タイトル:【br】Independence Dayマスター:真太郎

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 9 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/07/30 07:40

●オープニング本文


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●ジョナサン・エメリッヒ

 7月4日は我アメリカ合衆国にとっては独立記念日という誉れある日である。
 だが、私にとっては屈辱の日でもある。
 ちょうど1年前、私は独立記念の式典中にバグアのネモにヨリシロとされたアーチェス・ロイシィの襲撃を受け、浅くない傷を負い、国民の前で無様な姿を晒した日だからだ。
 だからと言って大統領である自分が大切な独立記念の式典に参加しないという選択肢は採れるものではないし、採るつもりもない。
 今年は一片たりともバグアが付け入る隙のない警備体制を敷き、昨年以上に安全性を配慮した式典プログラムも作成させた。
 これで何の憂いもなく万全の状態で式典に臨めるものと私は確信していた。
 しかし後日、私のリムジンの運転手を勤めるメイヤーの口から聞かされた言葉で、その確信は脆くも崩れる事となった。

 メイヤーは私が大統領に就任した時からリムジンの運転手を勤めており、私が最も信頼する者の1人だ。
 年齢は58歳。妻とは30年前に死に別れ、娘は結婚して6歳になる孫が1人いる。
 そんな老紳士であるメイヤーが語ったのは、この世で最も愛する娘の孫が何者かに浚われ、孫の命が惜しかったら独立記念日に我々の指示に従え、と脅迫されている事だった。
 私は衝撃と怒りを禁じ得なかった。
 孫の命と大統領の身を天秤にかけられたメイヤーは大いに悩み、苦しんだという。
 しかしメイヤーは身を切り刻まれて血を吐くような思いで大統領の身を選び、私にこの事を語ってくれたのだ。
「ありがとうメイヤー。あなたの勇気と献身、決して無駄にはしない。あなたの孫はこのジョナサン・エメリッヒが必ずや救い出してみせる」
 その献身に心を打たれた私は滂沱の涙を流すメイヤーを抱きしめ、約束したのだった。

 誘拐犯がメイヤーに下した指示は、式典が終わってジョナサンが自宅へと戻る最中、手渡されたブザーが鳴動したらハンドルを右に切って路地に入り、護衛を振り切って全速で走り続けろ。という単純なものであった。
 私は帰宅ルート周辺を密かに、だが徹底的に調査させた。
 しかし何も見つけられぬまま時がだけが過ぎ、式典前日の6日になってしまう。
 そのため帰宅ルートを中心とした能動的な作戦が立案された。

 リムジンには私ではなく、私そっくりの替え玉を乗せる。
 運転手はメイヤー自身。
 護衛の同乗者には腕利きの傭兵を雇う。
 メイヤーのブザーが鳴動すれば、指示通りハンドルを切って全速で走る。
 犯人がハイヤーに襲撃してくれば無線で知らせ、付近に待機させておいた軍用車両とKVで逃走ルートを全て抑える。
 護衛の傭兵が犯人を返り討ちにする。
 傭兵が打ち倒された場合、KV隊が付近の被害は考慮せず戦滅を開始する。

 不確定要素を含んだ作戦案であったが、現状ではこれが最良だろう。
 メイヤーの孫の事は‥‥まずは犯人をどうにかしない事には探しようがない。
 犯人も人質は生かしておいてこその人質だと分かっているはずだ。
 だからこれが最良だ。最良なのだ‥‥。
 私は自分にそう信じ込ませて眠りについた。 



●アリア

 アタシは何処とも知れぬ場所で大振りなヘルメットを手にしながら、双子のアリスちゃんが自分を迎えに来た日の事を思い返していた。
 マチュアお姉ちゃんとピクニックに行く前日の晩。
 ノックされたドアを開けるとアタシと瓜二つの、アタシが刺し殺してしまったはずのアリスちゃんが立っていて、アタシは心臓が止まりそうなぐらい驚いたの‥‥。

