タイトル:ヒトハマスター:東雲 ホメル

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/07/22 00:40

●オープニング本文


 俺と同じ孤児院で育った、年上の夫婦がキメラに殺された。
 どちらも自分よりも10も上の人達だった。
 俺の面倒を見てくれて、孤児院を飛び出す時も黙って金を渡してくれた。
 院長を説得してくれたのも、彼らだという事を後から知った。
 何時まで経っても、頭の上がらない人達だと思っていた。
 だが、一昨日、キメラに殺された。
 たった一人の娘を残して。

 ライカが孤児院の院長に呼び出されたのは、一昨日の深夜の事だった。
 明けて、更にもう一日。
 孤児院を訪ねて、其処で初めて彼らの死を知った。
「それで、如何して俺を呼んだんさ」
 初老の女性院長、アイカ・アークスに問い掛ける。
「あの子達の一人娘がね、居るんだけれども‥‥」
 アイカは眼鏡を外し、目頭を押さえる。
 そして、何かを考えた後にポツリと呟く。
「遺言が有るんだよ‥‥」
 それが、如何して自分が呼ばれた理由になるのか分からない。
 そう言った表情でライカは頭を掻く。
「死ぬ間際に、カイが残した物だよ‥‥」
 手渡された便箋、その中の一通の手紙。
 ライカにとっては随分と懐かしい、兄貴分であるカイの字だった。



 ライカ・クモガスミ様

 私達の一人娘、ライハを頼む。
 散々面倒見たんだ、このくらい良いだろう?

 カイ・フロハイム
 ユイ・フロハイム



 簡単で、短い物だった。
 ライカはそれでも表情を崩さなかった。
 所業柄、死に慣れ過ぎていたのだろうか。
「な〜んで、俺なんかな〜」
 院長室に有るソファにゆっくりと座り込むと、盛大に溜息を吐く。
 そうして、その遺言をジャケットの胸の内ポケットにしまう。
「あの子達はね、アンタが能力者になって人の為に戦っている事を本当に誇りに思っていたよ」
 ライカはその言葉に軽く頷いただけだった。
 何度か電話を貰った事が有った。
 その時は「良くやった」だの「頑張れ」だの月並みな言葉しか掛けてこなかったが――
 本当に嬉しそうにしていたのを覚えている。
「んで、当人はどうなんだ?」
 同じソファの端。
 黒いロングヘアーの少女。
 今年で13歳になったそうだ。
 その少女は、黙りこくったままライカの方を向く。
 そして、持っていたメモ帳にペンを走らせる。
『お父さん、お母さんの言う通りにしたい』
 無表情なまま、ライカにそれを差し出す。
 ライハの行動にライカは首を傾げる。
 そんなライカの姿を見て、アイカは口を開く。
「あぁ、ライハはねぇ――」

 ライカは車を運転しながら、横目で助手席を見る。
 ライハが小さな寝息を立てて寝ている。
 両親が死んでからろくに寝ていないとの事だった。
「ま、無理もないか‥‥」
 こうやって横顔を眺めれば、成る程、母親に似ている。
 ライカはそう思いつつ、アクセルにゆっくりと踏み込む。
 声はどうだったんだろうか?
 母親に似ていたのだろうか?
 今は確かめる術は無いのだろうけれども。
 心因性の過度なストレス。
 それがライハの声を奪ってしまったのだ。
「取り合えず、今日はこのまま帰って――」
 最悪のタイミングだった。
 目の前にソレらは現れた。
 面を被った一つ眼、二つ眼、三つ眼の鬼達。
 三匹の鬼はライカ達を待ち伏せていた様に現れたのだ。
 咄嗟にハンドルを切って、車を停める。
「冗談じゃねぇさっ! おい! 起きろっ!!」
 ライカはライハの体を揺すり、シートベルトを外してやる。
 そうして、ライハを助手席から抱き寄せると、自身もシートベルトを外して外に出る。
 出て少しした後、先程まで乗っていた車は一瞬にして爆炎に包まれた。
 マジかよ、とポツリと呟いて走り出す。
 確りとライハを抱いたまま。
「街中まで距離があるな‥‥」
 ライハが徐に携帯電話を差し出す。
 嫌に冷静な奴だな、と思いつつライカはその携帯を受け取った。

