タイトル:中華と木乃伊マスター:東雲 ホメル

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/02/27 01:25

●オープニング本文


 自称、中国出身の炊事から戦闘までこなす超絶美女。
 私の友人の1人である、鳴・藍蘭。
 何故だか全身に包帯をぐるぐる巻いている。
 私としては、チャイナドレスのスリットの意味が全く無いような気もする。
 色気的な意味でね。
 彼女もまた、私と同じ能力者なんだけれども――

「ルキアー、休憩が良いヨー」
 藍蘭がバイクの後ろで唐突に言い出す。
「ん、良いけど‥‥この格好じゃ、店には入れないわ」
 猫一匹捕まえるのにこんなにボロボロになるなんて思ってなかったけども。
 すばっしっこくて、賢かったのよね。
 とりあえず、バイク停めようかしら。
「何言ってるカ? オォ、ハンバーガーショップ見つけたネ」
「ダメよ、例えハンバーガー1個でも身嗜みはしっかりしないと」
 藍蘭はバイクから飛び降りて、私の首根っこを掴んできた。
「行くのがイイ」
「!? ちょ、ちょ‥‥Wait!」
「英語、わっっからないアルー」
 絶対分かってるわよね?
 というか、力強いってばっ!
 え、ちょっと、マジで入るの?
 いやよ、恥ずかしいって!
 いらっしゃいませー、じゃないわよぉ‥‥
「ひ、引き摺るの止めなさいよ!」
「ァィャ、対不起」
 余計にスカート汚くなったじゃない。
 今更かもだけど。
「まぁ、中に入っちゃったのはしょうがな――」
「ハンバーガー40個とコーラのLLサイズとホットコーヒーのMサイズですねー、かしこまりましたー」
「あいあい、早めに頼むアルー」
「聞きなさいよ! って、数! ‥‥You got me‥‥」
 自由過ぎるのよね、この子。
 実力も確かだし、根は良い子なんだけど‥‥

 そんなこんなで、溜息をつく。
 それと同時に、通りに悲鳴が響き渡る。
「な、何なのカ!?」
 藍蘭はいの一番で店を飛び出して行く。
 悲鳴の原因は、分かりやすいものだった。
 包帯を全身に巻いた人型のキメラ。
 人混みの中で暴れている。
「アイツラ! 人に危害加えテ、食事の邪魔しテ、包帯無駄遣いなキメラ!!」
 藍蘭は何処からともなく、青龍偃月刀を取り出し構える。
(「後ろの2つ関係無いじゃないのよ‥‥特に包帯の事は人の事言えないような‥‥」)
 思いっきり走り出していく藍蘭の背中を見送る。
 携帯、何処にしまったかしら?
「――Hello,応援頼める?」

●参加者一覧

幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
ドッグ・ラブラード(gb2486
18歳・♂・ST
北条・港(gb3624
22歳・♀・PN
メビウス イグゼクス(gb3858
20歳・♂・GD
相賀 深鈴(gb8044
17歳・♀・ER
トロ(gb8170
15歳・♀・GP
音無 音夢(gc0637
19歳・♀・PN

●リプレイ本文

 青龍偃月刀を掲げる藍蘭。
 何となく、目の前のキメラの親玉で――
 キメラを鼓舞している様にも見えなくない。
 幡多野 克(ga0444)は頭を掻く。
「鳴さんの包帯‥‥すごいね‥‥キメラと‥‥間違えそう‥‥?」
 などという冗談はさて置きだ。
 ミイラキメラを排除しない事には、今回の件は片付かない。
 しかし、やはり気になるのは包帯。
「すごく元気だけど‥‥怪我してるんじゃないの?」
 北条・港(gb3624)は首を傾げ、ルキアに問う。
 あぁ、とごく短くルキアは頷き。
「何と言うか趣味? みたいなものかしら。 因みに下は包帯のみ――」
 ルキアがそんな事を言い出すものだから。
「ふ、不純なっ‥‥!」
 同じ様に包帯を体の彼方此方に巻いている、メビウス イグゼクス(gb3858)が声を上げた。
 堅物、故の反応だろう。
 それと同じ様に「信じられない」と言った感じで藍蘭から目線を逸らす、男が一人。
 ドッグ・ラブラード(gb2486)だ。
 不純がどうのこうのの問題ではなく。
 もっと別の、女性恐怖症なのが彼にそうさせている。
 目なんかが合って、詰め寄られたら面倒かもしれない。
「た、大変な騒ぎになっていますね‥‥」
 沢渡 深鈴(gb8044)は、呆れ半分と言った所だろうか。
 それでもやるべき事はやる。
 一般人の避難を最優先に、怪我をしていたら手当てをする。
 それが彼女のやるべき事だった。
「それじゃ、其方は任せたわ。此方は任されたから、ご安心を」
 智久 百合歌(ga4980)は鬼蛍に手を掛け、もう一方の手を上げる。
 そして、その手が振り下ろされると同時に傭兵達は飛び出した。

