能性が高い』『ジャンプができる』『敵の上面にはミサイルが搭載されている』『正面には小型プロトン砲が装備されている』あと、これは推測ですが、側面にもなんらかの武装がついている可能性が高いと作戦部は考えています」
「なんかデタラメだな‥‥。どんな姿なのか想像もつかねぇよ‥‥」
「この敵に対して作戦部はこちらも敵と同じく300kmで並走し、攻撃を加えるしかないと考えました。そこで皆さんの出番になります」
「俺達で車を運転して敵と並走しながら戦えって事か‥‥」
「はい、その通りです」
「でも私、車なんて持ってませんよ」
「それはこちらで用意しました」
「おっ。と言う事はランドクラウンか」
「いえ、それが‥‥」
 ここで何故かオペレーター口篭る。
「急なことだったのでファミラーゼが4台しか確保できなかったんです‥‥」
「ファミラーゼって300km出せるの?」
「いいえ、240kmまでしか出ません」
「ダメじゃん!!」
「でもブーストを使えば一時的にですが300kmは出るはずです」
「ブーストなんか使ったらコントロールがシビアになるから攻撃まで手が回らないぞ」
「ですので、車には運転手と射撃手が1人づつ乗り込むのがよいと思います。まぁ、運転技術にも射撃にも自信のある方は1人で二役してくれても結構ですが。あと自前で300km出せる車を所有している方はそれを使っていただけると助かります。ただし戦闘に使うわけですから傷がつく可能性は十分にあるわけですけど‥‥。あ、もし傷がついたり故障した時の修理代はもちろんコチラで持ちますよ。ただ‥‥全損したりとか、完全に修理が不可能な程の状態になった場合、新車の提供まではできませんが‥‥」
「えぇーー!」
 と傭兵達から渋い悲鳴と非難の声が上がる。
「では! 作戦の概要を説明します!」
 そんな声を強引に無視してオペレーターを説明を再開した。
「並走して攻撃すると言っても敵がカーブで減速しない以上、カーブ部分ではどうしても引き離されてしまうでしょうから、仕掛けるポイントは直線道路に限られる事になると思います。なので、我々は敵の予想進路から直線部分をピックアップして予め車を配備し、敵の接近を感知したらスタートして並走しながら戦闘。カーブまでに倒せればそれで良し。倒せなければ次の直線でまた別の車が同じ要領で並走して攻撃。これを繰り返します。作戦の概要は以上ですが、何か質問はありますか?」
「カーブで引き離された後、追っかけたらダメなのか?」
「300km以上の速度を出せる車両をお持ちで、追いつけるほど腕に自信がある方なら構いませんよ」
「もし、私達全員が敵を仕損じたらどうなるんですか?」
「‥‥その時は軍がフレア弾で空爆を行う事になっています」
 オペレーターが表情を曇らせながら苦い口調で言う。
「街中でフレア弾を使うのか!?」
「はい、敵を街中で何時までも野放しにはできませんからね。町は甚大な被害を受けるでしょうが‥‥。ですが、私はそんな光景は見たくありません。ですから皆さん! どうか、そうなる前に敵を倒してください。お願いします」
 オペレーターは神妙な顔でそう言うと傭兵達に向かってペコリと頭を下げた。

●参加者一覧

花=シルエイト(ga0053
17歳・♀・PN
如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN
新居・やすかず(ga1891
19歳・♂・JG
神無 戒路(ga6003
21歳・♂・SN
みづほ(ga6115
27歳・♀・EL
綾野 断真(ga6621
25歳・♂・SN
ツァディ・クラモト(ga6649
26歳・♂・JG

●リプレイ本文

