●リプレイ本文
未だ、風一つ無い。
響くのはエンジン音と水飛沫の音。
八つの機影が海面近く、その中を進む。
「水中は初めてだが‥‥挙動が重いな‥‥」
アセリア・グレーデン(
gc0185)は自機の具合を確かめる。
陸上との違い、それさえ掴めれば。
そう思い、何度も確かめる。
例え、向かってくる相手がどんなに乙女であろうとも。
「‥‥海か」
その少し後ろを航行するのは夜十字・信人(
ga8235)のテンタクルス。
それほど改造は施されていないが、何故か余裕のある信人。
今回ペアを組む相手がマグローン(
gb3046)の駆るリヴァイアサン。
その姿が近くにあった。
「‥‥鮪か」
また一つ呟き、クールに笑う。
リヴァイアサンの名前を冠するKV。
それがカラーリングで巨大な、到底存在するとは思えない程の大きさの鮪に見える。
マグローン仕様。
信人の余裕はそんな鮪を眺める事で生まれてきていたのだ。
お分かり頂けただろうか。
特に根拠は無いのである。
そんな中、救難信号を発する船影がレーダーに映る。
リヴァル・クロウ(
gb2337)は集中する。
情報では、タロス一機にゴーレム二機。
油断してはならない相手だ。
「しかし‥‥やけに早いな‥‥」
船影はレーダー上をクルーザーとは思えないスピードで近づいて来る。
モニターを水上のものに切り替える。
海を割る勢いで飛んでくるクルーザー。
その船首には――
「ま た お 前 か」
腕組み、仁王立ち、アルエット・カミカゼ、その人である。
そして、どうしても言わなければいけない事があった。
「しかし、そのクルーザーお高いのだろう?」
「‥‥ひゃくまんくれじっとになります‥‥」
「微妙に安いな」
リヴァルのオロチのすぐ横を走り抜ける刹那。
そういう会話が交わされたのか、どうか。
答えは海底深くに沈んだまま。
そして、アルエットの姿を確認して眉間を押える者が一人。
常 雲雁(
gb3000)である。
「また、アルエットさん絡みなのか‥‥」
何となく、今回の敵もアレなのだろうか。
そう思ってしまう。
「さて、そろそろ敵も――」
威龍(
ga3859)が海中、前方をモニターに映す。
そして、大きく口を開ける。
「この子の初めての海戦なんだが‥‥敵はアレか」
七色に揺らめく瞳を細めて、蒼河 拓人(
gb2873)が苦笑する。
ビキニ。
セクシービキニ。
美獣が泳いでくる。
「バグアの奴らめ! 何だってあんな気色の悪いモノを作ったんだ!?」
威龍は呆れ混じりに声を上げる。
それはそうだ。
まさか、ビキニを着た人型兵器が自分の目の前に現れるとは思っていなかったからだ。
リヴァイアサン、玄龍はそれでも隙無く臨戦態勢を取る。
「イロモノだろうが、タロスはタロス」
そう言い聞かせて、威龍はタロスにその照準を合わせる。
「スク水と褌のペイントでも持ってくれば良かったかな」
そう呟いた拓人に、橘 銀(
gc2529)が尋ねる。
「持ってこなかったのか?」
「忘れたね」
そうか、と何故か残念そうに銀は頷く。
トレンチコートを着こなす紳士がそんな事を考えるはずがない。
当然の如く、自分の機体にそんなものを――
「‥‥奥さん‥‥」
モニターにはアルエットの顔がドアップで映し出される。
「‥‥良い物有りますぜ‥‥」
貴重なアルエット開眼シーンを拝見した後、頭上を見上げる銀。
「おぉ‥‥!」
「何であんな物、積んでるんですか‥‥」
少し離れた場所で船を停めると、フレアーは溜息を吐く。
「‥‥神の‥‥意向‥‥」
操舵室のフレアーを振り返り、どや顔でアルエットは言い放った。
