タイトル:【RAL】隠れた戦意マスター:東雲 ホメル

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/25 02:38

●オープニング本文


 アンナーバ解放戦が終結して、数日。
 ウルシは一先ず、チュニジアまでのラインを確実なモノにすべきだと考えた。
 物資の補給は空路、海路で十分なのだが――
 如何せん、此処は競合地域のど真ん中。
 知らぬ間に囲まれていた、などと笑い話にもならない様な事が起こり得るのだ。
 そう考えると、有る程度だが安全に物資や戦力の供給出来るラインが欲しかった。
 アンナーバ周辺を警戒中の軍を大々的に動かす訳には行かない。
「未だ、野郎共の出番は終わりそうもねぇな‥‥」
 ウルシは強烈なミントの香りのするガムを口に放り込みながら、立ち上がる。


 アンナーバとチュニジアの国境の間に位置する街、エルカラ。
 その街から少しアンナーバ寄りに存在する二つの湖。
 ネスカートはその湖畔に佇んでいた。
 サボっているわけではない。
 傭兵としての仕事を一つ終えて一息、と言った所だった。
 周りに崩れ落ちるキメラの骸。
 どうやら、こういった類のモノが至る所に潜んでいるらしい。
「迷惑な話だ‥‥」
 若干の疲労感に、ネスカートは溜息を吐く。
 そして、振り返る。
 視線の先には、周りを高い壁で囲まれた白い建物が在る。
「一階、二階、三階クリア」
 無線から流れる、建物内部の状況を伝える声。
 了解、とだけ返してネスカートは数人の仲間と共に建物内部に向かう。

 比較的簡素な造りで、殺風景な印象を受ける建物だった。
 ネスカートは辺りを見回しながら、奥へ、奥へと進んでいく。
「随分と掃除がし易い、バグアにも綺麗好きが居るんだな」
 独り言を溢しながら、とある部屋に立ち入る。
 そして、ネスカートはその部屋の光景に、腕を組んでまたも溜息を吐く。
 今度は疲れからなのか、それとも呆れからなのか。
 其処は一般的に牢屋、と呼ばれる場所だった。
「生存者は確認出来ていないのでしょうか?」
 無線に向かってネスカートは言葉を投げる。
「キメラの餌になったか、その辺に寝転がってるかどっちかじゃないか?」
 道すがら、確かに何かが転がっていた。
「生存者は無し、ですか」
 ネスカートは無線に応えながら、一つ一つ檻の中を確かめていく。
 そして、突き当たりにまで来て其れを見つける。
「これは――」
 壁に電卓の様な物が取り付けられている。
 ナンバー式の電子ロック。
 ネスカートは周りを見回すと、転がっていた何かに近付き、徐にソレを調べ始めた。
 恐らく人、だったモノだろう。
 頭と思しき部分が、壁に向かって倒れている事を考えれば、何か有るのだろう。
「これは御丁寧に」
 一枚の小さなボロ紙。

『この土地で育った子供達』
『余所から来た大人達』
『この土地はあっという間に大人達の天下』
『子供達を隠して守らねば』
『いつか一人前になるまで守らねば』
『この土地を取り戻せる時まで守らねば』
『その日が来たら此処を開けよう』

 八桁の数字が入るパネルを眺めてネスカートは振り返る。
「貴方が『開けて』みますか?」

●参加者一覧

沖田 護(gc0208
18歳・♂・HD
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA
獅月 きら(gc1055
17歳・♀・ER
桂木 一馬(gc1844
22歳・♂・SN
エシック・ランカスター(gc4778
27歳・♂・AA

