タイトル:【CO】河岸の沈黙鳥マスター:東雲 ホメル

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/02/16 04:08

●オープニング本文


 囮とは何か。
 欧州軍中将であるウルシ・サンズの部下、リュンベル・リューベル准尉は神経質そうに声を上げる。
 勿論、集められた傭兵達にその様な説明は要らぬのだが、一度説明を拒めば、眼光鋭く睨みつけ、こう言う。
「私としても、この様な常識的な事を説明している手間は確かに無駄であると思います」
 が、しかし。そう続けると、リュンベルは眼鏡の位置を直し咳払いをする。
「貴方がたには当作戦での失敗は許されない‥‥念の為、再確認をしてもらっているのです」
 そう言い放った後は、またもうんざりしてしまう様な説明が再会される。
 もしかすれば、彼の持ったクリップボードには、それしか書かれていないのかとも思わせられる。
「――さて、前置きはこのくらいにしましょうか。それでは、本題です」
 更に、矢継ぎ早に出てくる言葉は終わりが見えぬ様だった。
 それでもリュンベルは特に疲れた様子も無く、淡々と、事務的に、本題である作戦の概要を説明していく。
 地球人の持つ地図上に存在する国、コンゴ民主共和国。その中の一つの都市であるキンシャサ。
 それが今回、傭兵達が向かうべき戦場であった。目的はキンシャサの現在の都市機構の破壊。
 しかし、それは別働隊の目的。このブリーフィングルームに集められた傭兵達の目的はまた別の所にある。
 それが、リュンベルがくどくどと説教の如く説明していた「囮」なのである。
「コンゴ川を挟んで、キンシャサ北西から作戦を展開させて頂く形になります」
 ホワイトボードに張り出された地図の、該当部分を指してリュンベルは傭兵達に目をやる。
「先ずは都市河岸部に長距離から榴弾砲による奇襲をかけます。此方には居住区は無い様ですので、その点は御安心を」
 リュンベルは傭兵達にキンシャサ沿岸部の写真を其々配る。
 一目見て分かる、異質な物。明らかに、元の都市の姿を留めていないであろう鋼の街並み。
 その沿岸には工場の様なものが立ち並び、所々には偶々映り込んでしまったのかタロスの姿が確認出来た。
「その後は移動しながら戦ってもらいます。要は、出張ってきた敵戦力を都市から引き剥がせば良いのです」
 質問は御座いますか。そう言ってリュンベルは、クリップボードを降ろした。
 そして、ホワイトボードの地図を見て、溜息を一つ吐く。
「囮とは何か。くれぐれも、作戦の目的を忘れぬよう。お願い致します」
 空調の音が唸る中、リュンベルは傭兵達に向き直った。

 一方、キンシャサ西の河岸部。一機のティターンの姿が其処に在った。
 纏った兵装を見るに遠距離戦を想定したタイプらしい。
「‥‥‥‥」
 その足元には、口元を布で隠した朱髪の――強化人間の女が佇んでいた。
 声を失ってから、どれほど経ったのだろうか。その女の喉には真一文字の傷痕が残っていた。
 濃紺のドレスのスカートが、油のニオイの混じった風でヒラヒラと揺れる。
「此方にいらっしゃいましたか。ミルドレッド様」
 初老の、此方も強化人間であろう男がミルドレッドと呼ばれた女に対し、頭を下げる。
「防衛や迎撃が主な任務で退屈である事は承知しておりますが、今は万が一に備えて御控えください」
「‥‥‥‥」
 ミルドレッドは老人の言う事を素直に聞いたのか、老人を一瞥して、何処かへフラフラと去ってしまった。
「ったく、素直で聞き分けの良いやつなんだがなぁ‥‥どうも、不気味だ」
 老人は白髪の頭を掻くと、煙草に火を点け、誰にとでもなく独りごちた。
 この一帯が榴弾砲の長距離射撃によって、赤く燃え盛る炎に包まれる――丁度、半日ほど前だった。

●参加者一覧

ケイ・リヒャルト(ga0598
20歳・♀・JG
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
比良坂 和泉(ga6549
20歳・♂・GD
大神 直人(gb1865
18歳・♂・DG
アンジェラ・D.S.(gb3967
39歳・♀・JG
フラウ(gb4316
13歳・♀・FC
ジャック・ジェリア(gc0672
25歳・♂・GD
オルカ・スパイホップ(gc1882
11歳・♂・AA

