タイトル:【br】Hikingマスター:真太郎

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 不明
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/05/08 11:15

●オープニング本文


 バグアのネモが組織したチャイルドテロリスト組織『イノセント』のテロリストだった子供達の精神的ケアが始まって3ヶ月が経った。
 その間にマチュア・ロイシィ(gz0354)も何度となく施設を訪れ、子供達と接してきた。
 マチュアは自分が子供達の心のケアに役立っているのかどうか自信はなかったが、子供達が3ヶ月前よりも落ち着いてきている事は確かだった。

 そして今日、リックの手足に義腕と義足が付けられる事になった。
「これが‥‥僕の新しい手足?」
 リックが不思議そうに義腕の付けられた手を掲げると、指先までちゃんとリックの意志に従って動く。
「わっ! 動いた」
「すごーい!」
 興味津々な様子で見ていたトムとアリアが驚く。
「どう? 自分の思ったとおりに動く?」
「うん、動く。凄い‥‥」
 義腕の曲げの伸ばしを行い、指を握ったり開いたりするリックの顔に驚きと微笑が浮かぶ。
「じゃあ、次は立ってみましょうか」
「うん‥‥」
 女医に促されて立ち上がると、義足はしっかりとリックを支えてくれた。
「おー!」
 ケビンが感嘆の声を上げる。
「じゃあ、次は歩いてみて。ゆっくりと、慎重にね」
「うん‥‥」
 恐る恐るリックが足を踏み出す。
 義足はちゃんと前に出た。
 しかし続いて生身の足を前に出そうと浮かした瞬間、義足で踏ん張る事に慣れていないリックがバランスを崩す。
「あ!」
「わ!」
「キャ!」
「おっと!」
 子供達が悲鳴を上げる中、マチュアが腕を伸ばしてリックの体を支えた。
「大丈夫かリック?」
「うん、平気」
 マチュアは慎重にリックを立たせた。
「やっぱり歩くのは難しいみたいね。でも大丈夫。すぐにコツを掴んで歩けるようになるし、慣れれば走る事だってできるわ」
「よし、リック。今日から特訓だ」
 マチュアがリックの両肩に手を置いて促す。
「え?」
「うん、特訓特訓♪」
「僕も手伝うよ」
「まずは歩く特訓だな」
 リックは驚いているが、他の子達はすでにやる気になっている。
「分かったよ。じゃ、もう一度歩いてみるね」
「がんばれリックー♪」
 アリアの声援を受けてリックは再び歩きだした。


 その頃、施設の別の場所では両手足に義腕と義足の装着を受けている子供がいた。
 名前はジョン。
 11歳の男の子。
 聖マーガレス学園の襲撃に参加し、女性教師二人を殺害。
 拉致した生徒を乗せるトラックの見張りをしていたところ、傭兵の一人に撃たれて四肢を粉砕され、両手足を失っている。
 そのため、捕縛された後も自分を不自由な体にした傭兵達の事を酷く恨み、憎んでいた。
 『イノセント』に深く傾倒していたらしく、ネモが死んだと言っても信じず、施設の職員にもキツくあたるため、他の4人の子供達とは別の場所で治療を施されているのだ。
 ジョンは専属の医師に義腕と義足を付けて貰うと医師や看護士を部屋から追い出し、すぐに手足を動かし始める。
「あはははっ! 動く! 動くぞ! 俺の意志で自由に動かせる!」
 ジョンは歓喜の表情で義腕を動かした。
「これでもう施設の奴らに飯を食わせてもらう必要もない。下の世話になる事もない。もう惨めな思いはしなくて済む!」
 ジョンが立ち上がって歩き出す。
 すぐに足がもつれて倒れたが、ジョンの顔に浮かんだ歓喜は消えない。
「足も動く‥‥。あははははっ! これで俺は自由だ! これで俺をこんな体にした能力者達に復讐できる。またネモ様のお役にも立てる。そうすれば間違いなく幹部だ! 俺こそが新人類なんだ!!」
 ジョンは何度も何度も転び、体に幾つもの痣を作りながらも復讐と偏執で心をたぎらせ、作り物の手足を自分のものにしていった。



