タイトル:冬季Lコレマスター:東雲 ホメル

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/08 23:22

●オープニング本文


 ニケ・ラックマンの足は弾む。
 実に一年振りだ。
 一年振りに生身の人間の写真を撮る仕事だ。
 此処最近の仕事と言えば、心霊写真やら何やら。
 仕事とは言え、不満は堪る一方だった。
 個人的に撮影しても、それを見る者は自分と被写体以外に居ない。
 撮りたくて撮った、素晴らしい一枚を世の中の人達に見てもらいたい。
 カメラマンとしての当然の欲求だった。
「編集長には感謝しないとな」
 そう言って、自分のカメラを抱く様にする。
 今度の秋の増刊号に載せる写真。
 唯の写真ではない。
 LHの傭兵達の写真。
 一年前の創刊号の時も同じ様に彼らの写真を撮った。
 好評だった企画だが、大人の事情で長くお蔵入りしていた企画。
 それが今回晴れて、秋の増刊号で復活すると言うのだ。
 そのメインカメラマンとして仕事がやって来た。
 ニケは電話口で叫んだのを思い出す。
 雑踏のど真ん中で。
 自分を中心に出来た空間。
 その時はそうでもなかったが、今思い出すと相当恥ずかしい。
 が、結局はどうでも良い事なのだ。
 撮りたい物を仕事として撮る。
 ニケにとってこれ以上無い位の嬉しい出来事だった。

●参加者一覧

柚井 ソラ(ga0187
18歳・♂・JG
ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
トレイシー・バース(ga1414
20歳・♀・FT
エマ・フリーデン(ga3078
23歳・♀・ER
レーゲン・シュナイダー(ga4458
25歳・♀・ST
リゼット・ランドルフ(ga5171
19歳・♀・FT
ジングルス・メル(gb1062
31歳・♂・GP
紫陽花(gb7372
22歳・♂・SN

●リプレイ本文

 テンション高めにニケはワゴンを飛ばす。
 ハンドルがこんなに軽いと思った事は、いつ以来だろうか?
 初めて自分の写真が、作品が世の中に出た時だったろうか?
 そういう新鮮な気持ちだ。
 カメラを無駄に新調してしまったくらいだ。
「生活は相変わらず、なんだけどなぁ‥‥」
 苦笑しながら、ニケはゆっくりとブレーキを踏む。
「お? 着いちゃった感ジ?」
 ジングルス・メル(gb1062)はコロコロと笑いながら後部座席の方から顔をひょっこりと覗かせる。
「着いちゃった感じですね、って何か申し訳無い‥‥撮影スタッフみたいな真似させてしまって」
 イイって、と一つジングルスはニケの肩を叩く。
 ニケはジングルスの好意で荷物運びや機材運びを手伝ってもらっていたのだ。
 そして、後部座席の方を振り返る。
「アレだし」
 ジングルスの指差す先にはレーゲン・シュナイダー(ga4458)の姿。
 何やら、一人で興奮している。
「あ、この部分、こうなってるんだ‥‥へぇ」
「あぁ! 僕の新しい相棒がっ」
「大丈夫ですよ、ちょっとした点検ですから」
 バックミラー越しに分解されかけている相棒の姿を確認し、振り返るニケ。
 勿論、レーゲンの機械に関する知識や経験的な話からいけば、ニケのカメラが壊れるという事はほぼ無い。
 心配性と貧乏性を併せ持ったニケならではの反応だった。
 レーゲンはそんなニケの事は、お構い無しにカメラを隅々まで調べている。
「しかし‥‥一年振りですが‥‥お元気そうで何よりです‥‥」
 そんなニケの姿を見て、朧 幸乃(ga3078)は苦笑する。
 丁度、一年程前の話。
 ニケの人をモデルにした写真が初めて世の中に出回った時だった。
「いえいえ、その、久しぶりにファッション誌の撮影なんでテンションが」
「そうですか‥‥」
 ニケは一度撮った被写体の顔や名前を忘れない。
 助手席に座り苦笑している、幸乃の事も例外ではない。
「とりあえず、車から必要な機材なんかは運び出しておきましょうか」
 ニケは今のテンションを誤魔化す様に、手を叩きながら、ワゴンのエンジンを切る。