●リプレイ本文

 キンシャサ西の河岸部から、コンゴ川を挟んで約五kmの位置。
 傭兵達の部隊は、廃墟群の中を進軍していた。
 前方の空を見れば、高速で飛来して行く榴弾が確認出来る。
 アレが落ちれば、少なくとも防衛部隊やらの戦力が此方側に出てくる事は明白。
「まぁ、無理だけはせずに行きましょう」
 比良坂 和泉(ga6549)は通信回線を開いて、仲間達に呼び掛ける。
 作戦前、あのリュンベルに散々言われた事の意味は理解している。
 自身達は囮なのであるから、無理な侵攻は無意味なのであるという事は。
「適度に脅威となって、敵が引き篭もらない程度か。面倒だな」
 しかし、と呟いた後にそうやって続けたのはジャック・ジェリア(gc0672)。
 敵が喰い付いてくれれば良いが、相手も物を考える存在なのだ。
 ジャックの言う通り、骨が折れる事は間違いなかった。
「着弾まで三、二‥‥着弾確認。打って出る。次のポイントまで進撃開始」
 大神 直人(gb1865)が全員に指示を出すと、其々が速度を上げて廃墟群を抜ける。
 こうして点々と廃墟が立ち並んでいるのが、この地域の現状なのだろう。
 大神の紅い瞳に映った風景は、殺風景なものだった。
 そんな中、先ず廃墟群から抜け出したのは終夜・無月(ga3084)の機体だった。
 それに続いたのがケイ・リヒャルト(ga0598)の駆るトロイメライ。
 敵機との交戦は近い。早めに次の廃墟群へと到達せねばならなかったのだ。
「こっちに向かってくる反応は前に三つ、後ろに三つかぁ」
 オルカ・スパイホップ(gc1882)は深呼吸をし、良しと気合を入れる。
 大神から送られてくる詳細な索敵情報を見れば、相手は既存のゴーレム三機。
 それを確認すると、無月、ケイの後に続いてレプンカムイを滑らせる。
 バイク型の操縦席でアクセルを吹かす様にすれば、一気に速度が上がる。
 海の中ではなくとも、充分に泳ぎまわれる事は確かな様だった。
「さて」
 アンジェラ・D.S.(gb3967)が呟く。そして、仲間にもう一度確認する。
「敵ワーム群を引き付けて、中枢部に侵入した仲間達の手助けを担う事にするわよ」
「そうね、華麗に舞って引き付けて‥‥いいえ、惹き付けてあげる‥‥」
 アンジェラの確認に、ケイは艶っぽく微笑む。
 そうして、交戦予定ポイントである廃墟群に突入するや否や、辺りに爆炎が広がった。
 
