タイトル:ポルターガイストマスター:東雲 ホメル

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/19 23:16

●オープニング本文


「先日は御苦労だった」
 とある編集社の休憩コーナーの一角。
「あ、編集長‥‥お疲れ様です‥‥」
「何だ? やけに疲れてるな」
 編集長は椅子に座って机に突っ伏しているニケ・ラックマンの肩に手を置いた。
「いえ、何、僕って一応フリー契約じゃないですか?」
「うん‥‥そうだな、一応」
 今の所、仕事はうちのファッション雑誌のグラビア位しかないけどな、と言いかけて編集長はコーヒーを啜った。
「実は別の編集室から仕事貰ったんですよ」
「ほう、やったじゃないか」
 編集長は微笑みながらニケの肩に置いていた手で彼をバンバンと叩く。
 そんな中ニケは上体起こして、笑っているのか悩んでいるのか微妙な表情で編集長の方を見た。
「SNの編集室ですよ?」
「‥‥」
 SNとは、ある雑誌のタイトル「スーパー・ナチュラル」の頭文字を取ったもの。
 文字通り超常現象等を扱っている雑誌だ。
 編集長はファッション雑誌とは全く関係の無い編集室では有るが、そこの噂は聞いていた。
 異常なまでに熱狂的な読者が付いていて、中々の売り上げを誇っていると。
「あそこからオファーが有ったんですよ。ヒトを撮るのが得意なら絶好の仕事が有るって‥‥」
「ヒト‥‥ね‥‥」
「被写体がヒトかどうかも分からないのに‥‥お金が無いので受けてしまいました‥‥」
「どんな仕事だ?」
 ニケはおもむろに胸ポケットのボールペンを右手で抜き、メモ帳に絵を描き始める。
「‥‥女の子とベッド?」
 編集長は眉間にしわを寄せ、首を捻る。
 しばらくして、何かに気付いて口を開く。
「これは‥‥もしかして、宙に浮いてるのか?」
「そうです、僕の今回の仕事はポルターガイスト現象の撮影なんです」
 現場はロンドン郊外の大きいお屋敷なんですよ、と言い立ち上がるニケ。
「行くのか? とにかく、変な物連れて帰ってくるなよ? ファッション誌には必要無いからな」
「大丈夫です、今回も傭兵の方々に協力してもらいますから」
「何で傭兵なんだ? 撮影スタッフだけで充分じゃないのか?」
「皆、嫌がって協力してくれないんですよ」
 ニケは苦笑しながら軽くお辞儀をして休憩コーナーから立ち去った。

●参加者一覧

幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
緋室 神音(ga3576
18歳・♀・FT
南雲 莞爾(ga4272
18歳・♂・GP
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
桐生 水面(gb0679
16歳・♀・AA
依神 隼瀬(gb2747
20歳・♀・HG
鳳(gb3210
19歳・♂・HD

●リプレイ本文

「先方が話を持ち込まぬ限り、撮影話にならないと思うが?」
 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)がニケに尋ねる。
 今回の依頼に関して尤もな意見。
 SNの編集室で依頼についての説明、機材の受け取りを終え、件の屋敷に向かうロケ車の中だった。
「いや、まぁ‥‥何て言うんですかね‥‥屋敷内の誰かがリークした訳ですよ」
 苦笑しながら、ニケがホアキンの問いに答えた。
「屋敷の持ち主は引越しを決めているから、場所さえ伏せてくれれば取材しても良いとの事でした」
 二人の会話を聞いていた幡多野 克(ga0444)が一言。
「随分‥‥理解の有る持ち主ですね‥‥」
「自分の娘に何か憑いていたら、祓ってもらいたいそうです」
 克の一言にニケはまたも苦笑しながら答えた。
「お、アレやないか?」
 桐生 水面(gb0679)が指差した方向、車の進行方向正面に大きな屋敷が見えていた。

 到着した一行は目の前の光景に目を疑った。
 大きな門をくぐり、玄関の前でニケがロケ車を止めると玄関が丁度開いた。
 その奥の光景。
「ふ、普通はこんな光景見られない‥‥」
 いつもはクールな緋室 神音(ga3576)ですら驚いている。
 一行の目の前には、赤いカーペットを真ん中に挟んで両脇に15人ずつの使用人が並んでいる。
「この位のレベルだと、壮観やろ?」
 リンドヴルムで先に到着していた鳳(gb3210)は赤いカーペットの奥で笑いながら立っていた。
 同じく先に到着していた依神 隼瀬(gb2747)は鳳の隣で苦笑している。
「それでは皆さん、お嬢様のお部屋は此方です」
 右側の列の奥に立っていたメイド服姿の使用人が先導するように正面の大きな階段を上り始める。
「行きましょうか‥‥」
 若干緊張した面持ちでニケ達は先導するメイドに着いて行った。