「雑誌用の写真撮影なんて初めてで‥‥ドキドキしますっ」
 リゼット・ランドルフ(ga5171)は緊張して、ぎこちない笑顔を見せる。
 普段、化粧をしない彼女にメイクスタッフは薄く化粧を施していく。
 ナチュラルメイクというやつだ。
 ニケはその光景を眺めながら、カメラのシャッターを切る。
 一年前もそうだったが、能力者の素顔を間近で見れる事は中々無い。
 特にリゼットの見せている、戦いに対する緊張ではなく、それから比べれば他愛の無い様な事に対して緊張している姿などは。
「いつもは研究で発散していたのだが、悩ませる事が多過ぎる〜」
 ドクター・ウェスト(ga0241)は手の空いているスタッフと雑談中。
 どうにもストレスの溜まる仕事ばかりだった所為か、饒舌なのは気のせいだろうか。
 気の休まりそうな依頼を選んで、今回の依頼に参加したとの事だった。
「長々と語ってもいいが、簡単に言えばノーマルの危機と、恋愛関係にある特定個人の危機、同時に起きた場合どうするのか、という問題だね〜」
 能力者の恋愛に関しての持論を展開するその姿をニケは何気なく写真に収める。
 リゼットの写真もそうだが、別にこの写真が雑誌に載る訳ではない。
 それが残念だとは思うが、能力者のこういった姿を一般人が、ニケが目にする事は少ない。
 いや、外見だけでは誰が能力者かなんて分からないのだ――
 能力者だと分かっていて、と付け加えた方が良いのだろう。
 ニケはその姿を記憶だけではなく、記録に残したかったのだ。
 彼らがバグアなどという得体の知れない者と戦っている人なのだから。

 撮影場所となる建物は一階にオープンテラスのカフェ、二階にレストラン、三階から上が居住スペースとなっていた。
 その3階部分の居住スペースの空室。
 女性スタッフが持って来た衣装を広げて、その確認をしていた。
「これなんか、どうでしょうか?」
「‥‥うん、いいんじゃないかな」
 トレイシー・バース(ga1414)は少し考えた後にニコリと笑い、頷く。
 撮影用に彼女の豊満巨躯な体型に合わせたサイズの服を事前に何着も用意していたのだ。
「こんなに揃えるの‥‥大変だったんじゃない?」
 トレイシーは部屋の中の光景を見て苦笑する。
「いえ、そこまで大変ではなかったですよ」
 そう言いながら、女性スタッフは屈み込んで選んだ服を畳んでいる。
 今時有る所には有る、と言う話だが、本当なのかはトレイシーには分からなかった。
「しかし、すごい服の量だね」
 部屋の中に入ってきた紫陽花(gb7372)は驚いた様に目を丸くする。
「男性物も大量に有りますよ」
 女性スタッフが軽く会釈して、開け放たれたクローゼットに目をやる。
 そこにはハンガーに掛けられた男性物の服。
「これは‥‥」
 そう言いながら、紫陽花が手にしたのは執事服。
「着るからには完璧に着こなしたいね」
 彼の中に在る、何かに火が点いた。
 紫陽花の手にしていた服。
 どうして此処に有るのか、分からないが執事服と呼ばれる物だった。
 そんな彼らの後ろ。
 ガチャリとドアが開き、ニケが部屋の中へと入ってくる。
「そろそろ始めたいんでけど‥‥一人見つからないんですよ、此処に――」
 トレイシーが人差し指を立て、口元に当てる。
 そして親指でソファーの方向を指す。
 あぁ、とニケは頷く。
 ソファーの上、天使の様な寝顔。
 柚井 ソラ(ga0187)が静かな寝息を立てている。
 荷物や機材の搬入を手伝って疲れてしまったのだろうか。
(「と、撮るしかねぇ‥‥これは撮るしかねぇ‥‥」)
 ニケはソラを起こさない様に恐る恐るカメラを構える。
 トレイシーも紫陽花も女性スタッフも、ソラの寝顔を眺めながら何だか癒されていたのは言うまでもない。


