●リプレイ本文
トゥリム(
gc6022)はケットシーが比較的無害なキメラとはいえ幼い子と面会させる事に疑念を抱いていたが、余命幾許も無いと知り
「これが残された最後のチャンス‥‥ケットシーにとってキキさんは、唯一の心の拠り所なんだね」
これはケットシーへの温情なのだと納得した。
「キメラって、みーんな馬鹿で野蛮で私と彼の幸せな未来を邪魔する奴らだと思ってたけど、変わったのもいるんだね? 余命1カ月かぁ‥‥私だったら、大好きな彼と一緒に過ごすよね。研究所なんかで死んじゃうの、ちょっと可哀想?」
崔 美鈴(
gb3983)は脳内彼氏の事を想いながら少しケットシーに同情する。
「助ける方法はないんですか? ケットシーがバグアに居た頃にいた施設の場所や設備や方法が判れば、延命くらい出来るかも知れないではありませんか」
石動 小夜子(
ga0121)が悲痛な表情で訴える。
しかしキメラ闘技場の設備は破壊されており、唯一の可能性はバグア四天王のA・J・ロ・ユェラだが、今の南米の戦況ではケットシーの寿命が尽きる前に救済する術を掴むのは難しいだろう。
「そんなの‥あんまり、です‥‥」
「あいつが気にしてないなら、俺らが気に病んでも仕方ないよ。今は楽しんでやった方がいいはずだよ。いい思い出作るためにも、ね?」
新条 拓那(
ga1294)は悲嘆にする小夜子をそっと抱いて慰めた。
しばらくすると研究員に連れられてケットシーがやって来た。
(大きい‥‥ネコさん♪ なでなでしたい、もふもふしたい、ぷにぷにしたい、ぎゅーってしたい、ぺろぺろされたい、甘噛みされたい、ネコパンチされたい‥‥)
猫屋敷 猫(
gb4526)は様々な願望を夢想しながら、うっとりとした表情でケットシーに見入った。
「ケットシーお久しぶり♪ また肉球ぷにりに来たよ♪」
「ふん! 我が輩がそう何度も肉球を晒すと思ったら大間違いニャ」
弓亜 石榴(
ga0468)は軽く挨拶したが、そっぽを向かれる。
「キキさんと会うのですから、ケットシーもおめかしした方が‥‥。王冠は無理ですけど、差支えなければこのリボンを首に結んで貰えればと‥‥」
「まぁ、それぐらいなら付けてやるニャ」
小夜子は鈴付きの赤いリボンを首に結んであげた。
「うふふっ、とても良くお似合い、です」
本当とても可愛らしくて、小夜子は思わず頬を緩めた。
やがてキキも研究員に連れられてやってきた。
「ブッチャーー♪」
キキは瞳を煌めかせると全力疾走でケットシーの腹に猛烈なタックル。
「ゲブーー!!」
「もふもふもふ〜〜♪」
恍惚の表情でお腹に顔を埋めてもふもふ。
「会いたかったよブッチャー♪ うぎゅうぎゅうぎゅ〜〜♪」
更に首を両手で力一杯抱き絞めた。
「グゲーー!!」
キキとの再会から僅か10秒でケットシーは既にグロッキーだ。
「えー‥キキちゃん? 目一杯の愛情表現はいいと思うんだけど‥‥。その‥ブッチャがちょっと、苦しそうですよ?」
新条が苦笑いを浮かべながらキキを諭す。
「え? でも何時もこうだよ」
しかしこれがキキの普段通りの挨拶らしい。
(苦労したんだな、コイツ‥‥)
新条は改めてケットシーに同情した。
「キキさん初めまして、よろしくね♪」
「うん。よろしく〜」
なので石榴が握手を求めてキキの片手を放させる。
「キキさん、私も抱き締めて肉球ぷにして良いよね♪」
「うん。いいよー。一緒にやろー」
(我が輩はいいとも嫌とも言ってないニャ‥‥)
しかしキキの頼みなので憮然としながらも手を出すケットシー。
「大丈夫! 私のは肉球マッサージだよ♪ ほーら、ぷにぷに♪」
「ぷにぷに♪」
「ぷにぷに♪」
「ぷにぷに♪」