●1週間後

 リックが義足にある程度慣れたため、リックの訓練も兼ねてハイキングを行う事になった。
「マチュアお姉ちゃんがお弁当作ってよ」
「私がか?」
「うん。アタシ、マチュアお姉ちゃんの作ったお弁当が食べたーい」
 アリアが可愛くおねだりする。
「アリア〜。マチュア姉ちゃんが料理なんてできる訳ないよ。無理無理」
「おいケビン。私は料理ぐらい普通にできるぞ」
「えぇー!」
「意外です‥‥」
「おいおい、私が料理できちゃおかしいか?」
 男の子3人の反応にマチュアがやや怒りのこもった微苦笑を浮かべる。
「じゃあ作って作って、お願ーい」
「そうだな‥‥アリアも手伝ってくれるなら作ってもいいぞ」
「えぇー、アタシお料理できないよ」
「私が教えるから大丈夫だよ」
「う〜ん‥‥分かった。一緒に作る」
「よし、頑張って美味しいお弁当作ろうな」
「うん♪」
 マチュアが頭撫でるとアリアが嬉しそうに笑みを浮かべる。
「本当に美味しくなるのかな‥‥」
「なるもん!」
 不安顔のトムにアリアは頬を膨らせた。
「そんなに言うなら、お前達の嫌いな物ばっかり入れてやるかな」
「えぇー!」
「げぇー‥‥」
「ははっ、嘘だよ。好きな物入れてやるから楽しみにしてろ」
 マチュアは男の子3人の頭も優しく撫でた。


●その日の夜

 コンコン

 そろそろ就寝しようと思っていたアリアの部屋を何者かがノックした。
「だぁれ〜?」
 アリアが不審に思いながらもドアを開ける。
「え!?」
 するとアリアの目が驚きと恐怖で見開かれた。


 その夜、ジョンの部屋でもノックがされた。
「誰だ?」
 ジョンは注意深くドアを開け、来訪者を招き入れる。
 そして来訪者の話を聞くと、
「あーはははははっ!!」
 歓喜を顔に浮かべて哄笑をあげたのだった。



●翌日

 この日の天気は快晴で、絶好のハイキング日和だった。
「いい天気になって良かったね、マチュアお姉ちゃん」
「あぁ、本当に良かった。じゃあ出発だ」
「おー!」
「わーい♪」
 マチュアは引率と保護者を兼ねて集めた傭兵達と共に子供達4人と一緒に施設の近くの山を登り始める。
「リック、調子はどう?」
「うん、これくらいの坂ならもう全然平気」
 最初はリックの足を気遣ってみんなでゆっくりと歩いたがリックはなに不自由なく普通について来る。
 少し歩調を上げてみてもリックは問題なくついて来れた。
「じゃあリック。少し走ってみようよ」
「うん」
「おい、無理はするなよ」
 ケビンに誘われて走り出したリックを心配するマチュアだが、走る姿にも危うい所はない。

 そして一行が昼食を摂る広間にたどり着いた時、不意にアチコチの地面が盛り上がり、大きなミミズの様な生き物が這い出してきた。
「キャーー!!」
「ウワァーー!!」
「なんだぁー!?」
「アレ何? 何なのマチュアお姉ちゃん!? あたし怖い‥‥」
 子供達が悲鳴をあげ、アリアがマチュアにしがみつく。
「あれは‥‥通常より小さいがアースクエイクか? なぜこんな所にワームが? ここは人類側の領域だぞ」
 不可解な事であったが今は悩んでいる時ではない。
「子供達を守れ!! 絶対に傷つけさせるなっ!!」
 マチュアは同行していた傭兵達に指示し、アリアを後ろに庇って護身用に携帯してきたクリスダガーを抜いた。

●参加者一覧

旭(ga6764
26歳・♂・AA
RENN(gb1931
17歳・♂・HD
サンディ(gb4343
18歳・♀・AA
湊 獅子鷹(gc0233
17歳・♂・AA
春夏秋冬 立花(gc3009
16歳・♀・ER
杜若 トガ(gc4987
21歳・♂・HD