「此方になります」
 階段を上り右手に進み、少しすると娘の部屋に着いた。
「‥‥何の変哲も無い、イメージ通りのお嬢様の部屋だな」
 ドアを開けて部屋の中を確認しながら南雲 莞爾(ga4272)が呟く。
「ベッドに仕掛けも無いようやし‥‥」
 何も変わったものは無さそうやなと、桐生も辺りを見回しながら言う。
 それぞれが気になる箇所を調べていたが結局不審な点は見つからなかった。
「それじゃ、皆さん。機材の搬入を開始しますので宜しくお願いします」
 玄関に戻ると先程の使用人達の姿は無く、代わりにアルヴァイム(ga5051)が立っていた。
「皆さん、遅れてしまいまして申し訳ないです」
 そう言って頭を下げる彼は資料の束を抱えていた。
「調査の役に立てば良いのですが‥‥」
 そう言って全員に資料を配る、アルヴァイム。
「見取り図まで‥‥いつの間に‥‥?」
 幡多野は不思議そうにアルヴァイムに聞く。
「事前調査の一環ですよ」
 どうやら彼は撮影日以前に屋敷に出向き、持ち主に挨拶などをしていたらしい。
「スゴイですね」
 ニケは感心しながら資料に目を通している。
「さぁ、まずは機材搬入だ」
 ホアキンが声をかけると、全員が頷きロケ車に向かった。
「大丈夫か?」
 高感度カメラを運ぶ神音に対して南雲。
「えぇ、大丈夫。これでもファイターよ?」
「そうか、何かあったら言ってくれ」
 南雲は少し神音を気にかけた様子でモニターを運び始める。
「この板みたいなのなんに使うん?」
 桐生の問いにニケは笑顔で答えている。

「搬入は終わりましたから、皆さん時間まで自由行動です」
「あ、俺も機材の設置手伝いますよ」
 依神が挙手をしながら前に出る。
「あ、良いですか? 流石に一人でこの量は骨が折れるので」
 ニケは苦笑しながら、依神にお願いした。
「それじゃ、俺は嬢ちゃんに話聞いてくるわ」
「あ‥‥俺も‥‥行く‥‥」
 部屋を出て行こうとする、鳳に幡多野が着いて行く。
 アルヴァイムは資料や見取り図を見ながら何やら考え込んでる様子だったが、すぐに顔を上げ部屋から出て行った。
「俺も使用人あたりに話を聞いてくるかな」
 ホアキンは機材搬入の時に口の軽そうな使用人に目をつけていたらしい。
 桐生はまだ、部屋の事が気になるらしく至る所を調べている。
「一緒に行かないか?」
「良いわ、それじゃ私達も行きましょう」
 南雲と神音は屋敷を調べると言って部屋を去った。

「恐ないんか?」
 鳳が件の部屋のお嬢様に問う。
 質問の意図が理解できない様な感じでそのお嬢様は答えた。
「‥‥何が?」
「あの、その‥‥ポルターガイスト恐くないの‥‥?」
 幡多野が改めて聞くと、お嬢様は首を横に振った。
「何それ? 分かんない」
 ある意味当事者であるお嬢様はポルターガイスト現象が自分の周りに起こっている事を知らない様だった。
 鳳と幡多野は顔を見合わせてその場を去った。
「まぁ、当たり前やな」
「わざわざ‥‥話して恐がらせるより‥‥隠してた方が良いしね‥‥」
 ん〜、と伸びをする鳳。
「しゃあない、おにぎりでも貰って食べへん?」
 幡多野は頷きながら鳳と共にキッチンへと向かった。