「私にも是非ぷにぷにさせて欲しいのですよ!!」
「私もぷにぷにしていいかな? ちょっとだけ‥‥ね?」
猫屋敷が興奮しながら頼み込み、美鈴も控えめにお願いする。
「いいよー」
「なら、俺もいいかな?」
「あの‥私も‥‥」
「じゃあ、せっかくなので僕も」
新条、小夜子、トゥリムも手を挙げる。
「もう勝手にしろニャ‥‥」
全てを諦めたケットシーは投げやりに言い、結局全員が肉球をぷにった。
「はい、お土産ー♪」
「おー、懐かしいニャ〜コレ」
ケットシーがキキの持ってきた魚肉ソーセージを頬張る。
「シャッターチーャンス!」
その光景を猫屋敷がすかさずカメラに納めた。
「ふふふ‥‥これでネコフォルダがますます充実なのですよ」
「次はこれで遊ぼー♪ ほーら、ふりふりー♪」
キキがネコジャラシを嬉しそうに振り始める。
「くーー私もやりたいですよ! でも今はキキちゃんに思い出作りのために我慢なのです!」
猫屋敷は自分の欲望を抑える代わりにシャッターを切りまくった。
「猫ちゃんって可愛いなぁ。飼っちゃいたい♪ ‥‥あっ、でも、彼がいいって言うかわからないよね? 彼って猫派? 犬派? けど、私より可愛がるのは許さない‥‥」
彼の良し悪し以前に一緒に住んでいないのだが、恋する妄想乙女の美鈴はそんなこと気にしない。
「次はオニゴッコー♪」
「鬼ごっこかー。これは割と得意だよ♪」
石榴は何か企んでいるらしくニヤリと笑う。
『ジャンケンポン』
最初の鬼はキキ。
「ブッチャ待てー」
「待てと言われて待つ奴はいないのニャー」
「もー! ブッチャ速いよぉ〜〜。だったら‥‥」
キキはモタモタしている石榴に向かって駆け出す。
(しめしめ)
石榴はキキに追いつかれない速さで逃げながら、わざと部屋の隅に追いつめられてあげた。
「わー、これじゃ逃げられなーい」
「タッチ♪」
キキが嬉しそうに石榴を捕まえる。
「あ〜あ、私が鬼か‥‥」
石榴が困った声をあげながらも内心でほくそ笑む。
そして周囲では新条、小夜子、猫屋敷が鬼にして欲しそうな目で石榴を見ていた。
みんなわざと鬼になってケットシーに抱きつきたいのである。
「じゃ、ブッチャを捕まえるぞー」
石榴はケットシーを追いながらも小夜子に横を通り過ぎる瞬間
「あ、つまづいちゃった〜」
わざとらしく小夜子に抱きついて胸まで揉んだ。
「キャ!」
「あ、ゴメーン。でも、これで石動さんが鬼だね」
「そう、ですね」
小夜子は嬉しそうにケットシーを見た。
「さ、今のが手本だよ、新条さん」
石榴が新条の肩をポンと叩く。
「いや! 俺あんな事しないから!」
「そっか、抱きつくだけじゃなくて押し倒して(ピー)までしたいんだね。ポッ」
「それも違うからっ!!」
「ブッチャさん。お覚悟!」
小夜子は『瞬天速』で一気に間合いを詰めるとケットシーに抱きついた。
「あぁ‥‥すべすべでふわふわでもふもふ‥‥です♪」
そして恍惚の表情でケットシーを撫でふにる。
「いい加減はなすニャー!」
「あ‥はい。でも後少しだけ‥‥」
小夜子は最後の一撫でをしてから名残惜しげに離れた。
「今度は我が輩が捕まえる番だニャ」
ケットシーが身構えた瞬間
「もう辛抱たまらんですよー!!」
猫屋敷が全力でケットシーに抱きついた。
「なんでそっちから捕まりにくるニャーー!?」
「もふもふもふもふもふ♪」
「放せニャー!」
ケットシーは引き剥がそうとするが猫屋敷は恍惚の表情で思う存分に撫でもふる。
「アハハハ♪ じゃあキキもー」
そして何故かキキもケットシーに抱きついてもふりだした。
「もうこれはオニゴッコじゃないね」
ケットシーをキキに集中させるため『隠密潜行』を駆使して隠れていたトゥリムは呆れたように呟いた。