●リプレイ本文

「簡単な仕事だと思っていたが随分と面白い展開になるじゃねぇか。ガキを守りつつ敵をぶっとばすね。了解だ」
 杜若 トガ(gc4987)は不敵に笑うと近くにいたケビンがパニックを起こす前に襟首を掴んでぶら下げた。
「うわっ! 怖いよ! 放せよぉ!」
「おい、怖いかぁガキ」
「ぅ‥‥うん」
 トガが凄みながら顔を寄せると、ケビンが怯えまくった表情で頷く。
「恐怖っつーのは生を望む心の叫びなんだぜ。ククッ、つまりお前さんが生きたいって望んでる証拠だぁ」
「え? 僕が‥‥」
 ケビンが不思議そうな顔でトガを見返す。
「ま、お前がどう思うと知ったこっちゃないがね」
 トガはつまらなそうに言い捨てると子供を脅かそうと思って持ってきていた『暗黒の仮面』を被った。
「さぁて本当の傭兵のお仕事の始まりだぜ‥‥てかぁ?」


「バグアの襲撃!? 迂闊だった‥‥」
 サンディ(gb4343)はハイキングなのでパーカーにスカートというラフで動きやすい格好で来た事を後悔する。
「大丈夫だから、早く逃げなさい」
 だがその事で臆する事なくハミングバードを抜き、子供達の前に立ちはだかった。

「ぁ‥あぁ‥‥」
 リックはマチュアやサンディが抜いた剣を目にして怯え始める。
「大丈夫。私がいるからには守ってみせるから。リック君ならわかるよね?」
「う、うん‥‥」
 しかし春夏秋冬 立花(gc3009)が笑いかけると、まだ振るえてはいたが、少し落ち着きを取り戻す。
 リックを保護して救ったのは他ならぬ立花であるため、その信頼は絶大だ。
「ケビン君にも一応言っておくけど、不幸になればよかった、なんて考えは改めてね」
「え?」
「死んだ子供達の分も君達は幸せにならないといけないし、君達が不幸になったら、私泣いちゃうから」
「‥‥」
 ケビンは何も言わなかったが何か通じるものはあったらしく、神妙な顔をして俯いていた。
「じゃあリック、あっちの木に隠れよう。マチュアさんも子供達のガードをお願いします」
「あぁ、任せろ」
 立花はマチュアにも全体ガードを頼むとリックを木の側に連れて行った。

「トム、安心して僕が守り抜くから」
 柿原 錬(gb1931)はすぐそばで怯えていたトムを抱きかかえた。
「うわぁー!」
 しかし触れられる事を嫌がるトムは手を振り回して拒絶する。
「ご、ごめん」
 仕方なくトムの側にいて周囲を警戒すると、
「キャーー!!」
 地中から現れたサンドウォーム(SW)がアリアに向かって触手を伸ばす光景を目にした。
「退がってアリア!」
 マチュア・ロイシィ(gz0354)が咄嗟にアリアを庇い、クリスダガーを振るって触手を断ち切る。
「マチュアさん!」
 錬は『竜の翼』でマチュアの元に駆けつけると、『竜の咆哮』でSWを弾き飛ばした。
 しかし
「うわぁー!!」
 孤立したトムの前に別のSWが出現して触手を伸ばす。
「しまった!」
 錬が自分の迂闊さを呪う。
「させません!!」
 だが『探査の眼』で奇襲を感知した立花が『制圧射撃』でSWの行動を阻害してくれた。
「柿原! こっちはいい。お前はトムを守れ!」
 マチュアはダガー1本でもSWと十分に渡り合える実力を備えているのだ。
「はい!」
 錬は『竜の翼』でトムの元に戻ると、『竜の咆哮』でSWをトムから遠ざける。
「大丈夫、トム」
「ぅ‥‥ひっく‥ひっく」
 トムは無事だったが恐怖でガタガタと振るえ、目に一杯の涙を溜めていた。
「ごめん、トム」
「うわぁぁん!!」
 錬が謝るとトムは震えて泣き出した。
「くっ! どうして僕は‥‥」
 錬は自分を攻めたが、今は悔やむよりも敵を倒す事が先決だ。


