タイトル:【BD】魔女裁判3マスター:東雲 ホメル

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/10/02 16:37

●オープニング本文


 長く、暗い廊下を『渡らず』はコツコツと歩く。
 いつかの大規模作戦で潰れてしまった右眼。
 残った左眼で、その廊下の奥を睨みつける。
 ウルシ・サンズ。
 UPC欧州軍、少将。
 黒く靡く髪や、その体型は女性のそれ。
 絵に描いた様なエリートと呼ばれる人間だが、過去幾多の死線を潜り抜けた女傑。
「やけに煩ぇな‥‥ちったぁ静かに出来ねぇのか、ここの奴らは」
 舌打ちをして、歩く早さを上げるウルシ。
 そして、ドアを蹴破り怒声を上げる。
「テメェらっ!! 黙って仕事も出来ねぇのか!!」
 言動は乱暴そのものである。
 エリートに似つかわしくない彼女は、増援というむしの良いていで厄介払いされたのだ。
 それが、欧州軍の少将である彼女がこの場に居る理由だった。
 ウルシは近くに居た部下の胸座を思い切り掴んで、引き寄せる。
「何が有った?」
「は、ハッ! 当基地所属のKV部隊が哨戒中、突然信号が途絶えました!」
 眉間に皺を寄せて、ウルシは舌打ちをする。
 内通者か、とだけ呟いて部下を解放する。
「こんな所まで来て、内通者のお陰でお釈迦様の下に逝きました‥‥なんて面白くねぇ冗談だな」
「い、如何なさいますか? すぐに戦闘に移れる様に配備は完了していますが‥‥」
「上出来だ、そのまま待機してろ‥‥傭兵は俺が連れて行く、内通者を叩く」
 ウルシは細かな指示を迅速に飛ばし、司令室から出ようとする。
 そして、振り返って一つ。
「テメェら、あの世の川渡りたくねぇだろ! 奇襲だろうが何だろうが、真正面から叩き潰せ!」
「「ハッ!!」」
 彼女が『渡らず』と呼ばれる理由。
 その気性から早死にすると言われていたが、何度も生還する女。
 どんなに大きな傷を負おうとも、舞い戻る女。
 サンズ、という名を皮肉られて『渡らず』と呼ばれていたのだった。
 追い込まれつつある、今。
 どう言う訳か、彼女のその荒い気性と少将クラスが指揮を執っているという事実が、兵士達の戦意を高ぶらせていた。


 地下に隠蔽された防衛拠点。
 勿論、その出入り口は限定される。
「さて、そろそろ任務の概要を話すか」
 ウルシは、エントランスホールに当たる広い空間で、三つの影に声を掛ける。
 長身で線の細い眼鏡の男。
 筋肉質で強面の男。
 小柄で陰鬱な雰囲気の有る女。
「何、簡単な事さ‥‥此処で拘束されて大人しくしている、簡単だろ?」
 元々、この基地に居た人間はシロだとウルシは踏んだ。
 クロであるならば、とっくにこの基地は落ちていても不思議ではない。
 戦況が一気に変わったのは、三人の能力者が着てからだ。
 緩やかな消耗が、激しい消耗に変わったのだ。
 時間経過に因る戦争の激化だ、と言われたら仕方が無いのだが――
「お前らだけは、上手く生き残ったしなぁ‥‥」
「後方支援を主な任務として、来たものですから」
 眼鏡の男が、肩を竦めて笑う。
 疑われているのにも関わらず、イヤに余裕が有る。
「ハッ、猿芝居は止めろよ。そこの野郎の怪我ってのも嘘だろ?」
 筋肉質の男を指差し、ウルシは嗤う。
「‥‥殺しても、問題無いはず」
「うん、私もそう思うよ? 疑ってるみたいだし、早く出ないと基地と一緒に埋まっちゃうよ」
 他の二人も眼鏡の男と同じ様に余裕がある。
「あぁ、貴方達は‥‥どうして自分から‥‥まぁ、問題は確かに無いのですけどもね」
 ウルシはそんな会話を聞きながら、こめかみに青筋を立てる。
(コイツら、俺を殺せる前提で話進めてねぇか?)
 首を鳴らし、一歩前に出るウルシ。
「悪いな、テメェらより弱いかもしれんが、俺も能力者の端くれなんだよ。 それにな――」
 パチンと指を鳴らすと『ウルシの呼んだ能力者』が数人。
 柱の影から現れる。
「俺も未だ死にたくねぇからな」
「コレは厄介ですねぇ‥‥僕達も未だ死にたくないから、バグアに寝返ったと言うのに」