 ロス郊外の、普段ならそれなりに車の往来のある幹線道路に2台の車がアイドリングの音を響かせながら停車している。
 如月・由梨(ga1805)のランドクラウンと平坂 桃香(ga1831)のファミラーゼだ。
「わぁ‥‥か、かっこいい車〜」
 月森 花(ga0053)が由梨のランドクラウンを熱っぽい瞳でうらやましそうに見る。
 花も車は持っているが、高級車なうえ強化も施されている由梨のランドクラウンには憧れるのだろう。
「時速300kmですか‥‥かなり速いですが、追いすがってみせましょう」
 車に乗り込んだ由梨がエンジンを軽く吹かす。
「シートベルトはちゃんとしておいた方がよさそうですね。もっとも、時速300kmの世界でどれだけ用を成すのかは分かりませんが‥‥」
 由梨に続いて乗り込んだ花と新居・やすかず(ga1891)が用心のためシートベルトを着用する。
「世界都市であるロスを火の海にするわけにはいかないな‥‥」
「はい。絶対にフレア弾なんて使わせません」
 桃香のファミラーゼに同乗した神無 戒路(ga6003)は落ち着いた様子で敵の出現を待っていた。
「‥‥皆さん、来た様です」
 双眼鏡で後方を見張っていたやすかずが告げる。
 やすかずの目には後方のカーブの向こう側で上がるミサイルに爆炎が映っていた。
 車内の緊張感が俄かに高まった。
「行きます。準備はいいですか?」
「僕はOKです」
「ボクもOKだよ。暴走車はボクが絶対止める‥‥っ! 安全運転を叩き込んでやるんだから」
 花とやすかずがそれぞれの武器を構え、覚醒状態になる。
「速さには慣れているのでこちらに合わせる必要はない。思う存分運転してくれ」
「はい!」
 戒路も桃香にそう告げると覚醒状態になり、ライフルを構えた。
「‥‥来ました!」
 由梨と桃香は双眼鏡で敵を位置を観察していたやすかずの合図でアクセルを踏み込み、タイヤと地面で甲高い摩擦音を響かせながら弾丸のように発車。
 巧みなクラッチ操作ですぐに100kmまで引っ張り、そこから更に加速して一気に200kmも突破する。
 しかし、敵は既に2台のすぐ後方まで接近していた。 
 花は距離のある内にスナイパーライフルで狙撃しようと思っていたが、敵の接近が想像以上に早かったため断念して得物をS−01とショットガンに切り替える。
 そして2台は遂に300kmに到達。ちょうど追走して来た敵と並んだ。
「な‥‥なんだこいつは?」
 その敵の姿を間近で見た一同は思わず言葉を失った。
 一見すると、巨大なバッタを乗せた六輪式の装甲車に見えたが、よく見るとバッタの腹は装甲車と溶け合って一体化しているかの様に見える。
「目標捕捉‥‥沈黙させる‥‥」
 覚醒状態の花が冷めた口調と共に『二連射』を発動、左右の手に握られたS−01とショットガンが同時に火を噴き、矢継ぎ早に弾丸を叩き込む。
 やすかずと戒路も『狙撃眼』を発動し、『強弾撃』で強化された特殊弾頭とライフル弾を撃ち込んでゆく。
 敵の装甲版に銃弾が当たる度にカンカンと甲高い音が鳴って火花が散り、バッタ部分からは緑色の体液が飛び散る。
 だが敵も一方的にやられてはいない。
 装甲車部分の左右に取り付けられたガトリング砲が旋回し、キューンとドラムの回転音を響かせながら秒間約20発の弾丸を吐き出してくる。
「回避します!」
「くっ!」
 由梨と桃香は咄嗟にハンドルを切って回避運動に入ったが、全ての弾を避けきれるはずもなく、何発かが車体に喰い込み、ガラスには蜘蛛の巣状のヒビを穿ってゆく。
 それでも巧みなハンドル捌きでエンジンやタイヤなどへの致命傷は避け、着かず離れずの位置をキープしていたのだが、眼前には最初のカーブが迫ってきていた。