●リプレイ本文

 銃創、切創は共に確認出来なかった。
 しかし、それでも目の前の遺体には大きな傷跡が残っていた。
 桂木 一馬(gc1844)はその身体に開いた大きな穴を眺める。
 それは人の手に因るものではなく、獣――
 この場合はキメラの仕業と考えるのが妥当であった。
「キメラの仕業でしょうね」
 遺体の状態やこの部屋の環境から考えれば、大分時間が経っている事が分かる。
 少なくとも、アンナーバ解放前には此処にこうしていた事は確かだった。
 そうしてもう一つ。
「これは防弾チョッキですね」
 沖田 護(gc0208)は着ていた物の端を捲る様にして、確認する。
 更には、銃やナイフまで所持していた。
「武装、シテイマスネ‥‥」
 屈んでいたムーグ・リード(gc0402)は体勢を戻しつつ、顎を擦る。
 武装している理由は何か。
 それは今回の調査にとっては重要なファクターだった。
「‥‥もう一度探索してみますか?」
 ネスカートは少しだけ考えた後に、提案を投げ掛けた。

 護の率直な印象は「研究所か病院の様」という事だった。
 確かに、住居と言ってしまうにはあまりにも生活感が無い様に思えた。
 ボロボロになってしまっているとは言え、あまりに無機質だった。
 生活に重点を置かない、という点では、護の持った印象は間違いではなかった。
「重要、ナノハ、how、ヨリ、why、ダソウ、DEATH、ヨ‥‥ホームズ、サン」
 ムーグは自身の陰に隠れる形になっている獅月 きら(gc1055)の頭に手を置く。
「‥‥why、かぁ。 頑張ってみますよう」
 手から逃れる様に、一歩前に出たきら。
 ムーグの言う通り、何故、という部分を突き詰めれば、自ずと方法も見えてくる。
 今回の調査にいたっても、それを導き出せる可能性は極めて高かった。
「ネスカートさん、お願いが有るのですが――」
 エシック・ランカスター(gc4778)は少し前を歩くネスカートに声を掛ける。
 そのエシックのお願いに、ネスカートは軽く頷いて他の四人の方へと向き直る。
「私達は少し調べる‥‥いえ、聴くべき事が有りますので」
 それだけ言うと、ネスカートは無線を取り出し、誰かに連絡を取っている様だった。
 そんなエシックとネスカートを横目に、一馬は別の方向へと歩き出す。
「それじゃあ、俺はもう一度こっちを回ってみます」
 廊下の奥に消える一馬の背中を眺めた後、ムーグやきら、護も歩き出す。

 やはりボロボロになっている階段を上り、エシックとネスカートは二階へと向かう。
 目的は、情報収集と言った所だろう。
「御時間を割いて頂いてありがとうございます」
 エシックは目の前の男に丁寧に頭を下げる。
 そして、煙草などを差し出す。
「あぁ、いえ‥‥すみません、気を使って頂いて‥‥」
 その男、マトムル・サダンは恐縮した様に頭を下げる。
「確か、此方の出身だったと記憶していますが」
 ネスカートの問いに、マトムルは頷く。
 アルジェリア出身の彼から、何か情報が得られないものかという意図が有ったのだ。
「先ずは、エルカラに来た事は有りますでしょうか?」
「いえ、私はアルジェの出身でして‥‥此方に来る機会は有りませんでしたね」
 エシックに答えながら、マトムルは申し訳なさそうに一つ付け加える。
 写真でなら、とだけ。
 その答えにエシックは少し考える。
 そして、次の質問を吟味する。
「では、この文章を見て何か思いつく事は有りませんでしょうか?」
 自身のメモ帳に記載された、暗号をマトムルに見せる。
 マトムルは暫く、考える素振りを見せていたが苦笑しながらメモ帳をエシックに返す。
「すみません、どうにも。 ただ‥‥取り戻す、という言葉を見るとですね――」
 更に苦笑して、マトムルはアルジェリアの歴史を簡単に説明してくれた。
 それは植民地支配の歴史に関する事。
「まぁ、結局バグアに占領される事になってしまったんですけどね」
 エシックとネスカートを前に、マトムルは困った様に頭を掻くしかなかった。

