タイトル:【br】Ghost Townマスター:真太郎

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 9 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/06/12 20:41

●オープニング本文


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 病院に緊急搬送されて集中治療室で治療を受け、一命を取り留めたリックが目を覚ましたという知らせを受けた私、マチュア・ロイシィ(gz0354)はすぐさまリックの入院している病院に駆けつけた。

 病室では医療器具に繋がれてベッドに横になり、以前よりも憔悴した顔をしているリックがいた。
「‥‥リック」
「あ、マチュア姉ちゃん」
 僅かな緊張の後、声をかけるとリックは弱々しい笑みで迎えてくれた。
 拒絶される事も覚悟していた私は正直安堵した。
「調子は‥どうだ?」
「良くは‥‥ないかな」
「大丈夫だ。すぐに良くなるよ」
「‥‥うん」
 弱々しく頷いたリック。
「ねぇ、マチュア姉ちゃん。トムはどうしてる?」
「リックと同じように入院してるよ。命に別状はないさ」
 確かに命に別状はない。だがずっと病室に引きこもって酷く怯えている。
 何時も誰かが自分を浚いに来るんじゃないか? 殺しに来るんじゃないか?
 今回の事でそんな心因性のトラウマを抱えてしまったのだ。
 そのため私が病室へ行っても怯え、拒絶されてしまった。
 あの時、捕らわれの身で何もできなかったを私はトムにとって信頼できない大人と認識されたのだろう。
 今のリックにそんな事を語って心を痛ませるだけだ。
 しかし
「じゃあ、ケビンは?」
 当然聞かれたこの問いの返事はどうする?
 真実と嘘。
 どちらがリックを傷つけないだろう?
 どっちだ?
 どっちだ?
 どっちがリックのためになる?
「‥‥死んだだね」
「!」
 迷っていた私の心を見透かしたようにリックが告げる。
 現場でケビンの傷の度合を直接見たリックは薄々気づいていたのだろう。
「あぁ‥‥ケビンは‥‥助からなかった」
 だから私も素直に真実を告げるしかなかった。
「そう‥‥なんだ‥‥」
 意外な事に、リックはやや表情に陰を落とした程度でケビンの死を受け入れた。
「ジョンは?」
「ジョンはネモと共に逃げたよ」
「そう‥‥」
 その事を聞いてもリックは穏やかだった。
 少なくとも表面上は。
「ねぇ、マチュア姉ちゃん。ジョンを‥‥助けてあげてくれないかな?」
「えっ!?」
 助ける?
「どうして‥そう思うんだ?」
「僕もジョンと同じなんだよ。僕もジョンみたいに両手足を無くしていたら荒んでいたと思う。手足を斬られた時に庇って貰えてなかったら人を憎んで拒絶したと思う。これが僕とジョンの違い。そんなほんの少しの差で、僕もジョンみたいになっててもおかしくなかった。だからジョンの気持ちも分かるんだ」
「でもジョンはケビンを殺して」
「人なら僕も殺したよ」
 リックがすかさず言う。
「ネモに命令されたからだったけど、僕も人は殺した。学園では何人も‥‥ね。もちろん僕もケビンを殺された事は悲しいし許せない。でも、人を殺した事でジョンが許されないのなら、僕も許されないって事なんだ‥‥」
「‥‥」
 私は何も言えなくなってしまった。
 9才にして多くの人の死を体験したリックの精神は私が思っていた以上に大人びていた。
 それが9才の子供にとって良い事なのかどうか、私には分からないけれど‥‥。
「ごめん、マチュア姉ちゃん。僕、勝手なこと言ってるよね。だからできたらでいいんだ。できれば‥ジョンも救ってあげて欲しい」
「‥‥」
 リックは最後にそうお願いしてきたが、私は否定も肯定もできなかった。