●参加者一覧

花=シルエイト(ga0053
17歳・♀・PN
宗太郎=シルエイト(ga4261
22歳・♂・AA
k(ga9027
17歳・♀・SN
秋月 九蔵(gb1711
19歳・♂・JG
ファリス・フレイシア(gc0517
18歳・♀・FC
春夏秋冬 立花(gc3009
16歳・♀・ER

●リプレイ本文

「裏切り者を魔女、と例える事が有るそうですが――」
 僕達はどうなのでしょうかね、とウェイが零す。
 元々の性質なのか、どうか。
 蛇の様な眼光で、目の前の『敵』を射抜く。
 知らん、とだけウルシが答えて首を鳴らす。
 その後ろから、重なる様に二つの影が姿を現す。
 宗太郎=シルエイト(ga4261)と月森 花(ga0053)だった。
 手と手、と言うか、指と指を絡ませての登場だ。
「‥‥てめぇら、何しに来やがった」
 呆れ混じりにウルシは二人に言葉を投げる。
「だって久し振りに一緒の依頼だから嬉しくて」
 照れた様に苦笑する宗太郎。
 その横で、花はべったりと宗太郎にくっ付いたまま、とある人物を見つめる。
 正しくは、値踏みする、と言った方が良いだろう。
「ねぇ、私‥‥あの子、嫌い‥‥」
 隣に立つハギリの腕を掴んで揺するロウファ。
 目が合った瞬間、鼻で笑われたのだ。
「それに、こんな小者に本気を出すのも馬鹿らしくありませんか? 少将殿」
「焦っているよりかは、幾分かマシに見えませんか? 価値観の違いでしょうか、残念です」
 ウェイは表情一つ変えずに宗太郎の言葉に応える。
 喰えない奴だ。
 宗太郎は、そう思い顎を擦る。
「パーの腕‥‥袖下かな?」
 花は宗太郎にのみ聞える様に、耳打ちをする。
 その隠語に、宗太郎は何気無くロウファを見る。
 先程、何かを『見た』のだろう。
 気を付けておいて損は無いはずだ、と宗太郎も花も頷き合う。
「準備は良いか?」
 ウルシは更に後ろに声を掛ける。
「あぁ。 キメラを相手にさせられねぇ分、楽しめそうだ」
 そう答え、秋月 九蔵(gb1711)は撃鉄を起こす。
 また能力者の裏切り者。
 マジョルカ島の聖堂で、死んでいた女の能力者を思い出す。
 しかし、その前に目の前の戦いだ。
 覚醒して、好戦的になった九蔵はすぐに件の女の事を忘れた。
 それとは対照的に、何か迷いに近い思いを持って前に出る姿。
 ファリス・フレイシア(gc0517)だ。
(どうして‥‥私達のこの能力は一体何の為に‥‥)
 目の前の三人の過去を思えば、尚更理解し難いものがあった。
 おそらく、いや、確実にその力はバグアに対して振るわれたはずだ。
 しかし、今はどうだろう。
 自分達に向けられる殺気、刃。
 これは事実として、目の前に存在していた。
 一つ息を吐く。
 敵は敵だ。
 そう言い聞かせ、ファリスはその大剣を振り下ろす様に構える。
「ウルシさんは、あの人を」
 春夏秋冬 立花(gc3009)はウルシにそう言うと、己の得物に手を掛ける。
 最初の目標は、筋肉質で無口な男。
 ハギリ。
「何か考えがあんなら、まぁ、聞いてやらんでもない」
 ウルシはゆっくりと腰を落とす。
 その時点で既に、読み合いが始まっていた。
 どちらが先手を取るか。
 果ては、どちらが負けるのか。
 そんな張り詰めた空気の中、柱の影。
 k(ga9027)は静かに、本当に静かに息をする。
 キィ、と車椅子の音を立てながら。