「ア、アリスちゃん‥‥」
「うん、そうよ。会いたかったわ、アリアちゃん」
 アリスちゃんはニッコリ笑ったけれど、アタシの表情は恐怖でひきつっていた。
「嘘よ! アリスちゃんは死んだんだもん!」
「そうよ。2人で死のうって誓ったのに‥‥アリアちゃんだけがあたしを刺すんだもん。とっても痛かったわ。お腹からどんどん血が出て‥‥痛くて‥‥苦しくて‥‥寒くて‥‥体がだんだん動かなくなって‥‥。なのにアリアちゃんは見ているだけだった。あの時あたしがどんな気持ちだったか、アリアちゃんに分かる?」
 アリスちゃんが小首を傾げる。
「ぁ‥‥あぁ‥‥」
 でもアタシは震えるだけで何も答えられない。
「でもいいよ。許して上げる」
 アリスちゃんがアタシを抱きしめた。
 氷の様に冷たいんじゃないかって思ったけど、アリスちゃんの体はとても暖かかった。
「あたし達、これからもまた2人で一緒に暮らせるんだもんね」
「‥‥うん」
 アタシはその暖かさでアリスちゃんは本当に生きてるんだって安心して、嬉しくなって、アタシからもアリスちゃんを抱きしめ返したの。
 そしてアタシはアリスちゃんに言われるまま施設から出ていった。

 でも、アリスちゃんは以前のアリスちゃんじゃなかった。
 アリスちゃんは凄い力を身につけていたから。
 マチュアお姉ちゃんみたいに能力者になったのかなとも思ったけれど、少し違う気がしたので尋ねてみた。
「この力は死んだ時に神様が授けて下さったの。そうだ! アリアちゃんもあたしと同じ身体になろうよ。あたし達は双子なんだから、やっぱり身体も同じがいいよね」
「‥‥ぅ、うん」
 アタシは少し怖かったけれどアリスちゃんを殺したのはアタシで‥‥アリスちゃんがこうなった原因はアタシにあるんだから、そうしなきゃいけないって‥‥この時は思ったの。
 そしてアタシもアリスちゃんと同じ身体になった。
 とても力持ちになって、足も速くなって、目も良く見えて‥‥まるで化け物みたいで‥‥アタシは怖くて‥‥不安で‥‥悲しくて‥‥いっぱい泣いた。いっぱいいっぱい泣いた。

 それからしばらくしてアリスちゃんはアタシにこのヘルメットをくれた。
「これはなぁに?」
「プレゼント♪ アリアちゃんの事を守ってくれるお守りだから、ちょっと被ってみて」
 アリスちゃんは笑っていたけれど、その目は何故かとても怖かった。
 でもアタシは素直にそのヘルメットを被って‥‥それから後の事は何も覚えていない。
 気がついた時にはヘルメットを脱いで、ここにいた。
 アリスちゃんに何があったのか聞いても教えてくれなかった。
 そして、今日またアリスちゃんにヘルメットを被るようにお願いされた。
 きっとアタシは何か怖い事をしている。させられている。
 怖い‥‥。
 逃げ出したい‥‥。
 でも何処に?
 ここが何処かも分からないのに‥‥。
 それにアリスちゃんを置いていけない。
 もうアリスちゃんと離ればなれになりたくない。
 今度離れたら、もう二度と会えなくなる。
 そんな気がするの‥‥。
 それにアリスちゃんがこうなったのはアタシのせいなんだもん。
 だから‥‥アタシはまたこのヘルメットを被った。



●7月4日

 独立記念日の式典を終え、自分の替え玉と入れ替わったジョナサンは多数の護衛の車を引き連れて発進したメイヤーのリムジンを密かに見送ったのだった。

●参加者一覧

旭(ga6764
26歳・♂・AA
夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD
芹架・セロリ(ga8801
15歳・♀・AA
RENN(gb1931
17歳・♂・HD
柳凪 蓮夢(gb8883
21歳・♂・EP
湊 獅子鷹(gc0233
17歳・♂・AA
春夏秋冬 立花(gc3009
16歳・♀・ER
杜若 トガ(gc4987
21歳・♂・HD
シルヴィーナ(gc5551
12歳・♀・AA

