●リプレイ本文
無数とも思える数のスライムが雨の様に降り注ぎ、機体各部で爆発音を響かせながら19機のKVがブースト機動で敵陣に向かって疾走する。
「前回、火山要塞の内部構造を阻害しえたのですから、この軍勢を退けたならばエクアドルを解放へと導けます。まだ油断は出来ませんが溶岩流が無いが故に、ここが攻め入るチャンスですね」
「だが、このスライムは厄介だな」
「生身で戦うよりはマシなんだろうけど、もし離脱したらサービスシーンどころか、グロい事になりそうな気がしないでもないし‥‥」
カルマ・シュタット(
ga6302)は番場論子(
gb4628)の言葉に頷きながらも陰鬱そうに空を仰ぎ、シエル・ヴィッテ(
gb2160)は嫌な想像をして顔をしかめた。
「スライムは気にしない方向でいこうよ。それに、やり始めた事は最後までやらないとね。要塞攻略もだけど‥ビビアンさんの(ぴー)とか!」
弓亜 石榴(
ga0468)は何やらいかがわしい事を企んで口元を緩ませながらもレイド・ベルキャット(
gb7773)と共に煙幕銃で自軍と敵前衛との間に煙幕を張った。
「ここで無様な真似をする訳にもいきませんしね。全力で当たらせて頂きます」
続いて乾 幸香(
ga8460)が『対バグアロックオンキャンセラー』で敵中衛にジャミングをかける。
「いきます」
そして如月・由梨(
ga1805)がUPC南中央軍と共に敵前衛に攻撃を仕掛け、突破口を切り開いた。
「敵が多いが‥ここは強引に突破します!」
周防誠(
ga7131)はブーストと『マイクロブースト』で煙幕を突き抜け、敵中衛のヴィエントを対空砲「エニセイ」で砲撃しながらの後方へ回り込もうとする。
キューブワーム(CW)の怪音波の影響か砲弾は全て避けられ、敵後衛の5機のタートルワーム(TW)からプロトン砲の集中砲火を受けて傷を負うが、周防は機体をヴィエントの斜め後ろに付けた。
そうして周防が気を引いている隙に時任 絃也(
ga0983)がヴィエントに接近戦を仕掛ける作戦だったのだが、ヴィエントは周防の方を向くと超速で迫ってきた。
「速い!?」
一瞬で100m以上の間合いを詰めたヴィエントが振り降ろす刃を周防は機体を地面ギリギリまで伏せて間一髪避け、ソードウィングで足を斬り払う。
しかしヴィエントは足の刃で受け流しつつ機体を旋回させ、逆足の刃で蹴ってきた。
咄嗟に盾を構えたが、知覚の刃は盾ごと機体を斬り裂く。
だが斬られながらもD−02スナイパーライフルをコクピットに向けた。
「悪く思わないでくださいよ。自分たちも必死なんだ」
しかしヴィエントは『フレキシブルモーション』で身を翻しつつ足を跳ね上げ、ワイバーンMk.IIの前足を一本へし折った。
「くっ!」
周防は構わずトリガーを引いたが、放たれた銃弾はコクピットをやや反れて胸部を貫通。
ヴィエントはよろめきながらも圧力砲を放ってワイバーンを吹き飛ばす。
「喰らえっ!」
だが、その隙に時任が『アグレッシブ・ファング(AF)』を付与したデモンズ・オブ・ラウンド(D・O・R)で斬りかかった。
しかし怪音波の影響を受けた鈍い剣閃ではヴィエントを捉えられず、逆にD・O・Rを避けて懐に入り込んだヴィエントの猛攻が時任を襲う。
「こいつ!?」
「時任さん一旦離れて!」
時任は周防が砲撃した隙に間合いをとりつつ斬ったが、また易々と避けられた。
一方、石榴は敵中衛を包むように煙幕を張って中に飛び込んだ。
「猫パンチ!」
そして、とりあえず目の前にいたタロスにジェットエッジで一撃加えると、すぐに死角に回り込む。
タロスが追ってきても煙に紛れて逃げ回ってダメージは最小限に留め、隙があったらちょっと攻撃してまた逃げる。
かく乱を兼ねた、まるで嫌がらせの様な戦法で戦っていた。