 パトカーのサイレンを聞き、音無 音夢(gc0637)は明後日の方向を見る。
 警察が来てくれれば、混乱した一般人を今よりも迅速に避難させられる。
「私達は能力者です‥‥早く避難してください‥‥」
 取り残されてしまった人に声を掛け、手を引く。
 両手剣を背負い直し、安全な場所へと連れて行く。
 途中、キメラの伸ばした包帯が音夢達を襲うが――
 トロ(gb8170)が飛び出してきて、包帯を裂く。
 彼女はアーミーナイフを逆手に持ったまま、何か考え込む仕草を見せる。
 食せるのか、食せないのか。
 それが問題だ。
「ミイラってパリパリしてて美味しそうじゃない? 要するに乾物だと思うアルよ」
 鯵や何かのお魚感覚な彼女。
 しかし、ミイラの中には中身が綺麗なまま残っていらっしゃる方も居る。
 なので、ちょっと食す気にはなれない。
 食せないなら、食せないでハンバーガーが在るから、特に問題は無いのだろうけれども。

「大丈夫か? 早く逃げなさい」
 メビウスは泣いている子供の頭を撫で、避難場所の方向を指差す。
 子供はメビウスの姿を見ると、一瞬不安そうな顔を覗かせるが、すぐに頷く。
 怪我を負ってはいるものの、その携えた大剣は能力者の風格を漂わせている。
「‥‥怪我さえなければ、気を使わせる事もないんだがな‥‥」
 子供にも、親友にも。
 子供を見送りながら頭を掻き、周辺を見渡す。
「大丈夫ですか?」
 深鈴が怪我人を手当てしている姿が見える。
 どうやら興味本位でキメラを見に行き、逃げ遅れて、転んで怪我をしてしまったらしい。
 深鈴は救急箱の中から包帯や消毒液を取り出し、テキパキと治療を始める。
 普段、おどおどしている彼女だが見事な手際だった。
「キメラからは離れてくださいね? すぐに対処いたしますので」
 彼女は優しく微笑むと、キメラと交戦中の仲間の様子を窺う。
 伸びるミイラキメラの腕、跳ぶ港の姿。
 キメラの胸に蹴りを叩き込み、一度距離を空け、もう一度接近する。
 攻撃を受けない様に、かつ相手が自分に集中する様に。
 そうやって、避難に支障が出ない様にする。
 港の近くで交戦中のドッグも同じ様に周辺の状況を見ながらの戦闘を行っている。
 巻き付かれたら蛇剋で包帯を断つ。
 しかし、必要以上に間合いは空けない。
 戦闘範囲をなるべく小さくして、戦闘に因る影響を与えない。
 ドッグほど守りの堅い能力者ならではの為せる業だった。

「こっちです‥‥」
 腰や足の悪いお年寄りに声を掛け、克は付き添う様にして避難誘導を行う。
 仲間のお陰で自分達の仕事は上手くいっている。
 警察も到着した様なので大分楽になった。
 そして、克は自身の刀の鍔に指を添える。
 乱戦という程ではないが、あちらこちらで戦闘が起きている以上、油断は出来ないのだ。
 避難誘導が完了すれば、自分も即座に仲間の援護に向かう。
 勿論、それまでに決着が着いていれば何も問題無いのだが。
 そんな克達に迫ろうとするキメラ。
 しかし、克は得物に手を掛けてはいるが、特に攻撃する様子も無い。
 そんな様子を見て、キメラは克達を襲おうとするのだが――
 前に突き出した両腕が轟音と共に包帯ごと吹き飛ばされる。
 その散弾を放った百合歌は、更に蛍火でキメラの首を刎ねる。
 が、動く。
 強さ自体は個々でいっても問題無い位なのだが。
 とにかく面倒だ。
「ミイラは大人しく眠ってなさいな」
 百合歌はそう言うと、刀を薙ぎ、相手を誰も居ない所へと吹き飛ばした。
 避難してもらった上で、この様に距離を取れば更に安全だろう。
「God‥‥! 何なのよ、もう!」
 そんな声を聞いて、百合歌が目をやると――
 銃を持った手を雁字搦めにされているルキアの姿。
 助けに行きたいが、こちらのキメラも放ってはおけない。
 どうしようか、と悩んでいた所。
 メイド服が視界の端からルキアの方に向かって行く。
「お待たせしました‥‥」
 そう言って、音夢は包帯を切り裂き、そのまま地面を割る。
「Oh! 助かったわ」
 波状の刃を地面から即座に抜き、キメラに向き直る。
「ミイラ型のキメラなら‥‥冥土送りにして差し上げます‥‥」
 覚醒に因り、白く染まった髪を揺らしながら、淡々とキメラに告げる音夢だった。

