タイトル:迷路の街の殺人鬼マスター:東雲 ホメル

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/29 00:31

●オープニング本文


 厄介だ。
 非常に厄介だ。
 勿論、私にとってではない。
 追手の傭兵達にとってだ。
 この道や建物が入り組んでいる複雑怪奇な街並み。
 私は地図さえ見てしまえば逃亡に最適なルートを導き出すのは一瞬。
 しかし、傭兵達はどうだろうか?
 私並みの知能の持ち主が居れば、そこは能力者‥‥追いつく事は容易。
 私並みの知能が有ればの話だけれども。

 麗しの殺人鬼、フィオナ・コールは走る。
 フード付きの漆黒のコートの裾と漆黒の長い三つ編みを風に靡かせながら走る。
「しかし、侮れないな」
 フィオナは確かにエリックの居た街から姿を消した。
 しかし、まだ一週間しか経っていない。
 それなのに既に傭兵達の追手が来ている。
「エーリッヒ・イエーガー‥‥彼ではないか」
 フィオナの唯一の親友、そして唯一の‥‥
「彼が私に追手を差し向ける訳がない」
 確証は無いが、確信は有った。
「エーリッヒは待っている、私が殺しに来る事を‥‥」
 
 フィオナは急に立ち止まり振り返る。
 傭兵達の姿は何処にも無い。
「大方、彼の父親だろう」
 ‐‐エーリッヒを守る為に傭兵達を雇って、先に私を消すのだろう‐‐
 フィオナの予想は当っていた。
 傭兵達はエーリッヒの父親に雇われていたのだ。
「侮れないな‥‥流石、エーリッヒ・イエーガーの父親だ」
 街の外れの時計塔の下。
 フィオナは乱れた息を整える。
「此処まで来れば何とか逃げ切れるな」
 そう言って時計塔の天辺を見上げて不敵に笑った。
 季節は秋、時刻は午後4時。
 もう少しで夜が訪れる。

●参加者一覧

幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
火茄神・渉(ga8569
10歳・♂・HD
結城加依理(ga9556
22歳・♂・SN
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
水枷 冬花(gb2360
16歳・♀・GP
立浪 光佑(gb2422
14歳・♂・DF
鳳覚羅(gb3095
20歳・♂・AA

●リプレイ本文

「ちょっとこの地図複雑すぎない?」
 誰に聞くでもなく赤崎羽矢子(gb2140)は呟く。
 水枷 冬花(gb2360)が頷く。
 迷路の街と呼ばれる街を仲間と共に走る。
「このまま‥‥真っ直ぐ進んだなら‥‥時計塔に行き当たるね」
 終夜・無月(ga3084)は街並みの奥に見える大きな塔を見つめる。
 火茄神・渉(ga8569)もそれに倣って時計塔を見る。
「結構距離、有りますね」
 地図と実際の位置を比較しながら鳳覚羅(gb3095)は苦笑する。
 そうして駆けていく内に分かれ道に辿り着く。
 一同は休憩がてら地図を確認している。
「えっと‥‥あの、どうしますか‥‥?」
 少しオドオドしながら結城加依理(ga9556)は仲間達に問う。
「んー‥‥面倒だから俺は真っ直ぐ進むな」
 立浪 光佑(gb2422)はビッと目の前の直線の道の方を指差す。
 明らかにその道は色々な障害物でごった返していた。
 例えば無駄に道の真ん中に作られた石像など、所々には出店なんかも有る。
「じゃあ‥‥少し遠回りかもしれないけど‥‥僕はこっちの人通りの少なそうな道で‥‥」
 幡多野 克(ga0444)はすぐ脇の横道に入ろうと歩き出す。
「あんた達、この先に進むのかい? 地元の人間じゃないなら夜になる前にこの先抜けろよ」
 街の人間が声をかけてくる。
「な、何か急いだ方が良さそうですね‥‥」
 書類上のミスでこの依頼に参加する事になった結城は、更に不安になった。
 陽も大分傾いてきている。

