●リプレイ本文
満開の桜が咲き誇る麗らかな春の日差しの下。
7人の男女が大量の酒(の様に見える)瓶を囲っている姿はどう見ても花見風景だった。
傍目には今から怪しい飲料水の試飲が行われる等とは夢にも思うまい。
しかも7人の前には色々と食べ物も並んでいる。
リサ・クラウドマン(gz0084)の持ってきた唐揚げ。
石動 小夜子(
ga0121)の煮物、野菜スティック、春野菜の揚げ物、枝豆。
スルメ、貝紐、ジャーキー等の乾物系は新条 拓那(
ga1294)。
リヴァル・クロウ(
gb2337)はチーズ鱈。
ビリティス・カニンガム(
gc6900)は酒盗、チャンジャ、アンチョビ、と10才の少女が選ぶには渋い発酵系だ。
「もう桜の季節、なのですね‥ふふ、こうして皆で賑やかにお花を見るのも、素敵です‥」
小夜子が桜を見上げて目を細める。
「めっちゃ綺麗だな! 日本じゃ、この季節になると全国でこの花が咲くんだろ? いいなあ! すげーなあ! 最高じゃねえか!」
桜景色に目を奪われたビリティスは既にハイテンションだ。
「化学を専攻する私としては、非常に興味深い代物だぞ、これは‥‥。アルコールに代替する物とは」
花より団子というか、花より実験といった感じのローゼ・E・如月(
gb9973)はメイコールに興味津々である。
「さー何を飲むんだ? あたしは最年少だし新兵だかんな。こういう時は先輩方にお酌するもんだろ? お望みのメイコールを注いでやるぜ!」
「どれにしましょう‥‥?」
「小夜ちゃんお酒は初めてだよね。だったら酎ハイ系が飲みやすくていいと思うよ」
悩む小夜子に新条がアドバイスする。
「では‥梅の酎ハイを、お願いします」
「いいぜ、ほらよ」
「ありがとうございます、ビリティスさん」
「あたしの事はビリィでいいぜ」
「じゃあビリィちゃん。俺はウィスキーを貰えるかな」
「おうよ」
「ビリィちゃんは何飲むの? 注いであげるよ」
弓亜 石榴(
ga0468)が尋ねる。
「あたしはなんか高そうなブランデーにするぜ。酒って飲んだ事ねーけど、きっとうめえに違いねーぜ!」
「じゃ、私もブランデーにしようかな。それにしてもメイコールって呼び難いね。お酒モドキでいいよね!」
「ハハハッ! それじゃまんまだぜ」
ビリティスと石榴が互いのコップにブランデー風メイコールを注ぐ。
「リヴァルさんはどれを飲みますか?」
「酎ハイを頂こう」
「はい、どうぞ」
「‥‥この飲料水、大丈夫なのだろうな」
リサにお酌されたのは嬉しいが、リヴァルはコップ内のメイコールを見て渋面になる。
「確かにあの説明だと安全性が分からないな。リサはどのようにして安全だと判断したのだ?」
「それはその〜‥‥とりあえず生成に毒薬や劇薬が使われていないのは確かですし、能力者はよほどの毒物を服用しない限りエミタが解毒してくれますから、そういう意味も含めて今回は能力者を被験者に選んだのだと思います」
リサはやや困り顔で説明してローゼにメイコールの成分表を渡した。
ざっと眺めると成分表から危険性は認められない。
だからといって安心できる訳ではないが
「安全性は自分で判断しろという事か‥‥」
ローゼはそう結論づけた。
「では、華は短し騒げよ人類、ってーことで、いっちょぱーっと騒ぎましょ?」
「そうそう。ステキなお酒の開発記念と、これから未成年も酔っ払える記念と‥‥その他諸々を祝して! かんぱーい♪」
『かんぱーい!』
全員がメイコールを手にすると、新条と石榴の音頭で試飲‥‥というより宴会が始まった。
「お、ただのノンアルコール系と思ったけど、意外にいい味してるな。そっちのも美味しい?」
「はい‥。ほんのり甘くて、梅の味がして‥お酒は初めてですけど美味しい、です。でも顔が少し、熱くなってきました」
ほんのり紅の差した頬を抑えて微笑む小夜子は何やら色気を醸し出していた。
「さ、小夜ちゃんはもう酩酊効果が出てきたみたいだね。俺は‥まだ大丈夫かな」
小夜子の色気にドキリとしながらも新条は味や酔い易さをチェック。