 リックの見舞いを終えた私はUPC太平洋軍本部を訪れ、ネモに関わる事件の担当官と会いに行った。
 前回の事件で破壊したオストリッチのコクピットのAIを解析した所、入力されていた帰還行路データから帰還場所を割り出す事に成功したと報告を受けたからだ。
「お久しぶりです。まさか、ネモがまだ生きていたとは思いも寄りませんでした」
 もう会う事もないだろうと思っていた担当官はそう前置くと、オストリッチの最終帰還場所は人類領とバグア領との境目にあるゴーストタウンだと説明した。
「ただ‥‥」
「その場所は罠の可能性がある」
「はい、その通りです」
 以前に同じ様な方法でネモの仕掛けた罠に嵌った事のある私達は同じ結論に達していた。
 だが、罠だからと言って見過ごせる訳はない。
 結局、私達の取れる選択肢は一つしかないのだ。
「問題は‥そこをどう攻めるか‥‥」
 私達はまずそのゴーストタウンの偵察から始める事にした。

 そして私が『探査の眼』を使い、軍の隠密偵察部隊と協力してゴーストタウンを仔細に調査した結果。町には各所にトラップが仕掛けられており、キューブワームどころかマインドイリュージョナーまで密かに配備されている事が判明した。
 私達はその配置の把握した後、軍と共に作戦を立案。
 まず軍の歩兵部隊がゴーストタウンに突入してトラップ、CW、MIを全て破壊した後、町を包囲。
 傭兵部隊が入れ替わりで再突入をかける手筈となった。



 作戦当日。
 軍の歩兵部隊は自らの役目を完璧にこなして離脱。私達はゴーストタウンに突入した。
「みんな、ネモはおそらく相手の錬力を減少させる能力を有している。接近された時は気をつけろ」
 私は自分が捕らわれた時に錬力が枯渇していた事を思い出し、その事を警告する。
 そして慎重に町中を探索していると私の発動していた『探査の眼』が待ち伏せを感知。
「気をつけろ! 待ち伏せだ!」
 視線をそちらに向けると学校の屋上に小型プロトン砲をこちらに向けているオストリッチの姿が見えた。
 更に体育館からも2体オストリッチが現れる。
そして、その内の1体のコクピットが開き、一人の少女が姿を現した。
 その少女は大きなバイザーの下がったヘルメットを被っていたため顔も表情も分かり辛かったが、背格好からすぐアリアだと分かった。
 ヘルメットからは何本もコードが伸びてコクピット内と繋がっている。おそらく操縦装置の一部なのだろう。
「ネモ‥‥なのか?」
 アリアがネモ。
 事前に知らされていた事だが実際の所、私はまだそれを信じられないでいた。
 いや、きっと信じたくなかったのだ。
 しかし
「このシチュエーションって聖マーガレス学園を思い出すよね。あの時マチュアお姉ちゃん達は何人子供を殺したのかしら?」
 アリアが知らず、ネモが知っている事実が語られた事で、真実をまざまざと見せつけられた。
「そして今日も殺すのかしら? ジョンと、もう一人の可愛い子を。それとも救おうとするのかしら? そもそもあなた達ってどうやって人の生き死にを決めてるの? 自分に敵対した者なら殺すの? でもリックとケビンをあなた達は守ってた。訳が分からないわ。あなた達って本当に不思議。だからこそ興味深いんだけど」
「もういい! 黙れ!!」
 耐え切れなくなった私は声を張り上げてアリアの声を遮った。
 するとアリアはコクピットを閉じ、オストリッチのモノアイに光が灯る。
「ネモ! 今度こそ息の根を止めてやる!!」
 私は覚悟を決め、Gバスターキャノンをオストリッチに向けた。

●参加者一覧

旭(ga6764
26歳・♂・AA
夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD
芹架・セロリ(ga8801
15歳・♀・AA
サンディ(gb4343
18歳・♀・AA
柳凪 蓮夢(gb8883
21歳・♂・EP
湊 獅子鷹(gc0233
17歳・♂・AA
春夏秋冬 ユニ(gc4765
17歳・♀・DF
杜若 トガ(gc4987
21歳・♂・HD
シルヴィーナ(gc5551
12歳・♀・AA

●リプレイ本文

「ケビンは死んだか。ガキのまま酒も煙草の味も知らずに逝くとは勿体ないねぇ」
「あのクソガキ、俺と同類に近づいてやがるか‥楽しいねぇ」
 杜若 トガ(gc4987)は吸っていた薬煙草を捨てて踏みにじり、湊 獅子鷹(gc0233)は瞳に怒りを宿しながら凄惨な笑みを浮かべた。

