タイトル:あるぇっとの失態マスター:東雲 ホメル

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/30 00:39

●オープニング本文


 風邪を引いた、らしい。
 咳は出ないし、吐き気もしない。
 が、熱っぽくて、頭がボーっとする。
 足が重くて、ふらふらする。
 風邪だ、完全に。
 しかし、これしきの事で休んではいられない。
 何せ、緊急事態なのだから。

 しかし、熱い。

「カミカゼさん?」
 頬を上気させ、息遣いの荒いアルエット。
 緊急事態だが、その前に倒れてしまうのではないのだろうかと思う。
「大丈夫‥‥」
 いつにも増して、覇気やら元気やらが無い。
「え、いや、でも――」
「任せんしゃい‥‥」
 ご出身はどちらですか。
 しょうがない、状況の説明だけでも。
「場所は森林。 地面の高低差が激しい様です。 確認された敵機はバグアの新戦力、タロスが二機です」
 地図に落されたアルエットの目は少し虚ろだ。
 本当に大丈夫だろうか。
 報告官の私の方が、下手したら上手くオペレート出来るのではないのだろうか。
「それと姿は未確認ですが、何者かに狙撃されたという情報も有ります」
「少なくとも、もう一機‥‥」
 そう言う事だ。
「‥‥被害状況‥‥」
「全八機中、二機撃墜です」
 そう、とだけ短く答えるとアルエットはマイクに向かう。
 そして、ボソボソといつもの調子で傭兵達を誘導していく。
 具合が悪そうに見えるが、どうして中々、全然心配無かったじゃないか。
 彼女の無駄の無い、的確なオペレートで傭兵達は――


 挟み撃ちに遭いました。
 わーい。


 アルエットの横に立って、モニターを見つめる。
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
 アルエットは少しの間、黙っていた。
 そして一言、ぽつりと。
「‥‥あるぇー?」
 小首を傾げて、まぁ可愛い。
 アルエットの愛称がアルエだけに、あるぇー?
 ですか。
 そうですか。
「‥‥‥‥カマトトぶってんじゃないよ!!」
(グワッシャン)
 キーボードって意外と簡単にクラッシュするんですね。

●参加者一覧

飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
神撫(gb0167
27歳・♂・AA
レイヴァー(gb0805
22歳・♂・ST
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
レミィ・バートン(gb2575
18歳・♀・HD
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG

●リプレイ本文

 ルノア・アラバスター(gb5133)は首を傾げる。
 先程の大きな音は何なのだろうか。
 と言うか、風邪は大丈夫なのだろうか。
(「戻ったら、何か、温まるもの、作って、みよう、かな」)
 ルノアは既に敵機を撃墜する事を前提に考える。
 バグア新型機のタロス二体に挟撃に遭い、未確認機からの狙撃を受けている。
 そんな状況下でもポジティブな方向に思考を働かせている。
 それは飯島 修司(ga7951)も同じだった。
 挟撃などと参った状況だが、逆に考えれば相手はほぼ単機ずつで行動している。
 そう考えれば、然程問題は無い。
 ちょっと難しい依頼に当たるだけだ。
「何か壊したようですが‥‥経費で落ちるのでしょうかね」
「どうでしょうかね‥‥しかし、有能なオペレーターと聞いていたんですが‥‥」
 神撫(gb0167)が呆れた様に言うと、通信機の向こう側から小さく「ぅ」と聞こえる。
 そう言う事は帰ったらで良いか、と思いつつ神撫は周囲の状況を確認する。
 やはり、未確認機の姿は見えない。
 狙撃されない事を考えると、この場所は安全なのだろう。
 それでもやはり――
「動かない訳にもいかないだろう‥‥ルノア、支援を頼む」
 リヴァル・クロウ(gb2337)のシュテルン「電影」が機械的な咆哮を上げる。
 大型の榴弾砲を掲げ、一機のタロスに向き直る。
「必ず突破出来る!! 飯島さん、行きます!!」
 レミィ・バートン(gb2575)はビーストソウル「ウンディーネ」を走らせる。
 力強く大地を踏み締め、邪魔な枝を折りながら、もう一機のタロスに突撃する。
 それに合わせて、不気味なまでに沈黙していたタロス二機が動き出す。
 開戦だ。
 その前にと、ルノアはリヴァルに呟く様に聞く。
「りっちゃん、かまととって、何?」
「‥‥報告官に聞くといい」