●参加者一覧

漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
椎野 ひかり(gb2026
17歳・♀・HD
翡焔・東雲(gb2615
19歳・♀・AA
常世・阿頼耶(gb2835
17歳・♀・HD
桂木穣治(gb5595
37歳・♂・ER
ジン・レイカー(gb5813
19歳・♂・AA
神楽 菖蒲(gb8448
26歳・♀・AA
シクル・ハーツ(gc1986
19歳・♀・PN

●リプレイ本文

 生憎の天気だった。
 昼下がり、と呼ばれる時間帯だが薄暗い。
 雲を通して落とされた光は、仄蒼く辺りを照らしていた。
 風は然程湿っていない事を考えると、雨の気配は未だ遠い。
 シクル・ハーツ(gc1986)は亡き友を想う。
 そう遠くはないはずの過去。
「男が女を守りながら逃げる‥‥か‥‥」
 その呟きが聞こえたのかどうか、椎野 ひかり(gb2026)が振り返らずに応える。
「あぁ? 何だか分かんねぇけど、確り捕まってろよ! ‥‥捕まっててですわ〜」
「――この姉にして、あの妹ありだな‥‥」
 シクルは、更にボリュームを落として呟く。
 それは風に流れ、ひかりの耳に届く事はなかった。
 そのすぐ後方。
 追走する形で、常世・阿頼耶(gb2835)のAU−KVが唸る。
 ジン・レイカー(gb5813)を後ろに乗せ、着かず離れずの距離。
 ライカとライハの向かってくるであろう方角に向かう。
 舗装された灰色の道から、横に逸れる道。
 其処に土煙を上げながら、入っていく。
「‥‥飛ばすから落ちるなよ?」
 漸 王零(ga2930)は後ろの返答を待たずに、ギアを一つ上げる。
 神楽 菖蒲(gb8448)は溜息一つ。
「男の後ろ、なんて趣味じゃないんだけどね」
 軽口を叩き、そして目を細める。
 王零の肩越しに見える、前方の景色。
 二台のAU−KVの影の向こう。
 きっと、助けを求めてきたライカ達が居るのだろう。
 そう思えば、自分の信条の揺れは少し、収まる様な気がしていた。
 そんな王零と菖蒲の後方、二台のジーザリオ。
 桂木穣治(gb5595)はゆっくりとアクセルを踏み込む。
 スピードを落とす事無く、前進する。
 穣治も何かを思い、前を見据えている。
 自分という親が、娘を想う気持ち。
 その関係性。
 全てがライカとライハに当てはまる訳ではない。
 が、それでも、どうしても手伝ってやりたかったのだ。
 彼らの新しい生活を――
 そうして、翡焔・東雲(gb2615)の運転するジーザリオを最後尾に一行は走る。
 少女を抱えて逃げる、ライカ・クモガスミの下へと。

 幾つかの建物を越えて、山の麓まで辿り着いた時だった。
 派手に響く爆音と舞い散る緑の葉の中、ライカがライハを抱えながら現れたのだ。
 ひかりはバイクの車体を横に滑らせながら、その場に停まる。
 阿頼耶も同じ様にして、ジンを後ろから降ろす。
「この道の入り口まででいいさっ」
 阿頼耶の後部座席にライハを乗っけて、その頭を軽く撫でる。
 序に、自分もひかりのAU−KVの後ろに跨る。
 それを確認すると、其々が動き出す。
 遠ざかるエンジン音と、近づいて来るエンジン音。
 それを聞きながら、シクルとジンは砂煙の彼方に目を凝らす。
 間違いなく居るのだ。
 ゆっくりと、三体の鬼はその姿を現す。
 明らかに「追う」様子は無い。
 此処で戦うつもりなのだ。
 シクルはライカとライハが此処を離れた事に一瞬安堵していた。
 尋常ではない、殺気を感じながら自身の得物に手を掛ける。
「まだ終わっていなかったな」
 そう呟くと、ジンに目配せをする。
 高まる緊張感の中、ジンは軽く頷く。
 そして――
 初動が早かったのは能力者の方だった。
「行かせないわよ?」
 刀を持った一つ眼の大きく踏み出した一歩に合わせて、菖蒲が飛び出てきたのだ。
 ジンとシクルも同時に動き出す。
 更に後方、王零が大きく息を吸い込み、静かに呟く。
「誓約の名の元に漸王零‥‥推して参る」
 その身に黒銀の粒子を纏わせながら。
 こうして、戦いの火蓋は切って落とされたのだった。