(ネモ、か‥‥)
 柳凪 蓮夢(gb8883)は『隠密潜行』で味方の陰に隠れると、武器を洋弓「レルネ」に変えて閃光手榴弾を括り付けた弾頭矢をつがえた。
 すると超機械「カルブンクルス」で上昇していた分と、洋弓「レルネ」 を装備した影響分の生命値が下がる。

「マチュア、アリアと戦えるね?」
 実際にアリアを目の前にしたサンディ(gb4343)は自分の不安をかき消すようにマチュア・ロイシィ(gz0354)に尋ねた。
「あぁ‥‥私の手は既に弟のアーチェスの血で染まっている。そんな私が今更躊躇うなど‥‥」
「大丈夫、私達も戦うから‥‥一人で背負い込まないで下さい」
 サンディは苦しげに言葉を紡ぐマチュアの腕にそっと手を添えて微笑みかけた後、キッと真剣な表情で屋上を見据えた。

「俺が前に出る。マチュア君、クレイジーキャノンで支援射撃を頼めるか? 狙う目標は任せるっ」
「こいつはGバスターキャノンだ」
 夜十字・信人(ga8235)にそれ程気に入っていないあだ名と間違えられた武器名を訂正するマチュア。
「そんなのどっちでもいいから、ボクのガトリングと一緒に、その大砲で撃ってよ!」
「‥‥分かったよ」
 芹架・セロリ(ga8801)に促されたマチュアは強化型フェザー砲を背負ったオストリッチ(O2)にキャノン砲を向けた。
 しかし『探査の眼』で足下からの奇襲を感知。
「!」
 飛び退いた直後に地面からサンドウォーム(SW)が現れ、間一髪その牙から逃れた。
 しかし伸ばされた触手がキャノン砲に巻き付いて奪われてしまう。
「くそっ!」
「マチュアさん!」
「大丈夫だ。こいつは私に任せろ」
 マチュアはクリスダガーを抜くとSWに斬りかかった。


「おい! 居るんだろジョン。ケビンは死んだぜ。これでお前も俺と同類って事だ。ハハハッ! さあ同類殺し楽しませてもらうか。殺し合おうぜ、ジョン!」
 湊が何処かにいるだろうジョンに大声で呼びかける。
『俺はお前みたいな狂人じゃねぇ! 死ぬならお前だけ死ねよ!』
 すると校舎の屋上にいたオストリッチ(O1)が小型プロトン砲を放って湊を撃ち抜いた。
「そこか‥‥」
 瞳に殺意を滾らせた湊が校舎に向かって駆け出し、サンディ、蓮夢、春夏秋冬 ユニ(gc4765)も後に続く。
 ジョンは接近する3人と、走りながらでは『隠密潜行』でも味方の陰に隠れ続ける事ができなかった蓮夢にも次々とプロトン砲を浴びせてゆく。
(13‥12‥)
 蓮夢はプロトン砲で焼かれながらも頭の中でカウントを続け、
「いくよ」
 閃光手榴弾が炸裂する寸前、周囲の仲間に聞こる程度の小声で合図し、閃光手榴弾付き弾頭矢をO1に放った。
 しかし閃光手榴弾の重みで重心のぶれている矢は外れ、閃光もO1の後ろで炸裂した。
『どこ狙ってるんだよ、バーカ』
 そして蓮夢はジョンの反撃のプロトン砲を喰らい、全身を焼かれて力尽きた。