 バルカンから放たれる弾は木々を爆ぜ飛ばし、タロスβの突進を牽制する。
 そうしながらもレイヴァー(gb0805)はモニターを注視し、周囲を確認する事は怠らない。
 物陰、高台、可能性のある場所は全て確認する。
 レーダーも偶に覗いてみるが、地形が地形だけに役に立つのかは怪しい所だ。
 どうやら、自分が視認出来る範囲は有効らしいが。
「見えない位置もカバーしてくれないと意味は無いのですがね」
 タロスβはバルカンによる牽制を嫌い、開けた場所から横に入り、木々の間に身を隠す。
 バルカンによる牽制を防ぐ為だけではなく、レミィの突進も防ぐ為だ。
 流石のレミィも木々を全て切り倒して進む訳にも行かず、間を縫う様にして進む。
 タロスβも徐々に間を詰め、機槍を構える。
 機槍で攻撃するのに必要最低限、直線的に開けた場所を探しながら。
 しかし、そういった場所に出ようとすると飯島の狙撃に遭い、またも引っ込む事になる。
 弾をリロードし、タロスβの移動に合わせて飯島も自身のディアブロを動かし始める。
 未だ見つかっていない未確認機に警戒しながらも。
「っ!?」
 少し移動した所で彼のディアブロの脚部に衝撃が走る。
 狙撃。
 幸いな事にそれ程、ダメージは無く、戦闘は十分に続行可能だ。
「ふむ」
 レイヴァーはコクピット内の計器類をフル稼働させながら、肉眼での確認も怠らない。
 一つ、発砲音は殆ど聞こえなかった。
 音で居場所を特定する気はなかったが、どうやら未確認機が担いでいるのは狙撃に特化した武装らしい。
 先の急襲で、二機があっさりと落されてしまったのも納得できる。
 レイヴァーはなるべく、己の骸龍を木々の間に隠しながら高台に登り、索敵を続ける。
「逃がすかぁぁぁぁぁ!」
 そんな中、レミィは機盾を構えつつ、タロスβに接近する。
 機盾が短距離用バルカンの弾を弾き、独特な金属音が木霊するのだが――
「うぉぉおおおおおお!!」
 レミィの叫び声で聞こえない。
 アルエットは先程から、レミィの叫び声が聞こえる度にびくりと身体を震わせていた。
(「吃驚するなら、外せばいいのに‥‥」)
「飯島機‥‥右後方注意‥‥」
「了解‥‥未だ居たのですか? 無理は禁物というか、これ以上引っかきまわ――いやいや」
 飯島はとぼける様に操縦桿を倒す。
 移動している間に、もう一体のタロスに近づいてしまっていた様だった。
 βに対し、足止めの一発を放つと、自身も開けた場所から木々の中に入っていく。
 その背中を狙おうとするタロスαだったが――
 ルノアの重機関砲が唸りを上げ、嵐の様な攻撃によってそれは阻まれた。

 神撫のシラヌイS型「昇陽」がそのトリガーを引く。
 ルノアの援護射撃によって、動きの止まったタロスαを狙撃。
 そして、そのまま移動を開始し、レイヴァーと同じ様に高台等を注視する。
 肉眼ではカバー出来る範囲も決まっているが、それでも微妙な動きも逃さない様にする。
 丁度、木々が風でざわめくと同時に一発の銃弾がリヴァルを襲う。
「問題無い、損傷は軽微だ」
 狙撃とバルカンに曝されながらも、電影は試作型スラスターライフルのトリガーを引く。
 森林、という場所には似つかわしくない音が響く中、電影はゆっくりと確実にその距離を縮める。
 明らかに此方が押しているのだが、タロスの再生能力を考えると鬱陶しい気分になる。
 そうは言っても、敵機は殆ど目の前に迫ってきているのだが。
「今の攻撃で大よその位置、それとレイヴァーさんが推測される移動エリアも割り出してくれました」
 お願いします、とだけ神撫は言うと、自身の機体に更に火を点ける。
 高台を登り、より高い場所を目指していく。
「了解した、着弾地点の狙撃機対応は任せる」
 骸龍からデータを受け取ると、大型の榴弾砲を構え、一発。
 着弾地点で激しい爆発と轟音が響き渡る。
 その隙を狙って、タロスαは機槍を構え突進しようとする。
 が、過剰とも呼べるルノアの援護射撃にてそれは、断念せざるを得なかった。
 しかし、ただでは転べないタロスαは段差を登り、木々を盾にしながらも接近してくる。
 完全に機槍を構え、一気に肉薄してくるつもりだった。