●リプレイ本文

 旭(ga6764)、夜十字・信人(ga8235)、芹架・セロリ(ga8801)、柳凪 蓮夢(gb8883)、春夏秋冬 立花(gc3009)、杜若 トガ(gc4987)、シルヴィーナ(gc5551)、マチュア・ロイシィ(gz0354)はリムジンに乗り、湊 獅子鷹(gc0233)は柿原 錬(gb1931)のAU−KVに乗って最後尾を走っていた。
「去年も独立記念日を狙われたそうだな。‥‥それもネモに」
 信人が嫌な予感を噛み潰した時、運転手のメイヤーのブザーが鳴動した。
「!」
 一同の間に緊張が走り、メイヤーは予定通り急ハンドルを切って急加速した。

 猛スピードで走るリムジンと護衛車との距離が開くと、不意に車両間にオストリッチが割り込み、護衛車に向かって拡散プロトン砲を発射してきた。
 無数の光弾に貫かれた護衛車はガソリンが引火して吹っ飛び、光弾はすぐ後ろを走っていた錬達にも襲いかかる。
「くっ!」
 錬は急ハンドルを切って、光弾と吹き飛んだ車を避けた。
「チッ!」
 湊はシートから離脱すると地面を転がって勢いを殺し、燃え盛る車を遮蔽物にしてオストリッチの側面に回り込んで接近。
「でりゃあ!」
 獅子牡丹でフェザー砲を狙ったが、オストリッチは滑るように退がって避けた。
 しかし錬がその間に湊の逆側に回り込み、エネルギーガンをプロトン砲に撃ち込んだ。
『く‥痛い‥‥苦しい‥‥』
 すると、オストリッチから苦しげな子供の声が響いてくる。 
「ジョンか?」
 湊が声に気を取られた一瞬の隙でオストリッチは身を回転させ、レーザーブレードで湊を斬り裂くと距離を取り、錬に拡散プロトン砲を照射した。
 錬は盾をかざしつつ『不抜の黒龍』を発動させてダメージを軽減させたが、超々高熱の光は次々とAU−KVを貫き、穿たれた穴から血が噴き出して装甲を赤く染める。
「この程度でっ!!」
 錬は血塗れになりながらもプロトン砲の砲口にエネルギーガンを撃ち込み、プロトン砲を爆発させた。
『痛い‥辛い‥苦しい‥‥もう嫌だ‥‥誰か‥‥助けて‥‥』
 オストリッチからはジョンの苦鳴が響き続けている。
「今更気づいた‥‥どうやら俺はつくづく人間らしいな」
 湊は不意に沸き上がってきたジョンを救いたいという思いに自嘲し
「こうなりゃハッピーエンド以外は俺が許さねえ!」
 太刀を構え直して突っ込んでゆく。
「ジョン、怖いか? 苦しいか? 怖いなら、言えばいいんだよ! 助けてくれって! 助けを求めることは恥ずかしいことじゃねえんだ!」
 オストリッチはフェザー砲を連射してきたがジグザグに動いて何発かは避け、命中弾は『自身障壁』でダメージを軽減し、噴き出た血は『活性化』で止める。
「ここに来た連中はお前を助けようと許そうとお前を今いる闇の中から引きずりだそうとしているんだよ!」
『‥‥』
 そうして呼びかけると、一瞬だがフェザー砲が止まった。
「ジョン! お前はもう俺と同類じゃねえ」
 その隙を逃さず湊は懐に飛び込むと脚間接を斬り裂き、『流し斬り』で刃を跳ね上げて腕ごとフェザー砲を斬り落とす。
 オストリッチはレーザーブレードを振り降ろしてきたが、太刀を振り上げ、レーザーブレードの射出口を斬り裂いた。
 だが、オストリッチは拳で湊を殴打して吹っ飛ばし、追い打ちをかけようとフェザー砲を向ける。
「させるか!」
 しかし錬がエネルギーガンで足を撃ち抜き、体勢が崩れてフェザー砲が反れる。
 錬は更にコクピットを狙って連射したがオストリッチは避けてフェザー砲で反撃してきた。
 『不抜の黒龍』を発動したがフェザー砲の威力を殺しきれず体を貫通。血が噴き出し、失血で目が霞み、全身から力が抜けてくる。
「早く立てよ、湊のダンナ‥‥僕は‥もう‥‥持たな‥‥い」
 そして自身の血溜まりの中に倒れ伏した。
「オォォォーーー!!」
 湊は錬の期待通りに立ち上がり、太刀ごと体当たりするようにオストリッチの脚間接に刃を突き入れて破壊して動けなくすると、更に残っていた腕も切断する。
「待たせたな、ジョン」
 コクピットをこじ開けると、そこには手足をオストリッチに接続されたジョンの姿があった。
「何で‥‥」
「話は後だ」
 自爆装置を警戒した湊がジョンの手足を切断して引きずり出した直後。オストリッチが爆発した。
「くっ!」
 湊は咄嗟にジョンを庇いつつ『自身障壁』を発動したが、満身創痍の湊の体は爆発と地面に叩きつけられた衝撃に耐えきれなかった。
(くっ‥‥)
「おっさん。おい、おっさん!」
(今度はおっさんかよ‥‥)
 湊はジョンの声を聞きながら満足気な微笑を浮かべて気を失った。