カルマはレックスキャノン(RC)の体色変化を狙って高分子レーザー砲を発射したが、怪音波で知覚兵器の威力が減衰しているためダメージをあまり与えられず、体色も変化しなかった。
そして2体のRCがプロトン砲で、1体のタロスが銃を反撃してくる。
「ならば!」
カルマは機体に傷を負いながらも巨大剣「シヴァ」を薙払ってRCの胴を両断し、分かたれた上半身を巨剣で叩き潰した。
乾はキャンセラーを維持しながらタロスに重機関砲を浴びせかけていた。
だが敵も乾のイビルアイズが自分達をジャミングしている事に気づいたらしく、RC2体の集中砲火が乾を襲う。
キャンセラーで敵の命中率は下がっているが、こちらも怪音波で動きが鈍っているためプロトン砲は直撃。
更にタロスが迫り、振り降ろされた剣が機体を斬り裂く。
「私が倒れたらロックオンキャンセラーが途絶えてしまう‥‥そうなれば皆がますます不利に‥‥」
仲間のために意地でも倒れられない乾はヒートディフェンダー(HeD)でタロスと斬り結びつつ、バルカンでRCを牽制する。
しかしRCはバルカンを避けて再びプロトン砲に光を灯す。
「ジェット猫パーンチ!」
しかし駆けつけた石榴がジェットエッジでRCを辻パンチしていって砲撃を阻害した。
だが、追ってきたタロスが銃を掃射し、石榴のオウガの背中に弾痕が刻まれる。
「イタタタッ!」
更にRCが噛みつこうと大口を開けて迫る。
だが石榴は『ツインブーストA』で急制動をかけつつ横ステップで側面へ回り込んで回避した。
「やった! 猫ステップ成功♪」
そしてRCの顔面に猫パンチの連打を浴びせた。
しかしRCは傷つきながらも再び噛みつこうとしてくる。
「猫ステーップ!」
石榴は再び『ツインブーストA』を発動しようとしたが今度は練力が足りず、牙が肩口に食い込む。
「弓亜さん!」
2体のRCを葬ったカルマが駆けつけてくるが、動きの止まった石榴に後ろからタロスが剣を深々と突き刺す方が早く、中枢部を破壊されたオウガはその場で爆散した。
「よくも!!」
カルマはタロスをシヴァで袈裟斬りと逆袈裟で4等分すると、返す刀でRCも両断した。
タロスと一対一になった乾は頭部にバルカンを浴びせて牽制しながらHeDで袈裟斬りにした。
高熱の刃は装甲を溶かし、生体部も斬り裂いて体内深くまでめり込む。
だがタロスは体に刃を埋め込まれたままでも構わず剣を振り降ろしてきた。
乾は咄嗟にHeDを放して避けようとしたが間に合わず、肩から腰まで斬り裂かれる。
「これ以上は持たない‥‥」
乾は重機関砲を乱射しながら距離をとる。
だが、そこをRCに狙い撃たれた。
「しまった!」
コクピットが真っ白な光に包まれた直後、衝撃が機体を襲う。
「キャア!!」
衝撃で体が跳ね、ベルトが体に食い込んで骨が軋み、計器類が火を噴いて弾け、モニターがブラックアウトする。
「立ってバロール!」
乾がカメラをサブに切り替えつつ必死に操縦桿を操ると、機体は鈍いながらも反応して立ち上がる。
しかし回復したモニターには剣を振り降ろすタロスの姿が映り、避ける間もなく機体は両断され、コクピットにまで到った刃は乾も斬り裂き、血に塗れた乾はイビルアイズと共に動けなくなった。
シエル、論子、レイドはスモークディスチャージャーで煙幕を纏いながらブースト機動で敵後衛に迫っていた。
「あれがジャミングの発生源かな?」
シエルは箱持ちムカデにCWが搭載されていると睨んで狙いを付ける。
しかしムカデは敵が迫ってくるとTWを盾にするように後ろに下がった。
「邪魔な亀をどかしましょうか。ツインブースト起動、仕掛けます」
レイドは『ツインブーストB』を発動すると、TWのプロトン砲に機杭「白龍」を叩き込んだ。
ツインブーストの威力を上乗せして放たれた杭は砲身を貫き、甲殻も砕いてTWに突き立った。
