タイトル:【RAL】数珠と三日月マスター:東雲 ホメル

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/01/30 22:47

●オープニング本文


『失敗‥‥してしもうたようじゃの』
 アニヒレーター破壊失敗の報告を聞き、モニターの向こうのミツルギ准将は珍しく険しい表情を浮かべた。
「まぁ、曲がりなりにも敵の重要拠点だ。 
 厄介だとは思ってけどよ‥‥まさかここまでとはな」
 サンズも忌々しげに頭を掻く。
 破壊工作が失敗した事で、敵の警戒は更に強くなり、アニヒレーターの破壊は一層困難な物となってしまった。
 加えて、厄介なのが新たに姿を見せた強力なバグアの存在――(一基はダミーだったが)アニヒレーターを守っていたゲルトとヴィクトリア、前線基地の変電施設を破壊し、司令官を暗殺したメタ、そしてアルジェの街に現れた男‥‥彼らは『プロトスクエア』と名乗る、このアフリカのバグアを率いる司令官の親衛隊であると、傭兵達からの情報により判明している。
 彼らの内のいずれかが、アニヒレーターの防衛をしている可能性が高い以上、攻略のリスクは何倍にも跳ね上がるだろう。
「‥‥だが関係ねぇ。すぐにでも再突入して、あの面倒くせぇ兵器を破壊する。
 もう、それしか道は無ぇな」
 ‥‥サンズの言う通り、グズグズはしていられない。
 何故なら敵に余計な時間を与えてしまった以上、いつ何時、破滅の光が自分達の頭上に降り注ぐか分からないのだから。
『ま、大丈夫じゃろ。ワシらは彼らを信じて、ワシらはワシらのやる事をやるだけじゃ』
「‥‥気楽に言ってくれやがるな、爺。相変わらず後生楽だな」
 先程とは打って変わったのほほんとした言葉を吐くミツルギに、サンズが苛立たしげに顔を歪めた――完全に、階級で呼ぶという考えは吹き飛んでしまっているようだ。
『生憎と性分じゃからな。ま、「渡らず」の異名を持つお前さんの悪運もついとるからの』
「――悪運? ハッ、ボケた事言ってんじゃねぇーよ」
 サンズはミツルギの言葉に、獰猛な笑みを浮かべる。
「俺はいつも、自分の力で、万全の準備をしたから生き残ってきたんだ。
 運なんていうつまんねぇ不確定要素に頼った事なんざ一度たりとも無ぇんだよ」


「つーわけでだ――面倒だが、もう一回だけお使いを頼みたいんだが」
 アニヒレーターの眠る塔の写真を卓上に投げるとウルシは目頭を摘む様にする。
 想定外の事態に、作戦本部の中もまるで戦場の様だったと言う。
 准将に啖呵を切ってしまった手前、此方が受け持った作戦は確実に成功させなければならない。
 そうでなくとも、下手をすれば多大な影響を与える事になる。
 その為には、うろたえる部下達を冷静にさせ、もう一度傭兵を呼び寄せなければならなかったのだ。
 アルジェへの侵攻は今でも続いている。
 その中で、態勢を整えるのは少し骨を折る羽目になったらしかった。
 ウルシは別の写真数枚を卓上に投げる。
「良いか? 俺達がやらなきゃならねぇのは、時間稼ぎだ」
 アニヒレーターと言う単語に忌々しさを感じながらウルシは溜息を吐く。
「ミツルギ准将が突入隊の指揮を執る。 まぁ、その突入隊の為に囮になれって話だ」
 確実に全体の作戦を運ぶ為には、人数をかけるしかない。
 それが如何に戦力を削るだけの行為だと言えども、囮にも主力となる能力者を擁さなければならない。
 王手を掛けていると言うのにも関わらず、歯痒い事この上のない。
 ウルシはポケットから、未開封のミントの板ガムを取り出す。
 それを一枚、一枚、傭兵に渡していく。
「一発派手に頼んだぜ」
 素っ気無い態度で、一人の傭兵の肩を叩く。