「‥‥この際、外見は気にしない方が良いだろうな‥‥」
こめかみを押さえ、引き攣った顔のままアセリアはトリガーボタンを押し込む。
まだ距離は有るが、十分射程内。
大型と言えど隠密性に優れた魚雷が発射される。
ビキニが破れようが、破れまいが関係など無い。
高速で進む魚雷は狙い通り、タロスとゴーレム達を分断させる事に成功した。
「行くぞ、マグローン。 俺の機体は足が遅い。 こちら頭上を抑え――」
信人は息を呑む。
「し、白か‥‥」
若干、ゴーレムの胸部、黒っぽい色が透けている。
目のやり場に困る。
そんな信人に、イワシマシンガンの銃口が向く。
そして、無数の鰯型の弾丸が発射される。
「これだけ大量の鰯を目の前にして何もしないのは、据え膳喰わぬ何とやら、ですね」
白ビキニに急接近したマグローンのリヴァイアサンが唸る。
そして、水中用ガトリング砲が火を噴く。
それに気付いた、白ビキニが足をバタつかせて急激に方向転換をする。
そして、銃口をそのままマグローンに向ける。
装甲を掠める鰯(型の弾丸)達は、弾かれて哀しそうな目をしている。
そんな白ビキニの後部頭上から、信人はガウスガンに拠る攻撃を加える。
多数の魚雷、エキドナが銀のビーストソウルから射出される。
計二十四発の魚雷は広範囲に広がり、敵の動きを牽制する様に進む。
ゴーレム、こちらは今年の流行色、淡いパステルカラーの水色ビキニである。
そのゴーレムはそれらをサザエドリルで防ぎながら、移動する。
極力、銀の方を向かない様に。
「私は面白味には欠けるが、至って真面目な人間だよ?」
聞かれてないが、銀は拓人に言っておきたかった。
目を逸らしながら、頷く拓人。
まさか本当に‥‥本当に、こんな事になるとは‥‥
ビーストソウルの青い機体に、紺色のペイントと白いペイントが施されている。
スク水と褌の合わせ業。
まさか、装備を脱ぎ捨ててまでくるとは思わなかった。
アルエットに携えられた、その魂。
誇らしい物だった。
魚雷の嵐を凌いだ水色ビキニはサザエドリルを構えて此方に向かってくる。
拓人はスキルを起動させ、ホールディングミサイルの軌道を水中に描く。
なるべく気にしない様にする。
これが紳士に対する、紳士の対応だった。
一つが命中する。
乱れる海流の中、それでもまだまだ落ちない水色ビキニ。
何気に紐タイプである。
視覚兵器以外の何物でもない。
目の前のタロスを、威龍はそう評する。
「こんな気色の悪いモノは早々に片付けるに限るぜ」
対潜ミサイルが海中を直進する。
高速で飛ぶミサイルが薄ピンクのビキニのタロスを捕らえる。
海面では盛大な水柱が立つ。
空気が混ざり、白い泡のカーテンの向こうから無数のカジキマグロが姿を現す。
正確に言えば、カジキマグロ型のミサイルだが。
「来るぞ」
リヴァルの言葉に、威龍と雲雁はカジキマグロを牽制しながら、散開する。
カジキマグロの群れが威龍達を追う様に軌道を変える。
しかし、リヴァルの警告のお陰か、それら全てを上手く回避出来た。
「しかし‥‥ま た 鮪 か」
リヴァルは何時だったかの鮪を思い出す。
雲雁は無念そうに曇っていく鮎の瞳を思いだす。
アセリアはそんな二人の何とも言えない空気を察して、一言掛ける。
容赦無く、魚雷を射出しながら。
「まぁ、なんですか‥‥中身はタロスですから」
「確かに‥‥警戒は必須か。解析データを送る」
「‥‥ありがとうございます」
雲雁が受け取ったデータ。
カジキマグロミサイルの速度や軌道パターン。
それとは別に『薄ピンク 花柄』とだけ記載されていた。
無駄に乙女なのに対して、腹が立つ。
四人のそんな思いは一つだった。