 右に浅く、身体を引き、右拳を撃ち出す。
 三つ眼の攻撃は正統派とも言うべき素手でのものだった。
 翡焔はその拳をギリギリでかわし、二刀で反撃の斬線を描く。
 車を降りて早々、襲われたが十分な反応だった。
 二刀は三つ眼の胴に斜め十字の傷を残す。
 三つ眼が跳び退く様に後退した所を、穣治の攻撃が襲う。
 どす黒い血がパタパタと地面に落ちる。
「何だ、こいつ‥‥攻撃効いてんのか!?」
 血は確かに流れた。
 しかし、傷は無い。
 三つ眼は、その傷を撫でただけだった。
 それだけで殆ど一瞬で傷が消えたのだった。
「再生能力が邪魔だな、どうにかして無力化できねぇかな‥‥」
 ジンは槍の柄で二つ眼の突撃を阻む。
 そして笑う。
 邪魔、と言った割には楽しんでいる様にも見える。
 一旦、間合いを取った二つ眼はもう一度、突撃を試みる。
 ジンの後方に控えていたシクルが、前に出てその楯で穂先を受け止める。
 火花散る中、ジンとシクルは二つ眼の仮面を見る。
 眼の穴以外、凸凹の無いつるりとした仮面。
 薄暗い景色の中、黒装束の上。
 その白い面が妙な存在感を放っていた。
 それに気付いているのか、いないのか。
 王零はその巨大な刃を振るう。
 縦に大きく一つ。
 受け切るのがやっと、と言った感じで一つ眼は呻く。
 更に、返る刃が一つ。
 その切っ先が一つ眼の内腿を裂く。
 人間外の化け物として意地か、一つ眼の鬼はそれでも倒れなかった。
 王零の攻撃を凌ぎ、もう一歩踏み出す。
 刀を握っている王零の右手目掛けての前進。
 籠手を打つ動作。
 正に刹那の技だった。
 しかし、一つ眼は王零以外の存在に気付く。
 王零の放つ果てしないプレッシャーの中に割って入る気配。
 自身の右斜め後ろ。
 薄青い光源。
 王零の刀を弾き、そのまま左へ跳ぶ。
 野性とでも言うべきなのだろう、しかしそれでも遅かった。
 菖蒲の斬線が確りと一つ眼の右肩に残っていたのだ。
 血を流しながら立ち上がった一つ眼は雄叫びを上げる。
 強い者と出会えた歓喜なのか、自身を鼓舞したのか、はたまた両方か。
 傷が塞がっていくのを確認すると、一つ眼は距離を開けたまま刀を振り上げる。

 鉛色の弾丸が三つ眼の肩を掠める。
「とっとと倒して帰っぞ! 覚悟しいや! ‥‥しなさいね〜」
 戻ってきたひかりが声を上げる。
 同時に、飛び出してきた阿頼耶のAU−KVがスパークする。
 三つ眼はその攻撃を受け、後方に吹き飛ばされる。
 翡焔と穣治も体勢を立て直しつつ、三つ眼の様子を窺っていた。
 すると、菖蒲と王零の戦っている方から金属を斬り裂く様な甲高い音が響く。
 二人の間を通り過ぎた何かが、後ろの大木を真っ二つに斬り裂いていたのだ。
 これがライカの車を破壊したのだろうか。
「こいつが効けばいいんだけどな‥‥」
 高い再生能力に、強力な遠距離攻撃など厄介の一言に尽きる。
 穣治は目の前の三つ眼に虚実空間を展開させる。
 ひかりの放った弾丸の痕、阿頼耶に吹き飛ばされた時に出来た擦り傷。
 これが効けば、塞がらないはずだ。
 そんな希望を掻き消すかの如く、三つ眼は呼吸を整え、傷を塞いだ。
 そして、軽く跳んで穣治の目の前に着地する。
「っ!!」
 阿頼耶がカバーに入ろうと、地面を蹴る。
 十分な反応だった。
 間に合う。
 そう思われた。
 三つ眼は親指を折り畳んで、拳を阿頼耶に向けて、何かを弾く。
 AU−KVの上からでも確かに伝わる衝撃。
 地面を転がる阿頼耶の姿を確認しつつ、残る二つの眼で穣治の動きを逃さなかった。
 身体を右に大きく捻転させ、右拳を固く握り締め、左足で地面を踏み抜く。
「あぶねぇ!」
 翡焔が駆け出し、ひかりはもう一度引き金を引く。
「やらせるかよ! ‥‥やらせませんわ〜」
 その弾丸は三つ眼の右腕に見事吸い込まれた。
 その時に有る程度、威力は殺せたのだろう。
 穣治の脇腹に叩き込まれた痛恨の一撃は、彼を重傷に至らしめる事はなかった。
 舌打ちをしながら、翡焔は追撃を防ぐ為に肉薄する。
 三つ眼はそれを煩いと感じたのか、一度距離を取ってまたも何かを弾く。
 翡焔の目の前で地面が爆ぜ、足を止めざるを得ない状況になる。
「こ、小石‥‥?」
 阿頼耶はAU−KVの胴体に減り込んだ異物を取り出して驚愕する。
 指弾、にしては衝撃が大き過ぎる。
 何かしらの力が上乗せされているのだろう。
 どちらにせよ、三つ眼も遠距離からの攻撃が可能という事が判明したのだった。