「もう一撃!」
論子が杭の上から機槌「明けの明星」を叩きつけ、杭を更に体内深くに押し込み、甲殻も更に割る。
「これでトドメです!」
そして割れた甲殻部に対空機関砲「ツングースカ」銃口をねじ込み、零距離から乱射。
発射された50発の弾丸がTWの体内を蹂躙した。
「いっくぞー!」
その間にシエルはTWを盾にしていたムカデに迫り、機爪「焔魔」で胴体を斬り裂いた。
しかし一撃では仕留めきる事はできず、ムカデが機銃で反撃してくる。
「錬力もらい♪」
シエルは圧練装甲で受けたが、その隙にムカデは全速力で逃げ出した。
「待て!」
レイドはチェーンガンで逃走を阻もうとしたが、怪音波で狙いが定まらず全て外れる。
「逃がさないよ!」
シエルがブーストで追い、レイドも後に続くが、2人にTWが集中砲火を仕掛けてきた。
「わっ!」
シエルか辛うじて1弾目は避けたが、続く2〜4弾が命中。装甲が融解し、剥き出しになった内部機構にもダメージを負う。
レイドには全弾が命中、著しいダメージを負ったが戦闘はまだ可能だ。
「ちょこまかとうっとうしいですが‥‥」
レイドは逃げるムカデで再度チェーンガンを連射。距離を詰めたため今度は命中し、足を何本かへし折った。
「こんなのに手間取ってられない! 一気に行くよ!」
そして足の鈍ったところでシエルが一気にトドメを刺す。
これでCWも1体減ったが怪音波の影響はまだ濃く、体の動きは鈍いままだ。
「早く次を‥‥」
そう思うが、TWがムカデを守るようにプロトン砲で砲撃してくる。
「煙幕展開!」
論子がディスチャージャーで煙幕を張って3機を包み、何とか砲撃をしのぐ。
しかし煙幕の中に居てはこちらも敵が見えず、攻撃を当てるのは難しい。
しかも、論子はまだ軽傷だが、シエルとレイドのダメージは深い。
策もなく煙幕から飛び出しては集中砲火を浴びて大破しかねない。
「しょうがないなぁ‥‥私が強行突破するよ。援護お願いねっ!」
シエルは2人に告げると『ツインブーストB』を発動して飛び出した。
「え?」
「シエルさん!」
論子とレイドも煙幕から出てTWを牽制する。
その隙にシエルは一気にムカデに迫り、機爪で装甲を引き裂き、突き入れ、内部を抉って破壊する。
そしてコンテナ内のCWもレイドが破壊した。
しかしTWの砲火がシエルを襲い、CWが減った事とツインブーストのお陰で半分は避けたが、更にダメージが深くなった。
「さすがにキツいな‥‥」
このまま3機ともやられるかと思われた、その時
「これ以上味方はやらせんっ!」
カルマがブーストで駆けつけてシヴァでTWを薙払った。
「カルマさん!」
「TWは俺に任せて、早くCWを片づけろ!」
「はい!」
「よーし! 一気に片づけちゃお!」
カルマの参戦で勢いづいた3人は連携してムカデに攻撃を開始した。
その頃、時任と周防はまだヴィエントと交戦中で、苦戦していた。
時任は周防と挟撃する様な位置で戦おうとするが、ヴィエントの方が圧倒的に速いため、自分がヴィエントに側面や背後に回り込まれない様にするので精一杯だった。
攻撃においてもヴィエントがD・O・Rの広い間合いの内側に潜り込んで斬りかかってくるため反撃がし辛い上、怪音波の影響もあってまったく当たらない。
周防はスピードを活かしてヴィエントの死角に周りこむのだがヴィエントは時任を盾にするように位置どる上、時任とヴィエントの距離が近すぎて思うように援護も攻撃もできないでいた。
そんな状況だったが、時任はヴィエントの物理剣は盾と剣で受けてダメージを減らし、知覚剣は致命傷にならない箇所で受け、機体をボロボロにされながらも反撃の機会を待って堪え忍んでいた。
そしてR−01改が戦闘に支障の出る一歩手前まで疲弊した時、遂に頭に響いていた怪音波が消えた。
(待っていたぞ、この時を!)