「ホント美味しいね。これなら幾らでも飲めそうだよ。さ、石動さんももっと飲んで飲んで」
「はい、ありがとうございます。弓亜さん、おつまみ、どうですか?」
石榴から酌を受けた小夜子が代わりに自分で作った煮物を勧める。
「うん、貰うね。美味しい美味しい♪」
「こっちの揚げ物も美味しいよ。やっぱり小夜ちゃんの料理は最高だね」
「ふふっ‥喜んで貰えて嬉しい、です」
石榴と新条が喜んで食べてくれたので小夜子は嬉しそうに微笑んだ。
「あら、普通に飲めますね、コレ」
メイコールを一口飲んだリサが意外そうな顔をする。
「そうだな。知らなければ普通の酒だと思うだろう」
リヴァルも同意見らしく、ツマミを食べながら酎ハイをちびちび飲み、周囲の状況を伺う。
「うふふっ、心配して損しちゃいました。あ、このチーズ鱈おいしいですね」
安心したリサは嬉しそうに各種のツマミを食べ始めた。
「超うめえーー! なんだよ、大人ってこんなうめえもんをずっと飲んでやがったのか! ずるいってレベルじゃねーぞ! ギャハハハハ!」
一気にメイコールを飲み干したビリティスが陽気な高笑いをあげるが、その顔は既に真っ赤だ。
本人は知らないが、ビリティスはコップ半分でも酔うほど酒に弱いのである。
「にしてもあっちーなおい! ジャケットなんか着てられっか!」
勢いよくジャケットを脱ぎ捨ててランニング姿になる。
「ビリィちゃん、いい脱ぎっぷりだね。よーし! じゃあ石動さんとリサさんも脱いじゃおっかー」
「脱ぎません!」
石榴の意見はすぐさまリサに却下される。
「じゃあ今まだ脱がなくていいからもっと飲もうリサさん。私も飲むからさ。ほらほら〜」
しかし懲りない石榴はリサにどんどんメイコールを勧めてゆく。
「ふむ、味は同種の酒とほぼ同じか。よく出来ているな」
前々日や前日などから自分がどの程度のアルコール量で酔うかを測定していたローゼはその結果を元に比較検証を開始。
知的好奇心の赴くままに杯を重ねていると、さすがに3杯目から少し酔いが回ってくる。
「酩酊過程もほぼ同じとは‥実に興味深い物質だ。代謝による分解の経路はどうなっているのだろうか」
しかし酒はかなり強い方なので全種類のメイコールを試飲しようと次の瓶に手を伸ばした。
そうして飲み始めた当初は皆(一部を除く)メイコールの試飲を行っていたのだが、杯が進んでゆくと酔い始めて徐々に検証がおざなりになってくる。
「あははっ、メイコールっておいひぃれすねー。何杯れも飲めまふよ〜♪ つまみもおいひぃれすぅ〜」
そしてメイコールとは相性が悪かったらしいリサが既にかなり酔って呂律まで怪しくなっていた。
「リサは酔うと普段からこうなのか?」
ローゼがリサの反応に強い興味を抱く。
「いや、ここまで酔うのは珍しい」
「ふむ‥興味深い結果だ。やはり酒とは違う成分で酩酊しているのか? それとも‥‥」
ローゼは手酌で杯を進めながら頭を悩ませた。
「リサさんとリヴァルさんはドコまで行っちゃってるの?」
そんなリサに石榴が唐突な質問をした。
「へ? えぇ〜と‥‥温泉ぐらいには行きまひたけろ?」
リサが酔っているのかマジぼけなのか分かり難い返答をする。
「いや、そーじゃなくて、もーバンバンヤる事やっちゃってるでしょ?」
「ふぇっ!?」
「なっ!?」
リヴァルとリサの顔が瞬時に赤くなる。
「バンバンヤるって何だ? 銃をぶっ放つのか?」
「そうそう、リヴァルさんの銃をリサさ‥」
「子供にそんな説明するなっ!!」
ビリティスに解説を始める石榴に突っ込むリヴァル。
「で、どうなのリサさん?」
でも石榴は華麗にスルーして再度尋ねる。
「ま、まだ何もしてましぇんよ!」
「ホントかなぁ〜?」
石榴はリサのスカートをチラッとめくってリヴァルに見せた。
「キャーー!!」
「うぉ!」
リサが慌ててスカートを押さえ、リヴァルが驚きながらもシッカリ見る。2人ともかなり初心な反応だった。
(ありゃ? これはホントに何もしてないのかな?)