 掃除をしながらお喋りをしている使用人が二人。
 ホアキンはその二人に近づく。
「少し、良いだろうか?」
 ホアキンが声をかけると、二人の使用人は背筋を正す。
「何でしょうお客様」
「あぁ、いや、そんなにかしこまらなくても良い」
「しかし、お客様はお客様です」
「こういう屋敷で働ける人間に興味が有るだけだ」
 ポルターガイストについてじゃなく私達にですか、と不思議そうに答える使用人二人。
「そうだ、素晴らしい人の下で働いてるじゃないか。興味位持つ」
「‥‥えぇ、社長は素晴らしい方ですよ」
「奥さんにも娘さんにも優しいし、私達にだって優しいですから」
 引っかかったな、とホアキンは思いながら二人の話を聞く。
 しかし、社長に関してもその妻に関しても何も目ぼしい情報が出てこない。
 勿論、娘に関してもだ。
 当てが外れたと思い、切り上げようとした時だった。
「この屋敷で働く上での不満は‥‥強いて言えば、ポルターガイストと新人の子ね」
「新人の子?」
「えぇ、最近入った子なんですけど‥‥あ、さっきお客様達を部屋に案内していた子です」
「あの子が入った直後からポルターガイストが起こり始めたのよね、原因はあの子だったりして‥‥」
「ほぅ‥‥いや、ありがとう」
 そう言って、気になる情報を持ってホアキンはその場を後にした。

 一方、南雲と神音は有る程度屋敷を調査し尽くしていた。
「意外と広かったな」
「えぇ、そうね」
 屋敷の中を虱潰しに調べていたが、流石傭兵無駄なく調査は進んだのですぐ片付いた。
「何も無かったな‥‥と言うか、付き合せてすまなかった」
 南雲が神音を気遣う様に言葉をかける。
「ん、良いわよ」
 神音はクールに答えながら、窓の外を見る。
「高圧電線も無いわね」
 屋敷自体にも屋敷の周りにも不審な点は無かった。
 後は、現場に立ち会うことくらいしかする事は無かった。
「それにしても、広い屋敷だな。最初の出迎えも驚いたな」
 南雲は少し微笑みながら神音に問いかける様に話しかける。
 神音はうんと頷き一言。
「私もあれには驚いた」
 うんうんと頷き返しながら神音の隣で微笑んでいる南雲。
「もう少し、見て回ろうか」
「えぇ、そうね」
 
 アルヴァイムは中庭のベンチに座り、考え事をしていた。
 依頼ではなく他愛の無い事ばかりだったが彼にとっては実に有意義な時間だった。
 アルヴァイムは、ふと屋敷の見取り図を見る。
「お嬢様の部屋の隣は使用人たちの待機部屋ですか‥‥」
 何か有ったらすぐ呼べる様な配慮だろう。
「しかし、本当にポルターガイストなんか起こるのでしょうか?」
 鳥の囀りの聞こえてくる静かな午後。
 アルヴァイムは再び思考の海に落ちていくのであった。
 
「設置も完了しましたし、後は待機ですね」
 ニケは微笑みながら依神と桐生に礼を言う。
「しかし、ポルターガイストか‥‥」
 何か気になったのか依神は口元に手を当てて考える。
「どないしたん?」
 桐生はその様子を察し依神に問いかける。
「実はポルターガイストの原因って超能力じゃないのかって説も有るんだ」
「え、そうなん?」
「うん、その中心にいる人物‥‥今回の場合はお嬢様になるかな」
 ニケは興味深げに聞きながら、メモを取っている。
「え? って事は、お嬢様エスパー!?」
「思春期の子供、特にヒステリーを起こしやすい女の子は多いらしいんだよ」
「勉強になるなぁ‥‥」
 その場合は僕達の安全は保障されるのだろうかと、少し疑問に思ったニケだった。

