タイトル:【抹消】銀脚の少女マスター:東雲 ホメル

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/08/25 23:18

●オープニング本文


 物心付いた時、私は戦場で捨てられ、拾われた。
 そうして此処まで生きてきた。
 人殺しの技を仕込まれ、人殺しの快楽を教えられた。
 圧倒的な力、技で目標を消す。
 それだけが、両親の顔も知らない私にとっての癒しだったのだ。
 目標を消せば消すほど、周りから賞賛を受ける。
 それがどんどん転がって、人を殺す事自体が快楽へと変わっていった。
 それで良かった。
 しかし、今考えると少し子供染みた考えが根底に在ったのかもしれない。
 復讐、と言えば格好はつくだろう。
 簡単に言えば、両親や世界、自分以外の全ての存在に八つ当たりがしたかっただけなのだ。
 彼女と『再会』するまでは――

 めっきり艶の無くなってしまった銀髪を掻き揚げる。
 ディゼルはそうして、一つ溜息を吐く。
 能力者に捕らえられて数ヶ月が過ぎた。
 しかし、彼女は『牢屋』と言う閉鎖空間の中に居る為に当の昔に時間の感覚は死んでいた。
 春か、夏か、それとも秋なのか。
 捕まえられた時期が冬、という事を考えればその三つの内どれかなのだろうが――
「もう一度冬が来ている可能性も有るのか‥‥」
 その間に死ぬ事は出来た。
 常にチャンスは有った。
 しかし、そうしなかったのはディゼル自身が『考える時間』を何より欲したのだ。
 延々、無限にループする思考。
 自身の出生について、その後の人生、そして肉親である彼女の事。
 偶然、再会した肉親。
 妹。
 彼女は、確かに『レゼル』と言う名を持っていた。
「運命、なんて柄じゃないか‥‥」
 ディゼルは嫌に感傷的な自分を鼻で嗤う。
 死期が近いのだろうと、直感したからだ。



「今回はわしが行っても良いんじゃぞ?」
 高層ビルの屋上で、ヘンゼルはレゼルに問い掛ける。
「いえ‥‥これは元々、姉さんがやっていた仕事ですから」
「そうか。 それなら、わしは高みの見物といこうかの」
 限界まで身体を改造した結果。
 レゼルの美しい栗色の髪は、透き通る様な銀髪に変わっていた。
 副作用はそれだけに留まらず、感情の起伏と彼女自身の寿命までも奪っていた。
 無表情のまま、レゼルは眼下に広がる街並みを眺める。
「その姉さんは、助けに行かんのかえ?」
 ヘンゼルは自身の金髪を弄りながら問う。
「私が姉さんを助けに行っても、助け出せる可能性は0%です」
 その言葉を受け、ヘンゼルは肩を竦める。
 そんなになった甲斐がないの、と一つだけ吐いて。
 確かに、そうだ。
 命を削ってまで、強化してもディゼルを人類側から助ける事は不可能だったのだ。
 しかし――
「後悔はしていません」
 ディゼルが何故、義父と一緒に自分を殺さなかったか。
 気紛れ、だったのかもしれないけれども。
 その真意が知りたくて、走って、奔って、此処にレゼルは立っている。
 今となってはディゼルの口から真意は聞き出せないが――
 苦労の末に掴んだ事実は、それを想像させるには十分だった。
 生き別れた姉と妹。
 それで十分だった。
 白銀に輝く義足の両足、紅く輝く義眼の両目。
 そして姉と同じ流れる銀髪。
 彼女は姉に代わって、抹消者として其処に立つ。
「目標の情報照合‥‥確認。 敵影複数‥‥確認。 作戦、開始します」
 レゼルは静かに、誰に自分に言い聞かせる様に述べる。


「それでは行って参ります、お母様」


 甲高い風切り音が響き、レゼルは宙空に舞う。
 その姿が見えなくなった後、ヘンゼルは珍しく独り言を呟く。
「獅子は我が子を千尋の谷に突き落とすと言うが‥‥少し深過ぎたかの‥‥」 
 溝臭い人間の臭いが一番在ってはならない所に付いている。
 二人の実の娘の姿を思い浮かべながら、ヘンゼルは溜息を吐く。
 レゼルに真実を与えてしまったのは間違いだったのか、どうかを考えながら。
「わしも、子供の事は言えんか‥‥」
 そうして、小さな飴玉を頬張る。