鰯と鉛が交錯する。
そんな海中。
マグローンはリヴァイアサンを徐々に白ビキニに近づける。
接近してしまえば、此方のもの。
そして、攻撃を続け、結果誘導に成功する。
白ビキニのその背後。
三本のレーザークローが振り下ろされる。
隙を衝いて、信人はテンタクルスを白ビキニのすぐ後ろまで接近させていたのだ。
その爪は海水を蒸発させ、装甲に食い込み、そして――
ビキニの紐を斬り裂いてしまった。
ポロリではなく、ザックリでもない。
ボロン、である。
「あ、す、すまない。 わざとじゃないんだ‥‥」
謝る信人(と言うか、テンタクルス)を振り返り、胸部を両手でがっちり隠す白ビキニ。
「‥‥い、いや、俺はゴーレム相手に何を」
顔が熱い。
自分でも分かる、頬が染まっている事が。
今は仲間との通信を切ってしまいたい。
「信人さん!」
マグローンの声にハッとする。
多分、お怒りなったであろう白ビキニ。
螺旋状に海水を巻き上げる、サザエドリルを掲げる。
信人は咄嗟にテンタクルスを白ビキニにタックルさせて、距離を取ろうとする。
ガゴン、という鈍い音。
そして、暫しの沈黙。
「っ!? ‥‥いや、今のは事故だ! その、ゴーレムさんだって、気にしてないと思うし」
テンタクルスの手が、その口元(と思われる部分)を押さえる。
衝撃的な展開だった。
クルーザーのモニターからその様子を見ていたフレアーはキャーキャー騒いでいる。
「初めて、だった‥‥」
白ビキニは俯いてしまった。
そして、恥ずかしさの為かイワシガトリングを乱射する。
すると、その視界の端に赤いマントの様な物が映る。
「リゾート気分でいらっしゃったのかもしれませんが、生憎と此処は貴女方の領域ではありません」
大人しくお帰り下さい、という言葉と共にマグローンがマントを差し出す。
ビキニの代わりだろうか。
互いにファーストキスの相手だったテンタクルス。
紳士的で気配りの出来る鮪、いや、リヴァイアサン。
いや、あたし、どっちも選べないわ!!
神様の意地悪!!
マントを払い除けて、ドリルを突き出す白ビキニ。
「仕方がありませんね‥‥」
リヴァイアサンの排出溝から青い燐光が漏れ出す。
そして、頭上に高々と掲げられるのは水中用の練剣。
大蛇はそのまま白ビキニの身体を両断する。
「‥‥‥‥!!」
信人の声にならない声がこだまする。
伸ばされたテンタクルスの手は海中を空しく掻いただけだった。
こうして、戦争に因る悲劇がまた一つ生まれた。
「仕方が、なかったんです‥‥分かってください‥‥」
如何しても、あの青い機体に目を向けるのが躊躇われる。
水色ビキニはうろたえる。
スク水の上に褌なんて夢のコラボ、聞いた事は無い。
多分、此処を切り抜けても、この先一生聞いたり、見たりする事は無い。
それを体現してるのだ、あのビーストソウルは。
「味方が動き易い様に、敵が動き難い様に、だ」
一気に吐き出される魚雷郡は、その姿からは想像出来ない程に的確な動きを見せる。
水色ビキニが耐え凌げる限界が、近付いていた。
そんな魚雷郡の間隙を縫って、拓人のパピルサグが一気に突き進む。
進行方向はポッカリ開いている。
ブーストに火を入れる。
加速した拓人の機体。
それを見逃すわけも無く、水色ビキニはイワシガトリングを構える。
そして、銀の放った魚雷郡の中に敢えて飛び込む。
小型の魚雷が一つ二つ爆発すると、連鎖してその他の魚雷も爆発していく。
視界が遮られる。
すごくまともな戦闘だ。
水色ビキニは、その中でイワシガトリングを撃つ。
常に射線上に拓人のパピルサグを捉えていた。
迷わずに撃つ。