(何でまた、子供たちを戦いに巻き込むんだろうね。やっと、戦わなくて済むようになってきたところなのに‥‥)
 事前に子供達の境遇を聞いていた旭(ga6764)が心中で嘆く。
「いや、嘆くのは後だ。今はとりあえず、あのワームをなんとかしなきゃ」
 旭は駆け出すと正面のSWが地面に潜る前に脚甲「インカローズ」で蹴り上げ、更に横蹴り。SWの体が大きくひしゃげる。
 だがSWは触手を伸ばし、脚甲に絡みつかせた。
「取られてたまるか!」
 旭は踏ん張って耐えるが、別の場所に出現したアースクエイク(EQ)の放ったブレードが旭に突き刺さる。
 その瞬間力が抜け、旭は脚甲ごとSWに引きずられた。
「うわぁ!」
「アサヒ!」
 サンディが『ソニックブーム』を放って触手を切断、更に口腔内も『ソニックブーム』で斬り裂く。
 しかしその直後、サンディの足元で地面が盛り上がった。

 ピーー!

 その事に気づいた錬が呼笛を鳴らして警告する。
「え?」
 しかしサンディには呼笛が何を知らせる音なのか分からないため、出現したEQに巻きつかれた。
「こんなもの!」
 サンディがギリギリと締め付けてくるEQを振り切ろうとすると、巻きついた体表からブレードが何本も飛び出し、サンディの体を刺し貫く。
 体の各所に刺さったブレードの傷から噴き出す血が服を赤く染める。
「くっ! このくらいで‥‥」
 サンディは『キュア』を発動して拘束から逃れると、剣を一閃。
 EQの体表を一文字に断ち斬り、傷口から体液が噴き出す。
 更に二閃、三閃。
 剣を走らせる度に剣速が上がり、EQの体が寸断される。
 四閃、五閃。
 もはや剣先が霞む程の速度に達した剣閃がEQをバラバラに解体した。

 一方、触手から解放された旭は地面を蹴って跳ぶと空中で前転
「トウッ!」
 前転の勢いも乗せて振り下ろした踵をSWの頭部に叩きつけて粉砕した。


「オイオイオイオイ! ぶっ殺したくて仕方なかった獲物じゃねえか! まさかこっちから出向いてくれるとはやっぱ日頃の行いは大切だなあオイ!」
 ハイキングの間はずっと寡黙だった湊 獅子鷹(gc0233)はワーム群を目にした途端に嬉々とし始めた。
 だが戦闘への歓喜と同時に子供を戦闘に巻き込んだワームに憤りも感じており、更に自分の戦う姿が子供達に恐れを抱かせるだろう事に一抹の寂しさも感じている。
(チッ‥‥ままならねえなぁ、人間って奴は)
 そんなアンバランスな自分にウンザリしながらも湊は駆け出し、機械剣「ハニービー」から伸びた超濃縮レーザーでEQを突き刺し、貫通させる。
 すると肉の焼ける嫌な匂いと共に体液が噴き出して飛び散った。
 EQも身をくねらせて体表のブレードで斬りつけ、湊の体から鮮血が噴き出す。
「オラオラオラァ!!」
 しかし湊は防御を気にせずひたすら機械剣をEQに突き立て続けた。
 だが、小型とはいえワームの攻撃力や耐久力はキメラの比ではなく、軽装の湊の身はEQの一撃を受ける毎に深く傷つき、自らの血とEQの体液でその体を汚してゆく。
「オイオイ! さすがにそりゃ無茶だろう」
 見かねたトガが『練成治療』を行うが、湊は手を止める事なく機械剣を振るい、突き刺し、『両断剣』を叩き込む。
 そしてEQの反撃を受け、傷の上から更に傷を負うため、練成治療でも回復が追いつかない。
 EQも同様にダメージを受けているが、消耗度は湊の方が遥かに上だ。
「ぜー‥ぜー‥‥」
 そのため湊は疲労と失血で息も絶え絶えになってくる。
「おい! 無理すんじゃねーよ。一人倒れりゃあとはドミノ倒しだ!」
 トガが警告するが湊はそれでも攻撃を止めない。
「安心しろガキども‥‥すぐに、終わらせるからなあ」
 子供達の視線を背中に感じた湊は不敵に笑うと子供達の方を見ずに告げた。
 子供達を見ないのは、自分に向けているだろう不安と恐れの眼差しを見るのが嫌だったからだ。
「オラァーー!!」
 そして渾身の『両断剣』を叩き込み、EQに体に深い傷を刻む。
 しかし、それでもEQを倒すには到らず、大きく体を振って叩きつけられたブレードが湊の腹部を貫通。
「グホッ!」
 湊は大量の血を吐き、その場に崩れ落ちた。
(ちく‥しょう‥‥。戦う事しか能のねぇ俺がやられちまったら‥俺は‥‥)