 一馬は足元の亡骸を確認する。
 そして「やはり」という感覚を強める。
 その腕に抱かれる様にしてあるのは、サブマシンガンと呼ばれる銃火器。
「此方も武装している、か‥‥」
 一馬はそのサブマシンガンを拝借して、それを調べる。
 残弾数が少ない。
 つまり、これを使ったという事は明白だ。
 何と敵対していたのか、断定は出来ない。
「十中八九、キメラである事は間違いないな」
 牢の部屋に在った死体の事も踏まえれば、の結論だった。
 恐らく、他のものも同じ理由で絶命したのだろう。
 一馬は周囲を警戒しながらも、立ち上がる。
 既に外のキメラは殲滅が完了しているとは言え、場所が場所なだけに油断出来ない。
 資料の様な分かり易い手掛かりは未だに見つかっていない。
 一馬は、移動を開始する。
 ふと、窓を見ると大きく崩れた塀から生い茂った木々が見える。
「此処から街は見えない、か‥‥」
 確かに、エルカラの在る方角だったがその姿を確認する事は出来なかった。

 ムーグはドアの枠を潜る様にして、中庭に出る。
 長い間、放置されてあった為か草木は伸び放題だった。
 中には枯れている物も見受けられる。
「外周にも違和感は有りませんでしたから、残りは此処ですね」
 護は中庭を見渡しながら、ムーグに声を掛ける。
「ソウ、DEATH、ネ‥‥」
 建物の見取り図を作り、おかしな空間が無いか確かめて周った訳なのだが――
 特に目立った所は存在しなかった。
 となると、行き着く先はこの空間。
 その下。
「牢の部屋の先は、此処に繋がってる可能性が高いですね」
 護は手近に在った棒切れで、地面を衝いてみる。
 残念ながら、反響音は聞き取れない。
「‥‥きら、サン‥‥?」
 見取り図の中庭部分に、×印を付けながらムーグはきらに声を掛ける。
 きらは、ボロボロと崩れた土壁の小さな塊を指先に抓む様にしている。
 それを砕いて、次に壁の中の骨組みを確認する。
「長い間放置されていたとは言え‥‥あんまり新しい物とは言えないかなぁ」
 人差し指を顎に当てたまま、きらは振り返る。
 恐らくはバグア侵略以前に建てられた物。
 しかし、そうなってくると電子ロックだけが浮いた存在になってくる。
 どうにもアレだけは後付になっている様な気がする。
 果たして、それが人間の仕業なのか、バグアの仕業なのか。
 決定的な事象は未だに見つからなかった。
 もし、バグアの仕業だとしたら。
 護は嫌な気分になりながらも、過去に関わった依頼を思い出す。
 人間をキメラに改造する施設。
 それを振り払う様に、先に出て行くムーグときらの後に続く。