 しかしその間に校舎に取り付いたユニが『瞬天速』で屋上へ駆け上がる。
『どうやって登って来たんだ!?』
「もちろん壁を走ってですわ」
 ジョンがフェザー砲を乱射するが、ユニは何発か喰らいながらも『瞬天速』で足元の死角に潜り込む。
「娘の痛み! 返しますわね」
 そして体を大きく旋回させ、遠心力を加えた『二連撃』を膝間接に叩き込むと、間接からスパークを上がって膝が折れる。 
『くそぉ!』
 ジョンはレーザーブレードを振り回したが、ユニは『瞬天速』で別の死角に移動した後だ。
「ジョン、こんな所で何をしているのですか?」
 続いて、ユニとは別の所に『迅雷』で駆け上がってきたサンディが尋ねる。
「ケビンは‥死にました。友達を撃って、逃げて、あなたの心は何も痛まないのですか? ネモに良い様に扱われて、それがあなたの望んだ事なのですか?」
『うるせぇ! 奴らは元々友達じゃねぇし、裏切ったのはあいつらが先だろ。それに俺はもう大幹部だ。ネモ様に必要とされてる。一番頼りにされてる。俺はもう弱っちくもねぇし役立たずでもねぇ!!』
 ジョンは絶叫しながらフェザー砲を乱射してきた。
「ジョン!」
 サンディはフェザー砲を喰らいながらも間合いを詰めると『猛撃』を発動。
「いい加減に目を覚ましなさい!」
 紅炎を斬り上げてフェザー砲を切断。返す刀でプロトン砲の砲身を斬り落とし、股関節に刃を突き入れて足を動かなくした。
「今ですわ!」
 ユニは『瞬天速』でO1の背に駆け登るとコクピットの入り口の隙間に聖剣「ワルキューレ」 を突き入れてこじ開けようとする。
『なめんなぁ!!』
 O1は片腕と片足で床を叩いて屋上から身を投げ出し、ユニと共に落下。ユニを地面の下敷きにする。
「くはっ!!」
 ユニは全身がバラバラになりそうな衝撃を受けるが、O1はFFで落下の衝撃はほとんどない。
『どうだババァ!!』
 ジョンはすぐにO1を起きあがらせると、ユニを殴打して昏倒させた。
 しかし
「さあ、ジョン。殺し合おうぜ!」
 目の前に湊が立ちふさがり、大剣の明鏡止水で思いっきり斬り付けてきた。
『コイツー!!』
 ジョンもO1の腕を振るって殴り返す。
「楽しいか! 楽しいよなあ!! 殺し合いって奴はよお!」
 だが湊は構わず剣を振り続け、O1の機体が徐々にひしゃげてくる。
 対する湊も頭が割れて血が噴きだし、肉が軋み、骨が折れる。
 そんな壮絶な殴りあいの末、先に動けなくなったのはO1だった。
「さて」
 湊はコクピットハッチを引き剥がすと、ジョンの手足を破壊してから引き摺り出した。
「ケビンの仇だ‥‥」
 そしてゆっくり大剣を振り上げる。
「くっ‥‥」
 ジョンは湊を睨み返すが、その瞳には明らかに怯えが浮かんでいた。
「ダメだシシタカ!」
 サンディが湊の凶行を止めようと屋上から飛び降りる。
 しかし大剣は無情にも振り降ろされ

「‥‥マ、ママーー!!!」

 ジョンの悲鳴が

 ――ガァン

 大剣の斬撃に掻き消される。

「‥‥ぁ」
 しかし湊の大剣はジョンの足元を抉っただけだった。
「コレで俺と同類だったジョンは死んだ。ここにいるのはただのクソガキだ。また同類になるってんなら、そん時は殺しにいくさ」
 湊はそれだけ言い残して背を向けた。
「‥‥チ、チクショーーー!! チクショウ‥‥」
 そして残されたジョンは、ただ涙を流す。
 その涙の元が安堵か、悔しさか、それとも他の何かなのかも分からずに‥‥。


 少し時は巻き戻り


「俺は奴を中心に動く、他方向から火力を集中してくれ」
 信人が『仁王咆哮』でO2の気を引いて側面に回り込むと、O2は信人の方に向きを変えながらフェザー砲を掃射してきた。
「よしよし、うまくよっちーに喰いついた」
 セロリはO2が信人に気を取られている隙に側面から大口径ガトリング砲を連射。
 信人も(抵抗値の上昇分しか効果はないが)デビルシールドで身を守りながらフォルトゥナ・マヨールーで反撃する。
「こいつら見てっと前にやられた傷が疼いちまうがぁ‥今回はクールに行くぜ」
 トガも超機械「クロッカス」でセンサー類やカメラ、駆動系などに電磁波を撃ち込み、脆い箇所の探りを入れた。
 しかし効いてはいる様だが、どこが脆いかまでは分からない。
 そうして信人がフェザー砲に耐えつつ3方から攻撃を加えていたのだが、『仁王咆哮』が切れた途端、O2の強化型フェザー砲が唸りを上げて全周囲に無数のフェザー光を乱射し始める。
 すると信人やセロリだけでなく、トガまでもがフェザー光の餌食となった。
「ぐはっ!」
 トガが全身に幾つも弾痕を穿たれ、その場に膝をつく。
「トガ君!」
 信人が『仁王咆哮』を発動し直して再びO2の攻撃を一身に受ける。
「チッ‥‥迂闊に近づきすぎたか‥‥」
 トガは自分に『錬成治療』を施そうとしたが失血で意識が朦朧としていたため叶わず、そのまま自身が流した血溜まりに倒れ伏した。