 無機質な地面を蹴り、立花は走る。
 目標は刀を振り上げるハギリ。
 立花が、自身の得物の間合いに入る前。
 その前に、その進行を止めざるをえなかった。
「子供と言えども能力者は能力者‥‥油断は出来ない、か」
 ハギリはそう吐くと、その重量感の有る刀を振り下ろす。
 寸での所。
 切っ先は立花の鼻先を掠め、地面に沈む。
 それだけでは終わらない。
 刀の返しが早かった。
 更に一歩踏み込んだハギリは、立花の首に斬線を描こうと刀を振り上げた――
 と、思われたのだが、有り得ない轟音が響く。
 ハギリを捉えたのは宗太郎の槍。
 距離を詰めていたのは立花だけではなかった。
 目の前の爆炎から逃れると、体勢を立て直そうとするハギリ。
 しかし、その腿を鉛の弾が貫通する。
 もう一人、花だ。
 膝を折りそうになりながらも、ハギリは刀を振るう。
 それでも宗太郎の方が早かった。
 ハギリの刀を受けながら、柱を蹴り、その背後に回る。
 そして、一心に槍を突き出す。
 ハギリはそれに対し、振り返り様に衝撃波を叩きつける。
 更に飛び退く宗太郎を追おうとするが――
 手首に違和感を感じ、ハギリはその動きを止める。
 細い、細いワイヤーと重石代わりであろう苦無。
 それが左手首に絡まっていたのだ。
 その先には立花。
 万全ならば、立花を引き寄せてそのまま斬り殺す事も可能だった。
 しかし、先程の宗太郎の連撃を浴びた際、首元を狙った攻撃を左手で受けた。
 咄嗟の判断だったとは言え、これが痛かった。
 出血と火傷でボロボロになった左手は、立花に引き摺られない様にするのが精一杯だった。

 カラカラと音を、チリチリと火花を。
 ファリスはその大剣でウェイに斬りかかる。
 瞬きするかどうかの刹那。
 ウェイはその切っ先をかわし、反撃の一手を打とうとする。
 しかし、その前に血飛沫を上げたのはウェイの方だった。
 左肩の上部を抉られた。
(もう一人、居るか‥‥)
 ファリスより一度距離を取り、眼鏡のズレを直すウェイ。
 焦った様子の無いウェイを、更に観察するk。
 微かな硝煙のニオイが彼女を包む。
 その紫の瞳は、少しだけ喜びを含んでいた。
 他の人間はどうか知らないが、彼女には目の前の敵を殺さぬ理由は無いのだ。
 ぞくりとする背筋の感覚は、彼女の喜びを表していた。
「彼らの、様な、人が居て、本当に、助かります――」
 そんなkの存在を探ろうにも、ウェイには然程暇が無かった。
 ファリスが果敢に攻めて来ていたからだ。
 雷の如く間合いを詰めたファリスは、大剣を薙ぐ。
 浅い、が、その切っ先はウェイの胸元を薄く斬り裂く。
 コンクリートの冷たい床の上、更に鮮血が落ちる。
 しかし、それはウェイの物だけではなかった。
 右腕と左腿。
 ファリスはウェイの刃に捉えられていたのだ。
 自分に向けられる刃、能力。
 裏切り、とはこういう事だった。
 ファリスの心中は窺い知る事が出来ない。
 それでも彼女は、握り締めた大剣を振り被る。
 刀の軌道を読み、ファリスは身体を回転させる。
 ウェイは刀でファリスの大剣の一撃に備えるが、得物の重量の差。
 ファリスの攻撃でウェイは体勢を崩しつつ、一度距離を取る事にした。