 小さく息を吐きながら、大きな得物を振り回す藍蘭。
 特に苦戦している訳でもないのだが‥‥
「お、お腹減ったヨ‥‥何か食べる良かっタ‥‥」
「なら、コイツラ食べてみるアル」
 偶々背中合わせになったトロが提案してみる。
「何カ、木乃伊は食べるの無しネ」
「だから、きっと乾物みたいな――」
 トロと藍蘭は包帯を屈んで避ける。
「それ思うの、自分だけネ」
 藍蘭は屈んだ直後に前方へ走りこみ、間合いを詰める。
 詰めて、詰めて、詰めて。
 青龍偃月刀を振るうには狭苦しい程に詰める。
 そして、キメラを後方へと押し飛ばす。
 一刀、そして二撃。
 克の刀、メビウスの剣。
 残念ながらメビウスの剣は包帯を斬ったのみで、ダメージを与えている感じではなかった。
 が、その身に負った怪我を考えれば大したものだった。
「キタ、キター‥‥っ!」
 トロが叫ぶ。
 深鈴の使った練成強化に因り、淡く光ったナイフ。
 それを順手に持ち替えて、ミイラに接近。
 そして、刃を寝かせ肋骨の隙間に差し込むように突く。
 横に裂きながら、手を突っ込んでみた。
「意外と美味いんじゃないアルかね?」
 引きずり出した手には何かが握られていて、それを――
 トロは食べてみる事にした。
「ん‥‥‥‥さて、ハンバーガー早く食べたいアルー」
 美味しくなかった様で、感想無し。
 キメラ、地味にショック。

 腕に巻きついた包帯を見て、ドッグは何を思うのか。
 簡単な話だ。
 一般人の避難も終わった今、特に何かを気にして戦わなくとも良い。
 ならば、一気に決着を着けたい所だ。
「つれねぇな、もっとこっちに来てくれよ」
 思い切り引き寄せて、蛇剋を心臓の部分に突き立てる。
 やはりと言うか、何と言うか、沈黙はしない。
 拳を作って殴りかかってこようとする始末だ。
 ドッグは蛇剋を引き抜き、右脚を蹴り上げる。
 拳は縦に裂け、勢いが死ぬ。
「‥‥?」
 どうした事か。
 裂けた右拳の包帯が、そのままだ。
 先程まで瞬時に再生していたのに。
 再生能力が落ちたと言うより、それに使う包帯が少なくなってきたのか。
 港もそれに気付く。
 強くはないが、しぶとく、目立った弱点も見つけられなかった。
 が、結局そのしぶとさにも限界が有った訳だ。
 キメラの動きを見極め、右脚を振り上げる。
 まずは左腕を落す。
 そして、右脚を振り落とす。
 それで右腕。
 包帯が両腕を再現しない事を確認すると、港はキメラから少し間合いを空ける。
 小さくステップを踏み、一瞬。
 地面を蹴り、跳び、空中で体を捻る。
 キメラがその行為の先に来る攻撃を確認する事は出来なかった。
 ティミョトルリョチャギ、テコンドーで言う跳び回し蹴り。
 正確言えば、直前までは見えていた。
 しかし、その後は頭を潰された為、確認出来なかったのだ。
 これを好機と言わんばかりに連続で足技を叩き込んでいく。
 最後に動かなくなったキメラに念押しの一撃を叩き込む。
「死に逝く者に幸い在れ‥‥っと」
 包帯をズタズタに引き裂いて、最後に一突き。
 ドッグは運良く、キメラの急所らしき場所を突いたらしい。
 崩れ落ちるキメラを見て、大きく溜息を吐いた。
「おーい! そっちは大丈夫かい?」
「えっ、あっ、だ、大丈夫ですよ、全く問題有りません‥‥」