「もうちょい、カップ持ち上げてもらって良いですか?」
 リゼットはニケの指示に従って少しティーカップを持ち上げる。
 白いニットワンピにギャザーで横に何段も切り替えた黒い膝丈のティアードスカート。
 ダークブラウンのニーハイブーツ。
 とどめに肩に掛かった薄手のストール。
 その組み合わせがリゼットの持つ大人しさや、可愛らしさを上手く引き出している。
 正にお嬢様。
「あ、紫陽花さんはもうちょっと体をカメラ正面に向けてもらって良いですか?」
 リゼットの正面に座る、紫陽花は体を少しだけずらす。
 Vネックのニットに少し緩めに巻いたストール。
 それが全体のバランスを整える様な感じで、今年の流行をばっちり押さえている。
 女性誌と言えども、男性陣も本気でいかねばならないのだ。
 そうする事によって、女性陣の魅力が更に上がると言うものだ。
 椅子の背に掛けられたファー付きのコートの位置を直し、ニケはようやくOKを出した。
「それじゃ、何か雑談でもしてて下さい。なるべく自然な表情を撮りたいんで」
 簡単に言ってのけるニケに対し、リゼットは少し照れた様に笑う。
「本格的にカメラで撮られるのに、自然な表情って難しいですよね」
「そうだね、流石に僕も少し緊張するかな」
 そんな他愛の無い会話を続けながら、紅茶を一口。
 ほぅ、とリゼットが息を吐いた瞬間。
 ニケはカメラのシャッターを切る。
 紅茶のお陰で緊張が解けた様な表情を見せた、リゼットと紫陽花だった。

「ど? ど? 変じゃナイ?」
 くるくる回って撮影場所に入ってきたジングルス。
 黒のVネックニットというシンプルな格好は、意外と彼に似合っていて変どころか、クールだった。
「だいじょぶ、かっこいいのです」
 そんなジングルスの姿を見て、ニコリとレーゲンは微笑む。
 そんなレーゲンは、ノースリーブのニットワンピにしわ加工のマフラーを着けている。
 ピンクと紺のリバーシブルのマフラーを、コサージュ巻きで着けている為かシンプルな格好の中にも華やかさが在る。
 そんな彼女に合わせるかの様にジングルスはシルバーアクセを取り出し、着用する。
 ピアスやチョーカー、ベルトにそれぞれアクセントが施され、レーゲンの格好とバランスが取れる。
 ソファーに座り込んだ二人は寄り添う様にココアの入った、カップを手に取る。
「アイツが見たら何て言うかナ?」
「きっと涙目で、うぐーって言うんじゃないでしょうか?」
 二人で笑い合いながら、噂するのはレーゲンの婚約者の事。
 そんな二人の姿を見ながら、ニケは思う。
 絶対うぐーって言うよ、と。
 カメラのフラッシュがたかれる中、ジングルスは寄りかかったレーゲンの頭を撫でる。

 くるりと振り向いたその姿が可愛らしい。
 本当に男なのか。
 白いピーコートに両手を突っ込んで足元の落ち葉を蹴る様な仕草をする、ソラ。
 ピーコートの裏地の赤いチェックが一段と可愛らしさを引き出している。
 茶色のパンツとキャスケットが少し活発な感じを漂わせている。
 白いニットでは、少し女性っぽさが強いとの事でスタッフが淡いグレーのニットを渡してくれた。
 それらのバランスがソラの容姿と合わさって、中性的な印象を与える。
「お待たせしました‥‥」
 そう言いながら現れたのは幸乃。
 グレーのケープポンチョに黒いハット、パンツスタイルにブラウンのロングブーツ。
「おぉ‥‥」
「すっごく似合ってます!」
 ニケとソラは幸乃の姿に感心する。
 ユニセックスな格好がばっちり決まっているのだ。
 心配だった額の傷は、ウィッグで隠してしまえば問題無かった。
「それじゃ、自由な感じでこっちに向かって歩いてきてください」
 ソラと幸乃は頷くとゆっくりと歩き出す。
 両手をポケットに入れたまま、ゆっくりと。
 シャッターを切りながら、ニケは心の中で呟く。
 傑作や、と。

 本を片手に窓の外を眺めるトレイシー。
 髪をアップに纏めて、静かに佇む姿。
 普段の陽気な感じではなく、何処からか気品が溢れている。
 白のニットセーターにベージュのニーレングススカートがその雰囲気を醸し出しているのか。
 それだけではなく、彼女のはっきりとした顔立ちからも気品を感じる。
(「陽気な人だと思ってたけど、実はすごく優美な人なんだな」)
 ニケは感心しながら細かくレフ板の位置を指示している。
 しかし、それ以上に驚いたのはウェストの事だった。
 学者肌で気難しそうな彼だが、今はどうだろうか。
 黒いベストに白いワイシャツ。
 紅茶を注ぎ、目を瞑りながら会釈するその姿は、正に英国紳士。
 柔和な雰囲気と、物静かな雰囲気を身に纏っている。
 女性は衣装や化粧によって大分イメージが変わるが、男性にも言える事なのだという事を再確認したニケだった。
「お嬢様、紅茶の味はどうだろう〜‥‥ごほん‥‥紅茶のお味は如何でしょう」
「えぇ、美味しいわ」
 そこには正しい、お嬢様と執事の姿が見えたとニケは言う。