 ウルシは小さく息を吐き、一歩踏み込む。
 ロウファとの睨み合いが続いていたが、先に動いたのだ。
 それ合わせて、ロウファも身体と構えていた刀を素早く引く。
 その顎をウルシの右脚の爪先が掠る。
 これを好機と見たロウファは刀を握り直し、そして突く。
 ウルシはその手首を確りと掴み、それを防ぐ。
 お返しに右拳を浴びせようとするも、簡単に受け止められてしまった。
 挙句、ウルシの手を強引に解き、彼女の視界の上下を反転させたのだ。
 腕力でウルシの身体を宙に浮かせたのだ。
「これで終わりっ!」
 受身も何も無いウルシ。
 確実に殺られる、状況下だったが――
 九蔵はトリガーを引く。
 ロウファの身体が衝撃で少しだけ浮く。
 じわ、と広がる赤黒い染み。
 九蔵の撃った弾丸はロウファの右脚に吸い込まれていたのだ。
 舌打ちをしながら、ロウファは地面に落ちたウルシから距離を取る。
 追って、弾丸を一つ二つ放つ九蔵にウルシが声を掛ける。
「こういうのは嫁に貰うんじゃねぇぞ!」
「こんな、じゃじゃ馬は御免だな!」
 ロウファは九蔵の追撃を受けながらもその間合いを詰める。
 炎の様に揺らめいたオーラを纏った刀には明確な殺意が篭っている。
 その剣速は彼女の腕力の強さ為か、予想以上のものだ。
 大きく振り被るロウファ。
 この攻撃をまともに受けてしまえば、一気に戦闘不能に陥ってしまうだろう。
 九蔵は何とか、紙一重の所で後ろに跳ぶ。
 が、ロウファの刀には九蔵の血が滴る。
 それでも、未だにその戦意は衰えない。

 爆音が反響する。
 宗太郎の槍ではない。
 立花の放った弾頭矢だ。
(効いたっ!?)
 黒煙を見つめながら、立花は得物の爪を構える。
「油断しなかった事は褒めてやろう‥‥」
 煙を割りながら、衝撃波が飛ぶ。
 無口である以上に、無表情なハギリは嗤う。
 衝撃波に飛ばされた立花は床に転がる。
 爆発しただけ。
 ハギリにはダメージを与える事は適わなかったのだ。
 ハギリは立花との距離を詰める。
 此処で、一人減らす。
「させねぇよ!」
 宗太郎が立ち塞がる様に、ハギリに襲い掛かる。
 刃を柄で弾き、手首を返して上段から突きを加えようとする宗太郎。
 その切っ先は地面を爆ぜさせただけで、逆にハギリの攻撃に有利な状況に陥る。
 そうはさせまいと、花は銃の引き金を引こうとするが――
「少しぼんやりし過ぎではありませんか?」
 視界の端に煌く刃。
 その薄い刀身は、紛れもなくウェイの得物であった。
 ファリスとkを一瞬で振り切って、奇襲を掛けにきたのだ。
 咄嗟の判断だった。
 仕込み刀を抜き、その刃を受け止める。
 少しだけ、遅かった。
 肩口に僅かに食い込んだ刃を、花の赤い血が滴る。
「花っ!!」
「余所見をしている暇などないだろう‥‥」
 ハギリの声に槍を構えようとする宗太郎。
 だが、ハギリはその槍を足で踏みつける様にして、床から抜かせない様にする。
 最悪のタイミングだった。
 立花がハギリに体当たりをしなければ、どうなっていたか。
 宗太郎の首筋の微かに痛みを感じる。
「‥‥」
 ハギリは飛び退きつつも、衝撃波で立花と宗太郎を吹き飛ばさんとしていた。
 その一方。
「‥‥っ其処です!」
 目にも留まらぬ業で、ファリスは大剣を撃ち付ける様に振るった。
 何とか、何とか花からウェイを引き剥がす事が出来た。
 しかも、幸運な事にウェイの刀は弾かれ、防御や受身が取れない状態。
「舞え‥‥氷葬六花」
 その一瞬を、花は逃さなかった。
 ウェイの利き腕。
 そこに綺麗に、冷たい鉛弾が吸い込まれる。
 両腿にも念押しの弾丸。
 十分だった。
 花とファリスは一度、得物を収めるが――
 ウェイは更に血を吐く。
 花でも、ファリスでもない。
「やはり‥‥もう一人‥‥」
 そう呟くと、倒れながらも奥の柱を睨む。
 左肩に開いた穴と、覗く銃身。
 ウェイはそこで初めて、kの存在を確認した。
 全ては後手に回っていたのだが。