「カーブです。しっかり掴まっててください」
 由梨は2人に警告するとカーブ手前でブレーキを踏んでスピードを抑えると、次にクラッチ踏んでハンドルを切りながらサイドブレーキを引く。
 そして車体の後部が流れた瞬間にサイドブレーキを下ろし、クラッチつないで逆ハンドルを切り、アクセルをふかす。
 すると、地面とタイヤとの間で甲高い摩擦音を響かせながらも由梨のランドクラウンは見事なドリフトを描きながらカーブを曲がりきった。
 そして由梨に続いて桃香も同じくドリフトでカーブを曲がり、追従してくる。
 それでもスピードは大幅にダウンしたため敵との距離は開いてしまう。
「ふふ、私の前を走るものは何者とて許しはしませんよ?」
 覚醒状態で好戦的になっている由梨が不敵に笑いながらアクセルを全開まで踏み込む。
 射手の3人は追いつくまでの時間を利用して、それぞれの武器をリロード。
 そして敵が射程に入った瞬間、敵からミサイルが発射された。
「任せろ」
 戒路は窓から身を出し、ライフルでミサイルを狙撃。見事に撃ち落す。
 車はミサイルの爆炎に突っ込む事になったが、一瞬だったので被害はない。
 しかし敵はミサイルに続いてガトリング砲による砲撃も加えてきた。
 だが由梨と桃香はある程度の被害は覚悟して敵の弾幕の中に突っ込んでゆく。
 そして狙撃ポジションについた瞬間に戒路が敵のミサイル砲を狙撃。
 戒路の放ったライフル弾は見事にミサイル砲の一門を貫通し、敵は炎に包まれた。
「ギギギギッ!」
 さすがに今の攻撃は効いたのか、敵が金切り声を上げる。
「やった」
「一気に畳み掛ける」
 花とやすかずも後に続こうとしたが、敵は後ろ足を伸ばして地面を叩き、大きく跳躍。羽を羽ばたかせて滑空を始めた。
「ボクから逃げられると思わないことだね‥‥」
 花は足で座席を挟み、仰向けになって窓から上半身を出すと、武器を上空の敵に向けて掃射。装甲の薄い底部に弾丸を撃ち込んだ。
 やすかずも窓から身を乗り出し、羽を狙撃。羽の一枚を完全に潰す。
 羽を一枚失った敵はバランスを崩して滑空を続けていられなくなったらしく、地上に降りてくる。
 そこからさらに追撃をかけたかったが、敵のスピードは未だ衰えておらず、次のカーブがもうすぐそこまで迫って来ていたため、一旦スピードを緩めて後退。
 2台は再びドリフトでコーナーを曲がり、武器をリロードしながら追走に入る。
 敵は一門だけ残っているミサイルを撃ってきたが、今度は予め備えていたので易々と迎撃して接近。
 銃撃とガトリング砲が3台の間で飛び交い、無数の火花が散る。
 由梨のランドクラウンのヘッドライトの片方が吹き飛ぶ。
 タイヤのホイルが外れて、地面を転がる。
 車体には無数の弾痕が刻まれ、無傷な所など一つもない。
 前面ガラス全体がひび割れたため、由梨が自ら叩き割って視界を確保する。
 車内に飛び込んだ弾丸が跳弾し、やすかずが傷を負った。
「かすり傷です。射撃をするのに支障はありません」
 やすかずは怪我に構わず狙撃を続け、敵のタイヤの一つを潰す。
「よしっ!」
 だが、敵は少し車体が傾いただけで速度はまったく落ちない。
「羽や足を潰しても速度が落ちないなんて‥‥。これも慣性制御の賜物でしょうか? 本当に化け物ですね」
 それを見た由梨が忌々しそうに呟く。
 一方、桃香のファミラーゼはサイドミラーが吹き飛び、主に車体側面に無数の弾痕が穿たれ、サイドの窓ガラスは全損。
 そしてずっと防壁代わりになっていたドアが遂に耐え切れなくなって剥離。
 剥がれたドアがガンガンと地面を叩きながら後方へ消えていった。
「ド、ドアがぁ〜!」
「走行に支障はない。むしろ狙撃がしやすくなった」