「右のページがリゼットさんで左のページがレーゲンさんになると思います」
 ニケはカメラの三脚を広げながら、二人に声を掛ける。
 白いニットワンピの上にボアライナーをあしらったファー付きのコートを羽織ったリゼットが振り返り少し焦る。
「え、えっと、そんなに大きくですか?」
「あぁ、はい」
 さも当たり前の様にニケは答える。
 う、と小さく唸りまたも緊張してしまった様子のリゼット。
 そんな彼女を見て、見学に来ていたジングルスが覚醒する。
 すると金木犀の良い香りが当たり一面に広がる。
「あ」
 リゼットは少しリラックスできたらしく、ジングルスに軽く頭を下げて笑う。
「良い匂いですねー」
 と、上機嫌で猫に話しかけるレーゲン。
 ローズのデザインタートルに青の2WAYスカート、茶色のメッシュベルト。
 フェミニンに、大人っぽく。
 それだけ言われたスタッフが引っ張り出してきたコーディネートだ。
 ニケは猫と戯れる彼女たちを撮り、くるりと振り向くとウェストの姿を見つける。
 ベンチに座って何やら物思いに耽っている。
 普段通りの黒のタートルネック、スラックスに新品のセルガード白衣。
 その胸元には十字架が見える。
 哀愁と表現したら良いのだろうか。
 ウェストという人間の新たなる一面を見つけ、ニケは嬉しくなる。
 今度は服装ではなく、内面の話。
 そういう一面をレンズ越しに見て、それをネガに焼き付ける。
 素晴らしい事ではないのだろうか。

 先程と同じ格好のレーゲンが手を叩いて、小さく跳ねる。
 それと同じ様にソラも小さく跳ねる。
「わぁ、素敵ですっ」
 二人の視線の先には赤いチェックのショートパンツスタイルの幸乃。
 裾とポケット口のボアがトレンド感をばっちり出している。
 紺色のカットソージャケットに、同じく紺色のカットソー。
 ジャケットの胸元にはスパンコールの小さなリボンが光っている。
 幸乃の持っているボーイッシュさを活かしつつも、フェミニンな感じを出す。
 そういったコンセプトで、更にレーゲンと対になる様に仕上げた。
 ばっちりです、と女性スタッフは鼻息荒く胸を張る。
「ショッピングを楽しむ感じでお願いします」
 ニケが指示するまでもなく、二人は本当に楽しみながら写真撮影を行った。

「読者サービスって奴カナ?」
 ジングルスがまたもくるりとその場で一回転する。
「ジグさん、似合ってますよ」
 片眼鏡を直しながら、ソラが笑う。
「しかし、さっき撮ってしまえばよかったんではないのかね〜」
 ウェストが尤もな事を言う。
 ニケは苦笑しつつ、頭を掻く。
 そう、雑誌には載らないが記念で男性四人の集合写真として執事の格好で撮るらしい。
「さぁ、それじゃ、撮影を始めましょうか」
 そう言ってカメラの前、ど真ん中に立ったのは紫陽花。
「完璧や!」
 ニケはそう叫ぶとシャッターを連続で切る。
 紫陽花の執事服姿があまりにも似合いすぎてニケのテンションはウナギ登りだった。
 服装が此処まで似合う人物もそうそう居ないからだ。
「あはは、すっごいテンション」
 そんなニケを見て、ジングルスがころころと笑う。

 休憩時間、トレイシーに頼まれてニケはカメラの準備をし始める。
「さて、そろそろかな‥‥」
 暫く待っていると、遠くの方から腹に響く様な重低音が聞えてくる。
 これは、確かハーレーの音ではなかったろうか。
 ニケはその音の方向を見やる。
 すると、予想通りその方向からチョッパーハンドルのハーレーが走ってくる。
 黒レザーのライダースジャケット、ブーツカットジーンズにサングラス。
 ヘルズエンジェルス風の格好に身を包んだ、トレイシーだ。
 後にこの写真が雑誌に載せられ、意外な人気を博する事になる事はニケにも予想できない事だった。
 とは言え、やはり一番人気の写真はそれぞれ思い思いの格好をして撮った全員集合の写真だった事は言うまでもない。

「美男美女ばっかでスゲー豪華じゃん」
 ジングルスは撮影の最後にそう締めくくった、らしい。