 ‐‐直線ルート‐‐
「あたしはすこし飛ばしていくよ」
 赤崎は比較的障害物の少ない場所にて瞬速縮地で先行する。
 このルートを選んだのは赤崎、終夜、結城、立浪の四人。
 入り組んではいない、が邪魔な物が多すぎる。
 石像を横に避ければ道はいきなり狭くなり目の前に壁が有ったり。
 上に跳んで避ければ建物と建物の間に掛けられた洗濯物に邪魔されたり。
 何とか着地しようとすると出店の椅子が丁度有ったり。
 取り敢えず、物が多い、邪魔なのだ。
 運悪く、立浪と結城はそれらの障害物に捕まっていた。
「あー!! 面倒くさい!!」
 立浪は洗濯物のシーツに捕まっていた。
 結城は出店の商品を倒してしまったらしく片付けている。
「これは‥‥どかせる物はどかしてしまった方が‥‥」
 終夜は後ろを少し振り向き、前方の赤崎に無線で連絡する。
 赤崎は了解、と一言無線に返し目の前の空ダンボールの山を蹴り飛ばす。
「何でこんな道の真ん中に置いてあるのよ!」
 終夜が赤崎に追いついてきた。
 結城も片づけを終えて障害物を避けながらも走ってきた。
 立浪も大分遅れているが何とかついてきている。
「この石像‥‥この街のシンボルだろうか」
 周りを見渡し、人が居ない事を確認した終夜が真デヴァステイターで石像を破壊する。
 走り出そうとした矢先、街の人に見つかり捕まる。
 説明に手間取っていると横を赤崎、結城、立浪の順で走り抜けていく。
 
 この時点で日は少し赤みを帯びてきていた。

「わ、わ、ごめんなさい」
 結城は街の人にぶつかりそうになりながら、走る。
「とういうか、ターゲットはここ走り抜けてったんだろ?」
 結城の少し後ろの立浪は声を大きくして問う。
「そ、そうみたいですね‥‥」
 少し感心した様な声で答えながら、転がってきた何個かの林檎を避ける結城。
 それと全く同じ動作で立浪も避ける。
 二人の少し先の赤崎が倒した樽の中に入っていた林檎だ。
「やっと‥‥追いついた‥‥」
 終夜が少し息を切らせながら二人の背中に声をかける。
 街の人に諸々の事情を説明して何とか解放してもらった後全力で走ってきたようだ。
 障害物は有る程度どいていたので特に苦は無かったらしい。
「見えた! 時計塔! あたしは先に行って様子を確認しておくよ!」
 無線機からは赤崎の声が聞こえる。
 三人は頷き合い更に足を早めた。
 
 もうすぐ夜がやってくる。

 ‐‐迂回ルート‐‐
 障害物や人通りは全くと言って良いほど無い裏路地。
 幡多野、火茄神、鳳、水枷の四人は少し遠回りなルートを選んだ。
 遠回りというより入り組んだルートだ。
 どちらかと言うとこちらの方が純粋な迷路と呼べるだろう。
 地図を片手に難しそうな顔をしながら一番前を走る火茄神。
「えーと‥‥この先を右に曲がるのか? ん? もう一個先?」
 地図をぐるぐる回しながら混乱している。
「あ‥‥そこ右‥‥」
 無線で幡多野が指示を前に居る火茄神に飛ばす。
 地図を確認して出発した幡多野と鳳。
 少し、遅れて出発したが地形に翻弄されている火茄神にはすぐに追いついた。
「急がば回れとは言いましたが‥‥これは流石に‥‥」
 鳳は苦笑交じりに頬を掻く。
 障害物は無いが、しっかり道を選んで進まなければすぐに迷ってしまう。
 地図上ではあるが時計塔までの距離は遠い。
「次は左かな?」
 火茄神に追いついてきた幡多野が言う。
「地図‥‥反対だよ‥‥」
 二人は右に曲がる。
 そのすぐ後から鳳が後ろをついていく。
 