●参加者一覧

ロゼア・ヴァラナウト(gb1055
18歳・♀・JG
抹竹(gb1405
20歳・♂・AA
鳳覚羅(gb3095
20歳・♂・AA
ジン・レイカー(gb5813
19歳・♂・AA
望月 美汐(gb6693
23歳・♀・HD
五十嵐 八九十(gb7911
26歳・♂・PN
御剣雷光(gc0335
22歳・♀・PN
つきみ(gc4217
10歳・♀・HG

●リプレイ本文

 昼間のオフィス街には似つかわしくない閑散さ。
 それが現場に到着した能力者達を包んだ。
「こんな何にも無い所で暴れて何がしたいんだ?」
 ジン・レイカー(gb5813)は尤もな疑問を口にする。
 自身の槍の穂先に反射する日の光に目を細めながら、進む。
「無目的に暴れている、と言う事ではないのでしょうか」
 ジンの言葉に答える様に抹竹(gb1405)は顎を擦る。
 不自然な話ではある。
 出発前にネスカートに聞き出せた情報だけでは、何とも言えなかったのだ。
 彼女の言う通り、力の誇示か。
 それとも、もっと別の理由か。
 どちらにしろ親バグア派の人間達を捕まえてしまえば、問題無い。
 確かに、問題は無かった。

 ビルの陰から、大通りを覗く。
 ロゼア・ヴァラナウト(gb1055)は息を潜め、得物のセーフティーを解除する。
 視線の先、五人の人間がある程度の距離を開けて此方に向かってきていたのだ。
 それだけではない。
 鈍い金属音を響かせる人形。
 銀色の装甲を身に纏った、人型キメラ。
 その二つの種は何かを探す様に、其々辺りを見回していた。
 大分、距離が縮まった後。
「上手く無力化出来れば良いのですけど」
 望月 美汐(gb6693)は牽いて来たAU−KVのエンジンに火をを入れる。
 それが殆ど合図の様なものだった。
 駆動音がオフィス街に響くと、キメラが一気に殺気立つ。
 それを見て、能力者が次々に飛び出す。
 つきみ(gc4217)は深呼吸をし、銃を構え続く。
 これから、この場に現れるであろう少女。
 その少女に対しての決意を固めて。