 槍を軸にして、ジンは身体を勢い任せに浮かせる。
 頭部、正確に言えば、仮面への一撃。
 FFに因り、その脚が届く事は無かったが――
 あからさまに顔を仰け反らせ、距離を取り、すぐさま槍を構える二つ眼。
 膨れ上がる殺気にジンもシクルも確信を得る。
 仮面を庇っている、と。
「ハッ!」
 ジンはまた笑う。
 そうして、駆け出す。
 それに合わせて、二つ眼は虚空に突きを放つ。
 ジンとシクルは横に跳びながら大木に大穴が開くのを確認する。
 結局、三体の鬼は其々遠距離からの攻撃が可能であったのである。
 それでは、何故ライカとライハを追っている時にその力を使わなかったのか。
「挟み込むぞ!」
 シクルの提案を受け入れ、ジンは真正面ではなく、斜め前に進む。
 そのジンを逃すまいと身体を回転させて、槍を薙ぐ。
 体重を乗せた重い一撃が、ジンの身体を少し浮かせる。
 体勢を崩しながらも二つ眼から目を離さないジン。
 この流れが未だ切れていない事を主張する為だ。
 二つ眼は完全にジンを捉えていた。
 逆手に持ち替えて、脳天から串刺しにしようとする二つ眼。
 しかし、その視界が一気に落ちる。
 下がったのではなく、達磨落としの達磨の如く綺麗に落ちたのだ。
 その両足は、シクルの忍刀と機械剣の光刃が斬り裂いていたのだから。
「ハハッ! まぁまぁ楽しかったぜ?」
 赤い燐光を撒き散らしてジンの槍が、その眉間を貫く。
 挙動が止まる。
 念押しの一撃で、シクルの大太刀が刀剣袋から引き抜かれる。
 崩れ落ちて動かなくなってしまった二つ眼を尻目に、二人は他の仲間に弱点を告げに行こうとする。
「流石、やるねぇ」
 ジンは真紅の瞳を細め、王零と菖蒲の方向から翡焔達の戦っている所に向かう事にした。

 近付かせまい、と一つ眼は宙空に斬線を幾つも描く。
 しかし、王零は怯む事無く前進してくる。
 そして、段々と距離が迫ってきた矢先。
 菖蒲のリボルバーがいつもと違う鉛を吐き出す。
 その弾丸が一瞬、一つ眼の動きを止める。
 相変わらず傷はみるみる内に回復していくが、痛みがないと言う訳ではないらしい。
 王零はその隙を逃さず、片手のショットガンを響かせる。
 なるべく菖蒲の攻撃が着弾した箇所を狙っての一撃だ。
 一つ眼は自らの傷を回復させながら王零に刀の切っ先を向ける。
 そして、走る。
 それに合わせて菖蒲も後方から、間合いを詰める。
 刀を抜き、刹那に備える。
 王零は巨刀を構えると、一刀。
 黒装束の端を斬るも、ダメージはない。
 一つ眼は腕をコンパクトに折り畳み、少し後退しながら、王零の首筋を狙う。
 王零はそれに反応して、扱い難い刀を巧い具合に自身の首と敵の刀の間に滑り込ませる。
 力比べ、では確実に王零の方が勝っていた。
 ギリギリと押し返される刃。
 そこへまたも菖蒲が素早く割って入ってくる。
 今度は野性ではない、学習。
 王零の刀を無理矢理に受け流しながら、一つ眼は菖蒲の方を向く。
 菖蒲の赤い髪が揺れ、それと同じ様な色のオーラが彼女の全身を包む。
 此処が勝負の分かれ目だった。
 先に相手に刀が届いたのは、一つ眼だった。
 その切っ先は菖蒲の左肩から下へ一直線に走る。
 鮮血が飛び、菖蒲の視界に点々と赤が写る。
 が、菖蒲は僅かに後ろに跳んでいたのだ。
 王零の刀を避ける為に。
「私は騎士だから」
 自分達が倒れれば、またすぐにライカ達を追う「狩り」が開始されるであろう。
 この仮面の鬼達が遠距離からの攻撃をライカ達に使わなかった理由は其処に有ったのだ。
 狩り、をしていたのだ。
 菖蒲はライカ達の助けを求める声に決起したのだ。
 振り下ろされて硬直しきった腕に、刃が落とされる。
 一つ眼の刀と腕がごろりと地面に落ちる。
 そして、紫電が奔る。
「流派抜刀技弐式‥‥レールガン「朔光」‥‥繋ぐは終局‥‥流派極技零式‥‥幻影亡霊!!」
 足捌き、剣速のどちらをとっても高速。
 一つ眼は回復する暇も――そう思う暇も与えられぬままに絶命した。
 弱点を衝く訳でもなく、真正面から叩き潰してしまったのだ。
 ジンはこの様を見て、流石、と言ったのだった。