 一方、アルエットは一応未確認機の位置やら何やらを纏めて送るつもりだったが――
「送らなくて良かったですね」
「‥‥‥‥ぐす」
 全く見当違いのデータだった為、報告官の言う通り。
 今日は大人しくしていよう、アルエットはそう誓い、椅子の上で丸まりいじけてしまった。

 大口径のショルダーキャノンがレミィの突進に必要最低限の木々を蹴散らす。
 飯島は続けてハイディフェンダーを構え、自らもタロスβとの距離を縮める。
 倒れた巨木を踏み越え、斜面を下り、敵機のバルカンの射程距離に入った頃。
 レミィのウンディーネは既にタロスβの機槍の射程圏内に在った。
 唯、単純な突き。
 それをレミィは盾で矛先をずらしながら、更に一歩踏み込む。
 盛大に火花が散り、流石にレミィの叫び声でも掻き消せないほどの音になった。
 もう一歩踏み込もうとすると、バルカンを乱射され、盾でそれを防ぐしかない。
 そうしている内に、またも距離を取られ、機槍で襲われる。
 しかし、レミィに焦りなど無い。
(「自分独りで戦ってるわけじゃないんだ」)
 タロスβがもう一度機槍を構えた時、飯島のディアブロがハイディフェンダーを一閃する。
 タロスβは乱雑に機槍を振るうと、それを寸でで受け止め、弾き返す。
 機槍を飯島に向けたまま、バルカンをレミィに乱射し、足止めを図る。
 しかし、やはり盾を構え突撃してくるレミィ。
 機体の消耗は激しいが、二機相手のタロスβにとっては十分有効な手段だった。
 それでも致命的な攻撃を受けていないのは、流石タロスと言った所だろうか。 
 正に、一進一退の攻防だった。
 それについては、こちらも同じ事。
 リヴァルは電影を一歩ずつ進ませながらも、レイヴァーの骸龍から送られてくるデータを元に砲撃する。
 その間、ルノアは必要以上に距離が離れない様に移動しながらもタロスαに攻撃を仕掛ける。
 タロスαも攻め続けられている訳ではない。
 絶えず移動を繰り返し、ルノアの猛攻を凌ぎながらもリヴァルをバルカンで攻め、機槍の射程まで持ち込む気だった。
 リヴァルとの間を詰めてしまえば、榴弾砲での攻撃を中断させる事が出来るからだ。
 そうすれば、狙撃機の動きが制限されなくなり、発見を遅らせると同時に狙撃が再開される。
 自分達が優位に立つ。
 その為に、リヴァルの榴弾砲は何としても止めなければならなかったのだ。
 しかし、それは中々叶わず、敵機の動きを冷静に見定めたルノアに直線上、同じ位置に並ばれてしまった。
 ルノアの愛機、Rot sturmは重機関砲の残弾を一気に吐き、試作型スラスターライフルを構え、撃つ。
 被弾を許した、タロスαは作戦を切り替え、一気に電影に肉薄する。
「む‥‥!」
 機槍による一撃を察知したリヴァルはハイディフェンダーを盾にして、後退する。
 電影は更に詰め寄るタロスαと鍔迫り合いの形になり、ルノアは下手に射撃を出来ない形となる。