 ビルの陰から躍り出ると、即座に鉛弾が飛んでくる。
 キメラの持つハンドガンの弾、それと親バグア派の持つSMGの弾。
 その間隙を縫う様に五十嵐 八九十(gb7911)は走る。
 先決なのは、親バグア派の人間を捕まえる事。
 捕まえて、迫る脅威から守らねばならないという事。
 その為には眼前の邪魔者をどうにかしなければならないのだが――
 規格外の大きさの物が空気の層を割る。
「この程度で鳳凰の羽ばたきは止められはしない‥‥」
 鳳覚羅(gb3095)の斧。
 その刃を間一髪の所でかわしながら、一体のキメラの動きが止まる。
 それに併せ、ジンと抹竹も其々眼前のキメラに襲い掛かる。
 これで直接的に動きを制限できたのは三体。
 キメラは残り二体。
 それに対し、ロゼアとつきみがトリガーを引き、注意を逸らす。
 親バグア派の放つ銃弾が残っているが、これで十分。
 八九十、御剣雷光(gc0335)、美汐は少ない障害物に身を隠しながら走る。
 一般人の視点から言えば、地点間を跳んだ、と表現したら良いのだろうか。
「跳ぶぞ消えるぞ近付くぞっ! ‥‥ってね」
「ひっ!?」
 八九十はその胸座を掴み、軽く地面に叩きつける様に転がす。
 とは言っても、一般人にとっては十分な衝撃。
 それだけで沈黙してしまう。
 近くでは雷光が相手の足を払い、転ばせている。
 非覚醒で対応している辺り、自分達の持つ力の異常さを考慮しての事なのだろう。
 転んだ人間の足を拘束しながら、相手が自害する可能性に対しても気を使っていた。
 美汐は持っていた楯を撃ちつけ、相手を弾き飛ばす。
 そして、すぐさま上から押さえつける様にする。
「抵抗しなければ命までは奪いません。 抵抗しなければ、ですけどね」
 勿論、押さえつけられていては抵抗も何も無いのだが。
 それ以上に、能力者と一般人の違いを見せつけるには十分だった。
 確保すべき目標は、残り二人。
 それを確認しつつ、つきみはキメラが其方へ向かわない様に制圧射撃を仕掛ける。
 それでも、その足止めを潜り抜ける者も居る。
 其処に弾幕を張って、敵の動きを更に牽制するのがロゼアだった。
 援護に助けられた覚羅は、目の前のキメラを葬り去ろうと全力で斧を振るう。
 甲高い音を鳴らし、火花を散らし、キメラの肩先をバッサリと切り落とす。
 キメラは声も上げずに反撃に移る。
 残った腕で、腰のホルダーに填まっていた長方形の金属の塊を抜く。
 紅く細長い光の線が、覚羅の胸に一文字を刻みつける。
 さして苦労する相手ではないが、一筋縄で行くほど簡単な相手でもない様だった。
 槍の柄を相手に叩きつけながらキメラを押し込み、ジンも其れを理解する。
 無駄にしぶといのだ。
 装甲が有る分、余計にタフなイメージが付く。
 槍を返しながら引き込み、半身になりながら左手で槍を突き、キメラの肩口を貫く。
 そうやって確実にダメージを与えつつ、それでも迅速に行動する。
 同じ様に抹竹も素早く攻撃を加えていく。
 最初の接触の際に、キメラの腹に捻じ込んだ得物を引き抜き、間合いを一旦空ける。
 すぐさま白銀の刀身を抜き放ち、もう一度肉薄。
 レーザーブレードの斬線をかわし、赤く染まっていく刃をキメラの首筋に滑らせる。
 手応えは有ったが、それでも未だ動く。
「めんどくせぇな!」
 反撃を受ける前に後退し、ロゼアの援護に牽制を任せる。
 後方からのロゼアの弾丸はキメラの足を止める。
 キメラの装甲を爆ぜさせる音が響く中。
 美汐は確保した人間をハンカチ等で拘束する。
「大人しくしていて下さいね? そうでなければ此方も不本意な事をしなければなりません」
 そして、その人間を何処に置くか、残りの人間の様子はどうか確認しようと無線に手を掛けながら顔を上げる。

「能力者ってのは仕事も早い上に、何処にでも湧いてくるな!」
 悪態を吐きつつ、未だ確保されていない親バグア派の人間が銃を構える。
「あいつ等に当たっちまいますよ?」
 能力者は置いて、自分達の仲間は普通の人間だ。
 自分達の持っている得物でも、十分殺せる。
「かまわねぇよ」
 何を知ってるわけじゃねぇしな、と付け足したその男は引き金を引こうとする。