 一方、リムジンはオストリッチを引き離して全速力で走っていた。
「上から何か来ます!」
 立花が発動しておいた『探査の眼』で感知した事を警告し、屋根の上にドンと重い衝撃が響く。
「伏せろ!」
 トガが咄嗟にジョナサンの替え玉を庇った直後、屋根の上から車内に銃弾が連射される。
「あぅ!」
「ぐっ!」
「キャウッ!」
 銃弾は中央に座っていた、立花、トガ、シルヴィーナ、替え玉に降り注いだが、替え玉はトガが庇ったため無傷だ。
「うっへ。登場から激しいな」
「上から来たか!」
 セロリが暢気に感心し、信人が屋根越しにマシンガンで反撃すると、屋根から少女が転がり落ちていった。
「俺は此処で降りてあいつを抑える。ロリ、付いてこい。気をつけろ、この速度だ」
「ほらよ、餞別だ」
 トガが信人とセロリに『錬成強化』を施した。

 セロリは窓から飛び出すと、『瞬天速』で相対速度を殺して軟着する。
「なんか映画みたいだなー」
 どこか楽しげなセロリの元に信人が地面を転がって衝撃を殺しながら到着し、車を狙われぬように盾を構えて相手を見据えた。
「‥‥最悪だ。その銃には見覚えがある」
 ヘルメットで少女の顔は分からないが、両手の銃はネモが持っていた物と同一だった。
「こちらは狙われたら最後、か‥‥。じゃぁ、よっちーが狙われてる間に倒せば良いわけだな。ちゃんと引き付けておいてくれよ。よっちー」
「あぁ、一気に決めるぞロリ」
 信人は『仁王咆哮』で少女の気を引くと、盾を構えて駆けだした。
 少女は銃を掃射してきたが『不壊の盾』で受け、更に間合いを詰める。
 セロリは少女を間合いに捉えると瞬天速で一気に背面に回り、『強刃』を発動した菫で『急所突き』の居合斬りを放った。
「ちょいさっ!」
 放たれた刃はスルリと吸い込まれるように少女の首を断ち、分かたれた首は地面に転がり、首を失った体からは血が噴き出して地面に倒れ伏した。
「あれ?」
「なに?」
 あまりの手応えのなさに呆然とする2人。
「アリア‥‥だったのかな?」
「おそらく、そうだろう‥‥」
 ヘルメットを脱がすと、アリアは呆とした表情で事切れていた。
「ごめんな‥‥俺たちがもっと強かったら助けられたかもしれないのにな」
「‥‥ロリ、勘違いするな。お前は命令に従っただけだ」
 信人はセロリを慰めたが、2人がどんな気持ちで何を言おうとも死人のアリアにはもう何も届かないのだ。