 湊を倒したEQは地面に潜って姿を消した。
 そして数秒後、トガの足元の地面が盛り上がり始める。
「チィ!」
 トガは咄嗟にケビンを立花に向かって投げた。
「うわ!」
「キャ!」
 なんとかケビンをキャッチした立花だが、その場に尻餅をつく。
 しかしトガは出現したEQに片足を呑み込まれてしまった。
「ぐぁぁっ!」
 足に何枚もの刃が喰い込んで切り裂かれる激痛が伝わり、トガの顔が苦痛に歪む。
「トガさん!」
 立花はケビンを抱えて尻餅をついたまま『制圧射撃』を行い、EQの動きを鈍らせた。
「この野郎ぉ! 中からバーベキューにしてやらぁ!」
 その隙にトガは機械脚甲「スコル」の踵に付いているブースターを噴射。EQの口腔内を焼きながら足を引き抜く。
 そして着地したのだが、その際、足に激痛が走った。
「いっってぇーー!!」
 トガはすぐに足に『練成治療』を施したが、その隙を狙ってEQが迫ってくる。
「そこまでだ!」
 しかし『迅雷』で駆けつけた旭が加速した勢いのまま飛び蹴り。EQの頭部がぐしゃりと潰れ、その身が横倒しになる。
「クカッ、蹴り殺すっ!」
 そして倒れたEQの頭をトガが何度も踏みつけて更に粉砕。完全にトドメを刺した。
「たっく‥子守は大変だっつーの」
 トガは溜め息と共に薬煙草を取り出したが
「まだ戦闘中ですし、子供の前ですよ」
 旭にひょいと取り上げられてしまった。


 一方、練はSWを相手に苦戦を強いられていた。
 伸ばされる触手は機械剣「莫邪宝剣」で斬り払って防げているが、AU−KVつけていない上にカンパネラ学園のセーラー服にベストという軽装では体当たりを受けると身が軋み、ブレードを振るわれると体が引き裂かれて血が迸る。
 錬もSWの動きを読み、隙を狙って機械剣で斬り裂くのだが小型でもワームであるためタフであり、致命傷を負わせるにはやや威力が足りない。
 立花が小銃「S−01」で援護してくれるが、ダメージは少ない。
「トムは‥僕が守る!」
 攻め手に欠ける錬だが、後ろにいるトムを守るため果敢に攻め立てた。
 しかしSWが立花の銃弾を避け、錬の機械剣を身に受けながらも接近して錬に巻きついた。
「くそっ!!」
 錬は渾身の力を振り絞るが解けず、拘束がギリギリと締まると体表のブレードも体にズブズブと刺さってゆく。
「ぐあぁぁーー!!」
「お、お姉ちゃん!!」
「制圧射撃だと錬さんにも当たっちゃうし‥ど、どうすれば‥‥」
 トムが心配そうに悲鳴をあげ、立花も打つ手がなくオロオロする。
「レンを放せ!」
 だがそこにサンディが『迅雷』で駆けつけ、剣を勢いよくSWに突きたてると錬に『キュア』を施した。
「くっ!」
 そのお陰で錬は拘束を解いて自由になれる。
 しかしサンディの剣がSWの触手を絡まれ、奪われてしまう。
「しまった!」
 そして無手になったサンディにブレードを放つ。
 サンディは咄嗟に急所を両腕で庇うが、身に刺さったブレードはかなりの深手だ。
 しかもサンディには反撃の手段がない。
「それを返せ!」
 だが錬が機械剣で触手を薙ぎ払って剣を回収する。
 SWは身を大きく振るって錬に体当たりを喰らわせる。
「くはっ!」
 その衝撃で錬は弾き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
 骨も何本か折れたらしく体がうまく動かせないが、その手にはしっかりと剣が握られている。
「サンディさん!」
 錬は痛みに耐えながら剣をサンディに向かって投げる。
「レン。君の勇猛、無駄にはしない!」
 剣を受け取ったサンディは大きく振りかぶり
「ヤァァーー!!」
 気合と共に振り下ろしてSWを真っ二つに両断した。