 男は複雑に組まれた鉄骨の上に立ちながら、その赤い双眸で遠くの黒煙群を眺める。
 幾つも立ち上っているソレは、戦いの証。
「飽きないねぇ、こういう景色ってのは」
 白い髪を掻き上げて、下で静かに座りこんでいる男に声を掛ける。
「ツネツグもそうだろ?」
「さてな‥‥」
 同じ様な白い頭髪の大男、ツネツグは素っ気無く答えると、自身の得物を抜く。
 鈍い光を湛えた刀身を確認している様だ。
「能力者くらいだったら余裕で斬れるだろ?」
「さてな‥‥」
 ツネツグの反応にムネチカは自身の後ろ髪を束ねながら、肩を竦める。
 そして、後ろに聳える塔を振り返り苦笑する。
「でけぇの作るよなぁ‥‥」
「時間だ‥‥行くぞ‥‥」
 白い影二つが動く。
 すると、それに追従する様に隠れていた黒い影が飛び出してくる。
 彼らの目的は一つ。
 その意図に関係無く、目の前に現れた敵をただ斬り伏せるのみ。

●参加者一覧

藍紗・バーウェン(ga6141
12歳・♀・HD
ハミル・ジャウザール(gb4773
22歳・♂・HG
石田 陽兵(gb5628
20歳・♂・PN
御守 剣清(gb6210
27歳・♂・PN
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA
秦本 新(gc3832
21歳・♂・HD
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA
一ヶ瀬 蒼子(gc4104
20歳・♀・GD

●リプレイ本文

 其処に広がっていたのはただただ無機質な風景だった。
 そうではないモノと言えば、炎や噴煙のみ。
 能力者達は、視界に映らないそれらの気配を確実に感じつつ、塔へと直進していた。
 御守 剣清(gb6210)の運転する車の荷台。
 石田 陽兵(gb5628)は自身の作った簡易的な火炎瓶の点検を怠らなかった。
「一発派手に‥‥ね」
 ミントの香りと共に「やってやるか」と吐き出す。
「言われなくても‥‥派手にやってやるわ」
 一ヶ瀬 蒼子(gc4104)は陽兵の言葉に応えながら、ミントガムを口に放り込む。
 睨む様に眼前に聳える塔を眺める。
 アルジェ北部海戦では、一杯喰わされた形になってしまった。
 今度は、今度こそは失敗は許されないのだ。
 そんな蒼子とは、違った形でムーグ・リード(gc0402)は気を吐く。
 直前まで別任務で、アルジェ近郊の都市に居たムーグだが――
 何処か虫の居所が悪いらしい。
 彼の得物も、重々しい光を湛えている。
 その横では、ハミル・ジャウザール(gb4773)が流れていく資材郡を眺めていた。
 塔に臨むのは二度目。
 今度は、直接乗り込む訳ではない。
 しかし、今度こそ塔に眠るアニヒレーターの破壊を成功させる。
 その為に、ハミルは仲間と共に戻ってきたのだった。
 苦々しい思いと、固い決意。
 そんな荷台の雰囲気に剣清が声を掛ける。
「あちらを無事突入させて、オレ達もちゃんと帰る‥‥までが作戦ですよ」
 念押し、と言った感じだが簡単に変わる空気でもなく。
 ヒリヒリと灼ける様な感覚が、能力者達の肌を刺していた。

 後方では、ミリハナク(gc4008)が待機していた。
 重傷では、前線に立てないという判断の下でだ。
 だからと言って、ウルシが自由にさせておく訳もなかった。
「人手が足りねぇんだ、待機するなら救護班と一緒に待機してな」
 それなら倒れても心配無ぇだろ、とだけ言ってミリハナクを救護班の車に乗せたのだ。
 直接的に作戦に参加する事はなくとも、撤退してきた仲間のフォローに入る事くらいは出来る。
 すまねぇな、とだけ無線に投げるとウルシはポケットからガムを一枚取り出す。
 それほどまでに、このアルジェ攻略戦は切迫していたのだった。
 そして、その中でミリハナクにも何か出来る事をやってもらう。
「ったく‥‥世話の焼ける奴らだな、軍の野郎共も傭兵の野郎共もよ」
 満更でもない声を上げて、ウルシは作戦会議室のモニターを眺めた。