「な、なななななにするんれすかぁ!?」
「ごめーん。私なんだか酔ってるみたい。テヘッ☆」
確かに石榴は既に酔っててもおかしくない量を飲んでいる。
しかし家系なのか一族郎党お酒は全然酔わない体質のため、酔ったフリをしているだけだった。
「じゃ、新条さん達はドコまで行っちゃってるの?」
「あはは‥‥俺達も同じようなものだよ」
「クロウさん達には、敵いませんから‥‥」
新条は苦笑を浮かべ、小夜子は顔を赤らめる。
こちらは些か面白みの薄い反応。
しかも小夜子のスカートはガッチリガードされている。
「おっとっとっ!!」
なので石榴はわざとらしく手を滑らせてコップの中身を小夜子にスカートに零した。
「キャ!」
「あ、ゴメーン」
謝りつつタオルを取ろうとして今度は瓶をリサの方に倒し、中身をぶちまける。
「わっ!」
「またまたゴメーン。でも大丈夫! こんな事もあろうかと2人の着替えはちゃんと持ってきてるから。さ、着替えに行こう♪」
「え?」
「あの‥」
石榴は小夜子とリサの手を取ると有無を言わせず連れ去ってしまった。
「わざとかな?」
「わざとだな」
バレバレの茶番に男二人が渋面になる。
「なんだなんだーしけたツラしてよぉ〜。彼女がいなくなって寂しいってかぁー? よーし! それならあたしが元気にしてやるぜ!」
ビリティスは陽気にくねくねと身をくねらせて踊り始めた。
「ほれほれ〜。このビリィ様の創作ダンス見らっれっなんて、おめーらは幸せだぜえ」
本人はセクシーに踊っているつもりかもしれないが、ビリティスの年齢と体型だと可愛らしい踊りにしか見えない。
「どうだ! 元気になったろ?」
「うん、よかったよビリィちゃん」
これはこれで微笑ましく楽しい光景だったため新条は素直に拍手を送った。
「そうだろそうだろー♪ それにしてもあっちーな! もう全部脱ぐぜ!」
「待ったビリィちゃん! 女の子がそんな事しちゃいけません!」
ビリティスがランニングを半分位までめくった所で新条が慌てて止めた。
「でもあちーよ」
「なら、これを使え」
ローゼがロック用の氷を袋に詰めてビリティスの頭に乗せる。
「ヒャー! ちべてー! けど気持ちいいぜ‥‥」
ビリティスは体を弛緩させてローゼに身をゆだね
「くー‥‥くー‥‥」
そのまま眠ってしまう。
「おい」
「おう‥あたしはまだ飲めっぞ‥‥」
幸せそうな顔で寝言を呟くビリティス。
「まいったな‥‥」
けれど可愛いビリティスの寝顔を見ると無理に起こす事はできず、ローゼはそのまま寝かせておく事にした。
「お待たせ〜♪」
「なにぃー!」
「これはー!」
石榴が連れてきたブレザー姿の小夜子、セーラー服姿のリサに男達が驚き、目を見張る。
「どうれすかリヴァルしゃん? 嬉しいれすか?」
リサが短いスカートを気にして顔を赤らめながら尋ねてくる。
「それはその‥‥」
嬉しい事は確かだが、それを認めるには勇気がいった。
「拓那さん‥この格好‥‥おかしくないでしょうか?」
「お、おかしくないよ。とっても似合ってる」
普段とは違う雰囲気の小夜子に新条はドキドキだ。
「そうですか‥嬉しい、です」
そして嬉しそうにはにかむ小夜子は殺人的に可愛い。
「じゃ、二人でクリームを食べさせ合ってみよっか」
「えぇー!」
「それは、ちょっと‥‥」
石榴のマニアックな提案に2人は当然難色を示す。