「いーっぱい遊んだし、お風呂入ろうねブッチャ」
「風呂‥‥ニャ?」
「うん、お風呂」
キキは笑顔だが、ケットシーの顔はひきつる。
そして
「い、嫌ニャーーーーー!!」
全力で逃げた。
「こら待て! キメラの覇者が水ごときを怖がるのか?」
新条が先回りして何とか捕らえ、説得を試みる。
「怖くなんかないニャ! 毛が張り付いたりヒゲが濡れるのが気持ち悪くて嫌なのニャー!」
「濡れても乾かせば毛並みがもっと綺麗になってカッコいいぞ」
「我が輩は毎日自分で舐めて綺麗にしてるからそれで十分ニャー!」
しかし両者の意見は平行線だ。
「もしノミがいてキキちゃんが刺されたらどうするんですか?」
猫屋敷も説得を試みる。
「失敬ニャ! 我が輩にノミなど付いてないニャ!」
FFに阻まれて血が吸えないのでケットシーにノミはいないのだ。
「水が苦手なのは判りますけれど‥お風呂上りのマタタビと猫草はとても良いらしいですよ」
「我が輩、べつにマタタビ好きじゃないニャ」
キメラであるケットシーには本当にマタタビが効かないため、小夜子の説得も失敗する。
「こうなったら最後の手段です」
猫屋敷はケットシーをネコ掴みして強引に風呂まで引っ張っていった。
「イーーヤーーニャーー!!」
だがケットシーも風呂場の戸に爪を立て、最後まで抵抗を試みる。
「往生際が悪いよ!」
風呂場で先にスタンバってた美鈴も引っ張るが、爪はしっかり食い込んでいる。
しかし
「観念しろ!」
水着姿のトゥリムが『瞬天速』で抱きつき、ケットシーと共に風呂へダイブ。
ドボーン!
盛大に湯柱が上がった。
「ギャーーー!!」
「こら、大人しくしろ!」
逃げようとするケットシーをトゥリムが押さえ込む。
「キキちゃんは私が洗ってあげるね」
「うん」
美鈴はキキを座らせて髪を洗ってあげた。
(彼と私の間に子供ができたらきっとこんな感じよね♪ あ、でも子供がいたって彼が一番愛してるの私。ううん、彼が愛してるのは私だけ。 そう、彼は私だけを愛していればいいの。ふふ‥ふふふふふふ‥‥)
美鈴がそんな怪しい妄想を思い描いている一方、ケットシーにはシャンプーが施されていた。
「ギャー! フゥー!! ムギャー!」
「逃げるな! 暴れるな! 引っ掻くな!」
「ここまで手間のかかる子は初めてなのです」
「少しの我慢ですから‥‥」
トゥリム、猫屋敷、小夜子の3人掛かりで押さえ込み、お湯や泡が飛び散らせながら必死に洗い上げてゆく。
そしてどうにか洗い終えた頃には3人とも全身ずぶ濡れのクタクタになっていた。
「アハハハ♪」
ただ、そんな騒動もキキには楽しかったらしい。
「酷い目にあったニャ〜〜‥‥」
「それは僕のセリフだよ」
「私は楽しかったですよ」
「すみません。お詫びにブラッシングは念入りにさせていただきますから‥‥」
ケットシーの濡れた毛の水気を小夜子がふかふかのタオルで吸い取る。
「ほら、ドライヤーを使えば気持ち良さ倍増でしょ♪」
「綺麗にしてあげるね」
タオルで拭きながら石榴がドライヤーで乾かし、美鈴がブラシで全身の毛をといてゆく。
「ふにゃ〜〜‥‥」
ケットシーも気持ちいいらしく、目を細めてされるがままになっている。
「キキもやりたーい!」
「じゃあ、キキちゃん。毛の流れにそって優しくするですよ」
猫屋敷はキキにラッシングの仕方をレクチャーしてあげた。
「こう?」
「そうそう。上手なのですよ」
「ふふっ、お腹や耳の後ろを重点的に‥‥」
全身の毛がふっくらしてきた所で小夜子は猫が気持ちいいポイントを重点的にといてあげた。
「気持ち良いですか?」
「ま、まずまずだニャ」
弱みを見せたくないケットシーはそう言ったが、喉が気持ちよさそうにグルグル鳴っているのでバレバレである。