 一方、メルトレイ砲を背負ったオストリッチ(O3)の対処に向かった旭(ga6764)はネモやジョンに聖剣「デュランダル」の威力や戦い方を隠すため、まずは小銃S−01を抜いた。
 すると大鎌「戮魂幡」を持つシルヴィーナが自然と前衛になる。
「ネモさん‥あなたは許しませんです‥どうしても‥許しませんです‥‥」
 シルヴィーナ(gc5551)は『敵の攻撃には絶対に当たらず』を心掛けつつO3に接近したが、そう簡単にはいかなかった。具体的にどう動くべきかまで思い至っておらず、O3のフェザー砲を上手く避けられない。
「それ以上やらせない!」
 旭が咄嗟に銃を撃ってO3の攻撃を阻害したため、シルヴィーナは絶命寸前で救われた。
「ゴホッ!」
 シルヴィーナは血を吐きながらも『活性化』を発動。
(私は‥ネモさんを倒して、ジョンさんも助けてあげるのです。きっと‥‥分かってくれる筈なのです‥‥)
 そして自分を奮い立たせて立ち上がり、大鎌でO3のフェザー砲を斬りつける。
 だが刃は砲身の中程で止まり、切断には至らない。
「もう一撃です!」
 シルヴィーナは刃を抜いて振り上げたが、O3のレーザーブレードが先に胴を薙ぎ払う。
「ぅ‥‥」
 焼き斬られた腹を押さえると指の間から大量の血が零れ落ち、足から力が抜け、シルヴィーナはその場に崩れ落ちた。
「シルヴィー!!」
 旭は絶叫しながら駆け出し、『抜刀・瞬』で大剣を持ち直す。
(僕が聖剣の力を隠そうとせず最初から前衛で戦っていれば‥‥)
 心中で深く後悔しながら奥の手のライトブリンガー(両断剣・絶+ソニックブーム)を放つ。
 ギリギリ届いた衝撃波はO3の両足を切断。旭は間合いを詰めると一気に両腕のフェザー砲と背中の砲台も斬り落とした。
「さ、命までは取らないから大人しく投降して」
 そしてパイロットをワイヤーで捕縛しようとコクピットを開けた、その時

 ――ドンドンドンッ!

 甲高い重低音と共に放たれた銃弾が旭を撃ち抜いた。
「‥‥え?」
 目の前のコクピットには2丁の長大な銃を手にしたアリアの姿がある。
(何故‥‥?)
 旭は訳の分からぬ疑問を抱いたまま意識を失った。

「なんでアリアが2人もいるんだ?」
「瞬間移動? それとも超魔術?」
 信人とセロリも困惑する。
「アリアが2人? いや‥‥お前は‥‥アリスか!」
 マチュアが確信を持って叫んだ。
「うふふっ、さすがはマチュアお姉ちゃんね。そう、あたしは双子のアリスちゃん。そっちにいるのが正真正銘のアリアちゃんよ」
 アリスは楽しげに笑うとマチュアに銃を向けた。
「じゃあアリアは‥‥」
「強化処理はしたけど、まだ人間よ」
「そうか‥‥」
 それを聞いたマチュアは安堵の微笑を浮かべ、
「夜十字、芹架、アリアを頼む!」
 クリスダガーを構えてアリスに突っ込んでいった。