 剣清の運転する車の、後方につけていた秦本 新(gc3832)は微かな声に気付く。
 並走している、藍紗・T・ディートリヒ(ga6141)の方を見てはみるが――
 依然として、前方だけを向いている。
 聞き間違いなのだろうか、と視線を戻す。
 すると、開いていた無線から陽兵の声が響く。
「敵を確認。 数は1と2と3‥‥沢山!」
 そうして、新は先程のアレが自身の聞き間違いではないと言う事を確認する。
 前方上空に無数の影。
 鉄骨や資材の陰で見えないが、恐らくその下にも居るのだろう。
 遂に、塔周辺に屯していたキメラが姿を現したのであった。
 態々、見つかる様に進軍したのだ。
 藍紗はAU−KVを横に滑らせながら停めると、ぽつりと呟く。
「別に我々が突入しても構わぬのだろう?」
 冗談半分ではあるが、こういった無理難題を幾つも受けてきた身。
 作戦を成功させる為には、その位の気概で行かなければならなかったのだ。
 AU−KVを着け、檜扇型の超機械を開き、歩き出しながら仲間の動きを見る。
 新もその少し前にAU−KVを停車させて、自身の身体に装着させている。
 車からは続々と、仲間達が降りてきている。
 決戦の時は刻一刻と近づいていた。
「‥‥イキマス」
 ムーグの声に普段の柔らかさは鳴りを潜め、鋭い棘の様なモノが在った。


 案の定、上空を飛ぶキメラの下には無数のキメラが跋扈していた。
 ムーグは転がった資材の上に乗り、周辺を見渡す。
 強化人間の姿は未だ確認出来ていない。
 更に、敵は情報に有る通りの戦力なのだが――
 とある人物の姿が脳裏を過ぎる。
 天使型は彫像の様な六枚羽のキメラ。
 人型は筋骨隆々な全身が漆黒に染まって、顔には凹凸の無い仮面を着けている。
 見かけこそは、人のそれからはかけ離れている。
 しかし、その基は何処から来た物なのだろうか。
 ムーグは奥歯を噛み締め、銃口をキメラの群れに向ける。
 そして、その引き金を引いた。
 轟音と共に、キメラの群れが二つに分かれる。
 飛び出してきたのは狼型のキメラだった。
 陽兵が其処に狙いをつけて、銃弾を放つ。
 一匹がその衝撃で跳ね、しかし、それでもまた一匹、もう一匹と続いてくる。
 引き金を引き続けながら、資材の陰に転がる。
 狼型が唸り声を上げながら、飛び付いてきたのだ。
 着地したそれは、味方の掃射を受けてぐらりと崩れる。
 陽兵は、更に迫ってくる人型を見て予め用意しておいた火炎瓶を投げる。
 宙に放ったそれを、銃で撃ち抜くと頭を抱える。
 炎が当たりに飛び散り、黒煙が上がる。
 FFの効果で、炎は殆ど意味は為さなかったが、陽兵の狙いは別に在った。
 こうする事によって、遠くで徘徊している敵も此方に集まってくる可能性が上がると睨んだのだ。
 炎を掻き分けて、現れた人型に剣清は一気に肉薄する。
 袈裟斬りで一刀、返した刃でその息の根を止める。
 そんな前列の状況を見て、後列に位置していた藍紗と新が一気に戦線を押し上げる様に動く。
 蒼子は、上空を見上げて銃を構える。
 頭上を旋回している天使型の動きを乱して、進む為の隙を作ったのだ。
 微かに漂う硝煙のニオイの中、新は走る。
 勢いそのままに、新は全力で槍を振り上げる。
 下降してきた天使型を跳ね上げたのだ。
 後方に転がった天使型が起き上がろうとするが、強力な竜巻に呑まれてしまう。
 羽をもがれて苦しんでいる天使型を尻目に藍紗は前へと進む。
 速度は交戦前より大分遅くなってしまったが、少しずつ前進出来ていた。
 しかし、それに伴いキメラの数も多くなり、その攻撃は激しさを増してきていた。
 ハミルは、盾を前に突き出して人型の重い拳を受け止める。
 それを横に弾きながら、エナジーガンを目の前の敵に突き付け、光線でその身体を貫いた。