「そういう問題じゃないですよ〜‥‥」
 戒路の的外れな慰めを聞きながら、60万かかった愛車が傷ついてゆく様に涙する桃香だった。
 その戒路も何発か弾を喰らい、体中に浮かんだ赤い呪印の上を流れた血が更なる模様を描いてゆくが、顔色一つ変える事なく応戦を続け、残っていた最後のミサイル砲も潰した。
 そうして段々と満身創痍になってきた2台だったが、それは敵も同じだった。
 装甲には無数の弾痕が穿たれ、ミサイルは全損。ガトリング砲は一つは滑落しかけ、もう一つも砲身が曲がって歪んでいる。
 バッタ部分もほぼ全身が傷を負い、アチコチから緑色の体液を垂れ流し、羽はボロボロ、足は二本が欠け、目は片方が潰れていた。
 ただ、未だに小型プロトン砲が何処に装備されているのか分からなかった。
 激しい攻防の末、次のカーブに差し掛かり、2台はスピ−ドを抑えて後退。
 再び敵との距離は開くが、その間にまたリロードを終え、今度こそ仕留める覚悟で次の攻撃に備える。
 そしてカーブをまたドリフトでクリアーする2台。
 車体がボロボロになっているため、タイヤがグリップしてくれるか不安はあったが、そろぞれの愛車はキッチリ主の期待に応えてくれた。
 だが、異変はカーブ直後に起こった。
 カーブが終わり、直線に入った瞬間、視界が真っ白になったのだ。
「なに!?」
 5人にはそれが何か分からなかったが、それは敵が放った煙幕だった。
 視界が奪われた時間はほんの数秒だったが、視界が晴れた時には既に敵から2台に向けてガトリング砲の掃射が行われていた。
「くっ!」
 由梨と桃香は咄嗟にハンドルをきったが既に手遅れだ。
 由梨のランドクラウンはボンネットに銃弾を喰らい、炎を吹き上げる。
「キャーー!!」
 だが、攻撃はそれで収まらず、車内にも銃弾の雨が撃ち込まれた。
 その攻撃で花が負傷。やすかずは咄嗟にリセルシールドで防いで軽傷。由梨はアーマージャケットとカールセルが弾を防いでくれたため、奇跡的に無傷だ。
「まさか盾が役に立つとは思いませんでした‥‥」
 桃香のファミラーゼは前面ガラスが全損。ボンネットにも何発も喰らったが、こちらは幸い火を噴くことはなく、人的被害もなかった。
 射手の3人は攻撃を受けながらも反撃したのだが、敵は既に次のカーブに差し掛かっており、1発撃ち返した時点で視界から消えてしまう。
「由梨さん、大丈夫ですか?」
「私は平気です。ですが‥‥」
 由梨のランドクラウンはエンジンは動いているものの、平常ではありえない異音を発し、未だにチロチロと燃える炎も纏っている状態だ。
「どうやら私達はここまでのようです。平坂様、私達に構わず敵を追ってください」
 桃香のファミラーゼの被害も相当なものだったが、エンジンは無事だし、タイヤや足回りもまだシッカリしている。追撃は可能だ。
「ボクも『二連射』の使い過ぎで練力スッカラカンだし、後は頼んだよ〜」
 覚醒を解いた花が申し訳なさそうに笑う。
「はい!」
 桃香は大きく頷くとアクセルを踏み込んだ。



『こちら新居、敵の撃退に失敗。敵は装甲車の上にバッタの乗せた形状。武装はガトリング砲が二門。ミサイルは破壊。小型プロトン砲の位置は確認できず。跳躍は不可能にしています。僕達はここで撤退。今は平坂さんが追ってます』
「了解しました。後はこちらに任せてください」
 やすかずからの報告を聞き終えた綾野 断真(ga6621)は無線機を元の位置に戻した。
「残念ながら私達まで出番が回ってきてしまいましたね‥‥」
「ん? なんだ、緊張してるのか?」
 深刻な顔をしているみづほ(ga6115)にツァディ・クラモト(ga6649)が軽い口調で話しかける。