 深夜11時53分。
 機材のテストも終わり、一行は撮影のスタンバイしていた。
 勿論、部屋の主は既に就寝時間を過ぎているのでぐっすりだ。
 残り7分、静かにその時を待つ。
「さっさと仕事終わらして、原因の究明やな」
 桐生がポツリと呟く。
「それじゃ、皆さん。担当のモニターや機材のチェックお願いします」
 雑誌の取材とは言え、映像でも撮って詳しく解説し、雑誌に載せるらしい。
 深夜0時まで残り3分を切った時だった。
「‥‥! 信じ難いが、現実に起きた事柄ならば受け入れるしかあるまい」
 南雲はそう言ってモニターから目を離し目の前の浮遊物を見る。
 ニケはその浮いている目の前の「ベッド」をすかさず撮る。
「微妙に室内の温度は下がってる‥‥でもベッド自体の温度が若干上昇してる!?」
 温度計とサーモグラフィーを確認しながら神音が声を上げる。
 ぬいぐるみ、たんす、椅子、そして設置された機材などが少しずつ浮き上がる。
「嬢ちゃん‥‥!」
 鳳は浮遊したベッドの上のお嬢様に声をかける。
 その声で目を覚ましたお嬢様は自分の体に起こっている異変に混乱した。
「か、体が動かない‥‥! 動かないよ!!」
 カン、パンとラップ音が響き渡る。
 次の瞬間、椅子が写真を撮っているニケに対し飛ぶ。
「危ない!」
 ホアキンがニケの前に立ち椅子を叩き落す。
「この声は神の声。この息は神の息。この手は神の御手。天降りたるは高天原の風、神の息吹。現世の穢れを吹き払い賜え」
 拍手を一つ鳴らす、依神。
 予め用意していた、お払いの道具。
 榊に結ばれた鈴が拍手に合わせ自然に落ちる。
 しかし、効果は全く無かった。
「な、お嬢様は起きているのに‥‥原因は一体なんなんだ!?」
 依神は頭を抱え、少し狼狽した。
 その時だった。
 探査の目を使った桐生が叫んだ。
「糸や!! 隣の部屋に誰か居る!!」
 その声と同時に物体浮遊やラップ音などの怪奇現象が突然収まった。
 そして、隣の部屋から何者かが物凄い勢いで出て行く音がする。
「使用人の控え室が有った筈です」
 アルヴァイムが落ち着いた声で話しながら、飛び出す。
 その時点でホアキンは誰が犯人か予想はついた。
 傭兵達は部屋から飛び出し、廊下を走る前方の影を捕らえた。
「任せろ」
 その一言だけ残し、南雲は瞬天速で影を追った。
 影が廊下の角を曲がろうとした時、南雲の手が影の肩を掴んだ。
 そのまま影を羽交い絞めにする南雲。
「捕まえたぞ‥‥って、あんたは!」
 捕まえられた影は最初に先導してくれたメイド服の使用人だった。
「ぐっ‥‥!」
 次の瞬間、南雲の腕は何らかの力で振りほどかれた。
 追いついて来たホアキンを除く面々は驚きを隠せなかった。
「唯の噂だと思っていたんだがな」
 ホアキンがメイドを睨みつける。
 それと同時に全員が武器を構える。
 使用人ごときに武器を向ける。
 傍から見たら、傭兵としての品格を疑われるような行動だ。
 しかし、それは目の前の使用人が人間側だったらの話だった。
 メイドが舌打ちをして指を鳴らすと何か塊の様な物が彼女の頭上に集まってくる。
「バグア側の人間か」
 神音がそう言うと、廊下の窓ガラスが派手に割れた。
 触手の塊のキメラが殆ど目視が出来ないピアノ線の様な物を物凄い勢いで窓に伸ばしたのだ。
「厄介な相手‥‥だ」
 無表情のまま幡多野は月読を相手に向ける。
 ガラスの破片がメイドの周りをくるくると回り始めた。 来る、誰もがそう思った瞬間だった。
 ガラスの破片は傭兵達に向かって飛び散る。
「下がれ!」
 ホアキンの怒声と共に衝撃波がガラスの破片に向かって飛ぶ。
 次々とピアノ線の様な触手を切られ、パラパラと落ちるガラスの破片。
 そして、衝撃波はそのままメイドの肩を裂いた。
「‥‥っ!!」
 負傷したメイドは声にならない声を上げて窓から飛び降りた。
 キメラの触手をロープ代わりにしたのだ。
「飛び降りた!?」
 依神が窓に近づこうとするとキメラの束になった触手がそれを遮った。
「伸縮自在の様ですね」
 アルヴァイムが冷静に分析をする。
「急がな、逃げられるで!」
 鳳が携帯していたアーミーナイフで触手を払いながら叫ぶ。
 傭兵達がドンドン巻きついてくるキメラに苦戦していると遠くで車が急発進する音が聞こえた。
 キメラを何とか沈黙させた傭兵達だったが、時既に遅し。
 黒幕であったメイドの姿は何処にも無かった。

「皆さん、今回は大変ありがとうございました」
 ニケは傭兵達に心から礼を言った。
「いえ、私達はアシスタント業務を手伝ったくらいで‥‥」
 アルヴァイムが丁寧に受け答えると、ニケはこう付け加えた。
「キメラが関与してたんです、一般人の僕達だったらどうなっていた事か」
 何か、報酬以外にお礼をと言ったニケに対し幡多野が一つ提案をした。
「なら‥‥僕らの写真を‥‥プロに撮ってもらえる事なんて‥‥中々無いし‥‥」
「写真ですか? 良いですよ」
 ニケはそう言って、傭兵達を屋敷の玄関の前に集めカメラのシャッターを切った。