 能力者達は塔を正面に迂回する道を選ばざるをえなかった。
 如何して中々、敵の数が多過ぎたのだ。
 一固体の強さは然程ではないのだが、数の暴力とでも言えばいいのだろうか。
 鉄骨の剥き出しになった建物の間に入り、それでも進む。
 後方から追ってくるキメラに、新は槍を突き立てる。
 崩れて落ちるのを確認する前に、また走り出す。
 自分達が突入班だと相手に錯覚させるには、ある程度逃げながら戦う必要があったのだ。
 先頭を行くムーグは開けた通りに出ると、やはり塔に向けて進む。
『調子はどうだ?』
 唐突に無線から聞えてくるウルシの声に、剣清が答える。
「一応、順調なんでしょうね」
 それを聞くとウルシは、溜息を吐きながら無理に明るい調子で声を上げる。
「そうか、そりゃ上々。それじゃあ、ちっとばかりお友達が増えても問題ねぇな」
「母親がこれ以上家に上げないでって言い出すわよ‥‥」
 うんざりした様に蒼子は呟く。
 ウルシの報告は、本当にうんざりする物だった。
 ヴィクトリア、などという名前を聞いてしまったムーグには憤怒の表情が浮かんでいた。
 要するに敵側に援軍があったという事だった。
「進むしかなかろう」
 檜扇を振るい、追っ手を吹き飛ばしながら藍紗が呟く。
 そうして、敵を背負いながら塔へと走り出そうとした時だった――
「まぁ、そう焦る事はないんじゃないか?」
 ハミルは頭上からの声に、すぐさま銃口を向ける。
 刀を肩に当てて笑っている長髪の男が一人。
 新は溜息を吐いて、遂に来たかという顔をする。
「‥‥やるしかありませんね」
 そして、頭上に居る男とは違う、明後日の方へと槍の穂先を向ける。
 その先には、無言で立つ男。
 ムーグは、目の前に降り立ってきた天使型の頭を鉛弾で吹き飛ばし、一言。
「私は今、機嫌‥‥悪イ、DEATH」
 その言葉に長髪の男はからからと笑って、ハミルの銃撃をかわしながら地面に着地する。
 そうして、男は刀を抜き放つ。
「三日月宗近」
 獰猛に光った赤い瞳は、目の前の能力者を射殺す如く。

 最悪な事に、ウルシの言った『お友達』は目の前の強化人間二人の事ではない。
 能力者達はそれを理解しつつ、再び渦中に飛び込んでいく。
「ゴツいのが来たわよ」
 蒼子の視線の先には、獅子型のキメラ数体。
 極めつけと言わんばかりの巨体。
 蒼子は舌打ちをして、リロードを済ます。
 情報に無かった個体は何処から来たのか。
 ムーグはまたも彼女の名前と顔を思い出す。
 プロトスクエアと呼ばれる四人のバグアの内の一人。
 ヴィクトリア。
 恐らくは、彼女が差し向けたキメラなのであろう。
「此方は任せてください」
 新はじりと前進し、追って来たキメラの群れに走り出す。
 直後、カチリと鉄の塊が音を立てて地面に転がる。
 閃光が辺りに広がる。
 これは数少ない好機の一つだった。
 ハミルと陽兵は閃光が広がる瞬間に跳んだ獅子型の動きを見逃していなかった。
 此方に落ちてくる数瞬の間、アレには視界が無い。
 その間に、利き手の人差し指を引き続ける。
 巨体が落ちる音が聞こえると同時に、視界が通常の物に戻る。
 新はキメラの群れの中央に切り込む事に成功し、更に藍紗は既に何体かのキメラを屠っていた。
 強化人間の二人はどうか。
 三日月宗近と名乗った長髪の男は、ムーグの放った銃弾を両断しながら資材の陰に転がっている。
 どうやら、閃光手榴弾に気付いていたようだった。
 もう一人の強化人間。
 その大男は、目を閉じながらも剣清の一撃を受け止めていた。
「アンタの刀と技に興味があってね‥‥サシで手合わせ願いたい所だ」
 心眼とも呼べるその技は、常人のものではない。
「‥‥数珠丸恒次‥‥」
 剣清を弾きながら、大きく息を吐く。
 どうやらかなりの集中力を使う様で、大男は一度後退し距離を取った。
「ツネツグ、油断するなよ!」
「当然だ‥‥」
 ムネチカに応えると、ツネツグは一度構えを変えて目を開く。
 威圧感は十分過ぎる程だった。
 その剣戟を背に、蒼子は横に飛びながら獅子型の攻撃を避ける。
 攻撃後の硬直を狙って、獅子型の後ろ脚に弾丸を浴びせ掛ける。
 止めと言わんばかりに、ハミルがそれに反応する。
 光線がその脳天を貫き、獅子型は断末魔を上げる。