 何か銃で撃っても効果が無い様な気がしてきたルキア。
 百合歌が使っている様なショットガンを近距離で撃てば全然効果は違うのだろうけれども。
 それならば、自分は徹底的に援護に回る事にした。
「ありがとうございます‥‥」
 キメラの包帯で絡め取られそうになる音夢の前に立ち、自ら捕まる。
 其処から徐々に引き寄せて、逃げられない様にする。
 攻撃を喰らわない位置まで引き寄せると音夢が一気に迫る。
 そして身体を回転させ、スカートを翻し、真一文字に一閃。
 時には一刀両断の如く縦に両手剣を振り抜く。
 正に剛剣。
(「不思議」)
 という感想を持ちながらも、ルキアは援護に徹するのであった。
「次で終わりにして差し上げます」
 ルキアが体当たりで壁際まで押し込んだキメラに音夢は肉薄する。
 そして、フランベルジュを高々と振り上げ――
 壁ごと真っ二つに縦に両断する。
 未だ来るか、と警戒はしたものの此方も沈黙。
 何とか勝てた様だった。
「皆はどうなってるのかしら?」
 港とドッグの方は今しがた決着が着いた様だ。
 近くで戦っていた百合歌はどうだろうか。
 目立つ白い翼を探す。
 舞っている。
 実際には飛べない筈だが、ああやって跳ばれると空を飛んでいる様に見える。
 百合歌は眼下のキメラを見下ろし、刀を構える。
 そして、落下すると共に刀を太腿ごと地面に縫い付ける。
 ショットガンを相手の左肩部分に近付け、発砲。
 包帯は千切れ、中の何だか分からないミイラの腕も千切れる。
 どちらも再生はしない。
 限界という事だろうか。
 左方向からキメラの拳が飛んでくるが、それを半身になってギリギリかわす。
「邪魔ね」
 もう一度、引鉄を引く。
 今度は右腕。
「これで――Finale」
 太腿から刀を一気に引き抜くと、首を右に刎ね飛ばし、返す刀を斜め下に振る。
 倒れ、動かなくなったキメラを確認。
 百合歌は刀を納める。

 ミシリと音が聞こえる。
 克がキメラを地面に思い切り叩きつけた音である。
「‥‥その程度で動きを封じられると思うな!」
 包帯を引き千切り、克は叫ぶ。
 叩きつけられたキメラに対し、藍蘭は得物を大きく振り上げて突き刺す。
 深々と刺さった青龍偃月刀。
「くっ‥‥」
 メビウスは力無くウラノスを同じ様に突き刺し、抜く。
「やはり無茶が祟ったか‥‥」
 そう言って、後退しキメラから離れた場所に腰を落す。
 重傷を負った身でキメラと戦ったのだから、当然の事だった。
 後は任せて、と克は一言掛け二刀を構える。
「阿ァァァ!」
 藍蘭は無理矢理、地面から青龍偃月刀の先に突き刺したキメラを掲げる。
 脱出を試みようとキメラが動くが、時既に遅し。
 克の描いた二つの斬線はキメラの身体を切り裂いた。
 再生、反応無し。
「此方が最後の一体の様ですね」
 深鈴がトロに確認する様に声を掛ける。
 トロは頷くと、キメラに接近。
 逆手に持ったナイフで右から左へと斬りつける。
 その隙を狙って包帯がトロに絡み付き、鯖折りの状態になる。
 が、ストリートファイトで培った経験がそうさせたのだろうか、トロは大きく身体を反らせ――
 キメラの鼻に当たろう部分に頭突きを入れる。
 効いたかどうか分からないが、体勢が崩れた。
 それで充分だった。
 トロは後ろに回していた右手をゆっくりと引く。
 すると、逆手に持っていたナイフが包帯に切れ目を入れる。
 包帯から脱出したトロは一度下がり――
 それを見計らって、深鈴の機械本が強力な電磁波を発生させる。
 怯み、動きが鈍る。
 トロはそれを逃すまいと駆ける。
 横に寝かせたナイフをもう一度、心臓部分に突き立てる。
 そして、そのまま壁際まで押し込み、叩きつける。
 キメラは両手を上げて、反撃を試みようとするが、それもそこまで。
 ダラリと両腕を下げ、動かなくなってしまった。

「Thank you‥‥助かったわ」
 ルキアは疲れた様に大きく息を吐く。
 猫にミイラに本当に忙しい一日だった。
「そうネー」
 藍蘭も居たか、と苦笑する。
 そして気付く。
「ちょ、そ、それ‥‥」
 ハンバーガーの山。
 ポテトとコーラも加わっている。
「いやぁ、お腹空いちゃって」
 港は頭を掻く。
「俺も‥‥」
「私も戦ったら、ね」
 克や百合歌も同じ様に苦笑する。
 トロと藍蘭に至ってはハンバーガーに夢中で反応は無い。
「それでは‥‥お買い物が有りますので‥‥」
 呆れた様子のルキアに音夢が一言。
「あぁ、ごめんなさいね。 こんな大騒ぎに付き合わせちゃって」
 いえ、と音夢が応えるとルキアはもう一つ。
「良いお買い物が出来ますように」