「まぁ、あれだ。運転ミスっても車が使い物にならなくなったり、全員病院送りになるだけだって」
 ツァディは緊張をほぐそうと思って言ったのだろうが、みづほの顔は曇ったままだ。
「‥‥要は死ななきゃOKってこと」
 ツァディはそう言って無理矢理話を纏めるとみづほの肩をポンと叩き、双眼鏡を眼に当てた。
 すると、ちょうど双眼鏡に敵らしき姿が映る。
「お‥‥来たぞ」
「行きます」
 みづほは祈る様に手を組んで『GooDLuck』を発動し、『虚闇黒衣』を纏ってからジーザリオを発車させる。
 断真とツァディは幌と後部座席を外して即席で作った銃座の大口径ガトリング砲にが取り付いた。
 そして敵が直線に現れた瞬間に加速。
 敵の接近速度に合わせて断真とツァディはガトリング砲で狙いをつけるが、こちらの射程に入るより先にバッタのアゴが開き、中から小型プロトン砲がニョキリと伸びて、砲身内に白い光が灯った。
「‥‥っ! ハンドル切れ! 避けろ!」
 ツァディの叫びを聞き、みづほは咄嗟にハンドルを切ったが、一瞬遅かった。
 バッタから放たれた白色光は空間を焼きながらジーザリオの助手席を貫通。周辺の構造材やガラスを赤熱させながら溶かしてゆく。
「熱っ!」
 幸い助手席には誰も座っていなかったため人的被害はなかったが、その威力をまざまざと見せ付けた。
「ヤベ‥‥。こんなの直撃したらタダじゃすまねぇって‥‥」
「いえ、今ので発射のタイミングは掴めました。次はかわせますよ。みづほさん、次は私の合図でハンドルを切ってください」
「分かりました。頼みます」
「よし! 反撃開始!」
 相談している間に射程に入った敵に2機の大型ガトリング砲が低い唸りを上げ、『急所突き』と『強弾撃』のかかった弾丸を曳光弾と共に光の筋を引きながら秒間数十発、敵に叩きつけてゆく。
 敵はガトリング砲の猛攻で装甲はひしゃげ、バッタ部分は半分原型を留めぬ程の傷で体液まみれになった。
「お待たせしました!」
 さらに、追いついてきた桃香のファミラーゼからも戒路の攻撃が加わる。
 だが、敵はまだ健在で、再びプロトン砲に光を灯し、第二射を放とうと狙いを定めてきた。
「‥‥今です!!」
 断真はプロトン砲を注視しながらタイミングを計って合図を送り、みづほは一気にハンドルを切った。
 すると、プロトン砲の光はジーザリオのギリギリ横を掠めるように通過。
 サイドミラーとドアが少し溶けたが被害はそれだけだ。
「一気に畳み掛けろ!!」
 断真とツァディは照準をプロトン砲に合わせて引き金を引き、ありったけの弾丸を撃ち込んでゆく。
 すると、遂にバッタは内部から爆発し、粉微塵になった肉塊と体液、プロトン砲の破片を周りに撒き散らした。
 そして残った装甲車部分はそのまま直進。カーブを曲がりきれず進行方向にあった建物に突っ込み、さらに数百メートルを破壊しながら直進して、ようやく停止したのだった。



 任務も無事終わり、結局エンジンが止まって動かなくなった由梨のランドクラウンを牽引しながらの帰り道。
「まさか、こんなアクション映画みたいな真似をする事になるとは思いませんでした。今の戦闘を撮影してれば、映画を一本作れそうですね」
「ロスでのカーチェイス‥‥運転したわけではないが‥‥悪くはなかったな‥‥」
「あんな化物車両があれば、レースなんて楽勝だよな‥‥」
 任務が終わった開放感からか、車内に冗談交じりの軽口や笑い声がこぼれる。
 しかし、由梨、桃香、みづほの3人は笑っていない。
 全損はしなかったといえ、ボロボロになった愛車の前では笑える気分ではないのだろう。
 そんな笑いと沈黙が混じる微妙な空気の中、一行は帰路についたのだった。