 殆ど無限に小石を撃ち出してくる三つ眼。
 そもそもこの個体のみ、得物を持たずに現れたのにはそれなりの理由が有ったのだ。
 ジンとシクルからの情報を得た面々は勝負を仕掛ける。
 穣治が翡焔とひかり、阿頼耶の三人に強化を施す。
 それを確認すると、ひかりと阿頼耶は一瞬でその間合いを詰める。
 その槍が、その刀が三つ眼に襲い掛かる。
 ひかりの槍を鷲掴みにして、後方に投げる。
 その間に阿頼耶の刀が頭部を狙って振り下ろされる。
 三つ眼の視界に、捉えられていたのか、身体をずらし、刀はざっくりと右肩に入った。
 反撃の拳を腹に受けながらも、倒れない阿頼耶。
 そんな阿頼耶にもう一撃加えようと左の拳を握り締めるがその腕は詰めていた翡焔に因って落とされる。
 この機を逃すまいと翡焔は全力で二刀小太刀を振るう。
 炎のオーラが翡焔を包み、これが決まれば確実に決まっていた。
 しかし、三つ眼は残った右手を徐に差し出した。
 刃が当たる瞬間、無理矢理腕を身体と共に倒す。
 軌道がずれる。
 そして、三つ眼は跳び上がる。
 投げ飛ばされた、ひかりの更に奥に着地して回りを確認する。
 一つ眼も二つ眼も、無残な事になっている。
 流石に腕が生えてくる訳でもなく。
 八対一と言う状況。
 圧倒的不利な状況下で、三つ眼は撤退を選んだ。
 街とは真逆の方向、山の麓に広がる森の奥深くに。
 あっという間だった。
 殲滅には至らなかったが、撃退し、脅威を一時的に排除した。
 そして、何よりライカとライハは生き残った。
 消耗の激しかった八人は、すぐに到着するというキメラ捜索隊に後を任せて――
 ライカとライハの下へ向かう事にした。

「すまないさ〜、こんなボロボロになっちまって」
 流石のライカも頭を掻きながら、頭を下げる。
 そんなライカの肩を叩きながらシクルが一言。
「貴方は私と同じ道を歩むなよ‥‥」
 更に穣治が静かに言葉を紡ぐ。
「子を背負う親になるって大変な事だよな」
 出来たばかりとは言え、娘を抱えながらキメラに襲われる。
 穣治はそれを考えると、ライカのその時の気持ちが少し分かる様な気がした。
「未だ、アイツの事は全然知らないんだけどな」
 恩人夫婦の忘れ形見。
 そんなライハにひかりは優しく声を掛ける。
 きっと時間がライハの心を解かしてくれる。
 傍には皆が居てくれる。
 私も、他の皆も友達。
「だから、いつか貴女の声、聞きたいですわね〜」
 間延びした声に、ライハはゆっくりと微笑むとメモ帳を取り出す。

『ありがとう』

 王零も菖蒲も、ジン、阿頼耶だって満更ではなかったはずだった。
 不幸でも、幸せそうな少女の姿に微笑みを浮かべていたのだから。