「そうですか」

 今、正に能力者たちが確保に向かおうとしていた二人の間。
 白銀の影一つ。
 二人が反応するよりも前に、その少女は二人の頭を軽々と潰していた。
「ホントにきやがってんのか!」
 抹竹が声を上げる。
 頬に付いた返り血を拭いながら、レゼルは辺りを見回す。
「念の為に、可能性は少しでも消しましょうか」
 誰に問い掛けるわけでもなく、レゼルは一歩踏み出す。
 その姿に叫ぶ様につきみが声を掛ける。
 本部から現場に向かう直前。
 ネスカートに聞いた情報は少ないものだった。
 が、何か思う所が有ったのだろうか、彼女はレゼルに問い掛けられずにはいられなかった。
「貴方、レゼル・サーフェスさんですよね?」
 硝煙立ち込める中、つきみは更に引き金を引く。
「貴方が強化人間になった理ゆ――」
「何処で調べたのか分かりませんが、貴方の言わんとしている事は推測でしか有りません」
 つきみが言葉を最後まで紡ぐ前に。
 レゼルは淡々と突き放す。
 其処に介入する事なく、其々やるべき事に集中する。
 抹竹は、首を刎ねて漸く動かなくなったキメラを乗り越えて、残りの二体の内一体に詰め寄る。
「それに説得しようなどと考えているなら、諦めて下さい」
 レゼルはもう一歩踏み出し、更に突き放す。
 それに身構える、八九十達。
 先程、レゼルの言った「念の為」という言葉の意味。
 それはレゼルが果たすべき任務の最低条件を満たしたという事だった。
 つまり確実に情報を持っている人間を消せれば良かったのだ。
 情報優位に立つ人間。
 その集団の頭を。
「私は貴方を助けたいんです」
 今にも消え入りそうな声でつきみはレゼルに声を掛ける。
 それに対し、凪いだ心でレゼルは応える。
「無意味、無価値です。 それに私を助ける前に――」
 耳を劈く様な音と共にレゼルは一番近い位置に居た美汐の眼前に移動する。
 能力者の目を持ってしても殆ど一瞬の出来事。
「この方達を助ける事を考えたらどうでしょうか? そう思いませんか?」
 美汐に問い掛けながら、レゼルは右拳を振るう。
 尋常ではない衝撃と重さで、AU−KVを纏った美汐の身体は淡い光を放ちながら地面を削り、後退する。
 楯が無く、反応出来なかったら軽々と潰されていただろう。
「まったく、面倒ですね!」
 親バグア派を守ったまま、一人でどうにかなる様な相手でない事は明白。
 美汐は親バグア派の人間を抱えると、脚部をスパークさせながら一気に距離を取る。
 レゼルは追う事はせずに、八九十と雷光を確認する。
 そして、雷光との間合いを一気に詰める。
「これ以上、一歩たりとも近付かせませんよ」
「こういった場での確保した人間の対処が決まっていない様ですが、逃げるという選択肢は?」
 目にも留まらぬ勢いで、雷光の鎖が唸る。
 風を切って、レゼルに襲い掛かる鎖。
 当たれば、十分足止めになっていたのだろうけれども――
 予想よりもレゼルの速度が上だった。
 またも振り抜かれる拳。
 その刹那で、雷光の身体はくの字に折れ曲がったまま宙を舞う。
 拙い。
 ジンはキメラの装甲を貫きながら、歯軋りする。
 ぐらりと倒れ込むのを確認しながら、最後の一匹を睨む。
 もう一匹は覚羅と抹竹が相手をしている。
 此処は無理矢理にでも押し通らねばならなかった。
 それは覚羅も抹竹も、ロゼアも思っている事だった。
「レゼルさん!」
 悲痛な叫びを上げるつきみと対照的に、断末魔すら上げなかった三人目の犠牲者。
 レゼルは踏み砕いた真っ赤な頭蓋から脚を退け、八九十を見る。
「さっきまで加減してたからな‥‥ちったぁ本気でいかせてもらう!」
 気合を入れ、レゼルに対峙する八九十。
 つきみはそれでも説得を試みようとするが――
「つきみさん」
 ロゼアがそんなつきみに声を掛け、首を横に振る。
 説得されて、考え直すほどレゼルは甘い相手ではなかったのだ。
 歯を食い縛って、つきみは制圧射撃を残りのキメラに浴びせる。
 抹竹の刀がキメラの腕や脚を捉え、斬り落とす。
 それと同時に、覚羅は脳天目掛けて斧を振り下ろす。
 ここは攻め切って、なるべく早くレゼルを止めに入らねばならないのだ。
 ジンも槍に纏わせた赤い燐光を確認すると、キメラの胸元を貫く。
 反撃を受ける前に間合いを取り、其処にロゼアの銃が掃射を掛ける。
 最早、猶予など無かった。