 陽兵は滑り込む様に、跳ねる狼型の腹下に潜り込む。
 即座に弾丸を捻じ込むと、上体を起して前方のキメラに牽制として銃口を向ける。
 もう一度、数を確認する。
 果たして減っているのだろうか。
 疲労やダメージは確実に蓄積している。
 それは他の能力者達にも言える事であった。
 練力を温存しなければならないとは言え、次から次へと湧いてくるキメラに新も苦戦を強いられていた。
 突いては払い、穿っては捨てる。
 最後に槍の柄で、天使の脳天を割る。
 嫌気が差してしまいそうだが、考えてみれば自分達が囮として機能しているからこそのキメラの数なのではないだろうか。
 藍紗はその中で気を吐く。
 キメラを超機械の起す竜巻で吹き飛ばすと、直線状にムネチカを捉える。
 ムーグの射撃によって、運良く目の前に移動してきたのだった。
「鴇神の巫女藍紗がお相手する、いざ尋常に勝負」
「鴇神? 知らないなぁ」
 一歩、ムネチカは一歩踏み出しただけだった。
 しかし、どういう訳か藍紗の目の前に立っている。
 藍紗とムネチカの間に火花が散り、藍紗が跳ね除けられる。
 何とか鉄扇で斬撃は防いだが、持っていた手に痺れが残る。
 ムネチカが動き出す前に、藍紗はもう一方の扇を振るう。
 風がムネチカを呑み込み、完全に封じる。
 機を窺っていたムーグは、それを逃さない様に射線を確かめる。
 剣の紋章を吸い込んだ銃身から、三つの鉛弾が放たれて、ムネチカに突き刺さる。
「痛ぇ、痛ぇ‥‥まったく‥‥」
 急所は外した様だったが、確実なダメージにはなっていた。
 ムネチカはまたもからからと笑って、吐き捨てる。
「一人でこんな奴ら相手にしろ、なんてな。あぁ、いや‥‥気の毒なのはあっちの方か」
 ムネチカは横目で、ツネツグの方を見やる。
 気の毒なのは――
「‥‥どうした?」
 ツネツグは顔に付いた返り血を拭いながら、静かに笑う。
 剣清は肩で息をしながら、肩口の傷を確かめる。
 浅いが、厄介な傷だ。
 血を流し過ぎれば、致命的な一撃を貰っていなくとも倒れてしまう。
 それでも、剣清は迅雷の如くツネツグとの間合いを詰めて斬線を描く。
 ツネツグの左腕を捉えて、その皮膚を斬り裂く。
「銘は無いが持ち主に似てしぶといぞ、この刀は」
「‥‥持ち主に似て、か‥‥」
 そんな光景に、ムネチカは「気の毒な兄さんだ」と呟く。
 ムネチカはツネツグの笑い方に頭を掻いて、自身の戦いに再度集中する。
 自分が未だに立っているのはキメラの大群のお陰だな、と藍紗とムーグを見て思っていた。

 目の前に落ちてきた天使型の残骸を確認して、周囲を見回す蒼子。
 味方の位置は大分バラバラになっていた。
 疲労の溜まり方も、負傷率も上がる訳だ。
 無線を手に取り、個人毎に的確な指示を飛ばす。
 連携を上手く取りつつ、長丁場を戦える陣形を築く。
 いつまで、この戦いが続くかは判らない。
 強化人間二人も未だに戦えている。
 状況が絶望的なのか、そうでないのか。
 ハミルは焦りを篭める様に光線を、キメラの群れに撃ち込む。
 既に限界は近い。
 そんな折だった。
『テメェら‥‥帰宅だ、帰宅。 途中までミリハナクの母ちゃんが迎え行くとよ』
 長らく通信の無かったウルシの声が響く。
 それが意味する事。
 それはこの作戦の真の目的が達成された、という事であった。
 やはり唐突なウルシの通信に藍紗と新は頷き合う。
 二人は装着していたAU−KVを素早くバイク形態に戻したのだ。
 先ずは新がエンジンに火を点ける。
 ムネチカが何かを察する前に、塔とは反対方向に走り出す。
 強力な衝撃波を伴った走行は、キメラを薙倒し、所謂退路というものを切り開く。
「おい――」
 ムネチカが声を上げると同時に、閃光が走る。
 動く気配が無いという事は、今度は効いた様だった。
「ここは我が任された、疾く疾く駆け抜けよ」
 藍紗を殿に、面々は一気に後退していく。
 最後にもう一度、今度は藍紗が光を纏ったAU−KVを走らせて、キメラを薙倒していく。
「やけに派手だとは思ってたんだけどな」
 戻りつつある視界の中、ムネチカはツネツグに愚痴を言う様に語り掛ける。
 ツネツグは無言で、刀を納めると溜息を吐く。
 塔を振り返り、もう一度溜息を吐く。
「でけぇの作るよなぁ‥‥」
「‥‥そうだな‥‥」