 未確認機だった狙撃機は仲間の援護は諦めたらしく、移動しながらもレイヴァーと神撫を狙ってきていた。
 赤光が差し込む中、神撫は盾を構えながら出来るだけ高速で進む。
 その少し後ろをレイヴァーが追走。
 敵機の射線は完全に直線上に在る。
「誤差修正完了‥‥頼みましたよ」
 レイヴァーが通信機に向かって冷静に声を掛ける。
 すると、レイヴァーの更に後方から榴弾砲が飛んで来る。
 それは彼ら二機を追い越し、前方に着弾する。
 射角や距離、それらを最大限に伸ばした位置。
 そこに爆発が起きる。
「敵機確認しました! さぁ、駆けるぞ昇陽!」
 焼け落ちる木々の中に、一体の機影を確認した神撫は加速する。
 その所為か、盾でガードしているとは言え、被弾した時の衝撃が先程よりも大きい。
 炎の中に居るのは、お約束の如く三機目のタロスだ。
 タロスγは逃げる事を放棄した様に、後退を止める。
 そして、片手で折り畳まれていた機刀を抜き放ち、前方の二機に備える。
 スナイパーライフルで昇陽を狙いながら、前進。
 神撫もそれに対抗する様にラスターマシンガンを乱射しつつ距離を詰める。
 そして――
「断て! 建御雷!」
 タロスγの構えるスナイパーライフルの銃身を建御雷で弾く。
 返す刀でタロスγの機刀を防ぎ、後退する。
 タロスγは追撃と言わんばかりに踏み込んだのだが、迂闊だった。
 後方より飛び込んで来たレイヴァーの骸龍の機槍がタロスγの左腕の付け根を穿つ。
 予想以上に深く刺さった機槍は左腕の機能を奪う形となり、二人にとっては好機となる。
 レイヴァーは機槍を引き抜き、離脱する際に一太刀浴びてしまうが気にしている状況ではなかった。
 大きく、後方へ跳んだ骸龍と代わる様に神撫は昇陽を前に出す。
 建御雷を横に一閃、タロスγの脚部を斬りつけ、その衝撃で動きを封じる。
 タロスγの機刀を受け流しつつ、残った腕を思い切り弾き、胴体のガードを開ける。
 そこにレイヴァーの骸龍が機槍を構え、突進してくる。
 タロスγは悪あがきの如く、バルカンを乱射するが、骸龍の装甲が一部飛んだのみで――
 胴体に深く突き刺さるそれからは逃げられなかった。
 レイヴァーはブーストをかけ、そのまま巨木に縫い付け、その場に崩れる。
 機刀を振るおうと右腕を振り上げたタロスγだったが、それも叶わず。
 振り下ろす前に昇陽の建御雷で頭を巨木ごと叩き斬られてしまった。
「レイヴァーさん、伏兵の可能性は?」
「特に反応は無い様です」
 ガタガタになった計器類を見て、溜息をつくレイヴァーだった。

 機槍をハイディフェンダーで押さえ、飯島は叫ぶ。
「さぁ! チャンスですよ!」
「任せて! 捕まえた! 逃がさないよ! デアボリング! コレダァーー!!」
 タロスβの肩を掴み、電撃を走らせる。
 レミィの声もあってか、必要以上に派手に見える。
 タロスβがバルカンの照準をレミィに向けるが、時既に遅し。
「砕けェ! ツイスト・ドリルッ! これで‥‥フィニッシュ!!」
 思い切りツイストドリルがタロスβの顔に当たる部分を潰す。
 火花を散らせ、金属が削れる音を響かせながら。
 レミィは肩を掴んでいた手を離し、地面にタロスβを落す。
「念の為、ね」
 そう言いつつ、機槍に兵装を切り替えた飯島が転がったタロスβの胴体に穴を開ける。
 そこから、そう距離も無い位置。
 電影の胸部の装甲は近距離からのバルカン連射で随分心許ない事になっていた。
 このままでは拙いと、リヴァルは判断し、一度距離を取る。
 離脱の際に、タロスαの機槍が電影の脇腹部分の装甲をごっそりと持っていくが、それだけ。
 ルノアが操縦桿のトリガーを引くと、銃弾の壁がタロスの動きを制限し、これ以上進む事をさせない。
 すると、タロスαは何かを察知した様に後退する。
 近くに居たはずのタロスβの反応が無く、援護射撃も無い。
 特に迷う様子も無く、飛行ユニットを展開させ、風を巻き起こしながら宙に浮こうとする。
 撤退。
「この、弾数、逃げは、させ、ません‥‥!」
 射線をタロスαの頭上辺りに合わせ、対空機関砲を撃つ。
 その攻撃に、タロスαが足踏みしている間にリヴァルは一気に接近する。
「これでは動けまい」
 機杭でタロスαを足を撃ち、地面へと縫い付ける。
 そしてそのまま、機槍の攻撃を受けない様に下がりスラスターライフルを構える。
 ルノアとリヴァルの射撃を受け、呆気無く崩れ去るタロスα。
 派手に散るそれを尻目にリヴァルは通信機に語る。
「敵戦力の殲滅を確認」
 既に陽は落ちていた。


 その後、本部では――
 色々と屁理屈をこねているアルエットを医務室に連れて行くのに四苦八苦したそうな。