 八九十の爪がレゼルの頬を掠める。
 そのお返しに、八九十の脇腹にボディーブローが綺麗に決まる。
 呼吸が出来ないほどの衝撃に、八九十は顔を歪ませるが崩れ落ちる事はない。
 どういう訳か、脚は使ってこない。
 追撃を加えよとするレゼルだったが、何とか立ち上がった雷光にそれを阻まれる。
 手首に当たった鎖を鬱陶しく思いながらも、レゼルは一旦距離を取る。
 八九十の後ろに転がっている親バグア派の人間。
 アレを消して、欲を言えば美汐が守っているアレも消しておきたい。
 レゼルからすれば、可能性など無い方が良いのだ。
 レゼルは太腿のホルダーから、突然ナイフを抜いた。
 そして身体を反転させながら、ナイフを振り抜く。
 金属と金属がぶつかり合い、耳障りな音が響く。
 覚羅の斧だった。
 上手く防げた様に見えたが、レゼルを襲った衝撃は確かに彼女にダメージを与えた。
 何とか間に合った。
 四人目が消される前に、キメラを掃討したのだ。
「‥‥あんたに恨みは無いが、邪魔するなら全力で排除する」
 あんたもそうだろう、と付け加えてジンはジリジリと間合いを詰める。
 後方から武器を銃に持ち替えた抹竹が狙う。
 更にはロゼアとつきみも居る。
 明らかに不利な状況下の中、レゼルは大きく息を吐く。
 静寂の中、雷光が親バグア派の人間を引き連れて、美汐の下まで後退する。
「仕方がありませんね‥‥」
 その言葉を皮切りに、レゼルの白銀の脚から再び劈く様な音が鳴り響く。
 動く。
 そう読んだ、覚羅は同じ白銀色の焔の翼をはためかせ、斧を振り被る。
 動き出しに合わせて斧が振り下ろされたのだが、レゼルはそれをナイフでいなし、覚羅を飛び越える。
 着地と同時に八九十の蹴りが、脚爪がレゼルの脇腹に突き刺さる。
 しかし、滴る赤の鮮やかさほど怯まない。
 逆に、八九十の身体が浮く事になってしまった。
 インパクトの瞬間、何かが爆ぜる。
 地面を転がりながら、八九十は目でレゼルを追う。
 走り出していた。
 ジンの槍をかわし、ナイフをわざとガードさせて押し込む。
 ロゼアの放つ、通常よりも強力な弾丸の嵐も難無くすり抜ける。
 そして、いつの間にか集団から抜け出そうとしているのだった。
 逃がすまいと、覚羅の斧が地面を割り、衝撃波を飛ばす。
 完璧に捉えたと思われた、其れも――
 レゼルが振向き様に、右脚を一閃し、放たれた衝撃波が覚羅の衝撃波を軽々と消滅させてしまった。
「二人ほど消し損ねましたが‥‥さして重要な情報を持っているとは思えませんし」
 レゼルはその銀髪を揺らす。
「撤退します」
 そして、地面に大きな皹を残し空中に跳ぶ。
 信号機や街灯の上を飛び移りながら、レゼルは去ってしまった。
 その後姿を誰も追おうとせず、硝煙とキメラの死臭、そして人の血の臭いの中で見送った。


「知っている事が有れば、話してもらえませんかね」
 抹竹は生き残った人間に聞く。
「俺達は親バグア派、お前らは能力者、知ってる事はそれだけだ」
 抹竹はその答えに、肩を竦める。
「君達に許されているのは悲鳴を上げるか、素直に情報を提供するか‥‥のどっちかだよ?」
 覚羅はゆっくりと言い聞かせる様に言葉を投げる。
 拘束された二人は怯えの色が混じった表情になる。
「話してくれたら痛い思いをする事はありません」
 雷光の言葉が引き金になったのか、二人は自身の知り得る情報を喋った。
 何の目的で暴れていたのか。
 強化人間の居所は何処か。
 そして、レゼルについて。

 ネスカートはその報告書に目を通す。
「随分と醜悪で低能な目的だな‥‥あのグループの頭の独断か」
 能力者や人間をより多く殺す為に強化人間になる。
 その為に手柄を立てたかったらしい。
 誰かに、唆されたのだろう。
 その様な事で、強化人間になれるとは考え難い。
「強化人間、ヘンゼル達の隠れ家については――」
 残念ながら、生き残った二人は詳しい情報を持っていなかった。
 かつ、レゼルについての情報も目新しい物は無かった。
 ネスカートは椅子の背凭れに寄りかかって、天上を見上げる。
 そして、小さく溜息を一つだけ吐いた。