 出鼻を挫かれてしまったが、直撃では無かった事、折込済みの砲撃であった事。
 それはフラウ(gb4316)にとって、さして焦る要因ではなかった。
「未だ距離が有るな。射撃のポイントも此方では確認出来ない‥‥大神」
「直線距離、三kmの地点。相手は後の三機も既にコンガ川を渡り切っている」
 そうなれば、前の三機はどうか。
「見えたわね、ゴーレムよ」
 アンジェラは得物を片手にその速度を落として、近くの建物へと身を隠す。
 同じ様に前衛三機以外は緩やかに、かつ機体を空間に晒す事なく進軍し始める。
「あぁ、来たわ」
 そう呟いたケイは、レーダーを確認しながら三機の位置を確認する。
 大神から送られてくるデータによれば、既にお互いの射程内で有る事が分かる。
「しかし、重力って言うのはあると落ち着くな‥‥さ、交戦開始だ」
 攻勢に転ずる合図が出されると前衛三機も一度その速度を落とす。
 それに合わせて、ジャックは機体の兵装を展開させる。
 四つの砲弾が高速で宙空を駆け抜けると、数秒後には部隊の前方で弾ける。
 大体の位置は味方の支援で掴めている。炙り出すのは然程難しいものではなかった。
「一機、二機、見えたよ〜!」
 傭兵の目であれば捉えられるであろう位置に二機のゴーレムの影が在った。
 オルカの報告を受けて、大神は更新データを各機に送る。
 そのデータを頼りに、フラウが他の傭兵から少し離れた位置からの狙撃を敢行する。
 レーダーを確認し、敵機の動きを見る。手応えは無い。
 呻るフラウ。そこでコクピット内部にけたたましいアラームが鳴り響いた。
「敵機、迫撃砲によるものと思われる攻撃!」
 今度は広範囲に渡ってではない、絞られた砲火範囲。
 分断を狙ったのか、直撃を狙ったのか。読みあぐねるが、熟考する暇も無い。
「前に出ます‥‥援護を頼みます‥‥」
「了解、此方で援護します」
 和泉はライフルのトリガーを引くと、無月の機体の前方に向かって弾丸をばら撒き始める。
 ゴーレムも迂闊に顔を出せない事を理解してか、足を止めていた。
 其処を狙って、ジャックがもう一度砲撃を開始する。
 その砲弾は廃墟群を薙ぎ倒し、次々と燃やしていく。
 広がった爆炎の中から、ゴーレムの機影が飛び出してきた。
「早々に片付けるわよ」
 アンジェラはそう言うと、照準をそのゴーレムに合わせてトリガーを引く。
 鉛弾はゴーレムの装甲に弾かれはしたものの、衝撃で一瞬加速が落ちる。
 更に距離を詰めていたケイがバルカンにて、牽制を仕掛ける。
「我が牙へ飛び込め‥‥」
 無月はフェザー砲の残光に照らされながら機槍を構え、ゴーレムの突進に備える。
 しかし、ゴーレムも単純に突っ込んで来た訳では無い。
「横から来るぞ! 迎撃備えろ!」
 大神の声が響いた後、プロトン砲が無月のミカガミを襲う。
 当たらなかったのは、無月の腕とその機体性能の為せる技であろう。
 舌打ちを一つすると、ジャックは横から現れたゴーレムに狙いを定める。
 続いて和泉とフラウが援護に回り、その一機を完全に封殺する。
 そこで姿の確認出来なかった三機目も突撃してくる。狙いは未だ無月にある。
 が、その前に立ち塞がったのはオルカの駆る機体。
 勢いそのままに盾によるチャージを加えられるが、オルカは動じる事はなかった。
「そんなノックみたいなの効かないよ〜」
 間延びした声とは裏腹に、機体は重みの有る音で軋む。
 そして、青い燐光を撒き散らしながら敵を肩で後ろへ押しやると、練剣を振るった。
 肩口を裂き、其処から火炎と黒煙が噴出すと、ゴーレムはゆるりと後退する。
 しかし、その好機を逃すまいとケイは一気にその懐へと潜り込んだ。
 金属同士が擦れ合う小気味の良い音が響くと、ゴーレムはその動きを止める。
 その喉下に赤く発光したディフェンダーが突き刺さっていた。
「ゴーレム、残り二機‥‥敵影確認! タロス三機、来る!」
 大神は叫ぶと同時に、スナイパーライフルにて無月に迫るゴーレムに牽制を仕掛ける。
 その援護を受けて、無月は全速力で機体を走らせる。
「ゴーレムの動きが止まらない? タロスも三機、此方に向かっている‥‥」