 その頃、旭は一人でEQと果敢に戦っていた。
 距離を置いてはブレードが飛んで来るため間合いは詰め、地面に潜られると厄介なので兆候が見えたら蹴り上げ、敵の攻撃は手で払い、腕で受け止める。
 そのため旭の腕は傷だらけの血塗れだ。
「足さえ無事なら戦えるとはいえ、もう腕も動かなくなってきたし、さすがにそろそろ決めようかな」
 周囲の様子を伺うと何処もほとんど決着がつきかけている。これなら錬力をフルに使っても問題なさそうだ。
「よし!」
 旭はEQから距離を取ると、身を低く構えた。
 するとEQは予想通りブレードを撃ち放ってくる。
「今だ!」
 旭はブレードを紙一重で避けると『迅雷』を発動。EQとの間合いを一気に詰めると『猛撃』も発動。
 横蹴りを三連続で放ってEQの体をくの字に折らせると、もたげてきた頭を蹴り上げる。
 そこから身を捻ってEQに背を向けると踵をぐるりと返し、膝、腰へと捻りを連動し、体も回し、足を振り上げ、
「スマッシュ――ブレイクッ!」
 『スマッシュ』の威力を乗せた回し蹴りをEQに叩き込んだ。
 すると、まるで爆弾を受けたかの様にEQの体が吹き飛び、体液と肉片が飛び散った。
 そして半分ちぎれかけた状態のEQは地面に倒れ伏し、そのまま動かなくなる。


 そしてマチュアがSWを倒し終えると現れたワームは全て一掃された。



「おじさん、おじさん」
(くっ‥‥なんだ?)
 力尽きて倒れ伏していた湊の意識がぼんやりとだが覚醒する。
 薄く目を開けると心配そうにしているケビンの姿が見えた。
(おい、近よんな。血の臭いが移るぞ)
 そう言ったつもりだが声は出なかった。
 どうやら体はまだ動かないらしい。
「死んじゃダメだよ、おじさん」
(馬鹿、これぐらいで死なねーよ。それにおじさんじゃねぇ、お兄さんだ)
「助けてくれてありがとう、おじさん」
(ったく、これだからガキは‥‥)
 嘆息するとまた意識が薄らいでゆき、湊は再び気を失ったが、その口元には小さく微笑が浮かんでいた。

「それにしても、どうやってこんなところまで? それに無防備になるこのタイミング、偶然とは思えない。私達をピンポイントで狙ってきたの?」
「はい、私もその点が気になっています」
「僕も‥‥これはイノセントの仕業じゃないかと思います」
 サンディの疑問に立花と練が同意する。
「何か裏があるのかもしれない‥‥」
 そう思ったサンディは辺りを調査したかったが
「ひっく‥‥ひっく‥‥」
「もういない? もう出ない? じゃあ早く帰ろうよ! あたし怖いよぉ!!」
 トムとアリアが怯えきっており、まだ他にも敵がいる可能性を考えるとハイキングを中止して引き返すしかなかった。



 施設に戻るとトムはすぐに医者の元に連れて行かれ、リックとケビンも疲れた様子で自室に戻った。
 しかしアリアだけはマチュアにしがみついたまま離れようとしない。
「ねぇ、マチュアお姉ちゃん‥‥今日はあたしの部屋にお泊まりして」
「え?」
「でないとあたし‥‥今日は怖くて眠れない‥‥」
「それは‥」
 マチュアもアリアの願いを叶えてあげたいが、この施設は部外者の宿泊を禁止している。
「ねぇ、お願い」
「‥‥分かった。先生に頼んでみるよ、でもダメだったらその時は諦めるんだぞ」
 アリアの寂しそうで心細そうな姿にマチュアが折れる。
「うん」
 すると、アリアがようやく笑顔を見せてくれた。

 そしてマチュアがどうしてもと頼むと特別に1日だけ許可がおりたのだった。


<つづく>