 空の色は少しオレンジ色に染まってきた。

「壮大な鬼ごっこだね‥‥」
 幡多野が道端の水道で水を飲みながら呟く。
 他の二人はどの位後方に居るのだろうか?
 現在位置を確認しあいながら三人は迷路の街の裏路地を進む。
 鳳は地図に苦戦しながらも順調に前に進んでいるようだった。
 火茄神も同じく地図に苦戦して何度か迷いそうになっていた。
「どうやら‥‥裏路地を抜ければ真っ直ぐ時計塔まで進めるみたいだよ‥‥」
「そうですか、もう少しで抜けそうなので先に行ってください」
 鳳は幡多野にそう答えると、走るスピードを少し上げる。
「しっかし、すげーなー」
 火茄神は感心しながら前に進む。
 感心するのも無理はない。
 この街の構造は本当に複雑怪奇。
 地図が無ければ、簡単に迷ってしまうのだ。
 夜ともなれば、地図が有ったとしても‥‥
「は、早くこっから出よう‥‥」
 角を曲がると鳳の背中が少し離れてはいたが前に見えて安心したのは内緒、らしい。
 鳳が裏路地を抜けて時計塔まで直線の道に入った頃。
 幡多野は時計塔まであと少しの距離の所を走っていた。
 裏路地を抜けてしまえば距離は有るものの街の外壁に沿って真っ直ぐ走るだけ。
 
 濃い藍色の空が広がっている。
 
 ‐‐時計塔‐‐
 完全に日が沈んだ頃、時計塔の下にたどり着いたのは五人。
 赤崎、幡多野、立浪、終夜、鳳の順。
 途中まで一緒だった立浪の話によると結城は街の人とぶつかりその人の持っていた袋いっぱいに入っていたオレンジを片付けているそうで。
 火茄神は結局鳳を見失ったらしく丁度外壁沿いを走ってる途中だった。
「さて、残るは殺人鬼の確保だね」
 赤崎が辺りを見回す。
 それらしい人影は見えない。
「‥‥どこかに隠れた‥‥?」
 終夜がふと時計塔を見上げる。
 その先、時計塔の最上階の方に人影が見える。
 その視線に気づいた鳳が呟く。
「逃げ切れなかった様だね‥‥フィオナ・コールさん」
 全員が頷き合い時計塔の螺旋階段を駆け上がる。
 
 まるで待っていたかのようにフィオナは階段の下を見下ろす。
「どうやら全員到着出来た訳じゃないようだね」
 フィオナは少し笑いながら待つ。

「どうして‥‥エーリッヒさんを狙う‥‥? とにかく‥‥おかしなマネはさせないから‥‥」
 幡多野が少し上の方に居るフィオナに問う。
「どうして? 何も聞いてないのかい? 彼自身に頼まれたからだよ」
 傭兵達が少しずつ距離を詰めていくように階段を一段一段登る。
「しかし、君達はどうして私がここに留まってたか不思議に思わないのかい?」
 フィオナが唐突に笑い出す。
 確かにそうだ、逃げられたはずなのだ。
「どうせなら無力化してから逃げた方が良いだろう?」
 そう言ってフィオナは懐からナイフを抜く。
 立浪が先頭でじりじりと距離を詰めていく。
 瞬間、フィオナは跳躍する。
 傭兵達に向かってではない。
 螺旋階段の真ん中、何も無い空間に向かってだ。
「え?」
 立浪が声を上げると同時にフィオナは何かロープのような物を切り裂く。
 フィオナはそれにつかまり下に落下するようなスピードで落ちていく。
 傭兵達の頭上でカキンと何か金属音のような音がした。
「時計のぜんまいに何か引っかかるようにロープの反対側に何か仕掛けてたの?」
 赤崎が気づいた瞬間。
 その時計のぜんまいなどが有る頭上が爆発した。
「ひとまず‥‥脱出ですね‥‥」
 終夜が声をかけると同時に飛ぶようにして階段を下りる。
 激しい爆発。
 間一髪、脱出に成功した傭兵達は時計塔を振り返る。
 無残にも轟音と炎に飲み込まれていく時計塔。
 フィオナの姿はもう確認できなかった。

「どうやら逃げ切れたか無力化は出来なかったみたいだけど」
 遠くでその様子を見守っていたフィオナは途中ジャックした車のエンジンをかける。
 風に揺れる三つ編み。
 彼女の逃亡と傭兵達の追跡劇はまだ続く。