 果たして、此方の術中に嵌っただけなのだろうか。
 フラウは大神から送られたデータを元に、色々と考えを張り巡らせる。
 そうしている間も足は止められない。止まればタロスの砲撃に曝されるのだから。
 突撃してきたゴーレムの盾ごと貫いた機槍。正に見事なものだった。
「拙い‥‥!」
 漸くその位置について気が付いた。その後の、瞬息の感覚であった。
 フラウが無月に注意を促すよりも前に、ミルドレッドは動いていたのだ。
 廃墟群の間隙を縫って、一筋の光弾がミカガミに突き刺さる。
「っ‥‥!」
 無月は呼吸を整えつつ、後退を試みるが――
「良い腕に、良い機体だ。覚悟も良い。が、読みが甘いなぁ」
 ズィーヴェンはタロス用の軽機関銃を乱射しつつ、前進してくる。
「退け! 前に出過ぎてるぞ!」
 ジャックの声に無月は素早く後退して行く。
「年寄りには厳しいスピードだな」
 ズィーヴェンはゴーレム一機を突撃させつつ、タロス二機と同時に銃を唸らせる。
 牽制にオルカがマルコキアスで鉛弾をばら撒くが、迂闊に姿を晒せない。
 それは前衛に出ていた三機だけではない。
「どうも、相手は想像以上らしい」
 一応、大神機のESMの有効範囲内には居るらしいティターン。
 それの射程は此方の最大射程と同じ位では有るらしいが、精度が異常なものなのだ。
 隊列の後ろに位置しているからと言って、狙われない訳ではないのだ。
「映った‥‥! 濃紺のティターンだ」
 和泉は送られてきた画像をチラリと見て、生唾を飲み込む。
「あのゴツイ武器‥‥厄介そうですね‥‥」
 その存在感ですらも、牽制になってしまいそうだった。
「しかし、拙いわね。これでは作戦に支障が出てしまいそうだわ」
 アンジェラは物陰からスナイパーライフルでゴーレムを狙撃しつつ、また隠れる。
 相手の死角に入りながら、大きく迂回すれば作戦の続行も可能だろう。
 が、ティターンの事も念頭に置かなければならない。
「逃げる経路が限定されてしまう可能性が有るな」
 フラウはまたも呻った。
「どの道‥‥敵機の数を減らさない事には拙いですね‥‥」
 無月は今一度、飛び出す機会を窺いながらレーザーライフルを構える。
 接近戦ならば、ゴーレム如きたった数秒で沈めてしまえるだろう。
「ティターンは俺達が何とか押さえるしかない。援護を頼む」
 ジャックが大神に通信を入れて、ティターンの位置をレーダーで確認する。
 通信を受けた大神はヴィジョンアイの起動準備をして、ティターンの動きを待つ。
「さて、それじゃあ‥‥此方は任せてもらうわ」
 そう言うと、ケイは敵の銃撃の僅かな合間に飛び出し、奥のタロスを狙う。
 火力を集中させてタロスの動きを制し、その間にゴーレムを落とす。
 それて、あわよくばタロスの一機でも落とせれば充分であろう。
 フラウはサイト内にケイの狙ったタロスを収めると、ミサイルを射出させる。
 勿論、その間に敵の攻撃は再開していたが、此処は押し切るしかなかった。
「プロトン砲、来ます!」
 和泉がケイとゴーレムの間に割って入ると、機楯を構えて衝撃に備える。
「あら、ありがとう」
「どう致しまして。さ、一気にいきましょう」
 和泉は楯にジョイントされていたクロムライフルを取り出すと、前方に向かって弾幕を張る。
 ゴーレムがその弾幕を潜ろうとするが、次の瞬間にはただの鉄塊へと変わり果てていた。
 無月の機槍が深々と突き刺さっていたのだ。
「必殺は見事だ。だがなぁ、仕留める時は一撃じゃあダメだ。その後が必ず鈍る」
 ズィーヴェンは傭兵達の通信回線に割り込んで不敵に笑う。
 二機のタロスを楯にして急速に前進し、そのすがら高速振動刀を構える。
「強さが祟ったな、小僧。止めは二つだ、覚えておけ」
 無月はゴーレムから機槍を抜き去るが、明らかに間に合わない。
 ズィーヴェンは己が機体をぶつけ、鈍い音と共に無月の機体の体勢を崩す。
 そして、ズィーヴェンの言う二つ目――高速振動刀による斬撃が加えられる。
 しかし、弾かれる様にして後退したのはズィーヴェンの方だった。
 オルカの練剣が高速振動刀を捉えたのである。