「えっと‥‥こっちのアリアを助ければいいんだよね?」
「その通り。いくぞロリ!」
 信人はO2のフェザー砲を喰らいながらも狙いを定める事に集中して銃を2連射し、O2に膝間接を撃ち砕く。
 体勢の崩れた所でセロリが強化型フェザー砲にガトリング砲を浴びせかけて破壊する。
 O2はセロリがリロードしている隙を突いてフェザー砲を放ってきたが、信人が間に割って入って防ぎ、リロードを終えたセロリがフェザー砲も破壊。O2の武装が全てなくなる。
「しばらく大人しくしていてくれ」
 更に信人がもう片方の膝間接も破壊するとO2は歩く事さえできなくなった。

 そして2人がアリスに向き直ると、体に幾つもの弾痕を穿たれて倒れ伏すマチュアの姿があった。
「間に合わなかったか‥‥」
 サンディと湊もこちらに向かって来ているが、到着するまでまだ時間が掛かるだろう。
「ロリ!」
 信人は盾をより強固なエンジェルシールドに持ち替えると、予備のフォルトゥナ・マヨールーをセロリに投げ渡す。
 セロリはガトリング砲をその場に捨てて銃を掴むと、菫も抜いて構えた。
「やっぱこっちの方がやりやすいな」
「子供の命を奪う事になろうとも、俺に、戦う意思を曲げる事は、許されていないんだ」
 信人はアリスを牽制するためマヨールーを撃ち放つ。
 だが、アリスは右手の銃で飛来する弾丸を打ち払い、左手の銃を信人に放つ。
「なに!」
 信人は咄嗟に『不惑の盾』を発動し、身を固めて凶弾に耐えた。
 しかし一撃受ける毎に『不惑の盾』で練力が消費される。
「へー、今日のお兄ちゃんは凄く頑丈ね」
 軽く驚くアリスの背後に回り込んだセロリが『瞬天速』で強襲。菫で『急所突き』を放ち、アリスの背に深々と刃を突き立てた。
「お前やジョンも、ちゃんとした大人が周りに居れば良かったのにな」
 そしてすぐにバックステップで退がる。
 しかし
「銃を持った相手に距離とってどうするの?」
 アリスは退がったセロリに向けて銃を連射。
 凶弾は次々とセロリを撃ち抜き、噴き出した血がセロリを赤く染める。
「よっちー‥‥ごめん‥‥」
「ロリーー!!」
 信人はリロードした銃を撃ち放ったが、また銃で弾かれる。
 そしてアリスの姿が不意に霞み、眼前に現れた。
「くっ!」
 反射的に銃底で殴打したが腕を掴まれて止められ、急に全身が倦怠感に包まれた。
「なんだ?」
 信人の疑問に体内のエミタが練力が0になった事を感覚的に知らせてくる。
「どれだけ頑丈でもこうなったら意味ないよねー」
 アリスが銃口を信人に押しつけてトリガーを引く。
 凶弾が非覚醒状態の信人の腹を引き裂き、体内を蹂躙し、背中を突き破る。
「ゴハッ!」
 灼熱の激痛と衝撃で体が跳ね、大量に吐血した信人はその場で昏倒した。

「テメェーー!!」
 湊がアリスに向かって駆けながら大剣を構える。
「お兄ちゃん遅い遅い」
 しかしアリスは湊の剣が届く前に銃を放ち、ジョンとの戦いで疲弊しきっていた湊は一撃で戦闘不能になった。
「ネモ! 私はあなたを決して許さない!!」
 その間にサンディがアリスを間合いに捉え、温存しておいた『両断剣・絶』を放つ。
 しかし援護も工夫もなく放たれた一撃はあっさりアリスに避けられた。
「サンディお姉ちゃんの素直すぎる剣じゃあたしに当たらないわ」
 アリスは至近距離から2丁の銃を連射。何発もの凶弾で撃ち貫かれたサンディも力尽きてしまう。


 アリスは倒れた傭兵達を尻目にアリアを回収し、ジョンの元へ向かった。
「なんで殺さなかったのかしら? 人間って本当に訳が分からないわ」
「ネモ様‥‥」
 ジョンは考え込むアリスを不安気に見上げた。
「まぁいいわ。ジョンにはもっと強い力をあげるね」
「あの‥俺は‥‥」
 アリスは何か言いたげなジョンを無視して抱え上げる。
「マチュアお姉ちゃんは‥‥連れて行くよりも追って来て貰う方が面白そうね」
 アリスは少女には似つかわしくない邪な笑みを残し、その場を後にしたのだった。