 その頃、リムジンは信人とセロリを大きく引き離し、橋に差し掛かろうとしていた。
「‥‥人? それに爆弾だと!」
 助手席のマチュアが橋の中央に立つ少女と、少女の足元に爆弾が埋められている事に『探査の眼』で気づく。
「ちゃんと大統領を連れてきてくれたのね。ありがとう、おじいちゃん」
 ヘルメットを被ったその少女は両手の銃をかかげ、リムジンに向かって発砲。エンジンに直撃を喰らった。
「外に出ろ!!」
 マチュアはメイヤーを、トガが替え玉を連れ、全員が車外に逃れる。
 しかし少女は替え玉に向かって更に発砲。
「ぐあっ!」
 トガが身を呈して守ったが、腹に大穴が開いて血がドクドクと溢れ出た。
「これ以上はやらせないっ!」
 蓮夢は2人を守るために『制圧射撃』を放ったが少女には避けられた。
 だが、マチュアがGバスターキャノンで更に追い打ちをかけて少女の攻撃を阻害する。
「すまない、私のために‥‥」
「いいって、気にすんな。それよりあんたらはさっさと隠れな」
 トガは自分に『錬成治療』を施しながら替え玉とメイヤーをリムジンの後ろに隠れさせる。

 蓮夢は小銃「DF−700」をリロードしつつ橋の柱の陰に隠れると、橋からロープで釣り下げられている少女、メイヤーの孫のイブが見えた。
 しかし救出に向かうには距離が遠い。
「人質のイブを発見しました。場所は‥」
『しかたねーな。俺が川に飛び込んで救助してやるから、どうにかしてロープを切ってくれ』
 蓮夢が骨伝導式小型無線機『ストレプトカーパス』で詳細を皆に伝えると、トガから返信がきた。
「了解です」
 蓮夢が苦無を投擲してロープを切ると、落下するイブを追ってトガも川に飛び込んでいった。

「目の前でシルヴィーやみんなを傷つけられるのはもうたくさんだ」
 旭は姿勢を低くし、聖剣「デュランダル」を突き出すようにして少女に突撃した。
「‥‥倒します‥絶対に‥助けるためにも‥終わらせるためにも」
 シルヴィーナは被弾面積を減らすために姿勢を低くし、旭の後に続く。
 対する少女は先頭の旭に向かって銃を連射。
 旭は剣先を銃弾に合わせて弾こうとしたが、超音速で飛来する銃弾に当てる事は到底できず。
 続いて装甲で受け流そうとしたが、うまく曲面に当たった1発以外は全て装甲を貫通して体に突き刺さった。
「ぐぅ!」
 それでも旭は『迅雷』で一気に間合いを詰めて大剣を薙払ったが、少女にはしゃがんで避けられる。
(顔を‥)
 少女の顔を確認するため旭は眼下にあるヘルメットに手を伸ばすが、少女はその手も掻いくぐって発砲。旭の腹に更に弾痕が刻まれた。
 しかし、その間に立花が『瞬天速』で両者の間に割って入る。
「わ!」
 少女は咄嗟に銃を向けてきたが、立花はその手を掴んで抑えた。
 掴んだ手から練力を吸い取られるような感覚はない。
(アリアなのかな?)
 立花はヘルメットも奪おうとしたが、少女に顎を蹴り上げられる。
「ギャウ!」
 軽い脳震盪を起こした立花を更に回し蹴りで吹き飛ばす。
「ゴホッ!」
 今の蹴りで内蔵をやられて血を吐いた立花は自身に『錬成治療』を施し始めたが、少女が銃を向けてくる。
「させません!」
 だが、シルヴィーナが『ソニックブーム』を放って妨害した。
「もー邪魔しないでよ」
 少女が自分に標的を変えた瞬間、シルヴィーナは走りつつ体も振って照準を外しながら『流し斬り』を発動して少女の横に回り込み、『ソニックブーム』を放つ。
「く!」
 少女は銃を交差させて受けた。
「今だ!」
 その瞬間、蓮夢は『鋭覚狙撃』で少女のヘルメットを狙い撃って破壊した。
「よくも!」
 少女が自分に銃を向けてくると蓮夢は閃光手榴弾を自分の視界外に取り出し、槍で突いて強制爆発させようとした。
 しかし
(‥‥不発?)
 閃光手榴弾は光らず、放たれた凶弾が蓮夢を次々と貫いてゆく。
 衝撃でよろけた蓮夢は橋から足を踏み外し、川へ落ちていった。