「やれば新条さんやリヴァルさんが喜ぶよ」
「拓那さんが‥‥」
それは酔って思考力の鈍っている小夜子には魔法の言葉だった。
「あの‥クラウドマンさん‥‥」
小夜子が頬を赤らめながらクリームを手にリサに迫る。
それは男2人の心を鷲掴みにする魅惑の光景だった。
「いいよエロいよ♪ 次はちょっと肌蹴てみようか♪」
「えぇぇーー!!」
「拓那さんが、喜んでくれる、なら‥‥」
「さ、小夜ちゃん‥‥」
羞恥心で真っ赤になった小夜子が少し肌蹴けると、激しく狼狽する新条の視線が釘付けになる。
「ぅ‥‥」
そしてリサも服に手をかけたが
「リサ、いいから、ここで大人しくしていろ」
リヴァルはリサを抱き寄せると胡坐をかいた自分の上に座らせた。
「試飲だからと飲み過ぎるからこうなる‥‥」
そして背中を撫でて介抱するのだが、
「いゃん! そこはくすぐったいれすぅ〜。もっとやさしくしてくらはい」
敏感な所を撫でたらしく、リサが色っぽい声を上げる。
「では、ここか?」
酔って気の大きくなっているリヴァルが更に撫でると
「あん♪ そこ、そこれすぅ〜」
リサは更に気持ち良さそうな声をあげ、リヴァルをますます興奮させた。
一方、小夜子は
「どーん」
と石榴に突き飛ばされ
「キャ!」
「危ない!」
新条に抱き止められて密着していた。
「ささ、遠慮せずヤッちゃえ♪」
「えと‥あの‥‥では、そ、その‥このまま抱きしめて欲しい、です‥‥。こんな機会でも無ければ、恥かしくて出来ませんし‥‥。迷惑でなければ、ですけど‥‥」
「もちろん! 迷惑なんてとんでもない!」
新条はギュッ小夜子を抱きしめた。
すると小夜子もキュっと抱き返す。
触れ合った所から互いの鼓動と体温が感じられ、心臓はドキドキするのに心は安ぎ、とても心地がいい。
「嬉しいです、拓那さん‥‥」
「俺もだよ。こんなにも大好きな女の子と、こんなにも幸せなひと時をすごせるなんて、俺、今日から天国信じちゃう。ずーっと一緒に居て下さいな。俺の女神様♪」
メイコールと小夜子の体の柔らかさや暖かさでメロメロになった新条は普段なら絶対に恥ずかしくて言えないクサイ台詞を言い放つ。
「これ‥まさか媚薬効果があるとか‥‥?」
2組のカップルのラブラブっぷりを見せつけられたローゼはそんな疑いを抱くのだった。
そんなゴタゴタのままメイコールの試飲は終了。
「記憶はねーけど、なんとなく先輩方に迷惑をかけた気がすっから謝るぜ‥‥」
目を覚ましたビリティスが頭を下げるが、誰も気にしていなかったので笑って許した。
「未成年でも飲めるのは良い、ですね。子供は保護者同伴でなら可、という風に売り出せば良いのではないでしょうか」
「論文などでまとめられたら、詳細についてぜひ拝見したいよ」
小夜子とローゼが一言据え、他の者もレポートを提出。
「みらはん。きょうはありあとうごらいまひた〜」
最後にリサが挨拶して解散となったが、リサは呂律も足取りもかなり怪しい。
「ほら、帰るぞリサ」
まだ気が大きいままのリヴァルが人目も気にせずリサをお姫様だっこする。
「ギュー♪」
リサは満面の笑みでリヴァルに抱きつき、最後までイチャイチャっぷりを見せつけた。
後日、リサが各自のレポートをチェックすると
「うひゃぁーーー!!」
ローゼが自分の痴態が克明に記録していたため、恥ずかしさのあまり窓から飛び降りたくなったという‥‥。