が、すぐにその照準はずれていく。
弾切れを起こさない様に、上手くリロードしていた銀の魚雷。
それが、水色ビキニを襲ったのだ。
拓人はこの機を逃さなかった。
距離を詰めると、レーザークローをその胴体に突き刺す。
勿論、ビキニには掠りもしていない。
そして、そのままパピルサグの固定兵装を展開させる。
案外、呆気無いものだった。
拓人と銀の放った数々の魚雷や鉛弾に耐え抜き、実は意外と抵抗した水色ビキニ。
腐ってもゴーレムだった。
あたし、皆と一緒にリゾート気分だったのに。
などと言う、言葉が聞えたかどうか定かではないが――
とりあえず、拓人は銀のビーストソウルを下から見上げて思う。
(後光が差してる様に見える‥‥)
海面に差し込む太陽の仕業だった。
「という訳で、アレが水中キットの役割を果たしている可能性が高い」
リヴァルは、機体を上手くロールさせながらカジキマグロをかわす。
一撃離脱の要領で、威龍はガウスガンを撃っては離脱する。
花柄の攻撃を受けない様に、かつ再生されない様に、だ。
それだけなら十分に反撃は可能なのだが、花柄はそれを出来ないでいた。
右に移動しようとすると、アセリアの放った小型の魚雷が襲ってくる。
しかも、回避しようと動き回ると威龍に隙を衝かれる。
更にはアセリアに近付かれる。
パピルサグの腕の形状を見れば、捕まったら面倒な事になるくらい分かっている。
しかし、左に移動しようとすると同じ様に小型の魚雷が飛んでくる。
雲雁のアルバトロスだ。
結局、どっちに逃げても同じ様な結果が待っている。
「そこの悪趣味なタロスに警告する。 君は帰還し調整を受けるべきだ」
リヴァルは何度目かの通信を試みる。
が、やはり駄目だ。
無人機なのだろうか。
それとも、有人機で乗っているバグアさんが乙女で恥じらいがあったら――
リヴァル・クロウ、想像したくないものを想像してしまい自己嫌悪。
そして、またもやカジキマグロミサイルが全弾展開される。
水中を直線的に、かつ高速で駆け巡るカジキマグロ。
「大人しくネギトロになればいいものをっ!」
雲雁はガトリングガンでカジキマグロミサイルを打ち落としていく。
ガトリングガンでミンチなど、随分物騒なネギトロである。
しかし、中身はミサイル。
リア充の様に爆発するだけだった。
その間に、威龍は人型に変形させた玄龍で一気に攻める。
花柄はとらいでんとを振り、牽制をする。
しかし、それに気を取られ過ぎた。
「その綺麗なシュノーケルをぐしゃぐしゃにする」
リヴァルは残酷な一言を放ち、ホールディングミサイルをソレに命中させる。
すると、花柄の動きが少しだけ遅くなった。
この好機を逃さぬ様に、アセリアが肉薄する。
「藻屑と消えろ。 それとも、損傷部分からの圧壊がお好みか?」
突き刺さった部分から零れるレーザーの光。
花柄は、恐怖した様に暴れる。
やだ、何この子、怖いわ!
ちょっと、誰か!
助けなさいy――
ドグシャァアアアアァァァアアァ、という効果音が最適なくらい顔に減り込む槍斧。
雲雁のベヒモスだ。
「可愛い女の子ならともかく、機体じゃあときめかないんだ、悪いけどね‥‥」
そう台詞を吐くと、雲雁はアセリアと同時に離脱する。
「やっぱり、ビキニはスタイルの良い美人が着てこそ価値があるんだしな」
青い燐光が再び海中に飛び散る。
威龍のリヴァイアサンが花柄を斬り裂く。
そうして、花柄のビキニもタロスも海底に沈み、アセリアの言う通り、海の藻屑と化してしまった。
因みに幽霊船の一件は、アセリアと信人の覚醒にアルエットの興味が移ってしまい――
結局うやむやになってしまった、らしい。