「ロイシィさん、アリアかどうか確認してください」
 旭に頼まれ、マチュアは少女の顔を凝視した。
「‥‥違う。アリアじゃない、ネモだ!」
「なら遠慮なく!」
 旭は『虚闇黒衣』を発動して体を暗いヴェールで覆い隠した。
「そんなもので!」
 そしてネモが銃を構えた瞬間に『迅雷』で間合いを詰め、ヴェールで見えづらい足で足払いをかける。
「あ!」
 体勢を崩して倒れたネモに剣を突き立てようとしたが、身長よりも長い1.8mのデュランダルを突き立てるには身を思いっきり反らさねばならず、その一瞬の間のせいで剣はネモではなくスカートに突き立った。
 それでも旭は構わず『両断剣・絶』で一気にネモを斬り裂く。
「こいつぅーーー!!」
 両断とはいかなかったが深手を負ったネモは倒れたまま旭に銃を乱射。
「ぐ‥‥ここまで‥か」
 凶弾に貫かれた旭が力尽きる。
「旭さん!」
 倒れた旭にトドメをさそうとするネモにシルヴィーナが『流し斬り』で斬りかかったが、銃身で刃をそらされる。
 しかしシルヴィーナはすぐに小銃「ブラッディローズ」を抜いて至近距離から発砲。放たれた散弾がネモの銃を指ごと吹き飛ばした。
「お気に入りの体を傷物にして!!」
「キャン!」
 ネモはシルヴィーナを蹴り飛ばすと、ポケットから何か取り出した。
「もういい! まとめて吹っ飛ば‥」
「させない!!」
 しかし立花が『瞬天速』で手に体当たりし、ネモの手から爆弾の起爆装置がこぼれ落ちる。
「こいつ!」
 ネモは立花の首を掴むと締めあげつつ練力を吸収し始める。
 だが
「喰らえ!」
 マチュアの放った砲弾が脇腹に命中。
「えぇい!」
 ネモがよろけて手の力が緩んだ隙に立花が機械刀「凄皇弐式」で腹をえぐり
「これで終わりです!」
 シルヴィーナが大鎌で背中を大きく斬り裂いた。
「がはっ!」
 全身のいたる所から血を噴き出しながらネモがガックリと膝をつく。
「なによ‥これ? なんなの!? このあたしがこんな‥無様‥‥ありえない!! あたしが見逃してやったから生き長らえていたくせにっ!! くそ! くそくそくそ!! 地球の人間は単なる研究対象! あたしのオモチャ! あたし達に利用されるだけの単なる有機物だろう!! その中でも地球人は最低なゴミくそだ!! 自分の身が一番大事で自分に関わりのない物はどーでもよくて子供でも何でも生かしも殺しもする!! 宇宙一傲慢で最て‥」
「もういい黙れ!!」
 マチュアはネモの頭を撃ち抜き、永遠に黙らせた。

 替え玉とメイヤーも無事で、イブと蓮夢もトガが川から無事に引き上げ、イブにはFF反応はなかった。
 しかし‥‥



「何故だ夜十字!!」
 戻ってきた信人とセロリからアリアが死んだ事を聞かされたマチュアは激昂し、信人の胸ぐらを掴みあげた。
 なぜなら2人は無傷で、アリアの首が斬り落とされていた事から、2人が最初から殺す気でいた事は明白だったからだ。
「マチュア‥‥すまない」
「く!」
 マチュアは怒りを露わにしたまま信人を突き飛ばす。
「結局、私は誰も救えなかった‥‥誰も‥‥何も‥‥」
 そして皆に背を向け、一人何処かへと去っていった。



 その後、ジョンは【イノセント】の構成員は彼が知る限り、ジョンとアリアしか残っていない事を証言した。
 ジョンは度重なる無理な強化手術ため余命が後1年もない事が判明する。
 エミタを使った治療を施せば余命は延ばせるが、自分の意志でバグアに手を貸して殺人を犯した事のあるジョンにはエミタ治療は適用されなかった。
 残りの短い余生をジョンがどう過ごすのかは本人にしか分からない。

 トムはネモが死んだ事を聞かされてからは精神的に安定してきたが、社会復帰にはまだ少し時間がかかるだろう。

 リックはジョンが戻ってきた事を素直に喜び、何度となくジョンとトムの見舞いをしている。

 こうして、ネモに関わる事件は多くの者に深い傷跡を残して終わりを告げたのだった。