 床が、と言うより基地全体が揺れる。
 ハギリはそれでも、その勢いを失わなかった。
 此処で殺らねば、結局バグアに殺される。
 生き延びたい、それだけだ。
「時間がねぇ」
 それだけ吐いて、宗太郎は走る。
 正面からぶつかっても、十分に勝つ自信は有る。
 だが、勝算はそれだけではない。
 乾いた二つの銃声が、その要因の一つだ。
 腿と腹に広がる赤い染み。
 花とkの射撃。
 しかし、それだけではハギリは倒れなかった。
 もう一押し、立花がその手の「ワイヤー」を思い切り引く。
 弾頭矢を放った時に、一度ハギリから外れたのだが――
 体当たりのどさくさに紛れて、何とか足に絡ませる事に成功したのだ。
 崩れる体勢。
「隙有り、だ」
 宗太郎はその穂先をハギリの首に叩きつける。
 ハギリは轟音と共に、その意識を失った。

「てめぇで最後だ」
 ウルシはロウファに吐き捨てる。
 それでもロウファは屈する様子は無かった。
 ウルシが最後の攻めに入る。
 それと同時に、九蔵もロウファとの距離を縮める。
 九蔵の援護射撃のお陰で、ロウファは簡単に捉まえる事が出来た。
 思えば、最初から最後までその構えは綺麗に整ったものだった。
 剣道か、とウルシはロウファを見て思う。
 気合を吐いて、踏み込んでくるロウファ。
 ウルシはそれでも動かなかった。
 九蔵の援護を待ったのだ。
「楽しかったぜ?」
 その言葉と共に、放たれた銃弾はロウファの右肩に沈む。
 瞬間、衝撃と痛みに動きの止まったロウファの顎にウルシの拳が突き上げられる。
 此処で終われば碌な事にはならない。
 ロウファは何とか、本当に少しの所で踏ん張るが――
 目の前に立っていたのは、ウルシではない。
「スナイパーだからって舐めるなよ」
 九蔵は、止めの一撃をロウファに打ち込む。
 散弾は足や、腕、身体にまで減り込む。
 最後の魔女はこうして、倒れた。


「残念でなりません」
 ファリスは、辛うじて意識の残っているロウファに声を掛ける。
 傲慢なのでしょうか、と続けるファリスにロウファは切れ切れと答える。
「どんなに鍛え上げられた傭兵だって、一瞬で殺される様な時代なのよ‥‥」
 バグアはそういう存在。
「目の前で自分よりも遥かに強い人間が、簡単に殺されるのよ?」
「それでも、裏切りは見過ごせねぇけどな」
 花や、kをチラリと見ながらウルシは言う。
 種類は違うが、どちらも容赦は無い。
 バグアに寝返ろうものならば、こういう仲間に消される可能性だって有るのだ。
「私はね‥‥誰かに、殺されるのなんか御免なの‥‥自分の命でしょ‥‥?」
 不意に微笑んだ、ロウファ。 
 震える左手で、右腕を掴む様な仕草を見せる。
「止めて!」
 花が声を上げると同時に、ロウファの袖口から小さな仕込み刀が飛び出す。
 小さな刃が、か細い首を掻き斬る前に――
 立花はロウファの身体に体当たりをして、転がす。
 そして、その腕を宗太郎が踏みつけ、押える。
「悲劇なんて、こんなもんだ」
 ウルシはそれだけ呟くと、溜息を吐く。
 傭兵達は、応急処置を施したウェイ、ハギリを背負う。
 そしてロウファを連れて、歩き始める。
 辛勝に疲弊しきった、その地下、奥に在る司令室へと。