 護達が電子ロックのパネルの前に戻ると、一馬達が待っていた。
「予想通り、と言いますか、放置されてあった遺体ですが――」
 全員が武装をしていた、と一馬は報告する。
 それ以外の成果は見られなかった。
 しかし、この事は一つの事実を示していた。
「コノ、牢、ハ、欺瞞‥‥ソノ、可能性、ハ、高イ‥‥」
 この建物は人間が、自身達の為に使っていた可能性が高いという事だ。
 それも、亡骸の殆どが武装していたという事実は此処を拠点に何かと戦ったという事実に繋がる。
 牢に在る亡骸から見れば、その「何か」はキメラである事が分かる。
「という事は、この子供は‥‥やはり人間、でしょうか?」
 護は確認する様に問う。
「素直に解釈しちゃっても、問題無いかなって思います」
 きらが護に答えながら、自身の推定した建物の建てられた時期を話す。
 バグアが来る以前に作られていた。
 しかし、この電子ロックのみはバグアが来た後に増築された物ではないかという考えも。
「それで、この『一人前になるまで守る』って言うのは――」
「突貫工事で作って、何か隠れている‥‥いや、隠されている、か」
 一馬は腕を組み直しながら、この奥に眠る物について考える。
「ネスカートさん、あんたはこのメモをどう読みます?」
「恐らく、今の所は間違えてはいないと思います」
 子供がイコールで人間だという事も。
 何かが隠されている、という事も。
「壁に向かって倒れている、って事は開けようとしたんですよね?」
 きらは首を傾げながら、電子ロックのパネルを見る。
 何の為に、開けようとしたのか。
「気は進みませんが、確かめずしては帰れませんね」
 人間の使っていた建物。
 そう考えた所で、かつて味わった嫌悪は消えた。
「シカシ、コノ、ナンバー、ガ、分カラナイ、事ニハ‥‥」
 ムーグは試しに、小石を思い切り砕いて、その粉末を掛けてみるも――
「‥‥‥‥」
 首を横に振るしかない結果だった。
 手詰まりか、と思われた。
「引っ掛かっていた事が有るのですが」
 そんな折、エシックが静かに口を開く。
「この『土地』と言うのは、アルジェリアの事を指すのではないのでしょうか?」
 自身のメモ帳を開き、全員に見せる。
「単純に考えて、それを取り戻す日、とは何時か」
 エシックの言葉に、全員が考えを巡らそうとする。
 しかし、それを待たずしてエシックは次の言葉を紡ぐ。
「マトムルさんは、この国の植民地支配の歴史を教えてくれました」
 その言葉にムーグときらが顔を上げる。
「取リ戻セル、時‥‥ソノ、日‥‥」
「一人前って、もしかして『独立』って事かな‥‥」
 きらの言葉にネスカートは頷く。
「恐らく」
「彼は7月5日を独立記念日だと、仰っていました」
 そうなれば、電子ロックに入る八桁のナンバーは――
「年号は現在、って事はないだろうな」
 一馬は疑問混じりに、呟く。
「フランスの植民地支配が終わったのって‥‥」
「1962年と記憶しています」
 護の溜息混じりの声に、ネスカートは何の事無しに答える。
 デハ、という言葉と共にムーグはキーを押していく。
 1、9、6、2、0、7、0、5。
「――開ケ、ゴマ‥‥デシタ、カ‥‥?」
 ズリ、ズリ、という何かを引き摺る様な重い音と共に壁の一部が凹む。
 そしてそのまま、跳ね上がる形になり天上部分に収まってしまった。
 暫しの沈黙の後、トラップに備えていた護は安堵の息を吐く。
 そうして、現れた階段を覗く。
 下に続く螺旋階段だ。

 あぁ、と声を出して護は隠されていたソレを手に取る。
 何の変哲も無い、銃火器だ。
 SESも何も積んでいない、ただの銃火器だ。
 ナイフだって、何本も在る。
「そう言えば、此処から街は上手い事見えなかったな」
 一馬は顎を擦りながら、窓から見えた光景を思い出す。
 そうならば、その逆もまた言える事なのではないのだろうか。
「外周を周った時に思ったけれども、湖側から見ても目立たない場所に建っていた様な」
 きらも考え込む様に呟く。
 何の為の建物なのか。
「武器庫の様ですね‥‥とは言え、随分旧い型しか有りませんが」
 エシックもそれを手に取る。
「レジスタンス、ノ、拠点、デショウ、カ‥‥?」
 ムーグは低い天井に屈みながら声に出す。
「そうでしょうね。 まぁ、結局はバグアに見つかってしまった様ですが」
 そう言って、ネスカートは薄暗い部屋の中を見回す。
「目立たない位置に建てられていた此処を、武器庫としてだけ利用していたのでしょう」
「上に何も無かったのは、元々から‥‥それこそ欺瞞ってやつですか」
 一馬は何も無かった建物内部を思い返す。





 件の建築物、及びその地下に存在した空間について。
 占領下にあった、アルジェリア国内のレジスタンスの武器庫と判明。
 レジスタンスはキメラの襲撃により壊滅したという事も分かっている。
 生き残りが居る確立は、極めて低い。
 その為に建築物、武器庫が何時作られたのか、その詳細は不明。
 調査の結果から立てられる、仮説は次の物とする。
 建築物は、バグア襲来以前に作られた。
 武器庫は、バグア襲来直後に作られた。
 今回、押収した武器については――

 提出された報告書を読み終わったウルシは、それを机の上に投げ出す。
「無謀のってやつじゃねえか‥‥嫌いじゃねぇけどな」
 如何に小さくとも、地下に隠されていた物。
 それは、彼らの戦意を表す物だったのではないのだろうか。
 この国の歴史が、その逞しさを物語っている様な気がした。
 ウルシは立ち上がり、散った人間に敬意を払いつつ、次の作戦へと頭の中を切り替えた。