時任はヴィエントの刃を盾で凌いだ後、D・O・Rを大振りしてヴィエントの身を僅かに引かせ、その隙に間合いを取ろうとする。
今までの攻防でヴィエントがすぐ間合いを詰めてくるのは分かっているため、時任は間合いを取るフリをして逆に前に出た。
ヴィエントは虚を突かれたらしく咄嗟に両腕の刃を振るってきたが、時任は構わずAFを付与したD・O・Rを下から斬り上げる。
ヴィエントの刃はR−01改の胸部装甲と頭部を斬り裂き、時任はヴィエントの片腕を斬り飛ばした。
相打ち。
だが、ダメージはヴィエントの方が大きい。
「オォォォー!!」
時任は一気に畳み掛けようと斬り上げたD・O・Rの刃を返して振り降ろす。
だがヴィエントは至近距離から圧力砲を発射。
時任は不可視の砲弾を喰らって吹っ飛ばされながらもD・O・Rを振り切ったが刃は届かない。
だが時任は倒れながらも試作型「スラスターライフル」も連射。
ヴィエントはそれらも全て避けたが、時任とヴィエントの距離が開く。
「今だ!」
その瞬間を逃さず、周防はスナイパーライフルでヴィエントの足を撃ち抜いた。
ヴィエントが体勢を崩して膝をつくと、続いてエニセイを連射。
放たれた砲弾がヴィエントの頭部を潰し、足をへし折り、腕が吹き飛び、胸部を粉砕し、コクピットがひしゃげる。
砲撃が終わった後には、ボロボロになったヴィエントが膝をついた状態のままピクリとも動かなくなっていた。
「手強い相手だった‥‥正直、俺は奴を侮っていた様だ」
時任の愛機は満身創痍になっている。
「どうやらスピードと回避に特化した近接戦闘仕様だったみたいですね」
周防が予測を述べながら戦況を伺うと、どうやら他の敵もほぼ片付いている様だった。
一方、空ではヴァルトラウテの艦載機の奮戦により敵は一掃され、最後まで粘っていた大型本星型ヘルメットワームも胴体に無数の弾痕と大穴を穿たれ、フェニックスやスカイセイバーの空中変形攻撃で斬り刻まれると、炎と煙を吹き上げながらフラフラと降下して山肌に激突。そのまま大破、炎上したのだった。
「ふぅ‥‥空陸ともに決着が付いたみたいですね」
ヴァルトラウテの艦橋で戦況を見守っていたビビアン・O・リデル(gz0432)が安堵の吐息をついてキャプテンシートに深々と身を沈める。
だが、大破炎上したはずの大型本星型から何かが飛び出してきた。
「あれは?」
「拡大します」
それは小型の本星型HWだった。
『ヒヒヒ‥‥これで私を倒せたと思いました? この大型本星型HWは単なるボムスライムのための実験機ですよ。残念でした。とはいえ、戦闘を続行できる程の戦力がないのも確か‥‥。今日のところは退きましょう。ただし‥』
不意にコトパクシ山のアチコチで爆発が起こって溶岩が噴き出し、火山を中心に激しい地響きまで起こる。
「火山が噴火する!?」
『アナタ達まで無事に逃げられるとは限りませんけれど。ヒヒヒッ!』
A・J・ロ・ユェラの乗る小型の本星型HWが空の彼方に飛び去っていった。
「空戦隊は至急退避!! ヴァルトラウテは地上部隊の収容に向かいます!」
ビビアンは電磁フィールドを展開して溶岩を防ぎつつヴァルトラウテを地上部隊の上空に停滞させ、全KVを収容すると全速でその場を離脱した。
こうして要塞は全て溶岩の中に沈み、コトパクシ山での戦闘は人類側の勝利で終了したのだった。