「では、マッサージもしてリラックスしてもらうです。ここを揉んであげると気持ちよくなるのですよね〜」
更に猫屋敷が全身をマッサージ。
「フニャニャ〜♪」
もう至れり尽くせりのVIP状態であった。
「ブッチャふっかふか〜♪」
全身ふかふかのピカピカになったケットシーにキキが抱きついて頬摺りをする。
「スー‥‥スー‥‥」
そして、お腹のもふもふ感が気持ちよかったせいか、そのまま眠り込んでしまった。
「ふふっ、可愛らしい寝顔、です」
「私もいつか彼と‥‥」
「ベストショットなのですよ」
小夜子と美鈴は声を潜めて微笑み、猫屋敷は眠りを妨げないよう距離をとって最高の一枚を激写。
「楽しかった?」
トゥリムがケットシーの瞳をのぞき込む様にして尋ねる。
「‥‥ふん! 散々な目にあわされただけニャ」
ケットシーは目を反らすとYESでもNOでもない答えを返した。
でもトゥリムにはその答えで十分で
「そっか」
そっと微笑み返してあげた。
そしてキキが目を覚ますと二人の別れの時となる。
「じゃあブッチャ、また会いに来るからね。約束だよ」
「それは無理ニャ」
「え‥‥どうして?」
キキの顔が悲しみに曇る。
「我が輩もう寿み‥」
「ブッチャは遠い所に居るお母さんに会いに行くんだよ!」
新条はケットシーの口を塞ぐと、嘘の話をでっち上げた。
「ブッチャの家族がエジプトに居ることがわかってね。そこに行くから、キキさんとは会いにくくなっちゃうんだよ」
トゥリムも新条の話に合わせる。
『どういう事ニャ? 我が輩に家族にゃんていないニャ』
『いいから話を合わせろ。お前だってキキちゃんを悲しませたくないだろう』
その間に新条が小声でケットシーを説得。
「そうなのブッチャ?」
「よく分からにゃいが、そういう事らしいニャ」
「もう会えないの?」
キキの瞳に涙があふれる。
「キキちゃんは帰る場所があるよね。ブッチャにも帰る場所があるんだよ」
猫屋敷がキキの涙を拭いてあげた。
「キキちゃん。離れても、二人はずっと友達だよね♪」
美鈴は思い出の品としてケットシーのリボンを解いてをキキに渡す。
「うん! ブッチャは友達。ずっと友達!」
キキはリボンを受け取るとギュッとケットシーに抱きつき、大粒の涙はポロポロとこぼしたのだった。
「キキちゃん、せっかくだから記念写真を撮ろう。猫ちゃん、お願いできるかな」
「もちろんですよ」
そして新条の提案により、全員で記念撮影となった。
ケットシーに抱きつくキキが中心で他の者達は回りを囲う。
「いくですよー」
猫屋敷がカメラのタイマーセット。
ジー‥‥
「瞬きしちゃいそう‥‥」
「我慢ですよ」
「‥‥まだ?」
「もうすぐだよ、ほら笑って」
「1たす1は?」
「にー♪」
カシャ
そして別れの時
「バイバイ、ブッチャ! バイバーーイ!!」
キキは髪に結んだリボンの鈴を鳴らしながらずっと手を振り続け、ケットシーも見えなくなるまで見送っていた。
「楽しかった思い出は、楽しいまま残すのがいいんだよ」
その寂しげな横顔にトゥリムも少し寂しげに言葉を贈る。
「ねぇケットシー。一月後、また会いに来て良いかな‥?」
「‥‥勝手にしろニャ」
「それじゃ、また来るよ」
「最後まで生きる事を諦めないで欲しい、です‥‥」
石榴は約束を取り付け、小夜子は願いを告げて別れた。
●8月末
研究所からケットシーの容態が危ないと一報は受けて石榴達が駆けつけると、ケットシーはか細く息しているだけの状態にまで弱っていた。
「独りじゃ寂しいもんね‥‥」
石榴が声をかけて膝に乗せると耳がピクリと動いたが、それだけだ。
そしてそのままケットシーは永い永い眠りについたのだった。