「機体は再生能力が有っても、武器はそうじゃないでしょ〜?」
 ズィーヴェンはオルカの声に頭を掻く。確かに相手の通信回線に割り込んだ。
 が、まさか自分の言った事を即実践する輩が居るとは思っていなかったのだ。
「また、めんどくせぇ小僧が居たもんだ」
 レプンカムイのアクティブアーマーを持ったチャージと、練剣の一刀。
 それを止めと見せ掛けて、武器破壊へと使ったのだ。
「まぁ、上手く釣られたって事で‥‥ミルドレッド様」
 折れた高速振動刀を捨てて、軽機関銃を持ち直すと、ズィーヴェンは呟く様に言う。
「各種反応有り! ティターンの姿を確認した! もう一発、来るぞ!」
 大神が声を上げる。
「任せとけって」
 その声に返事をしたのは、ジャック。ロングレンジライフルによる、狙撃。
 狙撃に対して狙撃で対抗したのだ。
 そして、ジャックがトリガーを引く方が数瞬早かった。
 ミルドレッドがトリガーを引く頃には、ティターンの肩に弾丸が減り込んでいた。
「流石に此処からじゃあ、武器破壊は無理か」
 しかし、成果は上々。
 ミルドレッドの放った弾丸は大きく狙いが外れて、廃墟を一つ吹き飛ばしただけだった。
「‥‥‥‥」
 ミルドレッドは露骨な嫌悪を顔に出した。
 狙撃された事と、明らかに武器破壊を狙った攻撃を嫌ったのだ。
 そうして、備え付けのキーボードを物凄いスピードで打つ。
「ん? 通信? 何々? 『そいつら嫌い。私が行くまで黙らせて』だぁ?」
 命令ならば仕方が無い。と、ズィーヴェンは溜息を一つ吐く。
 本来、部隊の目的を考えれば、キンシャサから離れ過ぎるのはあまり良くない事。
 だが、その部隊の隊長がそう言うのであれば、仕方が無いのだ。
 タロス三機が軽機関銃とプロトン砲を乱射しながら、前陣の傭兵達を押し込んで行く。
 徐々に、徐々に、キンシャサより北上する様に後退する傭兵達。
 しかし、これも傭兵達の術中。作戦の一つであった。
「妙に大人しくなったな? 何か有るのか?」
 他の戦闘区域の情報も入ってきているが、何処もバグア側の優勢。
 そうなれば、撤退の指示でも出ているのだろうか、とも考える。
 が、先程までの姿勢を考えれば、少し腑に落ちない所も有った。
「少し疑っているか?」
「攻撃の手を増やそう。それに簡単に退けない様に牽制も強く仕掛けるんだ」
 フラウと大神の通信を聞いて、ジャックと無月は殿に立つ様にして牽制を仕掛ける。
 態と攻撃を後ろに逸らして、敵の退路上に弾幕を張る。
 勿論、タロスへの攻撃も忘れていない。
 アンジェラはタロスの迫撃砲へと照準を定めると、ライフルで攻撃を開始する。
 撤退時の事を考えれば、アレがかなり面倒な代物で有る事を彼女は理解したのだ。
 そのアンジェラを軽機関銃の弾幕とプロトン砲の光が襲う。
 ケイはプロトン砲を撃ったタロスに、正確に言えばその発射口に向けてライフルを撃つ。
 敵を倒すのではなく、攻撃の手を潰す様にして動く。
 そうした行動が、援軍を待つ為の持久戦に持ち込もうとしている様に映ったのだ。
 果たして、傭兵達にそういった意図が有ったのかは不明だが、正に僥倖であった。
 傭兵達が下がれば、早めに潰してしまおうと、ズィーヴェン達が迫って来たのだ。
「ティターンもさっきより近いですね‥‥潜入部隊からの連絡は未だですか?」
 和泉は楯で鉛弾を弾きながら、誰にともなく聞く。
 その直後だった。
「どうやら、囮の意味は確りと理解して下さっていましたね」
 各機のコクピット内部にリュンベルの声が響く。
「それでは御自由に撤退行動を取って下さい」
 その一言を聞いて、アンジェラは煙幕をタロス三機の前方へと放った。
「クソったれが!」
 ズィーヴェンは声を上げて、前に出ようとするが、初動が遅かった。
 傭兵達の火力が一気に爆発したのだ。全八機の猛攻を、たった三機で凌げるはずがなかったのだ。
「ジジイをあんま舐めるもんじゃあねぇって覚えておけよ‥‥ったく」
 そして、コンソールの隅に点滅する文字を見て、天を仰ぐ事になった。
「してやられたってぇ訳かい」
 キンシャサの都市機構の破壊が確認されたのだった。